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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1279796
審判番号 不服2012-14218  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-24 
確定日 2013-10-03 
事件の表示 特願2009-237385「ICDコード付与装置及び処方チェック装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月25日出願公開、特開2010- 44783〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年9月26日を出願日とする特許出願(特願2003-336570号)の一部を平成21年10月14日に新たな特許出願(特願2009-237385号)としたものであって,平成23年10月24日付けの拒絶理由通知に対して平成24年1月4日に意見書の提出とともに手続補正がなされ,平成24年5月7日付けの拒絶査定に対して平成24年7月24日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成25年3月7日付けの当審の審尋に対して平成25年5月13日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年7月24日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年7月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容について。
平成24年7月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により,本件補正前の発明である請求項1?4の発明は,本件補正後の発明である請求項1?4の発明にそれぞれ補正された。

2.請求項1に係る本件補正について。
(1)補正の内容について。
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の発明は,以下のとおり補正された。
<<補正前>>
「病名データに基づいてICDコードを割り当てるICDコード付与装置において,
病名データとICDコードとを関連付けて記憶すると共に,前記病名データに,ICDコードに対応していない一般使用名称が含まれる場合,ICDコードに対応する病名のうち,前記病名データに相当する病名を関連付けて記憶する記憶手段と,
前記病名データに基づいて,前記記憶手段で対応するICDコードがある場合にはICDコードを付与し,ICDコードがない場合には,前記記憶手段で対応する病名データに変換した後,ICDコードを付与する制御手段とを備えたことを特徴とするICDコード付与装置。」
(以上「本件補正前発明」という。)
<<補正後>>
「病名データに基づいてICDコードを割り当てるICDコード付与装置において,
病名データとICDコードとを関連付けた第1の辞書テーブルと,ICDコードに対応していない一般使用名称と,該一般使用名称に対応する前記病名データとを関連付けた第2の辞書テーブルとを記憶する記憶手段と,
前記病名データに基づいて,前記記憶手段の第1の辞書テーブルで対応するICDコードがある場合にはICDコードを付与し,ICDコードがない場合には,前記記憶手段の第2の辞書テーブルで対応する病名データに変換した後,ICDコードを付与する制御手段と,
を備えたことを特徴とするICDコード付与装置。」
(以上「本件補正後発明」という。)
(2)補正事項について。
前記(1)によれば,請求項1に係る本件補正は,本件補正前発明の「記憶手段」に「病名データとICDコードとを関連付け」て記憶したものを,本件補正後発明の「記憶手段」に「病名データとICDコードとを関連付けた第1の辞書テーブル」として記憶し,本件補正前発明の「記憶手段」に「病名データに,ICDコードに対応していない一般使用名称が含まれる場合,ICDコードに対応する病名のうち,病名データに相当する病名を関連付け」て記憶したものを,本件補正後発明の「記憶手段」に「ICDコードに対応していない一般使用名称と,一般使用名称に対応する病名データとを関連付けた第2の辞書テーブル」として記憶するよう補正(以下「補正事項A」という。)し,これにあわせて,本件補正前の「記憶手段で対応するICDコードがある場合」との事項を,本件補正後の「記憶手段の第1の辞書テーブルで対応するICDコードがある場合」との事項とし,本件補正前の「ICDコードがない場合には,記憶手段で対応する病名データに変換した後」との事項を,本件補正後の「ICDコードがない場合には,記憶手段の第2の辞書テーブルで対応する病名データに変換した後」との事項と補正(以下「補正事項B」という。)するものである。
(3)補正事項A,Bの補正の適否について。
(ア)補正事項A,Bは,つまり,「病名データとICDコード」とが「第1の辞書テーブル」で関連付けされるよう特定し,「一般使用名称に対応する病名データ」が「第2の辞書テーブル」で関連付けされるよう特定するものであるから,発明を特定するために必要な事項を限定的に減縮するものである。
(イ)したがって,補正事項A及び補正事項Bを含む本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものである。

