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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16K
管理番号 1279747
審判番号 無効2013-800014  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-01-31 
確定日 2013-10-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第4612957号発明「流量調整装置」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第4612957号の請求項1?4に係る発明についての出願は,特願2001-7120号(平成13年 1月16日出願)であり,平成22年10月22日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされたものである。
そして,平成25年 1月31日に一般社団法人日本フルードパワー工業会により特許無効審判が請求され,同年 4月19日付けで被請求人 株式会社ネリキより答弁書が提出された。
その後,同年 5月16日付けで,当審より審理事項通知書が送付され,同年 7月 3日付けで被請求人により口頭審理陳述要領書が提出され,同年 7月 4日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され,同年 7月19日付けで,被請求人より口頭審理陳述要領書(2)が提出され,同年 7月25日に口頭審理が行われた。

II.本件特許発明
本件特許の請求項1?4に係る発明は,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項より特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 ハウジング(5)内に流体入口路(6)と流量調整室(7)と流体出口路(8)とを順に設け,上記流量調整室(7)内に開口面積の異なる複数のオリフィス(16)を設けたオリフィス板(15)を配置し,
上記オリフィス板(15)を移動させることにより,前記オリフィス(16)のひとつを,上記流体入口路(6)と流体出口路(8)との少なくとも一方と対向する所定位置(P)へ選択的に配置し得るように構成した流量調整装置であって,
上記流量調整室(7)内で上記オリフィス板(15)に沿って耐摩耗部材(20)を配置し,この耐摩耗部材(20)と上記オリフィス板(15)とを一体移動可能に互いに固定し,
上記耐摩耗部材(20)に複数の係合部(21)を形成し,この係合部(21)の少なくともひとつと対向する位置で上記ハウシング(5)に係止部材(23)を配置するとともに,この係止部材(23)を上記耐摩耗部材(20)側へ付勢する付勢手段(24)を設け,
上記係止部材(23)を上記係合部(21)と係脱可能に係合させることで,上記オリフィス(16)のひとつを上記所定位置(P)に保持するように構成したことを特徴とする,流量調整装置。」(以下「本件特許発明1」という。)
「【請求項2】 上記流量調整室(7)内に金属製の支持板(11)を配置し,この支持板(11)の片面に上記オリフィス板(15)を固定するとともに,上記耐摩耗部材(20)をこの支持板(11)に固定した,請求項1に記載の流量調整装置。」(以下「本件特許発明2」という。)
「【請求項3】 上記係止部材(23)を鋼球で構成し,この鋼球からなる係止部材(23)と上記付勢手段(24)との間に耐摩耗材料からなるスペーサ(25)を配置した,請求項1または請求項2に記載の流量調整装置。」(以下「本件特許発明3」という。)
「【請求項4】 上記耐摩耗部材(20)が合成樹脂からなる,請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の流量調整装置。」(以下「本件特許発明4」という。)

III.請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
本件特許発明1は,その出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
本件特許発明2は,その出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明並びに甲第6乃至8号証に係る周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
本件特許発明3及び本件特許発明4は,その出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

証拠方法
甲第1号証:実願平3-70593号(実開平5-14742号)のCD-ROM
甲第2号証:特開平10-266290号公報
甲第3号証:特開平11-166346号公報
甲第4号証:実願平5-52775号(実開平7-22186号)のCD-ROM
甲第5号証:実願平4-15094号(実開平5-77667号)のCD-ROM
甲第6号証:特開昭62-140026号公報
甲第7号証:米国特許第6095491号明細書
甲第8号証:米国特許第4909476号明細書

2.被請求人の主張
本件特許発明1の「流量調整室内でオリフィス板に沿って耐摩耗部材を配置し,この耐摩耗部材とオリフィス板とを一体移動可能に互いに固定」することで,装置全体をコンパクトに維持しながら流量調整を広い範囲で細かく設定することができ,しかも安全で正確な流量を調整するという技術思想は,甲第1号証ないし甲第5号証に開示も示唆もされていない。
本件特許発明2について,そもそも本件特許発明1の技術思想が甲第1号証ないし甲第8号証に開示されていないから,「耐摩耗部材」をオリフィス板に沿うように固定することを当業者が容易に想到できるはずがない。
本件特許発明3及び4は,本件特許発明1に従属し,本件特許発明1の発明特定事項をを全て含むものであり,本件特許発明1が進歩性を有するから,本件特許発明3及び4も進歩性をを有する。

