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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1279261
審判番号 不服2012-13525  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-13 
確定日 2013-09-11 
事件の表示 特願2008-504704「最も精密な光学品質を有するレンズ基材の表面に被覆層を転写する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日国際公開、WO2006/105995、平成20年 9月 4日国内公表、特表2008-536171〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年4月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年4月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年12月16日付けで手続補正がなされ、平成24年3月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月13日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成24年7月13日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成24年7月13日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成24年7月13日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、本件補正前の請求項1に、

「少なくとも1つの被覆層を、レンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面上に転写する方法であって、
(a)少なくとも1つの機能被覆層を担持する主面を有する担体を得る工程と、
(b)少なくとも1つの幾何学的に定義される面を有するレンズ基材であって、前記レンズ基材の幾何学的に定義される面は、球面状、円環状、または累進状の面であるレンズ基材を得る工程と、
(c)前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかの上に、透明接着組成物を成膜する工程と、
(d)前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に処理条件下で流動不可状態になっていない場合は、前記層を硬化状態である流動不可状態にする工程と、
(e)前記透明接着組成物層を、前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面、または前記少なくとも1つの機能被覆層のいずれかに直接接触させるように、前記担体と前記レンズ基材とを互いに対して相対的に移動させる工程と、
(f)前記透明接着組成物層を、前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかと共に加圧する工程と、
(g)場合によっては設けられる、加圧工程(f)の間に熱を加える工程と、
(h)加圧工程(f)を停止する工程と、
(i)前記担体を廃棄して、前記透明接着組成物層を介して前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に接着する前記少なくとも1つの機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程とを含む方法。」とあったものを、

「少なくとも1つの被覆層を、レンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面上に転写する方法であって、
(a)少なくとも1つの機能被覆層を担持する主面を有する担体を得る工程と、
(b)少なくとも1つの幾何学的に定義される面を有するレンズ基材であって、前記レンズ基材の幾何学的に定義される面は、球面状、円環状、または累進状の面であるレンズ基材を得る工程と、
(c)前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかの上に、透明接着組成物を成膜する工程と、
(d)前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に処理条件下で流動不可状態になっていない場合は、少なくとも移動工程(e)および加圧工程(f)の前に、前記層を予備硬化または乾燥することによって硬化状態である流動不可状態にする工程と、
(e)前記透明接着組成物層を、前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面、または前記少なくとも1つの機能被覆層のいずれかに直接接触させるように、前記担体と前記レンズ基材とを互いに対して相対的に移動させる工程と、
(f)前記透明接着組成物層を、前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかと共に加圧する工程と、
(g)場合によっては設けられる、加圧工程(f)の間に熱を加える工程と、
(h)加圧工程(f)を停止する工程と、
(i)前記担体を廃棄して、前記透明接着組成物層を介して前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に接着する前記少なくとも1つの機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程とを含む方法。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「(d)前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に処理条件下で流動不可状態になっていない場合は、前記層を硬化状態である流動不可状態にする工程」が、「少なくとも移動工程(e)および加圧工程(f)の前」の工程であること、及び、該工程における「硬化状態である流動不可状態にする」手段が「前記層を予備硬化または乾燥すること」であることを限定するものである。

2 本件補正の目的
本件補正後の請求項1に係る上記1(2)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第01/92006号(以下「引用例」という。)」には、次の事項が記載されている。
(1)「技術分野
本発明は低反射層を有する転写箔及びこれを用いた成型品の製造方法に関し、より詳細には、表面反射防止性に優れた低反射層を有する転写箔、これを用いた成型品の製造方法に関する。」(1頁4?7行)

(2)「背景技術
近年、プラスチック成型技術の進歩に伴い、成型品の多様化が進められるなかで、これらのプラスチック成型品には、より一層の高品質化が要求されている。
例えば、プラスチック成型品の表面に絵付けを施すことにより、プラスチック成型品の高級意匠化を図る方法がある。絵付け方法としては、熱転写法、水転写法、スクリーン印刷法、パッド印刷法等の成型後に行う方法、インサート成型法等の成型と同時に行う方法がある(例えば、特開平6-247058号公報、合成樹脂、VOL.37、No.5(1991.5.)等)。
また、プラスチック成型品の用途によっては、耐擦傷性、帯電防止、ハードコート、反射防止等の各機能を必要とするものがある。これらの要求に対しては、上記各機能を有する層を成型品の上に順次接着させる方法等が提案されている
(例えば、特開平7-148881号公報、特開平10-235770号公報、特開平11-326602号公報等)。
しかし、成型品の表面に絵付けしたり、各機能層を形成したりする方法では、各工程自体が煩雑で、生産効率が悪くなるとともに、製造コストが増大して安価な最終製品を得ることができない。また、製品の成型後に絵付けしたり、各機能層を接着させたりする場合には、成型品の3次元の曲面や微細な凹凸を有する面への絵付けや各機能層の強力な接着が困難であり、各層のはがれ等の物理的な損傷が生じやすくなる。
一方、製品の成型と同時に絵付けを行う方法では、製造工程を簡略化することができるが、各機能をさらに付与するためには、やはり絵付けした成型品の表面に、別途各機能層を接着させざるを得ず、製造コストの低減及び各機能層の物理的な損傷を防止するには至っていないのが現状である。」(1頁9行?2頁3行)

