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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C01G
管理番号 1278827
審判番号 不服2012-4930  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-15 
確定日 2013-09-04 
事件の表示 特願2006-541171「リチウムイオン電池のカソード材料で使用するためのリチウム-ニッケル-コバルト-マンガン混合金属酸化物の固相合成」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月23日国際公開、WO2005/056480、平成19年 6月14日国内公表、特表2007-515366〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、2004年10月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年11月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年10月19日に手続補正書が提出され、平成22年9月9日付けで拒絶理由が通知され、平成23年2月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年3月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、その後、平成24年7月12日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋を通知し、期間を指定して請求人の意見を求めたところ、請求人からの回答書の提出が無かったものである。

第2.平成24年3月15日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年3月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
平成24年3月15日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、 平成23年2月14日付けの手続補正書によって補正された、
「【請求項1】
a)コバルト含有酸化物または酸化物前駆体、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、ニッケル含有酸化物または酸化物前駆体、およびリチウム含有酸化物または酸化物前駆体を湿式粉砕して、十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーを形成すること、および
b)前記スラリーを加熱して、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物を提供すること、
を含み、かつ
前記スラリーは、0.3μm未満の平均粒子直径を有する粒子を含有するまで湿式粉砕される、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相リチウム-遷移金属酸化物化合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の工程を含み、かつ前記リチウム-遷移金属酸化物化合物の粒子と、導電性炭素およびバインダとを混合し、得られた混合物を支持基材上にコーティングしてリチウム-遷移金属酸化物カソードを形成することを更に含む、カソードの製造方法。
【請求項3】
請求項1及び2に記載の工程を含み、かつ前記カソードと、電気的に適合しているアノードと、セパレータと、電解質とを容器内に配置して、リチウムイオン電池を形成することを更に含む、リチウムイオン電池の製造方法。」
から、
「【請求項1】
a)コバルト含有酸化物または酸化物前駆体、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、ニッケル含有酸化物または酸化物前駆体、およびリチウム含有酸化物または酸化物前駆体を湿式粉砕して、0.3μm未満の平均粒子直径を有する粒子を含有し、かつ十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーを形成すること、および
b)前記工程で得られたスラリーを、少なくとも10℃/分の速度で少なくとも900℃の温度まで、焼成、焼付け、又は焼結により加熱して、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物を提供すること、
を含む、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相リチウム-遷移金属酸化物化合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の工程を含み、かつ前記リチウム-遷移金属酸化物化合物の粒子と、導電性炭素およびバインダとを混合し、得られた混合物を支持基材上にコーティングしてリチウム-遷移金属酸化物カソードを形成することを更に含む、カソードの製造方法。
【請求項3】
請求項1及び2に記載の工程を含み、かつ前記カソードと、電気的に適合しているアノードと、セパレータと、電解質とを容器内に配置して、リチウムイオン電池を形成することを更に含む、リチウムイオン電池の製造方法。」
に補正された。

この補正は、本件補正前の平成23月2月14日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項として、「スラリーを加熱」を、「スラリーを、少なくとも10℃/分の速度で少なくとも900℃の温度まで、焼成、焼付け、又は焼結により加熱」するという事項とする補正を含むものであるが、当該事項は補正前のいずれの請求項にも記載されておらず、本件補正前の「スラリーの加熱」の概念には、加熱に当たっての加熱速度、スラリーをそのまま他の工程を経ることなく焼成、焼付け、及び焼結することのいずれも含まれるとは認められず、また、他の請求項1の発明特定事項のいずれをも限定するものでもなく、スラリーの加熱に新たな概念を追加するものである。そして、上記の補正は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもないことも明らかである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、予備的に、前記補正事項が特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当するとしても、本件手続補正後の特許請求の範囲に記載された請求項1の発明(以下、「補正後発明1」という。)は、以下に記載の理由で、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなく、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

1.補正後発明1

補正後発明1は、平成24年3月15日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
a)コバルト含有酸化物または酸化物前駆体、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、ニッケル含有酸化物または酸化物前駆体、およびリチウム含有酸化物または酸化物前駆体を湿式粉砕して、0.3μm未満の平均粒子直径を有する粒子を含有し、かつ十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーを形成すること、および
b)前記工程で得られたスラリーを、少なくとも10℃/分の速度で少なくとも900℃の温度まで、焼成、焼付け、又は焼結により加熱して、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物を提供すること、
を含む、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相リチウム-遷移金属酸化物化合物の製造方法。」