3.独立特許要件について。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

4.引用例について。
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された「特開2002-366648号公報」(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の(ア)?(エ)の事項が記載されている。(以下「引用例1摘記事項」という。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,表記に揺らぎのある文字列をコード管理する際に,文字列を標準的な文字列に収束させてコード化を容易にする技術,特に保険者や審査支払機関が,医療機関の発行した診療報酬明細書に記載された傷病名をコード化して統計処理を行うレセプト処理システムに関する。
【0002】
【従来の技術】健康保険組合等の保険者は,効果的な保険事業展開等の目的で疾病動向の統計処理等を行うために各医療機関より発行された診療報酬明細書(以下,レセプトと言う)の傷病名欄に記載されている病名を用いて集計を行っている。従来これらの作業は,レセプトに記載された傷病名を知識・経験のある作業者が読み取り,対応する傷病コードを手作業で変換,集計していたが,保険者によっては月に数十万?数百万件ものレセプトが届くため,毎月の集計を行うには時間的にもコスト的にも負担が重く,機械化されることが望まれている。従来の技術によってこの傷病名読み取りの機械化を実現するには,たとえばOCR装置(文字読取装置)により傷病名欄を文字認識した文字列と,標準的な傷病名およびその傷病コードが蓄積された記録媒体である傷病名マスタを照合して該当傷病名をコード化する方法がある。しかしレセプトの傷病名欄は医師や,医療機関がより的確に記載するために補足事項を書き加えたり,標準的な病名ではないが慣用的に用いられている病名を記載したり,仮名遣いが異なるなど,表記上のばらつきがあり,レセプト記載傷病名と傷病名マスタとを照合して傷病コードを得ることは必ずしも容易ではない。そのため,病名マスタとは別にユーザ登録辞書を設け,検出されなかったレセプト記載傷病名はその傷病名と対応する傷病コードを登録しておく必要がある。しかし未知のレセプト記載傷病名が発見されるたびに,ユーザ辞書に登録するのは大変な労力であり,中にはユーザにとって必ずしも重要ではない情報が付加された文字列であることによって傷病名マスタと完全に一致しない場合も多々ある。そこで,傷病名における様々な異表記を標準的な表記に自動変換し,未知のレセプト記載傷病名が検出された場合,それがユーザにとって目視確認の必要性があるのかどうか前もって見当がつけられる手段が提供できれば,作業効率は各段に向上する。」
(イ)「【0005】
【発明の実施の形態】以下にレセプト記載傷病コード化処理の実施を支援する一実施形態のレセプト処理システムについて説明する。
(実施例1)図1は本実施形態の基本構成図で,コンピュータ装置1に記録媒体に本発明によるプログラムが格納されている。図示されていないOCR装置,パンチ入力,あるいはフロッピー(登録商標)ディスクなどの外部記録媒体や他のコンピュータ装置とのネットワーク接続などを介して供給されるレセプト記載傷病名データ2はコンピュータ装置1内における処理の結果,適切な傷病コードの形でレセプト情報データベース3に格納,蓄積される。あるいは処理結果はプリンタによって帳票上に出力されてもよい。コンピュータ装置1はプログラムとして文字列変換手段4,傷病名マスタ照合手段7,傷病名マスタ前処理手段8,傷病名生成手段10,修飾語マスタ照合手段11,照合結果評価修正手段14,文字列変換マスタ編集手段15,記録領域として文字列変換マスタ5,照合テーブル6,傷病名マスタ9,修飾語マスタ12,照合結果保存領域13から構成され,処理結果を操作者が管理,修正するための周辺機器としてディスプレイ等の表示手段16とキーボード,マウス等の入力手段17を備える。図2を用いて本実施形態の大まかな動作について説明する。レセプト記載傷病名データ2より取得されたレセプト記載傷病名は,まず文字列変換手段4によって文字列変換マスタ5に格納されている変換対象文字列が検索され,検出された場合は変換後文字列に変換される。このとき変換対象となるのはレセプト記載傷病名文字列全体とは限らず,その一部分でもよい。例えば「皮膚」という語句はレセプト上慣用的に「皮フ」という異表記で記されることがある。そのため,文字列変換マスタ5上に変換対象文字列「皮フ」は変換後文字列「皮膚」に置換することを定義しておけば,「接触性皮フ炎」というレセプト記載傷病名を「接触性皮膚炎」というマスタ傷病名に変換することができる。レセプト記載傷病名は文字列変換手段4によって変換処理された後,照合テーブル6に格納される。次に傷病名マスタ照合手段7によって傷病名マスタ9に格納されているマスタ傷病名が検索され,検出された場合は照合テーブル6に検出されたマスタ傷病名(以下,検出傷病名という),およびその傷病コードが格納される。
(途中略)
図3は本実施形態の文字列変換マスタ5の具体例を示す図である。文字列変換マスタ5には変換対象文字列とそれに対応する変換後文字列が格納されている。文字列変換マスタ5はレセプトに記載される傷病名の様々な表記揺らぎを傷病名マスタ9に記載されているマスタ傷病名の表記に収束させる目的で設置されているので,格納される変換対象文字列,変換後文字列としてはレセプト記載傷病名においてよく見受けられる異表記,例えばひらがな/カタカナ/漢字表記の違い(「びらん」,「ビラン」,「糜爛」),異表記漢字(「頸」と「頚」),長音記号の有無(「カタール」と「カタル」)などを登録しておく。文字列変換手段4では,レセプト記載傷病名文字列のうち,その対象文字列部分だけが変換され,傷病名マスタ9と照合される。したがって前述したユーザ辞書を用いた照合方法と違い,異表記文字列の含まれているすべての傷病名をユーザ辞書に登録するような手間は必要なく,異表記文字列部分のみを文字列変換マスタ5に登録しておくだけで同等の効果が得られる。そのためユーザによるマスタのメンテナンスは容易になり,登録漏れの危険性も大幅に低減できる。図4は本実施形態の傷病名マスタ9の具体例を示す図である。傷病名マスタ9にはマスタ傷病名とそれに対応する傷病コードが格納されているが,本実施形態ではICD?10コードという英文字と3桁の数字で構成されるコードと,4桁の数字で構成される中分類コードが併記されている。
(以下略)」
(ウ)文字列変換マスタ5の具体例である図3には,以下のことが記載されている。
+?????+???????+????????+
|管理番号 |変換対象文字列|変換後文字列 |
+?????+???????+????????+
|00001|糜爛 |びらん |
|00002|ウィルス |ウイルス |
| ・ | ・ | ・ |
| ・ | ・ | ・ |
+?????+???????+????????+
(エ)傷病名マスタ9の具体例である図4には,以下のことが記載されている。
+??????+????????+?????????+??????+
|管理番号 |マスタ傷病名 |ICD-10コード|中分類コード|
+??????+????????+?????????+??????+
|000001|足白癬 | B353 | 0107 |
|000002|アレルギー性鼻炎| J304 | 1006 |
|000003|近視性乱視 | H522 | 0703 |
| ・ | ・ | ・ | ・ |
| ・ | ・ | ・ | ・ |
+??????+????????+?????????+??????+

