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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61F
管理番号 1279904
審判番号 不服2010-21688  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-27 
確定日 2013-10-02 
事件の表示 特願2003-550830「人工補装器具用の現場酸化テクスチャ加工表面およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年6月19日国際公開、WO03/49781、平成17年12月22日国内公表、特表2005-538745〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成14年12月6日(パリ条約による優先権主張 2001年12月6日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年5月19日付けで拒絶査定がなされた。本件は、同査定を不服として同年9月27日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、当該請求と同時に特許請求の範囲についての手続補正がなされた。
その後、当審において、上記平成22年9月27日付け手続補正の却下の決定とともに拒絶の理由を通知したところ、平成24年5月22日付けで手続補正がなされた。
当該手続補正後、新たに発見された拒絶の理由を同年9月11日付けで通知したところ、平成25年3月18日付けで意見書が提出された。

2 本願発明
平成24年5月22日付け手続補正書による補正は、いわゆる新規事項を含まない適法な補正であるから、本願の請求項1ないし37に係る発明は、当該補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし37に記載されたとおりの発明であるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「金属基板の表面の少なくとも一部のテクスチャをRmax>0.4mmの粗さまで改質し;そして
金属基板の改質された表面の少なくとも一部を酸化して、該金属基板に拡散硬化表面を形成する工程を含み、
金属基板の表面が、ジルコニウム合金であり、
ジルコニウム合金が、2.5?2.8重量%のニオブを含有するジルコニウムである、移植用人工補装器具の金属基板に改質表面を製造する方法。」

