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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21K
管理番号 1279130
審判番号 不服2012-21936  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-06 
確定日 2013-09-12 
事件の表示 特願2007- 35893「核融合中性子生成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月 4日出願公開、特開2008-202942〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年2月16日の出願であって、平成24年8月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成25年2月27日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年5月7日に回答書が提出された。
さらに、同年6月14日に当合議体により求釈明を行ったところ、同年7月3日に、ファクシミリによる釈明が行われた。

第2 本願発明の特許性
1.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年11月6日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「燃料ガスがバックグラウンドガスとして導入されている真空容器、
前記真空容器中に対向して配置される1対の陽極、
前記真空容器中において前記1対の陽極の間に、それらとは間隔を隔ててかつその主面が前記1対の陽極を結ぶ線に平行になるように、配置される陰極、および
前記陰極の表面に形成され水素同位体を吸蔵している第1吸蔵層を備え、
前記1対の陽極と前記陰極との間に印加した高電圧によって加速したイオンが前記第1吸蔵層に存在する前記水素同位体と衝突することによって核融合を生起して中性子を生成する、核融合中性子生成装置。」

2.引用刊行物及び該刊行物に記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、「登尾一幸 他3名,「慣性静電閉じ込め核融合におけるビーム粒子と電極吸着粒子との反応の評価」,第6回核融合エネルギー連合講演会予稿集,2006年 6月13日,188頁」(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「慣性静電閉じ込め核融合(IECF)装置は小型で単純な装置でありながら核融合反応の発生が可能であり、反応に伴い発生する高エネルギー粒子を利用した様々な応用が考えられている。」
(2)「このIECFにおける核融合反応の機構として、電界により加速されるなどした高エネルギービーム粒子同士が衝突する反応(ビーム・ビーム反応)およびそれらとバックグランドガスとの衝突による反応(ビーム・バックグランド反応)の2種類が従来考えられてきた。演者らは現在多くの実験的研究が行われている電流、ガス圧領域ではビーム・バックグランド反応が支配的であることをこれまでのシミュレーションコードを用いた解析により明らかとしてきた。このとき、イオン源を付加した低ガス圧化により印加電圧の増加と電荷交換反応によるエネルギー損失の低減が達成できるが、同時にガス圧の低下はターゲット密度の低下をも意味するため反応率そのものの上昇は見込めなかった。」
(3)「一方で電極には高エネルギーに加速されたイオンや中性粒子が衝突していることから、電極金属表面に吸着された重水素とこれらの高エネルギー粒子との反応も生じていると考えることができる。この反応は吸着粒子密度がガス圧に依存しない場合、入射粒子エネルギーを高くできる低ガス圧の利点を生かすことができると考えられる。」
(4)「そこで電極表面での反応計算を新たにコードに組み込み、陰極陽極それぞれの表面における吸着粒子との反応率をガス圧や電圧に対して計算し、ビーム・バックグランド反応のみの値と比較した。また、円筒形IECF実験装置において、従来のステンレス製の陰極・陽極をそれぞれ同形状で表面へのチタン蒸着コーティングによりガス吸着率を上げた電極と交換し、反応率を比較した。」
(5)「放電電流が数十mA以下の領域では空間電荷による電位は無視できる程度に小さく反応率は電流値にほぼ比例することがわかっているので、中性子生成率を電流値で規格化した値で結果を評価した。・・・初期実験結果からも計算結果と同様の傾向が得られ、チタン電極では中性子生成の増加が見られた。」

これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。

「核融合反応の機構として、電界により加速さた高エネルギービーム粒子同士が衝突する反応(ビーム・ビーム反応)およびそれらの粒子とバックグランドガスとの衝突による反応(ビーム・バックグランド反応)が生じる円筒形IECF装置において、
ステンレス製の陰極・陽極の表面へのチタン蒸着コーティングによりガス吸着率を上げたチタン電極を用い中性子生成を増加させ、
電極に高エネルギーに加速されたイオンや中性粒子が衝突して、電極金属表面に吸着された重水素とこれらの高エネルギー粒子との反応も生じている、
円筒形IECF装置。」(以下「引用発明」という。)

