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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60T 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T |
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管理番号 | 1279528 |
審判番号 | 不服2012-13340 |
総通号数 | 167 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-07-12 |
確定日 | 2013-09-17 |
事件の表示 | 特願2006-54374「非常停止の範囲内における車両の制動方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月26日出願公開、特開2006-290332〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年3月1日(パリ条約による優先権主張2005年4月7日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成24年4月5日付けで拒絶査定がされ(発送日:同年4月9日)、これに対し、同年7月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。 第2 平成24年7月12日付け手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成24年7月12日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 本願補正発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成24年3月16日付け手続補正)に、 「【請求項1】 ブレーキ圧力を加えるための調節要素(1ないし2)をそれぞれ含む常用ブレーキ装置(1、3、6)および第2のブレーキ装置(2、3、6)による、非常停止の範囲内における車両の制動方法において、 常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)および第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)が少なくとも所定の区間同時に操作され、この場合、常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)により加えられるブレーキ圧力がブレーキ過程の経過中に低減され、且つ第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)により加えられるブレーキ圧力が上昇されること、 前記車両が、常用および第2のブレーキ装置(1、2、3、6)により停止するまで制動されること、 を特徴とする非常停止の範囲内における車両の制動方法。」 とあったものを、 「【請求項1】 ブレーキ圧力を加えるための調節要素(1ないし2)をそれぞれ含む常用ブレーキ装置(1、3、6)および第2のブレーキ装置(2、3、6)による、非常停止の範囲内における車両の制動方法において、 所定のしきい値(v_(krit))の上方に存在する車両速度においては、はじめに、常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)のみが操作され、車両速度が所定のしきい値(v_(krit))を下回ったとき、それに追加して、第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)が操作されること、 常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)および第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)が少なくとも所定の区間同時に操作され、常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)により加えられるブレーキ圧力がブレーキ過程の経過中に線形に低減され、且つ第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)により加えられるブレーキ圧力が線形に上昇され、全ブレーキ圧力がそれぞれの時点において合計として一定であるように選択されること、 前記車両が、常用および第2のブレーキ装置(1、2、3、6)により停止するまで制動されること、 を特徴とする非常停止の範囲内における車両の制動方法。」 と補正(下線は補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。)することを含むものである。 