IV.当審の判断
(1)各号証の記載事項
甲第1号証(実願平3-70593号(実開平5-14742号)のCD-ROM)には,「オリフィス式ガス流制御器」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
(1-A)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は,ガス流路に流れるガスの流量を段階的に設定することができるガス流制御器に関する。さらに詳しくは主な用途が酸素ガス吸入のための酸素ガス又は酸素を含有するガスの流量を所望の流量に設定するためのオリフィス式ガス流制御器に関する。」
(1-B)「【0023】
図1についてさらに説明を加えると,16はオリフィス板である。本実施例ではこのオリフィス板は,0.18φから0.52φの8個のオリフィスを有する円板としたが,この実施例にかかわらず,帯状のオリフィス板をフライド式に移動できるようにしてもよい。
【0024】
18は前記の2つの支持体の中間で回転自在に勘合した該オリフィス板を所望のオリフィスの位置に選択するためのシャフトである。
また,20は該オリフィス板が所望の位置で停止するように作用するクリックストップ盤である。このクリックストップ盤を付設することにより,該オリフィスの断面積を所望の大きさに従って段階的に切替えることができる。
【0025】
なお,前記のクリックストップ盤が所望の位置に段階的に停止する動作を補助するために,22のスプリングと,24のボールを付設した。そして全体を組立てた後に,ビス及びナット等で締付孔32を通して締付けるように構成した。
【0026】
オリフィス板の上下それぞれにあるガス流路の入口12,出口14はガスの導入及び導出用のもので26はガス流路の該オリフィス板との接触部で,該オリフィス板が回転自在で,かつ気密性を有するように,ゴム製のOリング30を付設できるような溝を加工したものである。
【0027】
28は2つの該支持体の中間で,該オリフィス板が回転自在となるための空間を確保するスペーサーである。このスペーサーを含む接触部の詳細な縦断面図を図2に示す。」
(1-C)「【0029】
【考案の効果】
本考案では,図1のような構成にすることにより,2つの支持体はそれぞれ同一形状にすることが可能であるので,加工図面は1種類でよく,またこれらの支持体の管理,保存において区別する必要がなく,組立作業も容易であるという作用効果がある。
【0030】
さらに,これらの支持体は,12の入口と14の出口を除けば,それぞれの機能及び作用は同じであるので,このオリフィス式ガス流制御器の外形を従来の技術で製作した物に比較して,小型,軽量に作ることができる。
【0031】
例えば,前記の従来の技術で製作したものは,本体のみで外形約38mmφ×43mm長,重さ約140gfであるのに対し
【0032】
本考案の実施例では,本体のみで外形約20mm×20mm角×20mm長,重さ約28gf(支持体はアルミ製)であるので,該オリフィス式ガス流制御器を非常に小型,軽量に作ることができるという効果もある。」
(1-D)図1,図2からみて,「支持体10及びスペーサー28内にガス流路のうち入口12に連なる部分と,ガス流路のうち支持体10とスペーサー28で囲まれる部分と,ガス流路のうち出口14に連なる部分とを順に設け」られていること及び「ガス流路のうち支持体10とスペーサー28で囲まれる部分内にオリフィス板16を配置し」たことが理解できる。
(1-E)段落【0023】?【0026】の記載事項と図1,図2からみて,オリフィス板16を回転させることにより,前記オリフィスのひとつをガス流路のうち入口12に連なる部分とガス流路のうち出口14に連なる部分との間の所望の位置に選択することが理解できる。
(1-F)図1からみて,クリックストップ盤20とオリフィス板16はシャフト18に対して,傾いていないことから,クリックストップ盤20とオリフィス板16は「略平行な状態」に配置されていることが理解できる。
(1-G)図1,図2からみて,クリックストップ盤20は,ガス流路のうち支持体10とスペーサ-28で囲まれる部分の外に配置されていることが理解できる。
(1-H)段落【0024】の記載事項と図1からみて,クリックストップ盤20とオリフィス板16とをシャフト18を介して一体となって回転移動していることが理解できる。
(1-I)段落【0024】,【0025】の記載事項と図1からみて,クリックストップ盤20に形成された複数の凹部を形成し,この凹部の少なくともひとつと対向する位置で支持体10にボール24を配置するとともに,このボール24をクリックストップ盤20側へ付勢するスプリング22を設け,ボール24をクリックストップ盤20に形成された凹部と係脱可能に係合させることが理解できる。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第1号証には,以下の発明(以下「甲第1号証に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。
「支持体10及びスペーサー28内にガス流路のうち入口12に連なる部分と,ガス流路のうち支持体10とスペーサー28で囲まれる部分と,ガス流路のうち出口14に連なる部分とを順に設け,ガス流路のうち支持体10とスペーサー28で囲まれる部分内に0.18φから0.52φの8個のオリフィスを設けたオリフィス板16を配置し,
オリフィス板16を回転させることにより,前記オリフィスのひとつをガス流路のうち入口12に連なる部分とガス流路のうち出口14に連なる部分との間の所望の位置に選択する,ガスの流量を所望の流量に設定するためのオリフィス式ガス流制御器であって,
ガス流路のうち支持体10とスペーサー28で囲まれる部分の外に,クリックストップ盤20がオリフィス板16にシャフト18を介して略平行な状態に配置され,このクリックストップ盤20とオリフィス板16とをシャフト18を介して一体となって回転移動し,
クリックストップ盤20に複数の凹部を形成し,この凹部の少なくともひとつと対向する位置で支持体10にボール24を配置するとともに,このボール24をクリックストップ盤20側へ付勢するスプリング22を設け,
ボール24をクリックストップ盤20に形成された凹部と係脱可能に係合させてクリックストップ盤20を所望の位置に段階的に停止させることによりオリフィスの断面積を所望の大きさに従って段階的に切り替える,ガスの流量を所望の流量に設定するためのオリフィス式ガス流制御器。」

