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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1279420
審判番号 不服2012-15093  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-03 
確定日 2013-09-18 
事件の表示 特願2010-127215「マルチアングルデータを再生する方法及び再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月25日出願公開、特開2010-267371〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成16年7月6日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2003年7月7日 米国(US) 2003年10月29日 韓国(KR) 2004年4月2日 韓国(KR))を国際出願日とする特願2006-518547号の一部を平成22年6月2日に新たな特許出願としたものであって、平成23年8月2日付け拒絶理由通知に対して平成24年2月9日付けで手続補正がなされたが、同年3月28日付けで拒絶査定がされた。これに対し、同年8月3日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされた。
その後、平成24年11月29日付けで前置報告書を利用した審尋がなされ、平成25年3月4日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年8月3日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年8月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正

平成24年8月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、本件補正前に、
「 【請求項1】
再生装置が情報記録媒体からのマルチアングルデータを再生する方法であって、
該マルチアングルデータは、第1のアングルに対応する第1のアングルデータ及び第2のアングルに対応する第2のアングルデータを有し、
該第1のアングルデータ及び該第2のアングルデータは、それぞれ複数のブロックを有し、
該第1及び第2のアングルデータのブロックは、インターリーブドブロックであって、互いにインターリービングされており、
各前記のインターリーブドブロックのそれぞれは、前記マルチアングルデータの再生中に再生装置があるアングル転換点から別のアングル転換点へジャンプすることを可能にする少なくとも1つのアングル転換点を有し、
当該方法は、
前記再生装置のリードバッファが前記情報記録媒体から前記マルチアングルデータをバッファリングする段階、
前記再生装置のデパケッタイザがバッファリングされた前記マルチアングルデータを変換する段階、
あるアングル転換点から別のアングル転換点へジャンプする間に前記マルチアングルデータを再生する段階、
を有し、
前記アングル転換点の数は、
2つのアングル転換点の間の距離を計算する段階、
該計算した距離と前記インターリーブドブロックのパケットの再生長との間のオフセットを補正する補正段階、
前記マルチアングルデータがデータ再生中に必要としうる最長ジャンプ距離を前記再生装置の最大ジャンプ距離よりも短く又は等しく制限する、1つのインターリーブドブロック内のアングル転換点の最大数を計算する段階、
を実行することから得られ、
前記インターリーブドブロックの前記アングル転換点の最大数は、
前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間の間ジャンプできる最大距離がアングル転換により求められる最長距離より大きいという条件を満たして設定され、
前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間はデパケッタイザのデータ出力データによって決定される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記補正段階は、
第1の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さ及び該第1の所定の時間より長い第2の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さを計算する段階と、
前記アングル転換点の間の距離が前記第1の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さよりも短い場合、該アングル転換点の間の距離を前記第1の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さで置き換える段階と、
前記アングル転換点の間の距離が前記第1の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さよりも長く且つ前記第2の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さよりも短い場合、該アングル転換点の間の距離を前記第2の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さで置き換える段階と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一つのアングルからのシーンの再生のためのマルチアングルデータを含む記録媒体を再生する装置であって、
マルチアングルデータを記録媒体でバッファリングするリードバッファと、
バッファリングされた前記マルチアングルデータを変換するデパケッタイザを含み、
前記マルチアングルデータは、第1のアングルに対応する第1のアングルデータ及び第2のアングルに対応する第2のアングルデータを有し、第1のアングルデータ及び第2のアングルデータは、それぞれ少なくとも一つのブロックを有し、第1及び第2のアングルデータのブロックはインターリーブドブロックであって互いにインターリービングされており、前記インターリーブドブロックのそれぞれは、前記マルチアングルデータの再生中に再生装置が存するアングル転換点から別のアングル転換点へジャンプすることを可能にする少なくとも一つのアングル転換点を有し、
前記インターリーブドブロックの前記アングル転換点の最大数は、
前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間の間ジャンプできる最大距離がアングル転換により求められる最長距離より大きいという条件を満たすように設定され、
前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間はデパケッタイザのデータ出力データにより決定されることを特徴とする再生装置。」
とあったところを、