上記補正は、発明を特定するために必要な事項である「常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)および第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)」について「所定のしきい値(v_(krit))の上方に存在する車両速度においては、はじめに、常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)のみが操作され、車両速度が所定のしきい値(v_(krit))を下回ったとき、それに追加して、第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)が操作され」、常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)により加えられるブレーキ圧力が「線形に」低減され、且つ第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)により加えられるブレーキ圧力が「線形に」上昇され、「全ブレーキ圧力がそれぞれの時点において合計として一定であるように選択される」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。 2 刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された特開平8-142824号公報(以下「刊行物」という。)には、「自動走行車の制動方法」に関して、図面(特に、図3、図9、及び図10参照。)と共に次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、2系統のブレーキ装置を有する自動走行車に用いて好適な自動走行車の制動方法に関する。 【0002】 【従来の技術】従来より、ゴルフ場内においてゴルフバッグ等の荷物や人を搬送するゴルフカートとして使用される自動走行車が各種開発されている。この種の自動走行車としては、例えば特開平5-73144号公報に開示されたものが知られている。この公報に開示された自動走行車は、エンジンに接続されたスタータダイナモによる回生制動(抵抗器による抵抗制動を含む)を利用したブレーキと電磁ブレーキの2系統のブレーキ装置を有しており、スタータダイナモによる回生制動によって走行中の速度制御のための減速を行い、停止する直前に駐車用の電磁ブレーキを用いて車両を停止させる、という構成になっている。 【0003】図9は上記自動走行車が停止するときの動作を示すグラフであり、同図(a)は車速(理論値)の経時的変化を、同図(b),(c)はスタータダイナモと電磁ブレーキの各々に供給される制動指令値の経時的変化を、それぞれ示したものである。この図に示すように、図中P1の時点で車両に停止指示が与えられると、車両を減速させるべくスタータダイナモへ制動指令値が供給され始め、その値は図示G1のように変化する。これにより、車速は徐々に低下する(図示G2)。そして、図示P2の時点で車速が一定の低速度(図示しないVベルト自動変速機が切れない程度の低速度)V_(1)になると(図示G3)、電磁ブレーキへ一定の制動指令値(駐車用の制動力指令値)が供給され(図示G4)、電磁ブレーキがオンとなる。このとき、同時にスタータダイナモへの制動指令値は「0」とされ(図示G5)、回生制動は解除される。その後は、電磁ブレーキの制動力によって車速の低下がさらに進み、車両は停止する(図示G6)。 【0004】上記のように、停止直前に電磁ブレーキによる制動をオンにすると同時に回生制動を解除しているのは、このようにすると制御がやり易く、また、停止直前の回生制動が小さいという理由によるものである。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来の自動走行車においては、スタータダイナモや電磁ブレーキに若干の応答の遅れがあるために、与えられる制動指令値に対応した制動力が得られるまでに一定の時間を要する。したがって、図10に示すように、スタータダイナモによる制動力(回生制動力)は、車速が一定の低速度V_(1)になった時点(図示P2)で制動指令値が「0」になってもすぐに値「0」になるのではなく、所定の勾配で低下した後に「0」になる(図示G1′)。同様に、電磁ブレーキによる制動力は、図示P2の時点ですぐに立ち上がるのではなく、所定の勾配で上昇した後(期間T_(E)の経過後)に一定の値になる(図示G2′)。このため、スタータダイナモによる回生制動から電磁ブレーキによる制動へ移行するときには、図11に示すように、車両に与えられる制動力(すなわち、回生制動と電磁ブレーキの制動との合成制動力)は一時的に落ち込む。この制動力の落ち込みによって、上記移行時の車速は、図10(a)に示すように一時的に増加するため(図示G3′)、停止直前の走行が不安定になり、乗り心地に支障を来すことになる。 【0006】この発明は、このような背景の下になされたもので、車両が停止する直前における速度の変動を防止し、乗り心地を向上させることができる自動走行車の制動方法を提供することを目的としている。」 イ 「【0011】 【実施例】以下、図面を参照して、この発明の実施例について説明する。 (1)実施例の構成 1*自動走行車の構成 図1はこの発明が適用される自動走行車の構成を示すブロック図である。この図に示す自動走行車は、例えばゴルフ場で使用されるゴルフカートとして用いられるものであり、通常の自動車と同様、エンジン1を搭載し、このエンジン1からVベルト式自動変速機1aを介し供給される駆動力を駆動輪である後輪2a,2bに伝達するためのトランスミッション3、前輪2c,2dを操舵するためのハンドル4、車速を変えるべくスロットル開度を調節するためのアクセルペダル5とガバナ6、車両に制動をかけるためのブレーキペダル7とドラムブレーキ8a?8d等のメカブレーキ機構を有している。 