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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1279374
審判番号 不服2013-5306  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-21 
確定日 2013-09-19 
事件の表示 特願2008-192745「光情報記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月12日出願公開、特開2010- 30082〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成20年7月25日の出願であって、平成24年9月26日付けで手続補正がなされ、同年12月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年3月21日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審における平成25年4月26日付け審尋に対して同年6月25日に回答書を提出し、同年7月8日の審判官による電話応対でのの問に対して同年7月12日に電話にて回答している。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成25年3月21日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるものであるところ、平成25年3月21日付け手続補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、次のとおりのものであると認める。

「一方の面に螺旋状の案内溝を有する基板と、前記基板の一方の面上に形成された反射層と、前記反射層上に形成された記録層と、前記記録層上に直接形成された、酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの混合物のいずれかの無機化合物からなる保護層と、前記保護層上に直接形成された光透過層と、を有する光情報記録媒体において、
前記記録層は有機色素を含んでおり、前記有機色素は分解するときの熱量が-1?8cal/gであり、
前記光透過層は硬化性樹脂からなり25℃での弾性率が40MPa以上である
ことを特徴とする光情報記録媒体。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-12884号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録媒体およびその製造方法に係わるもので、とくに、少なくとも光吸収物質などを含む光記録層を有し、半導体レーザーによる波長が750?830nmの赤色レーザー光、640?680nm(たとえば650?665nm)の短波長赤色レーザー光、さらに短波長側の350?500nm付近(たとえば405nm前後)の青色レーザー光により高密度かつ高速で書き込みおよび再生が可能な光情報記録媒体の光記録層に使用できるモノ(アザ)メチン色素化合物を使用した光情報記録媒体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
追記型光記録ディスクとしては、初めに開発されたCD-Rや、その後に登場した大容量記録フォーマットであるDVD-R/+Rを含め、記録層として色素薄膜を有し、この色素が高パワーのレーザー光照射により分解することにともなってその光学物性が変化することにより記録が行われている。すなわち、未記録部分においては再生用レーザーによる照射光と反射膜からの戻り光とが干渉した光の強度の照射光強度に対する割合(反射率)の大きい信号光が検出されるが、記録部分においては色素の分解により色素の屈折率が低下することにより反射率は小さくなり、その弱くなった反射光を記録信号として検出する。このような記録原理を一般的にHigh to Low型記録と呼んでおり、これは記録前は反射率が高く、記録後は低くなることにより信号を記録できることを指している。このように情報を記録するためには記録層である色素薄膜の屈折率が非常に大きな意味を持つ。
これまで780nmのレーザーによる記録・再生を行うCD-Rや、660nmのレーザーによる記録・再生を行うDVD-R/+Rでは、上記の原理に基づいてHigh to Low型記録の追記型光記録ディスクが既に市場に多数出回っているが、405nmのレーザーで記録・再生を行うHD DVD-RやBlue-ray Disc-R(以下、両者をブルーディスク等という。)では、High to Low型記録では未だに実用的に十分な商品レベルに達していない。これは適切な屈折率を有する色素薄膜が得られていないためである。
【0003】
図1に示すように、HD DVD-R(HD DVD追記型)1は、レーザー光を透過する層として、レーザー光に対する屈折率がたとえば1.5?1.7程度の範囲内の透明度の高い材料で、耐衝撃性に優れた、たとえばポリカーボネート板、アクリル板、エポキシ板等の樹脂板や、ガラス板等の透光性の基板2と、この基板2上に形成した光記録層3(光吸収層)と、この光記録層3の上に形成した、熱伝導率および光反射性の高い金属膜であり、たとえば、金、銀、銅、アルミニウム、あるいはこれらを含む合金を、蒸着法、スパッタ法等の手段により形成した光反射層4と、この光反射層4の上に形成した、基板2と同様の耐衝撃性、接着性に優れた樹脂により形成する、たとえば、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により塗布し、これに紫外線を照射して硬化させることにより形成した保護層5(接着層)と、を有する。なお、場合によっては、保護層5のさらに上層に所定厚さの、上記基板2と同様の材料により構成し、約1.2mmの所定の厚さを確保したダミー基板6を積層し、規格で必要とされる所定の厚さに形成する。
上記基板2にはスパイラル状にプリグルーブ7を形成してある。このプリグルーブ7の左右には、このプリグルーブ7以外の部分すなわちランド8が位置している。
光記録層3は、基板2の上に形成した色素材料を含む光吸収性の物質(光吸収物質)からなる層で、レーザー光9を照射することにより、発熱、吸熱、溶融、昇華、変形または変性をともなう層である。この光記録層3はたとえば溶剤により溶解したアゾ系色素、シアニン系色素等を、スピンコート法等の手段により、基板2の表面に一様にコーティングすることによってこれを形成する。
光記録層3に用いる材料は、任意の光記録材料を採用することができるが、光吸収性の有機色素が望ましい。
【0004】
