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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1279728
審判番号 不服2013-1106  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-22 
確定日 2013-09-26 
事件の表示 特願2006-93411「難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日出願公開、特開2007-269821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成18年3月30日の出願であって,平成23年11月18日付けで拒絶理由が通知され,平成24年1月5日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,同年10月17日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成25年1月22日に拒絶査定不服審判が請求され,同年2月22日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成24年1月5日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲および明細書(以下,「本願明細書等」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)50?99重量部,および赤外線吸収スペクトル測定にて3200cm^(-1)?3400cm^(-1)の間に脂肪酸アミド由来の吸収ピークを示さずかつゴム成分量が5?80重量%である,ジエン系ゴム成分にシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物を乳化重合によりグラフト反応させることにより得ることができる熱可塑性グラフト共重合体(B成分)1?50重量部の合計100重量部に対し,有機リン系難燃剤(C成分)1?30重量部および含フッ素滴下防止剤(D成分)0.05?2重量部を含んでなる難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。」

第3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,刊行物(特開2002-317110号公報)に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないとの理由1を含むものである。

第4.当審の判断
1.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-317110号公報(以下,「引用文献2」という。)の記載事項は,次のとおりである。

ア.「【請求項1】 芳香族ポリカーボネート樹脂(A)50?95重量部,ゴム変性スチレン系樹脂(B)50?5重量部,少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(C)5?30重量部,フルオロポリマー(D)0.05?1重量部,及び着色剤(E)0.0001?10重量部を含むポリカーボネート系着色難燃樹脂組成物であって,該組成物中に含まれる滑剤(F)の総量が3,000重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート系着色難燃樹脂組成物。
【請求項2】 滑剤(F)が,脂肪族炭化水素,ポリオレフィン系ワックス,高級カルボン酸,高級カルボン酸金属塩,高級脂肪酸アミド,高級脂肪酸エステル,及び高級アルコールから選ばれる化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート系着色難燃樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1乃至2)

イ.「【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,薄肉の成形体においても優れた難燃性を有し,優れた溶融流動性,耐衝撃性,低金型汚染性,耐湿熱性を同時に有するポリカーボネート系着色難燃樹脂組成物とそれを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】PC/ABS/リン系難燃剤組成物では,通常,様々な「滑剤」が含まれる。尚,本明細書中で使用する「滑剤」とは,樹脂の加工滑性や,樹脂の着色剤としての染顔料の分散性や,更には成形体の金型からの離型性を向上させる効果を有する化合物であり,脂肪族炭化水素,ポリオレフィン系ワックス,高級カルボン酸,高級カルボン酸金属塩,脂肪酸アミド,脂肪酸エステル,及び高級アルコール等の化合物群から選ばれる化合物をいう。
上記の滑剤は,組成物の樹脂原料中に既に含まれている場合もあれば,樹脂のコンパウンディングや着色等の加工において配合される場合もある。例えば,PC/ABS/リン系難燃剤組成物の原料PC樹脂には離型剤や加工助剤としての滑剤成分が含まれている場合があり,同様に原料ABS樹脂には乳化剤由来の脂肪酸あるいは脂肪酸金属塩,加工助剤,及び離型剤等が含まれている場合がある。
また,PC/ABS/リン系難燃剤組成物は一般に他の熱可塑性樹脂と同様に射出成形により各種成形品に成形されているが,射出成形において成形金型からの成形品の離型性を向上させるためにPC/ABS/リン系難燃剤組成物に離型剤を配合する場合がある。
例えば,特開平8-48844号公報には,(A)ポリカーボネート,(B)スチレン系樹脂,(C)レゾルシンポリホスフェート化合物,(D)ポリテトラフルオロエチレンからなる樹脂組成物100重量部に対して,(E)平均分子量1,000?50,000の飽和脂肪酸エステル系ワックス0.1?2重量部および(F)平均分子量1,000?3,000のポリエチレンワックス0.01?2重量部からなる難燃性樹脂組成物が記載されている。
また,特開2000-63649号公報には,(A)ポリカーボネート,(B)スチレン系樹脂,(C)ペンタエリスリトールと飽和脂肪族カルボン酸とのエステル化物からなる組成物に,更にハロゲン非含有リン酸エステルが配合された難燃性樹脂組成物が記載されている。
さらには,PC/ABS/リン系難燃剤組成物を着色剤(主として染顔料)により着色する過程において,樹脂中の着色剤の分散性を高める目的で着色剤分散剤や樹脂ペレット表面への着色剤展着剤等が使用される場合がある。
このように成形材料として使用されるPC/ABS/リン系難燃剤組成物,特に着色されたPC/ABS/リン系難燃剤組成物では,前記の滑剤成分が一般的に含まれている。そして,PC/ABS/リン系難燃剤組成物中に含まれる上記の滑剤成分は,通常,その総量として樹脂組成物中に数千?数万重量ppmのオーダーで含まれるのが一般的であるが,これらの滑剤成分は微量成分であるために,これら滑剤成分が難燃性に与える影響はこれまで厳密に検討されていなかった。
しかしながら,本発明者らは,PC/ABS/リン系難燃剤組成物の薄肉成形体での難燃性向上を鋭意検討した結果,樹脂組成物中に微量に含まれる滑剤成分が樹脂組成物の難燃性に大きな影響を及ぼすことを見出した。そして,驚くべきことに,PC/ABS/リン系難燃剤組成物中に含まれる滑剤成分の総量を一定量以下に制御することにより,薄肉成形体での高度難燃性,優れた溶融流動性,耐衝撃性,低金型汚染性,耐湿熱性を同時に有するポリカーボネート系着色難燃樹脂組成物を得ることができることを見出し,本発明を完成するに至った。」(段落【0007】?【0015】)