2.判断

補正後発明1は、「b)前記工程で得られたスラリーを、少なくとも10℃/分の速度で少なくとも900℃の温度まで、焼成、焼付け、又は焼結により加熱して、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物を提供すること」を発明特定事項として有することから、該発明特定事項は「スラリーを900℃まで90分(=900/10)以下の時間で単調増加で昇温する」ものと解される。また、補正後発明1は前記b)の方法により単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物を得ることができるものと認められる(本願発明の詳細な説明の実施例2等参照)。
一方、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア) 「スラリーと媒体(使用される場合)とを分離し、所望の単相化合物を形成するために十分な時間および十分な温度でスラリーを焼成、焼付け、焼結、あるいは別の方法で加熱することによって、スラリーはリチウム-遷移金属酸化物化合物に変えられる。加熱サイクルは、好ましくは、速い加熱速度、例えば1時間あたり10℃以上を用いる。好ましい加熱サイクルは、少なくとも900℃の温度まで、少なくとも10℃/分である。・・・・約1050℃よりも高い温度が用いられると、セラミック炉およびより長い冷却時間が必要とされ得る。このようなより高い温度は、単相リチウム-遷移金属酸化物化合物を得るのに役立つことができるが、資本コストを増大させ、処理量を減少させ得る。1100℃もの高温が使用されると、リチウム-遷移金属酸化物化合物を用いて製造されるリチウムイオン電池は、不可逆的な最初のサイクルの容量損失のわずかな増大を示し得る。好ましくは、最高加熱温度は1050℃未満、より好ましくは1000℃未満、そして最も好ましくは900℃以下である。」(段落【0019】)
(イ) 「実施例1
・・・・得られた湿式粉砕スラリーをパイレックス(登録商標)(PYREX(登録商標))ケークパン(コーニング社(Corning,Inc.)から入手可能)内に注ぎ、70℃で一晩空気乾燥させた。乾燥したケークをパンから擦り取り、媒体から分離し、25メッシュ(707μm)スクリーンにより粒状にした。得られたスクリーニング粉体を清浄なポリエチレンボトル内に入れ、テープで蓋を密封した。
15部のスクリーニング粉体をアルミナるつぼ内に入れ、酸素中で1時間かけて室温から900℃まで加熱し、900℃で3時間保持して、冷却した。得られた焼成粉体に、リートベルト精密化を用いるXRD分析を受けさせた。観察されたXRDパターンは、焼成粉体が単相を有することを示した。」(段落【0027】?【0028】)
(ウ) 「実施例2
実施例1からの15部の湿式粉砕スラリーを、次のような「ランプ-ソーク」サイクルを用いて酸素中で加熱した。スラリーをアルミナるつぼ内に入れてオーブン内で加熱し、オーブンの温度は、室温から250℃まで20分かけて上昇させ、250℃で1時間保持し、750℃まで20分かけて上昇させ、750℃でもう1時間保持し、900℃まで20分かけて上昇させてから、900℃で3時間保持した。焼成サンプルを炉内で一晩冷却させてから、リートベルト精密化を用いるXRD分析を受けさせた。LiNi_(0.1)Mn_(0.1)Co_(0.8)O_(2)の観察されたXRDパターンは、サンプルが単相を有することを示した。」(段落【0030】)
上記(ア)?(ウ)の記載について検討すると、たしかに、記載事項(ア)には「スラリーと媒体(使用される場合)とを分離し、所望の単相化合物を形成するために十分な時間および十分な温度でスラリーを焼成、焼付け、焼結、あるいは別の方法で加熱することによって、スラリーはリチウム-遷移金属酸化物化合物に変えられ」、そのためには「加熱サイクルは、好ましくは、速い加熱速度、例えば1時間あたり10℃以上を用いる。好ましい加熱サイクルは、少なくとも900℃の温度まで、少なくとも10℃/分である。」との記載がある。
しかしながら、これを具体的に示した実施例には、記載事項(イ)の実施例1においては、「湿式粉砕スラリー」を「70℃で一晩空気乾燥させ」、「乾燥したケークをパンから擦り取り、媒体から分離し、25メッシュ(707μm)スクリーンにより粒状にし」、「得られたスクリーニング粉体を清浄なポリエチレンボトル内に入れ、テープで蓋を密封し」、その後、「スクリーニング粉体をアルミナるつぼ内に入れ、酸素中で1時間かけて室温から900℃まで加熱し、900℃で3時間保持」したものが記載され、これは、一旦乾燥させ、粒状化した後に、加熱焼成するものであって、スラリーを加熱するものではないから、本件補正の「b)前記工程で得られたスラリーを、少なくとも10℃/分の速度で少なくとも900℃の温度まで、焼成、焼付け、又は焼結により加熱」したものとは言えず、ましてや、「スラリーを900℃まで90分以下の時間で単調増加で昇温する」ものとも言えない。
また、もう一つの実施例である記載事項(ウ)の実施例2においては、「湿式粉砕スラリー」を「オーブン内で加熱し」、「オーブンの温度は、室温から250℃まで20分かけて上昇させ、250℃で1時間保持し、750℃まで20分かけて上昇させ、750℃でもう1時間保持し、900℃まで20分かけて上昇させてから、900℃で3時間保持した。」との記載がなされることから、「900℃まで、3時間かけて、すなわち5℃/分で昇温させ、900℃で3時間保持する」ものと言える。これは、本件補正による発明特定事項が含むと解される「スラリーを900℃まで90分以下の時間で単調増加で昇温する」ものとは言えない。
そして、リチウムマンガン含有複合酸化物の製造において、900℃までの昇温の途中の所定の温度に保持する工程を行わない場合、単一相のリチウムマンガン含有複合酸化物が得られにくいことが従来技術として知られていること(必要であれば、下記に示す特開2002-270174号公報【0023】参照。)を鑑みれば、出願時の従来技術を参酌しても本願発明の詳細な説明の記載を「900℃まで90分以下の時間で単調増加で昇温する」補正後発明1の範囲にまで拡張乃至一般化できるものとはいえない。
したがって、補正後発明1は、本願の発明の詳細な説明に発明として記載されていない範囲を特許請求の範囲とするものであるから特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