図示するように、HD DVD-R 1に透光性の基板2(入射層)側からレーザー光9(記録光)を照射したときに、光記録層3がこのレーザー光9のエネルギーを吸収することにより発熱(あるいは吸熱)し、光記録層3の熱分解によって記録ピット10が形成される。なお、11、12、13、14はそれぞれ隣接する層の層界である。
【0005】
また、図2に示すように、Blue-ray Disc-R(Blu-ray追記型)20は、厚さ1.1mmの透光性の基板2と、この基板2上に形成した光反射層4と、この光反射層4の上に形成した光記録層3(光吸収層)と、この光記録層3の上に形成した保護層5と、この保護層5の上に形成した接着層21と、接着層21の上に形成した厚さ0.1mmのカバー層22と、を有する。なお、接着層21を設けず、保護層5の上にカバー層22を設け、保護層5が接着層を兼用することも最近よく行われている。
上記基板2にはスパイラル状にプリグルーブ7を形成してある。このプリグルーブ7の左右には、このプリグルーブ7以外の部分すなわちランド8が位置している。
なお光反射層4は、基板2と光吸収層3の間の層界が低反射率を満たす場合には、これを設ける必要はない。
【0006】
図示するように、Blue-ray Disc-R 20にレーザー光を透過する層として透光性の入射層(カバー層22)側からレーザー光9(記録光)を照射したときに、光記録層3がこのレーザー光9のエネルギーを吸収することにより発熱(あるいは吸熱)し、光記録層3の熱分解によって記録ピット10が形成される。なお、23、24、2526はそれぞれ隣接する層の層界である。なお、ランド8に対応する光記録層3にピットが形成されるように図示されているが、プリグルーブ7に対応する光記録層3にピットが形成されることが最近よく行われるようになっている。
【0007】
こうした構成のHD DVD-R 1あるいはBlue-ray Disc-R 20への高速記録では、従来の記録速度ないし低速記録のときより短い時間で所定の記録を行う必要があるため、記録パワーが高くなり、記録時に発生する光記録層3における熱量、ないし単位時間あたりの熱量が大きくなり、熱ひずみの問題が顕在化しやすく、記録ピット10がばらつく原因となっている。また、レーザー光9を照射するための半導体レーザーの出射パワー自体に限界があり、高速記録に対応することができる高感度の色素材料が求められている。
CD-R、DVD-Rに代表される従来の追記型の光情報記録媒体では、光記録層に使用される有機化合物の分解・変質による屈折率変化を生じることによる記録ピットの形成が重視され、光学定数、分解挙動の適切な材料の選択を行うことが重要であるが、その有機化合物では、405nmのような青色レーザー波長に対する光学的性質(特に屈折率)が従来並の値しか示さない。そ有機化合物のレーザー光吸収帯を青色レーザー波長近傍に持たせるためには、メチン鎖を有するシアニン色素についていえば分子骨格を小さくする、あるいは共役系を短くする必要があるが、これでは吸収係数の低下、すなわち屈折率の低下を招き、再生したときに大きな変調度を得ることができないからである。
【0008】
高感度の色素材料とは、色素において適切な屈折率を有することであり、そのためには、n(屈折率)が高く、k(消衰係数)が低いことを必要とするが、このためには色素が高い吸光係数を有し、吸収スペクトルの半値幅が小さいことが必要であることが知られている。
一般的には吸収最大波長(λmax )の短波長化に伴いε(モル吸光係数)が小さくなることが知られており、ブルーディスク等に用いられる短波長の記録波長ではHigh to Low型光記録ディスクを実現する色素の開発は難しいといわれている。
また、High to Low型とは逆の記録特性を有するLow to High型記録を行うには実用可能な色素はいくつかあるものの、高速記録においては色素分解に伴う発熱量が大きいことから、記録ピットが肥大化する、いわゆる熱干渉により高品位の記録が行えず、分解に伴う発熱量が低くてすむ色素が待望されている。
このように、現在、従来より短波長側の350?500nm付近(たとえば405nm前後)の青色レーザー光を用いて記録および再生が可能な光情報記録媒体についても開発が行われているが、光記録層に使用する有機色素化合物について、レーザー光が短波長側になるほど、光記録層としてより薄い薄膜を形成し、かつ高屈折率を得られる必要があり、その高屈折率のためには、色素が高い吸光係数を有し、吸収スペクトルの半値幅が小さいことが必要である。
【0009】
光記録層3の屈折率を上げるために、上述したように青色レーザー光に対して高いεをもつ材料は少ないため、色素の成膜時の分子の集合度合いである半値幅の制御が重要である。
吸収スペクトルの半値幅(半値幅(会合性)/cm^(-1))と屈折率(n max)との関係は図3に示され、適切な半値幅を示す材料を用いることで、高屈折率を有する材料を確保することができる。
このような観点から、色素分子の会合状態、とくにJ会合を利用することが検討されている。J会合は、色素分子が、エッジトゥエッジ(edge to edge)で配列した状態にあり、このJ会合が起こると、光吸収のスペクトルのピークが急峻化し、半値幅も小さくなるとともに、そのピークが長波長側にずれることが知られている。
【0010】
従来の、J会合体薄膜作成技術としては、LB法、Dip法、スピンコート法などがある。
LB法(Langmuir-Blodgett法:親水基と疎水基の両方を持つ分子を適当な溶媒に溶かして水面上に展開させると気-液界面に吸着されて、単分子膜を水面上に形成する。これに基板等をゆうくり浸漬させる等で均一な薄膜を形成させる方法。)は、精密かつ均一な薄膜の作成が可能であり、優れた光学特性を有する薄膜を得ることができる。しかしながら、成膜時に高度な制御が必要であることから、時間およびコストの面で欠点があるという問題がある。
Dip法(色素溶液に基板を浸漬した後取り出して乾燥し、その表面に色素膜を形成する方法)は、容易に会合制御を行うことができる。しかしながら、均一な薄膜の形成が困難であるとともに、これを安定に保持することが困難であるという問題がある。
スピンコート法(基板を回転させながら滴下した塗布液をその遠心力で展開する方法)は、薄膜作成は比較的容易である。しかしながら、単純なコート条件下では、分子が様々な状態で存在するために、会合制御が困難であるという問題がある。このスピンコート法は、その工程の簡便さおよび容易さの面で、他の手法よりも優れており、CD-RおよびDVD-Rなどの光情報記録媒体の製造工程に広く使われている手法である。
【0011】
スピンコート法ないし類似の薄膜作成法によりJ会合体薄膜を作成しているものとして、以下のようなものがある。
特許文献1(特開2001-199919号公報)は、有機色素(シアニン色素)のJ会合体薄膜を形成する手法を記載している。すなわち、シアニン色素およびシリカのゾル溶液を用いて、J会合体薄膜を形成している。
