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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1279678
審判番号 不服2012-5292  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-21 
確定日 2013-09-24 
事件の表示 特願2007- 79511「累進焦点眼鏡レンズの決定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月 4日出願公開、特開2007-256957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年3月26日(パリ条約による優先権主張2006年3月24日、仏国)の出願であって、平成23年6月10日付けで手続補正がなされ、同年11月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年3月21日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審における平成24年7月17日付け審尋に対して同年12月17日付けで回答書を提出している。

第2 平成24年3月21日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成24年3月21日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成24年3月21日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、本件補正前の請求項1に、
「遠方視の処方箋(A_(FV))が出され近方視のため度数加算(Add)が処方された所与の着用者のために個人合わせ調製された累進焦点眼鏡レンズの決定方法であって、
着用者の眼球の軸長(LA)を決定する段階と、
着用状態で視点を各視方向に関連付けるエルゴラマを決定する段階と、
着用状態で各視方向について度数欠陥の目標値および非点収差欠陥の目標値を決定し、それら目標値が着用者の眼球の軸長の関数である段階と、
前記度数欠陥の目標値及び前記非点収差欠陥の目標値を得るために、各視方向についてレンズ上の必要な度数を順次反復法により計算する段階と
を含んでなる眼鏡レンズの決定方法。」とあったものを、
「遠方視の処方箋(A_(FV))が出され近方視のため度数加算(Add)が処方された所与の着用者のために個人合わせ調製された累進焦点眼鏡レンズの決定方法であって、
一つの着用者の眼球の軸長(LA)を決定する段階と、
着用状態で視点を各視方向に関連付けるエルゴラマを決定する段階と、
着用状態で各視方向について度数欠陥の目標値および非点収差欠陥の目標値を決定し、前記度数欠陥の目標値および非点収差欠陥の目標値は、前記一つの着用者の眼球の軸長を考慮した勾配および視範囲幅を決定する、段階と、
前記度数欠陥の目標値及び前記非点収差欠陥の目標値を得るために、各視方向についてレンズ上の必要な度数を順次反復法により計算する段階と
を含んでなる眼鏡レンズの決定方法。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「着用者の眼球の軸長(LA)」が「一つ」であると限定し、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「着用者の眼球の軸長の関数であるそれら目標値」の決定、すなわち「前記度数欠陥の目標値および非点収差欠陥の目標値」の決定が、「前記一つの着用者の眼球の軸長を考慮した勾配および視範囲幅を決定する」ことであると限定するものである。

2 本件補正の目的
本件補正後の請求項1に係る上記1(2)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第00/48035号(以下「引用例」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。
(1)「技術分野
本発明は、眼球回旋中心と眼鏡レンズとの距離を眼鏡装用者個別に考慮して設計製造した眼鏡レンズ及びその製造方法に関する。」(1頁6行?8行)

(2)「背景技術
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ(累進多焦点レンズも含む)等異なる光学特性を備えているにもかかわらず一定の平均的使用条件に基づき設計されるのが一般的であるが、個々の使用条件を考慮した例としては、特開平6-18823号公報に開示の方法が知られている。該公報には、個々の使用条件を考慮した累進多焦点レンズが提案されており、処方面に点対称及び軸対象性を伴わない非球面を使用することが開示されている。なお、ここでいう使用条件とは、眼鏡レンズの裏面(目側の面)と角膜頂点との距離やフレームの傾き等であり、これらの情報をレンズ設計に使用して処方面の最適化をはかろうとするものである。
しかしながら、前記公報に開示の手法は、遠用部と近用部とその中間部とを有し、遠用及び近用の両方の処方面を有する累進多焦点レンズにおける最適化を目的とするものであり、特に累進多焦点レンズのような老視眼における近用の調節力を補う処方を有する眼鏡レンズの場合での使用条件の重要性を考慮したものである。即ち、累進多焦点レンズは補正処方の条件を決定する一因である近業目的距離の正確な調整が特に必要とされるからである。従って、この公報開示の手法は、近用処方の正確性を強調するに留まり、球面設計のレンズや非球面単焦点レンズ、二重焦点レンズ等の場合についての眼鏡としての全般的な装用条件について言及するものではない。
本発明は、上述の背景のもとでなされたものであり、従来注目されなかった眼鏡レンズ全体における装用条件について、再度見直すとともに個々の装用条件を考慮してより最適化された処方面を有する眼鏡レンズ及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」(1頁10行?2頁16行)

(3)「発明の開示
上述の課題を解決する手段として、第1の発明は、眼鏡レンズ設計に必要なデータの1つである眼鏡装用時における眼鏡レンズの裏面の基準点から眼鏡装用者の眼球の角膜頂点までの距離VCの値と前記角膜頂点から眼球の回旋中心までの距離CRとを加えた、眼鏡レンズの裏面の基準点から眼球の回旋中心までの距離VRの値を、個別の眼鏡装用者に対して測定もしくは指定により決定して、その値を用いて眼鏡レンズ設計を行い、その設計仕様に基づいて製造したことを特徴とする眼鏡レンズである。
第2の発明は、
前記角膜頂点から眼球の回旋中心までの距離CRの値は、眼鏡装用者の眼軸長COを測定し、その測定データに基づいて得られる値を用いることを特徴とする第1の発明にかかる眼鏡レンズである。
第3の発明は、
前記眼球の回旋中心を、遠方視のとき、あるいは近方視のとき、あるいは特定の距離を見るとき、もしくは、それらの組み合わせの視野状態について求めておいて、レンズの光学特性に基づいて選択して使用するか、又は、眼鏡レンズの視野領域によって使い分けて使用することを特徴とする第1の発明または第2の発明のいずれかにかかる眼鏡レンズである。
第4の発明は、
眼鏡レンズ情報、眼鏡枠情報及び眼鏡装用者個別のVR値の関連データを含む処方値、レイアウト情報、並びに、加工指定情報を含む情報の中から必要に応じて選択される設計及び/又は加工条件データ情報によりシミュレーションされた装用条件の光学モデルに基づき最適化されたレンズ形状を得て、加工されたことを特徴とする眼鏡レンズである。
第5の発明は、
前記VR値に基づき近方視の内寄せ量が決定されたことを特徴とする第4の発明にかかる眼鏡レンズである。
第6の発明は、
前記VR値に基づき凸面のベースカーブが決定されたことを特徴とする第4の発明にかかる眼鏡レンズである。
第7の発明は、
前記VR値に基づき予め設定された基準の処方面に対して度数誤差補正が行われたことを特徴とする第4の発明にかかる眼鏡レンズである。
第8の発明は、
眼鏡レンズの発注者側に設置された端末装置と、眼鏡レンズの加工者側に設置されているとともに前記端末装置に通信回線で接続された情報処理装置とを有し、前記発注者側の端末装置を通じて前記情報処理装置に送信される情報に基づいて眼鏡レンズを設計して製造する眼鏡レンズの製造方法において、
前記端末装置を通じて、眼鏡レンズ情報、眼鏡枠情報及び眼鏡装用者毎のVR値の関連データを含む処方値、レイアウト情報、並びに、加工指定情報を含む情報の中から必要に応じて選択される設計及び/又は加工条件データ情報を前記情報処理装置に送信し、前記情報処理装置によりシミュレーションされた装用条件の光学モデルに基づき最適化されたレンズ形状を得て、加工条件を決定し、眼鏡レンズを製造することを特徴とする眼鏡レンズの製造方法である。
第9の発明は、
眼鏡レンズの発注者側に設置された端末装置と、眼鏡レンズの加工者側に設置されているとともに前記端末装置に通信回線で接続された情報処理装置とを有し、前記発注者側の端末装置を通じて前記情報処理装置に送信される情報に基づいて眼鏡レンズを設計して製造する眼鏡レンズの製造方法において、
前記端末装置を通じて、眼鏡レンズ情報、眼鏡枠情報及び眼鏡装用者毎のVR値の関連データを含む処方値、レイアウト情報、並びに、加工指定情報を含む情報の中から必要に応じて選択される設計及び/又は加工条件データ情報を前記情報処理装置に送信し、
前記情報処理装置によりシミュレーションされた装用条件の光学モデルに基づき最適化されたレンズ形状を求めるとともに、
前記情報処理装置によって、前記眼鏡装用者毎のVR値ではなく規格化されたVR値を用いるほかは前記端末を通じて送信された設計及び/又は加工条件データを用いて規格化されたレンズ形状を求め、
前記最適化されたレンズ形状の光学特性と、前記規格化されたレンズ形状の光学特性とを比較し、その比較結果に基いて、前記いずれかのレンズ形状を選定し、その選定されたレンズ形状の加工条件を決定して眼鏡レンズを製造することを特徴とする眼鏡レンズの製造方法である。
第10の発明は、
眼鏡レンズの発注者側に設置された端末装置と、この発注側コンピュータに情報交換可能に接続された製造側コンピュータとで、互いに情報交換しながら眼鏡レンズを設計して製造する眼鏡レンズの製造方法において、
前記端末装置を通じて、眼鏡レンズ情報、眼鏡枠情報及び眼鏡装用者のVR値の関連データを含む処方値、レイアウト情報、並びに、加工指定情報を含む情報の中から必要に応じて選択される設計及び/又は加工条件データ情報を入力し、
その入力情報に基づきシミュレーションされた装用条件の光学モデルに基づき最適化されたレンズ形状を得て、加工条件を決定し、眼鏡レンズを製造することを特徴とする眼鏡レンズの製造方法である。」(2頁18行?6頁13行)

