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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1278785
審判番号 不服2010-28778  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-20 
確定日 2013-09-04 
事件の表示 特願2003-581738「毛髪又は繊維で占められた表面上で使用するヒドロゲル接着剤」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月16日国際公開,WO03/84498,平成18年3月2日国内公表,特表2006-507370〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,2003年3月27日(パリ条約による優先権主張 2002年3月29日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成21年9月16日付けの拒絶理由通知に対して,その指定期間内の平成22年2月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,同年8月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年12月20日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

2.平成22年12月20日付けの補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年12月20日付けの補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正の内容
拒絶査定不服審判の請求と同時になされた,平成22年12月20日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項3を次のように補正することを含むものである。
(補正後の請求項3)
「毛又は繊維で占められた表面上にヒドロゲル接着剤を使用する方法であって,前記方法がヒドロゲルを前記表面に接着する工程を含み,前記接着剤が10重量%?60重量%の架橋親水性ポリマー;5重量%?80重量%の水溶性非イオン性湿潤剤,及び10重量%?85重量%の水を含み,前記接着剤が1000Pa未満の,温度25℃における弾性率G'_(25)(1rad/秒)を有し,前記接着剤の温度25℃における粘性率G''_(25)(1rad/秒)が100Pa?700Paの範囲であり,G''_(25)(1rad/秒)/G'_(25)(1rad/秒)の比率が0.15?0.65の範囲であり,及び乾いた皮膚上での剥離力強度が0.3N/cm?5.0N/cmの範囲であり,
前記架橋親水性ポリマーが,3未満のpKaを有する強酸モノマー類または3を超えるpKaを有する弱酸モノマー類の,モノマー単位を少なくとも含み,
前記強酸モノマー類は,オレフィン性不飽和の脂肪族スルホン酸又は芳香族スルホン酸の群から選択され,
前記弱酸モノマー類は,オレフィン性不飽和カルボン酸及びカルボン酸無水物の群から選択される,
方法。」(以下,「本件補正発明」ともいう。)
これに対して,本件補正の前の請求項3(すなわち,平成22年2月8日付け手続補正書の請求項3)の記載は次のとおりである。
(補正前の請求項3)
「毛又は繊維で占められた表面上にヒドロゲル接着剤を使用する方法であって,前記方法がヒドロゲルを前記表面に接着する工程を含み,前記接着剤が10重量%?60重量%の架橋親水性ポリマー;5重量%?80重量%の水溶性非イオン性湿潤剤,及び10重量%?85重量%の水を含み,前記接着剤が1000Pa未満の,温度25℃における弾性率G'_(25)(1rad/秒)を有し,前記接着剤の温度25℃における粘性率G''_(25)(1rad/秒)が50Pa?1000Paの範囲であり,G''_(25)(1rad/秒)/G'_(25)(1rad/秒)の比率が0.15?0.65の範囲であり,及び乾いた皮膚上での剥離力強度が0.3N/cm?5.0N/cmの範囲である,方法。」
本件補正の前後の両請求項を対比すると,本件補正は,