【0012】また、この自動走行車は、通常のマニュアル操作による走行(以下、マニュアル走行という)の他、自動走行が可能であり、この自動走行のための制御を行うコントローラ9、ステアリングドライバ10、ステアリングモータ11、スロットルモータ12、ブレーキモータドライバ13、ブレーキモータ14、電磁ブレーキ15、その他誘導線センサ16、定点センサ17等のセンサ群や、マニュアル走行と自動走行を切り替えるためのステアリングクラッチ18、スロットルクラッチ19等の各種切替機構20,21を有している。」(「1*」は丸付き数字の1である。以下同じ。) ウ 「【0015】ブレーキモータドライバ13は、自動走行時にコントローラ9から出力される制動指令値に対応した駆動電流をブレーキモータ14に供給する。これにより、ブレーキモータ14は、ギア23および切替機構20を介し、四輪2a?2dの各々に設けられたドラムブレーキ8a?8dを駆動し、車両に制動をかけるようになっている。また、ブレーキペダル7は、自動走行時においても切替機構20を介してドラムブレーキ8a?8dに接続された状態とされており、マニュアル操作による制御も可能となっている。 【0016】電磁ブレーキ15は、コントローラ9によってオン/オフ制御される停止用のブレーキ装置であって、図示のように、エンジン1の回転をトランスミッション3に伝達する回動軸24にスプライン嵌合されたディスク15aと、回動軸24と非接触で、かつディスク15aに対向するようトランスミッション3の外壁等に固定された固定盤15bとで構成されている。ディスク15aは、回動軸24にスプライン嵌合されていることから、回動軸24と一体となって回転する一方、回動軸24の軸方向に移動可能となっている。また、固定盤15bは、ディスク15aを吸引する磁界を発生する永久磁石と、この永久磁石の磁界を打ち消すようコントローラ9によって励磁される電磁石とで構成されている。 【0017】すなわち、この電磁ブレーキ15は、走行中において電磁石に対する励磁がオンとされ、この磁界によって永久磁石の磁界が打ち消されることによりディスク15aに対する吸引力が無くなり、結果的に回動軸24に対し制動が効かなくなるようになっている。一方、停止直前に電磁石に対する励磁がオフとされると、ディスク15aが永久磁石の磁力によって固定盤15bに吸着され、回動軸24に対し制動がかかるようになっている。 【0018】また、コントローラ9は、電磁ブレーキ15を単にオン/オフ制御するのではなく、電磁石に供給する励磁電流の大きさを可変とし、車両に加えるべき制動力の大きさを制御するよう構成すれば、自動走行用のブレーキ装置として電磁ブレーキ15と前述のブレーキモータ14によって駆動するドラムブレーキ8a?8dとを併用することが可能である。例えば、電磁ブレーキ15を主として走行中の速度制御のための小制動力を供給する第1系統のブレーキ装置として使用し、ドラムブレーキ8a?8dを主として車両を停止させるための大制動力を供給する第2系統のブレーキ装置として使用するようにしてもよい。」 エ 「【0031】(2)実施例の動作 次に、上記構成を有する自動走行車に本発明による制動方法を適用した場合の動作について説明する。以下では、本発明による第1乃至第3の制動方法をそれぞれ当該自動走行車に適用した場合に分けて説明する。 【0032】1*第1の制動方法を適用した場合 図3は第1の制動方法を適用した場合の動作を説明するためのグラフであり、同図(a)は車速(車速検出値)の経時的変化を、同図(b)はブレーキモータ14によって駆動されるドラムブレーキ8a?8dの制動力の経時的変化を、同図(c)は駐車ブレーキとしてオンオフ制御される電磁ブレーキ15の制動力の経時的変化を、それぞれ示したものである。 【0033】この図に示すように、図中P1の時点で車両に停止指示が与えられると、車両を減速させるべくブレーキモータ14が通電され、ドラムブレーキ8a?8dの制動力が付与される。この制動力値は、車速制御に基づき例えば図示C1のように変化する。これにより、車速が徐々に低下し(図示C2)、図中P2の時点で一定の低速度(Vベルト自動変速機1aが切れない程度の低速度)V_(1)になると(図示C3)、電磁ブレーキ15による制動がオンとされる(すなわち、電磁石の励磁が停止される)。その後、電磁ブレーキ15の制動力がその応答速度に応じた勾配で立ち上がり、所定の値で一定となる(図示C4)。この間、ブレーキモータ14への通電は継続され、ドラムブレーキ8a?8dによる制動は継続される(図示C5)。 【0034】そして、車速の低下がさらに進み、車速検出値が「0」になると、ブレーキモータ14への通電は停止され、ドラムブレーキ8a?8dの制動力はその応答速度に応じた勾配で低下した後、値「0」になる(図示C6)。 【0035】このように、第1の制動方法では、車速が一定の低速度V_(1)まで低下した時点で電磁ブレーキ15による制動をオンにした後においても、ドラムブレーキ8a?8dによる制動を継続して行い、車速検出値が「0」になって始めてドラムブレーキ8a?8dによる制動を解除する。これにより、ドラムブレーキ8a?8dから電磁ブレーキ15へ移行するときの両者の制動力が確実にオーバーラップされ、電磁ブレーキ15の制動力が立ち上がる前にドラムブレーキ8a?8dの制動力が立ち下がることによる制動力の落ち込みを防止することができる。