• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1279351
審判番号 不服2012-10572  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-06 
確定日 2013-09-19 
事件の表示 特願2006-309360「自動分析装置及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月29日出願公開,特開2008-122333〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成18年11月15日を出願日とする出願で,平成23年8月8日付けで拒絶理由が通知され,同年10月24日付けで手続補正がなされたが,平成24年2月28日付で拒絶査定がされた。これに対し,同年6月6日に拒絶査定不服の審判請求がされ,当審において平成25年3月25日付けで拒絶理由が通知され,同年5月27日付けで手続補正がなされたものである。
本願の請求項1?11に係る発明は,平成25年5月27日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであって,その請求項1に係る発明は,以下のとおりのものであると認められる。
「試薬を混合して成るもので、複数の分析項目毎に標準検体量よりも増量又は減量した検体試料の反応液量と、当該検体試料の反応液量に対して異なる量の試薬ブランクの反応液量と、前記試薬ブランクの吸光度データとに基づいて試薬ブランク補正値を算出する補正手段と、
前記補正手段により算出された前記試薬ブランク補正値に基づいて前記分析項目毎の濃度を算出する濃度算出手段と、
を具備したことを特徴とする自動分析装置。」(以下,「本願発明」という。)

第2 引用刊行物記載の発明
これに対して,原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前である昭和63年10月4日に頒布された特開昭63-238561号公報(以下,「引用刊行物1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下において下線は当審において付与したものである。
(1-a)「分析測定項目毎に一般患者に必要な使用検体量(V_(0))と微量検体患者に必要な使用検体量(V_(1))との各データからなるテーブルの書き込み用メモリ部及びマイクロコンピュータを有し、そのメモリ部を読み出して検体量を吸引し反応管へ分注する試料分配器と、分析依頼票のデータ入力器と、前記テーブルデータの外部記憶装置と、分析結果のデータを取り込んでデータ処理に使われるマイクロコンピュータとを具備し、入力された分析依頼票のデータから微量検体項目を識別し、その場合にはV_(0)/V_(1)の比により試薬ブランク補正値を演算し,この補正値と一般患者の使用検体量による算出された検量線定数とにより濃度を演算する微量検体項目用演算手段を具備していることを特徴とする,自動生化学分析装置。」(特許請求の範囲)

(1-b)「(ロ)従来技術
従来の多項目自動分析装置では、その項目毎に検体量として血清量及び試薬量を設定し、キヤリブレーシヨン操作を行なうことにより検量線定数を決定し、検体分析を行なつている。
(ハ)発明が解決しようとする問題点
このように、分析依頼項目が決ると、必要となる血清量(採血量)も決るが、この検体量は一般的に大人を対象にして設定されている。
そのため、血液が充分に採れない患者、とくに乳幼児の場合などでは、分析項目数を減らすか、或いは分析装置への適用を2回に分け、一方については全く別の分析条件で実行する必要がある。」(1頁右下欄5?17行)

(1-c)「(ホ)作 用
測定対象項目毎に一般患者の検体分析時の血清量と微量検体患者の検体分析時の血清量をあらかじめ設定しておき、患者毎に一般検体か微量検体かの区別とその分析項目の指示を一般データ処理用に内蔵されたマイクロコンピュータにより試料分配器へ送り、ここでもマイクロコンピュータを有し、そのプログラム制御下で分析必要項目に応じてその必要血清量を一括吸引し、該当反応管に試料を分注させ、微量検体の分析時には一般検体における分析結果を基にして補正したものを演算により出力させる。」(2頁右上欄1?12行)

(1-d)「そして、検体が微量検体患者のものである場合には、その分析結果は演算により補正され、報告書としてプリンタ14から出力される。その補正演算例は、第1図に示されているように、測定された試薬ブランクAbがAb′として補正されており、また濃度Cについてはα・V_(0)/V_(1)の重み係数が求められている。
つまり、微量検体については、試薬ブランク補正値Ab′=(V_(R)+V_(H20)+V_(0))/(V_(R)+V_(H20)+V_(1))・Abとして演算され、
補正濃度C′=α・(V_(0)/V_(1))・[K×(A-Ab′)]が演算される。 ここで、Kは検量線定数、Aは試料吸光度、Abは試薬ブランク値、V_(R)は使用試薬総量、V_(H20)は試料打落し純水量、αはV_(0)/V_(1)理論値補正係数である。」(2頁右下欄13行?3頁左上欄8行)

これらの記載事項によると,引用刊行物1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「分析測定項目毎に一般患者に必要な使用検体量(V_(0))と微量検体患者に必要な使用検体量(V_(1))との各データからなるテーブルの書き込み用メモリ部及びマイクロコンピュータを有し,入力された分析依頼票のデータから微量検体項目を識別し,検体が微量検体患者のものである場合には,その分析結果は,以下の補正演算により補正される自動生化学分析装置。
微量検体については,試薬ブランク補正値Ab′=(V_(R)+V_(H20)+V_(0))/(V_(R)+V_(H20)+V_(1))・Abとして演算され,補正濃度C′=α・(V_(0)/V_(1))・[K×(A-Ab′)]が演算される。
ここで,Kは検量線定数,Aは試料吸光度,Abは試薬ブランク値,V_(R)は使用試薬総量,V_(H20)は試料打落し純水量,αはV_(0)/V_(1)理論値補正係数である。」(以下,「引用発明」という。)