本件補正後、
「 【請求項1】
再生装置が情報記録媒体からのマルチアングルデータを再生する方法であって、
該マルチアングルデータは、第1のアングルに対応する第1のアングルデータ及び第2のアングルに対応する第2のアングルデータを有し、
該第1のアングルデータ及び該第2のアングルデータは、それぞれ複数のブロックを有し、
該第1及び第2のアングルデータのブロックは、インターリーブドブロックであって、互いにインターリービングされており、
各前記のインターリーブドブロックのそれぞれは、前記マルチアングルデータの再生中に前記再生装置があるアングル転換点から別のアングル転換点へジャンプすることを可能にする少なくとも1つのアングル転換点を有し、
当該方法は、
前記再生装置のリードバッファが前記情報記録媒体から前記マルチアングルデータをバッファリングする段階、
前記再生装置のデパケッタイザがバッファリングされた前記マルチアングルデータを変換する段階、
あるアングル転換点から別のアングル転換点へジャンプする間に前記マルチアングルデータを再生する段階、
を有し、
前記アングル転換点の数は、
2つのアングル転換点の間の距離を計算する段階、
該計算した距離と前記インターリーブドブロックのパケットの再生長との間のオフセットを補正する補正段階、
前記マルチアングルデータがデータ再生中に必要としうる最長ジャンプ距離を前記再生装置の最大ジャンプ距離よりも短く又は等しく制限する、1つのインターリーブドブロック内のアングル転換点の最大数を計算する段階、
を実行することから得られ、
前記インターリーブドブロックの前記アングル転換点の最大数は、
前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間の間ジャンプできる最大距離がアングル転換により求められる最長距離より大きいという条件を満たして設定され、
前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間はデパケッタイザの出力データによって決定される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記補正段階は、
第1の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さ及び該第1の所定の時間より長い第2の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さを計算する段階と、
前記アングル転換点の間の距離が前記第1の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さよりも短い場合、該アングル転換点の間の距離を前記第1の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さで置き換える段階と、
前記アングル転換点の間の距離が前記第1の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さよりも長く且つ前記第2の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さよりも短い場合、該アングル転換点の間の距離を前記第2の所定の時間の間に再生されるデータストリームの長さで置き換える段階と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一つのアングルからのシーンの再生のためのマルチアングルデータを含む記録媒体を再生する装置であって、
第1のアングルに対応する第1のアングルデータ及び第2のアングルに対応する第2のアングルデータを含むマルチアングルデータを前記記録媒体で読み出す読出し部と、
読み出された前記マルチアングルデータをバッファリングするリードバッファと、
バッファリングされた前記マルチアングルデータを変換するデパケッタイザを含み、
前記第1のアングルデータ及び第2のアングルデータは、それぞれ少なくとも一つのブロックを有し、第1及び第2のアングルデータのブロックはインターリーブドブロックであって互いにインターリービングされており、前記インターリーブドブロックのそれぞれは、前記マルチアングルデータの再生中に再生装置が存するアングル転換点から別のアングル転換点へジャンプすることを可能にする少なくとも一つのアングル転換点を有し、
前記読出し部は、アングル転換が要請されれば、前記第1のアングルデータの第1のアングル転換点まで前記第1のアングルデータを読み出し、前記第1のアングル転換点に対応し前記第2のアングルデータに含まれる第2のアングル転換点から前記第2のアングルデータを読み出し、
読み出される前記インターリーブドブロックに含まれる前記アングル転換点の最大数は、前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間の間ジャンプできる最大距離がアングル転換により求められる最長距離より大きいという条件を満たすように設定され、
前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間はデパケッタイザのデータ出力レートにより決定されることを特徴とする再生装置。」
とするものである。

上記本件補正は、請求項3についてする補正であって、その内容は、補正前請求項3に記載した発明特定事項である「再生装置」について「第1のアングルに対応する第1のアングルデータ及び第2のアングルに対応する第2のアングルデータを含むマルチアングルデータを前記記録媒体で読み出す読出し部」を含み、「前記読出し部は、アングル転換が要請されれば、前記第1のアングルデータの第1のアングル転換点まで前記第1のアングルデータを読み出し、前記第1のアングル転換点に対応し前記第2のアングルデータに含まれる第2のアングル転換点から前記第2のアングルデータを読み出」すと限定したものである。
本件補正は、補正前請求項3に記載した発明特定事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項3に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。

2.先願明細書等

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前の優先権主張を伴う国際特許出願であって、本願の優先権主張の日後に国際公開された特願2005-505706号(国際出願番号PCT/JP2004/004648、国際公開第2004/095834号参照、優先権主張 特願2003-119332号 2003年4月24日 日本国(JP))の国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「先願明細書等」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「上述した映像データや音声データなどから構成される複数のデータが記録されている記録媒体として、特に、DVD(Digital Versatile Disc)ビデオがあり、DVDビデオのフォーマットには、マルチアングル再生が規定されている。マルチアングル再生が可能な所定の再生区間において、ユーザは、自分の嗜好に合うアングルを選択することができ、その際、記録再生装置によりアングル間の切り替えをシームレスに再生することができる。
図1は、DVDビデオのマルチアングルのフォーマットを説明する図である。
マルチアングルの再生区間は、複数の一再生区間により構成されており、その一再生区間はセル(Cell)と呼ばれる。図1の例では、マルチアングル(multiangle)の再生区間が、アングル#1(Angle#1)乃至アングル#3(Angle#3)の3つのアングルのセル#i+1乃至セル#i+3により構成されている。ここで、セルに対応する実態のAVストリームデータはVOB(Video Object)と呼ばれる。
図2に、DVDビデオのマルチアングルを実現するための、インターリーブドブロック構造を示す。インターリーブドブロックは、複数のILVU(Interleaved Unit)と呼ばれる単位で構成される。マルチアングルを構成するそれぞれのセルに対応するVOBは、ILVUに分けられており、マルチアングルを構成するこれら複数のVOBは、ILVU単位に多重化される。なお、各ILVUは、Closed GOP(Group Of Pictures)から開始する。」(1頁22行?2頁13行)