この結果、車両が停止する直前における速度の変動が防止され、乗り心地が向上する。」 オ 図3には、車速がV_(1)となる時点P2から車速が0となる時点までの間に車速が略直線状に低下すること、ドラムブレーキの制動力が低減し電磁ブレーキの制動力が一定の勾配で上昇した後一定値となることが示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下「刊行物に記載された発明」という。)が記載されている。 「制動力を加えるためのドラムブレーキ8a?8d及び電磁ブレーキ15をそれぞれ含む第2系統のブレーキ装置及び第1系統のブレーキ装置による、自動走行車の制動方法において、 一定の低速度V_(1)になるまでの車速においては、はじめに、第2系統のブレーキ装置のドラムブレーキ8a?8dのみが操作され、車速が前記V_(1)を下回ったとき、それに追加して、第1系統のブレーキ装置の電磁ブレーキ15がオンとされること、 第2系統のブレーキ装置のドラムブレーキ8a?8d及び第1系統のブレーキ装置の電磁ブレーキ15が車速が前記V_(1)となる時点P2から車速が0となる時点までの間、制動力がオーバーラップされ、第2系統のブレーキ装置のドラムブレーキ8a?8により加えられる制動力が前記時点P2から車速が0になる時点までの間に継続されて低減し、且つ第1系統のブレーキ装置の電磁ブレーキ15により加えられる制動力がその応答速度に応じた勾配で立ち上がり、所定の値で一定となること、 前記自動走行車が、第2系統のブレーキ装置および第1系統のブレーキ装置により車速が0になるまで制動されること、からなる自動走行車の制動方法。」 3 対比 本願補正発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、後者の「制動力」は前者の「ブレーキ圧力」に相当し、以下同様に、「ドラムブレーキ8a?8d及び電磁ブレーキ15」は「調節要素(1ないし2)」に、「第2系統のブレーキ装置」はドラムブレーキ8a?8dがブレーキペダル7とメカブレーキ機構を構成するから(前記「2のイ」の段落【0011】)「常用ブレーキ装置(1、3、6)」に、「第1系統のブレーキ装置」は「第2のブレーキ装置(2、3、6)」に、「第2系統のブレーキ装置のドラムブレーキ8a?8d」は「常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)」に、「第1系統のブレーキ装置の電磁ブレーキ15」は「第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)」に、「自動走行車」は「車両」に、「一定の低速度V_(1)」は「所定のしきい値(v_(krit))」に、「車速」は「車両速度」に、「一定の低速度V_(1)になるまでの車速」は「所定のしきい値(v_(krit))の上方に存在する車両速度」に、「オンとされる」は「操作される」に、「車速が前記V_(1)となる時点P2から車速が0となる時点までの間」は「少なくとも所定の区間」に、「制動力がオーバーラップされ」は「同時に操作され」に、「車速が0になる」は「停止する」にそれぞれ相当する。 したがって、両者は、 「ブレーキ圧力を加えるための調節要素をそれぞれ含む常用ブレーキ装置および第2のブレーキ装置による、車両の制動方法において、 所定のしきい値の上方に存在する車両速度においては、はじめに、常用ブレーキ装置の調節要素のみが操作され、車両速度が所定のしきい値を下回ったとき、それに追加して、第2のブレーキ装置の調節要素が操作されること、 常用ブレーキ装置の調節要素および第2のブレーキ装置の調節要素が少なくとも所定の区間同時に操作されること、 前記車両が、常用および第2のブレーキ装置により停止するまで制動されること、 からなる車両の制動方法。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 本願補正発明は、「非常停止の範囲内における」車両の制動方法であるのに対し、刊行物に記載された発明は、かかる特定事項を有しない点。 〔相違点2〕 本願補正発明は、「常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)により加えられるブレーキ圧力がブレーキ過程の経過中に線形に低減され、且つ第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)により加えられるブレーキ圧力が線形に上昇され、全ブレーキ圧力がそれぞれの時点において合計として一定であるように選択され」るのに対し、 刊行物に記載された発明は、「第2系統のブレーキ装置のドラムブレーキ8a?8により加えられる制動力が前記時点P2から車速が0になる時点までの間に継続されて低減し、且つ第1系統のブレーキ装置の電磁ブレーキ15により加えられる制動力がその応答速度に応じた勾配で立ち上がり、所定の値で一定となる」点。 4 当審の判断 そこで、各相違点を検討する。 (1)相違点1について 本願明細書に「従来技術から、非常停止の範囲内において、はじめに車両を常用ブレーキにより所定の低速度に制動し、その後に常用ブレーキを解放して、車両を駐車ブレーキにより停止するまで制動することが既知である。」