特開2002-270174号公報【0023】の記載
「上記焼成にあたっての加熱処理としては、一気に800?1050℃まで昇温するよりも、室温からリチウム化合物の融点(およそ250?500℃)まで加熱し、その温度で保持することにより予備加熱を行い、さらに800?1050℃に昇温して反応を進行させることが好ましい。これは、本発明で用いるリチウムマンガン含有複合酸化物の生成過程において、リチウム化合物と少なくともNiおよびMnを構成元素として含む複合化合物などとの反応が段階的に生じ、中間生成物を経由して最終的にリチウムマンガン含有複合酸化物が生成すると考えられることによるものである。すなわち、一気に800℃?1050℃まで昇温する場合は、リチウム化合物と前記複合化合物などとが部分的に最終手段まで反応してしまい、それによって生成したリチウムマンガン含有複合酸化物が未反応物の反応を妨害するおそれがあり、また、反応工程に要する時間を短縮し、均質なリチウムマンガン含有複合酸化物を得るためにも段階的に加熱を行うことが好ましいからである。この予備加熱の時間は、特に制限されるものではないが、通常、12?30時間程度である。」

第3.本願発明について

1.本願発明
平成24年3月15日付けの手続補正は前記第2.のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成23年2月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
a)コバルト含有酸化物または酸化物前駆体、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、ニッケル含有酸化物または酸化物前駆体、およびリチウム含有酸化物または酸化物前駆体を湿式粉砕して、十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーを形成すること、および
b)前記スラリーを加熱して、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物を提供すること、
を含み、かつ
前記スラリーは、0.3μm未満の平均粒子直径を有する粒子を含有するまで湿式粉砕される、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相リチウム-遷移金属酸化物化合物の製造方法。」