(a)補正前請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である「粘性率G''_(25)(1rad/秒)が50Pa?1000Paの範囲」を,「粘性率G''_(25)(1rad/秒)が100Pa?700Paの範囲」に限定し,
(b)同発明を特定するために必要な事項である「ヒドロゲル接着剤」の「架橋親水性ポリマー」について,
「前記架橋親水性ポリマーが,3未満のpKaを有する強酸モノマー類または3を超えるpKaを有する弱酸モノマー類の,モノマー単位を少なくとも含み,
前記強酸モノマー類は,オレフィン性不飽和の脂肪族スルホン酸又は芳香族スルホン酸の群から選択され,
前記弱酸モノマー類は,オレフィン性不飽和カルボン酸及びカルボン酸無水物の群から選択される」
と限定するものである。
したがって,本件補正発明は,補正前の請求項3に係る発明について,平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされている特許法(以下,単に「旧特許法」という)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的として補正したものといえることから,かかる本件補正発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(2)引用刊行物及びその記載事項
刊行物1 国際公開第00/07637号(原審で引用された刊行物C)
刊行物1には,以下の事項が記載されている。なお,英文に付き翻訳文で記載する。
(1-a)明細書第1頁第9?14行
「(発明の分野)
本発明は,着用者の臀部で皮膚に直接取り付ける,乳幼児または成人用の尿処理具や便処理具など使い捨て式の排泄物処理具に関する。この処理具は,着用者への処理具の着脱が容易でかつ処理具が所望位置に確保できるように改良型の接着剤を利用している。」
(1-b)明細書第3頁第25?28行
「本発明の目的は,再装着,特に反復装着の際に,例えば処理具の取付け位置を誤ったとき,皮膚に接着する能力を有し,しかも苦痛なく取り外すことのできる接着剤を提供することである。」
(1-c)明細書第7頁第10?12行
「本発明での「皮膚」という言葉は,ユーザの特定の皮膚のみに関わるものではなく,粘液組織,ならびに典型的には性器に見られる毛髪をも含む。」
(1-d)明細書第9頁第16行?次頁第3行
「好ましくは,本発明に使用する接着剤について,以下に示す一連の特性を満たすべきである。
G'_(37)(1rad/秒) は500Paから20000Pa,
好ましくは700Paから15000Pa,
最も好ましくは1000Paから10000
Paの範囲である。
G''_(37)(1rad/秒) は100Paから15000Pa,
好ましくは100Paから10000Pa,
最も好ましくは300Paから5000Pa
の範囲である。

少なくとも1rad/sから100rad/sまでの周波数レンジに対するG'_(37)/G''_(37)の比の値は0.5以上,好ましくは0.7から10,最も好ましくは1から7の範囲である。」
(1-e)明細書第19頁第29?32行
「水溶性ポリマ,水,および多価アルコールが存在する状態で,水溶性モノマーを重合および架橋すると,流動性が増し,したがって接着性が増したヒドロゲル材料を生成する。」
(1-f)明細書第36頁第8行?次頁第23行
「取り外しの痛みの等級付け試験
接着剤層を備え,予め装着者の皮膚に取付けた試料を装着者の皮膚から除去する際の痛覚を評価するために,痛覚除去等級付け試験が利用される。この試験は特に,市販の強力な医療用プラスターで構成される基準試料を除去することによって発生する痛覚と比較した場合の,各試料を除去するときの痛覚を評価する。
試料調製
片面に選択された厚さの接着剤連続層を備え,Effegidi S.p.A.of Colorno(Parma,Italy)から販売されているような,厚さ23μmのポリエステルフィルムで作製された矩形試料60×20mmに関して,この試験を行う。基準試料は,商品名FixomullストレッチとしてBeiersdorf A.G.Hamburg,Germanyから入手できる接着性不織布の60×20mm試料である。
試験方法