ウ.「本発明で用いられる成分(B)は,ゴム変性スチレン系樹脂である。ここでゴム変性スチレン系樹脂とは,ゴム質重合体,および,1種または2種以上のビニル化合物を成分に含むゴム変性スチレン系樹脂全般を表す。
ゴム変性スチレン系樹脂のゴム質重合体としては,ガラス転移温度が0℃以下のものであれば用いることができる。具体的には,ポリブタジエン,スチレン・ブタジエン共重合ゴム,ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合ゴム,アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム等のジエン系ゴム,ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム,シリコン・アクリル複合ゴム,ポリイソプレン,ポリクロロプレン,エチレン・プロピレンゴム,エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合ゴム,スチレン・ブタジエンブロック共重合ゴム,スチレン・イソプレンブロック共重合ゴム等のブロック共重合体,およびそれらの水素添加物等を使用することができる。これらの重合体の中で,好ましくは,ポリブタジエン,スチレン・ブタジエン共重合ゴム,アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム,ポリアクリル酸ブチル等が挙げられる。
ゴム変性スチレン系樹脂中のゴム質重合体の割合は1?95重量%の範囲で用いられるが,必要とする機械的強度,剛性,成形加工性に応じて決められる。好ましくは,5?45重量%であり,より好ましくは10?40重量%である。
ゴム変性スチレン系樹脂に使用されるビニル化合物としては,スチレン,α-メチルスチレン,パラメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物,メチルメタクリレート,メチルアクリレート,ブチルアクリレート,エチルアクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類,アクリル酸,メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類,アクリロニトリル,メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体,無水マレイン酸等のα,β-不飽和カルボン酸,N-フェニルマレイミド,N-メチルマレイミド,N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体,グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体があげられるが,好ましくは,芳香族ビニル化合物,アルキル(メタ)アクリレート類,シアン化ビニル単量体,マレイミド系単量体であり,さらに好ましくは,スチレン,アクリロニトリル,N-フェニルマレイミド,ブチルアクリレートである。
これらのビニル化合物は単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは,芳香族ビニル化合物と芳香族以外のビニル化合物の組み合わせである。この場合,芳香族ビニル化合物と芳香族以外のビニル化合物は任意の割合で用いられるが,芳香族以外のビニル化合物の好ましい割合は,ビニル化合物のみの合計量に対して,5?80重量%の範囲である。
ゴム変性スチレン系樹脂として,ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂),AAS樹脂(アクリロニトリル・ブチルアクリレート・スチレン樹脂),HIPS(ハイインパクトポリスチレン樹脂)等を例示することができる。
また,ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は特に限定されず,バルク重合,溶液重合,懸濁重合,乳化重合など通常公知の製造方法を挙げることができる。中でも,バルク重合,あるいは溶液重合により製造されたゴム変性スチレン系樹脂は,乳化剤を使用せずにゴム変性スチレン系樹脂を得ることが出来るために,乳化剤に由来する脂肪酸あるいは脂肪酸金属塩をゴム変性スチレン系樹脂中に実質的に含まないので,(B)成分として特に好適に使用できる。」(段落【0044】?【0050】)

