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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F24H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24H
管理番号 1279734
審判番号 不服2012-24146  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-05 
確定日 2013-09-27 
事件の表示 特願2008-121826号「温水タンク内の強制撹拌機」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月19日出願公開、特開2009-270766号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年5月8日の出願であって、平成24年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年12月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判請求と同時に手続補正がなされ、その後、平成25年3月26日付けで審尋がなされ、平成25年6月3日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年12月5日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年12月5日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

1.補正後の本願発明
本件補正により請求項1は、次のように補正された。

「60?95℃の温水を熱源として温水を貯留する温水タンクに備えられる強制撹拌機において、
温水供給側からの温水を温水タンクに導入する温水導入管を温水タンクに取り付け、
温水タンクの平面におけるセンター位置付近に到達した温水導入管を、水平直角方向の二方向に左右対称に分岐する振り分け水平部に形成し、この振り分け水平部の先を、さらに水平直角方向の二方向に左右対称に分岐して別の振り分け水平部に形成し、各振り分け水平部の先端位置で温水導入管を温水タンク内で下方に垂下させ、
この垂下させた温水導入管を外管と芯管の二重管に構成し、
この外管を温水タンク内で上方から下方に延びるように延伸させて第一直線部を形成し、
この第一直線部の先をU字状に屈曲させて第一屈曲部に形成し、その第一屈曲部の先に温水タンク内で下方から上方に延びる第二直線部を形成し、この第二直線部の先をさらにU字状に屈曲させて第二屈曲部を形成し、その第二屈曲部の先に温水タンク内で上方から下方に延びる延長管部を配設し、
この延長管部の長さ寸法を、前記第二屈曲部の長さ寸法の2?3倍となるように形成し、
前記外管の第一直線部の下部位置の管壁に、温水タンク内の温水を第一直線部に吸い込むための吸引開口を穿設し、
第一直線部における吸引開口形成位置のわずかに上流側位置から、第二直線部の中央付近に至る位置の外管の内側に、外管の内壁とわずかの間隙を確保するように芯管を配設し、
この芯管の上流側には外管内を流れる温水の流れを絞り込むレジューサーを取り付け、この芯管の下流側にはノズルを取り付け、
このノズルの先端の高さ位置を、前記吸引開口の中心部位置の高さよりも100?200mm高くなる位置に配設し、
前記吸引開口の開口部面積を、このノズルの開口部面積の2?3倍となるように形成したことを特徴とする温水タンク内の強制撹拌機。」(下線は補正箇所)

2.補正の目的
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「温水導入管」について、「温水供給側からの温水を温水タンクに導入する温水導入管を温水タンクに取り付け、温水タンクの平面におけるセンター位置付近に到達した温水導入管を、水平直角方向の二方向に左右対称に分岐する振り分け水平部に形成し、この振り分け水平部の先を、さらに水平直角方向の二方向に左右対称に分岐して別の振り分け水平部に形成し、各振り分け水平部の先端位置で温水導入管を温水タンク内で下方に垂下させ」ること及び「この垂下させた温水導入管を外管と芯管の二重管に構成」するとの限定を付加するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

3-1.引用例の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された登録実用新案第3141319号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
温水を貯蔵する貯湯タンクと、下降用管部及び上昇用管部をU字型折り返し管部及び逆U字型折り返し管部により連通して構成し、該貯湯タンク内に設けられてボイラーから一端側に供給される温水を他端の温水吐出口部から吐出する攪拌用管と、該攪拌用管より小径の小径管部の一端は攪拌用管の内面に内接する漏斗状流入口部になり、他端は攪拌用管内に開口する放出口部になった内管と、該内管と前記攪拌用管との隙間に形成される流路に連通して該攪拌用管に設けられ、前記貯湯タンク内の温水を該流路内に吸引する温水吸込み部とから構成してなる攪拌式貯湯装置。」(下線は当審で付与。以下、同様。)

