• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  D21F
管理番号 1279385
審判番号 無効2011-800059  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-04-14 
確定日 2013-09-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第3698984号「シュープレス用ベルト」の特許無効審判事件についてされた平成23年11月30日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、「特許第3698984号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す判決(平成24年(行ケ)第10004号、審決取消請求事件平成24年11月13日判決言渡)があったので、請求項1に係る発明について、さらに審理のうえ次のとおり審決する。 
結論 特許第3698984号の請求項1に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件における主な手続の経緯を整理して示す。

平成12年11月10日 本件出願
平成17年 7月15日 設定登録(特許第3698984号)
平成23年 4月14日付け 審判請求書
平成23年 7月 8日付け 審判事件答弁書
平成23年 8月25日付け 通知書
平成23年 9月14日付け 第1回口頭審理陳述要領書(請求人)
平成23年10月 4日付け 第1回口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成23年10月18日付け 上申書(請求人)
平成23年10月18日付け 上申書(被請求人)
平成23年10月18日 口頭審理
平成23年10月25日付け 上申書(請求人)
平成23年10月25日付け 上申書(被請求人)
平成23年11月 1日付け 上申書(被請求人)
平成23年11月30日付け 審決(請求項1について無効、請求項2は 不成立。以下、「第1次審決」という。)
平成24年 1月 6日 知的財産高等裁判所出訴(被請求人)
平成24年11月13日 判決言渡(請求項1について審決取消)
平成24年11月28日 上告提起、上告受理申立
平成25年 6月27日 上告棄却、上告受理申立却下

第2 請求人の主張の概要
1 請求人は、審判請求書によれば、「本件特許である、特許請求の範囲請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第12号証の3を提出している。

甲第1号証:特開平11-247086号公報
甲第2号証:「高分子関連技術情報 Polyfile1999 Vol.36 No.419 ’99.1」、1、37、38及び72頁:株式会社 大成社 出版部、1999年1月10日発行
甲第3号証:「JOURNARY OF ELASTOMERS AND PLASTICS VOLUME 19 NUMBER 1 JANUARY 1987」、表紙、CONTEENTS頁、6?21頁
甲第3号証の2:甲第3号証の抄訳、1?17頁
甲第3号証の3:独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 情報提供部長 永野充 の平成23年10月11日付け証明書
甲第4号証:特開平10-298893号公報
甲第5号証:「JOURNARY OF ELASTOMERS ANDPLASTICS VOLUME 20 NUMBER 2 APRIL 1988」、表紙、CONTEENTS頁、128?142頁
甲第5号証の2:甲第5号証の抄訳、1?6頁
甲第5号証の3:独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 情報提供部長 永野充 の平成23年10月11日付け証明書
甲第6号証及び甲第6号証の3:「polymer Volume 36 Number 4 1995」、表紙、673、674、767?774頁
甲第6号証の2:甲第6号証の抄訳、1?14頁
甲第6号証の4:独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 情報提供部長 永野充 の平成23年10月11日付け証明書
甲第7号証:特開平10-212333号公報
甲第8号証:特開2000-248040号公報
甲第9号証:「ポリウレタン関連商品 [三井化学(株)機能材料事業本部コーティング・機能材事業部](旧三井化学ポリウレタン(株)社製)?原材料から樹脂製品まで?」と題された書面、http://www.kohyei.com/material/mcpu/mcpu04.html 2011/03/04
甲第10号証:特許第3698984号公報(本件特許公報)
甲第11号証:特開2007-138186号公報
甲第12号証:「タケネート L-2395 UJ1062 2008年10月15日の製品安全データシート」と題された書面、1?8頁
甲第12号証の2:「三井化学ポリウレタン(株)の発足について」と題された三井武田ケミカル株式会社、三井化学株式会社の2006年3月2日付け書面、1葉
甲第12号証の3:「『化学』『革新』『夢』の三井化学」と題された書面、1葉