(段落【0003】)と記載されるように、本願の優先権主張の日前に、常用ブレーキ及び駐車ブレーキを備えた車両において、非常停止の範囲内において、はじめに車両を常用ブレーキにより所定の低速度に制動し、その後に常用ブレーキを解放して、車両を駐車ブレーキにより停止するまで制動させることは、周知技術(例えば、特表2002-518241号公報の「例えばブレーキペダルモジュールとして形成された常用ブレーキ操作装置の故障時にも、駐車ブレーキ操作装置の操作を介して、常用ブレーキ装置によってブレーキングを開始することができる。」(段落【0011】)との記載及び「運転者が駐車ブレーキ操作装置を操作することによって車両を制動すると、速度閾値x1の上方で常用ブレーキ装置が起動し、車速x1から駐車ブレーキ装置が起動させられる。」(段落【0021】)との記載参照。)である。 また、例えば、ゴルフカートのような自動走行車において非常停止を行うことも周知技術(例えば、特開平4-365644号公報の「乗車状態で自動操向している際に、危険が発生する可能性があるで、この場合には、危険回避の為に即座に機体を停止する緊急ブレーキ機構を設けたものである。」(段落【0008】)との記載、特開平10-230031号公報の「ブレーキモータM_(3)は誘導による自動操向により走行中のゴルフカート1を停止させるべく、また走行速度を調整すべく、前記走行制御部10から与えられる駆動信号に応じて回転駆動される。」(段落【0043】)との記載及び同「なおこの障害物センサ14による検出がなされた場合、走行制御部10は、ゴルフカート1を緊急停止せしめる所定の動作を行う。」(段落【0052】)との記載参照。)である。 そして、刊行物に記載された発明の自動走行車は、「例えばゴルフ場で使用されるゴルフカート」(前記「2のイ」の段落【0011】)を対象とし、第1系統のブレーキ装置及び第2系統のブレーキ装置を備えたものであるから、前記周知技術を踏まえれば、刊行物1に記載された発明の車両の制動方法を「非常停止の範囲内」に用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 刊行物に記載された発明の「第2系統のブレーキ装置のドラムブレーキ8a?8により加えられる制動力が前記時点P2から車速が0になる時点までの間に継続されて低減し、且つ第1系統のブレーキ装置の電磁ブレーキ15により加えられる制動力がその応答速度に応じた勾配で立ち上がり、所定の値で一定となる」ことの技術的意義に関して、刊行物には、従来の自動走行車が、スタータダイナモによる回生制動から電磁ブレーキによる制動へ移行するときに合成制動力が一時的に落ち込み、移行時の車速が一時的に増加して、停止直前の走行が不安定になるという技術的課題(前記「2のア」の段落【0002】ないし段落【0005】)を解決するために、前記時点P2から車速が0になる時点までの間に「ドラムブレーキ8a?8dによる制動を継続して行い」「ドラムブレーキ8a?8dから電磁ブレーキ15へ移行するときの両者の制動力が確実にオーバーラップされ」「制動力の落ち込みを防止」し(前記「2のエ」の段落【0035】)、時点P2から車速が0となる時点までの間に車速が略直線状に低下して(前記「2のオ」)、車両が停止する直前における速度の変動を防止し、乗り心地を向上させる(前記「2のエ」の段落【0035】)ことが記載されている。 そして、刊行物の「時点P2から車速が0となる時点までの間に車速が略直線状に低下して、車両が停止する直前における速度の変動を防止」するためには、力学的技術常識からみて、ドラムブレーキ8a?8dの制動力と電磁ブレーキ15の制動力との合成制動力がそれぞれの時点において一定とする必要があることは、当業者が容易に把握し得たことである。 また、刊行物のドラムブレーキ8a?8は、「ブレーキモータドライバ13は、自動走行時にコントローラ9から出力される制動指令値に対応した駆動電流をブレーキモータ14に供給する。」(前記「2のウ」の段落【0015】)との記載からみて、その制動力は可変であり、また、電磁ブレーキ15は、オンオフ制御されるものであるが、「コントローラ9は、電磁ブレーキ15を単にオン/オフ制御するのではなく、電磁石に供給する励磁電流の大きさを可変とし、車両に加えるべき制動力の大きさを制御するよう構成すれば」(前記「2のウ」の段落【0018】)との記載からみて、その制動力を可変とするものに置換可能である。 そうすると、ドラムブレーキ8a?8dから電磁ブレーキ15へ移行するときに両者の制動力が確実にオーバーラップしている刊行物に記載された発明において、時点P2から車速が0となる時点までの間に、ドラムブレーキ8a?8dと電磁ブレーキ15との合成制動力を一定となるように、第2系統のブレーキ装置のドラムブレーキ8a?8により加えられる制動力を線形に低減し、且つ第1系統のブレーキ装置の電磁ブレーキ15により加えられる制動力を線形に上昇することは、ドラムブレーキ8a?8d及び電磁ブレーキ15のそれぞれの制動力の発動の態様を適宜変更したものであって、当業者が容易に為し得る程度の設計変更である(例えば、特開2000-225932号公報の「切り換えの過程で、回生制動力F_(G)の減少勾配に等しい勾配で前輪側の油圧制動力F_(H)が増加されることで、前輪側と後輪側との制動力配分は一定に保持される。」(段落【0046】)との記載及び図5参照)。 また、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項について、本願明細書には、「常用ブレーキ装置のブレーキ作用が低減され且つ第2のブレーキ装置のブレーキ作用が上昇される機能は、ブレーキ過程の各時点において、合計として同じブレーキ圧力またはほぼ同じブレーキ圧力が加えられるように選択されていることが好ましい。