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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
管理番号 1279655
審判番号 不服2009-1082  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-13 
確定日 2013-09-25 
事件の表示 平成10年特許願第 6452号「眼鏡レンズおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月 7日出願公開、特開平10-206805〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、優先権主張(1997年 1月16日 ドイツ)を伴って
平成10年 1月16日に出願され、
平成19年 8月 3日付けで通知された拒絶理由に対して、
平成20年 2月 7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、
同年 3月 3日付けで通知された拒絶理由に対して、
同年 9月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、
同年10月 8日付けで拒絶査定され、これに対して、
平成21年 1月13日付けで拒絶査定不服審判が請求され、
同年 2月12日付けで手続補正書が提出された後、
平成22年 3月23日付けで審判合議体により審尋に付され、
同年10月 1日付けで回答書が提出され、
同年10月27日付けで審判合議体により拒絶理由が通知され、
平成23年 5月 2日付けで意見書及び手続補正書が提出され、
同年12月13日付けで審判合議体(当審)により拒絶理由が通知され、
平成24年 6月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、
同年 7月20日付けで審判合議体(当審)により拒絶理由が通知され、
平成25年 1月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成25年 1月24日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成25年 1月24日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
多焦点作用を伴う眼鏡レンズを製造する方法であって、
少数の異なる半径を有する球面形又は回転対称非球面の凸形の前面(2)を持つ在庫された複数の半製品から、1つの半製品を採用し、
個別に必要なジオプトリック値の全てを前記半製品の裏面に適合させ、該裏面を点対称も軸対称も伴わない累進多焦点表面の裏面にした眼鏡レンズを製造する方法において、
遠視領域から近視領域へ移行する場所で発生する像誤差が、事前に行われた設計ステップでレンズ面全体に分布され、累進面として実現される前記裏面は、前記像誤差の分布が、要求される特定の球面、乱視またはプリズム度数に係らず最適に達成されるように構成されることを特徴とする方法。」
(以下「本願発明」という。)

第3.審判合議体(当審)による拒絶の理由
平成24年 7月20日付けの拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)に示した拒絶の理由2は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。

第4.当審の判断
(1)本願発明は、「球面形又は回転対称非球面の凸型の前面」と「点対称も軸対称も伴わない累進多焦点表面の裏面」を有する「累進多焦点作用を伴う眼鏡レンズを製造する方法」の発明である。
そして、本願発明は、次の4つの工程を有するものである(番号は審決で付与したものである。)。

即ち、
1.少数の異なる半径を有する球面形又は回転対称非球面の凸型の前面(2)を持つ在庫された複数の半製品から、1つの半製品を採用する工程、
2.個別に必要なジオプトリック値の全てを前記半製品の裏面に適合させ、該裏面を点対称も軸対称も伴わない累進多焦点表面の裏面にする工程、
3.遠視領域から近視領域へ移行する場所で発生する像誤差を、事前に行われた設計ステップでレンズ面全体に分布させる工程、
4.累進面として実現される前記裏面を、前記像誤差の分布が、要求される特定の球面、乱視またはプリズム度数に係わらず最適に達成されるように構成する工程
(2)ここで、工程1について検討する。
工程1においては、少数の異なる半径を有する球面形又は回転対称非球面の凸型の前面(2)を持つ半製品(以下「球面又は回転対称非球面前面の半製品」という。)が複数在庫された中から、1つの半製品を採用している。
このとき、本願発明においては、半製品の段階で、(半製品)レンズは、球面形又は回転対称非球面の前面を有しており、本願発明の全工程から理解されるように、並びに、本願明細書の発明の詳細な説明においても理解されるように、工程1の後で、半製品レンズの前記前面は研削・研磨されるものではないから、半製品の前面の曲面形状は最終製品である眼鏡レンズに引き継がれるものである。そして、半製品の前面にある球面形又は回転対称非球面の面形状は、最終製品の眼鏡レンズの品質と性能に影響を及ぼすものであることから、工程1の1つの半製品の「採用」とは、後続する工程2?工程4に適合した前面形状を有する半製品を「選択」することを意味すると解される。
しかるところ、本願明細書の発明の詳細な説明においては、工程1の1つの半製品の「採用」に関し、
「本発明に従って多焦点作用を有する眼鏡レンズを製造する方法は、事前に行われた設計項目の熟慮から発生した第1の眼鏡レンズ又はいくつかの眼鏡レンズの変形構造が球面形又は回転対称非球面の凸型前面を有し、約10の異なる半径を有する半製品から、個別に必要であるジオプトリック作用適用が眼鏡レンズの目に向いた側の面にあり、最適化出発点としての設計結果に基づく最適化計算から得られる形状の自由形状面によって全て行われるように製造されることを特徴とする。」(本願明細書【0014】。下線は審決で付与した。以下同じ。)
と記載されているにとどまっており、本願明細書の発明の詳細な説明は、眼鏡レンズを製造する発明の工程1?工程4の中で、工程1で、具体的にどのような基準に基づいて、少数の異なる半径を有する複数の在庫された半製品から1つの半製品を採用、即ち選択したらよいのかに関して、当業者に何らかの示唆を与えることができる記載はない。
また、当該工程1において、具体的にどのような基準により選択した1つの半製品を採用すれば、後続する工程2?工程4と合わせて工程全体によって、眼鏡レンズとしての使用に十分な品質及び性能を有するレンズを製造することができるのか、即ち、眼鏡レンズを製造する方法の発明が実施できるものであるのかは、当業者にとって自明の事項であるとも認められない。

