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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1278854
審判番号 不服2012-15664  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-10 
確定日 2013-09-04 
事件の表示 特願2004-320243「ポリシリコン膜の形成方法、その方法で形成されたポリシリコン膜を備える薄膜トランジスタおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 2日出願公開、特開2005-142567〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年11月4日(パリ条約による優先権主張2003年11月4日、大韓民国)の出願であって、平成23年6月22日付けの拒絶理由通知に対して、同年9月27日に手続補正書及び意見書が提出されたが、平成24年4月5日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年8月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日に手続補正がなされ、その後、同年11月19日付けで審尋がなされ、平成25年2月18日に回答書が提出されたものである。

2.補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成24年8月10日になされた手続補正を却下する。

【理由】
(1)補正の内容
平成24年8月10日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし46を、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし46に補正するものであって、補正前後の請求項1、11、21、30及び40は、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
基板と、
前記基板上に積層された第1熱伝導膜と、
前記第1熱伝導膜上の一部に積層された、前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜と、
前記第2熱伝導膜と前記第2熱伝導膜の両側の前記第1熱伝導膜上に積層されたポリシリコン膜と、
前記第2熱伝導膜を覆う前記ポリシリコン膜上に積層されたゲート積層物と、を備え、
前記ポリシリコン膜は、
第1熱伝導膜とこの膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜とを含む下部膜を形成する第1段階と、
前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する第2段階と、
前記非晶質シリコン膜を結晶化する第3段階と、を含む工程により形成される
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。」
「【請求項11】
基板と、
前記基板上に互いに離隔して形成された複数の第1熱伝導膜と、
前記複数の第1熱伝導膜相互の間の前記基板上に形成された前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜と、
前記第2熱伝導膜および前記第2熱伝導膜に隣接した前記第1熱伝導膜上に積層されたポリシリコン膜と、
前記第2熱伝導膜上に形成された前記ポリシリコン膜上に積層されたゲート積層物と、を備える
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。」
「【請求項21】
基板上に第1熱伝導膜を形成する第1段階と、
前記第1熱伝導膜の所定領域上に前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜を形成する第2段階と、
前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する第3段階と、
前記非晶質シリコン膜をポリシリコン膜に変化させる第4段階と、
前記第2熱伝導膜上に形成された前記ポリシリコン膜上にゲート積層物を形成する第5段階と、を含む
ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」
「【請求項30】
基板上に第1熱伝導膜を形成する第1段階と、
前記第1熱伝導膜の一部を前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜に代替する第2段階と、
前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する第3段階と、
前記非晶質シリコン膜をポリシリコン膜に変化させる第4段階と、
前記第2熱伝導膜を覆う前記ポリシリコン膜上にゲート積層物を形成する第5段階と、を含む
ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」
「【請求項40】
第1熱伝導膜とこの膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜とを含む下部膜を形成する第1段階と、
前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する第2段階と、
前記非晶質シリコン膜を結晶化する第3段階と、を含む
ことを特徴とするポリシリコン膜の形成方法。」

(補正後)
「【請求項1】
基板と、
前記基板上に積層された第1熱伝導膜と、
前記第1熱伝導膜上の一部に積層された、前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜と、
前記第2熱伝導膜と前記第2熱伝導膜の両側の前記第1熱伝導膜上に積層されたポリシリコン膜と、
前記第2熱伝導膜を覆う前記ポリシリコン膜上に積層されたゲート積層物と、を備え、
前記ポリシリコン膜は、
第1熱伝導膜とこの膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜とを含む下部膜を形成する第1段階と、
前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する第2段階と、
前記非晶質シリコン膜を結晶化する第3段階と、を含む工程により形成され、
前記ポリシリコン膜は、前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され、ソース領域とドレイン領域とを含む
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。」
「【請求項11】
基板と、
前記基板上に互いに離隔して形成された複数の第1熱伝導膜と、
前記複数の第1熱伝導膜相互の間の前記基板上に形成された前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜と、
前記第2熱伝導膜および前記第2熱伝導膜に隣接した前記第1熱伝導膜上に積層されたポリシリコン膜と、
前記第2熱伝導膜上に形成された前記ポリシリコン膜上に積層されたゲート積層物と、を備え、
前記ポリシリコン膜は、前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され、ソース領域とドレイン領域とを含む
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。」
「【請求項21】
基板上に第1熱伝導膜を形成する第1段階と、
前記第1熱伝導膜の所定領域上に前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜を形成する第2段階と、
前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する第3段階と、
前記非晶質シリコン膜をポリシリコン膜に変化させる第4段階と、
前記第2熱伝導膜上に形成された前記ポリシリコン膜上にゲート積層物を形成する第5段階と、を含み、
前記ポリシリコン膜は、前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され、ソース領域とドレイン領域とを含む
ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」
「【請求項30】
基板上に第1熱伝導膜を形成する第1段階と、
前記第1熱伝導膜の一部を前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低く第2熱伝導膜に代替する第2段階と、
前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する第3段階と、
前記非晶質シリコン膜をポリシリコン膜に変化させる第4段階と、
前記第2熱伝導膜を覆う前記ポリシリコン膜上にゲート積層物を形成する第5段階と、を含み、
前記ポリシリコン膜は、前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され、ソース領域とドレイン領域とを含む
ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」
「【請求項40】
第1熱伝導膜とこの膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜とを含む下部膜を形成する第1段階と、
前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する第2段階と、
前記非晶質シリコン膜を結晶化する第3段階と、を含み、
前記ポリシリコン膜は、前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され、ソース領域とドレイン領域とを含む
ことを特徴とするポリシリコン膜の形成方法。」