2 請求人は、審判請求書によれば、以下の無効理由A及びBを主張しているものと認める。

A:本件発明は、甲第1?8号証に記載された事項を踏まえれば、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明とに基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることできたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
B:本件発明は、甲第1?8号証に記載された事項を踏まえれば、甲第4号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とに基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

第3 被請求人の主張の概要
1 被請求人は、審判事件答弁書によれば、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の乙第1号証を提出している。
乙第1号証:「大辞泉 増補・新装版」、表紙、781頁、奥付:株式会社 小学館、1998年12月1日発行
2 被請求人は、答弁書によれば、以下の主張をしているものと認める。
本件特許は、甲第1?8号証に記載された発明に基づいて、当業者がその出願前に容易に発明をすることできたものではなく、特許法第29条第2項違反の無効理由を有するものではない。

第4 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件願書に添付した明細書又は図面の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定されるシュープレス用ベルトに係るもので、請求項1の記載は、甲第10号証によれば、以下のとおりのものと認める。
【請求項1】
「補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され、
外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて、
外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている、
シュープレス用ベルト。」

第5 甲各号証の記載事項
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、以下の記載1a?1bが認められる。
1a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】 磨かれた表面を持つ回転可能なマンドレル表面にて形成されたエンドレスの第一樹脂層と、少なくとも交差する一方の糸に高強度糸を用いた織物片を、該高強度糸が前記マンドレルの軸方向に沿うように前記第一樹脂層の外周に全周的に配置してなる基布層と、該基布層の外周に高強度糸を円周方向に螺旋状に巻き込んでなる糸巻層と、該糸巻層の外周にて形成されたエンドレスの第二樹脂層とからなり、該第二樹脂層は前記基布層及び糸巻層を通して前記第一樹脂層に接していることを特徴とするシュープレス用ベルト。」
1b:「【0030】
【実施例1】適宜駆動手段により回転可能な直径1500mmのマンドレルの磨かれた表面に剥離剤(KS-61:信越化学工業製)を塗布する。該マンドレル表面に熱硬化性ウレタン樹脂(プレポリマー:タケネートL2395〔武田製薬製〕、硬化剤:3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニールメタン)をドクターバーを用いて1mm厚みに塗布し、10分間放置した。
【0031】次に、ポリエステルの800dのモノフィラメント糸を経糸とし、ポリエステルの4500dのマルチフィラメント糸(高強度糸S)を緯糸として緯二重織で製織してなる織物片(緯メッシュ30本/5cm、経メッシュ40本/5cm)Pを、4500dのマルチフィラメント糸(高強度糸S)がマンドレルの軸方向に沿うようにして前記第一樹脂層の外周に巻き、両端を突き合わせるようにして圧着した。
【0032】かくして、第一樹脂層2の外周に基布層3が形成されたならば、その外周にポリエステルの4500dのマルチフィラメント糸(高強度糸Sy)を円周方向に螺旋状に30本/5cmのピッチで巻き付けて糸巻層4を形成した。
