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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A21D
管理番号 1279229
審判番号 不服2011-7934  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-14 
確定日 2013-09-11 
事件の表示 特願2006-528277「焼成品用の増量剤」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月 7日国際公開、WO2005/029967、平成19年 3月22日国内公表、特表2007-506436〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年9月27日(パリ条約による優先権主張2003年9月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年4月15日付け拒絶理由通知に対し、同年10月19日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされた後、同年12月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年4月14日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同日付けで特許請求の範囲の全文についての手続補正がなされたものである。

第2 平成23年4月14日付けの手続補正について
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
糖の代わりに増量剤を用いることを含み、焼成品において該糖の含有量が0?約10重量%であるように該糖を減少させ又は排除する方法であって、該増量剤が、
消化に対して抵抗性のある少なくとも1種のマルトデキストリン、
少なくとも1種のバルク甘味料、及び
少なくとも1種の乳化剤
を含む、方法。
【請求項2】
前記バルク甘味料がソルビトールであり、前記乳化剤が少なくとも1種のオクテニル無水琥珀酸変性澱粉である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記焼成品が高強度甘味料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記焼成品が高強度甘味料を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記バルク甘味料がソルビトールである、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記バルク甘味料が糖アルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
消化に対して抵抗性のある少なくとも1種のマルトデキストリン、
少なくとも1種のバルク甘味料、及び
少なくとも1種の乳化剤
を含有する増量剤を含む焼成品であって、糖の含有量が0?約10重量%の、減糖の焼成品又は該糖を含まない焼成品である、焼成品。
【請求項8】
前記少なくとも1種の乳化剤がアルケニル無水琥珀酸変性澱粉である、請求項7に記載の焼成品。
【請求項9】
前記バルク甘味料が糖アルコールである、請求項7に記載の焼成品。
【請求項10】
前記糖アルコールがソルビトール、マンニトール及びキシリトールからなる群から選択されるものである、請求項9に記載の焼成品。
【請求項11】
前記糖アルコールがソルビトールである、請求項10に記載の焼成品。
【請求項12】
前記バルク甘味料が少なくとも1種のソルビトールであり、前記乳化剤が少なくとも1種のオクテニル無水琥珀酸変性澱粉である、請求項7に記載の焼成品。
【請求項13】
少なくとも1種の高強度甘味料を更に含む、請求項7に記載の焼成品。
【請求項14】
少なくとも1種の高強度甘味料を更に含む、請求項12に記載の焼成品。」
と補正された。

上記補正は、補正前の平成22年10月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1において「糖の代わりに増量剤を用いることを含み、焼成品において糖の含有量が0?約10重量%であるように糖を減少させ又は排除する方法」を「糖の代わりに増量剤を用いることを含み、焼成品において該糖の含有量が0?約10重量%であるように該糖を減少させ又は排除する方法」とし、また、請求項7において「糖の含有量が0?約10重量%の、減糖の焼成品又は糖を含まない焼成品である、焼成品」を「糖の含有量が0?約10重量%の、減糖の焼成品又は該糖を含まない焼成品である、焼成品」としたものであって、いずれも「糖」が前述された「糖」であることを明確にするために「糖」を「該糖」としたものであるので、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、適法になされたものである。

第3 本願発明
本件補正は,上記のとおり適法になされたものと認められるので,本願の請求項1?14に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち請求項1は,前記「第2」のとおりである。(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第4 刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献4)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。以下、同じ。

(1)刊行物1:国際公開第02/079265号公報の記載事項
(日本語訳は、刊行物1で国際公開された国際特許出願を国内公表した特表2004-524849号公報の記載による。なお、摘記箇所は国際公開第02/079265号公報における該当頁や行数を示したものであるが、日本語訳には国内公表した特表2004-524849号公報の段落番号を併せて表記した。)