(2)新規事項追加の有無及び補正の目的の適否についての検討
本件補正は、補正前の請求項1、11、21、30及び40に係る発明の発明特定事項である「ポリシリコン膜」について、「前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され、ソース領域とドレイン領域とを含む」と限定的に減縮する事項を付加する補正であり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、「前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され、ソース領域とドレイン領域とを含む」という事項は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の【0033】段落及び図1等の記載に基づくものであって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下「特許法第17条の2第3項」という。)に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3)独立特許要件について
(3-1)はじめに
上記(2)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項(以下「特許法第17条の2第5項」という。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、検討する。

(3-2)補正後の請求項1に係る発明
本件補正による補正後の請求項1ないし46に係る発明は、平成24年8月10日になされた手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし46に記載されている事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後の発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(3-3)引用刊行物に記載された発明
(3-3-1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前である平成13年2月23日に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-53285号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図2、3、5、6及び8とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体において付加したものである(以下同様。)。

「【0021】
【発明の実施の形態】[実施形態1]本発明の実施形態を図2を用いて説明する。図2(A)において、基板501にはバリウムホウケイ酸ガラスやアルミノホウケイ酸ガラスなどの無アルカリガラス基板を用いる。例えば、コーニング社の#7059ガラスや#1737ガラス基などを好適に用いることができる。このようなガラス基板は、ガラス歪み点よりも10?20℃程度低い温度であらかじめ熱処理しておくと後の工程において基板の収縮による変形を低減できる。
【0022】この基板501のTFTを形成する表面に、透光性でかつ絶縁性を有し、熱伝導性の優れる熱伝導層502を形成する。熱伝導層502の厚さは50?500nmとし、熱伝導率は10Wm^(-1)K^(-1)以上であることが必要である。このような材料として、アルミニウムの酸化物(酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))は可視光において透光性を有し、熱伝導率が20Wm^(-1)K^(-1)であり適している。また、酸化アルミニウムは化学量論比に限定されるものでなく、熱伝導率特性と内部応力などの特性を制御するために、他の元素を添加しても良い。例えば、酸化アルミニウムに窒素を含ませて、酸化窒化アルミニウム(AlN_(x)O_(1-x):0.02≦x≦0.5)を用いても良いし、アルミニウムの窒化物(AlN_(x))を用いることも可能である。また、シリコン(Si)、酸素(O)、窒素(N)とM(Mはアルミニウム(Al)または希土類元素から選ばれた少なくとも一種)を含む化合物を用いることができる。例えば、AlSiONやLaSiONなどを好適に用いることができる。その他に、窒化ホウ素なども適用することができる。」
「【0024】この上に第1の絶縁層503を形成する。第1の絶縁層の熱伝導率は10Wm^(-1)K^(-1)未満である材料を用いる。このような材料として、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜などを選択することができるが、好ましくは酸化窒化シリコン膜で形成すると良い。酸化窒化シリコン膜は、プラズマCVD法でSiH_(4)、N_(2)Oを原料ガスとして作製する。この原料ガスにO_(2)を添加しても良い。作製条件は限定されないが、この第1の絶縁膜としての酸化窒化シリコン膜は膜厚を50?500nmとし、含有酸素濃度を55atomic%以上70atomic%以下とし、かつ、含有窒素濃度を1atomic%以上20atomic%以下となるようにする。このような組成として酸化窒化シリコン膜の内部応力が低減すると共に固定電荷密度が減少する。