上記摘記事項(ア)(イ)の各引用例1摘記事項及び図4,図5の記載を参照すれば,引用例1には以下の発明が記載されている。
(以下「引用発明」という。)
「医師などが慣用的に用いる病名など,表記に揺らぎのある文字列をコード管理する際に,文字列を標準的な文字列に収束させてコード化を容易にするものであって,
コンピュータ装置1は,記録領域として文字列変換マスタ5,傷病名マスタ9から構成され,
レセプト記載傷病名データ2より取得されたレセプト記載傷病名が,文字列変換手段4によって文字列変換マスタ5に格納されている変換対象文字列が検索されて検出された場合は変換後文字列に変換され,
例えば,文字列変換マスタ5上に変換対象文字列「皮フ」は変換後文字列「皮膚」に置換することを定義し,
レセプト記載傷病名は文字列変換手段4によって変換処理された後,照合テーブル6に格納され,傷病名マスタ照合手段7によって傷病名マスタ9に格納されているマスタ傷病名が検索され,検出された場合は照合テーブル6に検出されたマスタ傷病名およびその傷病コードが格納されるものであり,
文字列変換マスタ5には変換対象文字列とそれに対応する変換後文字列が格納されており,文字列変換マスタ5はレセプトに記載される傷病名の様々な表記揺らぎを傷病名マスタ9に記載されているマスタ傷病名の表記に収束させる目的で設置されており,格納される変換対象文字列,変換後文字列として「びらん」と「糜爛」が変換されるものであって,変換対象文字列が「糜爛」であって,変換後文字列が「びらん」であり,傷病名マスタ9にはマスタ傷病名とそれに対応する傷病コードが格納され,本実施形態ではICD?10コードという英文字と3桁の数字で構成されるコードであるもの。」