2.刊行物に記載された事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-34538号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 ニッケル源、マンガン源及びリチウム源を含む混合物を焼成してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法において、少なくともニッケル源及びマンガン源として、この両者を含有するスラリーであって固形物の平均粒子径が2μm以下のものを噴霧乾燥して得たものを用いることを特徴とする方法。
【請求項2】 スラリーがリチウム源も含有していることを特徴とする請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲 請求項1、請求項2)
(イ)「【請求項5】 スラリーが湿式粉砕処理を経ているものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。」(特許請求の範囲 請求項5)
(ウ)「【従来の技術】リチウム二次電池の正極活物質として、リチウム遷移金属複合酸化物が有望視されている。なかでも、遷移金属がコバルト、ニッケル又はマンガンである化合物、すなわちリチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、又はリチウムマンガン酸化物を正極活物質とすると、高性能の電池を得られることが知られている。さらに、リチウム遷移金属複合酸化物の安定化や電池の高容量化、安全性向上、高温での電池特性の改良のために、遷移金属の一部を他の金属元素(以下、このような遷移金属の置換のための金属元素を「置換金属元素」という場合がある)で置換したリチウム遷移金属複合酸化物を用いることも知られている。・・・・。
・・・・。
一方、第41回電池討論会・・・・では、・・・・層状構造をもつ結晶性の高い単一相を共沈法により合成したとの報告がある。・・・・。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、共沈法は原料が限定されるうえ、工業的規模で実施するには必ずしも適しているとは云い難い。・・・・。従って本発明は、共沈法によらずに、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】本発明によれば、ニッケル源、マンガン源及びリチウム源を含む混合物を焼成してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法において、少なくともニッケル源及びマンガン源として、この両者を含有するスラリーであって固形物の平均粒子径が2μm以下のものを噴霧乾燥して得たものを用いることにより、良好な単一相生成物を容易に製造することができる。」(段落【0002】?【0007】)
(エ)「リチウム源としては、各種のリチウム化合物、例えば、Li_(2) CO_(3) 、LiNO_(3) 、LiOH、LiOH・H_(2) O、アルキルリチウム、酢酸リチウムなどの有機リチウム化合物、LiCl、LiIなどのリチウムハロゲン化物等を用いることができる。・・・・」(段落【0009】)
(オ)「ニッケル源としても各種のニッケル化合物を用いることができる。そのいくつかを例示すると、Ni(OH)_(2) 、NiO、NiOOH、NiCO_(3) ・2Ni(OH)_(2) ・4H_(2) O、Ni(NO_(3) )_(2) ・6H_(2 )O、NiSO_(4 )、NiSO_(4) ・6H_(2) O、脂肪酸ニッケル、シュウ酸ニッケルなどの有機ニッケル化合物、及びニッケルハロゲン化物などを挙げることができる。・・・・」(段落【0010】)
(カ)「マンガン源としては、Mn_(3) O_(4) 、Mn_(2) O_(3) 、MnO_(2) 、MnOOH、MnCO_(3) 、Mn(NO_(3) )_(2) 、MnSO_(4) 、有機マンガン化合物、マンガン水酸化物、及びマンガンハロゲン化物などを用いることができる。・・・・」(段落【0011】)
(キ)「本発明では、スラリー中に更に他の金属源を含有させることができ、これにより最終的に得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物中にこれらの金属を含有させることができる。このような金属元素としては、アルミニウム、コバルト、鉄、マグネシウム、カルシウム等を挙げることができる。この中でも、アルミニウム、コバルト、マグネシウムが好ましく、アルミニウム、コバルトが更に好ましい。アルミニウム、コバルト及びマグネシウムは、リチウムニッケルマンガン複合酸化物に容易に固溶して単一相を得ることができるという利点があり、更にアルミニウム及びコバルトは、これを含む複合酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、高性能な電池特性、特に繰り返し充放電を行った際の放電容量維持率について良好な性能を示すという利点がある。複合酸化物中には、これらの金属元素を複数種含有させても良い。」(段落【0012】)
(ク)「コバルト源としては、Co(OH)_(2) 、CoO、Co_(2) O_(3) 、Co_(3) O_(4) 、酢酸コバルト等の有機コバルト化合物、CoCl_(2) 、Co(NO_(3) )_(2) ・6H_(2) O、及びCo(SO_(4) ) ・7H_(2) O等の各種のコバルト化合物を挙げることができる。・・・・」(段落【0014】)
(ケ)「スラリー調製に際してのリチウム、ニッケル、マンガン、及び必要に応じて用いられるアルミニウムやコバルト等の置換金属元素の原子比は、目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物の組成に応じて適宜調節する。・・・・」(段落【0018】)
(コ)「スラリー中の固形物の平均粒子径は2μm以下でなければならない。平均粒子径は1μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であればさらに好ましい。・・・・」(段落【0020】)
(サ)「本発明においては、リチウム源、ニッケル源、及びマンガン源等を分散媒中で混合してスラリーを調製するに際し、媒体攪拌型粉砕機等を使用して強く攪拌して湿式粉砕を行うのが好ましい。これによりスラリー中での金属元素の均一性を向上させ、かつ焼成工程での反応性を向上させることができる。湿式粉砕に用いる湿式粉砕機としては、ホモジナイザー、ホモミキサー等の主に分散解砕を目的とするものや、ビーズミル、ボールミル、振動ミル等の主に粉砕を目的とするもの等が挙げられるが、後者の粉砕機はスラリー固形分の粉砕効率が非常に高いことから、これを用いてスラリー中の固形分を所望の小粒径にまで粉砕するのが好ましい。特に好ましいのは、ビーズミルによる湿式粉砕である。」(段落【0021】)
(シ)「なお、本発明においては、スラリー中の固形分の平均粒子径、噴霧乾燥により得られた造粒物の・・・・
造粒物はそのまま、・・・・焼成して、目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物とする。リチウム源との混合は常用の混合装置を用いて行えばよい。・・・・焼成温度は、原料として使用されるリチウム源、ニッケル源、及びマンガン源等の種類や、原子比によって異なるが、通常700℃以上、好ましくは750℃以上、更に好ましくは800℃以上であり、また通常1050℃以下、好ましくは950℃以下である。温度が低すぎると、結晶性の良いリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得るために長時間の焼成時間を要する。また、温度が高すぎると目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物以外の結晶相が生成したり、欠陥が多いリチウムニッケルマンガン複合酸化物を生成したりする。このようなリチウムニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質として使用したリチウム二次電池は、電池容量が低下したり、充放電による結晶構造の崩壊による劣化を招くことがある。」(段落【0022】?【0027】)
(ス)「【実施例】・・・・
実施例1
LiOH・H_(2 )O、Ni(OH)_(2 )及びMn_(2) O_(3) をLi:Ni:Mn=1.05:0.50:0.50(原子比)となるように混合し、これに純水を加えて固形分濃度12.5重量%のスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機(シンマルエンタープライゼス社製:ダイノーミルKDL-A型)を用いて、スラリー中の固形分の平均粒子径が0.30μmになるまで粉砕した。300mlポットを用い、粉砕時間は6時間であった。このスラリーの粘度をBM型粘度計(トキメック社製)により測定したところ、初期粘度は1510mPa・sであった。
このスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤー(大川原化工機社製:L-8型スプレードライヤー)を用いて噴霧乾燥を行った。乾燥ガスとしては空気を用い、乾燥ガス導入量は45m^(3) /min、乾燥ガス入り口温度は90℃とした。そして、噴霧乾燥により得られた造粒物を900℃で10時間空気中で焼成することにより、ほぼ仕込みの原子比組成のリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得た。
得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、平均二次粒子径4.9μm、最大粒子径15μmのほぼ球状の形状を有する粒子であった。なお、スラリー中の固形分の平均粒子径、及び得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物の平均粒子径・最大粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製:LA-920型粒度分布測定装置)を用いて求めた。具体的には、室温大気中で、スラリー又は焼成物粉末を0.1%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に超音波分散及び攪拌により分散させ、透過率を70%?95%の間に調節し、測定される粒度分布より平均粒径及び最大粒径を求めた。
また、得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粉末X線回折を測定したところ、菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物の構造を有していることが確認された。・・・・」(段落【0043】?【0046】)
(セ)「実施例2
LiOH・H_(2) O、NiO、Mn_(2) O_(3) 、Co(OH)_(2) をLi:Ni:Mn:Co=1.05:0.65:0.15:0.20(原子比)となるように混合してスラリーを調製し、かつ焼成を850℃で10時間空気中で行った以外は、実施例1と同様にしてリチウムマンガンニッケル複合酸化物を得た。
スラリーの初期粘度は220mPa・sであった。スラリー中に含まれる固形分の平均粒径は0.3μmであった。得られた複合酸化物は、平均粒子径9.8μm、最大粒径34μmであり、ほぼ球状の形状を有する粒子であった。また、得られた複合酸化物の粉末X線回折を測定したところ、菱面体晶の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物の構造を有していることが確認された。・・・・」(段落【0048】?【0049】)