(3)「発明の開示
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、製品の成型と同時に機能層を転写することにより、製造工程の簡略化及び製造コストの抑制を図りながら、簡易かつ確実・強力に、成型品の表面に反射防止性、耐擦傷性、耐光性、帯電防止性、電磁波遮蔽性等の高機能及び多機能化を付与することができる低反射層を有する転写箔、これを用いた成型品の製造方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明によれば、離型性を有する基体フィルム上に透明低反射層、保護層及び接着層が順次積層されてなる低反射層を有する転写箔が提供される。
また、本発明によれば、上記転写箔を射出成型金型内に挟み込み、接着層側に溶融樹脂組成物を射出することにより樹脂成型品を形成するのと同時に、該樹脂成型品の表面に前記転写箔を接着させ、その後離型性を有する基体フィルムを剥離するか、あるいは、上記転写箔の接着層側を成型品に重ね、基体フィルム上から熱圧をかけることにより成型品の表面に前記転写箔を接着させ、その後離型性を有する基体フィルムを剥離することからなる低反射層を有する成型品の製造方法が提供される。」(2頁5?19行)

(4)「発明の実施の形態
本発明の低反射層を有する転写箔(以下、単に「転写箔」と記す)は、主として、剥離性を有する基体フィルム上に、透明低反射層、保護層及び接着層が順次積層されて構成される。
本発明に用いることができる基体フィルムの材料は特に限定されるものではないが、変形又は屈曲可能なプラスチックによるフィルムが適当である。例えば、ポリエステル、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリビニルアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリウレタン等の延伸又は未延伸の透明プラスチックフィルム等が挙げられる。基体フィルムの厚みは特に限定されるものではなく、例えば、3?500μm程度が挙げられる。
上記の基体フィルム自体は、後述する透明低反射層を基体フィルムから剥離した際に基体フィルム側に透明低反射層が全く移らないような離型性を有しているか、付与されたもの(例えば、ワックス類、高級脂肪酸の塩又はエステル類、フッ化アルキル化化合物、ポリビニルアルコール、低分子量ポリエチレン等の離型剤が添加される等)であれば、離型性を有する基体フィルムとして使用することができる。
また、上記基体フィルムが、透明低反射層に対して、十分な離型性を有しないものであれば、基体フィルム上であって、透明低反射層との間に、離型層を形成することが適当である。
離型層は、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシメラミン系樹脂、アミノアルキッド系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂又はこれらの複合型樹脂等により形成することができる。
離型層は、例えば、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法、リップコート法、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法、押出しコート法、スクリーンコート法等のそれ自体公知の方法により、上記材料を基体フィルム上に塗布し、乾燥又は硬化して形成することができる。この場合の離型層の厚みは、例えば、0.1?10μm程度が挙げられる。
透明低反射層は、被転写物(例えば、樹脂成型品等)、後述する保護層及び/又は接着層等の屈折率を低減させることができる層、例えば、入射光の20%程度以下、好ましくは10%程度以下、さらに好ましくは5%程度以下に反射光を抑える機能を有する層であれば、どのような材料から構成されていてもよい。このような機能を付与するためには、例えば、表面に微細な凹凸を有した層とする方法、所定の屈折率を有する層とする方法、2以上の異なる屈折率を有する膜の積層構造とする方法等種々の方法が挙げられる。
いずれの方法においても、屈折率は、例えば、1.3?1.9程度が挙げられる。特に、透明低反射層が1層で形成される場合には、1.3?1.5程度の屈折率を有することが好ましい。また、2種の異なる屈折率を有する積層構造である場合には、その屈折率の組み合わせは特に限定されるものではないが、例えば、一方の層が1.3?1.5程度の屈折率、他方の層が1.5?1.9の屈折率を有するように形成されていることが好ましい。この場合、低屈折率の層が離型性を有する基体フィルム側に配置するように、好ましくは基体フィルムに接触するように、言い換えると、後に本発明の転写箔が成型品に転写された場合に最表面に配置するように積層されることが好ましい。
屈折率が1.3?1.5程度の層は、単層で形成されていても、屈折率が異なる層とともに積層構造で形成されていても、例えば、フルオロオレフィン系共重合体、含フッ素脂肪族環構造を有するポリマー、パーフルオロアルキルエーテル系コポリマー、含フッ素(メタ)クリレートポリマーの1種又は2種以上の混合物等により形成することができる。
屈折率が1.5?1.9程度の層は、例えば、ポリアルキル(メタ)アクリレート(例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート等)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルナフタレン、ポリビニルカルバゾール等の1種又は2種以上の混合物等により形成することができる。