6人の等級格付け者の一団が,試験のために選定される。温度23℃,湿度50%に維持した気候管理された実験室で,試験を行う。水と石けんで通常の清浄化/洗浄をする以上に,装着者の皮膚の特別な処理を何ら必要としない。次に,試験前の少なくとも2時間の間,皮膚を乾燥させ,皮膚が室内条件と平衡に達するようにする。様々な接着剤を,基準試料Rと比較して試験で評価する。各試料を,手首と肱の中間に,試料の短辺を腕の長さに揃えて,オペレーターの手で格付け者の前腕の内側に施用する。オペレーターは,手のひらで各試料に,医療用プラスターを皮膚に接着させるために普通掛けると同じ圧力を掛ける。各試料は処方した時間の間装着され,その後,オペレーターによってゆっくり,滑らかに引張りながら,格付け者の皮膚から除かれる。
ひとつの基準試料と試験試料の4系列を各々施用し,装着し,次いで装着者の皮膚から除去する。詳細には,各試料を1分間装着し,同一系列の連続する2試料の間に5分の待ち時間を入れ,連続する異なった2系列の間には15分の待ち時間を入れる。各系列の第一試料として,常に基準試料Rを施用し,装着し,除去する。最初の3系列の各々における試験試料の施用/装着/除去の順序は無作為とする。但し,各系列内での繰返しは認めないものとし,最初の3系列内での順序を繰返さないものとする。第4系列では,試験試料のひとつを2回試験し,基準Rを常に最初の試料とする。全体的に見て,各試料を等しい回数(24回)だけ試験しなければならない。
格付け者は,0から10にわたる痛覚スケールを用いて,各試料を評価するように求められた。そのスケールでは,0は無痛に対応し,10は基準試料Rを除去する際の痛覚に対応する。各試料の痛覚値は,24回の観察値の平均として得られた。
試験から集めた結果を統計解析プログラム「Comparison of Population Means-Paired Samples」によって解析し,その結果,試料の痛覚値の差は統計学的に有意であった。」
(1-g)明細書第37頁第25行?第39頁第30行
「引き剥がし接着力法
これは,特定の引き剥がし角度と速度で,皮膚を離すのに必要な平均引き剥がし力を決定するための定量的方法である。
装備品
はさみ 適宜入手できるもの
標準物差し 適宜入手できるもの
スチールローラー 質量5.0kg,直径13cm,幅4.5cmで,厚さ0.5mmのゴムで被覆されたもの。
ポリエステルフィルム Effegidi S.p.A. 43052 Colorno,Italyから入手できるPET 23μ
転写接着剤 3M Italia S.p.a.,20090 Segrate Italyから入手可能な 3M 1524
ストップウォッチ 適宜入手できるもの
引張り試験機 Instron mod.:6021(または同等品)
試験手順
A)引張り試験機引き剥がし条件設定
ロードセル 10N
試験速度 1000mm/min
クランプ間距離 25mm
予備荷重 0.2N
試験行程「LM」 50mm
測定変数 「LM」におけるF平均(N)
B)皮膚条件および準備
試料は前腕から引き剥がしたものである。試験される皮膚には,3条件がある。
1)乾燥:前腕は処理されず,試験前または繰返し試験の間にも拭取りをしない。
2)湿潤:1個の綿円板(Demak′up 直径5.5cm,重量約0.6g)に3mlの蒸留水を加える。次に,円板を軽く押付けながら,前腕の試験区域を3回拭取る(前腕の試験区域は,接着域より約2cmずつ幅広で長い矩形である)。
C)試料調製
1.試料を空気調節された部屋(23±2℃で湿度50±2%)に約1時間調節させる。
2.長さ260mm±2,幅20mm±2の矩形接着剤試料を調製する。
3.試料表面にポリエステルフィルムを取付ける(下地表面にポリエステルを取付けるために,転写接着剤を用いて)。
4.各試験標品を個別に調製し,直ちに試験すべきである。
5.接着剤から剥離紙を,接着剤に触らないようにして除く。一端を皮膚に取付ける(B項参照)。
6.接着剤矩形片に沿って160mmの間スチールローラーを,各方向に1回ずつ転がす。
D)試験環境
接着剤を試験することのできるふたつの環境がある。
1)C1に記載した空気調節された部屋
2)湿潤環境。この場合,段階C4の後,標品を取って湿度制御オーブン中に85℃,3時間入れる。次いで取出し,段階C5,C6を実行する。
E)実行
段階C6の1分後,標品の自由端(約長さ100mm)を取って,接着試験機の上端に挿入する。標品が前腕に対し角度90度になっていることを確認する。試験機をスタートする。
F)報告
5回の試験の引き剥がし強度の平均値を報告する。試料間の標準偏差を計算するためには,単一の値が基礎となる。」