(2)「図4は、本発明を適用した記録再生装置1の内部構成を示すブロック図である。」(9頁25行)

(3)「多重化ストリームは、例えば、MPEG2トランスポートストリームやMPEG2プログラムストリームである。ソースパケッタイザ19は、入力された多重化ストリームを、そのストリームを記録させる記録媒体100のアプリケーションフォーマットに従って、ソースパケットから構成されるAVストリームに符号化する。AVストリームは、ECC(誤り訂正)符号化部20と変調部21でECC符号の付加と変調処理が施され、書き込み部22に出力される。書き込み部22は、制御部23から出力される制御信号に基づいて、例えば、DVDなどの記録媒体100にAVストリームファイルを書き込む(記録する)。」(10頁21行?11頁2行)

(4)「入力トランスポートストリームを再エンコードした後に記録する場合、端子13に入力されたトランスポートストリームは、スイッチ25からデマルチプレクサ26に入力される。デマルチプレクサ26は、入力されたトランスポートストリームに対してデマルチプレクス処理を施し、ビデオストリーム(V)、オーディオストリーム(A)、およびシステム情報(S)を抽出する。」(11頁16?20行)

(5)「このようにして記録媒体100に記録されたAVストリームファイル(画像データと音声データのファイル)と、アプリケーションデータベース情報が再生部3により再生される場合、まず、制御部23は、読み出し部28に対して、記録媒体100からアプリケーションデータベース情報を読み出すように指示する。そして、読み出し部28は、記録媒体100からアプリケーションデータベース情報を読み出す。そのアプリケーションデータベース情報は、復調部29とECC復号部30の復調と誤り訂正処理を経て、制御部23へ入力される。
制御部23は、アプリケーションデータベース情報に基づいて、記録媒体100に記録されているプレイリストの一覧を端子24のユーザインタフェースへ出力する。ユーザは、プレイリストの一覧から再生したいプレイリストを選択し、再生を指定されたプレイリストに関する情報が、端子24から制御部23に入力される。制御部23は、そのプレイリストの再生に必要なAVストリームファイルの読み出しを、読み出し部28に指示する。読み出し部28は、その指示に従い、記録媒体100から対応するAVストリームを読み出し、復調部29に出力する。復調部29は、入力されたAVストリームに、所定の処理を施すことにより復調し、ECC復号部30は、ECCを復号して、処理後のデータをソースデパケッタイザ31に出力する。
ソースデパケッタイザ31は、記録媒体100から読み出され、所定の処理が施されたアプリケーションフォーマットのAVストリームを、デマルチプレクサ26が処理可能なストリームに変換する。デマルチプレクサ26は、制御部23により指定されたAVストリームの再生区間(プレイアイテム)を構成するビデオストリーム(V)、オーディオストリーム(A)、およびAV同期等のシステム情報(S)を、AVデコーダ27に出力する。AVデコーダ27は、ビデオストリームとオーディオストリームを復号し、再生ビデオ信号と再生オーディオ信号を、それぞれ対応する端子32と端子33から出力する。」(14頁11行?15頁8行)

(6)「DVR MPEG2トランスポートストリームについて説明する。図6に、AVストリームファイルの構造を示す。
AVストリームファイルは、DVR MPEG2トランスポートストリームの構造を持つ。DVR MPEG2トランスポートストリームは、整数個のアラインユニット(Aligned unit)から構成される。アラインユニットの大きさは、6144バイト(2048×3バイト)である。アラインユニットは、ソースパケットの第1バイト目から始まる。ソースパケットは、192バイト長である。1つのソースパケットは、TP_extra_headerとトランスポートパケットから成る。TP_extra_headerは、4バイト長であり、またトランスポートパケットは、188バイト長である。」(19頁12?20行)