エ.「本発明の組成物における成分(C)の量は,成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対し,5重量部?30重量部,好ましくは8?20重量部,さらに好ましくは10?17重量部である。成分(C)が5重量部未満では薄肉成形体での難燃性が不十分になり,一方,30重量部を超えると樹脂組成物の耐衝撃性が不足する。」(段落【0066】)

オ.「本発明における成分(D)の配合量は,成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して0.05?1重量部である。成分(D)の配合量は,成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して,0.1?0.8重量部の範囲にあることが好ましく,より好ましくは0.15?0.6部,さらに好ましくは0.2?0.5部である。フルオロポリマーの配合量が0.05重量部未満の場合は,燃焼物の滴下防止効果が不十分であり,特に薄肉成形体において高い難燃性を維持するのが困難となる。また,フルオロポリマーの配合量が1重量部を超える場合は溶融流動性や耐衝撃性が低下する傾向にある。」(段落【0073】)

カ.「本発明における成分(E)は,通常は所望とする発色を行うために着色剤を複数組み合わせて使用される場合が多いが,その配合量は成分(E)の総量として成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して0.0001?10重量部である。0.0001重量部未満であると製品色調を一定に保つのが困難となり,一方,10重量部を超えると樹脂組成物の機械的物性が低下したり,難燃性が低下したりすることがあり好ましくない。成分(E)の配合量は所望とする色調やベース樹脂の色調によって変化するが,使用量はその総量として,通常0.1?3重量部の範囲が好ましい。」(段落【0076】)