3.対比、判断
(1)刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1の記載事項(ア)には、「ニッケル源、マンガン源及びリチウム源を含む混合物を焼成してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法」において、「少なくともニッケル源及びマンガン源」として、「この両者を含有するスラリー」を用いた方法が記載されており、「スラリーがリチウム源も含有していること」も記載されている。
イ そして、同記載事項(イ)には、「スラリーが湿式粉砕処理を経ているものであること」が記載されており、同記載事項(ウ)には、「ニッケル源、マンガン源及びリチウム源を含む混合物を焼成してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法」において、「少なくともニッケル源及びマンガン源として、この両者を含有するスラリーであって固形物の平均粒子径が2μm以下のものを噴霧乾燥して得たもの」を用いることにより、「良好な単一相生成物を容易に製造することができる」ことも記載されている。
ウ さらに、同記載事項(キ)には、「本発明では、スラリー中に更に他の金属源を含有させることができ、これにより最終的に得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物中にこれらの金属を含有させることができる。」と記載されており、このような金属元素として「コバルト」が好ましいことも記載されている。その理由として、「アルミニウム、コバルト及びマグネシウムは、リチウムニッケルマンガン複合酸化物に容易に固溶して単一相を得ることができるという利点があり、更にアルミニウム及びコバルトは、これを含む複合酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、高性能な電池特性、特に繰り返し充放電を行った際の放電容量維持率について良好な性能を示すという利点がある。」ことも記載されている。
エ また、同記載事項(ク)には、上記コバルトとして、所定のコバルト源を用いることが記載されている。
オ そして、同記載事項(コ)には、「スラリー中の固形物の平均粒子径は2μm以下でなければならない。平均粒子径は1μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であればさらに好ましい。」と記載されており、同記載事項(シ)には、スラリーを噴霧乾燥して得られた造粒物を「焼成して、目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物」を得ることが記載されている。
カ 以上を踏まえると、刊行物1には、
「ニッケル源、マンガン源、リチウム源及びコバルト源を含む混合物を湿式粉砕してスラリーを得、これを噴霧乾燥した後に焼成して、単一相を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造し、上記スラリーの固形物の平均粒子径が0.5μm以下である、単一相のリチウムニッケルマンガン複合酸化物の製造方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