5.対比。
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「ICD-10コード」である「傷病コード」は,本件補正発明の「ICDコード」に相当する。
(イ)引用発明の「傷病名マスタ9」に格納される「マスタ傷病名」は,「ICD-10コード」である「傷病コード」に対応する傷病名であるから,本件補正発明の「病名データ」に相当する。
(ウ)上記(ア)(イ)のことから,引用発明の,「マスタ傷病名」と「ICD-10コード」とからなる「傷病名マスタ9」は,後記する点で相違するものの,本件補正発明の,「第1の辞書テーブル」に相当する。
(エ)引用発明の,「変換対処文字列」である,「皮フ」や「糜爛」は,「文字列変換マスタ5」で,対応する「皮膚」や「びらん」という「変換後文字列」に変換される。
引用発明の,「文字列変換マスタ5」は,この「変換対象文字列」とそれに対応する「変換後文字列」が対応して格納され,傷病名の様々な表記揺らぎを傷病名マスタ9に記載されているマスタ傷病名の表記,つまりICD-10コードに対応する傷病名に収束させる目的で設置されるものである。
してみると,引用発明の「変換対処文字列」と,本件補正発明の「一般使用名称」とは,「ICDコードに対応しない病名」(以下「ICD非対応病名」という。)である点で共通する。
(オ)上記(エ)のことから,引用発明の「文字列変換マスタ5」は,後記する点で相違するものの,本件補正発明の「第2の辞書テーブル」に相当する。
(カ)ここで,引用発明の「傷病名マスタ9」や「文字列変換マスタ5」は, コンピュータ装置1の,「記録領域」に記録される。
してみると,引用発明と本件補正発明とは,後記する点で相違するものの,「病名データとICDコードとを関連付けた第1の辞書テーブルと,ICD非対応病名と,ICD非対応病名と対応する病名データとを関連付けた第2の辞書テーブルとを記憶する記憶手段」を有する点で共通する。
(キ)引用発明は,レセプト記載傷病名データ2より取得されたレセプト記載傷病名が,文字列変換手段4によって文字列変換マスタ5に格納されている変換対象文字列が検索されて検出された場合は変換後文字列に変換され,レセプト記載傷病名は文字列変換手段4によって変換処理された後,照合テーブル6に格納され,傷病名マスタ照合手段7によって傷病名マスタ9に格納されているマスタ傷病名が検索され,検出された場合は照合テーブル6に検出されたマスタ傷病名およびその傷病コードが格納されるものである。
してみると,引用発明と本件補正発明とは,後記する点で相違するものの,「病名データに基づいて,記憶手段の第1の辞書テーブルで対応するICDコードがある場合にはICDコードを付与」し,ICD非対応病名は,「記憶手段の第2の辞書テーブルで対応する病名データに変換」し,「ICDコードを付与」する「制御手段」を有する点で共通する。
(ク)以上(ア)?(キ)のことから,引用発明と本件補正発明とは,後記する点で相違するものの,「病名データに基づいてICDコードを割り当てるICDコード付与装置」である点で共通する。
してみると,引用発明と本件補正発明とは,後記する点で相違するものの,
[一致点]
「病名データに基づいてICDコードを割り当てるICDコード付与装置において,
病名データとICDコードとを関連付けた第1の辞書テーブルと,ICD非対応病名と,ICD非対応病名と対応する病名データとを関連付けた第2の辞書テーブルとを記憶する記憶手段と,
病名データに基づいて,記憶手段の第1の辞書テーブルで対応するICDコードがある場合にはICDコードを付与し,ICD非対応病名は,記憶手段の第2の辞書テーブルで対応する病名データに変換し,ICDコードを付与する制御手段と,
を備えたことを特徴とするICDコード付与装置。」
の点で一致し,次の点で相違する。
[相違点1]
本件補正発明が,「ICDコードに対応していない一般使用名称と,一般使用名称に対応する病名データとを関連付けた第2の辞書テーブル」からなるのに対して,引用発明は,「ICD非対応病名と,ICD非対応病名と対応する病名データとを関連付けた第2の辞書テーブル」からなるにとどまる点。
つまり,本件補正発明の「第2の辞書テーブル」が,「はしか」や「五十肩」のような医師が一般的に使用する「一般使用名称」を,「ましん」や「肩関節周囲炎」というICDコードに対応する「病名データ」に変換することを想定しているのに対して,引用発明の「文字列変換マスタ5」は,「皮フ」や「糜爛」という,医師が診療時に記録した慣用的な病名を,対応する「皮膚」や「びらん」というICDコードに対応する「変換後文字列」に変換するにどとまる点。
[相違点2]
本件補正発明が,「病名データに基づいて,記憶手段の第1の辞書テーブルで対応するICDコードがある場合にはICDコードを付与し,ICDコードがない場合には,記憶手段の第2の辞書テーブルで対応する病名データに変換した後,ICDコードを付与する」のに対して,引用発明は,「傷病名が,文字列変換手段4によって文字列変換マスタ5に格納されている変換対象文字列が検索されて検出された場合は変換後文字列に変換され,照合テーブル6に格納され,傷病名マスタ照合手段7によって傷病名マスタ9に格納されているマスタ傷病名が検索され,検出された場合は照合テーブル6に検出されたマスタ傷病名およびその傷病コードが格納する」ものである点。
つまり,本件補正発明では,「第1の辞書テーブル」で対応するコードがあるかどうかを判断し,なければ「第2の辞書テーブル」で変換するのに対して,引用発明では,まずICD非対応病名であるかどうかを判断すること,つまり「文字列変換マスタ5」で変換の要否が判断され,変換が必要な場合には変換したのちに「傷病名マスタ9」で照合される点。

