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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1278683
審判番号 不服2012-6157  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-06 
確定日 2013-08-28 
事件の表示 特願2008-549446「クラッチ解放方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月12日国際公開、WO2007/078224、平成21年 6月11日国内公表、特表2009-522521〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2006年1月5日を国際出願日とする出願であって、平成23年12月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年4月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、手続補正がなされたものである。

2.平成24年4月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年4月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由1]
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
電気制御クラッチ(130)を含む自動マニュアルトランスミッションを有する車両でクラッチ(130)解放を制御する方法において、
a1.ブレーキペダル(150)位置を予め決められた特定の時間間隔をおいて少なくとも二回検知するステップと、
b1.前記検知された二つのブレーキペダル(150)位置の弁別を実行するステップと、
c1.弁別結果値を第1所定閾値と比較するステップと、
d1.前記弁別値が前記第1所定閾値よりも急速なブレーキペダル(150)踏込みを示す場合に、前記クラッチ(130)を解放するように制御するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
a2.ブレーキペダル(150)位置を連続的に検知するステップと、
b2.検知された前記ブレーキペダル(150)位置を第2所定閾値と連続的に比較するステップと、
c2.連続的に検知された前記ブレーキペダル(150)位置がなんらかの時点で前記第2所定値を越えた場合に、前記クラッチ(130)を解放するように制御するステップと、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1所定閾値が、0.1秒未満での踏込み可能最大ブレーキ力の15%のブレーキ踏込み率を示すことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2所定閾値が、踏込み可能最大ブレーキ力の30%を示すことを特徴とする請求項2または3に記載の方法。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記検知されたブレーキペダル(150)位置の弁別を実行するステップ」を「前記検知された二つのブレーキペダル(150)位置の弁別を実行するステップ」に限定するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2003-130093号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、自動車に搭載され、クラッチおよび変速機をプログラム制御回路が発生する制御信号にしたがって機械的な制御を実行する自動変速装置の改良に関する。本発明は、走行中の車両に強いブレーキ動作が実行されたときの制御論理に関する。とくに、ブレーキ動作に伴いエンジン回転速度が低下したときに、エンジンが停止することを回避するためにクラッチを一時的に解放状態に制御し、つづく走行状態に応じてクラッチを再度接合状態に戻すための制御論理の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】大型または中型の自動車には、機械式の自動変速装置を装備したものが広く普及している。機械式の自動変速装置は、機械的なクラッチ板を備えたクラッチと、ギヤ比が異なる複数のギヤの一つを選択することによりギヤ比を変更する機械的な変速機とを備え、さらにこのクラッチおよび変速機を電気信号により制御する電気機械手段を設け、車速情報、エンジンの回転情報および運転操作その他を入力情報として、この電気機械手段を制御する電気信号を発生するプログラム制御回路を備えた構成のものである。その多くは、運転者は発進時にはクラッチ・ペダルを踏み発進ギヤを操作選択し、クラッチ・ペダルを緩やかに解放させる運転操作を行うが、車両の走行中には原則として車速、アクセル・ペダルの操作入力およびエンジン負荷の情報にしたがって、クラッチ操作および変速機のギヤシフトが、プログラム制御回路の制御により自動的に実行されるように構成されている。