甲第2号証(特開平10-266290号公報)には,「浄水器」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(2-A)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,回動体の回動操作により水流切換が可能な浄水器に関するものである。」
(2-B)【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の浄水器では,上記課題を解決するため,以下の手段を採用した。請求項1記載の浄水器は,本体に,原水を通過させて吐出させる第一の流路と,前記原水をフィルタを通過させた後に吐出させる第二の流路と,前記第一の流路と前記第二の流路とを切り換える切換部が設けられ,前記切換部は,前記本体に対してその基準軸線まわりに回動自在,かつその回動によって前記第一の流路と前記第二の流路との切換を行う回動体を有してなり,前記本体と前記回動体のいずれか一方には,クリック感付与用の係合凹部を有する受け部材が支持され,同他方には,前記回動体の回動により前記係合凹部に係合・離脱自在な当接部材が支持されている浄水器において,前記受け部材は,エンジニアリングプラスチック製とされていることを特徴とする。」
(2-C)「【0014】エンジニアリングプラスチックとして,耐磨耗性に優れるポリアセタール樹脂を用いることとした。」
(2-D)「【0020】浄水器本体1の側壁部1aと操作レバー25の固定部26との間には,受け部材32と,ボール(当接部材)33と,スプリング(付勢部材)34とが配されている。受け部材32は,その中心に孔部32aが形成されたリング状の円板となっている。孔部32aは,前記切換軸20の外径よりも大きな径で形成されている。受け部材32は,孔部32aに前記切換軸20を挿通させて前記収納凹部23に固定されている。この受け部材32の前記操作レバー25と対向する面には,該ボール33と係合する係合凹部36が形成されている。この係合凹部36は,ボール33が係合可能な略半球状の凹部となっており,ボール33が当接し相対的に移動する前記基準軸線L1まわりの軌道上に所定角度間隔で三カ所設けられている。
【0021】ここで,受け部材32は,エンジニアリングプラスチックで形成されている。エンジニアリングプラスチックとしては,例えば,ポリアセタール樹脂,ポリアミド樹脂,ポリカーボネート,ポリブチレンテレフタレート,変性ポリフェニレンオキサイト,ポリフェニレンサルファイド,ポリサルフォン等が用いられる。特に,耐磨耗性を向上させる場合は,ポリアセタール樹脂を用いるのが好適である。」
(2-E)「【0024】使用者は,前記切換レバー25を回動させることによって,原水と浄水を使い分ける。つまり,切換レバー25を回動させると,該切換レバー25に固定された切換軸20が同時に回動する。すると,該切換軸20は,浄水器本体1内部に配された切換弁を駆動させて,前記原水吐出流路と前記浄水吐出流路とを切り換えるようになっている。この場合に,受け部材32に当接して移動するボール33が該受け部材32の係合凹部36に係合することにより,クリック感が得られ切換位置を認識することになる。つまり,ボール33は,スプリング34により受け部材32に押圧された状態で,操作レバー25の回動と共に基準軸線L1まわりを回動する。一方,受け部材32は,浄水器本体1に固定されているので,前記ボール33と該受け部材32は相対的に移動することになる。そして,ボール33が受け部材32の係合凹部36に対応する位置に位置したときに,該ボール33が該係合凹部36に落ち込む。このボール33が落ち込むときの衝撃力およびその際に発する音により,使用者は,クリック感を得ることになる。したがって,使用者は,係合凹部36が所定角度間隔で形成されているため常に一定の位置でクリック感を得ることになり,原水と浄水との使い分けを正確にかつ容易に行うことが可能となる。
【0025】上述のように受け部材32は,ボール33と摺動接触することになるが,受け部材32の材質をエンジニアリングプラスチック製としたので,耐磨耗性に優れた受け部材32とすることが可能となる。また,受け部材32にエンジニアリングプラスチックを用いたので,十分な強度を保持したまま成形容易なため,あらゆる形状の受け部材32に使用することが可能になる。その結果として,コスト低減も可能となる。また,ボール33とスプリング34にステンレスを用いたため,十分な強度,寿命を保持したまま,水による錆,腐食を回避することが可能となる。」