(7)「図7を用いて、マルチアングルにおいてシームレス(再生画像または音声が、アングル切り替え時に途絶えることなく)にアングル変更の再生を行うことができるようにするために、本発明において採用される構成について説明する。
例えば、マルチアングル区間の中に3つのアングルである、アングル#1,アングル#2,およびアングル#3があるとする。このとき、それぞれのアングルが1つのプレイリストを構成する。図7の例の場合、アングル#1,アングル#2,およびアングル#3は、プレイリスト#1,プレイリスト#2,およびプレイリスト#3により、それぞれ構成されている。アングル#1,アングル#2,およびアングル#3の再生区間に対応するAVストリームデータを、それぞれ、クリップ1(クリップAVストリーム1),クリップ2(クリップAVストリーム2),およびクリップ3(クリップAVストリーム3)とする。
また、図7の例の場合、再生区間は、1つのアングルから他のアングルに移行可能なタイミングの位置(アングル切り替え点)で、異なるプレイアイテムに分けられる。例えば、アングル#1の再生区間を3つに区分するとき、プレイリスト#1は、各再生区間a1,a2,およびa3に対応して、3つのプレイアイテムで構成され、それぞれの再生区間a1,a2,およびa3に対応するクリップ1のAVストリームデータが、A1,A2,およびA3とされる。アングル#2の再生区間を3つに区分するとき、プレイリスト#2は、各再生区間b1,b2,およびb3に対応して、3つのプレイアイテムで構成され、それぞれの再生区間b1,b2,およびb3に対応するクリップ2のAVストリームデータが、B1,B2,およびB3とされる。アングル#3の再生区間を3つに区分するとき、プレイリスト#3は、各再生区間c1,c2,およびc3に対応して、3つのプレイアイテムで構成され、それぞれの再生区間c1,c2,およびc3に対応するクリップ3のAVストリームデータが、C1,C2,およびC3とされる。
再生区間a1,b1,およびc1のプレイアイテムは、同じイン点(IN_time)とアウト点(OUT_time)の組を持ち、例えば、IN_timeはT1であり、OUT_timeはT2である。同様に、再生区間a2,b2,およびc2のプレイアイテムは、同じイン点(IN_time)とアウト点(OUT_time)の組を持ち、例えば、IN_timeはT2であり、OUT_timeはT3である。更に、再生区間a3,b3,およびc3のプレイアイテムは、同じイン点(IN_time)とアウト点(OUT_time)の組を持ち、例えば、IN_timeはT3であり、OUT_timeはT4である。この場合、T1,T2,T3,およびT4は、それぞれAVストリーム上のPTS(Presentation Time Stamp)を示す。なお、T1,T2,T3,T4を等間隔にしても良い。
図8のフローチャートを参照して、マルチアングルにおいてシームレスにアングルを変更する場合の基本的な処理であるアングル変更処理について説明する。
ステップS1において、制御部23は、ユーザから、今再生しているアングルを切り替えるように指示されたか否かを判断する。
ステップS1において、アングルの変更が指示されたと判定された場合、ステップS2において、制御部23は、再生位置がアングル切り替え点であるか否かを判断する。
ステップS2において、現在の位置がアングル切り替え点ではないと判断された場合、現在の位置がアングル切り替え点であると判断されるまで、ステップS2の処理が繰り返される。ステップS2において、現在の位置がアングル切り替え点であると判断された場合、ステップS3において、制御部23は、再生位置を、指定されたアングルのプレイアイテムで規定されるAVストリームの先頭の位置に移行(ジャンプ)させ、そのAVストリームのデータを再生させる。ステップS3の処理の終了後、処理はステップS1に戻り、それ以降の処理が繰り返される。」(20頁3行?21頁25行)

(8)「次に、図11を用いて、複数のクリップを多重化して記録する方法について説明する。
マルチアングルを構成する各アングルの各プレイアイテムに対応するAVストリームデータを記録媒体100に記録するとき、図11に示されるように、A1,B1,C1,A2,B2,C2,A3,B3,C3のように、各アングルのAVストリームデータを、アングル切り替えが可能な最小単位であるアングル切り替えユニットごとにインターリーブして記録することにより、プレイアイテムごとにアングル切り替えするときのジャンプ時間を最小にすることができる。
次に、図12を用いて、複数のクリップを多重化して記録する他の方法について説明する。
マルチアングルを構成する各アングルの各プレイアイテムに対応するAVストリームデータを記録媒体100に記録するとき、例えば、図12に示されるように、A1,A2,A3,B1,B2,B3,C1,C2,C3のように、同一のアングルのAVストリームデータのうちの複数(図12の例の場合、3個)の連続するアングル切り替えユニットごとに(例えば、「A1,A2,A3」,「B1,B2,B3」,「C1,C2,C3」ごとに)、各アングルのAVストリームデータをインターリーブして記録するようにしてもよい。なお、図12に示されるようにインターリーブされて記録されたAVストリームデータを、アングルを切り替えて再生する場合、アングル切り替え点のアドレス(例えば、図13のAVストリームデータA1,A2,A3,・・・の読み出し開始アドレスとしてのタイムスタンプT1,T2,T3,・・・に対応するソースパケット番号x1,x2,x3,・・・)は、図13に示されるように、図9の場合と同様にして、各AVストリームのEP_mapから取得される。
図12を用いて説明したように、連続する複数のアングル切り替えユニットをILVUとした場合、図11の例の場合に比べて、プレイアイテムごとにアングル切り替えするときのジャンプ時間は大きくなるが、断片化されるファイルデータの管理データのデータ量を減らすことができる。例えば、図12の例の場合、断片化されるファイルデータの管理データのデータ量を、図11の例の場合に比べて1/3にすることが可能である。」(26頁8行?27頁9行)

