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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1278720
審判番号 無効2011-800259  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-12-16 
確定日 2013-09-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第3900144号発明「発光ダイオードの形成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第3900144号(以下「本件特許」という。平成10年2月17日に出願した特願平10-35273号及び平成11年1月29日に出願した特願平11-23234号を基礎とする優先権を主張して平成11年2月17日に出願した特願平11-39262号の一部を平成15年12月2日に新たな特許出願とした特願2003-402427号に係るもの。平成19年1月12日特許権の設定の登録。請求項の数は4である。)の請求項2に係る発明(以下「本件発明」という。)についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 本件審判の経緯
本件審判の経緯は、次のとおりである。

平成23年12月16日 審判請求
平成24年 3月12日 審判事件答弁書提出
平成24年 7月 5日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 7月 6日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 7月19日 口頭審理
平成24年 8月 2日 上申書提出(被請求人)
平成24年 8月16日 上申書提出(請求人)
平成24年 8月24日 証拠申出書提出(請求人)

第3 本件発明
1 本件発明(本件特許の請求項2に係る発明)は、次のとおりのものと認められる。

「青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する基板と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、
前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と、比重が異なり青色系の光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質と、を混合攪拌させ、固めてタブレットを形成する工程と、
前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなることを特徴とする白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。」

2 本件発明を分説すると次のとおりである。

「A-1 青色系を発光する発光素子と、
A-2 該発光素子を載置する基板と、
A-3 該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、
A-4 前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、
B 前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と、比重が異なり青色系の光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質と、を混合攪拌させ、固めてタブレットを形成する工程と、
C 前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、
D を有してなることを特徴とする白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。」

第4 請求人の主張の概要
1 本件特許の優先日について
本件発明は、少なくとも第1基礎出願である特願平10-35273号について優先権の利益を享受できるものではないから、本件発明についての進歩性等の判断の基準日は、早くとも、第二の優先日である平成11年1月29日より前となることはない。

2 無効理由1(特許法第29条第2項違反)
本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証(国際公開第98/05078号)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

3 無効理由2(特許法第29条第2項違反)
本件特許の請求項2に係る発明は、甲第5号証(特表平11-500584号公報)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

4 無効理由3(特許法第29条第2項違反)
本件特許の請求項2に係る発明は、甲第6号証(特開平5-152609号公報)及び甲第2号証(特開平9-208805号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

5 甲号証
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。

甲第1号証:国際公開第98/05078号
甲第2号証:特開平9-208805号公報
甲第3号証:特開平8-340014号公報
甲第4号証:特開平11-111741号公報
甲第5号証:特表平11-500584号公報
甲第6号証:特開平5-152609号公報
甲第7号証:特開平7-99345号公報
(以上、審判請求書に添付して提出。)
甲第8号証:特願平10-35273号の出願当初の願書に添付した明細書及び図面
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
甲第9号証:特開平10-284759号公報
甲第10号証:特開平11-40706号公報
甲第11号証:特開平10-150227号公報
甲第12号証:特開平10-74978号公報
(以上、証拠申出書に添付して提出。)

第5 被請求人の主張の概要
1 本件特許の優先日について
本件発明の優先日に関する請求人主張については特に争わない。

2 無効理由1(特許法第29条第2項違反)に対して
甲第1号証に甲第2号証ないし甲第4号証を組み合わせても本件発明の構成要件Bが導けない。

3 無効理由2(特許法第29条第2項違反)に対して
甲第5号証に甲第2号証ないし甲第4号証を組み合わせても本件発明の構成要件Bが導けない。

4 無効理由3(特許法第29条第2項違反)
甲第2号証に本件発明の構成要件Bは記載されていないから、甲第6号証に甲第2号証を組合わせても本件発明の構成に至ることはできない。

5 乙号証
被請求人が提出した乙号証は、以下のとおりである。

乙第1号証:入門エポキシ樹脂(新高分子文庫25)、室井宗一、石村秀一著、高分子刊行会、1988年6月20日発行
乙第2号証:エポキシ樹脂、第二版、垣内 弘編、昭晃堂、1973年5月15日発行
(以上、答弁書に添付して提出。)
乙第3号証:特開平10-107325号公報
乙第4号証:特開平10-163535号公報
乙第5号証:特開平10-188649号公報
乙第6号証:特開平10-247750号公報
乙第7号証:「躍進するLED市場とLEDパッケージ関連技術の進展」半導体新技術研究会代表 株式会社元天代表取締役村上元著、SEMIジャパン メールマガジン 2010年8月号(URL:http://www.semi.org/jp/News/MailMaga/ctr_039531)
(以上、上申書に添付して提出。)