(3)次に工程4について検討する。
工程4に記載されているように、本願発明においては、球面形又は回転対称非球面の凸型の前面を持つ半製品の「裏面」が「像誤差の分布が、要求される特定の球面、乱視またはプリズム度数に係わらず最適に達成され」ているものである。

この点につき、本願明細書の発明の詳細な説明において、「像誤差の分散」を「最適に達成」することについて、次のように記載されている。
「遠視領域から近視領域へ移行する場所では、必然的に像誤差が発生する。これをレンズ全体に分散させるのは本来は設計時の作業である。ここで提示する方法によれば、設計作業で実現される最小限の像誤差発生にとどめるという利点を、特別の球面作用,非点収差作用又はプリズム作用が要求されていることとは別に、唯一つの自在に形状を規定しうる面によって最良の形で発揮させる。」(本願明細書【0021】。)

ここで、前記半製品の「裏面」を、具体的にどのようにすれば、「像誤差の分布が、要求される特定の球面、乱視またはプリズム度数に係わらず最適に達成」されるように構成されるものであるのか、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても明らかではない。
すなわち、請求項1に係る方法の発明は、工程1に記載されているとおり、1つの採用された半製品レンズの球面形又は回転対称非球面の前面形状を引き継いで製造されるものであり、工程4に記載されている「像誤差の分散」を「最適に達成」するためには、引き継がれた半製品レンズの前面形状を前提条件に入れた上で、「点対象も軸対称も伴わない」「裏面」の設計を行って達成しなければならず、工程1と工程4の設計は互いに関連して眼鏡レンズの製造が行われるものである。しかしながら、上記(2)のとおり、工程1において、どのような基準に基づき、どのような前面形状を有する半製品レンズを採用するのか、について具体的に記載されておらず、工程4での「像誤差の分散」を「最適に達成」する手段についても具体的に記載されていないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明に係る当該工程を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。

また、本願明細書の上記記載を見ても、「像誤差」が遠視領域から近視領域へ移行する場所で必然的に発生するものであり、これをレンズ全体に分散させることが、本来設計時の作業であったことは理解することができるものの、球面形又は回転対称非球面の凸型の前面を有する半製品において、当該半製品の「裏面」を具体的にどのようにすれば「像誤差の分散が、要求された特定の球面、乱視又はプリズム度数に係わらず最適に達成」されるように構成し得るものかを理解することはできない。
加えて、本願発明が、厳密な最適計算が求められる多焦点作用を伴う「眼鏡レンズ」の製造方法の発明であることを踏まえれば、工程4の実施に際し、単に、眼鏡レンズ裏面で近似計算を利用した面形状の最適化が行われていることが理解できれば足りるというものではなく、「眼鏡レンズ」として使用し得る程度のレンズが設計されるように、当業者が工程4を実施することができる程度の開示が求められるものというべきである。
すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が「誤差の分布が、要求される特定の球面、乱視またはプリズム度数に係わらず最適に達成される」工程を実施して、「眼鏡レンズ」を製造することができる程度に、明確かつ十分に記載されているものとはいえない。