(9)「記録再生装置1が、一定距離をジャンプして再生させる場合のジャンプに必要な時間およびデータを読み取るための速度、並びに、記録するAVストリームのレートおよびアングル数によって、データを途切れることなく再生させることが可能な、アングル切り替えユニットを連続して配置することができる個数Mの選択範囲が決まる。」(29頁10?14行)

(10)「制御部23は、ステップS73において、端子24から供給されるユーザの操作入力に基づいて、メモリ34に保存されているテーブルから、所望のジャンプ距離jを選択し、ステップS74において、メモリ34を参照し、ステップS73で選択されたジャンプ距離jに対応するジャンプ時間Taccを取得する。ここでは、メモリ34に保存されているテーブルには、5000セクタ、20000セクタ、および40000セクタのジャンプ距離jに対応するジャンプ時間Taccが保存されているものとする。
ステップS75において、制御部23は、ステップS74で取得されたジャンプ時間から、平均レートRave以上の値であるAVストリームレートの値Rmaxに対応する最小アングル切り替え時間tを算出する。ここで、AVストリームレートの値Rmaxとしては、例えば、10×106(bps)、20×106(bps)、30×106(bps)、または、40×106(bps)が用いられ、最小アングル切り替え時間tは、次の式(2)を変形することにより求められる式(3)で算出される。
Rud×(t-Tacc)=Rmax×t・・・(2) t=Tacc×Rmax/(Rud-Rmax)・・・(3)
ここで、Rudは、データの読み出し速度である。データの再生処理において、シームレスにデータを再生するためには、データの読み込みとジャンプにかかる時間の合計よりも、最小アングル切り替え時間を大きく設定しなければならない。換言すれば、あるILVUのデータがデータ読み出し速度Rudで読み込まれたとき、読み込まれた1 ILVUのデータは、順次、所定のAVストリームレートで再生される。そして、データの読み込みが終了してから、その1 ILVUのデータの再生が終了されるまでに、次に読み込むILVUの開始位置までのジャンプが終了しなければ、データは連続して再生されず、途切れてしまう。すなわち、式(2)の左辺において、(t-Tacc)は、1 ILVUのデータを読み込むにかかる時間であるので、Rud×(t-Tacc)は、1 ILVUのデータ量を示し、右辺のRmax×tは、AVストリームレートRmaxにおいて最小アングル切り替え時間tに再生されるデータ量を示す。
ステップS76において、制御部23は、端子24から供給されるユーザの操作入力に基づいて、ユーザが希望するアングル切り替え時間Tcを取得し、AVストリームレートと、ユーザが希望するアングル切り替え時間Tcから、次の式、(4)を用いて、アングル切り替えユニットのサイズUsizeを決定する。なお、アングル切り替え時間Tcは、最小アングル切り替え時間tよりも長くなければならないので、ユーザが希望するアングル切り替え時間Tcが最小アングル切り替え時間tよりも短い場合、アングル切り替えユニットのサイズUsizeは演算されない。
Usize=Tc×Rmax/8+α・・・(4)
ここで、αは、データ読み出し時に発生するオーバーヘッドの係数であり、記録媒体に特有の値である。αは、例えば、メディアアクセスブロックサイズの2倍やECCブロックサイズの2倍の値となり、0.125×106(byte)程度の値である。
ステップS77において、制御部23は、次の式(5)を用いて、選択されたジャンプ距離j内に、アングル数タイプA乃至Cにおいて、それぞれのアングル数Nを入れるためのアングル切り替えユニットのサイズの上限Umaxを算出する。
Umax=j/((2N-2)M)・・・(5)
ステップS78において、制御部23は、アングル切り替えユニットサイズの上限値Umaxが、アングル切り替えユニットサイズUsize以上となるような範囲内で、記録方法を選択する。
すなわち、算出されたアングル切り替えユニットサイズの上限値Umaxとアングル切り替えユニットサイズUsizeとを比較して、算出されたアングル切り替えユニットサイズの上限値Umaxがアングル切り替えユニットサイズUsizeより大きい記録方法が、利用可能な記録方法として選択される。」(33頁11行?35頁7行)
なお、「アングル数タイプA乃至C」は誤記であり、正しくは、32頁12?15行の記載「ここで、データ記録方法は、アングル切り替えユニットの」「連続数Mが1であるタイプA、アングル切り替えユニットの連続数Mが2であるタイプB、または、アングル切り替えユニットの連続数Mが4であるタイプCのうちのいずれかから選択されるものとする。」より、「アングル切り替えユニットの連続数タイプA乃至C」である。