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の高カロリー物質の全部または一部を、15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および多くても4500g/molの数平均分子量Mnを有する、カロリー値の低減という点で有効量の分枝マルトデキストリンで置換することからなる工程を含む低減したカロリー値を有する食品を調製する方法。
【請求項2】
前記分枝マルトデキストリンが、2から5%の間の還元糖含量、および2000から3000g/molの間のMnを有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
全てまたは一部の分枝マルトデキストリンが水素化されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記高カロリー物質が、スクロース、デキストロース、ラクトース、マルトース、フルクトース、グルコースシロップ、マルトデキストリン、脂肪、タンパク質、アラビアゴムからなる群から選択される少なくとも一つの成分を含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分枝マルトデキストリンが、食品の全重量に対して0.1から30重量%、好ましくは1.0から10重量%の割合で存在する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分枝マルトデキストリンが、食品の全重量に対して0.5から98重量%、好ましくは5から98重量%の、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリトリトール、ラクチトール、水素化イソマルツロース、水素化グルコースシロップ、および水素化デンプン加水分解物からなる群から選択される少なくとも一つのポリオールと同時に存在する、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記分枝マルトデキストリンが、食品の全重量に対して0.5から98重量%、好ましくは5から98重量%の、キシロース、フルクトース、グルコース、ポリデキストロース、スクロース、マルトース、ラクトース、イソマルトース、イソマルト-オリゴサッカリド、イソマルツロース、グルコースシロップ、高フルクトースグルコースシロップ、マルトデキストリン、フルクト-オリゴサッカリド、およびガラクトオリゴサッカリドからなる群から選択される少なくとも一つの糖と同時に存在する、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記食品が、ビスケット、チョコレート、代用食、調理菓子、ゼリー菓子、ガムペースト、チューインガム、タブレット、ガム、トローチ剤、チョコレート菓子、チョコレートバー、飲料、アイスクリーム、スプレッド、ケーキ、パン製品、サラダドレッシング、および通常高カロリー物質を含む他の食品からなる群から選択される、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
多くても75重量%の糖および/または多くても50重量%の脂肪および/またはタンパク質の全てまたは一部が、15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および多くても4500g/molの数平均分子量Mnを有する分枝マルトデキストリンで置換された、従来の食品に匹敵する技術的および感覚的特性を有する、低減したカロリー値を有する食品。
【請求項10】
多くても40重量%のスクロースおよび/または多くても40重量%の脂肪が、15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および
多くても4500g/molの数平均分子量Mnを示す分枝マルトデキストリンで置換された、従来のビスケットに匹敵する技術的および感覚的特性を有する、低減したカロリー値を有するビスケット。」(「REVENDICATIONS」の欄参照)

(1b)「【背景技術】
【0002】
一般に、栄養と食品の潜在的な有利な効果に関する消費者の関心の高まりが、近年になって、産業国家に見られる。これには、以下のようないくつかの理由がある。
-ガンや冠状疾患の頻発の心配、および最近の栄養知識の普及、
-農業食品産業における最近の危機に伴う消費者の不信、
-45から65歳の間の年齢において成長が見られる現在の人口統計学的傾向が、より良くかつより長く生きることを可能にする健康製品に対するこの望みを強めること。
【0003】
従って、多年にわたり、従来の食品において高カロリー物質を置換するために多くの努力がなされてきた。これらの中で、最も効果で最も高カロリーなものは、しばしばスクロースと脂肪である。
【0004】
スクロースは、食品産業の始まりから、標準甘味フィラーであった。その感覚的かつ技術的特性は、それを食品に特に適したものとしている。
【0005】
一方、その栄養特性は、批判を生じうる。確かに、スクロースは、4Kcal/gのカロリー値を有し、スクロースが主成分である食品に無視できないカロリー値を与える。
【0006】
さらに、スクロースが糖尿病に対して完全に禁忌を示されていることが知られている。これは、その成分であるグルコースが体に迅速に同化し、患者に深刻な高血糖症をもたらしうるからである。最後に、スクロースは、共生口内細菌により発酵させられる基質であり、齲蝕の原因である腐食性の酸へと変換される。
【0007】
これらの欠点を克服するために、例えば、EP-A-0390299およびEP-A-0512910には、一部の食品においてポリオールでスクロースを置換することが考案されている。これらのポリオールは、特に水素化単糖類、例えばソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、または水素化二糖類、例えばマルチトール、ラクチトール、水素化イソマルツロース(1,6-グルコピラノシルソルビトールおよび1,1-グルコピラノシルマンニトールの等モルの混合物)とすることができる。
【0008】
純粋な状態では、これらのポリオールは、還元力を持たず、口内微生物叢により酸へと発酵させられない。それゆえ、これらは、処方中の別の成分が発酵可能な糖を供給しないことから、非齲食原生食品の製造を可能にする。さらに、ポリオールは、ゆっくりと代謝され、消費後に血糖値に鋭い増加を引き起こさない。結果的に、これらは、糖尿病の食事にしばしば推奨される。
【0009】
さらに、カロリー値は、平均で2.4Kcal/g(10.0KJ/g)と推定され、糖の約60%である。しかしながら、カロリー低減については、現在市販されているポリオールを含む食品に依然として制限がある。これは、甘味料のカロリー値に、食品の別の主要成分を一般に構成する脂肪の遙かに高いカロリー値が加えられるという単純な理由による。」(第1頁9行?第3頁18行)