(2)一致点と相違点
本願発明1と刊行物1発明とを対比する。
ア 刊行物1発明の「リチウム源」、「ニッケル源」、「マンガン源」、「コバルト源」は、それぞれ、刊行物1の記載事項(エ)、(オ)、(カ)、(ク)のそれぞれにおいて、「リチウム源としては、各種のリチウム化合物、例えば、Li_(2) CO_(3) 、LiNO_(3) 、LiOH、LiOH・H_(2) O、アルキルリチウム、酢酸リチウムなどの有機リチウム化合物、LiCl、LiIなどのリチウムハロゲン化物等を用いることができる。」、「ニッケル源としても各種のニッケル化合物を用いることができる。そのいくつかを例示すると、Ni(OH)_(2) 、NiO、NiOOH、NiCO_(3) ・2Ni(OH)_(2) ・4H_(2) O、Ni(NO_(3) )_(2) ・6H_(2 )O、NiSO_(4 )、NiSO_(4) ・6H_(2) O、脂肪酸ニッケル、シュウ酸ニッケルなどの有機ニッケル化合物、及びニッケルハロゲン化物などを挙げることができる。」、「マンガン源としては、Mn_(3) O_(4) 、Mn_(2) O_(3) 、MnO_(2) 、MnOOH、MnCO_(3) 、Mn(NO_(3) )_(2) 、MnSO_(4) 、有機マンガン化合物、マンガン水酸化物、及びマンガンハロゲン化物などを用いることができる。」、「コバルト源としては、Co(OH)_(2) 、CoO、Co_(2) O_(3) 、Co_(3) O_(4) 、酢酸コバルト等の有機コバルト化合物、CoCl_(2) 、Co(NO_(3) )_(2) ・6H_(2) O、及びCo(SO_(4) ) ・7H_(2) O等の各種のコバルト化合物を挙げることができる。」と記載されている。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】?【0015】には、「適切なコバルト含有酸化物または酸化物前駆体、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、およびニッケル含有酸化物または酸化物前駆体としては、水酸化コバルト(Co(OH)_(2))、酸化コバルト(例えば、Co_(3)O_(4)およびCoO)、炭酸マンガン(Mn_(2)CO_(3))、酸化マンガン(MnO)、四酸化マンガン(Mn_(3)O_(4))、水酸化マンガン(Mn(OH)_(2))、塩基性炭酸マンガン(Mn_(2)CO_(3)*xMn(OH)_(2))、炭酸ニッケル(Ni_(2)CO_(3))、水酸化ニッケル(Ni(OH)_(2))、および塩基性炭酸ニッケル(Ni_(2)CO_(3)*xNi(OH)_(2))があげられる。・・・・
適切なリチウム含有酸化物および酸化物前駆体としては、炭酸リチウム(Li_(2)CO_(3))および水酸化リチウム(LiOH)がある。所望されるなら、前駆体の水和物を使用することができる。」と記載されているから、刊行物1発明の「リチウム源」は、本願発明1の「リチウム含有酸化物および酸化物前駆体」と「炭酸リチウム(Li_(2)CO_(3))、水酸化リチウム(LiOH)」で共通し、刊行物1発明の「ニッケル源」は、本願発明1の「ニッケル含有酸化物または酸化物前駆体」と「水酸化ニッケル(Ni(OH)_(2))、塩基性炭酸ニッケル(Ni_(2)CO_(3)・2Ni(OH)_(2))」で共通し、刊行物1発明の「マンガン源」は、本願発明1の「マンガン含有酸化物または酸化物前駆体」と「四酸化マンガン(Mn_(3)O_(4))」で共通し、刊行物1発明の「コバルト源」は、本願発明1の「コバルト含有酸化物または酸化物前駆体」と「水酸化コバルト(Co(OH)_(2))、酸化コバルト(例えば、Co_(3)O_(4)およびCoO)」で共通する。
イ 刊行物1発明の「湿式粉砕」は、その記載事項(サ)において、「本発明においては、リチウム源、ニッケル源、及びマンガン源等を分散媒中で混合してスラリーを調製するに際し、媒体攪拌型粉砕機等を使用して強く攪拌して湿式粉砕を行うのが好ましい。これによりスラリー中での金属元素の均一性を向上させ、かつ焼成工程での反応性を向上させることができる。湿式粉砕に用いる湿式粉砕機としては、ホモジナイザー、ホモミキサー等の主に分散解砕を目的とするものや、ビーズミル、ボールミル、振動ミル等の主に粉砕を目的とするもの等が挙げられる・・・・」と記載されている。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】には、「媒体粉砕(例えば、ボール粉砕、磨砕機粉砕、水平粉砕または鉛直粉砕)、媒体レス粉砕(例えば、ハンマー粉砕、ジェット粉砕または高圧分散粉砕)、ならびにコバルト-、マンガン-およびニッケル-含有酸化物または酸化物前駆体を適切に微粉状にして一緒に混合するその他の技法を含む様々な湿式粉砕技法を用いることができる。」との記載があるから、両者は、「ボールミル(ボール粉砕)」等を含む、一般的な湿式粉砕法として共通するものといえる。そして、単相の生成物を得るためには、湿式粉砕により原料を微細化し、十分に配合することが必要なことは自明な事項であるので、上記湿式粉砕により、原料は十分に分配され、微細化されているものと認められる。
ウ また、刊行物1発明の「リチウムニッケルマンガン複合酸化物」は、「ニッケル」及び「マンガン」が遷移金属であることは明らかであるので、本願発明1の「リチウム-遷移金属酸化物化合物」に対応することは明らかである。
エ そうすると、補正後発明1と刊行物1発明は、
「a)水酸化コバルト(Co(OH)_(2))や酸化コバルト(例えば、Co_(3)O_(4)およびCoO)のコバルト含有酸化物または酸化物前駆体、四酸化マンガン(Mn_(3)O_(4))のマンガン含有酸化物または酸化物前駆体、炭酸ニッケル(Ni_(2)CO_(3))や水酸化ニッケル(Ni(OH)_(2))のニッケル含有酸化物または酸化物前駆体、及び炭酸リチウム(Li_(2)CO_(3))や水酸化リチウム(LiOH)のリチウム含有酸化物または酸化物前駆体を湿式粉砕して、十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーを形成すること、および
b)前記スラリーから、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相の結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物を提供する、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相リチウム-遷移金属酸化物化合物の製造方法。」の点で一致し、下記(A)?(C)の点で相違する。
相違点(A);本願発明1が「スラリーを加熱」するものであるのに対して、刊行物1発明は「スラリーを噴霧乾燥した後に焼成」するものである点。
相違点(B);本願発明1が「単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物」であるのに対して、刊行物1発明は「単一相を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物」であるが「単相O3結晶構造」であるか不明である点。
相違点(C);本願発明1のスラリーが「0.3μm未満の平均粒子直径を有する粒子を含有するまで湿式粉砕される」ものであるのに対して、刊行物1発明のスラリーは「固形物の平均粒子径が0.5μm以下」である点。