(11)「データ配置を管理するための情報の情報量は、断片数に比例して多くなる。すなわち、タイトルの記録時間が長くなれば、断片数も増えるため、データ配置を管理するための情報の情報量も増えてしまう。したがって、記録媒体の記録容量を有効に利用するために、ユーザがデータを記録するために設定する条件に合致する記録方法が複数存在した場合、連続するアングル切り替えユニット数ができるだけ多くなるような記録方法が自動的に選択されるようにしても良いし、ユーザに対して、連続するアングル切り替えユニット数ができるだけ多くなるような記録方法の選択を促すようにしても良い。」(39頁10?17行)

(12)「次に、図25のフローチャートを参照して、以上のようにして記録されたマルチアングルのAVストリームデータを再生する処理について説明する。」(49頁17?18行)

上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、先願明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているものと認める。

「マルチアングルのAVストリームデータを再生する記録再生装置であって、
マルチアングル再生が可能な所定の再生区間において、ユーザは、自分の嗜好に合うアングルを選択することができ、その際、記録再生装置によりアングル間の切り替えをシームレスに再生することができ、
記録再生装置は、
記録媒体からソースパケットから構成されるAVストリームを読み出す読み出し部と、
記録媒体から読み出され、アプリケーションフォーマットのソースパケットから構成されるAVストリームを、デマルチプレクサが処理可能なMPEG2トランスポートストリームに変換するソースデパケッタイザと
を含み、
マルチアングルのAVストリームデータは、複数のILVU(Interleaved Unit)と呼ばれる単位で構成され、
各アングルのAVストリームデータは、アングル切り替えが可能な最小単位であるアングル切り替えユニットごとに、若しくは、同一のアングルのAVストリームデータのうちの複数の連続するアングル切り替えユニットごとにインターリーブして記録され、
ユーザから、今再生しているアングルを切り替えるように指示された場合、現在の再生位置がアングル切り替え点であると判断されるまで、今再生しているアングルのプレイアイテムで規定されるAVストリームのデータを再生し、再生位置を、指定されたアングルのプレイアイテムで規定されるAVストリームの先頭の位置に移行(ジャンプ)させ、そのAVストリームのデータを再生し、
ユーザの操作入力に基づいて所望のジャンプ距離jを選択し、選択されたジャンプ距離jに対応するジャンプ時間Taccを取得し、取得されたジャンプ時間から、平均レートRave以上の値であるAVストリームレートの値Rmaxに対応し、シームレスにデータを再生する最小アングル切り替え時間tを算出し、ユーザの操作入力に基づいて、ユーザが希望するアングル切り替え時間Tcを取得し、最小アングル切り替え時間tよりも長いアングル切り替え時間Tcについて、AVストリームレートと、ユーザが希望するアングル切り替え時間Tcから、アングル切り替えユニットのサイズUsizeを決定し、Umax=j/((2N-2)M)を用いて、選択されたジャンプ距離j内に、アングル切り替えユニットの連続数Mにおいて、アングル数Nを入れるためのアングル切り替えユニットのサイズの上限Umaxを算出し、アングル切り替えユニットサイズの上限値Umaxが、アングル切り替えユニットサイズUsize以上となるような範囲内で、連続するアングル切り替えユニット数ができるだけ多くなるような記録方法を選択し、
あるILVUのデータがデータ読み出し速度Rudで読み込まれたとき、読み込まれた1 ILVUのデータは、順次、所定のAVストリームレートRmaxで再生され、データの読み込みが終了してから、その1 ILVUのデータの再生が終了されるまでに、次に読み込むILVUの開始位置までのジャンプが終了することにより、シームレスにデータを再生する記録再生装置。」

3.対比

そこで、本件補正発明と先願発明とを対比する。
対比に当たり、本件補正後の請求項3の「マルチアングルデータを前記記録媒体で読み出す読出し部」は、明細書【0010】の記載「前記情報記録媒体から前記マルチアングルデータを読み取る読み取り部」に照らし、「マルチアングルデータを前記記録媒体から読み出す読出し部」を意味するものと解する。