【0033】次いで、糸巻層4の上から、前記第一樹脂層2に用いた樹脂と同じ熱硬化性ウレタン樹脂5を、5.5mm厚に含浸コートし、100°Cで5時間加熱硬化させた後、第二樹脂層5の表面を研磨して全厚が5.2mm厚になるようにしてから、回転刃で円周方向に凹溝7を形成して本願ベルト1を得た。」
(2)甲第1号証には、記載1aによれば、「磨かれた表面を持つ回転可能なマンドレル表面にて形成されたエンドレスの第一樹脂層と、少なくとも交差する一方の糸に高強度糸を用いた織物片を、該高強度糸が前記マンドレルの軸方向に沿うように前記第一樹脂層の外周に全周的に配置してなる基布層と、該基布層の外周に高強度糸を円周方向に螺旋状に巻き込んでなる糸巻層と、該糸巻層の外周にて形成されたエンドレスの第二樹脂層とからなり、該第二樹脂層は前記基布層及び糸巻層を通して前記第一樹脂層に接している、シュープレス用ベルト」についての発明が記載されていると認められる。
また、甲第1号証には、上記発明の実施例とされている実施例1が記載された記載1bが認められ、この記載によれば、上記発明の「第一樹脂層」と「第二樹脂層」として、具体的には熱硬化性ウレタン樹脂(プレポリマー:タケネートL2395〔武田製薬製〕、硬化剤:3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニールメタン)が採用されていることが見て取れる。
そして、以上の検討を踏まえると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「磨かれた表面を持つ回転可能なマンドレル表面にて形成されたエンドレスの第一樹脂層と、少なくとも交差する一方の糸に高強度糸を用いた織物片を、該高強度糸が前記マンドレルの軸方向に沿うように前記第一樹脂層の外周に全周的に配置してなる基布層と、該基布層の外周に高強度糸を円周方向に螺旋状に巻き込んでなる糸巻層と、該糸巻層の外周にて形成されたエンドレスの第二樹脂層とからなり、該第二樹脂層は前記基布層及び糸巻層を通して前記第一樹脂層に接しているシュープレス用ベルトにおいて、前記第一樹脂層及び前記第二樹脂層の樹脂が、熱硬化性ウレタン樹脂(プレポリマー:タケネートL2395〔武田製薬製〕、硬化剤:3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニールメタン)からなる、シュープレス用ベルト」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証には、その表題として、「MOCA代替の新硬化剤 ETHACURE300」と記載され、さらに、以下の記載2a?2cが認められる。
2a:「ポリウレタンやエポキシ樹脂等熱硬化性樹脂の硬化には,硬化剤が不可欠であり,各種の硬化剤が用途に応じて使い分けられている。
米国アルベーマール社は,代表的ウレタン硬化剤であるMOCA(4,4メチレン‐ビス‐(2‐クロロアニリン)に代る新しい硬化剤としてETHACURE300(エタキュアー)を開発,このほど日本国内でも本格販売をはじめた。
MOCAは,発ガン性が指摘されており,より安全性の高い材料が求められてきた。すでに,アルベマール社では,新しいウレタン硬化剤の開発に取り組んでおり,イソシアネートと緩やかに反応すること,ポリウレタンにすぐれた温度特性を与えること,固化により装置の停止がないことなどを狙いとした開発を進めてきた。こうしたなかで, 1980年代半ばに同社ではETHACURE300を開発した。」(37頁左欄1?21行)
2b:「〈特徴〉
ETHACURE300は、TDIポリエーテルやTDIポリエステルプレポリマー用の液体芳香族ジアミン硬化剤である。MDIにも使用可能。急性毒性の心配がなく、発ガン性も、突然変異性もない安全な硬化剤である。」(37頁左欄下から4行?中欄3行)
2c:「(審決注:構造式は省略。)
3,5-ジメチルチオ-2,6-トルエンジアミン
3,5-ジメチルチオ-2,4-トルエンジアミン」(37頁右欄1?2行)
(2)甲第2号証は、ETHACURE300について記載するもので、これは、記載2a及び2cによれば、熱硬化性ポリウレタンの硬化剤であって、少なくとも、3,5-ジメチルチオ-2,6-トルエンジアミン又は3,5-ジメチルチオ-2,4-トルエンジアミンを有効成分としていることがうかがえ、甲第2号証には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「熱硬化性ポリウレタンの硬化剤であって、少なくとも、3,5-ジメチルチオ-2,6-トルエンジアミン又は3,5-ジメチルチオ-2,4-トルエンジアミンを有効成分としているETHACURE300」