第6 当審の判断
1 本件特許の優先日について
本件発明の「エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と・・・無機蛍光物質と、を混合攪拌させ、固めてタブレットを形成」し、「前記タブレットを軟化させて前記金型に注入」するとの構成に関し、本件特許において主張される優先権の基礎となる、平成10年2月17日に出願した特願平10-35273号の願書に最初に添付した明細書及び図面には、上記構成を説明する記載は認められない。。
よって、本件発明に関し、特許法第29条第2項の規定について判断する際の優先日は、早くとも、第二の優先日である平成11年1月29日より前となることはないものと認められる(以下、平成11年1月29日を「本件特許の優先日」という。)。

2 無効理由1(特許法第29条第2項違反)について
(1)甲号証の記載
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(国際公開第98/05078号)には、以下の記載がある(下線は、審決で付した。以下同じ。)。

ア 「図1の発光ダイオード100は、マウント・リード105とインナーリード106とを備えたリードタイプの発光ダイオードであって、マウント・リード105のカップ部105a上に発光素子102が設られ、カップ部105a内に、発光素子102を覆うように、所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング樹脂101が充填された後に、樹脂モールドされて構成される。ここで、発光素子102のn側電極及びp側電極はそれぞれ、マウント・リード105とインナーリード106とにワイヤー103を用いて接続される。
以上のように構成された発光ダイオードにおいては、発光素子(LEDチップ)102によって発光された光(以下、LED光という。)の一部が、コーティング樹脂101に含まれたフォトルミネッセンス蛍光体を励起してLED光と異なる波長の蛍光を発生させて、フォトルミネッセンス蛍光体が発生する蛍光と、フォトルミネッセンス蛍光体の励起に寄与することなく出力されるLED光とが混色されて出力される。その結果、発光ダイオード100は、発光素子102が発生するLED光とは波長の異なる光も出力する。」(13頁下から5行?14頁11行)
ここで、図1は次のものである。


イ 「また、図2に示すものはチップタイプの発光ダイオードであって、筺体204の凹部に発光素子(LEDチップ)202が設けられ、該凹部に所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング材が充填されてコーティング部201が形成されて構成される。ここで、発光素子202は、例えばAgを含有させたエポキシ樹脂等を用いて固定され、該発光素子202のn側電極とp側電極とをそれぞれ、筺体204に設けられた端子金属205に、導電性ワイヤー203を用いて接続される。 以上のように構成されたチップタイプの発光ダイオードにおいて、図1のリードタイプの発光ダイオードと同様に、フォトルミネッセンス蛍光体が発生する蛍光と、フォトルミネッセンス蛍光体に吸収されることなく伝搬されたLED光とが混色されて出力され、その結果、発光ダイオード200は、発光素子102が発生するLED光とは波長の異なる光も出力する。」(14頁12行?同頁下から3行)
ここで、図2は次のものである。


ウ 「本願発明に係る実施の形態1の発光ダイオードは、発光層に高エネルギーバンドギャッブを有し、青色系の発光が可能な窒化ガリウム系化合物半導体素子と、黄色系の発光が可能なフォトルミネセンス蛍光体である、セリウムで付活されたガーネット系フォトルミネッセンス蛍光体とを組み合わせたものである。これによって、この実施形態1の発光ダイオードにおいて、発光素子102,202からの青色系の発光と、その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体からの黄色系の発光光との混色により白色系の発光が可能になる。」(16頁下から7行?17頁1行)

エ 「(モールド部材104)
モールド部材104は、発光素子102、導電性ワイヤー103、フォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング部101などを外部から保護する機能を有する。本実施形態1では、モールド部材104にさらに拡散剤を含有させることが好ましく、これによって発光素子102からの指向性を緩和させることができ、視野角を増やすことができる。また、モールド部材104は、発光ダイオードにおいて、発光素子からの発光を集束させたり拡散させたりするレンズ機能を有する。従って、モールド部材104は、通常、凸レンズ形状、凹レンズ形状さらには、発光観測面から見て楕円形状やそれらを複数組み合わせた形状に形成される。また、モールド部材104は、それぞれ異なる材料を複数積層した構造にしてもよい。モールド部材104の具体的材料としては、主としてエポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂などの耐候性に優れた透明樹脂や硝子などが好適に用いられる。また、拡散剤としては、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素等を用いることができる。さらに、本願発明では、拡散剤に加えてモールド部材中にフォトルミネセンス蛍光体を含有させてもよい。すなわち、本願発明では、フォトルミネセンス蛍光体をコーティング部に含有させても良いし、モールド部材中に含有させてもよい。モールド部材にフォトルミネセンス蛍光体を含有させることにより、視野角をさらに大きくすることができる。また、コーティング部とモールド部材の双方に含有させてもよい。またさらに、コーティング部をフォトルミネセンス蛍光体が含有された樹脂とし、モールド部材を、コーティング部と異なる部材である硝子を用いて形成しても良く、このようにすることにより、水分などの影響が少ない発光ダイオードを生産性良く製造できる。また、用途によっては、屈折率を合わせるために、モールド部材とコーティング部とを同じ部材を用いて形成してもよい。本願発明においてモールド部材に拡散剤や着色剤を含有させることによって、発光観測面側から見た蛍光体の着色を隠すことができると共により混色性を向上させることができる。すなわち、蛍光体は強い外光のうち青色成分を吸収し発光し、黄色に着色しているように見える。しかしながら、モールド部材に含有された拡散剤はモールド部材を乳白色にし、着色剤は所望の色に着色する。これによって、発光観測面から蛍光体の色が観測されることはない。さらに、発光素子の主発光波長が430nm以上では、光安定化剤である紫外線吸収剤を含有させることがより好ましい。」(29頁12行?30頁下から5行)