(1c)「【0011】
係る関心に対して、一部または全部のスクロースを低カロリー置換物で置き換えるだけでなく、脂肪の量の全てまたは一部を低減することが望ましい。
【特許文献1】
欧州特許出願公開第0390299号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
当該技術分野の常識を認識した上で、出願人の会社は、低減した含量のスクロース、脂肪、および他の高カロリー物質を含むものの、従来の形態の同一食品に匹敵する技術的かつ感覚的特性を示す、低減したカロリー値の食品の開発を目的とした。
【0013】
匹敵する技術的特性という表現は、得られた食品の特性と、その製造に従来の技術を使用できる可能性の両方を意味すると解される。所望の目的は、実際に、条件雰囲気、洗練された装置、および長い製造時間のような一部の実施制約、および、一方、水の回復、貧弱な流動学的挙動、または食品の製造工程の一部のパラメーターの制限のような技術的困難性をできるだけ不要にすることである。
【0014】
多くの試行錯誤と研究の後に、出願人は、非常に特定の分析パラメーターを示す分枝マルトデキストリンが食品に用いられる高カロリー物質の全てまたは一部を構成するように使用された場合に、上記目的が達成可能であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
それゆえ、本発明の主題は、食品の高カロリー物質の全部または一部を、15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数(polymolecularity index)、および4500g/mol以下の数平均分子量Mnを有する、カロリー値の低減という点で有効量の分枝マルトデキストリンで置換することからなる工程を含む低減したカロリー値を有する食品を調製する方法である。
【0016】
分枝マルトデキストリンという表現は、本発明の目的では、出願人の会社が権利を有する特許出願EP-A-1006128に記載されている分枝マルトデキストリンを意味すると解される。これらの分枝マルトデキストリンは不消化特性を示し、その結果カロリー値を低減させて、小腸での同化を妨げる結果をもたらす。低含量の低い重合度(“DP”)を有する分子もまた、低カロリー値に寄与する。分枝マルトデキストリンのカロリー値の決定は、小腸で不消化性であり、大腸で発酵される画分により表される部分の評価から計算により実施され、ここでは2Kcal/gを供給すると考えられる。かくして、分枝マルトデキストリンは、2.5Kcal/g未満のカロリー値と推定された。その高い含量の1→6グルコシド結合は、頬面窩洞の微生物による同化を低減することにより齲食原生効果を低減する結果をもたらす。この高レベルの1→6結合は、極めて特異的な生物前(prebiotic)特性をも付与する:ヒトおよび動物の盲腸および結腸の細菌、例えば酪酸産生、乳酸またはプロピオン酸細菌は、高度の分枝化合物を代謝することが確からしい。さらに、これらの分枝マルトデキストリンは、所望でない細菌に損害を与えるビフィズス菌の発達を促進する。消費者の健康に完全に利益をもたらす特性が、そこから得られる。
【0017】
本発明では、表現“カロリー値の低減に関して有効量”とは、食品中の全てまたは一部の高カロリー物質を置換し、かくして、そのカロリー値を、係る分枝マルトデキストリンを含まない食品のカロリー値と比較して低減するのに十分な分枝マルトデキストリンの量を意味すると解する。
【0018】
分枝マルトデキストリンにより置換される高カロリー物質は、スクロース、デキストロース、ラクトース、グルコースシロップ、マルトデキストリン、脂肪、ゼラチン、乳タンパク質、アラビアゴムからなる群から選択される少なくとも一つの成分を含む。
【0019】
本発明では、表現“マルトデキストリン”とは、デンプンの酸および/または酵素的加水分解により慣例的に得られ、かつ、20未満のデキストロース当量(またはDE(Dextrose Equivalent))として表される還元力により特徴付けされる、標準的なマルトデキストリンを意味すると解される。
【0020】
有利に、本発明で用いられる分枝マルトデキストリンは、2から5%の間の還元糖含量、2000から3000g/molの間のMnを有し、かつ、これらの全てまたは一部は水素化されていてもよい。
【0021】
食品や所望の感覚特性のタイプにより、分枝マルトデキストリンは、食品中に、食品の全重量に対して0.1から30重量%、好ましくは1.0から10重量%の割合で存在する。
【0022】