透明低反射層の厚みは、例えば、0.01?5.01μm程度が挙げられる。なかでも、所定の屈折率を有する単層の低反射層の場合には、0.01?0.2μm程度、好ましくは0.08?0.15μm程度が挙げられる。2種の異なる屈折率を有する膜の積層構造で形成されている場合には、低屈折率層の厚みは、例えば、0.01?0.2μm程度、好ましくは0.08?0.15μm程度が挙げられ、高屈折率層の厚みは、例えば、0.01?5.0μm程度、好ましくは0.08?5.0μm程度が挙げられる。なお、低屈折率層と高屈折率層との厚みは必ずしも同じでなくてもよい。
透明低反射層は、離型層と同様に、それ自体公知の方法で形成することができる。
保護層は、被転写物、後述する接着層、絵柄層等を擦傷、湿度、酸素、光等から保護する機能を有しているものであれば、どのような層であってもよい。保護層を形成する材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、透明樹脂層が挙げられる。保護層は、透明低反射層の上に、例えば、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法、リップコート法、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法、押出しコート法、スクリーンコート法等のそれ自体公知の方法により塗布し、乾燥して形成することができる。この場合の厚みは、例えば、1?50μm程度が挙げられる。
本発明においては、保護層は、ハードコート機能を有しているものが好ましく、ハードコート機能に加えてさらに帯電防止機能、電磁波遮蔽機能及び耐光性機能のうちの少なくとも1つ以上を有しているものがより好ましい。
「ハードコート機能」とは、被転写物等にそれよりも高硬度を付与し得るものであればよく、例えば、JIS-K5400で示される鉛筆硬度試験で2H以上の硬度を付与しうるもの、スチールウール摩耗において#000スチールウールに300g/cm^(2)の荷重をかけ、可動距離2cm、2往復/秒で50往復後の表面に傷がつかない機能を付与しうるもの又はテーバー摩耗においてCS-10F輪で荷重500gで100回転後、ΔHが10以下となる機能を付与しうるもの等が挙げられる。
ハードコート機能は、保護層を、紫外線、電子線等の活性エネルギー線照射硬化型樹脂、熱硬化型樹脂等により形成することにより付与することができる。
…略…
接着層としては、例えば、アクリル系樹脂、塩素化オレフィン系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、マレイン酸系樹脂、塩化ゴム系樹脂、環化ゴム系樹脂、ポリアミド系樹脂、クマロンインデン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。接着層の厚みは、例えば0.1?10μm程度が挙げられる。接着層の形成は、離型層と同様に、それ自体公知の方法により形成することができる。
本発明においては、保護層と接着層との間に絵柄層が形成されていてもよい。絵柄層は、文字、模様等のいわゆる絵柄を、公知の顔料や染料等の着色材を含んだ各種印刷インキにて形成された層を意味する。絵柄層は、保護層と接着層をの間に均一に形成されている必要はなく、絵柄、色彩等に応じて、例えば、0?50μm程度の範囲の厚みで形成することができる。
なお、本発明においては、基体フィルムと透明低反射層との間、透明低反射層と保護層との間及び/又は保護層と絵柄層との間にアンカー層が形成されていてもよい。アンカー層は、一種の接着剤層を意味し、例えば、ウレタン系、チタネート系、イソシアネート系、ポリエチレンイミン系等の接着剤により形成することができる。アンカー層の厚みは、例えば0.1?5μm程度が挙げられる。
また、本発明の成型品の製造方法によれば、上記転写箔を、射出成型金型内に挟み込み、接着層側に溶融樹脂を射出することにより樹脂成型品を形成する。これにより、成型品の表面に転写箔を接着させることができ、その後離型性を有する基体フィルムを剥離することにより、成型品表面に、低反射機能と保護機能(ハードコート、帯電防止、電磁波遮蔽及び/又は耐光性機能等)とを付与することができる。
ここで、成型品としては、特に限定されるものではないが、例えば、ワープロ、コンピュータ、テレビ、ディスプレイパネル、携帯電話等の各種のディスプレイ、液晶表示装置等に用いる偏光板の表面、透明プラスチック類からなるサングラスレンズ、度つきめがねレンズ、カメラのファインダーレンズ等の光学レンズ、各種計器の表示部、自動車、電車等の窓ガラス等が挙げられる。なお、これらの成型品は、樹脂以外の材料、例えば、ガラス等により形成されている場合であっても樹脂と同様の効果を発揮することができる。
溶融樹脂組成物としては、上記偏光板の表面、光学レンズ、各種計器の表示部、自動車、電車等の窓ガラス等を構成し得るものであれば、その材料は特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂(ABS、AS、ポリフェニレンオキシドスチレン共重合体等)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリカーボネート樹脂等の溶融状態のものが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、射出成型金型は、樹脂成型品を製造する際に、通常使用されるものであれば、どのようなものでも利用することができる。
また、本発明の別の成型品の製造方法によれば、上記転写箔の接着層側を成型品に重ね、基体フィルム上から熱圧をかけることにより成型品の表面に転写箔を接着させることができ、その後離型性を有する基体フィルムを剥離することにより、成型品表面に、低反射機能と保護機能(ハードコート、帯電防止、電磁波遮蔽及び/又は耐光性機能等)とを付与することができる。
例えば、基体フィルム上からの熱圧は、例えば、シリコンゴムロールを用いて行うことができる。この場合、シリコンゴムロール表面は150?250℃程度の温度、5?20kg/cm^(2)程度の圧力が適当である。」(2頁21行?9頁13行)