【0003】このような機械式自動変速装置では、運転者は走行中にクラッチ・ペダルを操作しない習慣になっているから、走行中に強力なブレーキ動作が実行されても、クラッチは接合状態のままになることがある。このときには、車輪の回転速度がいちじるしく低下した状態がエンジン出力軸に伝わり、エンジンが回転を停止してしまう。これを回避するために、ブレーキ動作に伴いエンジン回転速度(あるいはクラッチ回転速度)が所定値を下回る状態が検出されると、運転操作にかかわらず自動的に、クラッチを解放状態に制御する自動変速装置が普及することになった。そしてこのような制御を行う装置の多くは、自動的にクラッチが解放状態とされた後には、運転者がクラッチ・ペダルを操作することによりこの状態をリセットするまで、クラッチは解放状態に維持されるように構成されている。
【0004】このような装置では、走行中に自動的な制御によりクラッチが解放状態にされたことを運転者が気づかない場合がある。この場合には、クラッチが解放されたまま長時間走行を続けるようなことが起こりえる。これは車両が不安定な状態が長時間続くとともに、その後の運転操作で運転者の認識と異なる運転操作が実行される可能性があるなど好ましいことではない。これを回避するために、一部の市販されている車両では、走行中にクラッチが自動的に解放されていても、運転者がクラッチ・ペダルを踏むなどのリセット操作を行わなくとも、ブレーキ信号が解除されたときに所定以上の車速があることなどを条件に、自動的にクラッチを接合状態に戻すように制御される装置が知られている(特開平10-238617号公報参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本願発明者は、自動変速装置が円滑な動作および安定な動作を行うことができる合理的な設計を目指して、さまざまに試験を繰り返した。その中で、走行中に自動変速装置の制御によりクラッチが自動的に解放された後で、運転者がその状態をリセットするためにクラッチ・ペダルを踏むなどの操作を行わないときに、上記のように、所定以上の車速があるかを判定するだけでクラッチを接合状態に戻す制御は必ずしも十分でないことがわかった。
【0006】とくに、車両のブレーキ装置にABS(Anti-lock Breaking System)を備えている場合には、ABSが作動するまでの間に、一時的な車輪のロック状態はしばしば発生することがある。これにクラッチの制御が応動して、クラッチが自動的に解放されることがある。このような場合に、車輪回転により検出される車速のみの判定では不十分な場合がある。すなわち、車輪回転速度が低下したのは、ABS が作動するまでの一時的な車輪のロック状態であるのか、運転者が意志をもって停止させようとした後に、路面勾配その他の状況により車速が一時的に復帰した状態であるのかは判別ができない。試験の中で、運転者は車両を停止させるつもりであるにもかかわらず、クラッチが自動的に接合状態に戻されることが経験された。これは危険な状況をまねく場合が考えられる。
【0007】さらに、ブレーキ信号が解除された後も車輪が路面にたいしてスリップ状態になっている場合がある。この場合には、みかけ上の車速(車輪の回転速度)によりクラッチを接合状態に戻すと、エンジン回転と対地速度とが対応しなくなり、つづく車両の走行状態が不安定になることも経験された。
【0008】本発明はこのような背景に行われたものであって、操作性および安全性の優れた機械式の自動変速装置を提供することを目的とする。本発明はABSを装備した車両に適する自動変速装置を提供することを目的とする。とくに、走行中の強いブレーキ動作にともない、車輪が一時的にロック状態になり、エンジンがこれに連携して停止してしまうことを回避するために、クラッチ・ペダルの操作が行われなくとも自動的にクラッチを解放状態に制御される装置であって、その後の動作について、操作性および安全性を改良した自動変速装置を提供することを目的とする。さらに具体的には、本発明は、自動的に制御されてクラッチが解放されていることを運転者が長時間にわたり認識することなく、車両が走行を続けるようなことを回避する制御手段を提供することを目的とする。本発明は、自動的な動作によりクラッチが解放されたことを運転者が認識している場合にも、これを認識していない場合にも、適正にクラッチを接合状態に戻すことができる自動変速装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、走行中のブレーキ動作に伴うエンジン停止を回避するために、エンジンの回転状態(またはクラッチの回転状態)を検出して、クラッチが自動的に解放状態に制御された後の制御に係るものであって、ブレーキ動作の直後に、車両が運転操作により停止するのか走行を続けるのかを識別し、これにより以降の動作を区別することを最大の特徴とする。そして車両が停止することが識別される場合には、クラッチ・ペダルが操作されるのを待って、クラッチ制御をクラッチ・ペダルの操作に追従する状態に切り替える。車両が走行を続けることが識別される場合には、車輪の停止があったとしてもこれはABSの作動による一時的なものであるとして、ブレーキ動作が終了したこと、所定以上の高速度で走行していることを条件に、運転者によるクラッチ・ペダルの操作がなくとも、クラッチを自動的に接合状態に戻すことを特徴とする。ブレーキ動作が終了したことは、ブレーキの制御信号が消滅したことだけでなく、ブレーキがロック状態になっていないことを検出する手段を含む構成とすることができる。この場合に、かりにブレーキ動作が終了していなくとも、クラッチ・ペダルが操作されたなら、これは運転者のリセット操作であるとして、クラッチをクラッチ・ペダルの操作に追従させる状態に制御する。」