この技術では、薄膜中のシアニン色素の濃度がシリカによって薄められることで、光情報記録媒体用の色素薄膜として十分な色素物性を得ることができないため、光情報記録媒体用としては不適切なものとなっている。すなわち、この技術を光情報記録媒体に応用することは困難である。
【0012】
特許文献2(特開2000-151904号公報)は、有機色素(シアニン色素)のJ会合体薄膜を形成する手法が記載されている。すなわち、シアニン色素および高分子材料の高粘度溶液をラビング処理してJ会合体薄膜を作成している。
この技術では、薄膜中のシアニン色素の濃度が高分子材料によって薄められることで、光情報記録媒体用の色素薄膜として十分な色素物性を得ることができないため、光情報記録媒体用としては不適切なものとなっている。またラビング処理に必要な熱(温度130℃)を基板2のポリカーボネートに加えると基板2の変形が生じてしまう。すなわち、この技術を光情報記録媒体に応用することは困難である。
【0013】
特許文献3(特開2001-305591号公報)は、有機色素(スクアリリウム色素)のJ会合体薄膜を形成する手法が記載されている。すなわち、J会合体薄膜を形成しやすいスクアリリウム色素を用い、スピンコート法で塗布してJ会合体薄膜を作成している。
この特許文献3では、スクアリリウム色素は有機溶剤に対するその溶解性が乏しい点が特徴として挙げられ、光情報記録媒体の基板2の材料であるポリカーボネートを侵食しない溶剤に対しての溶解性を確保しにくいという欠点がある。すなわち、光情報記録媒体用の色素薄膜として十分な厚さを得ることが困難である。また、溶解性を確保するため、スクアリリウム色素分子に適当な置換基を化学装飾すると、J会合体薄膜の形成に影響を及ぼすため、設計する上で溶解性および会合性を考慮しなければならない複雑さがある。すなわち、この技術を光情報記録媒体に応用することは困難である。
【0014】
なお、特許文献4(特許3429521号公報)は、LB膜を光記録層3用の材料として用いている。すなわち、フォトクロミック色素を含む色素皮膜を形成した基板2を用いており、この基板2は、遠赤外線を放射するセラミック基板である。このフォトクロミック材料が色素の分子会合体であり、スピロピランJ会合体薄膜であることを特徴とする光情報記録媒体が開示されている。このフォトクロミック色素を含む色素皮膜に、数種類のシアニン色素および特別な脂肪酸を適当な混合比で混ぜたクロロホルム溶液を、水面上に展開圧縮して分子配向制御した単分子膜を形成し、基板2に付着させたものである。
この技術では、無蛍光ガラス基板の表面にトリメチルクロロシランにより疎水処理した基板を作成し、この基板上に上記分子配向制御した単分子膜を垂直浸漬法により片面二十層累積吸着させたものであるが、実際に光情報記録媒体に用いる色素薄膜としては、十分な厚さを持たせることが困難であるとともに、LB法を現在の光情報記録媒体に応用することは非常に困難である。
【0015】
J会合体薄膜は、高屈折率を得ることが可能で、HD DVD-R 1、Blue-ray Disc-R 20の光記録層3として有用であるにもかかわらず、簡便かつ制御が容易な形成手法が確立されていないのが現状である。LB法やDip法では、その作成が比較的容易ではあっても、高度の制御技術が必要であったり、均一な薄膜を安定して得ることができないという問題がある。一方、スピンコート法は薄膜を容易に形成することが可能ではあるが、このスピンコート法によるJ会合体薄膜の作成が困難であるという問題がある。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は以上のような諸問題にかんがみなされたもので、色素分子のH会合体による均一な薄膜を形成可能なモノ(アザ)メチン化合物色素のH会合体を直接形成するだけで他の補助手段を設けることなく光学特性を改善できる光情報記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【0018】
また、本発明は、高屈折率を有し良好な光学特性を備えた薄膜を形成可能な光情報記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、簡易な手法(スピンコート法)でH会合体による光記録層を形成可能な光情報記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、ポリカーボネートなど基板の材料を侵すことがない溶剤で色素材料を塗布可能な光情報記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、光記録層の薄膜内の構成成分が色素材料を主材料とし、高速記録、高密度記録に適した、高感度および短マーク記録能力に優れた光情報記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来のCD-RやDVD-R/+Rでは色素分子のアモルファス薄膜を用いており、分子はランダムに配向した薄膜を形成しており、ランダムに分子が配向した薄膜では分子間の相互作用は弱く、ブロードな吸収スペクトルを示すが、H会合体では分子間相互作用により分子同士が規則的に配列した状態で微小な分子集合体を形成しているので、吸収スペクトルは半値幅が狭く、分子がランダムな場合よりも吸光度が大きくなる。このためH会合体の薄膜を作成することにより高いnと低いkとを有する色素薄膜を形成することができ、High to Low型光情報記録媒体の実現や、記録レーザー光照射に伴う会合体の破壊による記録を行うことにより分解に伴う発熱を低減し、熱干渉を抑制することが期待されることを見い出した。
J会合体は古くから知られており、上述したように、高濃度の溶液中で形成したり、あるいは薄膜では、LB膜などの強制的に分子を配列させる手法などがとられてきたため、実用レベルの光記録ディスクに用いることができなかったが、最近になり、たとえばインドレニン系シアニン色素の2本のN-アルキル鎖末端をスルホン酸基で置換するとことによりスピンコート法でJ会合体薄膜を形成することが可能となってきた(特開2005-74872号公報、特願2004-101442明細書(本願出願人)が、モノ(アザ)メチン化合物の色素について、スピンコート法を採用することにより均一な薄膜を簡便に塗布形成可能とすること、塩基性化合物の添加によりH会合体を形成可能な色素材料を用いて良好な光学特性(高屈折率)を得ること、この色素材料としては、溶解性の良好なオキサゾール核、チアゾール核などを含むモノ(アザ)メチン化合物(モノ(アザ)メチンシアニン)を用いて基板を侵すことがない溶剤を採用可能とすること、かくして記録前後で屈折率の差が大きく、色素の分解が吸熱反応である色素を用いることができることなどに着目したものである。」

