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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1279352
審判番号 不服2012-10959  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-12 
確定日 2013-09-19 
事件の表示 特願2007-308186「セメントプレミックス製品」拒絶査定不服審判事件〔平成21年6月18日出願公開、特開2009-132545〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成19年11月29日の出願であって、平成24年1月11日付けの拒絶理由が通知され、同年3月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月27日付けで拒絶査定されたので、同年6月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成24年3月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりのものである。
「セメントとBET比表面積が5?25m^(2)/gの微粉末を含有してなるセメントプレミックス組成物を厚さ60?150μmのポリオレフィンフィルムを用いて包装したセメントプレミックス製品であって、該ポリオレフィンフィルムが2?3層の多層構造からなるものであり、かつ、高密度ポリエチレン層を含み、ポリオレフィンフィルム中の高密度ポリエチレン層の厚さがポリオレフィンフィルムの全体の厚さの20?70%であることを特徴とするセメントプレミックス製品。」

3 刊行物に記載された発明
3-1 引用例1について
(1)引用例1の記載事項
これに対し、本願出願日前に頒布され原査定の拒絶の理由で引用された特開2003-160174号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 結合材と骨材を含有してなるセメントプレミックス組成物を厚さ80?300μmのポリオレフィン系フィルムを用いて包装したセメントプレミックス製品。
【請求項2】 結合材がセメント、石灰系膨張材及び減水剤を主成分とする請求項1記載のセメントプレミックス製品。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主に土木・建築分野で使用される、包装された結合材と骨材を含有してなるセメントプレミックス製品に関する。」
(ウ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、外装クラフト紙と内装薄手ポリエチレン等のプラスティックフィルムで構成された多層袋や、ポリエチレン等のプラスティックを押出しラミネートした紙により作製した包装袋に袋詰めしたセメントプレミックス製品を、品質保証期間を超えて貯蔵した場合、包装袋外部より浸入してくる水分によって、練上り時のモルタル性状の劣悪化(泡の発生、材料分離等)や膨張性能の低下により、硬化体のひび割れ発生や構造体との付着性能が低下するなどの課題があった。・・・」
(エ)「【0007】本発明におけるポリオレフィンフィルムは、特に限定するものではないが、一般にポリエチレン(低密度、高密度、直鎖状低密度)、ポリプロピレン(延伸、未延伸)、エチレン系共重合体(エチレン-酢ビ共重合体樹脂、エチレン-メタアクリル酸エステル等)等の素材が挙げられる。成形性や価格面から袋の素材としてはポリエチレンが好ましい。・・・」
(オ)「【0013】なお、本発明の結合材と骨材からなるセメントプレミックス組成物には、従来から添加されている混和材(例えば、微粉高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石微分、及び粘土鉱物等)、・・・のうち一種又は二種以上を、本発明の目的に影響しない範囲で配合することができる。」
(カ)「【0021】実施例2
セメント100質量部、膨張材5質量部、減水剤0.7質量部、細骨材100質量部をV型ブレンダーにより均一に混合後、各種包装材に一袋当たり25kg充填し、ヒートシールで完全密封したセメントプレミックス製品を、倉庫内に6ヶ月間存置し、存置後のそれぞれのセメントプレミックス製品を水/セメントプレミックス=18%で練混ぜ、モルタルの諸物性を測定した。その結果を表2に示す。測定項目、測定方法は、実施例1と同様である。」
(キ)「【0022】
【表2】


(ク)「【0024】
【発明の効果】本発明のセメントプレミックス製品は、長期間保管しても、製造直後とほぼ同等なモルタル物性を示し、製品価値を損なうことが無い等の優れた効果を奏する。」