(い)「【0026】図2は本発明実施例装置の要部制御フローチャートである。このフローチャートにしたがって、上記のようにクラッチが自動的に解放状態に制御される様子を説明する。車両が走行中にブレーキ操作が行われ、 エンジン回転速が閾値n_(1)(例:600rpm)以下になり、そのときのアクセル開度がα_(1) (例:5?15%)であると、運転者のクラッチ操作がなくとも自動的にクラッチを解放状態に制御する。これが上で説明した第一制御手段による制御である。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「エンジン(1)と、このエンジン(1)の出力軸に連結されたクラッチ(2)と、このクラッチ(2)の出力軸に連結された変速機(3)と、前記クラッチ(2)を電気信号に応じて機械的に制御する手段(4、5)と、前記変速機(3)を電気信号に応じて機械的に制御する手段(6)と、前記エンジンの回転速度情報、車速情報およびアクセル・ペダルの操作量を入力として前記二つの電気信号を発生する制御回路(7)とを備えた自動変速装置の制御方法であって、
車両の走行中に強力なブレーキ動作が実行されて、それに伴いクラッチ(2)の回転速度またはエンジン(1)の回転速度が設定された閾値以下になったときにクラッチ(2)を自動的に切断状態にする制御方法。」
(2-2)引用例2
特開昭61-285143号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「2・特許請求の範囲
(1)クラッチをブレーキの踏込み時に解除してエンジンと変速機との接続を緊急断する制御方法において、該ブレーキの制動力の増加速度を検出するステップと、検出した該ブレーキ制動力の該増加速度が設定値を越えたならばパニックブレーキと判断して該クラッチを緊急断するステップとを有することを特徴とする自動クラッチ搭載車両のクラッチ制御方法。
(2)該ブレーキ制動力の該増加速度は、ブレーキ作動流体の踏込みエア圧力の上昇速度で検出することを特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載の自動クラッチ搭載車両のクラッチ制御方法。
(3)ブレーキ作動流体圧力の該上昇速度によるパニックブレーキは、該ブレーキ作動流体回路に少なくとも2個の圧力スイッチを設けて、これらの圧力スイッチのオン圧力を、タイヤロックする流体圧力値を挾んで高圧側と低圧側に設定することにより、該ブレーキの踏込時に該スイッチのオンするタイミングの時間差が設定時間より短いことを条件として、判断することを特徴とする特許請求の範囲第(2)項記載の自動クラッチ搭載車両のクラッチ制御方法。
3・発明の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本発明は、自動車等の車両においてエンジンと変速機との間に設けられる自動クラッチの制御方法に関し、特に、重量車両であってもブレーキ踏込み時にエンジンが停止するのを防止するためクラッチの緊急断制御を行なう、自動クラッチ搭載車両のクラッチ制御方法に関する。
(従来の技術)
車両において、エンジンの動力を駆動輪に対して断続する装置としてクラッチが使用される。一方、最近の技術の進歩によりこのクラッチ動作を自動的に行なう自動クラッチ装置が使用されるようになってきた。この自動クラッチ装置は、クラッチ操作体を動作させるオイルシンリンダを駆動してクラッチの係合状態を制御するように構成され、エンジン回転数やアクセルペダルの位置信号等の車両の運転状態によってオイルシリンダを駆動するものである。
例えば、エンジンの回転数信号とアクセルペダルの位置信号とによってオイルシリンダの動作位置を決定するように電子制御装置を構成しておき、車両の発進時、アクセルペダルの踏込量とエンジンの回転数とから電子制御装置がクラッチ動作位置を算出し、電子制御装置の制御により漸次クラッチ操作体を断の位置から半クラツチ位置を通過して接の位置まで移動させ、車両をスムーズに発進させる。同様に、自動変速機の変速峙にもクラッチの接断が行なわれる。
この様な自動クラッチにおいては、車両停止時には車輪が回転しないので、クラッチを断として、エンジンの停止(エンスト)を防止し、アイドル回転することを保証している。同様に極低速時にはエンジンのトルク不足によって車両が振動しない様にクラッチを断としている。このエンジンの停止等の防止を行なうために従来は、エンジン回転数又は車速が所定の設定値以下となったことを検出してクラッチを断としていた。