3 引用例
上記本願発明について、平成24年9月11日付けで通知した拒絶理由において提示した、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物、及び、その記載事項は以下のとおりである。
(1)特表2001-518827号公報(以下「引用例1」という。)
(1a)公報第2頁第2?12行
「1.改質された微細構造と表面粗さとをそれぞれが有するジルコニウムあるいはジルコニウム合金への酸化物被膜形成方法であって、
改質された微細構造と改善された表面粗さとをそれぞれが有する前記ジルコニウムあるいは前記ジルコニウム合金に適用された酸化過程で均一厚さの酸化物被膜が形成されるような改質微細構造を有する前記ジルコニウムあるいは前記ジルコニウム合金の表面粗さを改善する過程を備えている酸化物被膜形成方法。
2.改質された微細構造と表面粗さとをそれぞれが有するジルコニウムあるいはジルコニウム合金への均一厚さの酸化物被膜形成方法であって、
前記のジルコニウムあるいはジルコニウム合金を酸化過程に置くのに先立って、改善された表面粗さ(Ra)が約3マイクロインチ?約25マイクロインチの範囲にあるように表面粗さを改善する過程を備えている酸化物被膜形成方法。」
(1b)公報第5頁第25行?第6頁第15行
「27.(a)ジルコニウムあるいはジルコニウム合金から形成され、患者の身体組織へ挿入するためのインプラント部を備えている補綴本体、
(b)この補綴本体に設けられた軸受面、
(c)有機ポリマーあるいはポリマー基混合物から構成されてその軸受面と協働するように適合された対向軸受面、及び
(d)有機ポリマーあるいはポリマー基混合物からなる対向軸受面の磨耗を減らすために請求項1または2の方法によってその軸受面に直接調製された、均一厚さの濃い藍色または黒色の酸化ジルコニウムの薄い被膜を備えてなる、患者に移植するための補綴。
28.均一厚さの濃い藍色または黒色の酸化ジルコニウムの薄い被膜が、請求項1または2の方法によって形成された約10ミクロンまでの厚さである請求項27に記載の補綴。
29.補綴本体のインプラント部分が、その補綴本体の一部に組織の内植を受け入れるように適合された不規則表面構造をさらに備えている請求項28に記載の補綴。
30.不規則表面構造が、補綴本体の外面に取り付けられたジルコニウムあるいはジルコニウム合金のビーズから構成され、このビーズの表面の少なくとも一部が請求項1または2の方法によって均一厚さの濃い藍色または黒色の酸化ジルコニウムに酸化されている請求項29に記載の補綴。」
(1c)公報第12頁第13?18行
「低い摩擦抵抗と高い耐磨耗性とを示す荷重支持面を備え、受容体の寿命を延ばすために移植することのできる金属合金基の整形外科用インプラントが必要である。また、体液の作用によって腐食するおそれがなくかつ受容体の寿命期間にわたって生体適合性と安定性とがある金属合金基の整形外科用インプラントが必要である。」
(1d)公報第13頁第7?12行
「この発明の1つの観点は、改質された微細構造と改善された表面粗さとを有するジルコニウムあるいはジルコニウム合金に均一な厚さの酸化物被膜を形成する方法を提供することである。この発明の別の観点は、補綴本体の一部に組織の内植を許容するように適合された、関節状につながる表面や不規則表面構造などの補綴表面に厚さが均一で摩擦抵抗の低い耐磨耗性酸化物被膜を提供することである。」
(1e)公報第13頁第24行?第14頁第2行
「代表的な股関節アセンブリーは、図1で元の位置に示されている。図1に示すように、補綴の大腿骨頭6が骨盤に順番に取り付けられる寛骨臼カップ10の内側ライニング8に嵌まり込みかつ内側ライニング8に関節状につながるときに、股関節ステム2は大腿骨に嵌まり込む。多孔性の金属ビーズすなわち金網被覆部12が、その多孔性被覆部への周囲組織の内植でインプラントを安定化させるために、組み込まれてもよい。同様に、そのような多孔性の金属ビーズすなわち金網被覆部を寛骨臼構成要素にも使うことができる。」
(1f)公報第15頁第6行?第17頁第5行
「この発明によれば、ジルコニウムあるいはジルコニウム含有金属合金から構成された、厚い酸化ジルコニウムで均一に被覆された成形外科用インプラントあるいは補綴がもたらされ、あるいは、従来の成形外科用インプラント材料の上にジルコニウムあるいはジルコニウム合金の薄い被膜がもたらされる。金属合金製補綴基板の所望表面にわたって均一厚さで切れ目がなく有用な酸化ジルコニウム被膜を形成するためには、その金属合金は、約80?約100重量%の、好ましくは約95?約100重量%のジルコニウムを含んでいる必要がある。酸素、ニオブ及びチタンは、ハフニウムが存在することの多い合金の中における一般的な合金元素である。合金の酸化の間にいっそう強靭でイットリウムにより安定化された酸化ジルコニウム被膜の形成を促進するために、ジルコニウムとともにイットリウムもまた合金することができる。このようなジルコニウム含有合金は金属学の分野で知られた従来の方法によって注文製造することができるが、適切な多数の合金が入手可能である。これらの商業的合金としてはとりわけ、ジルカダイン705、ジルカダイン702及びジルカロイがある。
基礎となるジルコニウム含有金属合金は、補綴基板を得るために、従来の方法によって所望の形状及び寸法に構成される。…(中略)…
基板のジルコニウムあるいはジルコニウム合金はその後、研磨、バフ研磨、質量仕上げおよび振動仕上げを含む磨耗表面調整処理法を受ける…(中略)…
基板は次いで、しっかりと付着した均一で厚い酸化ジルコニウムの拡散結合型被膜をその表面に自然(自然位に)形成させる処理状態に置かれる。この処理状態には例えば、空気、蒸気あるいは水による酸化または塩浴中での酸化が含まれる。これらの処理により、理論的には、薄くて、硬く、緻密で、濃い藍色または黒色であって、低摩擦抵抗性、耐磨耗性の、均一な厚さの酸化ジルコニウムの被膜がもたらされるが、その被膜の一般的な厚さは、補綴の基板の表面における数ミクロンのオーダーのものである。このような被膜の下で、酸化過程からの拡散した酸素により、下の基板金属の硬度及び強度が増大している。
空気、蒸気及び水による酸化過程は、まもなく期間が満了する、ワットソンに付与された米国特許第2,987,352号の公報で説明されている。改質された微細構造と適度に改善された表面粗さとをそれぞれが有するジルコニウムあるいはジルコニウム合金に適用した酸化過程により、大きく配向した単斜晶結晶の形態をとる、均一に厚い酸化ジルコニウムの、しっかり付着した黒色または濃い藍色の層がもたらされる。もしも、このような酸化が過剰に続くと、その被膜は白くなって金属基板からから分離するであろう。金属製補綴基板は、酸素含有雰囲気(空気などの)を有する炉の中に配置されて、一般的には900°?1300°Fで約6時間まで加熱される。しかしながら、温度及び時間の他の組み合わせは可能である。温度が高くなると、白い酸化物の形成を防止するために酸化時間を減らすべきである。」
(1g)公報第18頁第18?26行
「従来のいくつかの方法で作られた濃い藍色の酸化ジルコニウム被膜はどれも、まったく同様の硬度を有している。例えば、もしも、鍛造されたジルカダイン705(Zr,2?3重量%のNb)からなる補綴の基板が酸化されると、その表面の硬度は、元の金属表面のヌープ硬度200を超えて劇的に増大する。塩浴あるいは空気酸化法による酸化の後の、濃い藍色の酸化ジルコニウム面の表面硬度は、ヌープ硬度でほぼ1200?ほぼ1700である。
これらの、拡散結合した、低摩擦抵抗性で、高耐磨耗性の、均一に厚い酸化ジルコニウム被膜は、磨耗状態と補綴インプラントに置かれた成形外科用インプラントの表面と、生体適合性の表面が必要な装置とに適用することができる。」
(1h)公報第19頁第12?15行
「ジルコニウムあるいはジルコニウム合金は、補綴を安定化するために周囲の骨あるいは他の組織が一体化することのできる多孔性ビーズすなわち金網面をもたらすためにも使用することができる。多孔性被膜は同時に、金属イオンの放出をなくしあるいは減らすために基礎補綴の酸化によって処理することができる。」