甲第3号証(特開平11-166346号公報)には,「付属部品の旋回抑制機構」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(3-A)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,コード類やハーネスを通すことができる貫通孔を有する旋回抑制機構に関し,デジタルカメラやビデオの液晶表示部または省スペースパソコンの液晶ディスプレイのような付属部品の旋回を抑制する機構に関する。」
(3-B)「【0005】 ・・・本発明の別の目的は,出没自在な小ボールを配置することにより,付属部品を旋回する際にクリック感によって所定の回動位置を容易に認識できる旋回抑制機構を提供することである。」
(3-C)「【0019】 旋回抑制機構3は,図2から明らかなように,右側からフランジ体15,支持プレート16,制動筒体6,ハブ付リング5,ディスク20および別の支持プレート21を組み合わせて構成する。図2において,フランジ体15,制動筒体6,ディスク20は金属製であり,ハブ付リング5,支持プレート16および21は金属製である。特に,制動筒体6は,炭素含有のポリアセタール樹脂のような耐磨耗性エンジニアリングプラスチックの射出成形品であると好ましい。
【0020】 制動筒体6は,リング5の外周面24と密に接触可能な内周面26(図4)と前端面28とを有する。筒体6の平坦な前端面28には,直径方向に中心対称で凹み10(図5)を2個形成し,該凹みは小ボール8が嵌合可能な大きさであり,リング5の小孔13,13と対応する。筒体6では,前端面28と内周面26との円周交差部32を面取りすることにより,リング5を圧入した時に,筒体内周面26がリング外周面24と接触すると同時に筒体前端面28もリング前端面30と接触できる(図5参照)。」
(3-D)「【0030】 デジタルカメラにおいて,液晶表示部の付属部品2を回動すると,該付属部品に取り付けたプレート21とディスク20を介してハブ付リング5が旋回し,同時にフランジ体15が回動する。この液晶表示部を図1の紙面から手前へ旋回すると,フランジ体15の突出部14が図3の一点鎖線の位置でストッパ17に係止されるまでプレート21は180度回動し,この際に小ボール8,8が制動筒体6の凹み10に入ってクリック感が生じる。
【0031】 この液晶表示部を図1の位置まで戻すと,再び小ボール8,8が制動筒体6の凹み10に入ってクリック感が生じる。この液晶表示部を図1の紙面から向こうへ旋回すると,フランジ体15の突出部14が図3の一点鎖線と反対位置でストッパ17に係止されるまでプレート21は回動する。」

甲第4号証(実願平5-52775号(実開平7-22186号)のCD-ROM)には,「リモコン弁の操作杆位置決め機構」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(4-A)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は,方向流量制御弁のスプール制御や可変ポンプの傾転制御などに使用され,無段階ディテント機能を有するリモコン弁のレバーやペダルなどの操作杆の位置決め装置に関する。」
(4-B)「【0019】
ディスク26に関してホルダ50に対向する側の側方に,ホルダ60が設けられる。ホルダ60は,ディテントプラグ61内を挿通可能である。ホルダ60の内端部側の先端には,鋼球62が保持され,鋼球62はディスク26の外周面に当接する。ホルダ60の外端部は,ワッシャ63を介してスプリング64の一端に当接する。スプリング64の他端は,調整ナット65によって押圧される。調整ナット65は,前述の調整ナット54と同様に,スプリング64の押圧力を調整することができ,ロックナット66によって保持される。」
(4-C)「【0026】
なお,ディスク26,ホルダ50,60,鋼球62は,耐摩耗性を考慮して硬質の合金鋼を使用する。操作杆としては,操作ハンドル21を用いているけれども,他のレバーやペダルなどであってもよく,同様の効果を奏する。また,鋼球62も用いるディテント機構は,中立位置のみ作用するけれども,他の角度を含めた複数の位置で作用させることもできる。」

甲第5号証(実願平4-15094号(実開平5-77667号)のCD-ROM)には,「流量制御弁」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(5-A)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は気体等の流量の制御に適用して特に有効な技術に関するもので,例えば空気圧を利用する場合の空気流量の制御装置に利用して有効な技術に関するものである。」
(5-B)「【0020】
本実施例の流量制御弁は,後記のごとく流入孔1aを有する第一の本体1に,流出孔2aを有する第二の本体2を固定し,該第二の本体2の回転軸収容部2bに,回転軸3を回転自在に取り付け,該回転軸3の第二の本体2から突出した上部に,該回転軸3を回転させる手段としてたとえば回転つまみ4を設けたものからなる。
【0021】
第一の本体1は,その外周面の一個所から上方向に流入孔1aが設けられ,流入孔1aの上部には,シール部材,たとえば数個の同一径のOリング5とこれを押す円筒のプレート9が配置されている。
【0022】
第二の本体2は,大径の円柱形状とその上部の同軸的に設けられ小径の円柱形状よりなる回転軸収容部2bからなる。
【0023】
第二の本体2は,その外周面の一個所からは下方向に流出孔2aが設けられ,また,回転軸収容部2b側にはスプリング11とこれによって押されるたとえば金属のボール12とが回転軸3の一部を押すように埋設されている。
【0024】
回転軸3は,同軸的に設けられた大径の円柱部3aとその上部の小径の円柱部3bとからなる。
【0025】
まず,大径の円柱部3aの段部には,前記スプリング11に押された前記ボール12を受ける複数のボール受け穴13が,円柱と同心円上に同一の間隔をもって設けられている。
【0026】
そして,大径の円柱部3aの底部から側面部に向かっては,図1のII-II線における断面図である図2のように,複数の流通孔14が,等間隔で前記ボール受け穴13と対応して設けられている。」
(5-C)「【0030】
流通孔14は,図3に示すように,それぞれ同一の径を有する狭窄部14aを有し,この狭窄部14aには,空間に余裕のある状態で挿入されたそれぞれに径の異なるたとえばワイヤよりなる流量制御部材10が設けられ,各流量制御部材10は内外両端を曲げて,抜け止めがされている。
【0031】
そして,複数の流通孔14の内の任意の一つが流入孔1aと連通するように配置されている。」
(5-D)「【0033】
この回転軸3におけるボール受け穴13は,該流通孔14の任意の一つが流入孔1aと連通した状態になったときに,前記ボール12が入るように位置決めされている。
【0034】
ところで,前記のように,流通孔14の狭窄部14aはそれぞれが同一の径を有し,各狭窄部14aに設けられた流量制御部材10はそれぞれが径の異なったものであるため,流通孔14が異なれば流量も異なってくることとなる。」