【0025】第1の絶縁膜503は、図2(B)に示すようにエッチングして島状またはストライプ状に形成する。エッチングはフッ化水素(HF)やフッ化水素アンモニウム(NH_(4)HF_(2))を含む溶液で行う。島状に形成した第1の絶縁膜504、505の大きさは適宣決定されるものである。その大きさは用途によるものであるが、例えばTFTの大きさに合わせて0.35×0.35μm^(2)(チャネル長×チャネル幅)としたサブミクロンサイズとしても良いし、8×8μm^(2)、8×200μm^(2)または12×400μm^(2)などとすることができる。少なくともTFTのチャネル形成領域の位置と大きさに合わせて第1の絶縁層504、505を形成することにより、この上に形成される結晶質半導体膜の一つの結晶粒でチャネル形成領域を形成することが可能となる。また、第1の絶縁層504、505の端面における側壁の角度は、ガラス基板501の主表面に対して、10°以上40°未満となるようにテーパー状にエッチングしてこの上に積層させる膜のステップカバレージを確保する。このように作製した熱伝導層502と第1の絶縁膜503、504を、本明細書では下地層と呼ぶ。
【0026】次に、25?80nm(好ましくは30?60nm)の厚さで非晶質構造を有する半導体膜506を、プラズマCVD法やスパッタ法などの公知の方法で形成する。本実施形態では、プラズマCVD法で非晶質シリコン膜を55nmの厚さに形成した。非晶質構造を有する半導体膜としては、非晶質半導体膜や微結晶半導体膜があり、非晶質シリコンゲルマニウム膜などの非晶質構造を有する化合物半導体膜を適用しても良い。
【0027】そして、レーザーアニール法を使用して非晶質半導体膜506を結晶化させる。結晶化の方法は、その他にラピットサーマルアニール法(RTA法)を適用することもできる。RTA法では、赤外線ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプなどを光源に用いる。結晶化の工程ではまず、非晶質半導体膜が含有する水素を放出させておくことが望ましく、400?500℃で1時間程度の熱処理を行い含有する水素量を5atomic%以下にしておく。」
「【0033】レーザーアニール法では、照射するレーザービームの条件を最適なものとすることにより、結晶核の発生密度と、その結晶核からの結晶成長を制御している。領域Aは加熱と冷却の温度変化が比較的おだやかなものとなるため、領域Aにある半導体膜508はその中心から結晶粒が成長し、第1の絶縁層504、505上のほぼ全面に渡って単一の結晶粒を成長させることができる。一方、領域Bは急激に冷却されることにより、領域Bにある半導体膜507は小さな結晶粒しか成長しないので、複数の結晶粒が集合した構造となる。このようにして、結晶粒の位置を制御した結晶質半導体膜を形成することができる。」
「【0035】[実施形態2]図3に示す実施形態は、実施形態1と同様に基板501上に熱伝導層502を形成し、第1の絶縁層504、505を形成する。その後、熱伝導層および第1の絶縁層上に第2の絶縁層511を形成する。第2の絶縁層は第1の絶縁層と同様に酸化窒化シリコン膜で形成すると良い。第2の絶縁層511上には実施形態1と同様な手順により、島状半導体層509、510を形成する。
【0036】第2の絶縁層511はその膜厚を変化させることで、半導体膜から基板への熱が拡散する速度を制御することができる。また、熱伝導層として用いる材料の種類やその作製条件にもよるが、窒化アルミニウムなどは内部応力が比較的大きいので、その影響で半導体膜との界面で歪みが発生し、これが結晶化に悪影響を及ぼす場合もあるが、図3に示すように内部応力が小さい酸化窒化シリコン膜を形成しておくと、そのような悪影響を緩和させることができる。この場合、第2の絶縁層の厚さは5?100nmとすれば良い。」
「【0045】
【実施例】[実施例1]本実施例では、nチャネル型TFTとpチャネル型TFTでなるCMOS回路の作製工程を図5と図6を用いて説明する。
【0046】図5(A)において、基板101にはコーニング社の#7059ガラスや#1737ガラス基板などに代表されるバリウムホウケイ酸ガラスやアルミノホウケイ酸ガラスなどを用いる。そして、ガラス歪み点よりも10?20℃程度低い温度であらかじめ熱処理しておくと後の工程において基板の収縮による変形を低減できる。この基板101のTFTを形成する表面に、透光性と絶縁性を有する熱伝導層102を少なくとも1層形成する。ここでは、酸化窒化アルミニウム(AlN_(x)O_(1-x):0.02≦x≦0.5)を50?500nmの厚さで形成する。その他にSi、N、O、M(MはAl、Y、La、Gd、Dy、Nd、Sm、Erから選ばれた少なくとも1つの元素)、例えばAlSiON、LaSiONなどで形成しても良い。このような熱伝導層はスパッタ法で形成することができる。所望の組成のターゲットを用い、アルゴン(Ar)や窒素などの不活性ガスを用いてスパッタすることにより形成できる。また、熱伝導度が1000Wm^(-1)K^(-1)に達する薄膜ダイアモンド層やDLC(Diamond Like Carbon)層を設けても良い。
