ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23Q |
---|---|
管理番号 | 1279423 |
審判番号 | 不服2012-16328 |
総通号数 | 167 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-08-22 |
確定日 | 2013-09-18 |
事件の表示 | 特願2007-553605「複数の可動軸で工具を動かすための工具ヘッドと、この工具ヘッドを備えた工作機械、生産機械又はロボット」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月17日国際公開、WO2006/084815、平成20年 8月 7日国内公表、特表2008-529808〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
¥1.手続の経緯と本件発明 本願は2006年2月2日の国際出願(優先権主張2005年2月9日、ドイツ連邦共和国)であって、平成19年7月31日に国内書面が提出され、平成22年11月9日付の拒絶理由通知に対して平成23年2月10日に意見書と手続補正書が提出され、また、平成23年8月31日付の拒絶理由通知に対して同年11月30日に再度意見書と手続補正書が提出されたが、平成24年4月20日付で拒絶査定がなされたものである。これに対し、平成24年8月22日に該査定の取消を求めて本件審判が請求され、その後、当審による平成25年1月8日付の拒絶理由通知に対して同年4月4日に意見書と手続補正書が提出されている。 本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成25年4月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1に係る発明は次のとおりである。 「工具(6)を動かすための工具ヘッドであって、 工具(6)を動かすために工具に接続されたZ1軸(2)と、 垂直軸方向に可動であって、前記Z1軸(2)の軸心の延長線上に軸心を有するZ2軸(12)に対する駆動力を備える複合駆動装置(10)とを有し、この複合駆動装置は、前記Z2軸(12)を回転可能な第1の回転駆動装置と、前記Z2軸(12)を垂直軸方向に駆動可能な直線駆動装置とを備えるものとし、 また、揺動軸(5)を有し、この揺動軸は、前記複合駆動装置に結合され、 さらに、前記Z1軸(2)に結合された第2の回転駆動装置を有し、この第2の回転駆動装置は、前記Z1軸(2)を回転させ、かつ、前記揺動軸(5)に結合されてなり、 また、前記複合駆動装置は、前記Z1軸(2)によって垂直軸方向に駆動されるようになされ、これによって、前記工具(6)を前記Z1軸(2)に基づく第1の加速度で駆動し、前記複合駆動装置の直線駆動装置は、前記工具(6)を、前記第1の加速度より大きな、前記Z2軸(12)に基づく第2の加速度で、直線的に駆動するようにしてなることを特徴とする工具ヘッド。」(以下、「本件発明」という。) 2.当審の拒絶理由の概要 当審が平成25年1月8日付で通知した拒絶理由は、概略、以下のとおりである。 理由1: 本願の請求項1ないし3に係る発明は、本願の優先日前に頒布された以下の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 刊行物1: 特開平5-277860号公報 刊行物2: 特開平10-145954号公報 理由2: 本願の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が不備であり、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3.刊行物記載の発明または事項 上記拒絶理由通知において引用された刊行物には、それぞれ以下の記載がなされている。 3.1 刊行物1 a.(発明の詳細な説明、段落1) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、X,Y,Z,A,C,Wの各NC送り軸を有した6軸制御の工作機械に関するものである。」 b.(同、段落5) 「【0005】そこで本発明は、従来の5軸制御機械に対し工具を主軸軸線方向に移動するW軸を付加することにより、そのNCプログラムを簡略化するとともに、ワークから手動により工具を逃がす操作が確実に行えるようにして、機械を扱い易くするものである。」 c.(同、段落9) 「0009】 【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するため下記のように構成されている。ベッド2上をX軸方向に直動するテーブル3と、該テーブル3を挾んで両側に立設されたコラム4、5の上部を結合するクロスビーム6上をY軸方向に直動するサドル7と、該サドル7上をZ軸方向に直動するラム8と、該ラム8の下部に設けられたC軸ベース9にC軸方向の回動が可能に支承したA軸ベース10と、該A軸ベース10にA軸方向の回動が可能に支承したW軸ベース11と、該W軸ベース11上をW軸方向に直動する主軸12と、該主軸頭12にW軸方向と平行な軸線を有して軸支した工具主軸13とを具備し、該工具主軸13先端に装着された工具14と前記テーブル3に載置されたワーク19との間でX,Y,Z,A,C,Wの各軸方向の相対移動を行ってワーク19にNC加工を施すように構成した6軸制御工作機械。」 