オ 「以上のようにして作製した(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体80重量部とエポキシ樹脂100重量部とをよく混合してスラリーとし、このスラリーを発光素子が載置されたマウント・リードのカップ内に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させた。こうして発光素子上に厚さ120μmのフォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング部を形成した。ここで、モールド部材は、砲弾型の型枠の中に、リードフレームにボンディングされ、フォトルミネセンス蛍光体を含んだコーティング部に覆われた発光素子を挿入して、透光性エポキシ樹脂を注入した後、150℃5時間にて硬化させて形成した。」(42頁下から7行?同2行)

(3)甲第1号証に記載された発明
ア 前記(2)ア、ウ及びエによれば、甲第1号証には、
「マウント・リード105のカップ部105a上に発光素子(LEDチップ)102が設られ、カップ部105a内に、発光素子102を覆うように、所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング樹脂101が充填された後に、モールド部材104によって樹脂モールドされて構成され、発光素子102からの青色系の発光と、その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体からの黄色系の発光光との混色により白色系の発光が可能になる発光ダイオードであって、モールド部材104中にフォトルミネッセンス蛍光体を含有させても良い発光ダイオード」
が記載されているものと認められる。

イ また同オによれば、上記アの発光ダイオードにおいて、(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体80重量部とエポキシ樹脂100重量部とをよく混合してスラリーとし、このスラリーを発光素子が載置されたマウント・リードのカップ内に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させて発光素子上に厚さ120μmのフォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング部を形成し、砲弾型の型枠の中に、リードフレームにボンディングされ、フォトルミネセンス蛍光体を含んだコーティング部に覆われた発光素子を挿入して、透光性エポキシ樹脂を注入した後、150℃5時間にて硬化させてモールド部材を形成することが記載されているものと認められる。

ウ 以上によれば、甲第1号証には、
「マウント・リード105のカップ部105a上に発光素子(LEDチップ)102が設けられ、カップ部105a内に、発光素子102を覆うように、所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング樹脂101が充填された後に、モールド部材104によって樹脂モールドされて構成され、発光素子102からの青色系の発光と、その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体からの黄色系の発光光との混色により白色系の発光が可能になる発光ダイオードであって、モールド部材104中にフォトルミネッセンス蛍光体を含有させても良い発光ダイオードの形成方法であって、前記コーティング材は(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体であるフォトルミネセンス蛍光体とエポキシ樹脂とをよく混合してスラリーとし、このスラリーを発光素子が載置された凹部に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させて形成し、前記モールド部材は、砲弾型の型枠の中に、リードフレームにボンディングされ、フォトルミネセンス蛍光体を含んだコーティング部に覆われた発光素子を挿入して、透光性エポキシ樹脂を注入した後、150℃5時間にて硬化させて形成する発光ダイオードの形成方法。」(以下「甲1発明」という。)
が記載されているものと認められる。

エ 請求人は、
「甲第1号証の実施例1には、『以上のようにして作製された発光素子を、・・・マウント・リードのカップ部にエポキシ樹脂でダイボンディングし』(42頁5?6行)と、発光素子をマウント・リードのカップ部に載置するが記載されている。また、本件特許公報(甲第2号証)には、『マウント・リード104としては、発光素子を配置させるものであり、』(段落【0031】1行)と、発光素子を載置する基板がマウント・リードである旨が記載されている。従って、甲第1号証には構成要件A-2が開示されている。」(審判請求書14頁)
と主張する。
しかるに、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0042】?【0048】には、実施例1について説明されていることが認められ、同実施例は、打ち抜き及び射出成形により一対のリード電極304、305となる金属片が絶縁性樹脂309によって固定された基板を形成し、LEDチップ303はエポキシ樹脂306を用いて銀メッキした鉄入り銅製のリード電極上にダイボンドした(【0044】)ものであることが認められるが、本件特許明細書の【0037】には、打ち抜き及びスタンピングによりタイバーで接続されマウント・リード先端にカップが形成された鉄入り銅製リードフレームを形成し、LEDチップはエポキシ樹脂を用いて銀メッキした鉄入り銅製リードフレームの先端カップ内にダイボンドした旨の記載が認められるところ、同記載においては、基板を形成することは言及されておらず、参考例1について説明されているものと認められることに照らせば、本件特許発明の構成要件A-2に係る、「発光素子を載置する基板」が、上記参考例における、カップが形成されたリードフレームであってよいものとは認められない。
したがって、請求人の上記主張は、採用できない。