(5)「実施例1
膜厚38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レF-39)上に、エポキシメラミン樹脂系離型剤を、グラビア印刷法にて1μmの厚さに塗布して、離型性を有する基体フィルムを得た。
この基体フィルムの上に、屈折率1.34の非晶質透明フッ素系樹脂(旭硝子株式会社製、サイトップCTX-807AP)を用いて低反射層を、グラビアコート法にて塗布した。低反射層の厚さは0.1μmとし、その後、100℃、60秒間、乾燥して透明低反射層を形成した。
透明低反射層上に、保護層として、下記配合のUV樹脂を、厚さ5μmで塗布した。
・ウレタンアクリレート系オリゴマー(荒川化学社製ビームセット575CB)15重量%、
・ウレタンアクリレート系ポリマー(荒川化学社製ビームセットNK-3)30重量%、
・光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184)4重量%、
・反応型紫外線吸収剤(大塚化学社製RUVA-206)6重量%、
・メチルエチルケトン25重量%、
・アノン20重量%
続いて、150℃、20秒間、溶剤乾燥を行い、その後、紫外線を400mJ/cm^(2)で照射して、ハードコート及び耐光性機能を有する保護層を形成した。
保護層の上に、絵柄層としてアクリル系インキにより所定の柄を、さらにその上に、接着剤層としてアクリル系樹脂層をグラビアコート法によって、順次印刷形成して、転写箔を形成した。
実施例2
実施例1で得られた透明低反射層を有する転写箔を、射出成型金型に挟み込み、この金型を55℃に加熱した。」(9頁17行?10頁15行)

(6)「実施例7
実施例2、4及び6で得られた透明低反射層を有する転写箔の接着層に、射出成型によってアクリル樹脂(三菱レーヨン社製、アクリペットVH)で形成された成型品を重ね合わせ、基体フィルム側から硬度80度のシリコンラバーのロールで加熱及び加圧して、転写箔を成型品に接着させた。加熱条件は、シリコンラバーの表面温度が230℃であり、加圧は10kg/cm^(2)とした。
その後、基体フィルムをはがすことにより、表面に低反射層を有し、ハードコート機能と、耐光性機能、帯電防止機能又は電磁波遮蔽機能とを有する携帯電話用のディスプレイカバーを得た。」(13頁4?12行)