(1-h)明細書第40頁第17行?次頁第9行
「例1
1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Ciba社の製品であり,Irgacure 184の商標名で市販されている)の6部は,ポリエチレングリコールジアクリレート(pEG600)(Ebacryl 11の商標名で市販されているUCB Chemicals社の製品)の20部に溶解された。このようにして生成された溶液を,以下では溶液A(XL/PI)と指定する。これとは別に,3-スルホプロピルアクリレート(SPA)(Raschig社の製品)の50部が50部の水で溶解され,溶液Bを生成した。50部の水,2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(NaAMPS)で構成される溶液Cと指定される別の溶液は,Lubrizol Corporation社の製品であり,LZ2405の商標名で50%の水溶液として市販されている)。溶液BおよびCの混合物を100:0,90;10,60:40,50:50,40:60,10:90,0:100の比率で作り,プリゲル(pre-gel)溶液を生成した。各プリゲル溶液の80部に,溶液Aの0.15部,塩化カリウムの5部,蒸留水の20部を付加した。シリコンで覆ったリリースペーパー上を1平方メートルあたり0.8キログラムの皮膜重量でこのプレゲル溶液で覆い,低気圧水銀アークランプ下を分速5メートルの速度で移動させることによってこれを紫外線に暴露し,透明な自己支持ゲルを生成した。ランプ下の滞留時間は4秒であった。ゲルからスタンプされた直径20mmのストレージ・モジュール(G′)は,37℃でRheometric Scientific RS-5レオメーター上に記録された。1ラドのG′の値を表1に示す。SPAの90部および100部を含むゲルを例外として,生成されたゲルは,皮膚上に留め易く,はがし易い特性を有した。表1のデータから,ストレージモジュールにおいてSPA対NaAMPSの比率の増加時や減少時には比較的直線的な変化が得られる。」
(1-i)明細書第44頁第17行?次頁第3行
「例7
表3に示された組成物は,7aの組成物である次の方法を使用して調整された。33部グリセロールに,疎水エチレン/ビニルアセテートコポリマーエマルジョン(固形分50%)(DM137の商標で市販されているHarlow Chemicals社の製品)の10部が付加され,均一の色が得られるまで攪拌された。この混合物に,2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(NaAMPS)(LZ2405A)のナトリウ塩の58%溶液の35部と3-スルホプロピルアクリレート(SPA)の15部カリウム塩が付加され,この溶液は60℃で1時間攪拌しながら加熱された。この溶液は20℃まで冷却され,次いで例1に記述されるように溶液Aの0.15部を付加された。この最終溶液は,1時間攪拌され,次いで例1にあるように処理された。
表3


(1-j)明細書第46頁第25行?第48頁第5行
「3.接着剤が水性可塑剤と,親水性で不飽和水溶性の第1のモノマーと親水性で不飽和水溶性の第2のモノマーのコポリマーと,架橋剤とを含み,第1のモノマーが優先的に組成物の生体接着特性を高める傾向を有することを特徴とする,請求の範囲1に記載の使い捨て式人間排泄物処理具。

8.第1のモノマーが2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸またはその同族体あるいはその塩の1つであり,及び/または第2のモノマーがアクリル酸(3-スルホプロピル)エステルまたはその同族体の重合可能なスルホネートまたは塩であることを特徴とする,請求の範囲2から7のいずれか一項に記載の使い捨て式人間排泄物処理具。」

(3)対比・検討
(3-1)刊行物1に記載された発明
刊行物1の(1-d)には,「好ましくは,本発明に使用する接着剤について,以下に示す一連の特性を満たすべきである。」として,次の記載がなされている。
「G'_(37)(1rad/秒) は500Paから20000Pa,

G''_(37)(1rad/秒) は100Paから15000Pa,

少なくとも1rad/sから100rad/sまでの周波数レンジに対するG'_(37)/G''_(37)の比の値は0.5以上,…」