また、エンジン回転数(又は車速)によってクラッチ断を制御する上記した方法に代えて、インプットシャフトの減速度を検出し、これによってクラッチを断とする提案(特開昭60-8553号)がなされている。即ち、この提案では、第6図に示すように、エンジン101の回転数(又はクラッチ102を介して同期噛合式変速機103に伝達され、センサ104で測定されるインプットシャフト105の回転数)がブレーキ踏込み後次第にその減速度(すなわち、インプットシャフト回転数の単位時間当りの減少量)を大にして減速していくという特性と、ブレーキの踏込み時状態がその減速度に反映されるという特性とから、減速度が設定値以上の場合はクラッチを断とするものである。なお、変速機103の回転駆動力は、プロペラシャフト106と差動ギア107を介して車両の駆動ホイール108に伝達される。
従って、急ブレーキ等においてはより速く限界減速度に達するから、早期にクラッチを断としてエンジン停止を防止することができる。
(発明が解決しようとする問題点)
上記した従来の2方法の前者では、減速が緩やかに行なわれる場合には有効に作用するが、減速が急激に行なわれる場合にはクラッチ断操作が間に合わずエンジンが停止するおそれがある。即ち、アクセルを離し、ブレーキを比較的ゆっくりと踏んだ場合には、エンジン回転数が設定値(500r.p.m)まで下ったことを検出してからクラッチを断としても、エンジンは停止しない。しかし、ブレーキを急激に踏込んだ場合や急ブレーキや雪路等でホイールロックが生じる場合においては、エンジン回転数が設定値まで下ったことを検出してからクラッチを断としても、検出のための時間やそれから実際にクラッチが動作するまでの時間の間にエンジン回転数が急激に低下してしまい、実際にクラッチが動作する以前にエンジンが停止してしまうという問題が生じていた。
また、後者の従来方法では、第7図に示してあるように、ブレーキ踏込み時単位時間(t_(0))当りのインプットシャフト回転数の減少度を検出し、減少度が設定値以上の場合は、エンストを防止するようにクラッチを緊急断している。このように、通常ブレーキ(図の曲線a)では減少度(Ra)が設定値以下であるので、エンストは防止できるが、急ブレーキ(図の曲線b)では駆動ホイールのタイヤがロックしてしまうので、減少度(Rb)が設定値以上であってもクラッチを断にするタイミングが遅れてエンストは防止できないことが多い欠点を有する。
即ち、小型車両や空車のように総重量の小さい軽量車両では、ブレーキの負荷が小さいのでブレーキ自体の効きの良いのはもちろん、急ブレーキ踏込み時であってもインプットシャフト回転数の減少度はタイヤロックがないので緊急クラッチ断のタイミングを失するおそれは少ない。しかしながら、大型車両や重量物積載車のような重量車両では、走行時の高慣性のためパニックブレーキのような急ブレーキ踏込時にプロペラシャフトの捩れ等が起り、従ってタイヤロックを許し易くなって急ブレーキ踏込み時のインプットシャフト回転数の減少度は非常に大きく現れる。その結果、従来の制御ではクラッチを断するタイミングが間に合わずにエンスト寸前でクラッチを切るようになったりそのままエンストになってしまっているのが現状である。
したがって本発明の目的は、ブレーキ踏込み時にブレーキ制動力の増加速度を検出し、この制動力の増加速度が設定値を越えたならばパニックブレーキと判断してクラッチを緊急断することにより、エンジンが停止にするのを防止するようにした、自動クラッチ搭載車両のクラッチ制御方法を提供するにある。
(問題を解決するための手段)
本発明にては、エンジンと変速機とを接続する自動クラッチをブレーキの踏込み時に解除して該エンジンと該変速機との接続を緊急断する、自動クラッチを用いた変速機のエンスト防止用クラッチ制御方法において、該ブレーキの制動力の増加速度を検出するステップと、検出した該ブレーキ制動力の該増加速度が設定値を越えたならばパニックブレーキと判断して該クラッチを緊急断するステップとを有する自動クラッチ搭載車両のクラッチ制御方法が提供される。
(作用)
本発明では、エンジン回転数又は車速が所定の設定値以下になったことを検出したり、インプットシャフト回転数の減少度が所定の設定値以上になったことを検出したりすることによってクラッチを断制御する従来の方法に代えて、ブレーキ制動力の増加速度を検出し、この増加速度が設定値を越えたならばクラッチを緊急断制御することによりエンストを防止している。ブレーキ制動力の増加速度は、ブレーキエアバルブの踏込みエア圧力の上昇速度で検出している。
さらに、踏込みエア圧力の上昇速度は、ブレーキエアバルブに2個のエア圧力スイッチを設けて、スイッチのオン圧力を、タイヤロックするエア圧力値を挾んで高圧側と低圧側に設定することにより、ブレーキ踏込時に両スイッチのオンするタイミングの時間差が設定時間より短いかどうかで決定する。
(実施例)
第1図は本発明を実現するための一実施例ブロック図であり、図中、1はエンジンであり、吸入気体(空気又は混合気)量を制御するスロットルバルブを含むものであり、フライホイール1aを備える。2はクラッチ本体であり、周知の摩擦クラッチで構成され、レリーズレバー2aを有するもの、3はクラッチアクチュエータであり、クラッチ本体2の係合量を制御するため、そのピストンロッド3aがレリーズレバー2aを駆動するものである。4は油圧機構であり、5は変速機アクチュエータである。6は同期噛合式変速機であり、変速機アクチュエータ5により駆動され、変速動作を行なうものであり、クラッチ2と接続されたインプットシャフト6a、出力軸(駆動軸)6bとを備えている。