これらの分枝マルトデキストリンは、食品の全重量に対して0.5から98重量%、好ましくは5から98重量%の、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、マンニトール、エリトリトール、ラクチトール、水素化イソマルツロース、水素化グルコースシロップ、および水素化デンプン加水分解物からなる群から選択される少なくとも一つのポリオールと組み合わされてもよい。
【0023】
本発明に係る方法の別の変形によれば、前記分枝マルトデキストリンが、食品の全重量に対して0.5から98重量%、好ましくは5から98重量%の、キシロース、フルクトース、グルコース、ポリデキストロース、スクロース、マルトース、ラクトース、イソマルトース、イソマルト-オリゴサッカリド、イソマルツロース、グルコースシロップ、高フルクトースグルコースシロップ、マルトデキストリン、フルクト-オリゴサッカリド、およびガラクトオリゴサッカリドからなる群から選択される少なくとも一つの糖と同時に存在する。
【0024】
本発明に係る方法では、例えば、アスパルテーム、アリテーム(alitame)、アセスルファム K、スクラロース、ステビオシド、サッカリン、およびシクラメートからなる群から選択される強甘味料を、単独または混合物として添加することもできる。好ましくは、前記強甘味料は、食品の全重量に対して0.01から5重量%の量で存在する。
【0025】
高カロリー物質の全てまたは一部を、分枝マルトデキストリンで置換、水素化またはそれ以外の処理、および任意に一以上のポリオールおよび/または一以上の糖と組合せた食品は、例えば、ビスケット、チョコレート、菓子製品、例えば、煮沸菓子、ゼリー菓子、ガムペースト、チューインガム、タブレット、ガム、トローチ剤、チョコレート菓子、チョコレートバー、飲料、代用食(meal replacers)、アイスクリーム、スプレッド(spreads)、ケーキ、パン製品、サラダドレッシング、および通常高カロリー物質を含む他の食品である。
【0026】
多くても75重量%の炭水化物および/または全てまたは一部のタンパク質、および/または多くても50重量%の脂肪が、15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および4500g/mol以下の数平均分子量Mnを有する分枝マルトデキストリンで置換された、従来の食品に匹敵する技術的および感覚的特性を有する、低減したカロリー値を有する食品にも関する。
【0027】
かくして置換することができる糖は、例えば、スクロース、デキストロース、ラクトース、マルトース、フルクトース、グルコースシロップ、マルトデキストリンである。
【0028】
かくして例えば、ビスケットで優れた結果が得られた。
【0029】
ビスケットの製造、すなわち混合工程と焼き工程の両方で、ビスケットに起こる現象は非常に多く、かつ複雑である。これらは、種々の成分の割合に密接に依存する。
【0030】
小麦粉は、主に顆粒形態のまま残るデンプン(低水分含量の場合)と、ネットワーク形成をもたらすタンパク質(グルテン)とを供給することにより、ビスケットのベースを構成する。脂肪は、乳化剤と組み合わせられて、生地中に分散物を形成し、他の成分とのバインダーの役割を果たす。この分散物は、後の気室の核をなす部位の形成に重要である。一方、脂質は気泡の表面で吸収し、その成長の間それらを安定化する。それゆえ脂肪は、風味を増強することからも、ビスケットの質感と味にとって重要である。糖そのものは、特にビスケットの機械特性に影響する(その感覚的役割とは別に)。結晶状およびガラス状の糖の結晶の大きさおよび割合は、柔らかさ、パリパリ感、および柔軟性の特徴に影響するファクターである。最後に、ガラス状のスクロースは、結晶状スクロースよりも大きな水に対する親和性を有している。それゆえ、配合処方におけるスクロースの割合は、フリーの水の含量、結果的にはビスケットの機械特性に影響する。
【0031】
長期にわたる試行錯誤の後で、出願人は、多くても40重量%の糖および/または多くても40重量%の脂肪が、15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および4500g/mol以下の数平均分子量Mnを示す分枝マルトデキストリンで置換された、従来のビスケットに匹敵する技術的および感覚的特性を有する、低減したカロリー値を有するビスケットにおいて優れた結果を得た。
【0032】
糖を40%より多く置換すると、ビスケットの甘味は維持されない。脂肪の場合、40%より多く置換すると、生地の特性、特にその技術的品質の崩壊を招く(生地がビスケットを製造することができるロータリーマシンを妨害してしまう)。」(第3頁18行?第10頁8行)