(3)「【発明の効果】
【0022】
本発明による光情報記録媒体およびその製造方法においては、上記一般式〔化1〕、〔化2〕に示すモノ(アザ)メチン化合物という特定の色素材料と塩基性化合物を含有する色素膜を光記録層に有するので、スピンコート法という簡易な手法であっても色素分子のH会合による均一な薄膜を形成することができる。H会合により400nmより短波長に吸収ピークを有し、高屈折率を持つ薄膜を形成することができる。したがって、色素分子のH会合に由来する光吸収により、会合色素の会合を崩すように熱分解させることにより分解発熱を低減でき、記録前後の屈折率差を生じやすくすることができる。しかも、このH会合色素の熱分解は吸熱反応であり、従来のような発熱反応による熱の放熱制御を行う必要がない。
すなわち、高屈折率および記録前後における屈折率差などの優れた光学特性、および吸熱反応という熱特性を有する記録材料薄膜を均一に形成することができるとともに、スピンコート法という簡易な手法で上記会合体薄膜を形成し、従来の工程を改造することなく、優れた特性を持つ光情報記録媒体を得ることができる。
さらに溶解性の良好なモノ(アザ)メチン色素化合物を用いることにより、基板を侵すことがない2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール(TFP)などの溶剤で色素材料を塗布することができる。」