(3)相違点についての検討
ア 相違点(A)について
ア-1 本願の実施例として記載されている実施例1は、本願明細書の発明の詳細な説明段落【0027】?【0028】によると、「実施例1・・・・ 金属含有前駆体を、最終の酸化物組成物・・・・を生成するような割合で合わせた。・・・・粉砕機・・・・内で24時間湿式粉砕した。・・・・更に4時間粉砕した。得られた湿式粉砕スラリーを・・・・70℃で一晩空気乾燥させた。乾燥したケークをパンから擦り取り、媒体から分離し、・・・・スクリーンにより粒状にした。得られたスクリーニング粉体を清浄なポリエチレンボトル内に入れ、テープで蓋を密封した。
15部のスクリーニング粉体をアルミナるつぼ内に入れ、酸素中で1時間かけて室温から900℃まで加熱し、900℃で3時間保持して・・・・」と記載されていることから、スラリーを乾燥させて、粒状にした粉体を焼成しているものである。
ア-2 また、刊行物1発明の「スラリーを噴霧乾燥」することは、スラリーを噴霧乾燥することにより粒状にすることであることは自明であり、噴霧乾燥が乾燥の一例であることも明らかである。よって、刊行物1発明は、「スラリーを噴霧乾燥」することにより粒状化した後に、「焼成」しているものと認められる。
ア-2 してみると、本願発明1「スラリーを加熱」する工程及び、刊行物1発明の「スラリーを噴霧乾燥した後に焼成」する工程は、いずれも「スラリーを乾燥して粒状化した後に焼成する」ことも含む事項であると認められるから、上記相違点(A)は実質的な相違点ではない。