(1d)「【0033】
本発明の別の特徴および利点は、以下の実施例を参照することにより明確になるであろう。これらの実施例は、発明を例示するものであって、制限するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
実施例1:ビスケット
従来のビスケット、分枝マルトデキストリンを含むビスケット、およびFOS(フルクトオリゴサッカリド)を含むビスケットを製造した。後者の産物は、ACTILIGHTまたはRAFTILOSEの商品名で市販されている。
【0035】
【表1】


【0036】
製法:
-水、重炭酸アンモニウム、および重炭酸ナトリウムを秤量する。Hobart混合機で1の速度で5分間混合する。
-脂肪および大豆レシチンを添加し、1分間1の速度で攪拌し、次いで2の速度で4分間混合する。
-残りの粉末(小麦粉、スクロース、ピロリン酸水素ナトリウム、塩、およびバニラフレーバー)を秤量する。これらを混合し、前記混合機に加える。1の速度で10分間混合する。このとき、混合機の側面や混合ブレードからそぎ落とすために一度の中断を含む。
-ロータリー成形機でビスケットを成形し、ベーキングトレーに載せる。
-ロータリーオーブンで10分間200℃で加熱する。ビスケットを、常に同じ高さでオーブンに配置する。
-25℃まで冷却させ、次いで缶にビスケットを貯蔵し、特に水分含量に関してその特徴を保つ。
【0037】
【表2】


【0038】
★破砕性は、Instron型の装置を用いて測定した。わずかな接触が確立されるように、円錐パンチをビスケットの表面に適用した。次いで増大する変形力をかけ、行使された力を測定する。パンチがビスケットに突入したとき、行使される力が徐々に増大する。パンチが空気室に達すると、壁が崩壊したときに力の鋭い低下が起こる。それゆえ破砕性は、発揮された力の変化におけるピーク数により推定できる。この研究では、ビスケットを崩壊させないように、0から2mmの移動の間のピークのみをカウントした。
【0039】
感覚分析の結果:12の対象パネル
スコアは、様相、色および糖について0から7のスケールでの評価に対応している。
ビスケットのカロリー値は、各成分のカロリー値を用いて算出した。
分枝マルトデキストリンについては、2Kcal/gの算出したカロリー値を用いた。
FOSについては、カロリー値は2Kcal/gである。
【0040】
【表3】


【0041】
これらの結果は、本発明に係るビスケットの方が、低減したカロリー値を有する旧来のビスケットより好まれることを示している。」(第10頁9行?第13頁3行)

第5 対比・判断
刊行物1には、食品の高カロリー物質の全部または一部を、15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および多くても4500g/molの数平均分子量Mnを有する、カロリー値の低減という点で有効量の分枝マルトデキストリンで置換することからなる工程を含む低減したカロリー値を有する食品を調製する方法であって(1a)、高カロリー物質としては、スクロースや脂肪などが挙げられ(1c)、また、実施例1によれば、小麦粉、脂肪、スクロース、水、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、塩、バニラ、レシチンからなる生地から製造されるビスケットについて、表1のとおりに、高カロリー物質である脂肪及びスクロースを、生地100g当たり、標準ビスケットではそれぞれ15.9g、17.8gを含むのに対し、それぞれ12.4g、15.1gに減らし、減らした分の脂肪3.5gとスクロース2.7gを、分枝マルトデキストリン6.2gに置換した、低減したカロリー値を有するビスケットを調整する方法(1d)が記載されている。
そうすると、刊行物1の上記記載(特に上記(1a)(1d))から、刊行物1には、
「食品の高カロリー物質の全部または一部を、15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および多くても4500g/molの数平均分子量Mnを有する、カロリー値の低減という点で有効量の分枝マルトデキストリンで置換することからなる工程を含む低減したカロリー値を有する食品を調製する方法であって、小麦粉、脂肪、スクロース、水、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、塩、バニラ、レシチンからなる生地から製造されるビスケットについて、高カロリー物質の脂肪及びスクロースを、生地100g当たり、標準ビスケットではそれぞれ15.9g、17.8gを含むのに対し、それぞれ12.4g、15.1gに減らし、減らした分の脂肪3.5gとスクロース2.7gを分枝マルトデキストリン6.2gに置換した、低減したカロリー値を有するビスケットを調整する方法。」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「小麦粉、脂肪、スクロース、水、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、塩、バニラ、レシチンからなる生地から製造されるビスケット」について、刊行物1には、ビスケットの製造には混合工程と焼き工程があること(1c)、また、実施例1のビスケットの製法では、ロータリーオーブンで10分間200℃で加熱すること(1d)が記載されていることから、焼成した製品といえるので、刊行物1発明の「小麦粉、脂肪、スクロース、水、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、塩、バニラ、レシチンからなる生地から製造されるビスケット」は、本願発明の「焼成品」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「スクロース」は糖の一種であるので、刊行物1発明の「スクロース」は、本願発明の「糖」に相当する。