6.当審の判断。
[相違点1]について。
診療時に医師などが記録する病名が,ICD-10の病名に統一されていないこと,医師が記録する病名のいずれが正しいとも言えないことから,診療時に記録された病名を変換することが必要であることが知られている。(以下「周知の事項」という。)
例えば,原査定の拒絶理由で引用された,「大江和彦,医療の標準化の現状,医療とコンピュータ,株式会社日本電子出版,2000年12月20日,第11巻 第12号,p.3-8」には,以下の(ア)(イ)のことが記載されている。
(ア)「標準病名マスター(ICD-10準拠版)は,1998年に(財)医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)からリリースされた日本語の病名集である。ICD10準拠とあるように,ICD-10の分類カテゴリー名称のすべてと,これまでいろいろな病院で使用されてきた種々雑多な病名用語,および後述の標準傷病名集の用語を併合した,約3000語近い病名用語集である。(途中略)この病名マスターの最大の課題は,同一の病態概念を表現している複数の見出し語が多数収載されておりそれらが同一の病態概念であることがわからないことである。」
(5ページ左欄21行?同ページ右欄15行)
(イ)「概念交換用の表記は,マスターに採択される概念の表記であり,マスターの見出し語表記(いわゆるリードターム)である。しかし,臨床上使用する場合には,全く同義で別の表記も使用することがあり,どちらか一方の表記だけの使用を強制することは難しい。一方,コンピュータシステム間での情報交換時にはやりとりされる文字列としては一方だけとする方がデータ処理上便利であるから,システム間での交換時には概念交換用表記に変換することが必要である。そこでこのような概念では,一方を概念交換用表記とし,もう一方を互換表記とし,どちらを使用しても構わないこととするのがよいと考えられる。そして概念のリードタームは,慨念交換用表記とする。
実例:感冒とかぜ(どちらも医学会用語の見出し語)
かぜを情報交換用表記とし,感冒を互換表記とする(根拠はない)」
(6ページ右欄下から11行?7ページ左欄4行)
してみると,引用発明の,医師などが慣用的に用いる病名など,表記に揺らぎのある文字列をコード管理する際,周知の事項を適用することにより,例えば「感冒」と「かぜ」のいずれの表記であってもICDコードに収束させるよう構成することには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。
つまり,引用発明に周知の事項を適用することにより,「文字列変換マスタ5」を,「はしか」や「五十肩」のような医師が一般的に使用する「一般使用名称」を,「ましん」や「肩関節周囲炎」というICDコードに対応する「病名データ」に変換する「第2の辞書テーブル」とすること,これにより「ICDコードに対応していない一般使用名称と,一般使用名称に対応する病名データとを関連付けた第2の辞書テーブル」とし,もって[相違点1]に係る発明の構成とすることには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。