したがって,まず,刊行物1には,これらの特性を有する接着剤を使用する方法が記載されていると解される。
そして,そのような接着剤の実例である「例7a」として,次の組成のものが記載されている。((1-i)の,特に表3)
「NaAMPS 58%溶液 35部
SPA 15部
グリセロール 33部
DM137 10部
PEG600 5部
PI/XL 0.15部」
(例7の本文の記載に照らし,表3の「NaAMPS」は「2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸のNa塩」で,「SPA」は「3-スルホプロピルアクリレート」,さらに「DM137」は「エチレン/ビニルアセテートコポリマーエマルジョン(固形分50%)」のことであり,また,例1の記載(1-h)から,「PEG600」は「ポリエチレングリコールジアクリレート」のことであり,「PI/XL」は「1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの6部をポリエチレングリコールジアクリレートの20部に溶解して生成した溶液A」のことである。なお,これらの成分については,以下,表3における表記を使用することとする。)
また,かかる接着剤は,(1-a)において,
「本発明は,着用者の臀部で皮膚に直接取り付ける,乳幼児または成人用の尿処理具や便処理具など使い捨て式の排泄物処理具…に関する。」と記載されていることから,着用者の皮膚に直接取り付けるための接着剤であると解せられ,さらに,(1-c)には,刊行物1における「皮膚」に関して,
「本発明での「皮膚」という言葉は,ユーザの特定の皮膚のみに関わるものではなく,粘液組織,ならびに典型的には性器に見られる毛髪をも含む。」と記載されていることから,毛髪を有する皮膚をも含むものと解せられる。
そして,(1-b)には,
「本発明の目的は,再装着,特に反復装着の際に,例えば処理具の取付け位置を誤ったとき,皮膚に接着する能力を有し,しかも苦痛なく取り外すことのできる接着剤を提供することである。」と記載されていることから,苦痛なく取り外すことのできる接着剤でもあると解される。
さらに,(1-e)に,
「水溶性ポリマ,水,および多価アルコールが存在する状態で,水溶性モノマーを重合および架橋すると,流動性が増し,したがって接着性が増したヒドロゲル材料を生成する。」と記載されているところ,
例7aの組成物中
「NaAMPS」及び「SPA」は,刊行物1の請求の範囲3及び同8(1-j)を参照すると,ともに上記(1-e)記載の「水溶性ポリマ」に相当するものであり,また,
「グリセロール」は,多価アルコールに相当し,さらに,
例7aでは,「NaAMPSの58%溶液」を使用し,そして「DM137」は「(固形分50%)」を使用していることから,前者の42%分,後者の50%分の水が存在することとなっており,また,
PI/XLにも含まれ,また別途添加されている「ポリエチレングリコールジアクリレート」は架橋剤であることから,
例7aの組成物は,上記で摘記した(1-e)の「水溶性ポリマ,水,および多価アルコールが存在する状態で,水溶性モノマーを重合および架橋する」にまさに該当するものであることから,ヒドロゲルになっているものと解される。
そうすると,刊行物1には,次の発明が記載されているものといえる。
「毛髪を含んだ着用者の皮膚に直接接着するための,苦痛なく取り外すことのできる接着剤であって,以下の特性,
G′_(37)(1rad/秒)が500Pa?20000Pa,
G″_(37)(1rad/秒)が100Pa?15000Pa,
1rad/sにおけるG′_(37)/G″_(37)の比の値が0.5以上
を有し,
また,
『NaAMPSの58%溶液 35部
SPA 15部
グリセロール 33部
DM137 10部
PEG600 5部
PI/XL 0.15部』
を含むヒドロゲル接着剤を使用する方法。」(以下,「引用発明」という。)

(3-2)一致点及び相違点
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における,「NaAMPS」及び「SPA」は,本願の【請求項6】や明細書【0028】などを参酌すると,いずれも,本件補正発明における「架橋親水性ポリマー」に相当し,さらに,「3未満のpKaを有する強酸モノマー類」にも相当するものと解される。そして,引用発明における,「グリセロール」も,本願【請求項8】や明細書【0032】などの記載を参酌すると,本件補正発明における「水溶性非イオン性湿潤剤」に相当するものであり,また,引用発明では,