(7)「本発明によれば、離型性を有する基体フィルム上に、透明低反射層、保護層及び接着層が順次積層されてなるため、低反射機能と保護機能との多機能を有する転写箔を提供することができる。
特に、透明低反射層が有機ポリマーからなり、屈折率が1.3?1.5、膜厚が0.08?0.12μmである場合、あるいは透明低反射層が、有機ポリマーからなり、屈折率が異なる2層から構成され、一方の層の屈折率が1.3?1.5、膜厚が0.08?0.15μmであり、他方の層の屈折率が1.5?1.9、膜厚が0.08?5.0μmであり、屈折率が低い層が離型性を有する基体フィルムに接触するように積層されてなる場合には、より低反射機能を付与することができる。
また、保護層が、ハードコート機能を有する場合、さらに、帯電防止機能、電磁波遮蔽機能及び耐光性機能のうちの少なくとも1つ以上を有する場合には、多層構造となることなく、多機能を有することができ、物理的なはがれ等を防止することができるとともに、各機能層を有する層を、最終的により外周に配置させることができるため、より一層各機能を確実に発揮させることができる。
さらに、保護層と接着層との間に絵柄層が設けられてなる場合には、高級意匠化という付加価値をより一層向上させることができる。
また、低反射層を有する転写箔を射出成型金型内に挟み込み、接着層側に溶融樹脂を射出することにより樹脂成型品を形成するのと同時に、該樹脂成型品の表面に前記転写箔を接着させるか、あるいは低反射層を有する転写箔の接着層側を樹脂成型品に重ね、基体フィルム上から熱圧をかけることにより樹脂成型品の表面に前記転写箔を接着させて、その後離型性を有する基体フィルムを剥離する場合には、成型品の表面に反射防止機能と、保護機能(例えば、耐擦傷性、耐光性、帯電防止性、電磁遮蔽性等)等の高機能及び多機能化を、簡易に、かつ強力に付与することができ、製造工程の簡略化、製造コストの低減を実現し、ひいては成型品の付加価値を向上させながら、価格の低減を図ることができる。」(14頁23行?15頁20行)

(8)「 請求の範囲
1. 離型性を有する基体フィルム上に、透明低反射層、保護層及び接着層が順次積層されてなることを特徴とする低反射層を有する転写箔。
…略…
13.請求項1に記載の低反射層を有する転写箔の接着層側を成型品に重ね、基体フィルム上から熱圧をかけることにより成型品の表面に前記転写箔を接着させ、その後離型性を有する基体フィルムを剥離することからなる低反射層を有する成型品の製造方法。
…略…
17.請求項12又は13の方法により形成され、接着層、保護層及び透明低反射層がこの順に成型品の表面に積層されてなる成型品。
18.成型品が、ワープロ、コンピュータ、テレビ、ディスプレイパネル、携帯電話等の各種のディスプレイ、液晶表示装置等に用いる偏光板の表面、透明プラスチック類からなるサングラスレンズ、度つきめがねレンズ、カメラのファインダーレンズ等の光学レンズ、各種計器の表示部、自動車、電車等の窓ガラスである請求項17に記載の成型品。」(16頁1行?18頁2行)

(9)透明プラスチック類からなるサングラスレンズ、度つきめがねレンズ、カメラのファインダーレンズ等の光学レンズを準備するためには、透明プラスチック類から、サングラスレンズ、度つきめがねレンズ、カメラのファインダーレンズ等の光学レンズを得る工程が存在することが明らかであるから、上記(1)ないし(8)から、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「ポリエチレンテレフタレートフィルム上に離型剤を塗布して離型性を有する基体フィルムを得る工程と、この基体フィルムの上に非晶質透明フッ素系樹脂を用いて低反射層を塗布し乾燥して透明低反射層を形成する工程と、透明低反射層上に保護層としてUV樹脂を塗布し続いて溶剤乾燥を行いその後紫外線を照射してハードコート及び耐光性機能を有する保護層を形成する工程と、保護層の上に接着剤層としてアクリル系樹脂層を印刷形成する工程とからなる、低反射層を有する転写箔を形成する第1工程と、
透明プラスチック類から、サングラスレンズ、度つきめがねレンズ、カメラのファインダーレンズ等の光学レンズを得る第2工程と、
前記転写箔の接着剤層側を、前記光学レンズの表面に重ねる第3工程と、
基体フィルム上から熱圧をかけることにより前記光学レンズの表面に前記転写箔を接着させる第4工程と、
その後離型性を有する基体フィルムを剥離する第5工程とからなる、
低反射層を有する光学レンズの製造方法。」(以下「引用発明」という。)