【0047】そして、この上にプラズマCVD法でSiH_(4)、N_(2)Oから作製する酸化窒化シリコン膜を50?500nmの厚さで形成し、フッ化水素(HF)やフッ化水素アンモニウム(NH_(4)HF_(2))を含む溶液で部分的にエッチングして、島状に第1の絶縁膜103、104を形成する。この第1の絶縁膜の含有酸素濃度は55atomic%以上70atomic%以下とし、かつ、含有窒素濃度1atomic%以上20atomic%以下となるようにする。このような組成とすることにより、膜中の固定電荷密度を低減させ、さらに膜を緻密化できる。
【0048】島状に形成した第1の絶縁膜103、104の大きさは、後の工程で活性層とすべく形成する島状半導体層の大きさと同じかそれよりも若干大きく形成する。もしくは、TFTのチャネル形成領域の大きさと同じか若干大きくする。島状半導体層の大きさは要求されるTFTの特性に応じて適宣決められるものであるが、例えば、20μm×8μm(チャネル長方向の長さ×チャネル幅方向の長さ)としても良いし、28μm×30μm、45μm×63μmなど様々な大きさで形成される。従って、第1の絶縁膜103、104の外寸は、それぞれの島状半導体層の大きさに合わせて、同じ大きさかそれよりも1?20%程度大きくする。また、第1の絶縁膜103、104の端面における側壁の角度は、ガラス基板の主表面に対して、10度以上40度未満となるようにテーパーエッチングしてこの上に積層させる膜のステップかバレージを確保する。
【0049】さらに、プラズマCVD法でSiH_(4)、N_(2)Oから作製する酸化窒化シリコン膜から成る第2の絶縁層105を形成する。酸化窒化シリコン膜の組成は、含有酸素濃度が55atomic%以上65atomic%以下であり、かつ、含有窒素濃度が1atomic%以上20atomic%以下として、内部応力を低減させておき、この上に形成する半導体層に直接ストレスが及ばないようにする。第2の絶縁膜は10?200nm(好ましくは20?100nm)の厚さで形成する。第2の絶縁層は実施形態1で示すように省略することもできる。
【0050】次に、25?80nm(好ましくは30?60nm)の厚さで非晶質構造を有する半導体層を、プラズマCVD法やスパッタ法などの公知の方法で形成する。例えば、プラズマCVD法で非晶質シリコン膜を55nmの厚さに形成する。非晶質構造を有する半導体膜としては、非晶質半導体膜や微結晶半導体膜があり、非晶質シリコンゲルマニウム膜などの非晶質構造を有する化合物半導体膜を適用しても良い。また、下地層のうち第2の絶縁層と非晶質半導体層とは両者を連続形成しても良い。
【0051】そして、実施形態1?3に記載したいずれかの方法を選択し、結晶質半導体膜(ここでは結晶質シリコン膜)を形成し、エッチング処理をして島状半導体層107、108aを形成する。エッチング処理はドライエッチング法で行い、CF_(4)とO_(2)の混合ガスを用いた。島状半導体層107、108aはそれぞれ単一の結晶粒から成るものであり、エッチングによりパターン形成したものは実質的に単結晶とみなすことができた。その後、プラズマCVD法や減圧CVD法、またはスパッタ法により50?100nmの厚さの酸化シリコン膜によるマスク層109を形成する。例えば、プラズマCVD法による場合、オルトケイ酸テトラエチル(Tetraethyl Ortho silicate:TEOS)とO_(2)とを混合し、反応圧力40Pa、基板温度300?400℃とし、高周波(13.56MHz)電力密度0.5?0.8W/cm^(2)で放電させ、100?150nm代表的には130nmの厚さに形成する。」
「【0056】ゲート絶縁膜113はプラズマCVD法またはスパッタ法を用い、膜厚を40?150nmとしてシリコンを含む絶縁膜で形成する。例えば、120nmの厚さで、第1の絶縁膜と同じ酸化窒化シリコン膜で形成すると良い。また、SiH_(4)とN_(2)OにO_(2)を添加させて作製された酸化窒化シリコン膜は、膜中の固定電荷密度が低減されているのでさらに良い。ゲート絶縁膜は、このような酸化窒化シリコン膜に限定されるものでなく、他のシリコンを含む絶縁膜を単層または積層構造として用いても良い(図5(D))。
【0057】図5(E)に示すように、ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成するために導電層を成膜する。この導電層は単層で形成しても良いが、必要に応じて二層あるいは三層といった積層構造とすることもできる。本実施形態では、導電性の窒化物金属膜から成る導電層(A)114と金属膜から成る導電層(B)115とを積層した構造とした。導電層(B)115はタンタル(Ta)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)から選ばれた元素、または前記元素を主成分とする合金か、前記元素を組み合わせた合金膜(代表的にはMo-W合金膜、Mo-Ta合金膜)で形成すれば良く、導電層(A)114は窒化タンタル(TaN)、窒化タングステン(WN)、窒化チタン(TiN)膜、窒化モリブデン(MoN)などで形成する。また、導電層(A)114はタングステンシリサイド、チタンシリサイド、モリブデンシリサイドを適用しても良い。導電層(B)115は低抵抗化を図るために含有する不純物濃度を低減させると良く、特に酸素濃度に関しては30ppm以下とすると良かった。例えば、タングステン(W)は酸素濃度を30ppm以下とすることで20μΩcm以下の比抵抗値を実現することができる。