イ 「【考案が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の密閉型貯湯装置は、貯湯タンク内の上部に滞留する高温水を利用者に提供することはできるが、貯湯タンク内の温水は上部が高温、中間部が中温、下部が低温となっている3層分離状態のままであるので、提供することができる高温水の量に限界があり、多数の利用者に同時に又は連続的に大量の温水を提供することができない。したがって、大量の高温水を利用者に提供するためには大型の貯湯タンクを用いるか、又は、貯湯タンクを複数設置する必要があり、イニシャルコストがかかるという問題がある。また、頻繁に温水を加熱する必要があるから燃料コストが嵩むという問題もある。また、温水供給用配管を貯湯タンク上部に設けると温水中に含まれる空気、塩素等が気泡状に分離して温水供給用配管に混入し、配管が腐食するという問題がある。
【0004】
本考案は上述した従来技術の欠点に鑑みなされたもので、貯湯タンク内の温水全体を高温のまま均一に保つことにより貯湯タンクを大型にすることなく効率よく、より多くの温水を供給することができる攪拌式貯湯装置を提供することを目的とする。」

ウ 「【0011】
本考案は、上述の構成とすることにより以下の諸効果を奏する。
(1)貯湯タンク内にボイラーからの高温水を吐出する攪拌用管を設けることにより、貯湯タンク内の温水を攪拌するようにしたから、温水の温度を高温のまま均一化することができ、大量の高温水を提供することができる。
(2)貯湯タンク内の温水を高温のまま均一化して大量の高温水を供給することができ、供給量を増やすために貯湯タンクを大型化したり、複数設ける必要がなく、また、温水供給量を減少させることなく貯湯タンクを小型化することができるから、イニシャルコスト及びランニングコストを削減することができる。
(3)貯湯タンク内の温水を攪拌することにより、温水の温度を高温のまま均一化することができるから、燃料コストを削減することができる。
(4)攪拌用管内に小径の内管を内設し、攪拌用管と内管との間の流路に連通する温水吸込み部を設けたことによりベンチュリ効果を利用して貯湯タンク内の温水を攪拌用管内に吸引するようにしたから、貯湯タンク内に攪拌用の羽根、モーター等を設ける必要がないので構造が単純で故障がないし、メンテナンスが容易である。
(5)温水吐出口部は、温水を下向きに吐出するように下向きに開口させることにより、ボイラーで加温された高温水が貯湯タンク内下部に行き渡るようにしたから、貯湯タンク内下部に低温水が滞留するのを防ぐことができる。
(6)温水吸込み部は、温水吸込み口が下向きの管体からなり、温水吸込み口が貯湯タンク内の下部に位置するように設けることにより、貯湯タンク内の下部の温水を攪拌用管内に吸引するようにしたから、低温水が滞留する貯湯タンク下部を十分に攪拌し、温水の温度を高温のまま均一化することができる。
(7)温水吐出口にエゼクタを設けることにより、貯湯タンク上部及び中間部の温水を吸引して高温水と混合して下部に吐出するようにしたから、低温水が滞留する貯湯タンク内を十分に攪拌して温水の温度を均一化することができる。」

エ 「【考案を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本考案の実施の形態を図面に基き説明する。図において、1は本考案に係る攪拌式貯湯装置を示す。2は、該攪拌貯湯装置1を構成し、温水を貯めるための金属製の密閉型の貯湯タンクを示し、該貯湯タンク2は円形の底部2Aと胴部2Bと頂部2Cとからなっている。3は、該貯湯タンク2内に設けた攪拌用管を示す。該攪拌用管3は、一端を貯湯タンク2の胴部2Bに液密状態で外側に貫設し、後述する1次側循環配管11からの温水を貯湯タンク2内に導入する温水導入管部3Aと、該温水導入管部3A内を流通する温水が下降する下降用管部3Bと、下降した温水を上昇方向に反転させるU字型折り返し管部3Cと、反転した温水が上昇する上昇用管部3Dと、上昇した温水を下降方向に反転させる逆U字型折り返し管部3Eと、反転した温水を貯湯タンク2内に下方向に吐出する温水吐出口部3Fとから構成した長尺の管体状に形成してある。そして、攪拌用管3は、上下方向に蛇行させることにより貯湯タンク2内の上部、中間部、下部に渡って配設してある。なお、図1において、攪拌用管3は貯湯タンク2内に4本設けているが、貯湯タンク2内に設ける攪拌用管3の数は4本に限られず、温水を十分に攪拌できるように貯湯タンク2の大きさに合わせて適宜1又は複数本設けるとよい。」