4 対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「『透明低反射層』、『ハードコート及び耐光性機能を有する保護層』」、「光学レンズ」、「表面」、「基体フィルム」、「基体フィルムを得る工程」、「光学レンズを得る第2工程」、「『接着剤』としての『アクリル系樹脂』」、「保護層上に接着剤層としてアクリル系樹脂層を印刷形成する工程」、「印刷形成する」、「『接着剤層』、『アクリル系樹脂層』」、「前記転写箔の接着剤層側を、前記光学レンズの表面に重ねる第3工程」、「重ねる」、「基体フィルム上から熱圧をかけることにより前記光学レンズの表面に前記転写箔を接着させる第4工程」、「離型性を有する基体フィルムを剥離する第5工程」及び「低反射層を有する光学レンズの製造方法」は、それぞれ、本願補正発明の「『被覆層』、『機能被覆層』」、「レンズ基材」、「少なくとも1つの幾何学的に定義される面」、「担体」、「担体を得る工程」、「レンズ基材を得る工程」、「透明接着組成物」、「透明接着組成物を成膜する工程」、「成膜する」、「透明接着組成物の層」、「前記担体と前記レンズ基材とを互いに対して相対的に移動させる工程」、「直接接触させる」、「『加圧する工程』、『加圧工程(f)の間に熱を加える工程』」、「機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程」及び「転写する方法」に相当する。

(2)引用発明の「転写する方法(低反射層を有する光学レンズの製造方法)」は、「機能被覆層(低反射層)」を有する転写箔の接着剤層側を、「レンズ基材(光学レンズ)」の「少なくとも1つの幾何学的に定義される面(表面)」に重ねる第3工程と、「担体(基体フィルム)」上から熱圧をかけることにより前記「レンズ基材」の「少なくとも1つの幾何学的に定義される面」に前記転写箔を接着させる第4工程と、その後離型性を有する「担体」を剥離する第5工程とからなり、「機能被覆層」を有する「レンズ基材」を製造する方法であるから、「機能被覆層」を転写箔から「レンズ基材」に転写しており、本願補正発明の「転写する方法」と、「少なくとも1つの被覆層を、レンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面上に転写する」点で一致する。

(3)引用発明の「担体(基体フィルム)」は、その上に非晶質透明フッ素系樹脂を用いて低反射層を塗布し乾燥して「機能被覆層(透明低反射層)」を形成するから、本願補正発明の「担体」と、「少なくとも1つの機能被覆層を担持する主面を有する」点で一致する。

(4)引用発明の「レンズ基材(光学レンズ)」は、サングラスレンズ、度つきめがねレンズ、カメラのファインダーレンズ等であるところ、「少なくとも1つの幾何学的に定義される面」を表面あるいは裏面として有していることは当業者に自明であり、例えば、それが度つきめがねレンズの場合には、一方の面は、球面状、円環状、または累進状の面であるといえる。
したがって、引用発明の「レンズ基材」と本願補正発明の「レンズ基材」とは「少なくとも1つの幾何学的に定義される面を有するレンズ基材であって、前記レンズ基材の幾何学的に定義される面は、球面状、円環状、または累進状の面であるレンズ基材」である点で一致するといえる。

(5)引用発明の「透明接着組成物を成膜する工程」は、保護層上に接着剤層としてアクリル系樹脂層を印刷形成する工程であるから、上記(1)に照らせば、「機能被覆層上に透明接着組成物を成膜する工程」であり、本願補正発明の「(c)前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかの上に、透明接着組成物を成膜する工程」と、「前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する」点で一致する。

(6)引用発明の「透明接着組成物の層(接着剤層であるアクリル系樹脂層)」は、「(c)前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する工程」で形成され、該工程の終了により低反射層を有する転写箔が形成されるから、もはや「透明接着組成物の層」は処理条件下で流動不可状態になっているものと解される。
また、本願補正発明においても「前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に硬化状態である流動不可状態になっている場合」は流動不可状態にするために前記層を予備硬化または乾燥する必要はないから、「前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に硬化状態である流動不可状態になっている場合」は本願補正発明も工程(d)を含んでいないものと解される。
したがって、引用発明の「転写する方法(低反射層を有する光学レンズの製造方法)」と本願補正発明の「転写する方法」とは、「前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に硬化状態である流動不可状態になっている場合は、少なくとも移動工程(e)および加圧工程(f)の前に、前記層を予備硬化または乾燥することによって硬化状態である流動不可状態にする工程を含まない」点で一致する。