(4)「【0052】
(実施例6)
実施例1において、化合物Iの代わりに下記〔化16〕のモノアザメチンシアニン化合物(化合物VI)を用い、水酸化テトラメチルアンモニウムの代わりに下記〔化17〕の塩基性化合物(塩基)をそれぞれ0(添加なし)、1倍用いたこと以外は同様にして各モノアザメチン色素組成物の薄膜(単板上)を形成し、その薄膜について分光スペクトル測定を行った結果を図10に示す。
【0053】
【化16】

【0054】
【化17】

【0055】
図10では、点線(薄膜(上記〔化17〕の塩基)(添加なし))に比べて、実線(薄膜(上記〔化17〕の塩基)(1倍))ではピークが短波長側に移動し、H会合の特徴である短波長化していることがわかる。
【0056】
(実施例7)
実施例1で用いた化合物Iに水酸化テトメチルアンモニウム及び溶剤を添加して得られるモノメチン色素組成物の薄膜(H会合性モノメチン色素薄膜)をHD DVD-R 1の光記録層3に応用した例を以下に示す。
上記〔化9〕のモノメチンシアニン化合物(化合物I)を2.0g量りとり、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール100mLに溶解し、さらに水酸化テトラメチルアンモニウムの10%メタノール溶液を0.83mL(2倍(化合物Iの1モルに対してOH- がモル比で2)加え、化合物Iについて20g/Lの溶液を調製した。なお、下記〔化18〕の化合物VIIを光安定剤として重量比で30%添加した。なお、他のアミニウム系、ジイモニウム系安定剤も使用できる。
ポリカーボネート製で、ピッチが0.40μm間隔で刻んであるプリグルーブ7を有する外径120mm、厚さ0.6mmの円盤状の基板2に、この塗布溶液の1mLを所定の回転数でスピンコート法により塗布し、均一なH会合体薄膜を得た。
この色素を塗布した透明基板2を温度80℃で30分間熱処理し、残留している余分な溶剤、水成分を揮発処理して、色素面(光記録層3)を形成した。
さらに、この光記録層3の上に銀(Ag)をスパッタリングし、厚さ100nmの光反射層4を形成した。
なお、基板2の周縁部に飛び散った色素をメタノールで洗浄して洗い流した。
さらに、光反射層4の上に、紫外線硬化型の樹脂接着剤SD-318(大日本インキ化学工業製)をスピンコートしたのち、これに紫外線を照射して硬化させ、保護層5を形成した。
この保護層5の表面に紫外線硬化樹脂接着剤を塗布し、上述と同じ材質および形状(厚さ0.6mm、外径120mm)のダミー基板6を貼り合わせ、この接着剤に紫外線を照射して硬化させて接着し、HD DVD-R 1(HD DVD追記型)を作成した。
【0057】
【化18】
・・・(略)・・・
【0058】
かくして、化合物Iと水酸化テトラメチルアンモニウムを含有するモノメチン色素組成物により、均一なモノメチンシアニン化合物色素のH会合体薄膜を光記録層3に持つHD DVD-R 1を得た。
また、比較例1で用いた化合物Xを用いて、上述と同様にして光記録層3を形成し、HD DVD-R 1を得た。
上記〔表1〕は、それぞれのHD DVD-R 1(化合物Iの代わりに化合物IIを用いた以外は実施例7と同様にして作製したHD DVD-R)(実施例)と、化合物Xを用いたもの(比較例)の電気特性評価結果を示すものであって、化合物IIと水酸化テトラメチルアンモニウムを含有するモノメチン色素組成物による光記録層3を有するHD DVD-R 1の方が記録に必要なパワーが低いため記録感度はより良好であり、最短マーク長のC/Nレベルが改善し、また、ランダム記録信号記録時のシンメトリも低パワーで達成可能である。
【0059】
(実施例8)
実施例7において、化合物Iの2.0gの代わりに、実施例6で用いた化合物VIを同じモル数になるように用い、上記〔化17〕の塩基を1倍用いたこと以外は同様にして、均一なモノアザメチンシアニン化合物色素のH会合体薄膜を光記録層3にもつHD DVD-R 1(HD DVD追記型)を作成した。
上記〔表1〕の化合物IIを用いたHD DVD-R 1の電気特性評価結果に準じた結果が得られ、化合物VIと上記〔化17〕の塩基を含有するモノアザメチン色素組成物による光記録層3を有するHD DVD-R 1の方が、化合物Xを用いたものよりも記録に必要なパワーが低いため記録感度はより良好であり、最短マーク長のC/Nレベルが改善し、また、ランダム記録信号記録時のシンメトリも低パワーで達成可能である。
【0060】
化合物I、VIのそれぞれと水酸化テトラメチルアンモニウム、上記〔化17〕の化合物のそれぞれとを実施例7、8の場合に準じて用い、それぞれBlue-ray Disc-R(Blu-ray追記型)20を作成しても、実施例7、8のHD DVD-R 1(HD DVD追記型)に準じた結果が得られる。上述の他の色素もこれに準ずる。」