(2)引用例1に記載された発明
記載事項(イ)によれば、引用例1には、結合材と骨材を含有するセメントプレミックス製品に関する発明が記載されており、同(ウ)によれば、該セメントプレミックス製品は、「品質保証期間を超えて貯蔵した場合、包装袋外部より侵入してくる水分によって、練上り時のモルタル性状の劣悪化や・・・硬化体のひび割れ発生・・・などの課題」を解決するために、同(ア)によれば、「厚さ80?300μmのポリオレフィン系フィルム」を用いて包装したものであって、同(エ)によれば、ポリオレフィンフィルムとしてはポリエチレンが好ましいものである。
また、引用例1に記載されたセメントプレミックス製品をなす組成物は、同(ア)によれば、結合材としてのセメントと骨材を含有するものであるが、同(オ)によれば、フライアッシュ、シリカフューム等の混和材を添加してもよいとされている。
したがって、引用例1に記載された事項を、本願発明の記載ぶりにそって整理すると、引用例1には次の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されていると認める。
「セメント、骨材及びフライアッシュ、シリカフューム等の混和材を含有してなるセメントプレミックス組成物を、厚さ80?300μmのポリエチレンフィルムを用いて包装したセメントプレミックス製品。」

3-2 引用例2について
(1)引用例2の記載事項
同じく、特開2002-338324号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(サ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)ブレーン比表面積2,500?5,000cm^(2)/gのセメント100重量部と、(B)BET比表面積5?25m^(2)/gの微粒子10?40重量部と、(C)ブレーン比表面積3,000?30,000cm^(2)/gで、かつ上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子20?55重量部と、(D)粒径2mm以下で、かつ75μm以下の粒子の含有量が2.0重量%以下である骨材とを含む水硬性組成物であって、
上記骨材(D)の配合量が、上記セメント(A)と上記微粒子(B)と上記無機粒子(C)の合計量100重量部に対して30?130重量部であることを特徴とする水硬性組成物。」
(シ)「【0006】そこで、本発明は、硬化前には、流動性と材料分離抵抗性に優れ、自己充填性を有するとともに、硬化後には、180MPaを超える圧縮強度を有する等、機械的特性(圧縮強度、曲げ強度等)に優れる水硬性組成物を提供することを目的とする。」
(ス)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定の粒径を有する材料を特定の割合で組み合わせることで、上記目的を達成することができるとの知見を得、本発明に到達した。」
(セ)「【0012】本発明で使用する微粒子(B)としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、・・・等が挙げられる。一般に、シリカフュームやシリカダストは、そのBET比表面積が5?25m^(2)/gであり、粉砕等をする必要がないので、本発明の微粒子として好適である。
【0013】微粒子のBET比表面積は、5?25m^(2)/g、好ましくは8?25m^(2)/gである。該値が5m^(2)/g未満であると、組成物の粒子の充填性に緻密さを欠くため、180MPaを超える圧縮強度が得られ難い等の欠点があり、25m^(2)/gを超えると、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、180MPaを超える圧縮強度が得られ難い等の欠点がある。」
(ソ)「【0031】本発明の水硬性組成物からなるモルタルの混練方法は、特に限定するものではなく、例えば、(a)水、減水剤以外の材料(具体的には、セメント、微粒子、無機粒子、骨材)を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水、減水剤をミキサに投入し、混練する方法、・・・等を採用することができる。」

(2)引用例2に記載された発明
記載事項(シ)(ス)によれば、引用例2に記載された発明は、セメントの硬化前と硬化後に優れた特性を有する水硬性組成物を提供することを目的とし、これを達成するために、「特定の粒径を有する材料を特定の割合で組み合わせる」という手段を採用したものである。
具体的には、同(サ)によれば、「(A)ブレーン比表面積2,500?5,000cm^(2)/gのセメント、(B)BET比表面積5?25m^(2)/gの微粒子、(C)ブレーン比表面積3,000?30,000cm^(2)/gで、かつ上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子、(D)粒径2mm以下で、かつ75μm以下の粒子の含有量が2.0重量%以下である骨材」を、特定の割合で含有する水硬性組成物としている。
ここで、引用例2に記載された水硬性組成物は、上記(A)?(D)の材料を特定割合で含むものであるが、同(セ)によれば、シリカフュームやフライアッシュ等の微粒子は、BET比表面積を5?25m^(2)/gという特定割合に調製することで、水硬性組成物の硬化前の流動性や硬化後の圧縮強度特性を改善することができる。
このため、引用例2には、セメントとBET比表面積を5?25m^(2)/gの微粒子を含有する水硬性組成物が記載されているといえる。
また、同(ソ)によれば、引用例2の水硬性組成物は、モルタルの混練方法として、「プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材・・・をミキサに投入」することができるので、セメントプレミックス組成物であるとすることができる。
したがって、引用例2には、「セメントとシリカフュームやフライアッシュ等のBET比表面積が5?25m^(2)/gの微粒子を含有するセメントプレミックス組成物」に関する発明が記載されている。