7はセレクトレバーであり、運転者により操作され、「N」レンジ(中立位置)、「D」レンジ(自動変速)、「1」レンジ(1速)、「2」レンジ(2速)、「3」レンジ(1,2,3速の自動変速)、「R」レンジ(後退)の各レンジをそのレバーポジションによって選択できる。10はエンジン回転センサであり、フライホイール1aの回転数を検出してエンジン1の回転数を検出するためのものである。9はマイクロコンピュータで構成される電子制御装置であり、演算処理を行なうプロセッサ9aと、変速機6、クラッチ5を制御するための制御プログラムを格納したリードオンリーメモリ(ROM)9bと、出力ポート9cと、入力ポート9dと、演算結果等を格納するランダムアクセスメモリ(RAM)9eと、これらを接続するアドレス・データバス(BUS)9fとで構成されている。出力ボート9cは、クラッチアクチュエータ3、油圧機構4、変速機アクチュエータ5に接続され、これらを駆動する駆動信号を出力する。
一方、入力ポート9dは、後述するブレーキペダルに接続され、その検出信号を受ける。11はアクセルペダルであり、12はブレーキペダルであり、ブレーキペダル12の制動力の増加速度量を検出するためのブレーキエアバルブ12aを有するものである。
さて、次に第2図を参照して、ブレーキ操作力とブレーキ制動力との関係を考察して本発明の原理を説明する。第2図は、ブレーキエアバルブ(第1図の12a)の踏込みエア圧力P (kg/cm^(2))に対してブレーキ制動係数gを重量車両(直線c)および軽量車両(直線d)に対してプロットしたグラフ図である。なお、横軸の点Plは、タイヤがロックしてしまうエア圧力値を示す。
ブレーキ制動力は、第2図からブレーキエアバルブの(踏込み)エア圧力に比例しているので、第3図に図示したように、ブレーキエアバルブ12aに2個のエア圧力スイッチSW1およびSW2を設けて、それらがオンする時間差tdが設定値tsより短いならばブレーキ制動力の上昇速度の大きいパニックブレーキと判断してクラッチ2を緊急断制御するのである(第1図および第4図も併せて参照)。そのため、第2図に図示してあるように、エア圧力スイッチはそれぞれがオンする圧力(すなわち、オン圧力)を、走行時にタイヤロックするエア圧力値Plを挾んで以下のように設定する。
SW1 : 0.3 (kg/cm^(2))
SW2 : 5.0 (kg/cm^(2))
なお、このスイッチSW2の設定圧力(5、0kg/cm^(2))は、第2図から分かるように車両の総重量にかかわらず十分なブレーキ制動力が得られるオン圧力である。
次に、このクラッチ断の制御について第5図のフローチャートを参照して説明する。
第1図のブレーキペダル12が踏込まれエア圧力スイッチSW1がオンされると、その信号は、入力ポート9d、BUS9fを介してCPU9aに入力される。すると、CPU9aは、RAM9eのカウンタ領域CTの内容に「1」を加算する。急ブレーキ(特にパニックブレーキ)であれば、ブレーキエアバルブ12aのエア圧力は急上昇してエア圧力スイッチSW2もオンされる。その瞬間、CPU9aは、カウンタ領域CTの加算された内容を読出して定数αと比較して、もしCT≦αであれば、両スイッチSW1およびSW2のオンする時間差tdが設定時間tsよりも短いので、パニックブレーキと判断する。判断後瞬時にして、CPU9aは、出力ポート9cを介してクラッチ解放信号をクラッチアクチュエータ3に送ってクラッチ2を緊急解放する。
なお、上述のように電子制御装置9を用いてROM9bにプログラムしておく以外にも、両スイッチSW1およびSW2のオンする時間差tdを設定時間tsと比較する比較回路や機構は当業者であれば容易に想到できるはずであり、本発明はこれらの自明な変形例をも包含するものである。本実施例で電子制御装置9を用いたのは、この装置によって種々の変速操作を行なっている以上、そのROM9bに比較プログラムを加えるだけで簡単に本発明のクラッチ制御方法が実施できるからに他ならない。
(発明の効果)
以上説明したように、本発明によれば、ブレーキ踏込み時にブレーキ制動力の増加速度を検出し、検出した増加速度が設定値を越えたならばパニックブレーキと判断してクラッチを緊急断制御するようにしているので、軽量車両のみならず重量車両であってもブレーキ踏込み時にエンジンが停止するのを防止することが可能になるという効果を奏する。従って、自動クラッチを用いた変速機がより完全になるという効果を奏する。
なお、本発明を一実施例で説明したが、本発明の主旨の範囲内で種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。」(第1ページ左下欄第4行?第4ページ右下欄第18行。なお、「Pl」の「l」は、公報の原文では筆記体である。以下同様。)
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「電気信号に応じて機械的に制御する手段(4、5)」により制御される「クラッチ(2)」は前者の「電気制御クラッチ」に相当し、以下同様に、「前記クラッチ(2)を電気信号に応じて機械的に制御する手段(4、5)と、前記変速機(3)を電気信号に応じて機械的に制御する手段(6)と、前記エンジンの回転速度情報、車速情報およびアクセル・ペダルの操作量を入力として前記二つの電気信号を発生する制御回路(7)とを備えた自動変速装置」は「自動マニュアルトランスミッション」に、「クラッチ(2)を自動的に切断状態にする制御方法」は「クラッチ解放を制御する方法」に、それぞれ相当する。