【0058】導電層(A)114は10?50nm(好ましくは20?30nm)とし、導電層(B)115は200?400nm(好ましくは250?350nm)とすれば良い。本実施例では、導電層(A)114に30nmの厚さのTaN膜を、導電層(B)115には350nmのTa膜を用い、いずれもスパッタ法で形成した。TaN膜はTaをターゲットとしてスパッタガスにArと窒素との混合ガスを用いて成膜した。TaはスパッタガスにArを用いた。また、これらのスパッタガス中に適量のXeやKrを加えておくと、形成する膜の内部応力を緩和して膜の剥離を防止することができる。α相のTa膜の抵抗率は20μΩcm程度でありゲート電極に使用することができるが、β相のTa膜の抵抗率は180μΩcm程度でありゲート電極とするには不向きであった。TaN膜はα相に近い結晶構造を持つので、この上にTa膜を形成すればα相のTa膜が容易に得られた。尚、図示しないが、導電層(A)114の下に2?20nm程度の厚さでリン(P)をドープしたシリコン膜を形成しておくことは有効である。これにより、その上に形成される導電膜の密着性向上と酸化防止を図ると同時に、導電層(A)または導電層(B)が微量に含有するアルカリ金属元素がゲート絶縁膜113に拡散するのを防ぐことができる。いずれにしても、導電層(B)は抵抗率を10?500μΩcmの範囲ですることが好ましい。
【0059】次に、所定のパターンのフォトレジストマスクを形成し、導電層(A)114と導電層(B)115とを一括でエッチングしてゲート電極116、117を形成する。例えば、ドライエッチング法によりCF_(4)とO_(2)の混合ガス、またはCl_(2)を用いて1?20Paの反応圧力で行うことができる。ゲート電極116、117は、導電層(A)から成る116a、117aと、導電層(B)から成る116b、117bとが一体として形成されている。この時、nチャネル型TFTに設けるのゲート電極117は不純物領域112の一部と、ゲート絶縁膜113を介して重なるように形成する。また、ゲート電極は導電層(B)のみで形成することも可能である(図6(A))。」
「【0061】次いで、pチャネル型TFTを形成する島状半導体層107にソース領域およびドレイン領域とする不純物領域119を形成する。ここでは、ゲート電極116をマスクとしてp型を付与する不純物元素を添加し、自己整合的に不純物領域を形成する。このとき、nチャネル型TFTを形成する島状半導体層108bはフォトレジストマスク118で被覆しておく。そして、不純物領域119はジボラン(B_(2)H_(6))を用いたイオンドープ法で形成する。この領域のボロン(B)濃度は3×10^(20)?3×10^(21)atoms/cm^(3)となるようにする(図6(B))。本明細書中では、ここで形成された不純物領域134に含まれるp型を付与する不純物元素の濃度を(p^(+))と表す。」
「【0067】こうして図6(E)に示すように、基板101上に、nチャネル型TFT151とpチャネル型TFT150とを完成させることができた。pチャネル型TFT150には、島状半導体層107にチャネル形成領域152、ソース領域153、ドレイン領域154を有している。nチャネル型TFT151には、島状半導体層108にチャネル形成領域155、ゲート電極117と重なるLDD領域156(以降、このようなLDD領域をLovと記す)、ソース領域157、ドレイン領域158を有している。このLov領域のチャネル長方向の長さは、チャネル長3?8μmに対して、0.5?3.0μm(好ましくは1.0?1.5μm)とした。図2ではそれぞれのTFTをシングルゲート構造としたが、ダブルゲート構造でも良いし、複数のゲート電極を設けたマルチゲート構造としても差し支えない。」
「【0069】このようにして作製されたpチャネル型TFT150とnチャネル型TFT151とは、チャネル形成領域が単一の結晶粒、即ち単結晶で形成されている。その結果、TFTの動作時における電流輸送特性は、粒界のポテンシャルやトラップの影響を受けることがないので、単結晶シリコン基板に作製したMOSトランジスタに匹敵する特性を得ることができる。また、このようなTFTを用いてシフトレジスタ回路、バッファ回路、D/Aコンバータ回路、レベルシフタ回路、マルチプレクサ回路などを形成することができる。これらの回路を適宣組み合わせることにより、液晶表示装置やEL表示装置、および密着型イメージセンサなどガラス基板上に作製される半導体装置を形成することができる。
【0070】[実施例2]本実施例は図8を用い、実施例1で作製したTFTに対し、下地層を異なる形態で作製するものについて説明する。図8で示すTFT断面構造は、実施例1の作製手順に従って形成されるものであり、ここでは、実施例1との差異について示す。」
「【0072】図8(B)は第1の絶縁層134、135の大きさが島状半導体層107、108よりも相対的に小さくしたものである。第1の絶縁層上における結晶粒は大粒形化するが、このときチャネル形成領域152、155をこの部分に位置させると、チャネル形成領域内に結晶粒界を無くすことも可能である。」