(ウ)刊行物1発明の「15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および多くても4500g/molの数平均分子量Mnを有する、カロリー値の低減という点で有効量の分枝マルトデキストリン」について、刊行物1を参照すると、不消化特性を示し、その結果カロリー値を低減させる旨、記載されていることから(1c)、刊行物1発明の「15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および多くても4500g/molの数平均分子量Mnを有する、カロリー値の低減という点で有効量の分枝マルトデキストリン」は、本願発明の「消化に対して抵抗性のある少なくとも1種のマルトデキストリン」に相当する。

(エ)刊行物1発明の「高カロリー物質の脂肪及びスクロースを、生地100g当たり、標準ビスケットではそれぞれ15.9g、17.8gを含むのに対し、それぞれ12.4g、15.1gに減らし」て、「低減したカロリー値を有するビスケットを調整する」ことと、本願発明の「焼成品において該糖の含有量が0?約10重量%であるように該糖を減少させ又は排除する」こととは、「焼成品において糖を減少させ又は排除する」点で共通する。

(オ)刊行物1発明の「減らした分の脂肪3.5gとスクロース2.7gを分枝マルトデキストリン6.2gに置換した」ことと、本願発明の「糖の代わりに増量剤を用いることを含み」、「該増量剤が、消化に対して抵抗性のある少なくとも1種のマルトデキストリン、少なくとも1種のバルク甘味料、及び少なくとも1種の乳化剤を含む」こととは、「糖の代わりに、消化に対して抵抗性のある少なくとも1種のマルトデキストリンを用いることを含む」点で共通する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
糖の代わりに、消化に対して抵抗性のある少なくとも1種のマルトデキストリンを用いることを含み、焼成品において糖を減少させ又は排除する方法。

(相違点1)
「焼成品において糖を減少させ又は排除する」際に、本願発明では、「糖の含有量が0?約10重量%であるように該糖を減少させ又は排除する」のに対し、刊行物1発明では、スクロースを15.1gに減らしている点。

(相違点2)
「糖の代わりに、消化に対して抵抗性のある少なくとも1種のマルトデキストリンを用いる」際に、本願発明では、消化に対して抵抗性のある少なくとも1種のマルトデキストリンに加えて、「少なくとも1種のバルク甘味料、及び少なくとも1種の乳化剤」を含む「増量剤」とするのに対し、刊行物1発明では、「少なくとも1種のバルク甘味料、及び少なくとも1種の乳化剤」を含む「増量剤」としていない点。