キ.「【発明の実施の形態】以下,実施例及び比較例により本発明の実施の形態を具体的に説明する。なお,実施例あるいは比較例においては,以下の成分(A),(B),(C),(D),(E)及び必要に応じて(F)成分を用いてポリカーボネート着色樹脂組成物を製造した。但し,比較例において用いた成分(C)には,本発明における成分(C)の要件を満足しないものもあるが,便宜上,これらの成分も(C)に分類した。
1.成分(A):芳香族ポリカーボネート
(PC1)ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから,溶融エステル交換法により製造された,ビスフェノールA系ポリカーボネートであり,滑剤成分を全く含まないもの。
重量平均分子量(Mw)=21,800
フェノール性末端基比率(フェノール性末端基が全末端基数に占める割合)=28モル%
(PC2)市販のホスゲン法により得られたビスフェノールA系ポリカーボネートであり,離型剤としての滑剤成分を2,500ppm含むもの。
重量平均分子量(Mw)=28,000
モノグリセリン系離型剤含有量=2,500ppm
(PC3)市販のホスゲン法により得られたビスフェノールA系ポリカーボネートであり,離型剤としての滑剤成分を500ppm含むもの。
重量平均分子量(Mw)=15,000
パラフィン系離型剤含有量=500ppm
2.成分(B):ゴム変性スチレン系樹脂
(ABS1)乳化重合法により得たABSグラフト共重合体を,重量平均分子量(Mw)が130,000のAS樹脂(スチレン・アクリロニトリル樹脂)で希釈混練して得た,ブタジエンゴム含有量含有量が25wt%,ゴム重量平均粒径が0.26μm,アクリロニトリル単位27wt%,スチレン単位73wt%からなる乳化重合系アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂であり,乳化剤残渣としての滑剤成分を1,200ppm含むもの。
ロジン酸カリウム含有量=1,200ppm
(ABS2)溶液重合法によって得られた,ブタジエンゴム含有量が12重量%,スチレン単位66重量%,アクリロニトリル単位22重量%で,ゴムの重量平均粒径が0.7μmであり,非グラフト共重合体成分の重量平均分子量(Mw)が110,000である溶液重合系アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂であり,滑剤成分を全く含まないもの。
(MBS)メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(台湾国台湾プラスチクス社製(商品名 M-51))
3.成分(C):有機リン化合物オリゴマー
(ホスフェート1)前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって,置換基R^(a),R^(b),R^(c),R^(d)が全てフェニル基であり,重量平均縮合度(N)が1.15であり,マグネシウム含有量が4.5ppmであり,塩素含有量が1ppm以下であり,酸価が0.02mgKOH/gであるもの。
(ホスフェート2)
大八化学(株)社製 レゾルシノールジホスフェート(CR733S)
重量平均縮合度(N)が1.41であり,マグネシウム含有量が5.2ppmであり,塩素含有量が1ppm以下であり,酸価が0.053mg/KOHであるもの。
(ホスフェート3)
大八化学(株)社製 トリフェニルホスフェート(TPP)
モノリン酸エステル化合物
4.成分(D):フルオロポリマー
(PTFE1)
三井デュポンフロロケミカル(株)製 ポリテトラフルオロエチレンの水性PTFEディスパージョン(商品名 テフロン(R)30J)
固形分含有量=60wt%
(PTFE2)
GEスペシャリティ・ケミカルズ(株)社製 ポリテトラフルオロエチレンとアクリロニトリル・スチレン共重合体の50/50(w/w)粉体状混合物(商品名 Blendex 449)
5.成分(E):着色剤
(ホワイト)
デュポン社製酸化チタン(商品名 Ti-Ture R103-08)
(ブラック)
東海カーボン(株)製カーボンブラック(商品名 カーボンブラック 7550F)
(イエロー)
シェファード社製チタンイエロー(商品名 Yellow 29)
6.成分(F):滑剤
(離型剤1)
日本油脂(株)製ペンタエリスリトールテトラステアレート系離型剤(商品名ユニスター H476)
(離型剤2)
花王(株)製ステアリン酸モノグリセライド系離型剤(商品名 エキセル T-95)
(分散剤1)
アライド・シグナル社製エチレン・酢酸ビニル共重合体(商品名 AC400A)
(分散剤2)
花王(株)製エチレンビスステアリルアマイド(商品名 花王ワックス EB-P)
(展着剤)
エッソ石油(株)製パラフィンオイル(商品名 クリストール J-352)
【実施例】実施例1?10及び比較例1?3
成分(A),(B),(C),(D),(E)および(F)成分を表1に示す量(単位は重量部)で溶融混練してポリカーボネート系着色難燃樹脂組成物を得た。溶融混練装置は2軸押出機(ZSK-25,L/D=37,Werner&Pfleiderer社製)を使用して,シリンダー温度250℃,スクリュー回転数250rpm,混練樹脂の吐出速度23kg/Hrの条件で溶融混練を行い,溶融樹脂温度は260?270℃とした。
2軸押出機への原材料の投入は,成分(A),(B),(D),(E)及び成分(F)については予め予備ブレンドしたものを重量フィーダーにより投入し,有機リン化合物オリゴマー(C)は,予め80℃に予備加熱してギアポンプにより押出機の途中からインジェクションノズルを通じて圧入することにより配合した。また,押出機の後段部分に開口部を設けて大気圧開放脱揮を行った。得られたペレットを乾燥し,射出成形機(オートショット50D,ファナック社製)で成形し,以下の各試験を実施した。
(1)難燃性試験
得られたペレットを乾燥し,シリンダー温度260℃,金型温度60℃に設定した射出成形機で成形し,燃焼試験用の短冊形状成形体(厚さ2.0mm,1.5mm及び1.4mm)を作成し,UL94規格20MM垂直燃焼試験を行いV-0,V-1またはV-2に分類した。尚,表中の記号NCは分類不能(non-classification)を意味する。(難燃性の程度:V-0>V-1>V-2>NC)
(2)MFR
ASTM D1238に準じて,220℃,10kg荷重条件で測定した。(単位:g/10min)
(3)アイゾット(Izod)衝撃試験
得られたペレットを乾燥し,シリンダー温度240℃,金型温度60℃に設定した射出成形機で1/8インチ厚短冊片を成形しASTM D256に準じて,アイゾット衝撃強度を1/8インチ厚,ノッチ付きで測定した。測定温度は23℃である。(単位:kgf・cm/cm)
(4)金型汚染性評価
シリンダー温度260℃,金型温度40℃に設定した射出成型機(NIIGATA CN75,新潟鐵工所製)を用いて,射出圧力905kgf/cm^(2),射出時間3秒,冷却時間1.2秒,型開閉時間2.1秒,休止時間2秒,成形サイクル8.3秒の条件で,試験片重量4gの成形体を連続成形し,100,500,1,000,及び2,000ショット後の金型表面状態を目視観察した。
◎:2,000ショットでMDの発生が見られない。
○:101?2,000ショットでMDの発生が見られる。
×:100ショット以下でMDの発生が見られる。
ここでMDは金型面に付着した固形状及び液状の堆積物の両方を含むものとする。
(5)耐湿熱性
得られたペレットを乾燥し,シリンダー温度240℃で,金型温度60℃に設定した射出成形機で1/8インチ厚短冊片を成形した。成形した短冊片を60℃,85RH%(相対湿度)環境下に168Hr保持した後に取り出し,ASTMD256に準じて,アイゾット衝撃強度をノッチ付きで測定した。アイゾット衝撃強度の測定温度は23℃である。(単位:kgf・cm/cm)結果を表1,表2に示す。
【表1】