以上の記載事項から、引用例1には、上記(1d)に記載されている「別の観点」に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ジルコニウム合金から構成された補綴を安定化するため、周囲の骨あるいは他の組織と一体化することができるよう、前記補綴の外面にジルコニウム合金のビーズから構成される不規則表面構造を取り付け;そして
金属イオンの放出をなくしあるいは減らすため、前記不規則表面構造の表面を含む補綴を酸化処理して拡散結合型被膜を形成する工程を含む、
ジルコニウム合金から構成された補綴の外面に、ジルコニウム合金のビーズから構成された不規則表面構造を取り付け、その表面を酸化する方法。」

(2)特開昭63-160646号公報(以下「引用例2」という。)
(2a)特許請求の範囲の欄
「(1)金属材料の少なくとも精密鋳造法により形成された粗表面と、この粗表面付近に形成された改質層とを有することを特徴とする金属質インプラント材。」
(2b)第1頁左下欄第10?14行
「<産業上の利用分野>
本発明は、整形外科用の種々の関節、椎体・椎間板等や、歯科用の人工歯根、人工歯、歯冠、義床等に利用される金属質インプラント材に関する。」
(2c)第1頁右下欄第8行?第2頁左上欄第20行
「人工骨、人工関節や、人工歯根等に要求される特性のうち現在の最も重要な問題点は、骨への固定方法である。…(中略)…
従来から行なわれているインプラント材の骨への固定方法としては、ボーン・セメント(骨セメント)と呼ばれる、ポリメチルメタクリレートのポリマーの粉末とモノマーの液体で混ぜ合せ、重合・硬化させる方法であるが、この方法ではインプラント材と残存骨の間に新生骨が形成されるための空隙が得られない。
骨セメントを使用しない従来技術には平滑面を非平滑化して生体側の骨部との接続性をあげる下記の技術があるが、それぞれ問題点がある。機械的性質(特に耐摩耗性)、耐食性、生体適合性、骨親和性などを同時に満足する金属質インプラント材は現在得られていない。
1)…(中略)…
2)生体側の骨部に接続される部分に粒状粉(ビーズ)やメタルファイバーを焼結する方法。
十分な接合強度が得られにくい。また焼結部の切欠効果による耐疲労性が劣化する。」
(2d)第2頁右上欄第7?13行
「<発明の目的>
本発明の目的は、従来技術における欠点を解決し、機械的性質(とくに耐摩耗性、耐疲労性)、耐食性、セメントレス(セメントを使わない)による良好な骨成長性、皮膜の密着性を同時に満足する金属質インプラント材を提供しようとするにある。」
(2e)第2頁左下欄第8行?第3頁右上第8行
「粗面および改質層の形成方法は以下のように行う。
1) 粗面
金属表面を、必要に応じた程度に、精密鋳造により、特殊形状の凹凸を有する非平滑化処理面とする。
精密鋳造はロスト、ワックス法を用いるのが良い。これはろう型を使用してこれを砂型中に埋設し、鋳型を乾燥後ろうを溶解して外部に流出させて空洞を作り、その空洞に金属を注入する方法である。場合によっては精密鋳造後機械的加工法を補足手段として採るのも好ましい。
必要に応じた程度の特殊形状の凹凸とは、1例を挙げれば、100?500μの凸状パターンを表面に多数有する形状等であり、生体内への使用部位、使用形状等に応じて適切に決定する。
このようにして形成された粗面は、インプラントの使用部位によって下記の効果がある。
○1(当審注:丸の中に1を意味する。以下同様。)耐摩耗性改良のために生体潤滑液溜めとなる。とくに摺動面において効果が高い。
○2 100?500μの骨生長に適した特殊な凹凸パターンを設けることによりCaの沈着を促がし、骨成長性がよくなる。特にセメントレス化によりインプラントの残存骨に面した側に非平滑化処理(粗)面を設ける効果が高い。
2) 改質層
改質層は、下記のうちのいずれかの方法、あるいはこれらの組合せにより、粗面自身あるいは粗面の上部や粗面の上部から下部に渡って設けられる。
○1イオン注入
イオン種としては、C、N、O、B、P、S、Caなどの他に各種金属元素等を用いる。これらのイオン種をイオン打込み装置中に気体、液体、固体等の形で供給し、加速電圧をかけてイオン源とする。このイオン源からの各種イオンを磁場偏向等により1)の粗面に打込む。
これにより金属質インプラント材の強度、耐摩耗、耐疲労性、耐食性の向上を計る。
…(以下略)」
(2f)第5頁左下欄第1?6行
「<発明の効果>
本発明は、精密鋳造による粗面と、この粗面付近に形成された改質層とを有する金属質インプラント材であり、機械的性質、耐食性、骨生長性、密着性および耐為害性(生体適合性)が非常に優れている。」