[相違点2]について。
本件補正発明の「第2の辞書テーブル」や引用発明の「文字列変換マスタ5」は,ICDコードの病名へ変換するための「非対応テーブル」であり,本件補正発明の「第1の辞書テーブル」や引用発明の「傷病名マスタ9」はICDコードに変換するための「対応テーブル」である。
このように,所定の文字列をテーブルで所定のコードに変換する際,まず対応テーブルでコードに変換し,対応しないものは非対応テーブルで対応するよう変換し,しかるのちに対応テーブルで変換すること,又は,まず非対応テーブルで対応しないものは対応するよう変換し,しかるのちに対応テーブルで変換すること,このいずれとするかは,必要性に応じて当業者が適宜選択しうる設計的事項である。(以下「設計的事項」という。)
してみると,引用発明では,まず「文字列変換マスタ5」で変換の要否を判断し,変換が必要なものは変換したのちに「傷病名マスタ9」で照合すること,つまり,まず「非対応テーブル」で対応しないものを対応するよう変換し,しかるのちに「対応テーブル」で変換するところ,これを,まず「対応テーブル」でコードに変換し,対応しないものを「非対応テーブル」で対応するよう変換して対応テーブルで変換するよう構成すること,つまり,「第1の辞書テーブル」で対応するコードがあるかどうかを判断し,なければ「第2の辞書テーブル」で変換してから対応するコードに変換するよう構成することは,当業者が適宜なし得る設計的事項である。
してみると,引用発明に設計的事項を適用することにより,「病名データに基づいて,記憶手段の第1の辞書テーブルで対応するICDコードがある場合にはICDコードを付与し,ICDコードがない場合には,記憶手段の第2の辞書テーブルで対応する病名データに変換した後,ICDコードを付与する」よう構成し,もって[相違点2]に係る発明の構成とすることには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。

以上のとおり,相違点1,2に係る本件補正発明の構成は,引用発明,周知の事項及び設計的事項から当業者が容易に想到することができたものである。
そして,本件補正発明1の作用効果も,引用発明,周知の事項及び設計的事項から当業者が予測できる範囲のものである。