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「試薬ブランク補正値Ab′=(V_(R)+V_(H20)+V_(0))/(V_(R)+V_(H20)+V_(1))・Ab」における「(V_(R)+V_(H20)+V_(1))」について,V_(R)は使用試薬総量,V_(H20)は試料打落し純水量,V_(1)は微量検体患者に必要な使用検体量であるから,本願発明の「試薬を混合して成るもので、」「検体試料の反応液量」に相当している。
ここで,微量検体患者に必要な使用検体量(V_(1))は一般患者に必要な使用検体量(V_(0))に対するもので,摘記事項(1-b)の「分析依頼項目が決ると、必要となる血清量(採血量)も決るが、この検体量は一般的に大人を対象にして設定されている。そのため、血液が充分に採れない患者、とくに乳幼児」を参照するに,微量検体患者に必要な使用検体量(V_(1))は一般患者に必要な使用検体量(V_(0))より少ない量であることは明らかであるから,微量検体患者に必要な使用検体量(V_(1))は一般患者に必要な使用検体量(V_(0))より減量したものといえる。そして,本願明細書の【0005】に「一方、一般患者の標準検体量は、基準値範囲における成分濃度の分析の感度を高めるために増量することが行われる。」と記載されているように,引用発明の「一般患者に必要な使用検体量(V_(0))」は本願発明における「標準検体量」に相当するといえる。
してみれば,引用発明の「(V_(R)+V_(H20)+V_(1))」は,本願発明の「試薬を混合して成るもので、標準検体量よりも増量又は減量した検体試料の反応液量」に相当するものである。

イ 引用発明では「Aは試料吸光度」で,「Abは試薬ブランク値」と記載されており,Abは本願発明の「試薬ブランクの吸光度データ」に相当するから,引用発明の「試薬ブランク補正値Ab′=(V_(R)+V_(H20)+V_(0))/(V_(R)+V_(H20)+V_(1))・Abとして演算」は,本願発明における「試薬ブランクの吸光度データとに基づいて試薬ブランク補正値を算出する補正手段」に相当する。

ウ 本願発明の「試薬ブランクの反応液量」について,本願明細書では「具体的に試薬ブランク補正部40は、試薬ブランクの反応液量Vbtと、標準検査又は再検査により増量又は減量した検体試料の反応液量Vxtとの比(Vbt/Vxt)を求め、この比(Vbt/Vxt)と試薬ブランクの吸光度データEbとを乗算して試薬ブランク補正値Eb′、
Eb′=(Vbt/Vxt)×Eb …(1)
を算出する。試薬ブランクの反応液量Vbtは、予め設定された試料と試薬とを混合した液量である。」と記載されている。ここで「予め設定された試料」と記載されているが,明細書及び図面には,「検体試料」以外の試料について何ら記載されておらず,明細書全体の記載から検体試料以外の具体的な試料について想定されないことから,「予め設定された試料」とは具体的には検体試料のことを表しているものといえる。してみれば,本願発明における「試薬ブランクの反応液量」とは,検体試料と試薬とを混合した液量のことである。
一方,引用発明の「試薬ブランク補正値Ab′=(V_(R)+V_(H20)+V_(0))/(V_(R)+V_(H20)+V_(1))・Ab」における「(V_(R)+V_(H20)+V_(0))」について,V_(R)は使用試薬総量,V_(H20)は試料打落し純水量,V_(0)は分析測定項目毎の一般患者に必要な使用検体量であるから,検体試料と試薬とを混合した液量に相当するものである。そして,引用発明の「試薬ブランク補正値」を求める式「試薬ブランク補正値Ab′=(V_(R)+V_(H20)+V_(0))/(V_(R)+V_(H20)+V_(1))・Ab」は,本願発明の「試薬ブランク補正値を算出する」式として本願明細書に具体的に記載されている「Eb′=(Vbt/Vxt)×Eb」に対応するものであることを鑑みるに,引用発明の(V_(R)+V_(H20)+V_(0))は,「Vbt」すなわち本願発明における「試薬ブランクの反応液量」に相当するといえる。

エ 引用発明において,一般患者に必要な使用検体量を「V_(0)」,微量検体患者に必要な使用検体量を「V_(1)」のように,それぞれ異なる変数で記載しており,上記摘記事項(1-b)の記載からも,「V_(0)」と「V_(1)」とは同一でない,すなわち(V_(R)+V_(H20)+V_(0))と(V_(R)+V_(H20)+V_(1))とは異なる量となることは明らかである。してみれば,前者は本願発明の「検体試料の反応液量」,後者は本願発明の「試薬ブランクの反応液量」に相当するから,本願発明の「検体試料の反応液量に対して異なる量の試薬ブランクの反応液量」が示されている。