甲第6号証(特開昭62-140026号公報)には,「流量計及びそれを用いた酸素富化気体供給装置」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(6-A)「<発明の利用分野>
本発明は,特定の構造を有した流量計,及びその流量計を用いた酸素富化気体供給装置に関する。さらに詳細には本発明は,製造が容易で且つ流量調節時の操作も簡単な改良された流量計を提供し,特に医療用その他の呼吸の改善又は補強等のために簡単な操作で安定して酸素富化気体を供給し得る装置を提供するものである。」(第2ページ右上欄第1?8行)」
(6-B)「エッチング加工等の多量生産による製造が容易で且つ加工精度の高い方法により貫通孔を設けた薄いプレート状物を用いて流量を設定する」(第2ページ右下欄第17?20行)
(6-C)「第1図は,本発明の気体流量計の好ましい実施態様の1例を断面図で示したものである。即ち同図の流量計は,本体ハウジング1の中に,回転可能な切換主軸2がマウントされ,この切換主軸に円筒状の部屋構造3が設けてあり,この円筒状の円周部(即ち薄い板状部材4の支持体)5に比較的大きな穴6が複数個あけられている。さらに該円周部5の内側表面に,エッチング加工等により孔径の異なる多数の独立した貫通孔7が設けられた薄いスレンレススチール(SUS)製の板(即ち薄い板状部材)4がはめられている。尚該SUS板は,各貫通孔が円周部5の穴6と各々一致した位置にあり,さらに少なくとも,円周部の穴6の周囲の機密が保たれるようにSUS板4が円周部5の表面と密着又は接着して取り付けられることが望ましい。」(第3ページ右上欄第17行?左下欄第12行)
(6-D)「板状部材の形状としては,特に限定されるものではないが,円板状,ベルト状等が好ましく,特に第2図に示したベルト状が多数の貫通孔を設けるための面積を確保し且つ全体をコンパクトにできるので実用上望ましい。」(第4ページ右上欄第8?12行)
(6-E)「また切換主軸を切換る機構として,例えば該切換主軸の一部の断面形状を多角形化して,ノッチング鋼球16を組み合わせることによって切り換え角度を一定にして所定の位置で確実に固定せしめることが有効である。」(第4ページ左下欄第15?19行)