『DM137 10部』及び『NaAMPSの58%溶液 35部』
の2成分が,水溶液の形態で使用されていることから,水も含まれているものである。
そこでこれらの成分の含有量を,接着剤の全体を100%として算出すると,接着剤全体の合計量が98.15部であることから,次のようになる。
NaAMPS及びSPAからなる架橋親水性ポリマー-36.0重量%
({35×(58/100)+15}×(100/98.15))
グリセロールからなる水溶性非イオン性湿潤剤 -33.6重量%
水 -20.1重量%
({35×(42/100)+10×(50/100)}
×(100/98.15))
すなわち,これらは全て,本件補正発明において規定されている範囲内のものである。
そして,引用発明に係る接着剤は,ヒドロゲルであって,しかも皮膚に直接接着するために使用される(1-a)のであるから,引用発明は「ヒドロゲルを表面に接着する工程」を含むことは明らかである。
そうすると,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のようになる。
[一致点]
「毛又は繊維で占められた表面上にヒドロゲル接着剤を使用する方法であって,前記方法がヒドロゲルを前記表面に接着する工程を含み,前記接着剤が50.9重量%の架橋親水性ポリマー;33.6重量%の水溶性非イオン性湿潤剤,及び20.0重量%の水を含み,
前記接着剤が弾性率,粘性率及びそれらの比によって特定されていて,
前記架橋親水性ポリマーが,3未満のpKaを有する強酸モノマー類であってオレフィン性不飽和の脂肪族スルホン酸であるNaAMPS,及び,SPAを含む,
方法。」
[相違点1]
粘性率,弾性率,及びその比が,本件補正発明では,
「25℃の数値で特定されていて,
1000Pa未満の,温度25℃における弾性率G'_(25)(1rad/秒)を有し,
温度25℃における粘性率G''_(25)(1rad/秒)が100Pa?700Paの範囲であり,
G''_(25)(1rad/秒)/G'_(25)(1rad/秒)の比率が0.15?0.65の範囲である」
と特定されているのに対して,引用発明では,
「37℃の数値で特定されていて,
G'_(37)(1rad/秒)が500Pa?20000Pa,
G''_(37)(1rad/秒)が100Pa?15000Pa,
1rad/sにおけるG'_(37)/G''_(37)の比の値が0.5以上」
と特定されている点。
[相違点2]
本件補正発明では,剥離力強度が,「乾いた皮膚上での剥離力強度が0.3N/cm?5.0N/cmの範囲」と数値で特定されているのに対して,引用発明では,「苦痛なく取り外すことができる」とされている点。

(3-3)相違点1について
まず,相違点1について検討する。
弾性率及び粘性率は接着剤の特性を示す指標であり,25℃はいわゆる室温に相当する温度であって,この温度における弾性率・粘性率は生活環境における接着剤の特性を示す指標と解され,一方,37℃は人体の体温に相当する温度であって,この温度における弾性率・粘性率は人体接触時の接着剤の特性を示す指標と解される。
引用発明の如き人体の皮膚へ直接接着させる接着剤の場合には,人体の一部である皮膚に接触しつつ外気にも触れる通常の生活環境下で使用されるものであることから,37℃の弾性率・粘性率を指標とするか,或いは,25℃の弾性率・粘性率を指標とするかは,いずれも合理性のあるものといえ,いずれを採用するかは当業者が適宜選択するというべきものである。
さらに,人体の皮膚に接触しつつ通常の生活環境下で使用される接着剤については,37℃でもまた25℃でも接着特性が大きくは変化しないものが求められるのが通常であるから,例えば,37℃の指標で特定されている接着剤の特性に基づいて,その値とは大きくは相違しない25℃での指標を改めて特定することは,特段の事情がなければ当業者にとって容易になし得ることというべきものである。
そして,本件補正発明に係る接着剤に関し,25℃での指標として改めて特定することについて,格別の困難が伴うことであったという特段の事情も見当たらないから,引用発明における37℃の各指標についてなされた範囲の特定に対して,これを25℃の指標に変更して特定すること自体をもって直ちに当業者にとって格別の創意工夫を要するものとはいえない。