(5)図2から、光記録層3と保護層5とは、他の層を介さず直接接しており、その界面が第3の層界25をなしていることが見てとれる。

(6)上記(1)ないし(5)から、引用例には、
「厚さ1.1mmの透光性の基板と、この基板上に形成した光反射層と、この光反射層の上に形成した、色素が高パワーのレーザー光照射により分解することにともなってその光学物性が変化することにより記録が行われる色素薄膜を有する光記録層と、この光記録層の上に他の層を介さずに形成した保護層と、この保護層の上に形成した接着層と、接着層の上に形成した厚さ0.1mmのレーザー光を透過する透光性のカバー層と、を有し、
また、前記接着層を設けず、前記保護層が接着層を兼用して、前記保護層の上に前記カバー層を設けてもよく、
前記基板にはスパイラル状にプリグルーブを形成し、前記カバー層側からレーザー光を照射したときに、前記光記録層がこのレーザー光のエネルギーを吸収することにより発熱あるいは吸熱して熱分解することによって記録ピットを形成する、
波長405nmの青色レーザー光により高密度かつ高速で記録・再生を行うBlue-ray Disc-Rにおいて、
未記録部分では、再生用レーザーによる照射光と反射膜からの戻り光とが干渉した光の強度の照射光強度に対する割合である反射率の大きい信号光が検出され、記録部分では、色素の分解により色素の屈折率が低下して反射率が小さくなり弱くなった反射光が記録信号として検出される、反射率が記録前は高く記録後は低くなることで信号を記録する記録原理であるHigh to Low型記録で高速記録を行うには、記録パワーを高めなければならず、光記録層に記録時に発生する単位時間あたりの熱量が大きくなり、熱ひずみの問題が顕在化し、記録ピットがばらつくため、高速記録に対応することができる高感度の色素材料、つまり、屈折率nが高く、消衰係数kが低く、高い吸光係数を有し、屈折率を上げるためには色素の成膜時の分子の集合度合いで決まる半値幅の制御が重要なので吸収スペクトルの半値幅が小さい色素材料が、また、High to Low型とは逆の記録特性を有するLow to High型記録の高速記録では、色素分解に伴う発熱量が大きいことから、記録ピットが肥大化する熱干渉により高品位の記録が行えないので、分解に伴う発熱量が低い色素が、それぞれ求められているところ、
吸収最大波長λmaxの短波長化に伴いモル吸光係数εが小さくなるため青色レーザー光に対して高いモル吸光係数εをもつ材料は少ないので、
適切な半値幅を示す材料を用いることで高屈折率を有する材料を確保するため、
分子間相互作用により分子同士が規則的に配列した状態で微小な分子集合体を形成しているため吸収スペクトルの半値幅が狭く、そのため吸光度が大きく、かつ、熱分解が吸熱反応であるH会合体を採用し、
塩基性化合物の添加によりH会合体を形成可能な色素材料であって、溶解性が良好のため基板を侵すことがない溶剤が採用可能となり、高屈折率が得られるため記録前後で屈折率の差が大きく、色素の分解が吸熱反応である下記〔化16〕のモノアザメチンシアニン化合物と、下記〔化17〕の塩基を用いて、均一なモノアザメチンシアニン化合物色素のH会合体薄膜を作成することにより、高い屈折率nと低い消衰係数kとを有する色素薄膜を光記録層として形成し、
High to Low型の高速記録と、Low to High型記録における、色素分解に伴う発熱低減及び熱干渉の抑制を実現した、
Blue-ray Disc-R。
〔化16〕