そこで、上記相違点は相互に関連するので、以下、あわせて検討する。

(相違点1及び相違点2について)
刊行物1発明は、食品の高カロリー物質の全部または一部を、「15から35%の1→6グルコシド結合、20%未満の還元糖含量、5未満の高分子係数、および多くても4500g/molの数平均分子量Mnを有する、カロリー値の低減という点で有効量の分枝マルトデキストリン」で置換するものであり、刊行物1発明の「高カロリー物質」とは、刊行物1を参照すると、スクロース、デキストロース、ラクトース、マルトース、フルクトース、グルコースシロップ、マルトデキストリンとの糖を含むものである(1a)。
また、刊行物1を参照すると、「分枝マルトデキストリン」がソルビトール、マルチトール、キシリトールなどのポリオールと同時に存在する方法がさらに記載されており(1a)、ソルビトールなどのポリオールは甘味料の一種であることは技術常識であって、ソルビトールなどのポリオールでスクロースを置換することが背景技術において行われていたことが記載されている(1b)。
そして、刊行物1発明のビスケットについて、刊行物1を参照すると、多くても40重量%の糖を分枝マルトデキストリンで置換することで優れた結果を得たこと、糖を40%より多く置換するとビスケットの甘味は維持されないことが記載されており(1c)、分枝マルトデキストリンで糖を置換する場合に、40重量%より多くの糖を分枝マルトデキストリンで置換すると、甘味が維持されずに好ましくない旨、記載されている。
すると、上記のとおり刊行物1に記載された「分枝マルトデキストリン」がソルビトール、マルチトール、キシリトールなどのポリオールと同時に存在する方法は、ソルビトール等のポリオールが甘味料の一種であって甘味を有することを考えれば、40重量%よりも多くの糖を置換する場合において、甘味を維持することができて有効であることは、当業者が当然に考えつくことである。
そうすると、刊行物1発明の低減したカロリー値を有するビスケットを調整する方法において、カロリー値の低減という観点から、分枝マルトデキストリンと、ソルビトールなどのポリオールとを同時に存在するようにして、甘味を維持しつつ、より多くの高カロリー物質であるスクロースを置換して、ビスケットに含まれるスクロースの含有量をより多く減らすことは、刊行物1の上記記載から当業者が容易に想到し得たことであり、そして、これによりビスケットにおけるソルビトールの含有量を、0?約10重量%程度となるようにすることは、当業者が適宜になし得たことである。
そして、水性原料と油性原料とを混合させて製造するビスケットなどの焼成菓子の原料の調整において、必要に応じて乳化剤を添加することは、例えば下記刊行物A?Cに記載のように本願出願前の周知の事項であるので、分枝マルトデキストリンとソルビトールなどのポリオールとを同時に存在させる際に乳化剤をも同時に存在させるようにして”剤”として構成することも、ビスケットなどの食品を製造するにあたっての原料調整における具体化手段の一つであり、当業者が適宜になし得たことであるし、また、この剤は、従来の形態のビスケットに匹敵する技術的かつ感覚的特性を示す(1c)程度にビスケットとしての重量や体積を維持しつつ、かつ、甘味も維持するように、スクロースと置き換えるために使用される剤であることからすると、これをビスケットとの焼成品における”増量剤”として表現することも、当業者が容易になし得たことである。

刊行物A:特開2000-83569号公報(段落【0018】、段落【0020】表2)表2には、小麦粉組成物や砂糖と共に乳化剤を含んだビスケット用ミックスが記載されている。
刊行物B:特開2000-41569号公報(段落【0025】)小麦粉、粉末状の乳製品、膨張剤と共に必要に応じて乳化剤を混合することが記載されている。
刊行物C:特開平3-251136号公報(第2頁右上欄10行?右下欄16行)親水性の乳化剤を混合してもよいことが記載されている。

(本願発明の効果について)
本願の明細書の段落【0009】?【0010】などに記載された、本願発明の増量剤が、他の成分の再配合及び/又はプロセスの変更を必要とすることなく、焼成製品における糖の直接的な1対1の代替品として供することや、2.4kcal/g未満のカロリー量に配合され得る低カロリー焼成品の配合に使用され得ることなどの本願発明の効果は、刊行物1に記載された発明についても、従来の形態の同一食品に匹敵する技術的かつ感覚的特性を示す低減したカロリー値の食品の開発を目的としたものであって、得られた食品の特性と、その製造に従来の技術を使用できる、低減したカロリー値を有する食品である旨、記載されていることからすると(1c)、刊行物1に記載された事項及び周知の技術から当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-11 
結審通知日 2013-04-16 
審決日 2013-04-30 
出願番号 特願2006-528277(P2006-528277)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨士 良宏  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 菅野 智子
齊藤 真由美
発明の名称 焼成品用の増量剤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 加藤 憲一  
代理人 小林 良博  
代理人 加藤 憲一  
代理人 永坂 友康  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 永坂 友康  
代理人 石田 敬  
代理人 小林 良博  

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