オ 「【0013】
図2は、攪拌用管3の縦断面を示す図であり、4は攪拌用管3に内設した内管を示す。該内管4は、下方に向かって狭窄する漏斗状に形成し、上端縁を前記下降用管部3Bの内面に内接してある漏斗状流入口部4Aと、攪拌用管3より小径の管からなり、一端が該漏斗状流入口部4Aに連設して、略U字状に形成した小径管部4Bと、該小径管部4B内を流動する温水を上方向に放出する放出口部4Cとから全体として略U字状に構成してある。そして、内管4はU字型折り返し管部3Cを介して、下降用管部3Bから上昇用管部3Dにかけてその略中心に位置するように内設してあり、これにより攪拌用管3と内管4との間には略U字状の流路5が形成されている。」

カ 「【0014】
6は貯湯タンク2内の温水を攪拌用管3内に吸込むための温水吸込み部を示す。該温水吸込み部6は前記流路5と連通するように下降用管部3Bの側面下方にスリット状に形成してあり、貯湯タンク2の下部に滞留している温水を攪拌用管3内に吸い込む働きをする。」

キ 「【0022】
なお、貯湯タンク2内に設けてある温度センサー17が常に貯湯タンク2内の温水の温度を検出し、温度が設定温度よりも低い場合は、制御手段16が切換弁15のバイパス管14側を閉塞し、温水がボイラー12に流入するようにする。そして、ボイラー12で高温に加温された高温水は攪拌用管3を通じて貯湯タンク2に流入し、貯湯タンク2内の温水の温度を上げることができる。・・・」

ク 「【0024】
次に、攪拌用管3の作用について説明する。ボイラー12で加温され、1次側循環配管11から攪拌用管3の温水導入管部3Aに流入した高温水は、下降用管部3B内を下降し、漏斗状流入口部4Aから内管4に流入する。そして、小径管部4B内を流動した高温水は放出口部4Cから上昇用管部3D内に上向きに放出される。内管4は攪拌用管3より小径に形成してあるから、内管4内を流動する高温水の流速が増し、ベンチュリ効果によって圧力が低下する。そうすると、減圧になった状態で放出口部4Cから放出された高温水の流れに流路5内の温水が吸い上げられて流れ込み、さらに流路5と連通するように形成してある温水吸込み部6から貯湯タンク2内の下部に滞留している温水が流路5内に吸込まれ、放出口部4Cから放出された高温水と混合して上昇用管部3Dから逆U字型折り返し部3E内を流動し、温水吐出口部3Fから貯湯タンク2内の下部に向かって吐出される。」

ケ 「【0025】
このようにして、貯湯タンク2内の下部に滞留している温水を攪拌用管3内に吸込んでボイラー12で加温した高温水と混合し、温水吐出口部3Fから貯湯タンク2内の下部方向に吐出することによって貯湯タンク2内の温水を確実に攪拌し、温水の温度を均一化し、貯湯タンク2の上部が高温、中間部が中温、下部が低温と3層分離状態になるのを防止することができる。
【0026】
また、攪拌用管3内をボイラー12で加温した高温水が流動することにより、攪拌用管3自体が加温される。さらに、攪拌用管3は長尺に形成してあり、貯湯タンク2内の上部、中間部及び下部に渡って配設してあるから、貯湯タンク2内の温水との接触面積が増加し、熱交換により貯湯タンク2内の温水を加温することができる。」

コ 図1には、平面でみて貯湯タンク2の中央付近まで延びた撹拌用管3を、下方へ略直角に屈曲させた後、さらに水平方向へ4本に分岐させて、その後、それぞれ下方に向かわせることが図示されている。

サ 図2には、下降用管部3Bの温水吸込み部6の上流側から、上昇用管部3Dの途中の内側に、間隔を確保するように内管4を配置して二重管に構成し、内管4の放出口部4Cの高さ位置を温水吸込み部6の高さよりも高くなる位置に配設することが図示されている。