3 甲第4号証
(1)甲第4号証には、図面とともに、以下の記載4a?4cが認められる。
4a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基布層と、該基布層の片面を形成する第一樹脂層と、前記基布層の他の片面を形成する第二樹脂層からなるシュープレス用ベルトであって、前記ベルトの幅方向の中央域を構成する第一樹脂層と第二樹脂層の一方又は双方の硬度を高く、両縁域で低くなるように変化させたことを特徴とするシュープレス用ベルト。」
4b:「【0016】前記本願ベルト1は、図3の如く、織布(例えば、経三重組織、経糸aをPET(ポリエチレンテレフタレート)モノフィラメント、充填糸bをPETマルチフィラメント、緯糸cをPETモノフィラメントで厚みT_(1)に織成した)よりなる基布層2と、該基布層2のシュー側の片面を形成する第一樹脂層3と、前記基布層2のフェルト側の片面を形成する第二樹脂層4とからなる。該第一樹脂層3は基布層2の片面からの厚さt_(1)を画定するとともに、第二樹脂層4も基布層2の片面からの厚さt_(2)を画定してその厚さになるまで研磨し、全体の厚さT_(2)を画定する。
【0017】前記第一樹脂層3と第二樹脂層4は、図4の如く、ベルト幅方向の中央域Aで硬度の高い樹脂が使用される。具体的には、シュー側を構成する第一樹脂層3で85?93°(JIS-A)の硬度、フェルト側を構成する第二樹脂層4で90?98°(JIS-A)の硬度の樹脂をそれぞれ使用することが好ましい。」
4c:「【0028】
【実施例】
○実施例
ポリエステル繊維からなる基布層(経三重組織、経糸0.4mmφPETモノフィラメント、充填糸PETマルチフィラメント、緯糸0.4mmφPETモノフィラメントで厚さT_(1)を2.5mmに織成したもの)2の片面(シュー側)の中央域Aに、熱硬化性ウレタン(プレポリマー:ユニロイヤル社製のアジプレンL167とアジプレンL100との40部:60部混合物、硬化剤:キュアミンMT<イハラケミカル社製>)をコート(樹脂硬度92°)する。
【0029】また、基布層2の片面(シュー側)の幅方向両縁域B、Cに、前記中央域Aより硬度の低い熱硬化性ウレタン(プレポリマー:アジプレンL100単独、硬化剤:キュアミンMT)をコート(樹脂硬度90°)して硬化させて第一樹脂層3を形成し、該第一樹脂層3を基布層2の片面からの厚さt_(1)が0.9mmになるように研磨する。
【0030】次いで、基布層2の他の片面(フェルト側)の中央域Aに、熱硬化性ウレタン(プレポリマー:アジプレンL167<ユニロイヤル社製>、硬化剤:キュアミンMT<イハラケミカル社製>)をコート(樹脂硬度95°)する。これと同時に、基布の幅方向両縁域B、Cに、前記中央域より硬度の低い熱硬化性ウレタン(プレポリマー:アジプレンL167とアジプレンL100との40部:60部混合物、硬化剤:キュアミンMT)をコート(樹脂硬度92°)して硬化させて第二樹脂層4を形成させた。」
(2)甲第4号証には、記載4aによれば、「基布層と、該基布層の片面を形成する第一樹脂層と、前記基布層の他の片面を形成する第二樹脂層からなるシュープレス用ベルトであって、前記ベルトの幅方向の中央域を構成する第一樹脂層と第二樹脂層の一方又は双方の硬度を高く、両縁域で低くなるように変化させた、シュープレス用ベルト」についての発明が記載されており、記載4b及び図3によれば、第一樹脂層3はシュープレス用ベルトの内周面を構成し、第二樹脂層4はシュープレス用ベルトの外周面を構成するもので、基布層2が第一樹脂層3及び第二樹脂層4の中に埋設されていることが見て取れる。
また、甲第4号証には、上記発明の実施例としての記載4cが認められ、この記載によれば、上記発明の「ベルトの幅方向の中央域を構成する第一樹脂層」として、熱硬化性ウレタン(プレポリマー:ユニロイヤル社製のアジプレンL167とアジプレンL100との40部:60部混合物、硬化剤:キュアミンMT<イハラケミカル社製>)が、また、同じく「ベルトの幅方向の両縁域を構成する第一樹脂層」として、熱硬化性ウレタン(プレポリマー:アジプレンL100単独、硬化剤:キュアミンMT)が、「ベルトの幅方向の中央域を構成する第二樹脂層」として、熱硬化性ウレタン(プレポリマー:アジプレンL167<ユニロイヤル社製>、硬化剤:キュアミンMT<イハラケミカル社製>)が、そして、「ベルトの幅方向の両縁域を構成する第二樹脂層」として、熱硬化性ウレタン(プレポリマー:アジプレンL167とアジプレンL100との40部:60部混合物、硬化剤:キュアミンMT)が採用されていることが見て取れる。
そして、以上の検討を踏まえると、甲第4号証には、以下の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「基布層と、該基布層の片面を形成する第一樹脂層と、前記基布層の他の片面を形成する第二樹脂層からなり、内周面を構成する第一樹脂層と外周面を構成する第二樹脂層とが熱硬化性ウレタン樹脂で構成され、それらの中に基布層が埋設されたシュープレス用ベルトであって、前記ベルトの幅方向の中央域を構成する第一樹脂層と第二樹脂層の一方又は双方の硬度を高く、両縁域で低くなるように変化させたシュープレス用ベルトにおいて、ベルトの幅方向の中央域を構成する第一樹脂層の樹脂が熱硬化性ウレタン(プレポリマー:ユニロイヤル社製のアジプレンL167とアジプレンL100との40部:60部混合物、硬化剤:キュアミンMT<イハラケミカル社製>)、ベルトの幅方向の両縁域を構成する第一樹脂層の樹脂が熱硬化性ウレタン(プレポリマー:アジプレンL100単独、硬化剤:キュアミンMT)、ベルトの幅方向の中央域外周面を構成する第二樹脂層の樹脂が熱硬化性ウレタン(プレポリマー:アジプレンL167<ユニロイヤル社製>、硬化剤:キュアミンMT<イハラケミカル社製>)、そして、ベルトの幅方向の両縁域外周面を構成する第二樹脂層の樹脂が熱硬化性ウレタン(プレポリマー:アジプレンL167とアジプレンL100との40部:60部混合物、硬化剤:キュアミンMT)からなるシュープレス用ベルト」