次に各指標の値について検討する。
上記したように,25℃でも37℃でも大きくは変わらない特性が求められることを前提とすると,本件補正発明における各指標の特定範囲は,引用発明の対応する指標と対比して,それぞれ重複又は少なくとも近傍といえる程度のものであり,仮に,本件補正発明の範囲に特定することによる格別の効果或いは格別の技術的意義が示されているのならばともかく,そのような効果・技術的意義が示されていないのであれば,本件補正発明における各指標の範囲の特定は,当業者にとって容易になし得るというべきものである。
そのような観点から本願明細書の記載を検討する。
本願明細書には,具体的な接着剤として実施例1?3が示されていて,各実施例の試験結果が表1に示されているが,これら3例とも,1rad/sにおけるtanδ,すなわち「G''_(25)/G'_(25)」の値が本件補正発明で特定された範囲から外れているものである上,そこで示されている結果を見ても,引用発明と比較して格別優れた効果或いは格別の技術的意義が示されているとはいえない。また,本願明細書の他の記載を見ても,接着剤の弾性率・粘性率について本件補正発明で特定する範囲のものとすることにより,格別優れた効果或いは格別の技術的意義があることを具体的に示す記載は見あたらない。
したがって,引用発明において特定されている
「G'_(37)(1rad/秒)が500Pa?20000Pa,
G''_(37)(1rad/秒)が100Pa?15000Pa,
1rad/sにおけるG'_(37)/G''_(37)の比の値が0.5以上」
の各範囲に基づいて,これを25℃における指標として,例えば,
「弾性率G'_(25)(1rad/秒)は1000Pa未満,
粘性率G''_(25)(1rad/秒)は100Pa?700Paの範囲,
G''_(25)(1rad/秒)/G'_(25)(1rad/秒)の比率は0.15?0.65の範囲」と部分的に重複する又はその近傍の範囲として特定することは,当業者が容易になし得ることといわざるを得ないものである。

(3-4)相違点2について
次に,相違点2について検討する。
刊行物1には,ヒドロゲル接着剤の「乾いた皮膚上での剥離力強度」が0.3N/cm?2N/cmの範囲であることは明記されていないが,引用発明に係る接着剤は「苦痛なしに取り外すことができる」とするものである。
ところで,剥離強度(「接着強度」や「剥離力」などと同義)が皮膚から引き剥がす際の痛みの大きさと関連するものであることは,本件優先権主張の日前から当業者に周知の事項である(例えば,特開2000-60815号公報の【0009】及び【0011】など,特表2001-507253号公報の第8頁第3及び4段落など,並びに,国際公開第00/44846号の明細書第1頁第3段落など,参照)ことから,接着強度に関して,皮膚に貼り付けた接着体を引き剥がす際に痛みを感じない程度の適切な範囲に特定することは,当業者が容易になし得ることといえ,しかも,刊行物1には,「取り外しの痛みの等級付け試験(Removal Pain Grade Test)」(1-f)に引き続いて,「引き剥がし接着力法(Peel adhesion method)」の標題の下,剥離力(peel force)の測定方法に関する詳細な記載がなされている((1-g);ここに記載の剥離力の試験方法と,本願明細書で「乾いた皮膚上での剥離力強度」の測定方法として記載されている【0072】に記載の方法とを対比すると,試験条件や測定機器など両者はほぼ同一のものである。)。
そうすると,刊行物1には,「苦痛なく取り外すことができる」と記載され,しかも取り外しの痛みの測定方法に加えて,取り外しの際の痛みと関連する指標であることが当業者にとって周知である剥離力に関しても,その詳細な試験方法が記載されているのであるから,両方法に従って,取り外しの際の苦痛のない剥離力の範囲がどの程度かを特定することは当業者ならば容易になし得ることといえる。
なお,本願明細書の記載を見ても,剥離強度を「0.3N/cm?5.0N/cm」とすることによる格別の効果は示されていないものであるし,また,本件補正発明で特定されている剥離強度の範囲(0.3N/cm?5.0N/cm)については,本件補正発明と同様な使用形態で用いられる接着剤に関する文献である,例えば,国際公開第00/45766号(請求の範囲第3項及び第4項)や国際公開第2002/11651号(請求の範囲第12項及び第13項)において採用されている値と比較して格別特異な値であるとはいえない。