d.(同、段落12?14) 「【0012】図面に示すように、門型工作機械1は、ベッド2上のテーブル3の両側に立設されたコラム4,5、その上部のクロスビーム6、クロスビーム6に設けられ水平方向(Y方向)に摺動するサドル7、サドル7に設けられ、サドル7に対して上下(Z方向)に摺動するラム8、ラム8下端に設けられたZ方向を回転軸線とする軸受部を備えたC軸ベース9、C軸ベース9に対しZ軸の回りに回動するよう取付けられたC軸を備えたA軸ベース10、A軸ベース10に対し、Z軸に直角方向の軸の回りに回動するようA軸を備えたW軸ベース11、W軸ベース11に設けられたレール11a に直動軸受12a を介して移動自在に取付けられた主軸頭12より構成されている。 【0013】さらに説明するに、テーブル3はベッド2上をX方向に直動、サドル7はクロスビーム6上をY方向に直動、ラム8はサドル7上をZ方向に直動、A軸ベース10はC軸ベース9(ラム下端に固定)に対しC方向に±( 180+α°)旋回、W軸ベース11はA軸ベース10に対しA方向に±( 90+α°)旋回、主軸頭12はW軸ベース11上をW方向に直動するよう構成されている。 【0014】なお、図3において、符号13は主軸、14は工具、15はビルトインモータ、16は引張棒、16a はコレット部、17は皿バネ、18は止め金具で、W軸ベース11の上端は鉤状に曲げられて引張棒16の当接部11b とされてあり、主軸頭12がW軸駆動手段(図示せず)によって上昇し、引張棒16上端が当接部11b と接触してコレット部16a が開き、工具14の交換が行なわれるようになっている。」 e.(図1?図4) Z軸及びC軸が垂直軸であり、W軸も、垂直状態ではZ軸に対して偏倚しつつ平行であることが理解される。 上記において、A軸ベース10がC軸周りにC軸ベース9に対して回動するためにはC軸に結合された回転駆動装置が設けられており、主軸頭12がW軸ベース11上を直動するためには直線駆動装置が設けられていることは、当業者にとって自明である。また、ラム8に取り付けられた、C軸ベース9から工具14にいたる部分は「工具ヘッド」と呼ぶことができるものである。 そこで、上記記載事項を、本件発明の記載に沿って整理すると、刊行物1には次の発明が記載されているということができる。 「工具14を動かすための工具ヘッドであって、 工具14を動かすために工具14に接続されたC軸と、 Z軸方向に可動であって、W軸方向に軸心を有する主軸13に対する駆動力を備える主軸頭12とを有し、この主軸頭12は、前記主軸13を回転可能なビルトインモータ15と、前記主軸13をW軸方向に駆動可能な直線駆動装置とを備えるものとし、 また、揺動軸としてA軸を有し、このA軸は、前記主軸頭12に結合され、 さらに、前記C軸に結合された回転駆動装置を有し、この回転駆動装置は、C軸を回転させ、かつ、前記A軸に結合されてなり、 また、前記主軸頭12は、前記C軸に沿ってZ軸方向に駆動されるようになされ、前記主軸頭12の直線駆動装置は、前記工具14を、直線的に駆動するようにしてなる、工具ヘッド。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。) 3.2 刊行物2 a.(発明の詳細な説明、段落8,9) 「【0008】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、この実施形態のマシニングセンタ1においては、クロスレール2にサドル3がY軸方向に水平移動可能に設けられ、サドル3に主軸ラム4がZ軸方向に垂直移動可能に支持され、主軸ラム4の下端にはアタッチメント5が着脱可能に取り付けられている。アタッチメント5は、主軸ラム4に対してZ軸と平行なC軸周りで回動可能なフレーム6と、フレーム6に対しY軸と平行なB軸周りで回動可能なハウジング7とから構成され、ハウジング7には工具8を保持する主軸9が設けられている。そして、アタッチメント5がユニバーサルインデックス機能により工具8をC軸及びB軸周りの任意位置に割り出しできるようになっている。 【0009】図2及び図3に示すように、ハウジング7には主軸9を駆動するモータ11が内蔵されるとともに、(後略)」 b.(図1) Z軸とC軸が垂直軸であり、主軸9が、フレーム6の軸心であるC軸の延長線上に軸心を有することが理解される。 上記を整理すると、刊行物2には次の事項が記載されているということができる。 「工具8を動かすためのアタッチメント5において、 工具8を動かすために工具に接続されたフレーム6と、 垂直軸方向に可動であって、前記フレーム6の軸心の延長線上に軸心を有する主軸9に対する駆動力を備えるハウジング7とを有し、このハウジング7は、前記主軸9を回転可能なモータ11を備え、 また、揺動軸であるB軸を有し、このB軸は、前記ハウジング7に結合され、 さらに、前記フレーム6は回動可能であって、前記B軸に結合され、 また、前記ハウジング7は、前記フレーム6に支持されて垂直軸方向に駆動されるようになされること。」