(3-3-2)まず、引用刊行物の[実施例1]に記載された「CMOS回路」における「pチャネル型TFT」に着目する。

(3-3-3)[実施の形態1]の段落【0022】の「この基板501のTFTを形成する表面に、透光性でかつ絶縁性を有し、熱伝導性の優れる熱伝導層502を形成する。熱伝導層502の・・・熱伝導率は10Wm^(-1)K^(-1)以上であることが必要である。このような材料として、・・・酸化窒化アルミニウム(AlN_(x)O_(1-x):0.02≦x≦0.5)を用いても良いし、」及び段落【0045】の「・・・熱伝導層102を少なくとも1層形成する。ここでは、酸化窒化アルミニウム(AlN_(x)O_(1-x):0.02≦x≦0.5)を50?500nmの厚さで形成する。」という記載から、[実施例1]に記載された「熱伝導層102」の熱伝導率が「10Wm^(-1)K^(-1)以上」であることは明らかである。

(3-3-4)[実施の形態1]の段落【0024】の「この上に第1の絶縁層503を形成する。第1の絶縁層の熱伝導率は10Wm^(-1)K^(-1)未満である材料を用いる。このような材料として、・・・好ましくは酸化窒化シリコン膜で形成すると良い。」という記載及び[実施例1]の段落【0047】の「そして、この上にプラズマCVD法でSiH_(4)、N_(2)Oから作製する酸化窒化シリコン膜を50?500nmの厚さで形成し、フッ化水素(HF)やフッ化水素アンモニウム(NH_(4)HF_(2))を含む溶液で部分的にエッチングして、島状に第1の絶縁膜103、104を形成する。・・・」という記載から、[実施例1]に記載された「第1の絶縁膜103」及び「第2の絶縁層105」の熱伝導率が、ともに10Wm^(-1)K^(-1)未満であることは明らかである。

(3-3-5)[実施の形態1]の段落【0026】の「次に、25?80nm(好ましくは30?60nm)の厚さで非晶質構造を有する半導体膜506を、プラズマCVD法やスパッタ法などの公知の方法で形成する。・・・」、段落【0027】の「そして、レーザーアニール法を使用して非晶質半導体膜506を結晶化させる。」及び段落【0051】の「そして、実施形態1?3に記載したいずれかの方法を選択し、結晶質半導体膜(ここでは結晶質シリコン膜)を形成し、エッチング処理をして島状半導体層107、108aを形成する。・・・」との記載から、[実施例1]に記載された「結晶質半導体膜」からなる「島状半導体層107」が、「レーザーアニール法」を使用して「非晶質構造を有する半導体層」を「結晶化」させることにより形成されたものであることは明らかである。

(3-3-6)そうすると、引用刊行物の[実施例1]には、以下のpチャネル型TFTが記載されているものと認められる。

「基板101と、
前記基板101の表面に形成され、熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)以上である熱伝導層102と、
前記熱伝導層102の上に形成され、熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)未満である第1の絶縁膜103と、
前記第1の絶縁膜103の上に形成され、熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)未満である第2の絶縁層105と、
前記第2の絶縁層105の上に形成され、結晶質半導体膜からなる島状半導体層107と、
前記結晶質半導体膜からなる島状半導体層107の上に形成されたゲート絶縁膜113と、
前記ゲート絶縁膜113の上に形成されたゲート電極116と、
前記ゲート電極116をマスクとして、前記結晶質半導体膜からなる島状半導体層107に不純物元素を添加することにより、自己整合的に形成された不純物領域119からなるソース領域およびドレイン領域とからなり、
前記結晶質半導体膜からなる島状半導体層107は、
前記熱伝導層102の上に前記第1の絶縁膜103を形成し、
前記第1の絶縁膜103の上に前記第2の絶縁層105を形成し、
前記第2の絶縁層105の上に非晶質構造を有する半導体層を形成し、
レーザーアニール法を使用して前記非晶質構造を有する半導体層を結晶化させることにより形成されたものである
pチャネル型TFT。」

(3-3-7)次に、「実施例1で作製したTFTに対し、下地層を異なる形態で作製するもの」(段落【0070】)である[実施例2]の図8(B)に記載された「CMOS回路」における「pチャネル型TFT」(図中左側のTFT)に着目する。