以上の記載事項から、引用例2には、次の発明(以下「引用例2発明」という。)が記載されているといえる。
「金属材料の表面を少なくとも精密鋳造法により100?500μの凸状パターンを表面に多数有する形状を有する粗表面を形成する工程と、
前記粗表面に強度、耐摩耗、耐疲労性、耐食性の向上を計るための改質層を形成する工程とを含む、
機械的性質、耐食性、骨成長性、被膜の密着性及び生体適合性が非常に優れた金属質インプラント材を製造する方法。」

4 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)当業者の技術常識に照らすと、引用発明の「補綴」が、本願発明の「移植用人工補装器具」に相当することは明らかであるから、引用発明の「ジルコニウム合金から構成された補綴」が、本願発明の「金属基板」、及び、「移植用人工補装器具の金属基板」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、「金属基板の表面が、ジルコニウム合金」である点で一致することも明らかといえる。

(2)引用発明の「補綴を安定化するため、周囲の骨あるいは他の組織と一体化することができるよう、前記補綴の外面にジルコニウム合金のビーズから構成される不規則表面構造を取り付け」という事項と、本願発明の「金属基板の表面の少なくとも一部のテクスチャをRmax>0.4mmの粗さまで改質し」という事項を対比すると、引用発明の「ジルコニウム合金のビーズから構成される不規則表面構造を取り付け」ることを行えば、補綴外面の手ざわりや肌合いが改変される、すなわち、周囲の骨や組織と一体化して補綴を安定化するために「改質」されるといえるから、引用発明及び本願発明に係る上記の事項は、「金属基板の表面の少なくとも一部のテクスチャを改質」する点で一致する。

(3)次に、引用発明の「金属イオンの放出をなくしあるいは減らすため、前記不規則表面構造の表面を含む補綴を酸化処理して拡散結合型被膜を形成する工程」と、本願発明の「金属基板の改質された表面の少なくとも一部を酸化して、該金属基板に拡散硬化表面を形成する工程」を対比する。
引用発明の「拡散結合型被膜」は、「不規則表面構造の表面を含む補綴を酸化処理して」得られるものであって、前記「補綴」は、「ジルコニウム合金から構成される」ものであることに加えて、前記被膜は空気、蒸気あるいは水による酸化または塩浴中で酸化処理することによって得られる数ミクロンのオーダーの硬い、緻密な、濃い藍色または黒色の被膜であって、例えば、空気を有する炉の中で900°?1300°Fで約6時間まで加熱して得られるものである(上記3(1)(1f),(1g)参照)。
一方、本願発明の「酸化して、該金属基板に拡散硬化表面を形成する工程」について検討するに、本願の明細書の「【0061】…(中略)…次いで基板を、その表面上に、酸化物層の、強固に付着した拡散結合コーティングを自然に現場で形成させるプロセス条件に付す。プロセス条件としては、例えば空気、水蒸気もしくは水による酸化または塩浴内での酸化を含む。ジル
コニウムおよびジルコニウム合金については、これらのプロセスは、厚さが一般に数ミクロン(10^(-6) m)程度の、薄くて硬質で緻密な濃い藍色または黒色の低摩擦で耐摩耗性である酸化ジルコニウムの薄膜またはコーティングを理想的に提供する。…(以下略)」、「【0062】…(中略)…この酸化工程は、空気、水蒸気または熱水中で実施できる。便宜上、人工補装器具の金属基板は酸素含有雰囲気(空気のような)を有する炉内に入れ、一般に700?1100゜Fで約6時間まで加熱する。…(以下略)」等の記載からして、本願発明の「拡散硬化表面」は、引用発明と同様な処理条件で得られる同様な酸化膜であるといえるから、引用発明の「拡散結合型被膜」は、本願発明の「拡散硬化表面」に相当するといえる。
また、本願発明の「酸化」は、人工補装器具全体を酸化雰囲気中に配置して行われるものであるから、本願発明の「拡散硬化表面」は、金属基板の改質された表面を含む人工補装器具全体について形成されるものであるといえる。
したがって、引用発明及び本願発明に係る上記の工程は、「金属基板の改質された表面の少なくとも一部を酸化して、該金属基板に拡散硬化表面を形成する工程」である点で一致するといえる。