上記記載事項ア?ケ並びにコ及びサの図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「温水を貯蔵する貯湯タンク2内に設けられた、内管4を内設した撹拌用管3において、
ボイラー12で高温に加温された高温水は攪拌用管3を通じて貯湯タンク2に流入し、貯湯タンク2内の温水の温度を上げることができ、
温水を貯湯タンク2内に導入する撹拌用管3の温水導入管部3Aを貯湯タンク2の胴部2Bに液密状態で貫設し、
平面でみて貯湯タンク2の中央付近まで延びた撹拌用管3を、下方へ略直角に屈曲させた後、さらに水平方向へ4本に分岐させて、その後、それぞれ下方に向かわせ、
下方に向かわせた撹拌用管3に、内管4を内設して二重管に構成し、
撹拌用管3は、該温水導入管部3A内を流通する温水が下降する下降用管部3Bと、下降した温水を上昇方向に反転させるU字型折り返し管部3Cと、反転した温水が上昇する上昇用管部3Dと、上昇した温水を下降方向に反転させる逆U字型折り返し管部3Eと、反転した温水を貯湯タンク2内に下方向に吐出する温水吐出口部3Fとを有し、
撹拌用管3の下降用管部3Bの側面下方にスリット状に形成してあり、貯湯タンク2の下部に滞留している温水を攪拌用管3内に吸い込む働きをする温水吸込み部6を設け、
撹拌用管3の下降用管部3Bの温水吸込み部6の上流側から上昇用管部3Dの途中の内側に、間隔を確保するように内管4を配置し、
内管4の上流側の一端は、攪拌用管3の内面に内接する漏斗状流入口部4Aになり、下流側の他端は攪拌用管3内に開口する放出口部4Cとし、この放出口部4Cの高さ位置を温水吸込み部6の高さよりも高くなる位置に配設した、
貯湯タンク2内の内管4を内設した攪拌用管3。」

3-2.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、後者の「貯湯タンク2」は、前者の「温水タンク」に相当し、以下同様に、
「撹拌用管3」とこれに内設する「内管4」は、「温水導入管」又は「強制攪拌機」に、
「撹拌用管3」は、「外管」に、
「下方用管部3B」は、「第一直線部」に、
「U字型折り返し管部3C」は、「第一屈曲部」に、
「上昇用管部3D」は、「第二直線部」に、
「逆U字型折り返し管部3E」は、「第二屈曲部」に、
「温水吐出口部3F」は、「延長管部」に、
「温水吸込み部6」は、「吸引開口」に、
「漏斗状流入口部4A」は、「レジューサー」に、
「内管4」は、「芯管」に、それぞれ相当する。

また、後者の「ボイラー12で高温に加温された高温水は攪拌用管3を通じて貯湯タンク2に流入し、貯湯タンク2内の温水の温度を上げることができ」ることは、前者の「温水を熱源と」することに、
後者の「温水を貯湯タンク2内に導入する」ことは、前者の「温水供給側からの温水を温水タンクに導入する」ことに、
後者の「撹拌用管3の温水導入管部3Aを貯湯タンク2の胴部2Bに液密状態で貫設」することは、前者の「温水導入管を温水タンクに取り付け」ることに、
後者の「平面でみて貯湯タンク2の中央付近まで延びた」態様は、前者の「温水タンクの平面におけるセンター位置付近に到達した」態様に、それぞれ相当する。
さらに、後者の「撹拌用管3を、下方へ略直角に屈曲させた後、さらに水平方向へ4本に分岐させて、その後、それぞれ下方に向かわせ」ることと、前者の「温水導入管を、水平直角方向の二方向に左右対称に分岐する振り分け水平部に形成し、この振り分け水平部の先を、さらに水平直角方向の二方向に左右対称に分岐して別の振り分け水平部に形成し、各振り分け水平部の先端位置で温水導入管を温水タンク内で下方に垂下させ」ることは、「温水導入管を、」「振り分け水平部に形成し」「各振り分け水平部の先端位置で温水導入管を温水タンク内で下方に垂下させ」る点で共通する。
後者の「下方に向かわせた撹拌用管3に、内管4を内設して二重管に構成」することは、前者の「垂下させた温水導入管を外管と芯管の二重管に構成」することといえる。
後者の「撹拌用管3は、該温水導入管部3A内を流通する温水が下降する下降用管部3Bと、下降した温水を上昇方向に反転させるU字型折り返し管部3Cと、反転した温水が上昇する上昇用管部3Dと、上昇した温水を下降方向に反転させる逆U字型折り返し管部3Eと、反転した温水を貯湯タンク2内に下方向に吐出する温水吐出口部3Fとを有」することは、前者の「外管を温水タンク内で上方から下方に延びるように延伸させて第一直線部を形成し、この第一直線部の先をU字状に屈曲させて第一屈曲部に形成し、その第一屈曲部の先に温水タンク内で下方から上方に延びる第二直線部を形成し、この第二直線部の先をさらにU字状に屈曲させて第二屈曲部を形成し、その第二屈曲部の先に温水タンク内で上方から下方に延びる延長管部を配設」することに相当する。
後者の「撹拌用管3の下降用管部3Bの側面下方にスリット状に形成してあり、貯湯タンク2の下部に滞留している温水を攪拌用管3内に吸い込む働きをする温水吸込み部6を設け」ることは、前者の「前記外管の第一直線部の下部位置の管壁に、温水タンク内の温水を第一直線部に吸い込むための吸引開口を穿設」することに相当する。
後者の「撹拌用管3の下降用管部3Bの温水吸込み部6の上流側から上昇用管部3Dの途中の内側に、間隔を確保するように内管4を配置」することは、前者の「第一直線部における吸引開口形成位置の」「上流側位置から、第二直線部の」「外管の内側に、外管の内壁と」「間隙を確保するように芯管を配設」することに相当する。
後者の「内管4の上流側の一端は、攪拌用管3の内面に内接する漏斗状流入口部4Aにな」ることは、前者の「芯管の上流側には外管内を流れる温水の流れを絞り込むレジューサーを取り付け」ることに相当する。
また、後者の「下流側の他端は攪拌用管3内に開口する放出口部4Cとした」ことは、前者の「芯管の下流側にはノズルを取り付け」ることと、「芯管の下流側に」放出口を有する点で共通する。
後者の「この放出口部4Cの高さ位置を温水吸込み部6の高さよりも高くなる位置に配設した」ことは、前者の「このノズルの先端の高さ位置を、前記吸引開口の中心部位置の高さよりも100?200mm高くなる位置に配設」することと、放出口の「先端の高さ位置」を、「吸引開口の中心部位置の高さよりも」「高くなる位置に配設」する点で共通する。

そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

(一致点)
「温水を熱源として温水を貯留する温水タンクに備えられる強制撹拌機において、
温水供給側からの温水を温水タンクに導入する温水導入管を温水タンクに取り付け、
温水タンクの平面におけるセンター位置付近に到達した温水導入管を、振り分け水平部に形成し、各振り分け水平部の先端位置で温水導入管を温水タンク内で下方に垂下させ、
この垂下させた温水導入管を外管と芯管の二重管に構成し、
この外管を温水タンク内で上方から下方に延びるように延伸させて第一直線部を形成し、この第一直線部の先をU字状に屈曲させて第一屈曲部に形成し、その第一屈曲部の先に温水タンク内で下方から上方に延びる第二直線部を形成し、この第二直線部の先をさらにU字状に屈曲させて第二屈曲部を形成し、その第二屈曲部の先に温水タンク内で上方から下方に延びる延長管部を配設し、
前記外管の第一直線部の下部位置の管壁に、温水タンク内の温水を第一直線部に吸い込むための吸引開口を穿設し、
第一直線部における吸引開口形成位置の上流側位置から、第二直線部の外管の内側に、外管の内壁との間隙を確保するように芯管を配設し、
この芯管の上流側には外管内を流れる温水の流れを絞り込むレジューサーを取り付け、この芯管の下流側に放出口を有し、
この放出口の先端の高さ位置を、前記吸引開口の中心部位置の高さよりも高くなる位置に配設した、
温水タンク内の強制撹拌機。」

そして、両者は次の点で相違する。

(相違点1)
熱源として用いる温水の温度について、本願補正発明が、60?95℃であるのに対して、引用発明は、ボイラーで高温に加温された高温水を用いるものの、その温度が不明である点。

(相違点2)
温水タンクの平面におけるセンター位置付近に到達した温水導入管を分岐する構成として、本願補正発明は、「水平直角方向の二方向に左右対称に分岐する振り分け水平部に形成し、この振り分け水平部の先を、さらに水平直角方向の二方向に左右対称に分岐して別の振り分け水平部に形成し」ているのに対して、引用発明では、「撹拌用管3を、下方へ略直角に屈曲させた後、さらに水平方向へ4本に分岐させて」いる点。