(4)本件発明と甲1発明との対比、判断
ア 対比
本件発明と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における「発光素子102」は「青色系の発光」をするものであるから、本件発明の「青色系を発光する発光素子」に相当する。

(ウ)甲1発明の「マウント・リード105」及び本件発明の「基板」は、いずれも「発光素子を載置する部材」といえる。

(エ)甲1発明は、「発光素子202からの青色系の発光と、その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体((Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体である。)からの黄色系の発光光との混色により白色系の発光が可能になる発光ダイオードの形成方法」であるから、甲1発明の「所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング材」は、本件発明の「該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂」に相当し、甲1発明は、本件発明の「前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法」との特定事項を備える。

(オ)甲1発明の「フォトルミネセンス蛍光体とエポキシ樹脂とをよく混合してスラリーとし」との構成は、「前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させる工程」といえ、甲1発明は、かかる工程を有する点において本件発明と一致する。

(カ)甲1発明の「スラリーを発光素子が載置された凹部に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させて形成する」との構成は、「前記透光性樹脂が前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程」といえ、甲1発明は、かかる工程を有する点において本件発明と一致する。

(キ)以上によれば、両者は、
「青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する部材と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させる工程と、前記透光性樹脂が前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなる白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法」
である点で一致し、
a 形成される発光ダイオードにつき、本件発明は、発光素子が基板に載置され、前記透光性樹脂が前記発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形されるものであるのに対して、甲1発明は、発光素子がマウント・リード105のカップ部105a上に設けられ、カップ部105a内に、発光素子102を覆うように、所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング樹脂101が充填された後に、モールド部材104によって樹脂モールドされるものである点(以下「相違点1」という。)、
b 透光性樹脂を成形する工程につき、本件発明は、エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と前記無機蛍光物質とを混合攪拌させ固めてタブレットを形成する工程と、基板に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程とを有するのに対して、甲1発明は、かかる工程を有さず、前記コーティング材は(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体であるフォトルミネセンス蛍光体とエポキシ樹脂とをよく混合してスラリーとし、このスラリーを発光素子が載置された凹部に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させて形成し、前記モールド部材は、砲弾型の型枠の中に、リードフレームにボンディングされ、フォトルミネセンス蛍光体を含んだコーティング部に覆われた発光素子を挿入して、透光性エポキシ樹脂を注入した後、150℃5時間にて硬化させて形成する点(以下「相違点2」という。)
で相違するものと認められる。

イ 判断
(ア)相違点1について
a 相違点1のとおり、甲1発明により形成される発光ダイオードは、発光素子がマウント・リード105のカップ部105a上に設けられ、カップ部105a内に、発光素子102を覆うように、所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング樹脂101が充填された後に、モールド部材104によって樹脂モールドされるものであり、甲1発明は、かかる構造を備える発光ダイオードを形成するために、透光性樹脂を成形する工程につき、「前記コーティング材は(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体であるフォトルミネセンス蛍光体とエポキシ樹脂とをよく混合してスラリーとし、このスラリーを発光素子が載置された凹部に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させて形成し、前記モールド部材は、砲弾型の型枠の中に、リードフレームにボンディングされ、フォトルミネセンス蛍光体を含んだコーティング部に覆われた発光素子を挿入して、透光性エポキシ樹脂を注入した後、150℃5時間にて硬化させて形成する」という、相違点2に係る工程を採用したものと認められる。
すなわち、甲1発明は、発光素子がマウント・リード105のカップ部105a上に設けられ、カップ部105a内に、発光素子102を覆うように、所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング樹脂101が充填された後に、モールド部材104によって樹脂モールドされるという構造の発光ダイオードを形成することを前提とするものである。

b してみると、甲1発明において、形成されるべき発光ダイオードの構造に着目して、発光素子が基板に載置され、透光性樹脂が前記発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形されるとされる、相違点1に係る本件発明の構成とすること自体、想定し得ないものというべきである。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

c 請求人は、甲第1号証には、図1における、カップが形成された「リードタイプの発光ダイオード」(13頁下4行)のみならず、図2における「チップタイプの発光ダイオード」(14頁12行)も開示されており、図2における「筐体204の凹部」の底面を構成する部材が、構成要件A-2における「該発光素子を載置する基板」に相当すること(口頭審理陳述要領書11頁)、発光ダイオードを、本件特許明細書の図3に示す「チップタイプ」とすることは、例えば、甲第9?12号証に記載されているとおり、周知技術にすぎないこと(上申書4頁?5頁)を主張するが、上記bの判断を左右するものではない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明が、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 無効理由2(特許法第29条第2項違反)について
(1)甲号証の記載
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証(特表平11-500584号公報)には、以下の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
1.発光物質が添加されている透明なエポキシ注型樹脂を基材とし、紫外線、青色光或いは緑色光を放出する半導体素体(1)を備えたエレクトロルミネセンス素子のための波長変換する注型材料(5)であって、この透明なエポキシ注型樹脂に、一般式A_(2)B_(5)X_(12):Mを持つ蛍光物質の群からの発光物質顔料(6)を備えた無機の発光物質顔料粉末が分散され、かつこの発光物質顔料が≦20μmの粒子の大きさと平均粒子直径d_(50)≦5μmを持っていることを特徴とする波長変換する注型材料。」(2頁1行?8行)