第6 当審の判断
1 無効理由Aについて
(1)本件発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1において、熱硬化性ウレタン樹脂からなる第二樹脂層は、基布層及び糸巻層を通して、同じく熱硬化性ウレタン樹脂からなる第一樹脂層に接しているのであるから、引用発明1は、第一樹脂層を構成する熱硬化性ウレタン樹脂と第二樹脂層を構成する熱硬化性ウレタン樹脂中に基布層及び糸巻層が埋設され、基布層及び糸巻層とこれら熱硬化性ウレタン樹脂とが一体化しているといえる。
また、引用発明1において、熱硬化性ウレタン樹脂からなる第一樹脂層がシュープレス用ベルトの内周面を構成し、熱硬化性ウレタン樹脂からなる第二樹脂層がシュープレス用ベルトの外周面を構成しているのは明らかであるから、引用発明1は、外周面および内周面が熱硬化性ウレタン樹脂で構成されたシュープレス用ベルトということができる。
さらに、甲第12号証には、その2頁に、「3.組成、成分情報」の「化学名又は一般名」の項目に「イソシアネート基末端ウレタン樹脂」と記載され、甲第12号証の2及び甲第12号証の3を併せ見ると、引用発明1の「プレポリマー:タケネートL2395〔武田製薬製〕」は、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと認められる。
そして、引用発明1の「基布層と糸巻層」は、本件発明の「補強基材」に対応し、両発明は、以下の点で一致していると認められる。
「補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され、
外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて、
外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと硬化剤と、を含む組成物から形成されている、
シュープレス用ベルト。」
また、以下の点で、相違しているものと認められる。
硬化剤につき、本件発明が「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する」ものであるのに対し、引用発明1は「3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニールメタン」である点。
(2)この相違点は、本件無効審判に係る第1次審決(平成23年11月30日付け審決)を取り消した平成24年(行ケ)第10004号判決(以下、「取消判決」という。)によって、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とからは容易想到でないと判示された相違点と、同様の相違点である。行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、第1次審決を取り消した取消判決は当審を拘束するところ、この相違点と同様の相違点が甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とからは容易想到でないとの事項は、取消判決の結論に至る裁判所の主要な判断事項となっている。そうすると、当審は裁判所の判断に従うべきである。
(3)当審は、本件発明が、ベルトの外周面を構成するポリウレタンにクラックが発生することを防止できるという当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものであることに照らせば、本件発明は、当業者が甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とから容易に想到するものであるとはいえないと判断する。