(相違点3)
延長管部の長さ寸法について、本願補正発明は、「第二屈曲部の長さ寸法の2?3倍となるように形成し」ているのに対して、引用発明では、温水吐出口部の長さ寸法と逆U字型折り返し管部の長さ寸法との関係は特定されていない点。

(相違点4)
芯管の配設について、本願補正発明は、「第一直線部における吸引開口形成位置のわずかに上流側位置から、第二直線部の中央付近に至る位置の外管の内側に、外管の内壁とわずかの間隙を確保するように」配設しているのに対して、引用発明は、内管4を温水吸込み部6に対してどの程度上流側から配設するか、内管4の放出口の位置が上昇用管部3Dの中央付近となっているか、及び上昇用管部3Dと内管4との間隔がどの程度であるのかが、それぞれ不明である点。

(相違点5)
芯管の先端について、本願補正発明は、ノズルを取り付けると共に、その先端の高さ位置を、吸引開口の中心部位置の高さよりも100?200mm高くなる位置に配設しているのに対して、引用発明では、ノズルを取り付けているか不明であると共に、その先端の高さ位置を温水吸込み部6の高さよりも高くなる位置に配設しているものの、その具体的な高さは特定されていない点。

(相違点6)
吸引開口の開口部面積について、本願補正発明は、ノズルの開口部面積の2?3倍となるように形成しているのに対し、引用発明では、その点について特定されていない点。

3-3.相違点の判断
(相違点1について)
引用発明のボイラーで加温した高温水の温度として60?95℃は通常のことといえ、熱源として用いるとき、そのような温度に設定することは当業者が適宜なし得た事項である。そして、そのことによる格別の効果も認められない。

(相違点2について)
引用発明も本願補正発明と同様に、1本の管路を4本に分岐するものである。そして、一般に流体が流れる管路の分岐形式において、2本にまず分岐してから、それぞれの管をさらに分岐して4本とする形式は従来より周知の事項に過ぎない(例えば、特開昭58-76131号公報第3ページ右上欄第4?18行、第1図、第7図等参照。)。
したがって、引用発明において、1本を水平方向において4本に分岐するにあたり、上記周知の事項を適用して、1本の管路を水平直角方向の二方向に左右対称に分岐する振り分け水平部に形成し、この振り分け水平部の先を、さらに水平直角方向の二方向に左右対称に分岐して別の振り分け水平部に形成して、相違点2に係る本願補正発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことであり、そのことによる格別の効果も認められない。
なお、一点において多分岐とすればするほど、2点分岐に較べて、流体を均等分散できるような精度で管路を製作する困難性が高まることも、従来より周知の事項である(例えば、特開昭58-76131号公報第2ページ左下欄第3?19行等参照)。

(相違点3について)
引用発明は、貯湯タンク2内で温水吐出口部3Fから、温水を貯湯タンク2内の下部方向に吐出することによって貯湯タンク2内の温水を確実に撹拌し、温水の温度を均一化するものであり(記載ケ)、当該温水吐出口部3Fが、貯湯タンクの上部や、下部に極端に片寄り過ぎた配置をとる場合には、貯湯タンク内の温水の撹拌が確実になされなくなることも技術的に常識といえるので、温水吐出口部3Fの長さは、貯湯タンク2や温水導入管2の大きさ、温水吐出口部3Fから吐出する温水の流速、温水吐出口部3Fの先端と貯湯タンク2の下部との距離等を考慮して試験等により設定できた設計的事項である。そして、直線の温水吐出口部3Fの長さを逆U字型折り返し管部3Eの長さ寸法の2?3倍とすることによる格別な効果も認められない。

(相違点4について)
引用発明において、内管4を温水吸込み部6に対してどの程度上流側から配設するか、内管4を上昇用管部3Dのどの位置まで配設するか及び上昇用管部3Dと内管4との間隔をどの程度とするかということは、貯湯タンク2や温水導入管2の大きさ、放出口からの高温水と温水吸込部6から吸い込まれる貯湯タンク内の温水との混合状態等を考慮して適宜なし得る設計的事項である。
そして、引用発明において、相違点4に係る本願補正発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことであり、内管4を温水吸込み部6に対してわずかに上流側位置から配設すること、内管4の放出口の位置を上昇用管部3Dの中央付近とすること及び上昇用管部3Dと内管4との間隔をわずかな間隔とすることによる格別な効果も認められない。