イ 「この発明による注型樹脂によれば唯一の色の光源、特に唯一の青色光を放出する半導体を備えた発光ダイオードで、混合色、特に白色光が容易に得られる。例えば、青色光を放出する半導体素体でもって白色光を作るために、半導体素体から放出された放射線の一部が無機の発光物質顔料によって青色のスペクトル範囲から青色に対して補色の黄色のスペクトル範囲に変換される。」(10頁20行?24行)

ウ 「青色光を放出するエレクトロルミネセンス半導体素体を備え、白色光を放出するこの発明による半導体素子は、注型材料として使用されるエポキシ樹脂に無機の発光物質YAG:Ce(Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+))を混合することにより、特に優れて実現することができる。半導体素体から放出される青色光の一部は、この場合、無機の発光物質Y_(2)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)によって黄色のスペクトル範囲に、それ故青色に対する補色の波長範囲にずらされる。」(11頁末行?12頁5行)

エ「図1のルミネセンス半導体素子においては、半導体素体1は導電性の接続手段、例えば金属蝋材或いは接着剤によりその裏側の接触11で第一の電気端子2に固定されている。表側の接触12はボンディングワイヤー14により第二の電気端子3に接続されている。
半導体素体1の自由表面及び電気端子2及び3の部分領域は、硬化された、波長変換する注型材料5で直接包囲されている。この注型材料は特に次の組成を持っている。即ち、エポキシ注型樹脂80?90重量%、発光物質顔料(YAG:Ce)≦15重量%、ジエチレングリコールモノメチルエーテル≦2重量%、テゴプレン6875-45≦2重量%、エアロシル200≦5重量%。」(13頁18行?26行)
ここで、図1は次のものである。


オ 「図3に示した、この発明による注型材料を備えた特に好ましい素子においては、第一及び第二の電気端子2、3が空所9を備えた透明な、必要に応じて既製の基本容器8に埋め込まれている。ここで「既製」とは、容器8が、半導体素体が端子2に取り付けられる前に、既に端子2、3に例えば射出成形により形成されていることを意味する。容器8は、例えば透光性の樹脂からなり、空所9はその形状に関して半導体素体によって動作中放出される光の反射体17として(場合によっては、空所9の内壁に適当に被膜することにより)形成されている。このような容器8は特にプリント板に表面実装可能な発光ダイオードにおいて使用される。容器は半導体素体を組み立てる前に、電気端子2、3を備えている帯導体(リードフレーム)に、例えば射出成形によりる取り付けられる。
空所9は注型材料5で満たされ、この注型材料の組成は図1の説明と関連して上記に挙げたものに一致する。」(14頁10行?21行)
ここで、図3は次のものである。


カ 「図4にはいわゆるラジアル形のダイオードが示されている。この場合、エレクトロルミネセンス半導体素体1は第一の電気端子2の反射体として形成されている部分16に例えば蝋付け或いは接着により固定されている。このような容器構造形状は発光ダイオードの技術では公知であり、従って詳細に説明する必要はない。
半導体素体1の自由表面は発光物質粒子6を備えた注型材料5で直接覆われ、この注型材料は別の透明な被覆10で取り囲まれている。
完全を期すために、ここで、図4の構造形状においても図1の素子と同様に、発光物質粒子6を備えた硬化性注型材料5からなる一体被覆も使用できることは勿論であることに触れておきたい。」(14頁下から7行?15頁3行)
ここで、図4は次のものである。


(3)甲第5号証に記載された発明
ア 上記(2)カによれば、甲第5号証には、
「エレクトロルミネセンス半導体素体1が第一の電気端子2の反射体として形成されている部分16に例えば蝋付け或いは接着により固定され、半導体素体1の自由表面が発光物質粒子6を備えた注型材料5で直接覆われ、この注型材料は別の透明な被覆10で取り囲まれるラジアル形のダイオードの形成方法」
が記載されているものと認められる。

イ また同アないしウによれば、上記アのダイオードにおけるエレクトロルミネセンス半導体素体は、青色光を放出するものであり、上記アのダイオードは、注型材料として使用されるエポキシ樹脂に無機の発光物質YAG:Ce(Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+))を混合することにより白色光を放出するものと認められる。