後者の「車両の走行中に強力なブレーキ動作が実行されて、それに伴いクラッチ(2)の回転速度またはエンジン(1)の回転速度が設定された閾値以下になったときにクラッチ(2)を自動的に切断状態にする」と、前者の「d1.前記弁別値が前記第1所定閾値よりも急速なブレーキペダル(150)踏込みを示す場合に、前記クラッチ(130)を解放するように制御するステップ」は、「所定のブレーキ操作時にクラッチを解放するように制御するステップ」という点で一致する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「電気制御クラッチを含む自動マニュアルトランスミッションを有する車両でクラッチ解放を制御する方法において、
所定のブレーキ操作時にクラッチを解放するように制御するステップを含む方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明の「方法」は、
「a1.ブレーキペダル(150)位置を予め決められた特定の時間間隔をおいて少なくとも二回検知するステップと、
b1.前記検知された二つのブレーキペダル(150)位置の弁別を実行するステップと、
c1.弁別結果値を第1所定閾値と比較するステップと、
d1.前記弁別値が前記第1所定閾値よりも急速なブレーキペダル(150)踏込みを示す場合に、前記クラッチ(130)を解放するように制御するステップと、
を含む」のに対し、引用例1発明の「制御方法」は、
「車両の走行中に強力なブレーキ動作が実行されて、それに伴いクラッチ(2)の回転速度またはエンジン(1)の回転速度が設定された閾値以下になったときにクラッチ(2)を自動的に切断状態にする」点。
(4)判断
引用例2には、(a)ブレーキ踏込み時にエンジンが停止するのを防止するためクラッチの緊急断制御を行なうこと、(b)従来は、エンジン回転数又は車速が所定の設定値以下となったことを検出してクラッチを断としたり、エンジン回転数の減速度が設定値以上の場合はクラッチを断としていたが、前者では、検出のための時間やそれから実際にクラッチが動作するまでの時間の間にエンジン回転数が急激に低下してしまい、実際にクラッチが動作する以前にエンジンが停止してしまうという問題が生じていたこと、後者では、大型車両や重量物積載車のような重量車両の場合、パニックブレーキのような急ブレーキ踏込時にプロペラシャフトの捩れ等が起りタイヤロックを許し易くなって、エンジン回転数の減少度は非常に大きく現れることから、クラッチを断にするタイミングが遅れてエンストが防止できないことが多いこと、(c)従来の方法に代えて、ブレーキ制動力の増加速度を検出し、この増加速度が設定値を越えたならばクラッチを緊急断制御することによりエンストを防止すること、また、ブレーキ制動力の増加速度は、ブレーキエアバルブの踏込みエア圧力の上昇速度で検出することが記載されている。引用例1発明は、「車両の走行中に強力なブレーキ動作が実行されて、それに伴いクラッチ(2)の回転速度またはエンジン(1)の回転速度が設定された閾値以下になったときにクラッチ(2)を自動的に切断状態にする」が、それは、「走行中に強力なブレーキ動作が実行されても、クラッチは接合状態のままになることがある。このときには、車輪の回転速度がいちじるしく低下した状態がエンジン出力軸に伝わり、エンジンが回転を停止してしまう。」という問題を回避しようとするものであるから(引用例1の特に【0003】)、ブレーキ踏込み時にエンジンが停止するのを防止するという点で、引用例2の発明(上記記載事項)と共通ないし関連しており、したがって、引用例1発明に引用例2の上記記載事項を適用して、ブレーキ制動力の増加速度を検出し、この増加速度が設定値を越えたならばクラッチを緊急断制御するように構成することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
引用例2の実施例では、ブレーキ制動力の増加速度はブレーキエアバルブの踏込みエア圧力の上昇速度で検出しているが、(ア)引用例2の請求項(1)には、ブレーキ制動力の増加速度が設定値を越えたならばパニックブレーキと判断してクラッチを緊急断することが記載されているだけであって、踏込みエア圧力により検出することに限定されているものではないこと、(イ)第1図は本発明を実現するための一実施例ブロック図であること(引用例2の特に第3ページ左下欄第9、10行)、(ウ)「なお、本発明を一実施例で説明したが、本発明の主旨の範囲内で種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。」と記載されていること(引用例2の特に第4ページ右下欄第16?18行)等からすれば、引用例2の一実施例として、ブレーキ制動力の増加速度はブレーキエアバルブの踏込みエア圧力の上昇速度で検出することが記載されているからといって、それは、ブレーキ制動力の増加速度の検出を、ブレーキエアバルブの踏込みエア圧力の上昇速度で検出することに限定する趣旨ではない。要は、ブレーキ制動力の増加速度を検出することが引用例2の上記記載事項における本来の解決手段であって、その検出にあたって具体的にいかなる物理量によるか、所定の関係にある物理量のどれをみるかは、検出の難易・精度、ブレーキ制動力との近似性・相関性の程度、演算の難易・速度等にかんがみて適宜設計する事項にすぎない。