イ 相違点(B)について
イ-1 本願発明1の「単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物」については、本願明細書の発明の詳細な説明段落【0001】によると、「本発明は、リチウムイオン電池のカソードとして有用な化合物の調製に関する」ものであり、同段落【0003】?【0006】によると、「コバルト、マンガンおよびニッケルが結晶格子内にそれぞれ存在するリチウム-遷移金属酸化物化合物は、4金属または4元カソード化合物と呼ぶことができる。適切な量のこれらの金属を含有する単相格子は、特に望ましいリチウムイオン電池用カソードを提供することができる。例えば、4元化合物・・・・は、単相としてうまく形成されれば重要である(多相が存在すれば、電池性能が悪くなる)。・・・・。
残念なことに、リチウム-含有結晶格子中に遷移金属のコバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相4元化合物を形成するのは困難であり得る。・・・・。単相4元化合物の達成は、・・・・混合水酸化物の共沈によって行うこともできる。しかしながら、共沈は、ろ過、繰り返される洗浄および乾燥を必要とし、従って比較的限られた処理量および高い製造コストを示す。
・・・・。
本発明者らは今、
a)コバルト含有酸化物または酸化物前駆体、マンガン含有酸化物または酸化物前駆体、ニッケル含有酸化物または酸化物前駆体、およびリチウム含有酸化物または酸化物前駆体を湿式粉砕して、十分に分配されたコバルト、マンガン、ニッケルおよびリチウムを含有する微粉化されたスラリーを形成し、
b)該スラリーを加熱して、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有すると共に実質的に単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物を提供することによって、コバルト、マンガンおよびニッケルを含有する単相リチウム-遷移金属酸化物化合物を調製可能であることを発見した。・・・・。」との記載がある。
上記記載からみて、本願発明1は、「リチウムイオン電池のカソード」として有用な化合物を調整するにあたり、「共沈」法ではなく、「スラリー」を用いることにより、電池性能の良好な「単相O3結晶構造を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物」を得るものといえる。
イ-2 これに対して、刊行物1発明は、その記載事項(ウ)によると、「リチウム遷移金属複合酸化物」は、「リチウム二次電池の正極活物質」として用いられるものであり、「リチウム遷移金属複合酸化物の安定化や電池の高容量化、安全性向上、高温での電池特性の改良のために、遷移金属の一部を他の金属元素(以下、このような遷移金属の置換のための金属元素を「置換金属元素」という場合がある)で置換したリチウム遷移金属複合酸化物を用いる」ものである。そして、「層状構造をもつ結晶性の高い単一相」を「共沈法」で合成したものの、「共沈法は原料が限定されるうえ、工業的規模で実施するには必ずしも適しているとは云い難い」ことから、「共沈法によらずに、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法を提供しよう」としたものであり、「本発明によれば、ニッケル源、マンガン源及びリチウム源を含む混合物を焼成してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する方法において、少なくともニッケル源及びマンガン源として、この両者を含有するスラリーであって固形物の平均粒子径が2μm以下のものを噴霧乾燥して得たものを用いることにより、良好な単一相生成物を容易に製造」したものである。
さらに、刊行物1の記載事項(キ)には、「アルミニウム、コバルト及びマグネシウムは、リチウムニッケルマンガン複合酸化物に容易に固溶して単一相を得ることができるという利点があり、更にアルミニウム及びコバルトは、これを含む複合酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、高性能な電池特性、特に繰り返し充放電を行った際の放電容量維持率について良好な性能を示すという利点がある。」と記載されるように、刊行物1発明においても、単一相を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得て、これを含む複合酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として用いたときに、高性能な電池特性を有することが記載されているといえる。
イ-3 してみると、刊行物1発明の用途である「リチウム二次電池の正極活物質」は、本願発明1の用途である「リチウムイオン電池のカソード」であることは明らかであるから、刊行物1発明と本願発明1のいずれも、「共沈」ではなく「スラリー」を用いて、「電池性能が良好」となるように「単一相のリチウム-遷移金属酸化物化合物を得る」ものといえる。よって、刊行物1発明の「単一相を有するリチウム-遷移金属酸化物化合物」として、スラリーを用いることにより所望の単一相のリチウム-遷移金属酸化物化合物を選択することは、当業者が容易に想到し得ることであり、その際に、熱力学的に安定な「単相O3結晶構造」を選択することも、当業者であれば適宜なし得るものである。

ウ 相違点(C)について
ウ-1 刊行物1の実施例1である記載事項(ス)には「スラリー中の固形分の平均粒子径が0.30μmになるまで粉砕した」との記載があり、同記載事項(セ)には「スラリー中に含まれる固形分の平均粒径は0.3μmであった」と記載されていることから、刊行物1発明の「固形物の平均粒子径が0.5μm以下」は、「固形分の平均粒子径が0.30μm」であることを含み、その文言どおり、0.5μm以下の任意の平均粒径を許容するものである。
ウ-2 また、スラリー中の固形分の平均粒子径を微細にすることにより、より混合状態が均一になり、単一相を形成することが容易になることは、当該技術分野において自明のことである。
ウ-3 してみると、「固形分の平均粒子径が0.30μm」のスラリーを得るために、「0.3μm未満の平均粒子直径を有する粒子を含有するまで湿式粉砕」することは、当業者であれば適宜なし得ることである。
そして、本願の明細書及び図面の記載を検討しても、上記各相違点を本願発明1のものとしたことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。


第4.むすび

以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-28 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-15 
出願番号 特願2006-541171(P2006-541171)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大工原 大二  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 國方 恭子
中澤 登
発明の名称 リチウムイオン電池のカソード材料で使用するためのリチウム-ニッケル-コバルト-マンガン混合金属酸化物の固相合成  
代理人 永坂 友康  
代理人 青木 篤  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 出野 知  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  

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