・・・
表1,表2中に示す組成物中の滑剤成分の総量は計算値であり,原料PC樹脂や原料ABS樹脂に含まれる滑剤成分も含めて求めた値である。実施例1?10は本発明の組成物の結果であるが,薄肉難燃性,溶融流動性,耐衝撃性,低金型汚染性,耐湿熱性に優れることがわかる。比較例1及び2は組成物中の滑剤成分の総量が本発明の範囲を超える場合の結果であるが,難燃性,特に薄肉成形体での難燃性が劣ることがわかる。また,比較例3は有機リン化合物オリゴマーの代わりにモノ系のリン化合物難燃剤であるTPPを使用した結果であるが,金型汚染が顕著である。」(段落【0097】?【0120】)

2.刊行物に記載された発明
摘示アの請求項1に記載の「少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(C)」,「フルオロポリマー(D)」及び「着色剤(E)」の重量部は,摘示エ乃至カの記載からみて,「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)」および「ゴム変性スチレン系樹脂(B)」の合計100重量部に対しての値であるから,引用文献2には,
「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)50?95重量部,およびゴム変性スチレン系樹脂(B)50?5重量部の合計100重量部に対し,少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(C)5?30重量部,フルオロポリマー(D)0.05?1重量部,及び着色剤(E)0.0001?10重量部を含むポリカーボネート系着色難燃樹脂組成物であって,該組成物中に含まれる滑剤(F)の総量が3,000重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート系着色難燃樹脂組成物。」(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.本願発明と引用発明との対比
引用発明のゴム変性スチレン系樹脂(B)は,摘示ウ及びカの記載からみて,「ゴム成分量が5?80重量%である,ジエン系ゴム成分にシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物を乳化重合によりグラフト反応させることにより得ることができる熱可塑性グラフト共重合体」を包含するものである。
さらに,引用発明の(A)?(D)成分の配合量は,それぞれ,本願発明の(A成分)?(D成分)の配合量と重複一致する。
一方,本願発明は,その「・・・含んでなる難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」との記載及び本願明細書等の請求項6,段落【0047】?【0049】,段落【0091】?【0092】及び実施例等の記載からみて,着色剤,滑剤等の添加剤を含有し得るものである。

したがって,本願発明と引用発明とは,次の点で一致する。
<一致点>
芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)50?99重量部,およびゴム成分量が5?80重量%である,ジエン系ゴム成分にシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物を乳化重合によりグラフト反応させることにより得ることができる熱可塑性グラフト共重合体(B成分)1?50重量部の合計100重量部に対し,有機リン系難燃剤(C成分)1?30重量部および含フッ素滴下防止剤(D成分)0.05?2重量部を含んでなる難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。

また,両者は,下記の点で一応相違する。
<相違点>
本願発明においては,(B成分)が「赤外線吸収スペクトル測定にて3200cm^(-1)?3400cm^(-1)の間に脂肪酸アミド由来の吸収ピークを示さず」と特定されているのに対し,引用発明ではかかる特定はされていない点。