(4)「本発明は、眼鏡レンズ設計に必要なデータの1つである眼鏡装用時における眼鏡レンズの裏面の基準点から眼球の回旋中心までの距離VRの値として、眼鏡装用者個々人毎に求めた値を用いて眼鏡レンズ設計を行い、その設計仕様に基づいて製造することにより、より高性能な眼鏡レンズを得ることを可能にしているものである。
従来の考え方は、VR値は、標準の値を用いれば十分であり、VR値の個人差がレンズ性能に与える影響はほとんど無視できるものと考えられていた。すなわち、上述の特開平6-018823号公報に示すように、従来の技術では、眼球回旋中心から角膜頂点までの距離として標準的な値を使用して眼鏡レンズを設計、製造していた。しかし、この標準距離に基づいて求めたVR値は、個人、個人で異なる値であることが知られているが、その差異がどのように光学的影響に、つまり眼鏡レンズのレンズ設計では影響があるのかについては正確に熟知および検証されていなかったのが実情である。即ち、眼鏡レンズの光学面には種々の設計方法があり、そこの設計の最適化が中心であって、その設計毎のVR値の影響の検証やシミュレーションを行うことまでは考えられなかった。また。当然のようにその値をどのように設計・製造にフィードバックしなければならないかさえも十分には検討されていなかった。
本発明者等が、VR値の個人差を調査し、また、最近開発された光線追跡法等のシミュレーション方法等を駆使して研究したところ、VR値の個人差は意外に大きく、また、そのレンズ性能への影響も予想以上に大きいことが判明した。この研究結果に基づき、共通の基本仕様のレンズについて、VR値の個人差を考慮したレンズとそうでないレンズとを実際に設計製造しての性能を比較した結果、従来の予測をはるかに越える結果が得られた。
すなわち、標準的なVR値に基づいて設計、製造された眼鏡レンズを標準的なVR値とは異なるVR値を持った個人に使用した場合の眼鏡レンズの光学性能は大きく異なり、補正をする必要量まで及ぶことがつきとめられた。具体的には、単焦点非球面レンズの収差、バイフォーカルレンズ、多焦点レンズの左右の眼鏡レンズ遠用部頂点屈折力が異なる場合の小玉高さの配置、累進屈折力レンズの近用部寄せ量(内寄せ量)、近用部高さに関する光学的レイアウトに関する影響等である。本発明は、この解明結果に基づいてなされたものである。
ここで、VRの値として、眼鏡装用時における眼鏡レンズの裏面の基準点から眼鏡装用者の眼球の角膜頂点までの距離VCの値と該角膜頂点から眼球の回旋中心までの距離CRの値との和の値を用いることができる。
特に本発明では最も重要なファクターはCR値でCR値は個人により生理学的に異なるものであるので、測定により正確に算出されることが好ましい。但し、場合により、すべて個別ではなく、例えば、CR値として、簡便に2種類?5種類にグループ化してそれぞれのグループで代表化した値を設定し、その値を使用することもできる。本発明では、広義に、測定値も含めた意味として発注側が指定した値をCR値としてレンズ設計に使用する。
CR値の測定方法としては、例えば、AMERICAN JOURNAL OF OPTOMETRY and ARCHIVES of AMERICAN ACADEMY OF OPTOMETRY(Vol.39 November,1962発行) に題名「THE CENTER OF ROTATION OF THE EYE」で記載されたG.A.FRY and W.W.Hill氏らに提唱されている眼球回旋点測定装置を利用できる。また、更に、異なった方向の視線の交差点から演算により求める方法がある。
さらに、簡易的な方法で実用的な方法としては、一般的に普及している眼軸長測定装置を利用する方法である。つまり、眼軸長を測定して、そこから眼球回旋中心点を計算により見つけ出す方法である。例えば、予め、実測された眼軸長に対する眼球回旋点の相対的位置の一般的統計データを利用する方法である。例えば、平均的データとして眼軸長24ミリ、角膜頂点から回旋中心点までの距離(CR)を13ミリとすると、13/24=0.54が使用比率となる。従って、眼軸長が27ミリと検出された人の場合は、この相対位置係数 0.54を使用して、この人のCRの値を、27ミリ×0.54=14.6ミリとする。また、その他、種々の方法を使用して、眼軸長との相関関係を探しだして眼球回旋点を設定してもよい。
眼軸長の測定装置は種々あり、例えば超音波測定装置、視線方向検出装置等がある。また、眼球回旋中心点位置は眼球において固定点ではなく、遠方視の時と近方視の時等のように、見ようとする方向や距離によって微妙に変化するものと考えられている。従って、好ましくは、設計するレンズの性質に伴って異なる処理を行って設計に利用することが好ましい。例えば、累進多焦点レンズの場合、レンズの遠用領域では遠方視の時の、近用領域では近方視の時の異なる回旋中心点位置の値をそれぞれ使用し、遠方視用の単焦点レンズの場合には遠方視の時の、老視用の単焦点レンズの場合には近方視の時の眼球回旋中心点位置を使用するといったような方法である。また、一つの方向のから測定データを基礎データとしてそれに補正値を加えて種々に展開して使用することもできる。
また、VC値はCR値のような特殊な測定装置はないが、正確に把握することは重要である。ただ、この値はCR値と異なり純粋に生理学的な値でなく、フレームの装着状態との相関性もあるので、処方値を発信する側(検眼医者、オプティシャンなど)で調整し、ある所定の値(例えばオプティシャンが決めた値)に調整できる場合もあるので、本発明では広義に測定値も含めんだ意味として指定値として取り扱うものとする。
このように本発明では、個人個人の左右眼それぞれに対して、眼鏡レンズの裏面の基準点から眼鏡装用者の眼球の角膜頂点までの距離VC値と角膜頂点から眼球の回旋中心までの距離CR値を用いて眼鏡レンズ設計を行うが、その結果として設計された眼鏡レンズが、既存の設計手法により設計製造される規格化された眼鏡レンズと比較してどのような違いがあるのかという比較情報を与えることも重要である。
すなわち、個人個人の左右眼それぞれのVC値やCR値を用いた眼鏡レンズの設計を行ったレンズは、一品一品毎に製作される個別設計の製品であるため、大量に生産される規格化された製品(規格製品)よりも製造コストがかかるので製品の価格は割高なものとなる。
しかし、例え個人個人の左右眼それぞれのVC値やCR値を用いた眼鏡レンズの設計を行ったレンズであっても、規格製品と同一になる場合もあるし、違いがあってもわずかな違いでしかない場合もある。このような場合には、一品一品毎に製作する割高な製品を選択して購入することは最終ユーザーの不利益になる。当然、その製品を購入して使用した場合でも、個人個人の情報に基いた設計による眼鏡レンズの性能は、規格製品と比較しても大きな違いは無いことは明らかである。つまり、新しく作成した眼鏡が今まで使用していた眼鏡と比べてあまり違いが無いと感じられ、割高な製品を選択して購入したことに対して不満を持つことが考えられる。
そのため、眼鏡レンズの発注前に、選択しようとしているところの個人個人の情報に基づいた設計による眼鏡レンズと規格製品との光学特性(非点収差、平均度数、パワーエラー等)の違いを明らかにする必要がある。
そのため、眼鏡店から眼鏡レンズ情報、眼鏡枠情報及び眼鏡装用者毎のVR値の関連データを含む処方値、レイアウト情報、並びに加工指定情報などの発注情報が眼鏡店側の端末装置から眼鏡の加工業者側の情報処理装置に送信された際に、加工業者側の情報処理装置において発注された、もしくは問い合わせされた個人個人の情報に基いた設計による眼鏡レンズと規格化された製品との違いを算出して眼鏡店側の端末装置に返信し、非点収差分布図や平均度数分布図等の光学特性情報を表示する必要がある。
このように比較情報を与えることによって、個別設計の製品が規格化された製品とあまり違わない時にはその選択を中止して、規格化された製品を購入することが出来るようになる。」(6頁14行?12頁10行)