甲第7号証(米国特許6095491号明細書)には,「IN-LINE FLOW RATE CONTROL DEVICE」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。({}内は,請求人による翻訳文である。以下同様。)
(7-A)「The device of the present form of the invention comprises a hollow housing 20 which is made up of a base portion 22 and an interconnected cover portion 24. As best seen in FIGS. 4 and 6, base portion 22 is provided with an internal cavity 22a and cover 24 is provided with an internal cavity 24a so that when the components are connected in the manner shown in FIGS. 1 through 4, an internal chamber 28 is formed. Chamber 28 has a fluid inlet 30 which is in communication with an inlet passageway 32 formed in cover 24, which, in turn, is in communication with supply line 16. Similarly, chamber 28 has a fluid outlet 34 which is in communication with an outlet passageway 36 formed in base 22 which, in turn, is in communication with delivery line 18.」(第2欄第64行?第3欄第10行)
{本発明の本形式の装置は,基部22と,相互接続されたカバー部24とによって形成された中空ハウジング20を備える。図4及び6に最もよく示されるように,基部22には,内部空洞22aが設けられ,カバー24には,内部空洞24aが設けられ,図1?4に示すように構成要素を接続すると,内部の室28が形成される。室28は,カバー24に形成された入口通路32と接続している流体入口30を有する。入口通路32は,供給路16に接続される。同様に,室28は,基部22に形成された出口通路36と接続している流体出口34を有する。出口通路36は,配送路18に接続される。}
(7-B)「Turning to FIGS. 9 and 10, an alternate form of rate control mechanism is there shown. This rate control mechanism 66 is similar in many respects to mechanism 40 and like numerals are used to identify like components. The major difference between mechanisms 40 and 66 resides in the differently configured control members. For example, the control member in this latest embodiment comprises a thin wafer 68 having a plurality of circumferentially spaced, laser-drilled microbores 70 (FIG. 9). Wafer 68 is carried interiorly of a slightly differently configured control knob assembly 74 which includes a central wall 76 that supports wafer or member 68. Central wall 76 is provided with apertures 76a, which align with microbores 70 so as to permit fluid flow therethrough. By rotating control knob assembly 74, a selected one of the laser drilled microbores 70 can be moved into alignment with passageways 44 and 46 formed in hubs 42 and 48. Accordingly, by selecting an aperture of a particular size, the rate of fluid flow toward outlet passageway 36 can be precisely controlled.」(第3欄第42行?第61行)
{図9及び10に移り,流量調整機構の一つの代替形式がここに示される。この流量調整機構66は,多くの観点において機構40と似ている。同様の符号は,同様の構成要素を同定するために使われる。機構40と66との主な違いは,異なる構成の制御部材にある。例えば,最新の実施形態における制御部材は,レーザーで開けられ円周状に離間した複数の微小穴70(図9)を有する薄い薄片68を備える。薄片68は,わずかに異なる構成の制御つまみアセンブリ74の内部に組み込まれている。制御つまみアセンブリ74は,薄片あるいは 部材68を支持する中央壁76を含む。中央壁76には,複数の開口76aが設けられている。開口76aは,流体がそこを通って流れることができるように,微小穴70に沿って配置されている。制御つまみアセンブリ74を回転することによって,レーザーで開けられた微小穴70のなかから選択した一つを,ハブ42及び48のなかに形成された通路44及び46に沿う位置に動かすことができる。したがって,特定の大きさの開口を選択することにより,出口通路36へ向かう流体の流量を,正確に制御することができる。}
(7-C)「Another important feature of the invention is the provision of locking means for releasably locking the control members or knobs 50 and 74 against rotation. As best seen by referring to FIG. 6, the control knobs are provided with a plurality of spaced-apart grooves 50a. In the embodiment of the invention shown in FIGS. 1 through 6, the locking means comprise a locking member 80 which is connected to housing 20 in the manner best seen in FIG. 4. Locking member 80 includes an upper finger engaging portion 82 which is integrally formed with a downwardly extending locking finger 84. Proximate the lower extremity of locking finger 84 is a protuberance 86 which is normally biased into engagement with one of the spaced apart grooves 50a formed in rotatable knob or control member 50. Provided intermediate the ends of finger engaging portion 82 is a living hinge portion 88 which permits the locking member to flex in the manner shown in FIG. 5 when a pressure is exerted on portion 82 by the finger of the user. More particularly, as shown in FIG. 5, when the forward portion of the finger engaging member is depressed, the locking finger will swing rearwardly in the direction of the arrow 89 in a manner to move the locking protuberance 86 thereof out of engagement with the control knob 50. With the locking position moved to the position shown in FIG. 5, the user can freely rotate the control knob in a manner to bring a selected rate control frit into alignment with passageways 44 and 48. The locking member is constructed of a yieldably deformable spring-like material so that when pressure is released on the finger engaging port ion 82, the member will automatically spring back to its original starting position as shown in FIG. 4 once again locking the control knob 50 against further rotation.」(第3欄第62行?第4欄第26行)
{本発明のもうーつの重要な特徴は,制御部材あるいはつまみ50及び74が回転しないよう,解除可能に固定する固定手段の提供である。図6に最もよく示されるように,制御つまみには,離間した複数の溝50aが設けられている。図1?6に示した発明の実施形態において,固定手段は,図4に示すようにハウジング20に接続された固定部材80を備える。固定部材80は,下側に延設された固定指84と一体に形成された上部指係合部82を含む。固定指84の下部先端付近には,回転可能つまみあるいは制御部材50に形成された離間した溝50aのひとつと係合するよう通常付勢された突起86が形成されている。指係合部82の両端の間には,使用者の指で圧力を加えると図5に示されるように固定部材が曲がるようにする可動ヒンジ部88が設けられている。更に,図5に示すように,指係合部の前部を押えると,固定指は,矢印89の方向に後ろに揺動し,その固定突起86が動いて,制御つまみ50と係合しなくなる。図5に示す位置に固定位置を動かすことにより,使用者は,制御つまみを自由に回転して,選択した流量制御フリットを通路44と48との間に配置することができる。固定部材は,指係合部82に加えた圧力を解放すると,図4に示す元の開始位置に部材が自動的にはね戻り,制御つまみ50がそれ以上回転しないよう再び固定するよう,変形可能なばね性材料で構成される。}