さらに、本願明細書の発明の詳細な説明には、工程4の「累進面として実現される・・・裏面」を「像誤差の分散が、要求される特定の球面、乱視またはプリズム度数に係らず最適に達成されるように構成」するための、具体的な計算の手法どころか、計算についての考え方すら、技術的なまとまりをもって開示されていない。「最適に」が文字どおり最適解を意味すると解するにしても、あるいは、レンズ設計上のある程度の近似解を意味すると解するにしても、「最適に」の具体的内容及び到達度合いを理解する手がかりとなり得る評価関数や評価指標のような具体的な例がまったく記載されておらず、そのため、優先日当時の技術常識を補ってみても、工程4における「最適に」とはどのような状態をいうのか、当業者はその技術的意義を理解することはできないから、当業者が工程4の「最適に達成するように構成」を実施することができる程度の開示は、本願明細書の発明の詳細な説明においてなされていないといわざるを得ない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、「累進面として実現される・・・裏面」が「像誤差の分散が、要求される特定の球面、乱視またはプリズム度数に係らず最適に達成させるように構成」された「眼鏡レンズ」を製造する方法の発明たる本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。

(4)(1)乃至(3)のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5.請求人の主張について
先の拒絶理由通知(平成24年 7月20日付け)に対し、平成25年 1月24日付けで請求人が提出した意見書には、「(1)最適化計算の方法」として、レンズ表面をメッシュにより数学的に表記する方法、及び、メリット関数MFを利用してレンズ表面の最適化を行う方法が説明され、「(2)目標ジオプトリック値の決定」として、使用者の個別に必要なジオプトリック値と使用環境(用途)から、特定の使用者向けの全ての点の目標ジオプリック値が決定されること、「(3)『像誤差の分布が最適に達成される』について」として、平均的使用者パラメータに対して求められた面に対する補正を、レンズ裏面の処方面でメリット関数を用いた最適化計算によって行うこと、について説明されている。
しかしながら、これら請求人によって説明された事項は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された事項に基づいたものではなく、意見書において新たに追加された事項であるから、本願明細書の発明の詳細な説明に、これらの請求人の説明事項を補充して本願請求項1に係る発明の実施可能性を検討することは適当ではない。

なお、請求人によりなされたこれらの説明は、
「(1)最適化計算の方法」を参酌しても、最適化計算のために使用されるメリット関数は、本願発明の場合、具体的にどのように設定するかについては、当業者にとって依然として理解することが困難であり、また、メリット関数の具体的適用は当業者にとって自明の事項でもなく、
「(2)目標ジオプトリック値の決定」に関しても、使用者の個別に必要なジオプトリック値と使用環境(用途)から、特定の使用者向けの全ての点の目標ジオプトリック値を得るための具体的手段については依然として明らかにされていないため、本願発明の場合では、具体的にどのように目標ジオプトリック値を創出したらよいのか、当業者は依然として十分な知見を得ることができず、また、当業者において、目標ジオプトリック値の決定が自明の事項でもなく、
「(3)像誤差の分布が最適に達成される」について」に関しても、請求人がその根拠として提示している文献3は、代表的なジオプトリック値を用いて予め面設計を行った後に、個人処方値を反映するように面設計を最適化したというレンズの「設計の結果」を例示しているに過ぎないものであるから、文献3を参酌しても、本願発明において工程(1)?工程(4)を相互に関連させて眼鏡レンズを製造するにあたり、依然として、具体的にどのように「像誤差の分布が最適に達成され」ているものか、当業者は理解することはできない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明を、意見書における請求人の説明を十分に参酌して解釈したとしても、当業者は、請求項1に係る発明である眼鏡レンズの製造方法の発明を実施することができない。
よって、請求人の主張は採用できない。

第6.むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-28 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-05-15 
出願番号 特願平10-6452
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴野 幹夫  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 吉野 公夫
磯貝 香苗
発明の名称 眼鏡レンズおよびその製造方法  
代理人 杉村 憲司  
代理人 下地 健一  
代理人 澤田 達也  

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