(3-3-8)段落【0072】の「図8(B)は第1の絶縁層134、135の大きさが島状半導体層107、108よりも相対的に小さくしたものである。第1の絶縁層上における結晶粒は大粒形化するが、このときチャネル形成領域152、155をこの部分に位置させると、チャネル形成領域内に結晶粒界を無くすことも可能である。」という記載を参照すると、図8(B)に記載された「pチャネル型TFT」において、「第1の絶縁層134」は、「熱伝導層」上の一部に積層されており、「第2の絶縁層」は、「第1の絶縁層134」と前記「第1の絶縁層134」の両側の「熱伝導層」上に積層されていることが見て取れる。そして、段落【0033】の「レーザーアニール法では、照射するレーザービームの条件を最適なものとすることにより、結晶核の発生密度と、その結晶核からの結晶成長を制御している。領域Aは加熱と冷却の温度変化が比較的おだやかなものとなるため、領域Aにある半導体膜508はその中心から結晶粒が成長し、第1の絶縁層504、505上のほぼ全面に渡って単一の結晶粒を成長させることができる。一方、領域Bは急激に冷却されることにより、領域Bにある半導体膜507は小さな結晶粒しか成長しないので、複数の結晶粒が集合した構造となる。このようにして、結晶粒の位置を制御した結晶質半導体膜を形成することができる。」という記載を参照すると、図8(B)に記載された「pチャネル型TFT」において、「第1の絶縁層134」の上方における結晶粒は、大粒形化し、前記「第1の絶縁層134」の両側の「熱伝導層」の上方における結晶粒は、小さな結晶粒しか成長せず、これらの結晶粒は、全体として、「結晶質半導体膜からなる島状半導体層」を形成しているものと認められる。

(3-3-9)そうすると、引用刊行物の[実施例2]の図8(B)には、以下の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。

「基板と、
前記基板の表面に形成され、熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)以上である熱伝導層と、
前記熱伝導層上の一部に形成され、熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)未満である第1の絶縁層134と、
前記第1の絶縁層134と前記第1の絶縁層134の両側の前記熱伝導層上に積層され、熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)未満である第2の絶縁層と、
前記第2の絶縁層の上に形成され、結晶質半導体膜からなる島状半導体層と、
前記結晶質半導体膜からなる島状半導体層の上に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極をマスクとして、前記結晶質半導体膜からなる島状半導体層に不純物元素を添加することにより、自己整合的に形成された不純物領域からなるソース領域およびドレイン領域とからなり、
前記結晶質半導体膜からなる島状半導体層は、
前記熱伝導層の上に前記第1の絶縁層を形成し、
前記第1の絶縁層の上に前記第2の絶縁層を形成し、
前記第2の絶縁層の上に非晶質構造を有する半導体層を形成し、
レーザーアニール法を使用して前記非晶質構造を有する半導体層を結晶化させることにより形成されたものである
pチャネル型TFT。」

(3-4)対比
(3-4-1)刊行物発明の「熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)以上である熱伝導層」及び「熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)未満である第1の絶縁層134」は、各々補正後の発明の「第1熱伝導膜」及び「前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜」に相当する。

(3-4-2)刊行物発明の「結晶質半導体膜からなる島状半導体層」は、補正後の発明の「ポリシリコン膜」に相当する。

(3-4-3)刊行物発明の「ゲート絶縁膜」及び「前記ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極」は、全体として補正後の発明の「ゲート積層物」に相当する。

(3-4-4)刊行物発明の「pチャネル型TFT」は、補正後の発明の「薄膜トランジスタ」に相当する。

(3-4-5)そうすると、補正後の発明と刊行物発明とは、
「基板と、
前記基板上に積層された第1熱伝導膜と、
前記第1熱伝導膜上の一部に積層された、前記第1熱伝導膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜と、
ポリシリコン膜と、
前記ポリシリコン膜上に積層されたゲート積層物と、を備え、
前記ポリシリコン膜は、
第1熱伝導膜とこの膜より熱伝導度の低い第2熱伝導膜とを含む下部膜を形成する第1段階と、
非晶質シリコン膜を形成する第2段階と、
前記非晶質シリコン膜を結晶化する第3段階と、を含む工程により形成され、
ソース領域とドレイン領域とを含む
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。」
である点で一致し、次の4点で相違する。

(相違点1)補正後の発明では、「ポリシリコン膜」は、「前記第2熱伝導膜と前記第2熱伝導膜の両側の前記第1熱伝導膜上に積層され」ているのに対し、刊行物発明では、「結晶質半導体膜からなる島状半導体層」について、そのような特定がなされていない点。

(相違点2)補正後の発明では、「ポリシリコン膜」が「第2熱伝導膜を覆う」のに対して、刊行物発明の「結晶質半導体膜からなる島状半導体層」について、そのような特定がなされていない点。