オ 引用発明の「補正濃度C′=α・(V_(0)/V_(1))・[K×(A-Ab′)]が演算される」について,引用発明は「分析測定項目毎に」と記載されているから,補正濃度C′は本願発明の「分析項目毎の濃度」に対応する。そして,それは試薬ブランク補正値Ab′を用いて演算されていることから,本願発明における「補正手段により算出された前記試薬ブランク補正値に基づいて前記分析項目毎の濃度を算出する濃度算出手段」に相当する。

カ 引用発明における「自動生化学分析装置」は,本願発明の「自動分析装置」に相当する。

してみると,両者は、
(一致点)
「試薬を混合して成るもので、標準検体量よりも増量又は減量した検体試料の反応液量と、当該検体試料の反応液量に対して異なる量の試薬ブランクの反応液量と、前記試薬ブランクの吸光度データとに基づいて試薬ブランク補正値を算出する補正手段と、前記補正手段により算出された前記試薬ブランク補正値に基づいて前記分析項目毎の濃度を算出する濃度算出手段と、を具備した自動分析装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明では,検体試料の反応液量は「複数の分析項目毎に」標準検体量よりも「増量又は減量する」のに対し,引用発明では,微量検体患者に必要な使用検体量(V_(1))は一般患者に必要な使用検体量(V_(0))より減量したものであるものの,その減量を「複数の分析項目毎に」行うか不明である点。

第4 当審の判断
1 相違点について
上記「第3 対比」「ア」で指摘したように,微量検体患者に必要な使用検体量(V_(1))は一般患者に必要な使用検体量(V_(0))より減量したものといえるが,その減量を「複数の分析項目毎に」行う,すなわち,減量する量を複数の分析項目毎に変えるかどうか不明である。
しかしながら,引用刊行物1の摘記事項(1-c)には「測定対象項目毎に一般患者の検体分析時の血清量と微量検体患者の検体分析時の血清量をあらかじめ設定しておき」と記載されており,摘記事項(1-b)を参照するに「血清量」が「検体量」であるから,測定対象項目毎に一般患者に必要な使用検体量(V_(0))と微量検体患者に必要な使用検体量(V_(1))をあらかじめ設定しておくことが記載されているといえる。ここで,あらかじめ設定しておくV_(0)とV_(1)の量を測定対象項目毎に変える際に,減量する量に対応する(V_(0)-V_(1))が一定になるように変えるよりも,測定対象項目に合わせて(V_(0)-V_(1))も変わるように設定する方が測定対象項目に適合した分析ができることは明らかである。
してみれば,微量検体患者に必要な使用検体量(V_(1))を一般患者に必要な使用検体量(V_(0))より減量して設定する際に,測定対象項目毎に適合した分析ができるように,測定対象項目毎に減量する量を変えること,すなわち,検体試料の反応液量を「複数の分析項目毎に」標準検体量よりも「増量又は減量する」ことは当業者が容易になし得ることである。

そして,本願発明によってもたらされる効果は,引用刊行物1に記載されている事項から,当業者であれば予測できる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。

2 請求人の主張について
請求人は,審判請求書で,引用刊行物1について「上記の通り、通常、一般検体を測定するに当たり、必要となる試薬ブランクは、その一般検体の分注量と同じ量を用いることが一般的であり、引用文献1では、一般患者の使用検体量(V_(0))と微量検体患者の使用検体量(V_(1))とが異なる場合の技術である点を鑑みると、引例文献1において、試薬ブランクと一般患者の使用検体量(V_(0))とが同一量であるものと考えます。
従いまして、引用文献1は、上記本件の構成要件として補正手段と濃度算出手段とは相違し、当該補正手段と濃度算出手段とに相当する技術手段を備えていません。」と主張している。
引用刊行物1において,試薬ブランクとは摘記事項(1-d)に「測定された試薬ブランクAb」と記載されているとおり,Abのことであり,AbとV_(0)とが同一量となることは引用刊行物1のどこにも記載されておらず,引用刊行物1においてそれらが同一量となる根拠もない。請求人は,本願発明の「当該検体試料の反応液量に対して異なる量の試薬ブランクの反応液量」の点で,引用刊行物1記載の事項とは異なる旨の主張をしたものとも想定されるが,本願明細書で「異なる量」について具体的に説明した記載もないことから,本願発明で特定されているとおり,「検体試料の反応液量」と「試薬ブランクの反応液量」とは異なる量であることを特定した以外の技術的意味には解されない。してみれば,「第3 対比」「エ」で検討したように,引用発明においてもそれは満たすことである。
よって,請求人の上記主張は採用することはできない。

3 まとめ
したがって,本願発明は,引用発明に基いて,当業者が容易に発明することができたものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,他の請求項について言及するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2013-07-05 
結審通知日 2013-07-09 
審決日 2013-07-31 
出願番号 特願2006-309360(P2006-309360)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 三崎 仁
信田 昌男
発明の名称 自動分析装置及びその方法  
代理人 峰 隆司  
代理人 中村 誠  
代理人 福原 淑弘  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  
代理人 中村 誠  
代理人 峰 隆司  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  
代理人 峰 隆司  
代理人 中村 誠  
代理人 蔵田 昌俊  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