甲第8号証(米国特許第4909476号明細書)には,「ORIFICE ASSEMBLY FOR GAS METERING DEVICE」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
(8-A)「Body 14 includes a gas inlet 20 and a gas outlet 22 separated by a pressure regulating region 24 and the orifice assembly 11.」(第3欄第11行?第13行)
{本体14は,圧力調整領域24とオリフィスアセンブリ11とで分離された気体入口20と気体出口22とを含む。}
(8-B)「Referring now to FIG. 2 where the orifice assembly 11 is shown in cross section, it is seen that the orifice assembly include the rotor element 32, which has the shaft 33 thereon, which shaft 33 has a flat 71 engaged by a set screw 75 (see FIG. 1) to rigidly secure the rotor element 32 to the operating knob 34. The rotor element 32 has a plurality of frustoconical bores 72 extending through a first face 73 thereof, each of which has a converging wall 74 that converges until it intersects a recess 75 through a second face 76 of the rotor element 32. In that each of the recesses 75 is coaxial with one of the bores 72 and have diameters greater that of the bores at the area of intersection, lands 78 are formed at the bottoms of the recesses 75 and are spaced from the second face 76 by shoulders 79. The lands 78 support the brass disks 12, each of which has a diameter slightly less than that of the recess 75 in which they are mounted. Each of the brass disks 12 has an orifice 80 therethrough of a selected diameter so as to allow a predetermined volume of gas to flow therethrough.」(第4欄第36行?第55行)
{オリフィスアセンブリ11が断面図で示される図2を参照すると,オリフィスアセンブリは,その上にシャフト33を有する回転要素32を含む。シャフト33は,回転要素32を操作つまみ34に硬く固定するため止めねじ75(図1参照)によって係合される平面部71を有する。回転要素32は,その第一面73を通って広がる複数の円錐台形状の穴72を有する。各穴72は,回転要素32の第二面76を通る凹部75と交差するまで収束する収束壁74を有する。各凹部75は,穴72の一つと同軸であり,交差領域における穴の直径よりも大きい直径を有するという点で,ランド78は,凹部75の底に形成され,肩部79によって第二面76から離間している。ランド78は,黄銅盤12を支持する。各黄銅盤12は,それが固定される凹部75の直径よりもわずかに小さい直径を有する。各黄銅盤12は,所定体積のガスがそれを通るように選択された直径の貫通するオリフィス80を有する。}

(2)対比・判断
[本件特許発明1について]
本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると,後者の「支持体10及びスペーサー28」又は「支持体10」は前者の「ハウジング」に相当し,以下同様に,「ガス流路のうち入口12に連なる部分」は「流体入口路」に,「ガス流路のうち支持体10とスペーサー28で囲まれる部分」は「流量調整室」に,「ガス流路のうち出口14に連なる部分」は「流体出口路」に,「0.18φから0.52φの8個のオリフィス」は「開口面積の異なる複数のオリフィス」に,「回転させる」態様は「移動させる」態様に,「ガスの流量を所望の流量に設定するためのオリフィス式ガス流制御器」は「流量調整装置」に,「複数の凹部」又は「凹部」は「係合部」に,「ボール24」は「係止部材」に,「スプリング22」は「付勢部材」に,それぞれ相当する。
後者の「オリフィス板16を回転させることにより,前記オリフィスのひとつをガス流路のうち入口12に連なる部分とガス流路のうち出口14に連なる部分との間の所望の位置に選択する」態様は,「オリフィス板を移動させることにより,前記オリフィスのひとつを流体入口路と流体出口路との少なくとも一方と対向する所定位置へ選択的に配置し得るように構成した」態様に相当する。
また,後者の「ガス流路のうち支持体10とスペーサ-28で囲まれる部分の外に,クリックストップ盤20がオリフィス板16にシャフト18を介して略平行な状態に配置され,このクリックストップ盤20とオリフィス板16とをシャフト18を介して一体となって回転移動し」た態様と,前者の「流量調整室内でオリフィス板に沿って耐摩耗部材を配置し,この耐摩耗部材と上記オリフィス板とを一体移動可能に互いに固定し」た態様とは,後者の「オリフィス板に略平行な状態」は前者の「オリフィス板に沿っ」た態様に相当する(口頭審理調書の陳述の要領の請求人2,被請求人2の欄を参照のこと。)から,「オリフィス板に沿って部材を配置し,この部材と上記オリフィス板とを一体移動可能に互いに固定し」た概念において共通する。
そして,後者の「クリックストップ盤20に複数の凹部を形成し,この凹部の少なくともひとつと対向する位置で支持体10にボール24を配置するとともに,このボール24をクリックストップ盤20側へ付勢するスプリング22を設け」た態様と,「耐摩耗部材に複数の係合部を形成し,この係合部の少なくともひとつと対向する位置で上記ハウシングに係止部材を配置するとともに,この係止部材を上記耐摩耗部材側へ付勢する付勢手段を設け」た態様とは,「部材に複数の係合部を形成し,この係合部の少なくともひとつと対向する位置でハウジングに係止部材を配置するとともに,この係止部材を上記部材側へ付勢する付勢手段を設け」た概念において共通する。
さらに,後者の「ボール24をクリックストップ盤20に形成された凹部と係脱可能に係合させてクリックストップ盤20を所望の位置に段階的に停止させることによりオリフィスの断面積を所望の大きさに従って段階的に切り替える」態様と,前者の「係止部材を係合部と係脱可能に係合させることで,オリフィスのひとつを所定位置に保持するように構成した」態様とは,「係止部材を(部材に形成された)係合部と係脱可能に係合させることで,オリフィスのひとつを所定位置に保持するように構成した」概念において共通する。
そうすると,両者は,
「ハウジング内に流体入口路と流量調整室と流体出口路とを順に設け,上記流量調整室内に開口面積の異なる複数のオリフィスを設けたオリフィス板を配置し,
上記オリフィス板を移動させることにより,前記オリフィスのひとつを,上記流体入口路と流体出口路との少なくとも一方と対向する所定位置へ選択的に配置し得るように構成した流量調整装置であって,
上記オリフィス板に沿って部材を配置し,この部材と上記オリフィス板とを一体移動可能に互いに固定し,
上記部材に複数の係合部を形成し,この係合部の少なくともひとつと対向する位置で上記ハウジングに係止部材を配置するとともに,この係止部材を上記部材側へ付勢する付勢手段を設け,
上記係止部材を上記係合部と係脱可能に係合させることで,上記オリフィスのひとつを上記所定位置に保持するように構成した,流量調整装置。」
で一致し,以下の点で相違するものと認められる。