(相違点3)補正後の発明では、「前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する」のに対し、刊行物発明では、「非晶質構造を有する半導体層を形成」する際に、そのような特定がなされていない点。

(相違点4)補正後の発明では、「前記ポリシリコン膜は、前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され」ているのに対し、刊行物発明では、「結晶質半導体膜からなる島状半導体層」について、そのような特定がなされていない点。

(3-5)判断
以下、相違点1ないし4について、検討する。

引用刊行物の[実施例1]の段落【0049】には、「さらに、プラズマCVD法でSiH_(4)、N_(2)Oから作製する酸化窒化シリコン膜から成る第2の絶縁層105を形成する。・・・第2の絶縁層は実施形態1で示すように省略することもできる。」と記載されており、引用刊行物において、「実施例1で作製したTFTに対し、下地層を異なる形態で作製するもの」(段落【0070】)である[実施例2]の図8(B)に記載された「CMOS回路」における「pチャネル型TFT」、すなわち、刊行物発明においても、「第2の絶縁層」の形成を省略できるものといえる。
そうすると、刊行物発明において、「前記第1の絶縁層134と前記第1の絶縁層134の両側の前記熱伝導層上に積層された熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)未満である第2の絶縁層」の形成を省略した場合には、
(ア)刊行物発明において、「結晶質半導体膜からなる島状半導体層」は、「前記第1の絶縁層134と前記第1の絶縁層134の両側の前記熱伝導層上に形成され」ることから、補正後の発明のように、「前記第2熱伝導膜と前記第2熱伝導膜の両側の前記第1熱伝導膜上に積層されたポリシリコン膜」という構成を有し(「相違点1」に対応)、
(イ)その結果、「結晶質半導体膜からなる島状半導体層」は、「第1の絶縁層134」を覆うことから、補正後の発明のように、「前記第2熱伝導膜を覆う前記ポリシリコン膜」という構成を有し(「相違点2」に対応)、
(ウ)刊行物発明において、「前記第1の絶縁層の上に」「非晶質構造を有する半導体層を形成」することから、補正後の発明のように、「前記第1熱伝導膜上に前記第2熱伝導膜を覆う非晶質シリコン膜を形成する」構成を有し(「相違点3」に対応)、
(エ)刊行物発明において、「結晶質半導体膜からなる島状半導体層」は、「前記第1の絶縁層134」の一表面と、「前記第1の絶縁層134」に隣接する「前記熱伝導層上に」直接接触して形成されることから、補正後の発明のように、「前記ポリシリコン膜は、前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され」る構成を有している(「相違点4に対応」)ものと認められ、相違点1ないし4は、実質的なものでない。
また、仮に、実質的なものでないとまではいえないとしても、刊行物発明において、「前記第1の絶縁層134と前記第1の絶縁層134の両側の前記熱伝導層上に積層された熱伝導率が10Wm^(-1)K^(-1)未満である第2の絶縁層」の形成を省略することにより、補正後の発明の構成とすることは、当業者が必要に応じて、適宜なし得たことである。
よって、相違点1ないし4は、実質的なものでないか、仮に実質的なものでないとまではいえないとしても、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(3-6)独立特許要件についてのまとめ
以上検討したとおり、補正後の発明と刊行物発明との相違点は、実質的なものでないか、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎず、補正後の発明は、引用刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができず、仮にそうでないとしても、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)補正の却下についてのむすび
本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるが、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成24年8月10日になされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし46に係る発明は、平成23年9月27日になされた手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし46に記載されている事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

4.刊行物に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物には、上において検討したとおり、上記2.(3-3-1)に記載したとおりの事項及び(3-3-9)で認定したとおりの発明(刊行物発明)が記載されているものと認められる。

5.判断
上記2.(2)において検討したとおり、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「ポリシリコン膜」について、「前記第1熱伝導膜の少なくとも一表面と、前記第1熱伝導膜に隣接する前記第2熱伝導膜の少なくとも一表面と、の上に直接接触して形成され、ソース領域とドレイン領域とを含む」と限定したものである。逆に言えば本件補正前の請求項1に係る発明(本願発明)は,補正後の発明から上記の限定をなくしたものである。
そうすると、上記2.(3)において検討したように、補正後の発明が,引用刊行物に記載された発明であり、仮にそうでないとしても、引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当然に、引用刊行物に記載された発明であり、仮にそうでないとしても、引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、仮にそうでないとしても、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-26 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-15 
出願番号 特願2004-320243(P2004-320243)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 綿引 隆  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 西脇 博志
小野田 誠
発明の名称 ポリシリコン膜の形成方法、その方法で形成されたポリシリコン膜を備える薄膜トランジスタおよびその製造方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  

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