4.相違点についての判断
引用文献2には,ゴム変性スチレン系樹脂について,「赤外線吸収スペクトル測定にて3200cm^(-1)?3400cm^(-1)の間に脂肪酸アミド由来の吸収ピークを示さない」こと,すなわち,脂肪酸アミドを含有しないことに関しては,何ら記載も示唆もなされていないから,ゴム変性樹脂中の脂肪酸アミドの有無については不明である。
そこで,これについて検討する。
引用発明は「組成物中に含まれる滑剤(F)の総量が3,000重量ppm以下である」と特定されているものである。
そして,引用文献2には,その滑剤について,「本明細書中で使用する『滑剤』とは,樹脂の加工滑性や,樹脂の着色剤としての染顔料の分散性や,更には成形体の金型からの離型性を向上させる効果を有する化合物であり,脂肪族炭化水素,ポリオレフィン系ワックス,高級カルボン酸,高級カルボン酸金属塩,脂肪酸アミド,脂肪酸エステル,及び高級アルコール等の化合物群から選ばれる化合物をいう。上記の滑剤は,組成物の樹脂原料中に既に含まれている場合もあれば,樹脂のコンパウンディングや着色等の加工において配合される場合もある。例えば,PC/ABS/リン系難燃剤組成物の原料PC樹脂には離型剤や加工助剤としての滑剤成分が含まれている場合があり,同様に原料ABS樹脂には乳化剤由来の脂肪酸あるいは脂肪酸金属塩,加工助剤,及び離型剤等が含まれている場合がある。」(摘示イ)と記載されているから,組成物中に含まれる滑剤(F)の総量には,原料ABS樹脂に含まれている滑剤も含まれることは明らかである。
そうして,実施例1,2,4,5,7,10には,芳香族ポリカーボネート樹脂として,「滑剤成分を全く含まない(PC1)」,「滑剤成分を2,500ppmを含む(PC2)」,「滑剤成分を500ppmを含む(PC3)」から選ばれる1種以上を用い,ゴム変性スチレン系樹脂として,「(ABS1)乳化重合法により得たABSグラフト共重合体を,重量平均分子量(Mw)が130,000のAS樹脂(スチレン・アクリロニトリル樹脂)で希釈混練して得た,ブタジエンゴム含有量含有量が25wt%,ゴム重量平均粒径が0.26μm,アクリロニトリル単位27wt%,スチレン単位73wt%からなる乳化重合系アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂であり,乳化剤残渣としての滑剤成分を1,200ppm含むもの。ロジン酸カリウム含有量=1,200ppm」を用いること及び成分(F)として滑剤が配合されることが記載されており,さらに,その組成物中の滑剤成分の総量が記載されている(摘示キ)。
引用文献2には,滑剤成分の1つとして高級脂肪酸アミドが明示されている(摘示アの請求項2及び摘示イ)ことからみて,仮にABS樹脂中にエチレンビスステアリルアミド等の脂肪酸アミドが含まれているとすれば,当然にその含有量を,滑剤成分含有量として記載するはずであるが,そのような記載は一切なされていないことからみて,(ABS1)中にはエチレンビスステアリルアミド等の脂肪酸アミドは含有されていないものと解するのが自然である。
さらに,摘示キの表1等に記載の数値を用いて,滑剤成分の量を計算すると,実施例1においては,滑剤成分が成分(F)のみとして計算すると,0.05*10^(6)/(80+20+14+0.3+1+0.002+0.09+0.05)=433ppmとなるが,原料PC樹脂(成分(A))や原料ABS樹脂(成分(B))に含まれる滑剤成分も含めて計算すると,(0.05+20*1200*10^(-6))*10^(6)/(80+20+14+0.3+1+0.002+0.09+0.05)=641ppmとなり,実施例1の「組成物中の滑剤成分の総量」である643ppmとほぼ同じ値となっており,そして,実施例2,4,5,7及び10について計算しても同様のことがいえることから,実施例における「組成物中の滑剤成分の総量」は,原料PC樹脂や原料ABS樹脂に含まれる滑剤成分も含めて計算されたもの,すなわち,成分(A)の滑剤成分及び成分(B)中のロジン酸カリウムなどの滑剤成分並びに成分(F)の滑剤成分をも含めて計算されたものと認められ、しかも、組成物中にこれら以外の滑剤成分が存在しないものと認められる。
そうであれば,当該実施例の(ABS1)中には,ロジン酸カリウム以外の滑剤成分が含まれていない,すなわち,赤外線吸収スペクトル測定にて3200cm^(-1)?3400cm^(-1)の間に脂肪酸アミド由来の吸収ピークを示さない蓋然性が高い。
したがって,上記相違点は,実質的な相違点とはいえない。