本願明細書にも、「【0027】言うまでもないことだが、前述した実施例は例に過ぎない。本発明の範囲から逸脱することなく、前記実施例の多くの変形例が可能である。例えば、制御装置Cへのブレーキペダル位置信号の流れをストリーミングすることなどにより、ブレーキ位置の弁別値を連続的に計算し、各ブレーキペダル位置信号に実際の測定が行われた時間を付随させる。二つの近隣ブレーキペダル位置を比較して、ブレーキペダル位置の間の差分を測定の間の時間で除算することにより、ブレーキ踏込み速度に関する値を得てもよい。」と記載されている。ブレーキ制動力の増加速度を検出する場合、ブレーキペダルの位置や、該位置に関連する物理量に着目し、それらが大小2つの値をとる間の時間を測定したり、所定の時間にどれだけの値の変化があるかをみればよいことは技術常識である。以上からすれば、引用例1発明に引用例2の上記事項を適用して、相違点に係る本願補正発明の上記事項に想到することは容易になし得たものと認められる。

なお、請求人は、平成24年12月18日付け回答書において、「しかしながら引用文献2において、パニックブレーキの判断に用いているエア圧力の変動はブレーキペダル位置の変化に連動するものの、圧縮性流体としてのエアを用いているものであり、周辺環境の気圧変化や温度変化、または運転者のブレーキペダルの踏み方の個人差によってエア圧の乱れや変動があるため、運転者がブレーキペダルを踏み込んだ際に、スイッチSW1,SW2がオンになったタイミングを正確に測れず誤差が生じます。つまり引用文献2の技術は、ブレーキペダル位置を正確に把握しているものではありません。そのため、引用文献2の実施例では、両スイッチSW1,SW2がオンとなる時間差tdと比較する設定時間tsを充分に長く設定しており、低圧側のスイッチSW1のオン圧力を0.3kg/cm^(2)とするとともに、高圧側のスイッチSW2のオン圧力を5.0kg/cm^(2)とし、タイヤがロックされるエア圧力値Plを挟んで圧力差を大きく設定する必要があります。そして、高圧側スイッチSW2のオン圧力は、タイヤがロックされるエア圧力値Plよりも高いため、少なくともタイヤがロックされた時点よりも後に、パニックブレーキの判断がなされるようになっており、この判断の遅延によりエンスト等のトラブルが生じる虞があります。また、低圧側のスイッチSW1のオン圧力は、タイヤがロックされるエア圧力値Plよりも低いため、例えば、ブレーキペダルを軽く踏み込んで低圧側のスイッチがオンの状態で設定時間tsが経過した後、急激にブレーキペダルを踏み込んでタイヤをロックさせた場合には、パニックブレーキと判断することができません。」(引用文献2は本審決の引用例2である。)と主張している。
しかし、引用例2のエア圧が気圧や温度等の影響を受け得ることは自明であって、それらを考慮に入れつつ技術的長短やコスト等を勘案して検出する物理量や検出手段を選択するというのがむしろ通常の設計というべきである。検出の誤差をいうのであれば、本願のブレーキペダルセンサ150(本願の図1)が具体的にどのような構造であって、特にパニックブレーキにおいて、どれほど精確にブレーキペダル位置を検出できる装置であるのか、特に説明がなく必ずしも明確でないが、それはひとまず措くとして、引用例2において、クラッチ制御にあたって検知すべき対象は、ブレーキペダルの位置やエア圧そのものではなく、「ブレーキ制動力の増加速度」である。本願明細書にも、「【0021】最初に、制御装置は、ブレーキペダルセンサからの信号の弁別を時間と相関させて実行する。弁別は多くの方法で実施されうる。最も単純な変形例では、制御装置は、最初のブレーキペダル操作からある時間(例えば0.1s)におけるブレーキペダルセンサからの信号を弁別値として使用する。弁別値が例えば踏込み可能最大ブレーキ力の10%を超えると、…」と記載されており、「ブレーキ力」に着眼している。ブレーキペダルセンサにおいても、遊び、緩み、経時劣化等により、またブレーキ装置によっては気圧や温度等により、ブレーキペダルの検出位置と発生しているブレーキ力との関係が変化し得るのであって、ブレーキ力の検知にあたって誤差が生じ得ることに変わりはない。
また、一般に流体圧(エア圧)系統等の伝達遅れ・時間遅れがあるから、ブレーキペダルの踏込みによるエア圧力値が値Plになるのと全く同時にタイヤがロックするというものではなく、「タイヤがロックされた時点よりも後に、パニックブレーキの判断がなされるようになっており」と断定することは適当でない。タイヤのロックの防止という引用例2の記載事項にかんがみれば、タイヤがロックする前に、パニックブレーキの判断がなされてクラッチが緊急断制御されるように構成されていることは明らかである。