2 無効理由Bについて
請求人は、本件発明に対して引用発明4を主引例とした場合の無効理由についても主張しているので、検討する。
(1)本件発明と引用発明4とを対比する。
引用発明4において、シュープレス用ベルトは、基布層と、該基布層の片面を形成する第一樹脂層と、前記基布層の他の片面を形成する第二樹脂層からなり、内周面を構成する第一樹脂層と外周面を構成する第二樹脂層とが熱硬化性ウレタン樹脂で構成され、それらの中に基布層が埋設されているから、引用発明4は、第一樹脂層を構成する熱硬化性ウレタン樹脂と第二樹脂層を構成する熱硬化性ウレタン樹脂中に基布層が埋設され、基布層とこれら熱硬化性ウレタン樹脂とが一体化しており、外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトということができる。
さらに、甲第7号証、甲第8号証を併せ見ると、引用発明4の「プレポリマー:アジプレンL167〔ユニロイヤル社製〕」は、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと認められる。
そして、引用発明4の「基布層」は、本件発明の「補強基材」に対応し、両発明は、以下の点で一致していると認められる。
「補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され、
外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて、
外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと硬化剤と、を含む組成物から形成されている、
シュープレス用ベルト。」
また、以下の点で、相違しているものと認められる。
硬化剤につき、本件発明が「ジメチルチオトルエンジアミンを含有する」ものであるのに対し、引用発明4は「キュアミンMT」である点。
(2)引用発明4は、耐摩耗性を損なうことなくシューエッジ部位でのクラックを起こし難くするために、ベルトの幅方向の中央域を構成する第一樹脂層と第二樹脂層の一方又は双方の硬度を高く、両縁域で低くなるように変化させたシュープレス用ベルトというものである。これに対し、本件発明は、シュープレス用ベルトの外周面を構成するポリウレタンを形成する際に用いる硬化剤として、ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより、ベルトの外周面を構成するポリウレタンにクラックが発生することを防止できるという効果を奏するものであり、このような効果について、甲第4号証には何らの記載も示唆もない。
また、引用発明2は、ジメチルチオトルエンジアミンを有効成分としている硬化剤であるが、発ガン性等がない硬化剤であり、クラックの発生が顕著に抑制されることについては、甲第2号証には何らの記載も示唆もない。また、ほかに、このような効果について、本件特許出願当時の当業者が予測し得たものであることをうかがわせる証拠はない。
そうすると、硬化剤としてジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより、クラックの発生が顕著に抑制されるという効果は、甲第4号証及び同第2号証からも、また、本件特許出願時の技術水準からも当業者といえども予測することができない顕著なものというべきである。
(3)上記1ないし2のとおり、甲第2号証に接した当業者が、安全性の点からETHACURE300を使用することを動機付けられることがあるとしても、本件発明がベルトの外周面を構成するポリウレタンにクラックが発生することを防止できるという当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものであることに照らせば、本件発明は、甲第4号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とから当業者が容易に想到したものであるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-22 
結審通知日 2013-07-24 
審決日 2013-08-07 
出願番号 特願2000-343712(P2000-343712)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (D21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 則義澤村 茂実  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 栗林 敏彦
渡邊 真
登録日 2005-07-15 
登録番号 特許第3698984号(P3698984)
発明の名称 シュープレス用ベルト  
代理人 森田 俊雄  
代理人 船越 巧子  
代理人 深見 久郎  
代理人 仲村 義平  
代理人 赤木 信行  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