〔化17〕

」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「『スパイラル状』の『プリグルーブ』」、「厚さ1.1mmの透光性の基板」、「基板上に形成した光反射層」、「光反射層の上に形成した、色素が高パワーのレーザー光照射により分解することにともなってその光学物性が変化することにより記録が行われる色素薄膜を有する光記録層」、「この光記録層の上に他の層を介さずに形成した保護層」、「『接着層を設』けず、『前記保護層の上に』設けた『厚さ0.1mmのレーザー光を透過する透光性のカバー層』」、「Blue-ray Disc-R」及び「『色素』、『モノアザメチンシアニン化合物色素』」は、それぞれ、本願発明の「螺旋状の案内溝」、「基板」、「前記基板の一方の面上に形成された反射層」、「前記反射層上に形成された記録層」、「『前記記録層上に直接形成』された『保護層』」、「前記保護層上に直接形成された光透過層」、「光情報記録媒体」及び「有機色素」に相当する。

(2)引用発明の「螺旋状の案内溝(スパイラル状のプリグルーブ)」は、「基板」に形成されているから、引用発明の「基板」と本願発明の「基板」とは「一方の面に螺旋状の案内溝を有する」点で一致する。

(3)引用発明の「記録層」は、光反射層の上に形成した、色素が高パワーのレーザー光照射により分解することにともなってその光学物性が変化することにより記録が行われる色素薄膜を有するから、本願発明の「記録層」と、「有機色素を含んで」いる点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)から、本願発明と引用発明とは、
「一方の面に螺旋状の案内溝を有する基板と、前記基板の一方の面上に形成された反射層と、前記反射層上に形成された記録層と、前記記録層上に直接形成された保護層と、前記保護層上に形成された光透過層と、を有する光情報記録媒体において、
前記記録層は有機色素を含んでいる、
光情報記録媒体。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記「保護層」が、
本願発明では「酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの混合物のいずれかの無機化合物からなる」のに対して、
引用発明では無機化合物ではない点。

相違点2:
前記「有機色素」が分解するときの熱量が、
本願発明では「-1?8cal/g」の範囲内であるのに対し、
引用発明では、〔化16〕のモノアザメチンシアニン化合物が分解するときの熱量は、平成25年7月12日付け電話応対によると、およそ-30cal/gであるから、「-1?8cal/g」の範囲外である点。

相違点3:
前記「光透過層」が、
本願発明では、「硬化性樹脂」からなり、25℃での弾性率が「40MPa以上」であるのに対し、
引用発明では、硬化性樹脂からなるか否かも、25℃での弾性率が40MPa以上であるか否かも不明である点。

5 判断
(1)相違点1について
ア 酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの混合物の無機化合物からなる保護層を設けた光情報記録媒体は、本願出願前に周知であり(以下、「周知技術1」という。例.特開2008-171535号公報(【0023】、【0050】の「ZnS-SiO_(2)からなる第2誘電体層」参照。)、特開2005-327414号公報(【0102】、【0103】、【0110】、【0120】の「酸化物、窒化物、炭化物又はこれらの混合物、並びに、硫化物、酸硫化物、フッ化物又はこれらの混合物を用いて形成された第2保護層」参照。)、特開2004-241103号公報(【0067】、【0068】の「Ta_(2)O_(5)又はTiO_(2)を主成分として含む第一の誘電体層15」参照。))、周知技術1によれば、水分や酸素等の透過を防ぐことができ(上記特開2008-171535号公報【0023】、上記特開2005-327414号公報【0102】参照。)、あるいは、長期間にわたって、記録層に記録されたデータの劣化を防止することができる(上記2004-241103号公報【0067】参照。)ことが当業者に自明の効果である。