本願においても、請求項2にはじめて「ブレーキペダル(150)位置を連続的に検知するステップ」と特定されているのであって、明細書には、「【0009】追加ステップv?viiにより、実際のブレーキ踏込みがゆっくりである場合でも、重度の制動時にはクラッチは解放される。」と説明されている。また、「【0021】…最も単純な変形例では、制御装置は、最初のブレーキペダル操作からある時間(例えば0.1s)におけるブレーキペダルセンサからの信号を弁別値として使用する。」と記載されており、本願補正発明(請求項1に係る発明)はこのような例を包含している。そうすると、本願においても、例えば、「特定の時間間隔」における「前記弁別値が前記第1所定閾値よりも急速なブレーキペダル(150)踏込みを示す」ものでなかった後にパニックブレーキがあった場合、本願補正発明(請求項1に係る発明)が、その特定事項によって、該パニックブレーキを判断できるとは直ちにはいえない。仮に、請求人の主張のとおりの作用・効果の差異があるとしても、ブレーキペダルを比較的緩く踏んだ後に急ブレーキをかけるという事態は往々にしてみられるところであり、エア圧力あるいは関連物理量を連続的に検出するように構成して対処する程度のことに格別の創作性はない。
請求人はまた、審判請求の理由において、「審査官殿により指摘された『エア圧力の変動はブレーキペダル位置の変化に連動するものと解される。また、状態の変化を、所定時間における部材の物理的移動量から検知することは例示するまでもなく、従来周知の技術である。よって、エア圧力を検知するSW1及びSW2の設定時間によって、ブレーキの急速な踏み込みを判定することを、ブレーキ位置の変化によって判定するようにすることは、当業者にとって格別のものとは認められない。』なる判断はできないと考えます。」と主張している。
ブレーキペダルの位置、エア圧力、及びブレーキ力が所定の関係にあることはいうまでもない。また、ブレーキ制動力の増加速度を検出する場合、ブレーキペダルの位置や、エア圧力等、該位置に関連する物理量に着目し、それらが大小2つの値をとる間の時間を測定したり、所定の時間にどれだけの値の変化があるかをみればよいことは技術常識であることは上述したとおりである。補足すると、引用例2では、スイッチSW1とSW2がオンするのに要する時間差tdが設定時間tsより短いときにパニックブレーキであると判断している。スイッチSW1とSW2がオンする圧力の差をΔPとすると、td<tsという条件は、(ΔP/td)・ts>ΔPと整理できる。ΔP/tdはブレーキペダルの踏込みによるエア圧力の上昇速度(時間tdの平均速度)であるから、(ΔP/td)・tsは設定時間tsの間のエア圧力の変化量である。したがって、td<tsという条件(所定値ΔPだけ変化するのに要した時間と設定時間との比較)は、設定時間tsの間のエア圧力の変化量が所定値ΔPより大きいという条件(特定の設定時間tsの間のエア圧力の変化量と所定値ΔPとの比較)と同等である。
検出にあたって具体的にいかなる物理量によるか、所定の関係にある物理量のどれをみるかは適宜の設計的事項にすぎないことは上述したとおりである。

そして、本願補正発明の効果は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測し得たものにすぎない。
したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成24年4月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成23年7月4日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
電気制御クラッチ(130)を含む自動マニュアルトランスミッションを有する車両で
クラッチ(130)解放を制御する方法において、
a1.ブレーキペダル(150)位置を予め決められた特定の時間間隔をおいて少なく
とも二回検知するステップと、
b1.前記検知されたブレーキペダル(150)位置の弁別を実行するステップと、
c1.弁別結果値を第1所定閾値と比較するステップと、
d1.前記弁別値が前記第1所定閾値よりも急速なブレーキペダル(150)踏込みを
示す場合に、前記クラッチ(130)を解放するように制御するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」

3-1.請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、2、及び、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「前記検知された二つのブレーキペダル(150)位置の弁別を実行するステップ」を「前記検知されたブレーキペダル(150)位置の弁別を実行するステップ」に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-22 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-15 
出願番号 特願2008-549446(P2008-549446)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
P 1 8・ 575- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 窪田 治彦
島田 信一
発明の名称 クラッチ解放方法  
代理人 溝渕 良一  
代理人 堅田 多恵子  
代理人 秋庭 英樹  
代理人 重信 和男  
代理人 清水 英雄  
代理人 小椋 正幸  
代理人 高木 祐一  

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