(以下、「刊行物2記載の事項」という。) 4.対比 本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、以下のとおりである。 後者の「工具14」、「C軸」、「Z軸」、「主軸13」、「主軸頭12」、「ビルトインモータ15」、「A軸」、「回転駆動装置」、が前者の「工具(6)」、「Z1軸(2)」、「垂直軸」、「Z2軸(12)」、「複合駆動装置(10)」、「第1の回転駆動装置」、「揺動軸(5)」、「第2の回転駆動装置」にそれぞれ相当することは明白である。 また、後者の「W軸」が、主軸13に一致し、垂直状態では主軸13を垂直軸方向に駆動可能であることは明らかである。 さらに、刊行物1記載の発明においても、主軸頭12はC軸に沿って垂直軸方向に駆動されることによって、工具14をC軸に基づく第1の加速度で駆動し、主軸頭12の直線駆動装置は工具14をW軸、すなわち主軸13に基づく第2の加速度で直線的に駆動することは、当業者にとって自明である。 したがって、本件発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点において一致及び相違すると認められる。 <一致点> 「工具を動かすための工具ヘッドであって、 工具を動かすために工具に接続されたZ1軸と、 垂直軸方向に可動であって、Z2軸に対する駆動力を備える複合駆動装置とを有し、この複合駆動装置は、前記Z2軸を回転可能な第1の回転駆動装置と、前記Z2軸を垂直軸方向に駆動可能な直線駆動装置とを備えるものとし、 また、揺動軸を有し、この揺動軸は、前記複合駆動装置に結合され、 さらに、前記Z1軸に結合された第2の回転駆動装置を有し、この第2の回転駆動装置は、前記Z1軸を回転させ、かつ、前記揺動軸に結合されてなり、 また、前記複合駆動装置は、前記Z1軸によって垂直軸方向に駆動されるようになされ、これによって、前記工具を前記Z1軸に基づく第1の加速度で駆動し、前記複合駆動装置の直線駆動装置は、前記工具を、前記Z2軸(12)に基づく第2の加速度で、直線的に駆動するようにしてなることを特徴とする工具ヘッド。」である点。 <相違点1> Z2軸が、前者ではZ1軸の軸心の延長線上に軸心を有するのに対し、後者ではそのようになっていない点。 <相違点2> 第2の加速度が、前者では第1の加速度より大きいのに対し、後者ではそのような特定がない点。 5.当審の判断 上記各相違点について検討する。 5.1 <相違点1>について 刊行物2記載の事項の「アタッチメント5」は「工具ヘッド」とも呼ぶことができるものであるから、刊行物2には、刊行物1記載の発明と同様に、垂直軸方向に可動で、垂直軸周りに回動可能、かつ、水平軸周りに揺動可能な複合駆動装置をもつ工具ヘッドにおいて、垂直回転軸の延長線上に主軸を配置することが記載されているということができる。 したがって、刊行物1記載の発明においても、刊行物2記載の事項のように、垂直回転軸、すなわちZ1軸の軸心の延長線上に主軸、すなわちZ2軸の軸心を配置することは、刊行物2の記載に接した当業者であれば当然試みるものであり、また、そのように構成を変更することに困難性はない。 5.2 <相違点2>について 刊行物1記載の発明において、Z1軸に基づく第1の加速度は、ラム8の下部に設けられたC軸ベース9の垂直軸方向の移動により生じるものであるのに対し、Z2軸に基づく第2の加速度は、主軸13のW軸方向の移動により生じるものであるところ、ラム8に取り付けられて駆動される、工具ヘッド全体にラム8を加えた合計質量と比較して、主軸13の質量が大幅に小さいことは明らかである。質量がより小さい部材を、質量が大きい部材よりも大きな加速度で駆動することは、機械設計上周知の技術であるから、刊行物1記載の発明において、第1の加速度よりも第2の加速度を大きくすることは、従来周知の技術を適用するものにすぎない。 5.3 本件発明の作用効果について 本件発明の作用効果には、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて普通に予測される範囲を超える格別のものを認めることができない。 したがって、本件発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当審が平成25年1月8日付の拒絶理由通知で理由1として通知したとおり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-04-19 |
結審通知日 | 2013-04-23 |
審決日 | 2013-05-08 |
出願番号 | 特願2007-553605(P2007-553605) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B23Q)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 関 義彦 |
特許庁審判長 |
豊原 邦雄 |
特許庁審判官 |
刈間 宏信 長屋 陽二郎 |
発明の名称 | 複数の可動軸で工具を動かすための工具ヘッドと、この工具ヘッドを備えた工作機械、生産機械又はロボット |
代理人 | 山本 浩 |
代理人 | 山口 巖 |