ウ 以上によれば、甲第5号証には、
「エレクトロルミネセンス半導体素体1が第一の電気端子2の反射体として形成されている部分16に例えば蝋付け或いは接着により固定され、半導体素体1の自由表面が発光物質粒子6を備えた注型材料5で直接覆われ、この注型材料は別の透明な被覆10で取り囲まれるラジアル形のダイオードの形成方法において、前記半導体素体1は、青色光を放出するものであり、前記注型材料を、エポキシ樹脂に無機の発光物質YAG:Ce(Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+))を混合したものとすることにより白色光を放出するようにしたダイオードの形成方法」(以下「甲5発明」という。)
が記載されているものと認められる。

エ 請求人は、「甲第5号証には、図4において『半導体素体1』を載置する『電気端子2』(14頁23行)が開示されている。従って、甲第5号証には構成要件A-2が開示されている。」(審判請求書18頁)と主張するが、前記2(2)エでの検討と同様の理由により、採用できない。

(4)本件発明と甲5発明との対比、判断
ア 対比
本件発明と甲5発明とを対比する。

(ア)甲5発明における「エレクトロルミネセンス半導体素体1」は「青色光を放出」するものであるから、本件発明の「青色系を発光する発光素子」に相当する。

(ウ)甲5発明の「第一の電気端子2」及び本件発明の「基板」は、いずれも「発光素子を載置する部材」といえる。

(エ)甲5発明は、「前記半導体素体1は、青色光を放出するものであり、前記注型材料を、エポキシ樹脂に無機の発光物質YAG:Ce(Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+))を混合したものとすることにより白色光を放出するようにしたダイオードの形成方法」であるから、甲5発明の「エポキシ樹脂に無機の発光物質YAG:Ce(Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+))を混合した」注型材料は、本件発明の「該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂」に相当し、甲5発明は、本件発明の「前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法」との特定事項を備える。

(オ)甲5発明の「エポキシ樹脂に無機の発光物質YAG:Ce(Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+))を混合した」との構成は、「前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させる工程」といえ、甲5発明は、かかる工程を有する点において本件発明と一致する。

(カ)甲5発明のダイオードは、「半導体素体1の自由表面が発光物質粒子6を備えた注型材料5で直接覆われ、この注型材料は別の透明な被覆10で取り囲まれる」ものであるから、甲5発明が、「前記透光性樹脂が前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程」を有することは明らかであり、甲5発明は、かかる工程を有する点において本件発明と一致する。

(キ)以上によれば、両者は、
「青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する部材と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させる工程と、前記透光性樹脂が前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなる白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法」
である点で一致し、
a 形成される発光ダイオードにつき、本件発明は、発光素子が基板に載置され、前記透光性樹脂が前記発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形されるものであるのに対して、甲5発明は、エレクトロルミネセンス半導体素体1が第一の電気端子2の反射体として形成されている部分16に例えば蝋付け或いは接着により固定され、半導体素体1の自由表面が発光物質粒子6を備えた注型材料5で直接覆われ、この注型材料は別の透明な被覆10で取り囲まれるものである点(以下「相違点1’」という。)、
b 透光性樹脂を成形する工程につき、本件発明は、エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と前記無機蛍光物質とを混合攪拌させ固めてタブレットを形成する工程と、基板に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程とを有するのに対して、甲5発明は、かかる工程を有さず、半導体素体1の自由表面が発光物質粒子6を備えた注型材料5で直接覆われ、この注型材料は別の透明な被覆10で取り囲まれるものである点(以下「相違点2’」という。)
で相違するものと認められる。

イ 判断
(ア)相違点1’について
a 相違点1’のとおり、甲5発明により形成される発光ダイオードは、エレクトロルミネセンス半導体素体1が第一の電気端子2の反射体として形成されている部分16に例えば蝋付け或いは接着により固定され、半導体素体1の自由表面が発光物質粒子6を備えた注型材料5で直接覆われ、この注型材料は別の透明な被覆10で取り囲まれるものであり、甲5発明は、発光ダイオードがかかる構造を備えるものであることを前提とする発光ダイオードの形成方法である。

b してみると、甲5発明において、形成されるべき発光ダイオードの構造に着目して、発光素子が基板に載置され、透光性樹脂が前記発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形されるとされる、相違点1’に係る本件発明の構成とすること自体、想定し得ないものというべきである。
したがって、相違点2’について検討するまでもなく、本件発明が、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

c 請求人は、甲第5号証には、図4において、カップが形成されたリードタイプの発光ダイオードが開示されているのみならず、図3において、カップが形成されていない「電気端子2、3」を備えた発光ダイオードも、開示されており、「電気端子2、3」が、構成要件A-2における「該発光素子を載置する基板」に相当すること(口頭審理陳述要領書11頁?12頁)、発光ダイオードを、本件特許明細書の図3に示す「チップタイプ」とすることは、例えば、甲第9?12号証に記載されているとおり、周知技術にすぎないこと(上申書4頁?5頁)を主張するが、上記bの判断を左右するものではない。