(7)引用発明の「前記担体と前記レンズ基材とを互いに対して相対的に移動させる工程」は、前記転写箔の接着剤層側を、前記光学レンズの表面に重ねる第3工程であるから、上記(1)に照らせば、前記転写箔の「透明接着組成物層」側を、前記「レンズ基材」の「少なくとも1つの幾何学的に定義される面」に「直接接触させる」工程であり、本願補正発明の「(e)前記透明接着組成物層を、前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面、または前記少なくとも1つの機能被覆層のいずれかに直接接触させるように、前記担体と前記レンズ基材とを互いに対して相対的に移動させる工程」と、「(e)前記透明接着組成物層を、前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に直接接触させるように、前記担体と前記レンズ基材とを互いに対して相対的に移動させる工程」である点で一致する。

(8)引用発明の「加圧する工程」は、基体フィルム上から熱圧をかけることにより前記光学レンズの表面に前記転写箔を接着させる第4工程であり、低反射層を有する転写箔は、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に離型剤を塗布して離型性を有する基体フィルムを得る工程と、この基体フィルムの上に非晶質透明フッ素系樹脂を用いて低反射層を塗布し乾燥して透明低反射層を形成する工程と、透明低反射層上に保護層としてUV樹脂を塗布し続いて溶剤乾燥を行いその後紫外線を照射してハードコート及び耐光性機能を有する保護層を形成する工程と、保護層の上に接着剤層としてアクリル系樹脂層を印刷形成する工程とからなる第1工程により形成されるから、前記転写箔は、熱圧をかけられる基体フィルムと光学レンズの表面との間に、透明低反射層、保護層及び接着剤層を基体フィルムからこの順に有しており、基体フィルム上から熱圧をかけると、透明低反射層、保護層及び接着剤層にも熱圧がかけられることになる。
したがって、引用発明の「加圧する工程」は、上記(1)に照らせば、「担体(基体フィルム)」上から熱圧をかけることにより前記「レンズ基材(光学レンズ)」の「少なくとも1つの幾何学的に定義される面(表面)」に前記転写箔を接着させる工程であり、「透明接着組成物層」を、「少なくとも1つの機能被覆層」と共に加圧する工程であるといえるから、本願補正発明の「(f)前記透明接着組成物層を、前記少なくとも1つの機能被覆層、または前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面のいずれかと共に加圧する工程」と、「(f)前記透明接着組成物層を、前記少なくとも1つの機能被覆層と共に加圧する工程」である点で一致する。

(9)引用発明の「転写する方法(低反射層を有する光学レンズの製造方法)」が、「加圧する工程(基体フィルム上から熱圧をかけることにより前記光学レンズの表面に前記転写箔を接着させる第4工程)」の後、「機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程(離型性を有する基体フィルムを剥離する第5工程)」の前に、本願補正発明の「(h)加圧工程(f)を停止する工程」を有していることは当業者に自明である。

(10)引用発明の「機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程」は、離型性を有する基体フィルムを剥離する第5工程であり、第4工程において、「担体(基体フィルム)」上から熱圧がかけられた「機能被覆層(透明低反射層、保護層)」は(上記(8)参照。)、「透明接着組成物層(接着剤層)」を介して「レンズ基材(光学レンズ)」の「少なくとも1つの幾何学的に定義される面(表面)」に接着し前記「レンズ基材」を被覆することになり、かつ剥離した「担体」は廃棄されるものと解されるから、本願補正発明の「機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程」とは、「前記担体を廃棄して、前記透明接着組成物層を介して前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に接着する前記少なくとも1つの機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する」点で一致する。