7.審判請求人の主張について。
(ア)審判請求人の主張の概要は,以下のとおりである。
「本発明では,傷病名が一般使用名称で記載され,ICDコードと紐付けられている傷病名とが全く相違する場合を想定して対応可能としているのに対し,引用文献1では,傷病名の一部に違いがある場合に文字列変換マスタ5で標準的な表記に変換しているだけである点で相違します(相違点1)。
また,本発明では,病名データとICDコードとを関連付けた第1の辞書テーブルと,ICDコードに対応していない一般使用名称が含まれる場合,ICDコードに対応する病名のうち,前記病名データに相当する病名を関連付けた第2の辞書テーブルとを記憶しているのに対し,引用文献1及び2では単一のマスタで管理している点で相違します(相違点2)。
相違点1について(略)
相違点2について(略)
このように,本発明は,前記引用文献1及び2のいずれにも開示及び示唆のない第2の辞書テーブルを備え,「完全不一致」となる傷病名であっても,適切にICDコードを付与することができ,後のレセプト監査等であっても,入力された傷病名と,レセプト請求時の傷病名との対応関係を明確にすることが可能となるという,前記引用文献1及び2のいずれにも開示及び示唆のない構成を備え,格別の効果を奏します。
したがって,前記引用文献1及び2の記載事項に基づいて本発明を想到することは,たとえ当業者であったとしても不可能であると思量します。」
(イ)審判請求人の主張はつまり,第一に,引用発明は傷病名の一部に違いがある場合に文字列変換マスタ5で標準的な表記に変換しているだけであるのに対して,本件補正発明では,傷病名が一般使用名称で記載され,ICDコードと紐付けられている傷病名とが全く相違する場合を想定して対応可能である点,第二に,引用発明は単一のマスタで管理しているのに対して,本件補正発明では,ICDコードに対応していない一般使用名称が含まれる場合,ICDコードに対応する病名のうち,病名データに相当する病名を関連付けた第2の辞書テーブルとを記憶している点で相違しているというものである。
(ウ)しかし,引用発明の「傷病名マスタ9」を本件補正発明の「第1の辞書テーブル」に対応させ,引用発明の,「文字列変換マスタ5」を本件補正発明の「第2の辞書テーブル」に対応させた場合の一致点と相違点とは,前記「5.対比。」の「[一致点]」と「[相違点1][相違点2]」のとおりであり,これら相違点が当業者想到容易であったことは,前記「6.当審の判断。」のとおりであることから,審判請求人の上記主張を採用することはできない。

以上のとおり,本件補正発明は,引用発明,周知の事項及び設計的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

8.本件補正についてのむすび。
本件補正は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明について。
平成24年7月24日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成24年1月4日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,前記「第2」の「2.(1)」の「本件補正前発明」である,以下の記載のとおりのものである。
(以下,「本願発明」という。)
「病名データに基づいてICDコードを割り当てるICDコード付与装置において,
病名データとICDコードとを関連付けて記憶すると共に,前記病名データに,ICDコードに対応していない一般使用名称が含まれる場合,ICDコードに対応する病名のうち,前記病名データに相当する病名を関連付けて記憶する記憶手段と,
前記病名データに基づいて,前記記憶手段で対応するICDコードがある場合にはICDコードを付与し,ICDコードがない場合には,前記記憶手段で対応する病名データに変換した後,ICDコードを付与する制御手段とを備えたことを特徴とするICDコード付与装置。」

2.原査定の拒絶の理由について。
原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
[拒絶理由]
「B.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
請求項1
引用文献1-2
備考:
(途中略)
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2002-366648号公報
2.大江和彦,医療の標準化の現状,医療とコンピュータ,株式会社日本電子出版,
2000年12月20日,第11巻 第12号,p.3-8」
[拒絶査定]
「この出願については,平成23年10月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由Bによって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
(理由B)(以下略)」

3.引用例について。
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-366648号公報(以下「引用例1」という。)には,前記「第2」の「4.(1)」で摘記した各事項が記載されており,引用発明は,前記「第2」の「4.(1)」の「引用発明」のとおりである。

4.対比・判断。
本願発明は,本件補正発明から,前記「第2」の「2.(3)」の「補正事項A」及び「補正事項B」の各補正事項を除いたもの,つまり,「病名データとICDコード」とを「第1の辞書テーブル」で関連付けするよう特定する補正事項と,「一般使用名称に対応する病名データ」を「第2の辞書テーブル」で関連付けするよう特定する補正事項とをはぶいたものに相当する。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに限定的に減縮したものに相当する本件補正発明が前記「第2」の「5.対比。」と「6.当審の判断。」に記載したとおり,引用発明,周知の事項,及び設計的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明,周知の事項,及び設計的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび。
以上のとおり,本願発明は,引用発明,周知の事項,及び設計的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-25 
結審通知日 2013-07-30 
審決日 2013-08-19 
出願番号 特願2009-237385(P2009-237385)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 誠也  
特許庁審判長 清田 健一
特許庁審判官 手島 聖治
石川 正二
発明の名称 ICDコード付与装置及び処方チェック装置  
代理人 田中 光雄  
代理人 前田 厚司  
代理人 山崎 宏  

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