<相違点>
本件特許発明1では,「流量調整室内でオリフィス板に沿って耐摩耗部材を配置し,この耐摩耗部材と上記オリフィス板とを一体移動可能に互いに固定し,上記耐摩耗部材に複数の係合部を形成し,この係合部の少なくともひとつと対向する位置でハウシングに係止部材を配置するとともに,この係止部材を上記耐摩耗部材側へ付勢する付勢手段を設け」たのに対して,甲第1号証に記載された発明では,「ガス流路のうち支持体10とスペーサで囲まれる部分(流量調整室)の外に,クリックストップ盤20がオリフィス板16にシャフト18を介して略平行な状態に配置され(オリフィス板に沿って部材を配置し),このクリックストップ盤20とオリフィス板16とをシャフト18を介して一体となって回転移動し(この部材とオリフィス板とを一体移動可能に(シャフト18を介して)互いに固定し),クリックストップ盤20に複数の凹部(係合部)を形成し,この凹部(係合部)の少なくともひとつと対向する位置で支持体10(ハウジング)にボール24(係止部材)を配置するとともに,このボール24(係止部材)をクリックストップ盤20側へ付勢するスプリング22(付勢手段)を設け」たものの,オリフィス板に沿ってクリックストップ盤20(部材)を配置した場所が「流量調整室内」であること,及び,クリックストップ盤20(部材)が「耐摩耗部材」であることの特定はなされていない点。

上記相違点について検討する。
まず,本件特許発明1は,流量調整室内で,係止部材が付勢手段によって付勢される箇所に,オリフィス板に沿って,耐摩耗性部材を配置することで,コンパクトでありながら,耐摩耗部材により係止部材との摺動による摩耗粉の発生が防止されるので,流体に金属粉などの摩耗粉が混入する惧れが無く,また,オリフィスの開口部に付着して開口面積を小さくする惧れもないことから,安全で正確に流量を調整できるものである。
言い換えれば,本件特許発明1は,付勢部材により付勢される係止部材と係合する係合部を形成した部材を,流量調整室内に設けることに起因して生じる,上記部材の係合部と係止部材との摺動による摩耗粉が流体に混入する惧れがあるという課題を,上記部材を耐摩耗部材とすることにより解決したものである。
一方,甲第1号証に記載された発明は,付勢部材により付勢される係止部材と係合する係合部を形成した部材を,流量調整室内に設けたものではないから,上記課題が生じる余地は無く,また,甲第1号証には,上記課題に関する示唆もなく,且つ,そのような課題が,本件特許の出願前に周知であるとも認められない。
そして,請求人が提示したいずれの証拠(甲第1号証?甲第8号証)にも,付勢部材により付勢される係止部材と係合する係合部を形成した,流量調整室内に設けた部材を,係合部と係止部材との摺動による摩耗粉が流体に混入する惧れがあるという課題を解決するべく耐摩耗部材とすることは,開示されていない。
そうすると,本件特許発明1の上記課題について何ら生じることのない甲第1号証に記載された発明に,甲第2号証?甲第5号証に記載された発明,及び甲第6号証?甲第8号証に係る周知技術を適用して,上記相違点に係る本件特許発明1の構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
したがって,本件特許発明1が,甲第1号証?甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証?甲第8号証に係る周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

[本件特許発明2から4について]
本件特許発明2から4は,直接的または間接的に本件特許発明1を引用して特定され,本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えた発明であるから,上記した理由により甲第1号証?甲第5号証に記載された発明,及び甲第6号証?甲第8号証に係る周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

V.むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件特許の請求項1,2,3,及び4に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-02 
結審通知日 2013-08-06 
審決日 2013-08-22 
出願番号 特願2001-7120(P2001-7120)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊谷 健治  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 槙原 進
藤井 昇
登録日 2010-10-22 
登録番号 特許第4612957号(P4612957)
発明の名称 流量調整装置  
代理人 特許業務法人東京アルパ特許事務所  
代理人 吉村 哲郎  
代理人 鈴江 正二  

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