4 対比・判断
(1)一致点と相違点
本願発明と引用例1発明とを比較する。
引用例1発明で使用する「フライアッシュ、シリカフューム等の混和材」は、微粉末であることは技術常識であるから、本願発明で使用する「微粉末」に相当する。
また、セメントプレミックス組成物を包装するポリオレフィンフィルム(ポリエチレンフィルム)の厚さは、引用例1発明と本願発明とでは、80?150μmの範囲で重複する。
したがって、本願発明と引用例1発明とは、
「セメントと微粉末を含有して成るセメントプレミックス組成物を厚さ80?150μmのポリオレフィンフィルムを用いて包装したセメントプレミックス製品」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本願発明で使用する微粉末は、「BET比表面積が5?25m^(2)/g」のものであるが、引用例1発明で使用する微粉末のBET比表面積が明らかでない点。
相違点2:本願発明で使用するポリオレフィンフィルムは、「2?3層の多層構造からなるものであり、かつ、高密度ポリエチレン層を含み、ポリオレフィンフィルム中の高密度ポリエチレン層の厚さがポリオレフィンフィルムの全体の厚さの20?70%である」のに対し、引用例1発明では、ポリエチレンフィルムである点。
(2)判断
ア 相違点1について
上記したとおり、引用例2には、セメントとシリカフュームやフライアッシュ等のBET比表面積が5?25m^(2)/gの微粒子を含有するセメントプレミックス組成物に関する発明が記載されており、引用例2発明の目的とするセメント硬化前と硬化後で良好な特性を有するセメント組成物を得ること(記載事項(シ))は、セメント組成物一般に要求される目的である。
このため、引用例1発明においてプレミックスするセメント組成物として、引用例2に記載されたセメントプレミックス組成物を採用することは、当業者であれば格別の困難なく適宜なしうるところである。

イ 相違点2について
高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを積層したフィルムは、本願出願前に周知であり、該フィルムに防湿性があることも、当業者には周知の事項である。この点について必要なら、拒絶査定において示した特開2002-52669号公報(以下「周知例1」という。)、特開平1-297230号公報(以下「周知例2」という。)及び特開昭60-171149号公報(以下「周知例3」という。)を参照されたい。
周知例1には、「洗剤、化粧品、食料品等に用いられる・・・パウチに好適な積層体に関し、・・・水蒸気バリア性、・・・に優れ、高いヒートシール強度を有する積層体」(段落【0001】)に関する発明が記載されており、この発明の実施例となる積層体の特性をまとめた第16頁の【表2】及び【表3】をみると、実施例1?8の積層体は、全体の50%の厚さを有する第II層のHDPE(審決注:高密度ポリエチレン)が第I層と第III層のLLDPE(審決注:線状低密度ポリエチレン)に挟持された積層体であり、同第17頁の【表4】にまとめられた比較例の積層体に比して優れた水蒸気透過率を有するものであることを確認できる。
また、周知例2には、共押出ラミネート物の製造方法に関する発明が記載されており、「本発明の共押出ラミネート物の製造方法によれば低密度ポリエチレンを表面層とし、高密度ポリエチレンを基材との接着層として、限定された層構成で共押出ラミネートするため、従来の高圧法低密度ポリエチレンと同様の加工性で高密度ポリエチレンの結晶性を活かし、溶融膜のネックインが小さく、優れた防湿性および耐カール性を備えた2層ラミネート膜を基材の少なくとも片面に有する共押出ラミネート物を得ることができる。」(第4頁左上欄10?18行)とされ、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンの積層体が、優れた防湿性を有することが記載されており、具体的にはHDPEが全体の33?60%の厚さを有する積層体が記載されている。
同様に、周知例3には、ポリエチレン複合フィルムに関する発明が記載されており、第1頁の左下欄4?10行の特許請求の範囲の「高密度ポリエチレンからなり、フィルムの厚さ方向において、架橋度が中方向に低下してなる二軸延伸フィルム(A)の少なくとも片面が、低密度ポリエチレンまたは・・・からなるヒートシール層(B)で積層されたポリエチレン複合フィルム」との記載から、該ポリエチレン複合フィルは、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンの積層体である。そして、同頁同欄12?15行の「本発明は、ポリエチレン複合フィルムに関し、さらに詳細には防湿性およびヒートシール性に優れるポリエチレン複合フィルムに関するものである。」との記載から、該複合フィルムは防湿性に優れている。
以上の周知例1?3の記載から明らかなように、全体の33?60%程度の厚さの高密度ポリエチレン層を含む2?3層の多層構造のポリオレフィンフィルムは、防湿性(水蒸気バリア性)に優れていることは、当業者には周知のことである。
一方、引用例1発明で使用する包装材として使用するポリエチレンフィルムは、包装袋外部より侵入する水分を防ぐために膜厚を特定の数値範囲に特定するものであるが、同様の目的を達成するために、さらに、全体の33?60%程度の厚さの高密度ポリエチレン層を含む2?3層の多層構造のポリオレフィンフィルムとすることは、解決しようとする課題が共通するので、当業者であれば容易に想到するところである。その効果も、防湿性向上という以上の格別のものとすることはできない。