(相違点5について)
引用発明は、内管4から吐出する流体の流速を早めてベンチュリ効果を生じさせて温水吸込み部6から温水を吸い込むものであり(記載ク)、一般に、管の端部から流体を流出させる場合に、その放出口として、管の端部にノズルを取り付けて流速を早めることは、引例を提示するまでもなく従来周知の事項である。
そうすると、引用発明の、撹拌用管3内において、内管4の端部から高温水を流出する放出口として、流速を早めるためにノズルを取り付けたものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、引用発明の放出口の先端の高さ位置は、温水吸込み部6の高さより高くなる位置に配設されており、放出口の先端の高さ位置は、上昇用管部3Dの直線部でベンチュリ効果を得ること、内管4の内側の高温水と外側の温水との熱交換及び放出口の下流での高温水と温水との撹拌状態等を総合的に考慮して、適宜なし得る設計的事項である。そして、放出口の先端の高さ位置を、温水吸込み部6の中心部位置の高さよりも100?200mm高くなる位置に配設することによる格別な効果も認められない。

(相違点6について)
引用発明において、温水吸込部6の面積は、貯湯タンク2や温水導入管2の大きさ、放出口からの高温水と温水吸込部6から吸い込まれる貯湯タンク内の温水との混合状態等を考慮して適宜なし得る設計的事項である。
したがって、引用発明において、相違点6に係る本願補正発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことであり、温水吸込部6の開口部面積について、放出口の開口部面積の2?3倍となるように形成することよる格別の効果も認められない。

さらに、本願補正発明による効果も、引用発明及び周知の事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下同項記載の発明を「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「60?95℃の温水を熱源として温水を貯留する温水タンクに備えられる強制撹拌機において、
温水供給側からの温水を温水タンクに導入する温水導入管を温水タンクに取り付け、この温水導入管を外管と芯管の二重管に構成し、
この外管を温水タンク内で上方から下方に延びるように延伸させて第一直線部を形成し、
この第一直線部の先をU字状に屈曲させて第一屈曲部に形成し、その第一屈曲部の先に温水タンク内で下方から上方に延びる第二直線部を形成し、この第二直線部の先をさらにU字状に屈曲させて第二屈曲部を形成し、その第二屈曲部の先に温水タンク内で上方から下方に延びる延長管部を配設し、
この延長管部の長さ寸法を、前記第二屈曲部の長さ寸法の2?3倍となるように形成し、
前記外管の第一直線部の下部位置の管壁に、温水タンク内の温水を第一直線部に吸い込むための吸引開口を穿設し、
第一直線部における吸引開口形成位置のわずかに上流側位置から、第二直線部の中央付近に至る位置の外管の内側に、外管の内壁とわずかの間隙を確保するように芯管を配設し、
この芯管の上流側には外管内を流れる温水の流れを絞り込むレジューサーを取り付け、この芯管の下流側にはノズルを取り付け、
このノズルの先端の高さ位置を、前記吸引開口の中心部位置の高さよりも100?200mm高くなる位置に配設し、
前記吸引開口の開口部面積を、このノズルの開口部面積の2?3倍となるように形成したことを特徴とする温水タンク内の強制撹拌機。」

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「第2」「3-1.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2」「1.」の本願補正発明において、「温水導入管」について、「温水供給側からの温水を温水タンクに導入する温水導入管を温水タンクに取り付け、温水タンクの平面におけるセンター位置付近に到達した温水導入管を、水平直角方向の二方向に左右対称に分岐する振り分け水平部に形成し、この振り分け水平部の先を、さらに水平直角方向の二方向に左右対称に分岐して別の振り分け水平部に形成し、各振り分け水平部の先端位置で温水導入管を温水タンク内で下方に垂下させ、この垂下させた」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含むものに相当する本願補正発明が、前記「第2」「3-3.」に記載したとおり、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-12 
結審通知日 2013-07-23 
審決日 2013-08-08 
出願番号 特願2008-121826(P2008-121826)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F24H)
P 1 8・ 121- Z (F24H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉澤 伸幸  
特許庁審判長 竹之内 秀明
特許庁審判官 山崎 勝司
平上 悦司
発明の名称 温水タンク内の強制撹拌機  
代理人 松浦 恵治  

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