(5)「発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の実施の形態について図面に基づき説明する。第1図は本発明の実施の形態にかかる眼鏡レンズの製造方法の説明図であり、第2図は発注画面の説明図であり、第3図は眼鏡レンズの製造工程のフロー図であり、第4図は眼鏡装用の光学モデルの説明図である。
第1図において、符号1は眼鏡店の店頭(発注者側)であり、符号2は眼鏡の加工業者(加工者側)である。この実施の形態の眼鏡レンズ製造方法は、眼鏡店の店頭(発注者側)1に設置された端末装置を通じて加工業者(加工者側)2に設置された情報処理装置に送信される情報に基づいて眼鏡レンズ3を設計して製造するものである。
すなわち、前記端末装置を通じて、眼鏡レンズ情報、眼鏡枠情報及び眼鏡装用者毎のVR値の関連データを含む処方値、レイアウト情報、並びに、加工指定情報を含む情報の中から必要に応じて選択される設計及び/又は加工条件データ情報を前記情報処理装置に送信される。前記情報処理装置は、これらの情報を処理して、シミュレーションされた装用条件の光学モデルに基づき最適化されたレンズ形状を得て、加工条件を決定し、眼鏡レンズを製造するものである。以下、これらの工程を詳細に説明する。
(処方データ及びレンズデータの作成)
眼鏡店において、眼鏡装用者の処方データ及びレンズデータの作成がなされる。まず、本実施の形態の特徴である個々人のVR値(処方データの1つ)を求めるために、CR測定装置を使用して顧客毎の左眼、右眼のCR値をそれぞれ測定する。但し、本実施の形態では簡易な方法として、市販されて普及している眼軸長測定装置を使用して、左右眼それぞれの眼軸長をまず測定し、次に、眼軸長に対する眼球回旋中心点(上下方向)の相対的位置の比較係数を使用して、演算によりCR値を算出し、これを左眼、右眼のCR値とする。
次に、顧客の眼科医からの検眼データ(球面度数、乱視度数、乱視軸、プリズム値、基底方向、加入度数、遠用PD、近用PD等)、もしくは必要とあればその検眼データに基づき、眼鏡店に設置検眼機器を使用して再度処方の確認を行う。そして、レンズの種類(単焦点(球面、非球面)、多焦点(二重焦点、累進)等)及び度数やレンズの材質種類(ガラス種、プラスチック種)、表面処理の選択(染色加工、耐磨耗コート(ハードコート)、反射防止膜、紫外線防止等)の指定や中心厚、コバ厚、プリズム、偏心等を含めたレンズ加工指定データ及びレイアウト指定データ(例えば、二重焦点レンズの小玉位置の指定や内寄せ量等)を顧客との対話方式のもとに決定し、レンズデータを作成する。また、レンズの種類や表面処理の選択はレンズメーカの指定とその型名を指定することにより代用できる。
(フレームデータの作成)
次に、フレームデータの作成がなされる。眼鏡店1にはフレームメーカーから仕入れたフレームが在庫されており、顧客は好みのフレーム4を選択する。眼鏡店では設置の3次元のフレーム形状測定装置(例えば、HOYA(株)製GT-1000、3DFT)でその選択されたフレームに対して形状測定を行い、フレームデータ(例えば、形状、FPD、鼻幅、フレームカーブ、リム厚、フレームの材質、種類(フルリム、リムロン、縁なし等)、その他等)を作成する。
ただし、フレームデータの入手は、フレームメーカー毎に表記方法が異なり、入手方法も種々ある。前記の方法は実際のフレーム形状を実測する方法を示したものであるが、既に、予めフレームに形状データがバーコードタグ等で情報が付与されているものはそのデータを読み込むことによりフレームデータを入手する。また、フレームの型式からすべてのフレーム情報が取り出せる場合はその型式データから取り出す。
次に、実際、顧客の頭部形状やレンズデータ、フレームの形状特性、装用条件等を考慮し、フレーム傾斜角を決定し、角膜頂点とレンズ凹面との距離(VC値)を決定する。このVC値と上記求めたCR値との和からVR値を求める。
(パソコンによる眼鏡店とレンズメーカとの情報通信)
次に、眼鏡店では店頭に設置してあるパソコン(端末)を用いてレンズメーカーのホストコンピュータとの間で情報通信を行う。この情報通信には、眼鏡業界では通常採用されている眼鏡レンズの発注・問い合わせシステム(例えば、代表的なシステムとして、HOYA株式会社製のHOYAオンラインシステムがある)を適用できる。この情報通信は、上記眼鏡店で求めた眼鏡レンズの設計製造に必要な各種の情報をホストコンピュータに送るために、所定の発注画面を通じて行なわれる。第2図はそのシステムの発注画面である。VR値を含む各種の情報が発注画面を通じてホストコンピュータに送られる。
(設計及び製造)
工場側(加工者側)においては、ホストコンピュータが上記端末から送られた各種の情報を入力して演算処理し、レンズ設計のシミュレーションを行なう。第3図は眼鏡レンズの製造工程のフロー図であり、その処方レンズの製造までのシミュレーションを含む工程を示す図である。
第3図において、まず所定の入力項目がチェックされる。前述の眼鏡店からの送信データで光学レンズ設計に関連するその主たる項目は、レンズ物性データ(屈折力、アッベ数、比重等)、処方関連データ(レンズ度数、乱視軸、加入度、プリズム、基底方向、偏心、外径、遠用PD、近用PD、レンズ厚、VR値(CR値+VC値))、フレームデータ(形状、DBL、FPD、フレームカーブ、フレームカーブ等)、フレーム前傾角、ヤゲン種、その他加工指定データである。特に、レンズデータやフレームデータは予め製造メーカーから物性や設計の基礎データを入手しておくことが好ましい。
そして、これらのデータからレンズ設計のための装用時の光学モデルが総合的にシミュレーションされる。第4図は眼鏡装用の光学モデルの説明図であり、光学モデルの概略を側方から部分的に示した図である。第4図に示されるように、フレームの前傾角を想定して、眼前にレンズが配置される。その場合、VR値は眼球1の回旋中心点Rから角膜11の頂点Cまでの距離、即ち、CR値と角膜頂点Cからレンズ2の裏面21の基準点V(直線CRの延長線とレンズ裏面21との交点)までの距離(VC値)とを加えたものである。特に、近年の体格的向上や個々人の骨格の相異、眼部の形状相異、フレームの大型化、多様化等の影響の要因も加えると、VR値は一般的に約15ミリから44ミリぐらいの範囲と想定され、相当幅があることが調査によって判明した。
次いで、コンピュータによるレンズ設計プログラムの計算により最適化計算が行われ、凹面、凸面の面形状及びレンズ肉厚が決定され、処方レンズが決定される。ここにおいては、処方レンズは、眼鏡形状を非球面、球面、二重焦点、累進多焦点、屈折率、曲率等のバリエーションを踏まえた選択肢を考慮して、1種類、もしくは複数種類の候補が示される。
なお、視力測定時において用いたVC値と、実際に測定して求めたVC値(レンズ形状設計に用いる値)とが大きく異なった場合で、フレームの形状補正(パッド、テンプル、フロント等の調整)、フィッティング調整(鼻、耳などの位置調整等)などで対応できない場合がある。このような場合には、視力測定による度数は、眼鏡装用時の度数を示しているということはできないので、補正が必要となる場合がある。以下、この点を説明する。
通常視力検眼機は固定のVC値(以下この値をVC0とする。通常は14mmである。)を使用している。そして、その検眼機を使用して、検眼者(眼鏡店、眼科医、オプチシャン)は矯正度数値(D0)を得ている。本実施例の場合には、さらに、検眼者はフレーム形状と患者の顔形、検眼で得られた矯正度数値(D0)、レンズの種類などを考慮し、VC値を決定する。しかし、例えば、具体的には患者の顔相で眼球が奥まったような状態で、マイナスレンズ裏面カーブが深いレンズ場合ではVC値は通常採用値のVC0(14mm)ではなく、実測した大きなVC値(例えば20mm)を処方VC値として採用する場合がある。
このような場合には、測定時の矯正度数値(D0)を更に、補正する必要があり、上記の処方VC値、上記VC0値、D0値から以下の関係式を使用し、処方レンズ度数値(D)を算出する。
D=D0/(1+(VC-VC0)・D0/1000)
また、レンズ度数補正量(ΔD)は、
ΔD=D0/(1+(VC-VC0)・D0/1000)-D0
となり、たとえばD0=-4ディオプター、VC=33mm、VC0=27mmの場合にΔD=-0.098ディオプターと計算される。
眼鏡レンズ設計時この補正度数は眼鏡全面に一様に補正されることが好ましい。ΔDは好ましくは0.005未満である。
なお、本実施例では注文者側が工場側にVC値、CR値、D値(度数)等を供給(指定)する発注方式を採用しているが、注文者側が初期の情報を工場側に発信することにより、工場側で補正計算を行い発注者側に設計レンズ情報を返信し、発注者側はその情報を参考にして発注情報を作成して再度工場側に送るようにすれば、発注者の負担を軽減することができる。
以下、レンズ設計プログラムで行われる基本的内容を説明する。この内容は単焦点レンズの場合と多焦点レンズの場合とで多少異なる。しかし、いずれの場合も、以下の点で基本的考え方は同じである。
すなわち、まず、最初に採用候補としてのレンズ曲面形状を選び、そのレンズの光学特性を光線追跡法等を用いて求める。次に、そのレンズ曲面形状に対して所定の規則に基づいて曲面を異ならしめたレンズ曲面形状を次の候補として選び、そのレンズの光学特性を同様に光線追跡法等を用いて求める。そして、両者の光学特性を所定の方法で評価し、その結果に基づいて次の候補をあげるか又はその候補を採用するかを決める。候補たるレンズ曲面形状が採用決定に至るまで上記工程を次々と繰り返していわゆる最適化を行う。なお、ここで、上記光線追跡法の実行の際に適用する眼鏡装用の光学モデルのVR値として個人について求めた値を用いる。
単焦点レンズの設計は、以下のようにして行われる。なお、光線追跡法自体は周知技術であるので、詳細は省略する。
第3図のフローに基づき説明すると、まず、VRを含む設計関連データを設計入力データとする。この入力データに基づいて第4図の眼鏡光学モデルを想定し光線追跡計算を行う。第4図で、光線追跡の出発点は回旋点(R)である。レンズ2の全面に光線追跡計算を行う点を設定する。設定する点の数は多ければより精度が高い設計ができるが、例えば、眼鏡レンズで約3?30000点を使用することができる。そして、その設定されたレンズ面の位置での光線がその回旋点(R)を通り、かつ、光軸レンズ中心で距離VR離れた眼鏡レンズ裏面21、次に眼鏡レンズ表面22を通過できるように射出された状態での、それぞれの光線についての光学量(通常、湾曲収差、非点収差等)を計算していく。ここで、本実施例の光線追跡計算では角膜頂点(C)に関するVC値、CR値はそれぞれ単独では使用せず、両者の和であるVRの値が用いられる。
ここで、非球面レンズの設計の場合は、予め非球面レンズ面は関数化された非球面係数からなる式により表されている。その基本的な非球面式については光学レンズ分野では周知であり、更に、それをベースにその応用としても様々なレンズ設計思想のもとに関数化された光学表面を決定する式が知られている。具体的な非球面式として、例えば、特開昭52-115242号、特開昭58-24112号、特開昭61-501113号、特開昭64-40926号公報、WO97/26578号などを挙げることができる。これらは、開示された式中の非球面係数を決定することにより、レンズ面が決定されることができるようになっている。
本実施例では、非球面係数を決定するために、すなわち、第3図のフローにおける処方レンズ決定のため、それぞれの光線に沿った前記計算された光学量の重み加重の掛かった2乗和(メリット関数と言われる)を減らす方向に非球面係数を変化させる最適化計算(減衰最小2乗法)を行う。そして、所望の設定光学量以下になったとき、最適化計算を終える。その時点で非球面係数が決定され、レンズ形状が決定される。なお、上記光学量は、第4図の光学モデルでも明らかであるが、VR値の2つの要素であるVC値、CR値に個々に関数依存するのではなく、VC値、CR値の和であるVR値と関数関係にある。