(11))上記(1)ないし(10)からみて、本願補正発明と引用発明とは、
「少なくとも1つの被覆層を、レンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面上に転写する方法であって、
(a)少なくとも1つの機能被覆層を担持する主面を有する担体を得る工程と、
(b)少なくとも1つの幾何学的に定義される面を有するレンズ基材であって、前記レンズ基材の幾何学的に定義される面は、球面状、円環状、または累進状の面であるレンズ基材を得る工程と、
(c)前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する工程と、
(e)前記透明接着組成物層を、前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に直接接触させるように、前記担体と前記レンズ基材とを互いに対して相対的に移動させる工程と、
(f)前記透明接着組成物層を、前記少なくとも1つの機能被覆層と共に加圧する工程と、
(g)加圧工程(f)の間に熱を加える工程と、
(h)加圧工程(f)を停止する工程と、
(i)前記担体を廃棄して、前記透明接着組成物層を介して前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に接着する前記少なくとも1つの機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程とを含み、
(d)前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に硬化状態である流動不可状態になっている場合は、少なくとも移動工程(e)および加圧工程(f)の前に、前記層を予備硬化または乾燥することによって硬化状態である流動不可状態にする工程を含まない方法。」である点で一致し、相違するところはない。
したがって、本願補正発明は、引用発明と同一の発明であり、本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(12)仮に、上記(6)において、引用発明の「透明接着組成物の層(接着剤層であるアクリル系樹脂層)」が、「(c)前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する工程」の終了により処理条件下で流動不可状態になっているかどうか明らかでないとすると、本願補正発明と引用発明とは、
「少なくとも1つの被覆層を、レンズ基材の少なくとも1つの幾何学的に定義される面上に転写する方法であって、
(a)少なくとも1つの機能被覆層を担持する主面を有する担体を得る工程と、
(b)少なくとも1つの幾何学的に定義される面を有するレンズ基材であって、前記レンズ基材の幾何学的に定義される面は、球面状、円環状、または累進状の面であるレンズ基材を得る工程と、
(c)前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する工程と、
(e)前記透明接着組成物層を、前記レンズ基材の前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に直接接触させるように、前記担体と前記レンズ基材とを互いに対して相対的に移動させる工程と、
(f)前記透明接着組成物層を、前記少なくとも1つの機能被覆層と共に加圧する工程と、
(g)場合によっては設けられる、加圧工程(f)の間に熱を加える工程と、
(h)加圧工程(f)を停止する工程と、
(i)前記担体を廃棄して、前記透明接着組成物層を介して前記少なくとも1つの幾何学的に定義される面に接着する前記少なくとも1つの機能被覆層で被覆された前記レンズ基材を回収する工程とを含む方法。」である点で一致し、「本願補正発明では、『(d)前記透明接着組成物の層が、工程(c)の終了時に処理条件下で流動不可状態になっていない場合は、少なくとも移動工程(e)および加圧工程(f)の前に、前記層を予備硬化または乾燥することによって硬化状態である流動不可状態にする工程』を含むのに対して、引用発明では該工程(d)を含むかどうか明らかでない」点(以下「相違点」という。)で相違することになるが、引用発明では、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に離型剤を塗布して離型性を有する基体フィルムを得る工程と、この基体フィルムの上に非晶質透明フッ素系樹脂を用いて低反射層を塗布し乾燥して透明低反射層を形成する工程と、透明低反射層上に保護層としてUV樹脂を塗布し続いて溶剤乾燥を行いその後紫外線を照射してハードコート及び耐光性機能を有する保護層を形成する工程と、保護層の上に接着剤層としてアクリル系樹脂層を印刷形成する工程とからなる第1工程で低反射層を有する転写箔を形成しているから、転写箔の接着剤層が硬化状態である流動不可状態になるまで乾燥させて転写箔を完成させてから、第3工程ないし第5工程を行うようにすること、すなわち、引用発明において、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得た程度のことである。
したがって、本願補正発明は、仮に、上記(6)において、引用発明の「透明接着組成物の層(接着剤層であるアクリル系樹脂層)」が、「(c)前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する工程」の終了により処理条件下で流動不可状態になっているかどうか明らかでないとしても、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、仮に、上記(6)において、引用発明の「透明接着組成物の層(接着剤層であるアクリル系樹脂層)」が、「(c)前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する工程」の終了により処理条件下で流動不可状態になっているかどうか明らかでないとしても、当業者が本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし28に係る発明は、平成23年12月16日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし28に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年12月16日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したものと認める。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びそれらの記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明の発明特定事項を限定するものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕4」に記載したとおり、本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であり、仮に、引用発明の「透明接着組成物の層(接着剤層であるアクリル系樹脂層)」が、「(c)前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する工程」の終了により処理条件下で流動不可状態になっているかどうか明らかでないとしても、当業者が本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であり、仮に、引用発明の「透明接着組成物の層(接着剤層であるアクリル系樹脂層)」が、「(c)前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する工程」の終了により処理条件下で流動不可状態になっているかどうか明らかでないとしても、当業者が本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。仮に、引用発明の「透明接着組成物の層(接着剤層であるアクリル系樹脂層)」が、「(c)前記少なくとも1つの機能被覆層の上に、透明接着組成物を成膜する工程」の終了により処理条件下で流動不可状態になっているかどうか明らかでないとしても、本願発明は、当業者が本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-10 
結審通知日 2013-04-16 
審決日 2013-04-30 
出願番号 特願2008-504704(P2008-504704)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 博之後藤 慎平  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 最も精密な光学品質を有するレンズ基材の表面に被覆層を転写する方法  
代理人 三和 晴子  
代理人 伊東 秀明  
代理人 渡辺 望稔  

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