(イ)小括
以上のとおりであるから、本件発明が、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 無効理由3(特許法第29条第2項違反)について
(1)甲号証の記載
ア 甲第6号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開平5-152609号公報)には、以下の記載がある。

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来、樹脂モールドに着色剤を添加して波長を変換するという技術はほとんど実用化されておらず、着色剤により色補正する技術がわずかに使われているのみである。なぜなら、樹脂モールドに、波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると、LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまうからである。
【0005】ところで、現在、LEDとして実用化されているのは、赤外、赤、黄色、緑色発光のLEDであり、青色または紫外のLEDは未だ実用化されていない。青色、紫外発光の発光素子はII-VI族のZnSe、IV-IV族のSiC、III-V族のGaN等の半導体材料を用いて研究が進められ、最近、その中でも一般式がGa_(X)Al_(1-X)N(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体が、常温で、比較的優れた発光を示すことが発表され注目されている。また、窒化ガリウム系化合物半導体を用いて、初めてpn接合を実現したLEDが発表されている(応用物理,60巻,2号,p163?p166,1991)。それによるとpn接合の窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDの発光波長は、主として430nm付近にあり、さらに370nm付近の紫外域にも発光ピークを有している。その波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし、そのLEDは発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪いという欠点がある。
【0006】本発明はこのような事情を鑑みなされたもので、その目的とするところは、発光ピークが430nm付近、および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし、またその輝度を向上させることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、ステム上に発光素子を有し、それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて、前記発光素子が、一般式Ga_(X)Al_(1-X)N(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり、さらに前記樹脂モールド中に、前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料、または蛍光顔料が添加されてなることを特徴とするLEDである。
【0008】図2は本発明のLEDの構造を示す一実施例である。11はサファイア基板の上にGaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子、2および3は図1と同じくメタルステム、メタルポスト、4は発光素子を包囲する樹脂モールドである。発光素子11の裏面はサファイアの絶縁基板であり裏面から電極を取り出せないため、GaAlN層のn電極をメタルステム2と電気的に接続するため、GaAlN層をエッチングしてn型層の表面を露出させてオーミック電極を付け、金線によって電気的に接続する手法が取られている。また他の電極は図1と同様にメタルポスト3から伸ばした金線によりp型層の表面でワイヤボンドされている。さらに樹脂モールド4には420?440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されている。
【0009】
【発明の効果】蛍光染料、蛍光顔料は、一般に短波長の光によって励起され、励起波長よりも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長の光を発光する蛍光顔料もあるが、それはエネルギー効率が非常に悪く微弱にしか発光しない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり、しかも紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合、その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料、蛍光顔料を添加することにより、最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。したがって青色LEDの色補正はいうにおよばず、蛍光染料、蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる。さらに、短波長の光を長波長に変え、エネルギー効率がよい為、添加する蛍光染料、蛍光顔料が微量で済み、輝度の低下の点からも非常に好都合である。」
ここで、図2は次のものである。


イ 甲第2号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平9-208805号公報)には、以下の記載がある。

「【0010】この発明の光半導体素子封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A成分)と、硬化剤(B成分)と、特定の化合物(C成分)および場合により硬化促進剤とを用いて得られるものであって、通常、粉末状、もしくはこの粉末状を打錠したタブレット状になっている。」、
「【0034】このようなエポキシ樹脂組成物を用いての光半導体素子の封止は、特に限定するものではなく、例えばトランスファー成型等の公知のモールド方法により行うことができる。」

(3)甲第6号証に記載された発明
ア 上記(2)アによれば、甲第6号証には、
「ステム上に発光素子を有し、それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて、前記発光素子が、一般式Ga_(X)Al_(1-X)N(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり、さらに前記樹脂モールド中に、前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料、または蛍光顔料が添加されてなる青色LED」(以下「甲6発明」という。)
が記載されているものと認められる。

イ 請求人は、「甲第6号証には、『ステム上に発光素子を有し』と記載されている(請求項1)。ここで、『ステム』とは、図2の実施例において『2および3は図1と同じくメタルステム、メタルポスト』と記載されているとおり(段落【0008】3?4行)、符号11で示される発光素子が載置されるものである(図2及び段落【0008】2?3行)。従って、甲第6号証には構成要件A-2が開示されている。」(審判請求書21頁)と主張するが、前記2(2)エでの検討と同様の理由により、採用できない。

ウ 請求人は、「甲第6号証において「発光ダイオード」が白色光を発するものであることが明記されていないとしても、当該「発光ダイオード」が白色光を発することは、当業者が本件特許の優先日において甲第6号証から把握する事項であり、即ち、本件特許の優先日において甲第6号証に記載されているに等しい事項である。」(審判請求書23頁)と主張する。
しかし、甲第6号証の「その目的とするところは、発光ピークが430nm付近、および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし、またその輝度を向上させることにある。」(【0006】)、「420?440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5」(【0008】)との記載によれば、上記アの発光ダイオードは、青色光の視感度ないし輝度の向上を目的とするものとひとまず解され、「青色LEDの色補正はいうにおよばず、蛍光染料、蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる。さらに、短波長の光を長波長に変え、エネルギー効率がよい為、添加する蛍光染料、蛍光顔料が微量で済み、輝度の低下の点からも非常に好都合である。」(【0009】)との記載を考慮しても、白色光を発するものとは必ずしも断じがたいところであるから、請求人の上記主張は、直ちには採用できない。