第5図は上述の設計手法により決定したVR値27mmの処方レンズの光学データを示す図である。この処方レンズの基本仕様は、近視用の処方で、レンズ度数:-4.00ディオプター(D)、屈折率(nd):1.50,外径:70mmの単焦点非球面プラスチックレンズ(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート)である。
第6図はVR値27mmの処方レンズ(第5図参照)をVR値27mmの人物が装用した場合の性能データを示す図である。第6図に示されるように、いずれの視線角度においても度数誤差(平均度数誤差)がほとんどなく、平均度数において最適化が図られたレンズ設計がなされており、極めて優れた性能を有することが分かる。
第7図はVR値27mmの処方レンズ(第5図参照)をVR値33mmの人物が装用した場合の性能データを示す図(目的距離は無限大で設定。以下同様)である。第7図に示されるように、視線角度によっては、大きな度数誤差(平均度数誤差)が生じていることが分かる。すなわち、レンズが中心から離れた側方の視野、例えば30度や35度方向にいくと度数誤差が生じていることがわかる。その量は、35度では、0.245(D)であり、極めて大きいことがわかる。眼鏡レンズは一般的に0.25(D)ピッチで度数区分がされており、この度数誤差の値はもはや許容される量ではなく、別の処方レンズを選択する必要性を示唆している。通常、眼鏡レンズは一つのレンズアイテムに対してはすべて同一設計であるのでこの図7に示されるケースは日常的に出現するモデルケースと考えられる。
第8図はVR値33mmの処方レンズの光学データを示す図である。VR値27mmの処方レンズの光学データ(第5図参照)に比較すると、凸面カーブ値の差は、光学中心からの距離が0.0mmの時に0.0ディオプターであり、15mmで、-0.184ディオプターとなっている。これは、非球面レンズ設計であるため、球面レンズ設計と異なり、レンズ径方向に沿って不均一な凸カーブ補正を行っているものであり度数補正処理の一様なカーブ補正と異なっている。
第9図はVR値33mmの処方レンズ(第8図参照)をVR値33mmの人物が装用した場合の性能データを示す図である。第9図に示されるように、いずれの視線角度においても度数誤差(平均度数誤差)がほとんどなく、平均度数において最適化が図られたレンズ設計がなされており、極めて優れた性能を有することが分かる。
第10図は度数が遠視用の処方で、+4.00(D)である場合におけるVR値27mmの処方レンズの光学データを示す図、第11図はVR値27mmの処方レンズ(第10図参照)をVR値27mmの人物が装用した場合の性能データ(目的距離は無限大に設定。以下同様)を示す図、第12図はVR値27mmの処方レンズ(第10図参照)をVR値33mmの人物が装用した場合の性能データを示す図、第13図は度数が+4.00(D)である場合におけるVR値33mmの処方レンズの光学データを示す図、第14図はVR値33mmの処方レンズ(第13図参照)をVR値33mmの人物が装用した場合の性能データを示す図である。これの図に示される例も、第5図?第9図に示される場合と同様の結果が得られていることが分かる。
第15図は単焦点球面レンズでVR値を27mmに設定した場合において凸面カーブ(ベースカーブ)の値とレンズ度数の値との種々の組み合わせにおける度数誤差を求めて示した表であり、第16図は第15図に示した関係を度数誤差の等高線で示したグラフである。なお、これらの図に示した例は、視線方向を30度方向とした例である。また、第16図においては、縦軸が凸面カーブ(ベースカーブ)で横軸がレンズ度数である。この表から、レンズ度数が-6.00(D)の人は、ベースカーブが2(D)のものを選択すれば、度数誤差のすくない良い設計のレンズが得られることがわかる。
第17図は単焦点球面レンズでVR値を33mmに設定した場合において凸面カーブ(ベースカーブ)の値とレンズ度数の値との種々の組み合わせにおける度数誤差を求めて示した表であり、第18図は第17図に示した関係を度数誤差の等高線で示したグラフである。なお、これらの図に示した例は、視線方向を30度方向とした例である。また、第18図においては、縦軸が凸面カーブ(ベースカーブ)で横軸がレンズ度数である。この表から、レンズ度数が-6.00(D)の人は、ベースカーブが1(D)のものを選択すれば、度数誤差のすくない良い設計のレンズが得られることがわかる。
上述の結果から、VR値が27mmの場合に比較して、VR値が33mmになると-0.098ディオプターだけ度数の高いレンズが必要になることがわかる。すなわち、上述の例では、VR値が27mmから33mmになると絶対値で度数の強いレンズが必要となる。上記同条件での度数補正値は-0.098ディオプター、即ち、-4ディオプター(27mm)のレンズが補正され-4.098ディオプター(33mm)のレンズが必要となる。一方、レンズカーブについては、VRが27mmから33mmになった場合、第15図、第17図の該当個所をみると、D=-4ディオプターで、収差が、ほぼないカーブは、VR=27mmで約3.3カーブ、VR=33mmで約2.3カーブと読みとれる。すなわちVRの違いにより、レンズカーブがベンディングを起こし、約1カーブ浅いカーブが採用される。ここでもVR値を使用しレンズ設計を行う効果が認められる。尚、近業作業を目的として近用専用の単焦点眼鏡を求める場合には、近用PDはもちろんであるが、近用VR値を使用することが好ましい。
次に、累進多焦点レンズの場合を説明する。累進多焦点レンズの設計も基本的には単焦点レンズと同じであるが、その構造上から、異なる点もある。以下、第19図ないし第25図を参照にしながら近用部のレイアウトの内寄せ量を決定(補正)する方法を中心に説明する。
累進多焦点レンズは遠方視のための遠用部と近方視のための近用部とその遠用部と近用部を滑らかにつなぐ中間視のための累進部とから構成されている。レンズ設計上、一般的に遠用部及び近用部は球面設計が採用され(但し、非球面設計もある)、累進部は非球面設計が採用される。従って、端的には設計上は、前述の単焦点レンズの球面設計と非球面設計を組み合わせた面といえる。
また、累進多焦点レンズは老視用のレンズであるので、VRの相違により、最も顕著に影響を受けるのは累進部から近用部であり、本実施例ではその近用部を中心にそのレイアウト状態について説明する。
まず、本実施例で基本となる累進多焦点レンズの設計部分について説明する。尚、累進屈折面そのものの設計は多様であり、種々採用できるので、本実施例では基本構造部分について説明する。
本実施例の累進多焦点レンズは所定の光学設計思想に基づきレンズ設計され、その基本累進屈折面は、レンズ設計プログラムにおいては、所定の数式で関数化された面として設定してあり、処方度数等の所定の形状決定要素パラメータを入力することにより処方レンズ面が設定できるようになっている。(特に、近年、レンズ面を関数化した面と表して、プログラミングしたコンピュータを使用したレンズ設計システムは公知であるので(例えば、WO98/16862号など)、本実施例では特にその設計方法の詳細な説明は省略する。)
また、この基本累進屈折面は、遠用部、累進部、近用部のレンズ全面にわたって度数分布を決定することにより、レンズ面が設定される。そして、その度数分布を決定する要素としては、遠用部のベースカーブ値、加入度数、遠用部及び近用部の水平方向度数分布、遠用部、近用部、累進部のレイアウト、累進帯度数変化分布、主子午線または主注視線の配置、非点収差分布の配置、平均度数分布の配置等がある。そして、個々の設計思想に基づき、これらの要素に重み付けを加えたり、変化させたりすることによって、所定の累進屈折面が設定される。その設計の事例としては、例えば、具体的には、本件出願人の出願にかかる特開昭57-210320公報、特開平8-286156公報、特開平9-90291公報などを挙げることができる。
そして、このようなある所定の設計思想に基づき創生された累進多焦点レンズは、その処方の度数に応じて複数のベースカーブ(D)(例えば2?8カーブ)からなる基本累進屈折面があらかじめ用意されている。さらに、各々には、標準的な近用部内寄せ量INSET0が初期値(例えば2.5mm)として設定されている。
この近用部の内寄せ量は、正面遠方を見ているときの視線のレンズ第1面通過点(例えば、累進多焦点レンズの主子午線上の点)を基準にして、基本累進屈折面上に設定される近用部の内側への寄せ量であり、累進多焦点レンズの主子午線から近用光学中心までの水平方向の距離である(第25図参照)。
上記複数のベースカーブの中から処方の度数に対応した所定のベースカーブ(例えば、SPH+3.00ディオプターでADD2.00の場合は7カーブ)の基本累進屈折面を選択し、この基本累進屈折面の近用部に初期値のINSET0を設定する。
次に、この基本累進屈折面を第1面とし、レンズのもう一方の面として、このレンズが処方通りの度数(プリズム処方を必要とする場合はプリズムを含む)を満足するようなレンズ第2面の形状と位置(第1面に対する光軸上での相対位置)とをレンズ設計プログラムを使用して求める。
この時に好ましくは、フレーム枠形状とフレームの種類、フレームに対するレンズのレイアウトからこのレンズの厚さを最も薄くするようなレンズ第2面を設定する。今日、このような最適肉厚を有するレンズ第2面を求める方法は眼鏡業界ではそのレンズ受注システムで実施され公知技術(例えば、特開昭59-55411、HOYA METSシステムなど)であるので本実施例ではその説明は省略する。
次に、基準となるレンズの凹面と凸面との両面の形状と位置が求められたので、このレンズに対して光線追跡法を用いて、近用部の視線の位置を求める。
その場合、第3図に示すように、近用部の内寄せ量を正確に求めるため、所定の近方の物体距離(近業目的距離:目的とする近方の作業距離)と左右眼との位置、本件発明の個別の装用者毎に測定して得られたVR値、遠用PD、フレームデータ、フレーム前傾角を基に装用状態での仮の光学モデルを設定し、光線追跡計算を行う。
即ち、前記光学モデルに基づき実際に左右眼が近方の物体を同一視しているときの視線がレンズ第1面を通過する点の位置をシミュレーションにより求め、次にその位置における、遠方視線から近方視線に輻輳するときの内寄せ量である水平方向成分(INSET1:レンズの主子午線から近用中心までの水平距離)を求める。
次に、基本累進屈折面に設定されていた初期値内寄せ量INSET0と、ここで求められた第1の内寄せ量INSET1が等しいかどうかを判定する。INSET0とINSET1が等しくない場合には、初期値として与えられていたINSET0の値をINSET1の値に置き換える。そして、第19図のフローチャートに示すように、再度、基本累進屈折面の近用部に新たに置き換えられた内寄せ量(INSET1)を設定し直し、近用部の光学的レイアウトが変化した新たなる累進面でシミュレーションを行い、前述の処理を繰り返す。
一般的に、最初の光線追跡で内寄せ量が決定されることはまれである。これは、VR値の変化により光学モデルが変化し、装用状態でのレンズ上の視線位置と処方の度数やプリズムによって近方の物体を見る時のレンズ上での視線位置が大きく変化するからである。第24図は、INSET0とINSET1との視線のずれを説明する図で、実際にレンズを通過して近方物体に向かう視線はレンズによって屈折するため、標準的な内寄せ量として設定したINSET0とは異なる位置を視線が通過するためである。
即ち、内寄せ量を変化させることにより近用部の光学的レイアウトがかわり、それに対応して、累進部、遠用部も変化して、基本累進設計面は維持されつつ、新たなる累進屈折面が創り出されていくことになるので、そこにおいて、近方の視線が所定の近方物体距離に通過できるように光学条件を満足させるまで、好適な内寄せ量を探し、最適化を行っていく。そして、INSET(n-1)=INSET(n)となったところでこの繰り返し処理(最適化)を終了して、最終的な処方レンズとしての累進屈折面とレンズ第2面が決定する。