(1)先願発明の「マルチアングルのAVストリームデータ」、「記録再生装置」は、それぞれ、本件補正発明の「マルチアングルデータ」、「装置」に相当し、先願発明は、「マルチアングル再生が可能な所定の再生区間において、ユーザは、自分の嗜好に合うアングルを選択することができ、その際、記録再生装置によりアングル間の切り替えをシームレスに再生することができ」るものであるから、本件補正発明と本願発明とは、「少なくとも一つのアングルからのシーンの再生のためのマルチアングルデータを含む記録媒体を再生する装置であ」る点で共通する。
(2)先願発明の「読み出し部」は、本件補正発明の「読取し部」に相当し、本件補正発明と先願発明とは、「第1のアングルに対応する第1のアングルデータ及び第2のアングルに対応する第2のアングルデータを含むマルチアングルデータを前記記録媒体から読み出す読出し部」を含む点で共通する。
(3)先願発明は、「記録媒体からソースパケットから構成されるAVストリームを読み出す読み出し部」を含み、「マルチアングルのAVストリームデータは、複数のILVU(Interleaved Unit)と呼ばれる単位で構成され、」「あるILVUのデータがデータ読み出し速度Rudで読み込まれたとき、読み込まれた1 ILVUのデータは、順次、所定のAVストリームレートRmaxで再生され、データの読み込みが終了してから、その1 ILVUのデータの再生が終了されるまでに、次に読み込むILVUの開始位置までのジャンプが終了することにより、シームレスにデータを再生する」ものであるところ、そのように再生するためには、「シームレスにデータを再生するための、記録媒体から読み出されたソースパケットから構成されるAVストリームを格納するリードバッファ」が必須であることは自明である。
すなわち、先願発明は、「シームレスにデータを再生するための、記録媒体から読み出されたソースパケットから構成されるAVストリームを格納するリードバッファ」を有することは明らかである。
したがって、本件補正発明と先願発明とは、「読み出された前記マルチアングルデータをバッファリングするリードバッファ」を含む点で共通する。
(4)先願発明の「ソースデパケッタイザ」は、本件補正発明の「デパケッタイザ」に相当し、本件補正発明と先願発明とは、「バッファリングされた前記マルチアングルデータを変換するデパケッタイザ」を含む点で共通する。
(5)先願発明の「ILVU(Interleaved Unit)」、「アングル切り替え点」は、それぞれ、本件補正発明の「インターリーブドブロック」、「アングル転換点」に相当し、先願発明は、「マルチアングルのAVストリームデータは、複数のILVU(Interleaved Unit)と呼ばれる単位で構成され、各アングルのAVストリームデータは、アングル切り替えが可能な最小単位であるアングル切り替えユニットごとに、若しくは、同一のアングルのAVストリームデータのうちの複数の連続するアングル切り替えユニットごとにインターリーブして記録され」るものであるから、本件補正発明と先願発明とは、「前記第1のアングルデータ及び第2のアングルデータは、それぞれ少なくとも一つのブロックを有し、第1及び第2のアングルデータのブロックはインターリーブドブロックであって互いにインターリービングされており、前記インターリーブドブロックのそれぞれは、前記マルチアングルデータの再生中に再生装置が存するアングル転換点から別のアングル転換点へジャンプすることを可能にする少なくとも一つのアングル転換点を有」する点で共通する。
(6)先願発明は、「ユーザから、今再生しているアングルを切り替えるように指示された場合、現在の再生位置がアングル切り替え点であると判断されるまで、今再生しているアングルのプレイアイテムで規定されるAVストリームのデータを再生し、再生位置を、指定されたアングルのプレイアイテムで規定されるAVストリームの先頭の位置に移行(ジャンプ)させ、そのAVストリームのデータを再生」するものであるから、本件補正発明と先願発明とは、「前記読出し部は、アングル転換が要請されれば、前記第1のアングルデータの第1のアングル転換点まで前記第1のアングルデータを読み出し、前記第1のアングル転換点に対応し前記第2のアングルデータに含まれる第2のアングル転換点から前記第2のアングルデータを読み出」す点で共通する。

そうすると、本件補正発明と先願発明とは、次の点で一致することは明らかである。

<一致点>

「少なくとも一つのアングルからのシーンの再生のためのマルチアングルデータを含む記録媒体を再生する装置であって、
第1のアングルに対応する第1のアングルデータ及び第2のアングルに対応する第2のアングルデータを含むマルチアングルデータを前記記録媒体から読み出す読出し部と、
読み出された前記マルチアングルデータをバッファリングするリードバッファと、
バッファリングされた前記マルチアングルデータを変換するデパケッタイザを含み、
前記第1のアングルデータ及び第2のアングルデータは、それぞれ少なくとも一つのブロックを有し、第1及び第2のアングルデータのブロックはインターリーブドブロックであって互いにインターリービングされており、前記インターリーブドブロックのそれぞれは、前記マルチアングルデータの再生中に再生装置が存するアングル転換点から別のアングル転換点へジャンプすることを可能にする少なくとも一つのアングル転換点を有し、
前記読出し部は、アングル転換が要請されれば、前記第1のアングルデータの第1のアングル転換点まで前記第1のアングルデータを読み出し、前記第1のアングル転換点に対応し前記第2のアングルデータに含まれる第2のアングル転換点から前記第2のアングルデータを読み出(す)再生装置。」の点。

そして、上記一致点以外の、本件補正発明が備える特定事項は次の(1)、(2)であり、これらの特定事項については、先願発明に明示の特定はなく、これらの点について次項4.で検討する。