(3)請求人の主張について
請求人は、引用例1には、格別、包装材の防湿性に問題があるとの記載はないので、HDPEとLDPEの積層体を適用することの動機付けがない旨を主張する(審判請求書第3頁下から3行以降)。
たしかに、引用例1の記載事項(カ)(キ)によれば、引用例1の実施例にあたる実験No.2-4?2-6は、比較例と比べ、モルタル表面に泡の発生もなく、ひび割れの発生もなく、良好な物性を示しているといえるので、セメントプレミックス製品の防湿性の問題は引用例1発明により解決されたとすることも不可能ではない。
しかし、記載事項(キ)に示されたモルタルの表面状態やひび割れ発生の評価は、比較例との相対的な評価に過ぎず、完全な防湿性が確保されたわけではないことに留意すべきである。
すなわち、引用例1の実施例にあたる実験No.2-4?2-6では、吸湿速度において、依然として0.08?0.40(%/28日)の吸湿をしているし、7日膨張率比においても混練直後の100に対して、51?90にとどまっている。
ここで、引用例1発明は、「セメントプレミックス製品を、品質保証期間を超えて貯蔵した場合、包装袋外部より浸入してくる水分によって、練上り時のモルタル性状の劣悪化(泡の発生、材料分離等)や膨張性能の低下により、硬化体のひび割れ発生や構造体との付着性能が低下するなどの課題」(記載事項(ウ))を解決することを目的としている。
そして、一般に、セメント組成物は水硬性であり水分には敏感な材料であるので、品質保証期間を超えて貯蔵した場合、セメントプレミックス製品の外装袋より侵入する水分はないことが望ましく、また、7日膨張率比が混練直後のモルタルと同等の特性であることが望ましいことは、技術的には当然のことである。
したがって、引用例1に記載された発明は、セメントプレミックス製品の外装袋より侵入する水分を防ぐ技術開発の一到達点にあたる発明であるものの、品質保証期間を長くする課題は依然として解決されていないと解すべきである。
このため、引用例1には、包装袋の防湿性改善の課題は存在しないとする請求人の主張は、採用することができない。

5 結論
以上のとおりであるので、本願の請求項1に係る発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-17 
結審通知日 2013-07-23 
審決日 2013-08-08 
出願番号 特願2007-308186(P2007-308186)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 川端 修
中澤 登
発明の名称 セメントプレミックス製品  
代理人 梶並 順  
代理人 大宅 一宏  
代理人 曾我 道治  
代理人 飯野 智史  

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