したがって,引用発明において,「苦痛なく取り外すことができる」とされている接着剤に関して,その剥離強度を測定することによって,例えば,「0.3N/cm?5.0N/cm」と重複する範囲に特定することは,当業者が容易になし得ることといわざるを得ない。

(4)むすび
以上のとおり,本件補正発明は,刊行物1記載の発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成22年12月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項3に係る発明は,同年2月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「毛又は繊維で占められた表面上にヒドロゲル接着剤を使用する方法であって,前記方法がヒドロゲルを前記表面に接着する工程を含み,前記接着剤が10重量%?60重量%の架橋親水性ポリマー;5重量%?80重量%の水溶性非イオン性湿潤剤,及び10重量%?85重量%の水を含み,前記接着剤が1000Pa未満の,温度25℃における弾性率G'_(25)(1rad/秒)を有し,前記接着剤の温度25℃における粘性率G''_(25)(1rad/秒)が50Pa?1000Paの範囲であり,G''_(25)(1rad/秒)/G'_(25)(1rad/秒)の比率が0.15?0.65の範囲であり,及び乾いた皮膚上での剥離力強度が0.3N/cm?5.0N/cmの範囲である,方法。」(以下,「本願発明」という。)

(2)引用刊行物
原審で刊行物Cとして引用された上記刊行物1及びその記載事項は,上記2.(2)で記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は,前記2.において検討した本件補正発明とは,以下の関係を有する発明となっている。
(a)本件補正発明における
「粘性率G''_(25)(1rad/秒)が100Pa?700Paの範囲」なる記載が,本願発明では,
「粘性率G''_(25)(1rad/秒)が50Pa?1000Paの範囲」と範囲が拡大された。
(b)本件補正発明における「ヒドロゲル接着剤」の「架橋親水性ポリマー」について,
「前記架橋親水性ポリマーが,3未満のpKaを有する強酸モノマー類または3を超えるpKaを有する弱酸モノマー類の,モノマー単位を少なくとも含み,
前記強酸モノマー類は,オレフィン性不飽和の脂肪族スルホン酸又は芳香族スルホン酸の群から選択され,
前記弱酸モノマー類は,オレフィン性不飽和カルボン酸及びカルボン酸無水物の群から選択される」
なる限定がなくなり,本願発明では,
単なる「架橋親水性ポリマー」と上位概念化された。
そうすると,本願発明と比較してさらに限定された本件補正発明が,前記2.(3)に記載したとおり,刊行物1記載の発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとされるのであるから,本願発明も同様な理由により,刊行物1記載の発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたといえる。

4.むすび
以上のとおり,本願請求項3に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-27 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-19 
出願番号 特願2003-581738(P2003-581738)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
P 1 8・ 575- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 目代 博茂
新居田 知生
発明の名称 毛髪又は繊維で占められた表面上で使用するヒドロゲル接着剤  
復代理人 主代 静義  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 田村 正  

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