特に、累進屈折面のような複雑な面形状を含んだレンズを光線追跡するという場合には、このような繰り返し処理により、INSET(n-1)=INSET(n)となるように正しい内寄せ量を求めることが必要である。次に,上記の内寄量の最適化を実施した例について図面に基づき説明する。
第20-1図、第20-2図、第20-3図は、標準的な値としてVR=27.0mmを条件として与えたときの、累進多焦点レンズの加入屈折力2.00Dの累進屈折面の設計例である。
この時、レンズ材の屈折率は1.596、遠用部から近用部に至るまで長さ累進帯長15mm、累進屈折力は中心より上方4mmの位置を基点に増加し、中心より下方11mmの位置で加入屈折力2.00Dに達する。左右眼のPDは左右ともに32.0mm、近方物体距離33.3cmで設計している。
各図面は、各累進屈折面を面の非点収差と面の平均屈折力の分布であり、φ80mmの範囲の分布を示している。又、内部にφ50mmの補助的な円を入れている。
第20-1図は、左右とも遠用部屈折力(DF)+3.00D、凸面カーブ(ABC)5.94D、幾何中心のレンズ肉厚5.1mm、幾何中心でのプリズム1.0Δベース270°で設計した累進屈折面形状、第20-2図は、左右とも遠用部屈折力(DF)0.00D、凸面カーブ(ABC)4.72D、中心肉厚2.7mm、プリズム1.0Δベース270°で設計した累進屈折面形状、第20-3図は、左右とも遠用部屈折力(DF)-3.00D、凸面カーブ(ABC)3.49D、中心肉厚1.5mm、プリズム1.0Δベース270°で設計した累進屈折面形状である。
これら、第20-1図、第20-2図、第20-3図の近用部付近の非点収差と平均屈折力の分布を見ると遠用部屈折力(DF)の違いによって近用部の配置が変化していることがわかる。遠用部屈折力(DF)の-3.00D、0.00D、+3.00Dの違いに従って、順に近用部の内寄せ量が徐々に増加している。この違いは、遠用部屈折力(DF)の違いによって主として累進屈折力レンズの近用部のプリズム作用が異なるためである。
第21-1図、第21-2図、第21-3図は、第20図の設計例のVR値だけを標準的な値よりも大きな値としてVR=33.0mmとして与えたときの設計例である。
第21-1図は、左右とも遠用部屈折力(DF)+3.00D、凸面カーブ(ABC)5.94D、中心肉厚5.1mm、プリズム1.0Δベース270°で設計した累進屈折面形状、第21-2図は、左右とも遠用部屈折力(DF)0.00D、凸面カーブ(ABC)4.72D、中心肉厚2.7mm、プリズム1.0Δベース270°で設計した累進屈折面形状、第21-3図は、左右とも遠用部屈折力(DF)-3.00D、凸面カーブ(ABC)3.49D、中心肉厚1.5mm、プリズム1.0Δべース270°で設計した累進屈折面形状である。
これら第21-1図、第21-2図、第21-3図の場合も第20図の場合と同様に遠用部屈折力(DF)の違いによって近用部の配置が変化しているが、どの遠用部屈折力(DF)においても近用部の内寄せ量が第20図の場合よりも第21図の場合の方が大きいことがわかる。この違いは遠用部屈折力(DF)の違いによる他に、さらにVRの違いによって近方の物体を見る時の視線の累進屈折力レンズを通過する位置が大きく異なるためである。
第22-1図、第22-2図、第22-3図は、第20図の設計例のVR値だけを標準的な値よりも小さな値としてVR=20.0mmとして与えたとき設計例である。
第22-1図は、左右とも遠用部屈折力(DF)+3.00D、凸面カーブ(ABC)5.94D、中心肉厚5.1mm、プリズム1.0Δベース270°で設計した累進屈折面形状、第22-2図は、左右とも遠用部屈折力(DF)0.00D、凸面カーブ(ABC)4.72D、中心肉厚2.7mm、プリズム1.0Δベース270°で設計した累進屈折面形状、第22-3図は、左右とも遠用部屈折力(DF)-3.00D、凸面カーブ(ABC)3.49D、中心肉厚1.5mm、プリズム1.0Δべース270°で設計した累進屈折面形状である。
これら第22-1図、第22-2図、第22-3図の場合も第20図、第21図の場合と同様に遠用部屈折力(DF)の違いによって近用部の配置が変化しているが、どの遠用部屈折力(DF)においても近用部の内寄せ量が第20図よりも第22図の方が小さく、第21図との比較では第22図の内寄せ量は非常に小さいことがわかる。この違いも、第21図の場合と同様に遠用部屈折力(DF)の違いによる他に、VRの違いによって近方の物体を見る時の視線の累進屈折力レンズを通過する位置が大きく異なるためである。
第23図は、第20図、第21図、第22図に示した決定された累進屈折面のそれぞれに与えられた近用部内寄せ量INSETを具体的数値として計算したものを示している。これから、VRの違いによって近用部の内寄せ量が変化していることがわかる。
尚、これは左右眼のレンズに応じて行うことが好ましい。また、この方法は、同様に、バイフォーカルの近用部の光学的レイアウト(小玉の高さ、左右位置等)を決定し、処方レンズを決定する場合にも使用できる。即ち、図26で示すようにバイフォーカルレイアウトブロックの近用の小玉部分は、境界線で区切られているので、上述の累進多焦点レンズの例と同様に近用部の位置を調整する。
また、図19のフローチャートにある、選択された基本累進屈折面あるいは補正された累進屈折面とレンズ第2面に対する光線追跡からは、近用部の内寄せ量の他にも非点収差、平均度数誤差、歪曲収差などが求められる。
そのため、近用部の内寄せ量の最適化の際には、同時に、光線追跡により求められた非点収差、平均度数誤差、歪曲収差などの値から累進屈折面の形状を補正して収差補正を行うことができる。
最適化による累進屈折面の収差補正では、あらかじめ基本累進屈折面に対して想定されていた非点収差A0、平均度数分布B0、歪曲収差C0と光線追跡により求められた非点収差A1、平均度数分布B1、歪曲収差C1とのそれぞれの偏差(ΔA1、ΔB1、ΔC1)を小さくするように最適化を行う。このとき、これらの各偏差には基本累進屈折面上の位置(中央部、側方部、遠用部、近用部など)に対応した重み加重が掛けられる。この時に、遠用部では遠方視の時と近方視の時とで異なるVR値を使用することにより、それぞれの領域において光線追跡を行い最適化を行う。尚、累進部に対してはその位置における局部的な加入屈折力に応じて遠方視のときと近方視のときの二つのVR値を補間して使用する。
また、レンズ設計によっては、遠用部あるいは近用部のみといった部分的なVR値の活用も可能である。
これらの結果は、レンズ設計プログラムに備えてある光学性能計算結果の表示処理プログラムにより、例えば、非点収差図、鳥瞰図等により表示され、比較検討できるようになっている。また、このような結果は、通信回線を通じて発注者側のパソコンにも表示可能に設定される。眼鏡店側はこのような結果から、所望のレンズを確認もしくは選択する。むろん、このシミュレーションデータに基づき、装用パラメータを変更して、新たなる装用条件を設定して新たなる処方レンズを求めることもできる。
この結果は、レンズ設計プログラムに備えてある光学性能計算結果の表示処理プログラムにより、ホストコンピュータに送られた各種の情報を基に、発注されようとしている個別設計の眼鏡レンズが規格化された眼鏡レンズとどのように違うかを算出し、それを眼鏡店側端末装置に返信し、両者の違いを表示することもできる。このとき、眼鏡店側から比較対象とする規格化されたレンズを指定することもできるし、比較対象としての規格化されたレンズの指定が無い場合にはあらかじめホストコンピュータ側に設定してあるレンズを比較対象とするようにしてある。眼鏡店側はこのような結果から、所望の個別設計によるレンズと規格化されたレンズとの違いを確認することができる。
個別設計の眼鏡レンズと規格化された眼鏡レンズとの違いの比較方法はいくつか考えられる。一つの方法は、最終ユーザーがそれらの眼鏡を掛けた時に、どのような収差分布になるのかを光線追跡により求め、これを眼鏡店側端末装置に標準的なものと個別設計のものとを並べて表示する方法である。
例えば、単焦点非球面レンズであれば、レンズ凹面への視線角度毎の度数誤差や非点収差を表示する方法がある。累進多焦点レンズの場合でも、レンズ凹面への視線角度毎の非点収差や平均屈折力の分布等を等高線を用いてレンズ全面の収差分布として表示する方法がある。
また、簡易的な比較方法としては、次の様な方法がある。単焦点非球面レンズの場合の個別設計の眼鏡レンズと規格化された眼鏡レンズのそれぞれの設計中心位置におけるレンズ凸面カーブ、レンズ凹面への視線角度30度の時の度数誤差と非点収差を数値やグラフで比較表示する方法がある。累進レンズでも、それぞれの設計中心位置におけるレンズ凸面カーブとレンズ凹面への視線角度30度上方、下方、内方、外方、斜め内方上方、斜め外方上方、斜め内方下方、斜め外下方の8方向の非点収差と平均屈折力を数値やグラフで比較表示する方法がある。なお、価格や納期などの情報も含むことが好ましい。
(レンズ製造)
次に、注文により前記処方レンズの受注が決定したら、その加工データが作成される。この加工データはレンズ加工プログラムに基づき作成され、加工装置の加工条件を決定したり、駆動を制御したり、加工ツールの選択、レンズ素材の選択の指示等を行い、加工指示書の発行と加工装置へ加工データが工場の各製造装置に送信される。
そして、製造現場では、加工指示書に基づきレンズブランクが選択され、NC切削装置で切削、研摩のレンズ加工が行われる。表面処理(耐磨耗ハードコート成膜、反射防止膜成膜、レンズ染色、撥水処理、紫外線カット膜成膜、防曇処理等)を必要する場合もここで加工される。そして、円形の形状状態の処方レンズが完成される。また、ここでは、レンズ製造では予め在庫された完成品のレンズから選択できる場合もある。
次に、前記円形のレンズは所定のフレーム形状に対応させて、眼鏡レイアウト情報に基づき縁ずりのヤゲン加工が実施される。ヤゲン加工はマシニングセンターで行われる。この加工については、本願出願人の左記の出願にかかる実開平6?17853号、特開平6?34923号等に示すツールと加工方法にて行う。ここでも、加工条件として、硝種(ガラス、プラスチック、ポリカーボ、アクリル等)の選択、フレーム材質の選択、フレームPD(FPD、DBL)入力、PD(両眼、片眼)入力、水平方向偏心量X入力、垂直方向偏心量Y入力、乱視軸入力、仕上げサイズ入力、ヤゲン形状指定等が利用され、加工装置の加工モード設定時に、自動的にプログラムによりこれらの入力データが導入される。
そして、この所定の項目が設定され、スタートスイッチが押されると、縁ずり加工とヤゲン加工が同時に自動的に行われる。このようにしてヤゲンレンズが製造され、工場では、検査工程を経て、眼鏡店に出荷される。眼鏡店では、このヤゲンレンズを選択された眼鏡フレームに枠入れを行い、眼鏡を組み立てる。また、本実施例ではヤゲン加工は製造メーカで実施される態様を説明したが、これは眼鏡店で行われてもよく、特に本実施例の製造のフローに限定されるものではない。
以上の結果から、VR値によって適切なベースを選択することにより、よい眼鏡がえられることになる。なお、レンズの光学性能の評価の指標については、上記実施の形態では平均度数を使用したが、これは限定されるものではなく、非点収差、平均度数誤差、歪曲収差、眼鏡倍率、RMS等及びその組み合わせ等の指標があり、特に限定されるものではない。また、レンズ設計プログラムや問い合わせによるシミュレーションプログラム、表示プログラムなどは予め発注者側の端末や付帯装置(CD等)に組み込んで一種の情報処理機能を有する装置の意味で同一パソコンで処理することも可能である。
以上詳述したように、本発明は、眼鏡レンズ設計に必要なデータの1つである眼鏡装用時における眼鏡レンズの裏面の基準点から眼鏡装用者の眼球の角膜頂点までの距離VCの値と前記角膜頂点から眼球の回旋中心までの距離CRとを加えた、眼鏡レンズの裏面の基準点から眼球の回旋中心までの距離VRの値を、個別の眼鏡装用者毎に測定して求め、その値を用いて眼鏡レンズ設計を行い、その設計仕様に基づいて製造するようにしたことによって、個々人のVR値(VC+CR)に合わせたより高性能な眼鏡レンズを設計、製造することが可能となった。」(15頁7行?41頁21行)