3.対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「バックグランドガス」は本願発明の「燃料ガス」に相当し、引用発明において該ガスが真空容器に導入されていることは当業者の技術常識に照らして自明である。
(2)引用発明の陰極及び陽極が該真空容器中に配置されることも、同様に自明である。
(3)請求人の回答書及び釈明事項(上記「第1 手続の経緯」参照)に基づけば、水素同位体の吸蔵に先立って、まずその表面への吸着が起こることから、引用発明の「陰極の表面へのチタン蒸着コーティング」と本願発明の「陰極の表面に形成され水素同位体を吸蔵している第1吸蔵層」は、ともに「陰極の表面に形成され水素同位体を吸着する層」である点で共通する。
(4)引用発明の「電極に高エネルギーに加速されたイオンや中性粒子が衝突して、電極金属表面に吸着された重水素とこれらの高エネルギー粒子との反応」と、本願発明の「1対の陽極と前記陰極との間に印加した高電圧によって加速したイオンが前記第1吸蔵層に存在する前記水素同位体と衝突することによって核融合を生起して中性子を生成する」ことは、ともに「陽極と陰極との間に印加した高電圧によって加速したイオンが水素同位体を吸着する層に存在する水素同位体と衝突することによって核融合を生起して中性子を生成する」ことである点で共通する。
(5)引用発明の「円筒形IECF装置」は本願発明の「核融合中性子生成装置」に相当する。

そうすると、両者は、
「燃料ガスがバックグラウンドガスとして導入されている真空容器、
前記真空容器中に配置される陽極、
前記真空容器中に配置される陰極、および
前記陰極の表面に形成され水素同位体を吸着する層を備え、
前記陽極と前記陰極との間に印加した高電圧によって加速したイオンが前記水素同位体を吸着する層に存在する前記水素同位体と衝突することによって核融合を生起して中性子を生成する、核融合中性子生成装置。」
の点で一致し、次の各点で相違している。

(相違点1)
本願発明では、陽極が「対向して配置される1対の陽極」からなり、陰極が「前記1対の陽極の間に、それらとは間隔を隔ててかつその主面が前記1対の陽極を結ぶ線に平行になるように、配置される」のに対して、引用発明では、陽極及び陰極の具体的構成が不明な点。
(相違点2)
水素同位体を吸着する層が、本願発明では「水素同位体を吸蔵している(第1)吸蔵層」であるのに対して、引用発明では吸蔵しているかどうか不明な点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
円筒形IECF装置の電極構造として、陽極が対向して配置される1対の陽極からなり、陰極が該1対の陽極の間に、それらとは間隔を隔ててかつその主面が前記1対の陽極を結ぶ線に平行になるように配置される構造は、本願の出願時点ですでに広く知られた構造(原査定の拒絶の理由に引用された、「Yukihisa Ueno et al,“Measurement of Ion Energy Distribution in a Cylindrical Inertial Electrostatic Confinement Fusion(C-IECF) Device”,FUSION SCIENCE AND TECHNOLOGY,2005年 5月,VOL.47,PP.1295-1298」参照)である。
そして、引用発明の円筒形IECF装置の電極構造として、当該公知の構造を用いることに、格別の技術的困難性も阻害要因もない。
してみると、引用発明に上記相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になしうる事項である。
(相違点2について)
請求人の回答書及び釈明事項(上記「第1 手続の経緯」参照)に基づけば、蒸着されたチタン膜が「吸着層」として働くか「吸蔵層」として働くかの違いは、一義的にその膜厚に由来するものであって、しかも、特定の膜厚を境にそれらの働きが明確に区別される臨界値があるわけでもないと認められるところ、本願明細書には「吸蔵層」として働くために、どのような膜厚とすればよいかに関する具体的な記載はない。
一方、引用文献1には「電極表面へのチタン蒸着コーティングによりガス吸着率が上がる」こと、及び「チタン電極では中性子生成の増加が見られた」ことが記載されている(上記摘記事項(4)及び(5)参照)。
また、チタンが金属水素化物として、主として吸蔵というメカニズムで水素同位体を保持することができるという事実は当業者にとって常識に部類する知識である。
さらに、吸着膜に所定の膜厚があれば吸着ののち、その分子が膜内部に拡散していくという事実も当業者にとって技術常識なのであるから、引用文献1の上記知見に触れた当業者であれば、再現実験や実証実験を行い、中性子生成の増加のメカニズムや増加量等に関する考察を行うために、種々の膜厚について実験を試みるであろうことは、容易に想定できる。
そして、上記のとおり「吸着」と「吸蔵」との間に特定の膜厚を境にそれらの働きが明確に区別される臨界値があるわけではないとすれば、引用発明のチタン蒸着コーティングの膜厚を「吸蔵」が起こる程度のものとすることを排除する理由はない。
してみると、引用発明の吸着層の厚みを吸蔵が起こる程度のものとすることによって、上記相違点2に係る構成を実現することは、当業者が容易になしうる事項である。

また、本願発明全体の効果も、引用発明、公知技術及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、本願発明は、引用発明、公知技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、公知技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-09 
結審通知日 2013-07-16 
審決日 2013-08-01 
出願番号 特願2007-35893(P2007-35893)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村川 雄一  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 伊藤 昌哉
北川 清伸
発明の名称 核融合中性子生成装置  
代理人 山田 義人  

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