これは、車両のブレーキ特性が変化しないという本質的な利点を有している。調節要素の制御は、常用ブレーキ装置により加えられるブレーキ圧力は線形に減少し、第2のブレーキ装置により加えられるブレーキ圧力は線形に増加するように設計されていることが好ましい。これにより、特に、全ブレーキ力の定常過程が達成される。」(段落【0011】及び段落【0012】)と記載されているが、このような作用効果は、刊行物に記載された発明に前述の設計変更を施したものと比較して格別なものでない。 そうしてみると、刊行物に記載された発明において、刊行物に記載された事項に基づいて、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (3)効果について 全体としてみても、本願補正発明が奏する効果は、刊行物に記載された発明、刊行物に記載された事項及び周知技術から、当業者が予測できる範囲内のものである。 したがって、本願補正発明は、刊行物に記載された発明、刊行物に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5 むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 なお、審判請求人は、平成25年2月20日付け回答書において補正案を提示するので検討するに、当該補正案は「平成24年7月12日の手続補正書により、挿入した特徴を一部削除し、出願時の記載に戻したものです。これによって、ブレーキ圧の変化が、線形に低減且つ上昇する特徴が削除されています。」(「2.前置報告に対する反論」の(2-1)参照。)と述べるように、本願補正発明の発明特定事項の一部を削除したものであるから、本願補正発明と実質的に同様の理由により、刊行物に記載された発明、刊行物に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 本願発明 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年3月16日付けの手続補正書の請求項1ないし6に記載された事項により特定されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 刊行物 原査定の拒絶の理由に引用した刊行物、その記載事項、及び刊行物に記載された発明は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。 3 対比及び当審の判断 本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明において「常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)および第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)」の「所定のしきい値(v_(krit))の上方に存在する車両速度においては、はじめに、常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)のみが操作され、車両速度が所定のしきい値(v_(krit))を下回ったとき、それに追加して、第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)が操作され」、常用ブレーキ装置(1、3、6)の調節要素(1)により加えられるブレーキ圧力が「線形に」低減され、且つ第2のブレーキ装置(2、3、6)の調節要素(2)により加えられるブレーキ圧力が「線形に」上昇され、「全ブレーキ圧力がそれぞれの時点において合計として一定であるように選択される」との限定を省いたものである。 そうしてみると、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕3及び4」に記載したとおり、刊行物に記載された発明、刊行物に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物に記載された発明、刊行物に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明、刊行物に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-04-17 |
結審通知日 | 2013-04-18 |
審決日 | 2013-05-07 |
出願番号 | 特願2006-54374(P2006-54374) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60T)
P 1 8・ 575- Z (B60T) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 立花 啓 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
冨岡 和人 島田 信一 |
発明の名称 | 非常停止の範囲内における車両の制動方法および装置 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 星野 修 |
代理人 | 小野 新次郎 |