エ 請求人は、「甲第6号証には、『発光ダイオード』のモールド部分の具体的な「形成方法」を除き、構成要件A-4が開示されている。」(審判請求書23頁)、「『発光ダイオード』のモールド部分の具体的な『形成方法』を除き、甲第6号証には構成要件Dが開示されている。」(審判請求書24頁)と主張するが、甲第6号証に発光ダイオードの形成方法が記載されているものとは認められないから、請求人の上記主張は採用できない。

(4)本件発明と甲6発明との対比、判断
ア 対比
本件発明と甲6発明とを対比する。

(ア)甲6発明は、「発光素子が、一般式Ga_(X)Al_(1-X)N(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりな」る「青色LED」であるから、甲6発明における「発光素子」は、本件発明の「青色系を発光する発光素子」に相当する。

(ウ)甲6発明の「ステム」及び本件発明の「基板」は、いずれも「発光素子を載置する部材」といえる。

(エ)甲6発明の「『前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料、または蛍光顔料』が添加された『樹脂モールド』」は、「該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂」といえ、甲6発明は、かかる樹脂を有する点において本件発明における「発光ダイオード」と一致する。
そして、甲6発明における「発光素子」は、「樹脂モールドで包囲してなる」ものであるから、「前記透光性樹脂が前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化」したものといえ、甲6発明は、この点においても本件発明における「発光ダイオード」と一致する。

(オ)以上によれば、両者は、発光ダイオードにつき、
「青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する部材と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光を発光する発光ダイオードであって、前記透光性樹脂が前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化した発光ダイオード」
である点で一致し、
a 発光ダイオードにつき、本件発明は、発光素子が基板に載置され、前記透光性樹脂が前記発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形されるものであるのに対して、甲6発明は、ステム上に発光素子を有し、それを樹脂モールドで包囲してなるものである点(以下「相違点1’’」という。)、
b 本件発明は、エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と前記無機蛍光物質とを混合攪拌させ固めてタブレットを形成する工程と、基板に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程とを有する発光ダイオードの形成方法であるのに対して、甲6発明は、形成方法が不明である点(以下「相違点2’’」という。)、
c 発光ダイオードにつき、本件発明は、白色系の混色光を発光するものであるのに対して、甲6発明は、かかる混合光を発光するものかどうか不明である点(以下「相違点3」という。)
で相違するものと認められる。

イ 判断
(ア)相違点1’’について
a 前記(3)アによれば、甲6発明は、ステム上に発光素子を有し、それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて、発光素子を窒化ガリウム系化合物半導体とし、さらに前記樹脂モールド中に蛍光染料または蛍光顔料を添加した青色LEDであり、甲6発明は、ステム上に発光素子を有し、それを樹脂モールドで包囲してなる構造を前提とするものである。

b してみると、甲6発明において、発光素子が基板に載置され、透光性樹脂が前記発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形されるとされる、相違点1’’に係る本件発明の構成とすること自体、想定し得ないものというべきである。
したがって、相違点2’’及び3について検討するまでもなく、本件発明が、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

c 請求人は、甲第1号証及び甲第5号証に開示されているとおり、発光ダイオードを、カップが形成されたリードタイプのものとするか、チップタイプとするかは、当業者が適宜選択するものであり、設計事項にすぎないこと(口頭審理陳述要領書12頁)、発光ダイオードを、本件特許明細書の図3に示す「チップタイプ」とすることは、例えば、甲第9?12号証に記載されているとおり、周知技術にすぎないこと(上申書4頁?5頁)を主張するが、上記bの判断を左右するものではない。

(イ)小括
以上のとおりであるから、本件発明が、甲第6号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第8 むすび
以上のとおりであって、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しないから、請求人が主張する無効理由によって無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-04 
結審通知日 2012-09-06 
審決日 2012-09-19 
出願番号 特願2003-402427(P2003-402427)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金高 敏康居島 一仁  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 吉野 公夫
岡▲崎▼ 輝雄
登録日 2007-01-12 
登録番号 特許第3900144号(P3900144)
発明の名称 発光ダイオードの形成方法  
代理人 田村 啓  
代理人 玄番 佐奈恵  
代理人 升永 英俊  
代理人 言上 恵一  
代理人 高橋 綾  
代理人 鮫島 睦  
代理人 牧野 知彦  
代理人 古城 春実  
代理人 加治 梓子  
代理人 佐藤 睦  

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