(6)「産業上の利用可能性
以上のように、眼鏡レンズ及びその製造方法は、眼球回旋中心と眼鏡レンズとの距離を眼鏡装用者個別に考慮して設計製造することにより、より装用感に優れた眼鏡レンズを供給することを可能にしており、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進多焦点レンズのいずれにも適用することができる。」(41頁23行?42頁3行)

(7)上記(1)ないし(6)から、引用例には、
「眼球回旋中心と眼鏡レンズとの距離を眼鏡装用者個別に考慮して設計製造した累進多焦点眼鏡レンズの製造方法であって、
眼鏡レンズ設計に必要なデータの1つである眼鏡装用時における眼鏡レンズの裏面の基準点から眼鏡装用者の眼球の角膜頂点までの距離VCの値と前記角膜頂点から眼球の回旋中心までの距離CRとを加えた、眼鏡レンズの裏面の基準点から眼球の回旋中心までの距離の値をVRとしたとき、VR値の個人差は意外に大きく、また、そのレンズ性能への影響も予想以上に大きく、標準的なVR値に基づいて設計、製造された眼鏡レンズを標準的なVR値とは異なるVR値を持った個人に使用した場合、累進屈折力レンズの近用部寄せ量(内寄せ量)や近用部高さに関する光学的レイアウト等を補正をする必要があるほど、その眼鏡レンズの光学性能は大きく異なることがつきとめられたため、前記VRの値を個別の眼鏡装用者に対して測定することにより決定して、前記決定したVR値に基づき予め設定された基準の処方面に対して度数誤差補正することにより眼鏡レンズ設計を行い、その設計仕様に基づいて眼鏡レンズを製造することとし、
前記VRの値は、眼鏡装用時における眼鏡レンズの裏面の基準点から眼鏡装用者の眼球の角膜頂点までの距離VCの値と該角膜頂点から眼球の回旋中心までの距離CRの値との和の値を用いるところ、
前記角膜頂点から眼球の回旋中心までの距離CRの値を見つけ出す簡易的で実用的な方法として、市販されて普及している眼軸長測定装置を使用して、左右眼それぞれの眼軸長をまず測定し、次に、眼軸長に対する眼球回旋中心点(上下方向)の相対的位置の比較係数を使用して、演算によりCR値を算出し、これを左眼、右眼のCR値とすることができ、具体的には、眼軸長測定装置を利用して眼鏡装用者の眼軸長COを測定し、その測定データと、予め実測された眼軸長に対する眼球回旋点の相対的位置の一般的統計データに基づいて、例えば、眼軸長CO24ミリ、角膜頂点から眼球回旋中心点までの距離CR13ミリが平均的データであるとすると、13/24=0.54が相対位置係数となるので、眼軸長COが27ミリと測定された場合、27ミリ×0.54=14.6ミリとするような計算によって眼鏡装用者のCRの値を求め、
眼鏡レンズ製造方法は、眼鏡装用者の処方データの作成がなされる眼鏡店の店頭(発注者側)に設置された端末装置を通じて加工業者(加工者側)に設置された情報処理装置に送信される情報に基づいて眼鏡レンズを設計して製造するものであり、すなわち、前記端末装置を通じて、眼鏡レンズ情報、眼鏡枠情報及び眼鏡装用者毎のVR値の関連データを含む処方データ(球面度数、乱視度数、乱視軸、プリズム値、基底方向、加入度数、遠用PD、近用PD等)、レイアウト情報、並びに、加工指定情報を含む情報の中から必要に応じて選択される設計及び/又は加工条件データ情報を前記情報処理装置に送信し、前記情報処理装置は、これらの情報を処理して、シミュレーションされた装用条件の光学モデルに基づき最適化されたレンズ形状を得て、加工条件を決定し、眼鏡レンズを製造するものであり、
前記眼鏡レンズ設計に用いるレンズ設計プログラムの内容は、単焦点レンズの場合と多焦点レンズの場合とで多少異なるが、いずれの場合も、基本的考え方は同じで、まず、最初に採用候補としてのレンズ曲面形状を選ぶ段階、そのレンズの光学特性を光線追跡法等を用いて求める段階、次に、そのレンズ曲面形状に対して所定の規則に基づいて曲面を異ならしめたレンズ曲面形状を次の候補として選ぶ段階、そのレンズの光学特性を同様に光線追跡法等を用いて求める段階、両者の光学特性を所定の方法で評価する段階、その結果に基づいて次の候補をあげるか又はその候補を採用するかを決める段階からなる工程を、候補たるレンズ曲面形状が採用決定に至るまで次々と繰り返していわゆる最適化を行うものであり、前記光線追跡法の実行の際に適用する眼鏡装用の光学モデルのVR値として前記個別の眼鏡装用者について求めたCR値に基づくVR値を用い、
累進多焦点レンズの場合、累進多焦点レンズは所定の光学設計思想に基づきレンズ設計され、その基本累進屈折面は、レンズ設計プログラムにおいては、所定の数式で関数化された面として設定してあり、処方度数等の所定の形状決定要素パラメータを入力することにより処方レンズ面が設定できるようになっており、前記基本累進屈折面は、遠用部、累進部、近用部のレンズ全面にわたって度数分布を決定することにより、レンズ面が設定されるが、その度数分布を決定する要素としては、遠用部のベースカーブ値、加入度数、遠用部及び近用部の水平方向度数分布、遠用部、近用部、累進部のレイアウト、累進帯度数変化分布、主子午線または主注視線の配置、非点収差分布の配置、平均度数分布の配置等があり、個々の設計思想に基づき、これらの要素に重み付けを加えたり、変化させたりすることによって、所定の累進屈折面が設定されるものである、
累進多焦点眼鏡レンズの製造方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「『球面度数、乱視度数、乱視軸、プリズム値、基底方向、加入度数、遠用PD、近用PD等』の『処方データ』の作成がなされた『眼鏡装用者』」、「眼鏡装用者」、「『累進多焦点眼鏡レンズ』、『累進多焦点レンズ』」、「眼球回旋中心と眼鏡レンズとの距離を眼鏡装用者個別に考慮して設計製造した累進多焦点眼鏡レンズの製造方法」、「眼軸長CO」、「平均度数分布の配置」、「非点収差分布の配置」、「レンズ全面にわたって」及び「『次々と繰り返』す」は、それぞれ、本願補正発明の「遠方視の処方箋(A_(FV))が出され近方視のため度数加算(Add)が処方された所与の着用者」、「着用者」、「累進焦点眼鏡レンズ」、「個人合わせ調製された累進焦点眼鏡レンズの決定方法」、「眼球の軸長(LA)」、「度数欠陥の目標値」、「非点収差欠陥の目標値」、「各視方向について」及び「順次反復」に相当する。