(4)以上から、本願発明と引用発明は、
「金属基板の表面の少なくとも一部のテクスチャを改質し;そして
金属基板の改質された表面の少なくとも一部を酸化して、該金属基板に拡散硬化表面を形成する工程を含み、
金属基板の表面が、ジルコニウム合金であり、
移植用人工補装器具の金属基板に改質表面を製造する方法。」の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
金属基板の表面のテクスチャの改質が、本願発明は、「表面の少なくとも一部のテクスチャをRmax>0.4mmの粗さまで改質し」たものであるのに対して、引用発明は、補綴(移植用人工補装器具)の外面に、ジルコニウム合金のビーズからなる不規則表面構造を取り付けることによってなされている点。
(相違点2)
ジルコニウム合金が、本願発明は、「ジルコニウム合金が、2.5?2.8重量%のニオブを含有するジルコニウム」であるのに対し、引用発明は、ジルコニウム合金がどのような組成であるか明確でない点。

5 相違点についての検討と判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用例2発明は、引用発明と同様に、機械的性質、耐食性及び生体適合性に加えて、骨との一体結合が要求されるインプラント材(補綴)に係る発明であって(上記3(2)(2d)参照)、引用例2には、金属質インプラント材に要求される特性のうち最も重要な問題点は骨への固定方法であり、固定のために骨セメントを使用しない従来技術について、平滑面を非平滑化して生体側の骨部との接続性をあげる技術として「生体側の骨部に接続される部分に粒状粉(ビーズ)やメタルファイバーを焼結する方法」があるものの、この方法には「十分な接合強度が得られにくい。また焼結部の切欠効果による耐疲労性が劣化する」という問題点があることが記載されている(上記3(2)(2c)参照)。
そして、引用例2には、上記従来技術の問題点を踏まえ、機械的性質、耐食性、骨成長性、被膜の密着性及び生体適合性が非常に優れた金属質インプラント材を製造する方法として、金属材料の表面を少なくとも精密鋳造法により100?500μの凸状パターンを表面に多数有する形状の粗表面を形成する工程と、前記粗表面に強度、耐摩耗、耐疲労性、耐食性の向上を計るための改質層を形成する工程とを含む、金属質インプラント材を製造する引用例2発明の方法が記載されている。
ここで、引用例2発明の金属材料は本願発明の金属質インプラント材の金属基板、同様に、100?500μの凸状パターンは「Rmax>0.4mmの粗さ」を有するテクスチャに対応付けることができるから、引用例2発明は、金属基板の表面のテクスチャをRmax>0.4mmの粗さまで改質する工程を含むということができる。
そうすると、移植用人工補装器具の外面にジルコニウム合金のビーズを取り付けて骨との一体化を図る引用発明の方法に代えて、引用例2発明を適用し、金属基板の表面の少なくとも一部(ビーズの取り付け部分に対応する箇所)のテクスチャをRmax>0.4mmの粗さまで改質する工程を採用することは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。
また、引用例2には、100?500μの凸状パターンについて、「生体内への使用部位、使用形状等に応じて適切に決定する」(上記3(2)(2e)参照)と記載されていることに加えて、本願の明細書には、Rmaxの下限値である「0.4mm」について、段落【0073】に、羊の生体内での試験として「この試験では、羊の動物モデルを使用して、これらマクロテクスチャ加工された酸化ジルコニウムの表面に対する生体内の生物学的応答、およびそれら表面が与えるせん断強度を測定した。商業的に知られているテクスチャ加工法のChemTex (登録商標)5-5-5 (CYCAM, Inc.、Houston、PA)と、商業的に知られている新たに開発された化学的テクスチャ加工プロセスのTecotex (登録商標)I-103 (Tecomet、Woburn、MA)とを選択して、ジルコニウム合金(Zr-2.5Nb)上にマクロテクスチャ加工表面(Rmax>0.4mm)を得た。…(以下略)」と記載されているのみであって、他の粗さを採用した場合と対比した上で決定されたものでもないから、上記下限値の技術的意義は明らかでない。
したがって、表面粗さの下限値を0.4mmとすることによる効果も、引用発明及び引用例2発明から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別のものとはいえない。