5.まとめ
よって,本願発明は,引用文献2に記載された発明である。

第5.審判請求人の主張について
(1)審判請求人の主張
審判請求人は,審判請求書において,概ね次のような主張をしている。
「引用文献1の[0113]および[0114]に「乳化剤残渣としての滑剤成分(ロジン酸)」との記載があるとおり,ロジン酸は乳化重合段階で添加されることは明らかである。そして,乳化重合後「硫酸塩析法にて凝固させた後に洗浄,乾燥処理を行って」ABSグラフト共重合体を得るため,乳化剤として使用されたロジン酸は残渣程度にしか残存しない。すなわち,次工程であるABS樹脂とAS樹脂を希釈混練する工程において残存しているロジン酸は滑剤として作用するのに十分な量ではない。これは,WO2010/004977号公報,特開平9-263680号公報,特開平9-59462号公報および特開2001-11138号公報に,ABS樹脂とAS樹脂を希釈混練する工程において使用される滑剤(エチレンビスステアリルアミド)の添加量がABS樹脂とAS樹脂との合計100重量部に対し,1.0?2.2重量部であることからも明らかである。つまり,乳化剤としてロジン酸が添加されていたとしても,該工程において新たな滑剤の投入が必要となる。そして,平成24年1月5日付けで提出した意見書に記載したとおり,該工程において滑剤として脂肪族アミドを使用することが一般的である。従って,特別の記載がないことから引用文献1のABS1およびABS2並びに引用文献2のABS1の該工程においても脂肪族アミドが使用されているものと認められる。
以上の点より,引用文献1および2の実施例に記載のABS樹脂は本願発明のB成分とは異なり,引用文献1および2記載の樹脂組成物は本願発明記載の樹脂組成物とは異なる。従って,本願発明と引用文献1および2記載の発明とは差異がないとはいえない。
さらに,本願発明はB成分としての化合物が「赤外線吸収スペクトル測定にて3200cm^(-1)?3400cm^(-1)の間に脂肪酸アミド由来の吸収ピークを示さ」ない場合,その化合物を含有する本願請求項1記載の樹脂組成物は,難燃性において5VBを達成することを見出したものである。このことについては引用文献1には記載も示唆もない。」

(2)審判請求人の主張に対して
まず,審判請求人は,数件の公報を例示して「乳化剤としてロジン酸が添加されていたとしても,ABS樹脂とAS樹脂を希釈混練する工程において新たな滑剤の投入が必要となる。」旨主張している。
しかしながら,当該公報には,当該工程において,必要に応じて滑剤を添加しても良いことが記載されているのであって,必ず滑剤の添加が必要であることを示したものではない。
さらに,審判請求人は,「平成24年1月5日付けで提出した意見書に記載したとおり,該工程において滑剤として脂肪族アミドを使用することが一般的である。」と主張する。
しかしながら,当該意見書に添付された参考資料1には,ABS樹脂とAS樹脂を希釈混練する工程において滑剤を使用することが記載されているものの,その滑剤として脂肪酸アミドが使用されることは記載されていない。また,同参考資料2には,EBA(エチレンビスステアリルアミド)がABS樹脂用滑剤として良好であることが記載されているのみで,当該工程において滑剤として脂肪酸アミドのみが一般的に使用され,他の滑剤は通常使用されないことまでも示すものではない。
そして,審判請求人は,「特別の記載がないことから引用文献2のABS樹脂とAS樹脂を希釈混練する工程においても脂肪族アミドが使用されているものと認められる。」と主張するが,上記のように引用文献2には,滑剤成分の1つとして高級脂肪酸アミドが明示されている(摘示アの請求項2及び摘示イ)ことからみて,仮にABS樹脂とAS樹脂を希釈混練する工程において脂肪酸アミドが使用されているとすれば,当然にその含有量を滑剤成分含有量として記載し,滑剤成分の総量としてもそれを含めて記載するはずであるが,上記のとおりそのような記載は一切なされていない。
そうであるから,引用発明のゴム変性スチレン系樹脂(B)に,脂肪酸アミドが含まれるとする,審判請求人の主張は,妥当ではない。
そして,本願発明と引用発明とがその構成において差異がない以上,同様の効果を奏するものと認められる。
したがって,審判請求人の主張は,採用することはできない。

第6.むすび
以上のとおり,本件出願の請求項1に係る発明は,引用文献2に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
したがって,原査定における他の理由及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,原査定における拒絶の理由1により拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-17 
結審通知日 2013-07-23 
審決日 2013-08-12 
出願番号 特願2006-93411(P2006-93411)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 行令  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 小野寺 務
富永 久子
発明の名称 難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物  
代理人 為山 太郎  

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