(2)引用発明では、角膜頂点から眼球の回旋中心までの距離CRの値を見つけ出す簡易的で実用的な方法として、「着用者(眼鏡装用者)」の「眼球の軸長(LA)(眼軸長CO)」を測定し、その測定データに基づいて得られる値を用いることができ、具体的には、一般的に普及している眼軸長測定装置を利用して「着用者」の「眼球の軸長(LA)」を測定し、その測定データと、予め実測された眼軸長に対する眼球回旋点の相対的位置の一般的統計データに基づいて、例えば、「眼球の軸長(LA)」24ミリ、角膜頂点から眼球回旋中心点までの距離CR13ミリが平均的データであるとすると、13/24=0.54が相対位置係数となるので、「眼球の軸長(LA)」が27ミリと測定された場合、27ミリ×0.54=14.6ミリとするような計算によって「着用者」のCRの値を求めているから、引用発明は、本願補正発明の「一つの着用者の眼球の軸長(LA)を決定する段階」を含んでいる。

(3)引用発明において、「累進焦点眼鏡レンズ(累進多焦点レンズ)」は所定の光学設計思想に基づきレンズ設計され、その基本累進屈折面は、レンズ設計プログラムにおいては、所定の数式で関数化された面として設定してあり、処方度数等の所定の形状決定要素パラメータを入力することにより処方レンズ面が設定できるようになっており、前記基本累進屈折面は、遠用部、累進部、近用部の「各視方向について(レンズ全面にわたって)」度数分布を決定することにより、レンズ面が設定されるが、その度数分布を決定する要素としては、遠用部のベースカーブ値、加入度数、遠用部及び近用部の水平方向度数分布、遠用部、近用部、累進部のレイアウト、累進帯度数変化分布、主子午線または主注視線の配置、「非点収差欠陥の目標値(非点収差分布の配置)」、「度数欠陥の目標値(平均度数分布の配置)」等があるのであるから、引用発明は、本願補正発明の「『着用状態で各視方向について度数欠陥の目標値および非点収差欠陥の目標値を決定』する『段階』」を含んでいる。