(1)「読み出される前記インターリーブドブロックに含まれる前記アングル転換点の最大数は、前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間の間ジャンプできる最大距離がアングル転換により求められる最長距離より大きいという条件を満たすように設定され」る点。

(2)「前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間はデパケッタイザのデータ出力レートにより決定される」点。

4.判断

そこで、先願発明が、上記3.の(1)、(2)の特定事項を備えるか、について検討する。

〈特定事項(1)について〉
先願発明において、「シームレスにデータを再生する」ことは、ジャンプが終了するまでに、リードバッファにアンダーフローが発生しないことを意味する。
先願発明は、「ユーザの操作入力に基づいて所望のジャンプ距離jを選択し、選択されたジャンプ距離jに対応するジャンプ時間Taccを取得し、取得されたジャンプ時間から、平均レートRave以上の値であるAVストリームレートの値Rmaxに対応し、シームレスにデータを再生する最小アングル切り替え時間tを算出」するものであるから、仮に、アングル切り替え時間Tcを最小アングル切り替え時間tとした場合、選択されたジャンプ距離jは、リードバッファにアンダーフローが発生しない時間の間ジャンプできる最大距離である。
実際には、アングル切り替え時間Tcは最小アングル切り替え時間tよりも長いから、リードバッファにアンダーフローが発生しない時間の間ジャンプできる最大距離は、選択されたジャンプ距離jよりもさらに大きい距離である。
アングル切り替えにより求められる最長距離は、アングル切り替えユニットのサイズUsizeに(2N-2)Mを乗じたものである(Nはアングル数、Mはアングル切り替えユニットの連続数)。
アングル切り替えユニットのサイズの上限Umaxをj/((2N-2)M)とすると、リードバッファにアンダーフローが発生しない時間の間ジャンプできる最大距離は、アングル切り替えにより求められる最長距離より大きくなる。
そして、先願発明は、「アングル切り替えユニットサイズの上限値Umaxが、アングル切り替えユニットサイズUsize以上となるような範囲内で、連続するアングル切り替えユニット数ができるだけ多くなるような記録方法を選択」するものである。
そうすると、先願発明も、読み出されるインターリーブドブロックに含まれるアングル転換点の最大数は、リードバッファにアンダーフローが発生しない時間の間ジャンプできる最大距離がアングル転換により求められる最長距離より大きいという条件を満たすように設定されるものである。
上記特定事項(1)は、明示はなくとも、先願発明が備えている事項といえ、この点で、本件補正発明と先願発明は相違するものではない。

〈特定事項(2)について〉
先願発明において、シームレスにデータが再生される場合、ジャンプ中にリードバッファから出力するデータ量は、ジャンプ時間に「リードブァッファ」から読み出されるAVストリームのデータ量、すなわち、(ジャンプ時間)×(AVストリームレートRmax)であることは明らかであり、
AVストリームレートRmaxはソースデパケッタイザからのトランスポートパケットの出力レートによって決まるといえるから、
先願発明も、リードバッファにアンダーフローが発生しない時間はデパケッタイザのデータ出力レートにより決定されるものである。
上記特定事項(2)は、明示はなくとも、先願発明が備えている事項といえ、この点で、本件補正発明と先願発明は相違するものではない。

以上のとおりであるから、先願発明は、本件補正発明のすべての特定事項を備えているということになる。

したがって、本件補正発明は、先願明細書等に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、本件出願の発明者が先願明細書等に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が上記国際特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成24年8月3日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成24年2月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1.」に本件補正前の請求項3として記載したとおりのものである。

2.先願明細書等

原査定の拒絶の理由で引用された先願明細書等及びその記載事項は、上記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2[理由]3.及び4.」で検討した本件補正発明から、発明特定事項である「再生装置」について「第1のアングルに対応する第1のアングルデータ及び第2のアングルに対応する第2のアングルデータを含むマルチアングルデータを前記記録媒体で読み出す読出し部」を含み、「前記読出し部は、アングル転換が要請されれば、前記第1のアングルデータの第1のアングル転換点まで前記第1のアングルデータを読み出し、前記第1のアングル転換点に対応し前記第2のアングルデータに含まれる第2のアングル転換点から前記第2のアングルデータを読み出」すとの構成を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2[理由]3.及び4.」に記載したとおり、先願発明と実質的に同一であるから、本願発明も、同様の理由により、先願発明と実質的に同一である。

なお、本件補正前の請求項3の「前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間はデパケッタイザのデータ出力データにより決定される」は、明細書及び図面の記載を参酌して、本件補正後の請求項3の「前記リードバッファにアンダーフローが発生しない時間はデパケッタイザのデータ出力レートにより決定される」を意味するものと解釈した。

4.むすび

以上のとおり、本願の請求項3に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-17 
結審通知日 2013-04-23 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2010-127215(P2010-127215)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五貫 昭一  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 萩原 義則
関谷 隆一
発明の名称 マルチアングルデータを再生する方法及び再生装置  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  

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