(2)相違点2について
引用例1には、補綴の材料としてジルカダイン705(Zr,2?3重量%のNb)からなるジルコニウム合金が例示されており(上記3(1)(1g)参照)、当該ジルコニウム合金を酸化処理することにより、硬度の高い濃い藍色の酸化ジルコニウム被膜が得られることが記載されていることからして、引用発明のジルコニウム合金として2?3重量%のニオブを含有するジルコニウムを用いることは、引用例1に実質的に記載されているに等しい事項といえる。
また、ニオブ含有量の上限値が、本願発明は2.8重量%であるのに対し、引用発明は3重量%である点で相違するとしても、本願の明細書には、本願発明の前記上限値について、「【0022】…(中略)…該方法の具体的実施態様においては、ジルコニウム合金は、約4.5重量%までのハフニウムおよび約3.0重量%までのニオブからなるジルコニウム;約4.5重量%までのハフニウムを含有するジルコニウム;2.5?2.8重量%のニオブを含有するジルコニウム;ならびに約13重量%のニオブおよび約13重量%のジルコニウムを含有するチタンからなる群から選択される。」、「【0060】…(中略)…本発明で有用な合金のその他の限定しない例としては、約4.5重量%までのハフニウムと約3.0重量%までのニオブを含有するジルコニウム、約4.5重量%までのハフニウムを含有するジルコニウム、約2.5?2.8重量%のニオブと約4.5重量%までのハフニウムを含有するジルコニウム、および約13重量%のニオブと13重量%のジルコニウムを含有するチタンを含む。…(以下略)」と記載されているのみであって、実施例は、2.5重量%のニオブを含有するジルコニウムについて示されているにすぎないから、ニオブ含有量の上限を2.8重量%とすることの技術的意義は明らかでなく、その点に格別の進歩性を見出すことはできない。
なお、引用例1には、補綴の材料としてジルカダイン705が例示されているものの、引用発明のジルコニウム合金からなるビーズの材料についての例示がなされているわけではないから、本願発明の「金属基板の表面が、ジルコニウム合金であり」という発明特定事項を、金属基板の改質された表面を含む全ての表面と解すると、必ずしも、金属基板の表面が特定組成のジルコニウム合金であるということが、引用例1に実質的に記載されている事項であるとまではいえない。しかしながら、引用発明のビーズはジルコニウム合金からなるものであって、母材表面に他の部材を被着させる際には、接着性、親和性の観点から同じ材料を用いることは常套手段であるし、引用発明に引用例2発明を適用し、金属基板の表面の少なくとも一部(ビーズの取り付け部分に対応する箇所)のテクスチャをRmax>0.4mmの粗さまで改質する工程を採用した場合には、当該改質された表面も、補綴に用いられたジルコニウム合金の表面と同じ合金材料となることは明らかである。そうすると、上記(1)で述べたとおり、移植用人工補装器具の外面にジルコニウム合金のビーズを取り付けて骨との一体化を図る引用発明の方法に代えて、引用例2発明を適用して金属基板の表面の少なくとも一部のテクスチャを粗面化して改質する工程を採用することが当業者が容易に想到し得る事項である以上、その適用の結果、金属基板の改質された表面を含む全ての表面が特定のジルコニウム合金となることは明らかであるから、相違点2に進歩性が見いだせないことは同様である。

(3)小括
したがって、本願発明は、引用発明、引用例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-25 
結審通知日 2013-05-07 
審決日 2013-05-20 
出願番号 特願2003-550830(P2003-550830)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 芳之芦原 康裕川端 修見目 省二  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 蓮井 雅之
松下 聡
発明の名称 人工補装器具用の現場酸化テクスチャ加工表面およびその製造方法  
代理人 野河 信太郎  

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