(4)ア 引用発明では、光線追跡法等を用い、レンズ曲面形状を採用決定するものであるが、前記光線追跡法の実行の際に用いるVR値に係るCR値は、「眼球の軸長(眼軸長)」をまず測定し、「眼球の軸長」に対する眼球回旋中心点(上下方向)の相対的位置の比較係数を使用して演算により算出しているから、引用発明では、光線追跡法等を用いてレンズ曲面形状を採用決定する際に「眼球の軸長(眼軸長)」を測定し用いているといえる。

イ 本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明の「勾配」及び「視範囲幅」に関し、「図9および10のシリンダマップ上で、遠方視の対照点を通る水平線上の0.5ジオプタの等円柱振幅線(isocylinder lines)間の幅を測ることによって、視範囲幅がこのように比例的に増加していることが分かる。こうして、遠視用レンズについては36mmという視範囲幅が測定され(図9)、近視用レンズについては38mmという視範囲幅が測定される(図10)。同様に、図9および10のシリンダマップ上で、遠方視の対照点を通る水平線上の最大のシリンダ勾配レベルを測定することによって、勾配がこのように比例的に増加していることが分かる。こうして、遠視用レンズについては0.09 D/mmという最大の勾配が測定され(図9)、近視用レンズについては0.10 D/mmという最大の勾配が測定される(図10)。」(【0053】、【0054】)との記載がある。
この記載から、本願補正発明の「勾配」はレンズ面上における度数の傾きを意味し、本願補正発明の「視範囲幅」はレンズ面上におけるある同じ度数の2点の間の距離を意味するものと解されるので、本願補正発明の「勾配」及び「視範囲幅」は、レンズ面上における度数分布が変化することに伴って変化するものである。

ウ 引用発明では、遠用部のベースカーブ値、加入度数、遠用部及び近用部の水平方向度数分布、遠用部、近用部、累進部のレイアウト、累進帯度数変化分布、主子午線または主注視線の配置、「非点収差欠陥の目標値(非点収差分布の配置)」、「度数欠陥の目標値(平均度数分布の配置)」といった要素に重み付けを加えたり変化させたりすることにより、前記基本累進屈折面のレンズ全面にわたって度数分布を決定し、これによりレンズ面を設定している。

エ 上記アないしウからして、引用発明では、一つの「着用者(眼鏡装用者)」の「眼球の軸長」を用いてレンズ曲面形状を採用決定し、「非点収差欠陥の目標値」、「度数欠陥の目標値」といった要素に重み付けを加えたり変化させたりすることにより「各視方向について(レンズ全面にわたって)」度数分布の配置を決定し、これによりレンズ面を設定し、それに伴って「勾配」と「視差範囲」も決定しているといえるから、引用発明は、本願補正発明の「前記度数欠陥の目標値および非点収差欠陥の目標値は、前記一つの着用者の眼球の軸長を考慮した勾配および視範囲幅を決定する、段階」を含んでいる。
そして、引用発明では、レンズ曲面形状で選んだレンズの光学特性を光線追跡法等を用いて求め、次の候補として選んだレンズの光学特性を光線追跡法等を用いて求め、両者の光学特性を評価することを、候補たるレンズ曲面形状が採用決定に至るまで「順次反復(次々と繰り返)」していわゆる最適化を行うものであるから、引用発明は、本願補正発明の「前記度数欠陥の目標値及び前記非点収差欠陥の目標値を得るために、各視方向についてレンズ上の必要な度数を順次反復法により計算する段階」を含んでいる。

(5)上記(1)ないし(4)から、本願補正発明と引用発明とは、
「遠方視の処方箋(A_(FV))が出され近方視のため度数加算(Add)が処方された所与の着用者のために個人合わせ調製された累進焦点眼鏡レンズの決定方法であって、
一つの着用者の眼球の軸長(LA)を決定する段階と、
着用状態で各視方向について度数欠陥の目標値および非点収差欠陥の目標値を決定し、前記度数欠陥の目標値および非点収差欠陥の目標値は、前記一つの着用者の眼球の軸長を考慮した勾配および視範囲幅を決定する、段階と、
前記度数欠陥の目標値及び前記非点収差欠陥の目標値を得るために、各視方向についてレンズ上の必要な度数を順次反復法により計算する段階と
を含んでなる眼鏡レンズの決定方法。」である点(以下「一致点」という。)で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願補正発明では、「着用状態で視点を各視方向に関連付けるエルゴラマを決定する段階」を含むのに対して、引用発明では、該段階を含まない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)着用状態で視点を各視方向に関連付けるエルゴラマを決定している累進焦点眼鏡レンズの決定方法は本願の優先日前に周知である(以下「周知技術」という。例.特表2001-503155号公報(16頁5行?27行、23頁18行?24頁17行参照。)、特開2000-111846号公報(【0032】、【0044】参照。))。

(2)上記(1)からみて、引用発明において、着用状態で視点を各視方向に関連付けるエルゴラマを決定するようになすこと、すなわち、引用発明において、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(3)本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。

(4)したがって、本願補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
本願補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成23年6月10日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年6月10日付けで補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びそれらの記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明の発明特定事項を限定するものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-25 
結審通知日 2013-04-30 
審決日 2013-05-13 
出願番号 特願2007-79511(P2007-79511)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02C)
P 1 8・ 575- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 邦久  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 小牧 修
清水 康司
発明の名称 累進焦点眼鏡レンズの決定方法  
代理人 星 公弘  
代理人 宮城 康史  
代理人 二宮 浩康  
代理人 久野 琢也  
代理人 篠 良一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 高橋 佳大  
代理人 来間 清志  
代理人 上島 類  
代理人 住吉 秀一  
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