イ 上記アからみて、引用発明において、前記「保護層」を「酸化物、硫化物、窒化物またはそれらの混合物の無機化合物」で構成すること、すなわち、引用発明において、相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(2)相違点2について
ア 本願の発明の詳細な説明には、本願発明の「有機色素は分解するときの熱量が-1?8cal/gであ」る点に関して、次の記載がある。
(ア)「本発明では、一方の面に螺旋状の案内溝を有する基板と、前記基板の一方の面上に形成された反射層と、前記反射層上に形成された記録層と、前記記録層上に直接形成された無機化合物からなる保護層と、前記保護層上に直接形成された光透過層と、を有する光情報記録媒体において、前記記録層は有機色素を含んでおり、前記有機色素は分解するときの熱量が-1?8cal/gであり、前記光透過層は硬化性樹脂からなり25℃での弾性率が40MPa以上である光情報記録媒体を提案する。」(【0008】)
(イ)「保護層と光透過層との間の剥離は、有機色素の分解するときの発熱を小さくして保護層の変形を抑制することによって防止することができる。発明者らが鋭意検討した結果、分解するときの熱量が-1?8cal/gである有機色素を用いると、保護層の変形が剥離を起こさせるレベルに至らないことを見出した。」(【0009】)
(ウ)「記録層5に用いられる有機色素は、分解するときの熱量が10cal/g以下であるとともに、所定の波長例えばBD-Rでは405nmのレーザ光に対して最適な光吸収特性が得られるものが選ばれる。このような色素としては、図4に示す化学式で表される色素や、図5に示す化学式で表される色素があげられる。図4に示す化学式で表される色素は分解するときの熱量が8cal/gである。また、図5に示す化学式で表される色素は分解するときの熱量が-1cal/g、すなわち1cal/gの吸熱反応である。また、2種類以上の色素を混合したものでも良く、全体として分解するときの熱量が10cal/g以下であれば良い。この場合、例えばある種類の色素単独の分解するときの熱量が10cal/gを超えていても、他の種類の色素と混合することによって、混合物全体の分解するときの熱量が10cal/g以下になっていれば良い。記録層5はこれらの色素を例えばTFP(テトラフルオロプロパノール)溶液に溶かしたものをスピンコート法によって塗布して形成される。」(【0018】)
(エ)「(実施例1)中心部分に貫通孔を有し、かつトラックピッチ0.32μm、溝幅180nm、溝深さ32nmの案内溝を有する外径120mm、厚さ1.1mmの円板状のポリカーボネート製の基板を、射出成形によって作成した。この基板の案内溝が形成された面にAg合金をスパッタリングして60nmの厚さの反射層を形成した。その後図4に示す化学式で表される有機色素(分解熱量8cal/g)をTFP(テトラフルオロプロパノール)溶剤に溶かした色素溶液をスピンコート法により塗布し、80℃で30分間乾燥して記録層を形成した。」(【0023】)
(オ)「(実施例2)記録層に用いる有機色素を図5に示す化学式で表される有機色素(分解熱量-1cal/g)を用いた以外は、実施例1と同様にして光情報記録媒体を得た。」(【0027】)
(カ)「(実施例3)記録層に用いる有機色素を図5に示す化学式で表される有機色素と図6に示す化学式で表される有機色素とを70:30で混合したもの(混合物の分解熱量8cal/g)を用いた以外は、実施例1と同様にして光情報記録媒体を得た。」(【0030】)
(キ)「(比較例1)
記録層に用いる有機色素を図6に示す化学式で表される有機色素(分解熱量20cal/g)を用いた以外は、実施例1と同様にして光情報記録媒体を得た。」(【0032】)
(ク)「(比較例2)
記録層に用いる有機色素を図7に示す化学式で表される有機色素(分解熱量30cal/g)を用いた以外は、実施例1と同様にして光情報記録媒体を得た。」(【0035】)
(ケ)「以上の結果より、記録層に分解時の熱量が10cal/g以下の有機色素を用いた光情報記録媒体であれば、保護層の変形を抑制して、保護層と光透過層との剥離を防止することができることがわかった。」(【0038】)

イ 本願発明において、分解するときの熱量が-1?8cal/gの範囲内の有機色素を用いている技術上の意義は、上記アの記載からみて、光情報記録媒体に用いる有機色素を、その分解するときの発熱が10cal/g以下と小さいものにして保護層の変形を抑制することによって、保護層と光透過層との間の剥離を防止することにあると解される。
してみると、引用発明の「有機色素(モノアザメチンシアニン化合物色素)」が分解するときの熱量はおよそ-30cal/gであるから、引用発明のものも、保護層の変形を抑制して、保護層と光透過層との剥離を防止することができるものであると解される
一方、有機色素の分解するときの熱量が10cal/g以下である限りにおいて、その範囲を本願発明で「-1?8cal/g」に限定した点に、設計上の事項を超える技術上の意義はみいだせない。
したがって、有機色素の分解するときの熱量が10cal/g以下である限りにおいて、その範囲を本願発明で「-1?8cal/g」に限定した点は、当業者が適宜決定することができた設計上の事項にすぎない。

(3)相違点3について
ア 硬化性樹脂からなる光透過層を有する光情報記録媒体であって、光透過層の25℃での弾性率が40MPa以上のものは、本願出願前に周知である(以下、「周知技術2」という。例.特開2006-313612号公報(【0068】?【0072】参照。)、特開2007-294076号公報(【0045】?【0049】参照。)、国際公開第2007/114285号([0045]?[0049]参照。))。

イ 引用発明において、前記「光透過層(カバー層)」を、25℃での弾性率が40MPa以上である硬化性樹脂となすこと、すなわち、引用発明において、上記相違点4に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(4)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果及び周知技術2の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-24 
結審通知日 2013-07-25 
審決日 2013-08-06 
出願番号 特願2008-192745(P2008-192745)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 里村 利光  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 鉄 豊郎
小牧 修
発明の名称 光情報記録媒体  
代理人 栗原 弘幸  

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