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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1279914 |
審判番号 | 不服2011-23840 |
総通号数 | 167 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-11-04 |
確定日 | 2013-10-02 |
事件の表示 | 特願2006-540277「耐衝撃強化ポリアルキレンテレフタレート/ポリカーボネートブレンドに基づく均質内部色の耐候安定組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 2日国際公開、WO2005/049729、平成19年 5月10日国内公表、特表2007-511650〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成16年11月13日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 2003年11月18日、2004年5月5日、ともにドイツ連邦共和国)とする特許出願であって、平成19年11月13日に手続補正書が提出され、平成22年12月8日付けで拒絶理由が通知され、平成23年6月9日に意見書が提出されたが、同月28日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成23年11月4日に拒絶査定不服審判が請求され、同年12月14日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?5に係る発明は、平成19年11月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲、及び、明細書(以下、まとめて「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「A)4?80重量部の少なくとも一つのポリアルキレンテレフタレート、 B)10?90重量部の少なくとも一つの芳香族ポリカーボネート、 C)1.5?30重量部のゴム成分としてゴム弾性のあるオレフィン系不飽和オレフィン(コ)ポリマーに基づく少なくとも一つのグラフトポリマー、 D)1.5?30重量部のゴム成分としてアクリレートに基づく少なくとも一つのグラフトポリマー、 E)0.01?5重量部の紫外線安定剤、 F)0.01?10重量部の着色剤、 G)0?5重量部の加水分解安定剤、 H)0?54重量部の少なくとも一つの粒状の鉱物充填材、 I)0?10重量部のさらなる添加剤 を含有する組成物。」 3.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の理由とされた、平成22年12月8日付け拒絶理由通知書に記載された理由1の概要は、「この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内において、頒布された刊行物である特開2000-072836号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」というものである。 4.当審の判断 (1)刊行物の記載事項 平成22年12月8日付け拒絶理由通知で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-072836号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ア) 「【請求項1】 アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)5?98重量%とジエン系ゴム重合体(B)2?95重量%(合計100重量%)を凝集共肥大してなる共肥大ゴム重合体(H)を含有する複合ゴム重合体(R)5?95重量部にシアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル及びこれらと共重合可能な単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体5?95重量部を重合してなり、グラフト率が20?90重量%であるグラフト共重合体。 【請求項2】 請求項1記載のグラフト共重合体2?90重量%及びスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂、オレフィン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(C)10?98重量%とからなる樹脂組成物。 【請求項3】 複合ゴム重合体(R)がメタクリレート系酸基含有ラテックス(S)を用いて凝集共肥大した共肥大ゴム重合体(H)を含有する複合ゴム重合体である請求項1記載のグラフト共重合体。 【請求項4】 複合ゴム重合体(R)がアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の不飽和酸(c)5?50重量%、アルキル基の炭素数が1?12の少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート(d)50?95重量%、及び(c)、(d)と共重合可能な単量体0?40%を重合させることにより得られる酸基含有共重合体のラテックス(S)を用いて凝集共肥大した共肥大ゴム重合体を含有する複合ゴムである請求項1記載のグラフト共重合体。 【請求項5】 複合ゴム重合体(R)が共肥大ゴム重合体(H)5?98重量部の存在下に炭素数1?12のアルキル基を有する少なくとも1種のアクリル酸エステル50?99.9%、分子中に2つ以上の重合性の官能基を有する多官能性単量体0.1?10重量%、及びこれらと共重合可能な単量体0?49.9重量%(合計100重量%)からなる単量体混合物2?95重量部を重合させて得られる複合ゴム重合体である請求項1記載のグラフト共重合体。」(特許請求の範囲【請求項1】?【請求項5】) (イ) 「【発明の属する技術分野】本発明は、耐候性、耐衝撃性、発色性、加工性に優れた樹脂組成物及びそれに使用するグラフト共重合体に関するものである。」(段落【0001】) (ウ) 「【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、アクリル系ゴムとジエン系ゴムの共存下で凝集共肥大してなる共肥大ゴム重合体(H)を必須成分とした複合ゴム重合体(R)を使用すると、耐候性、耐衝撃性、発色性、加工性に優れた樹脂組成物が得られることを見出だし本発明に至った。すなわち、本発明は、アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)5?98重量%とジエン系ゴム重合体(B)2?95重量%(合計100重量%)を凝集共肥大してなる共肥大ゴム重合体(H)を含有する複合ゴム重合体(R)5?95重量部にシアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル及びこれらと共重合可能な単量体のうちの1種以上の単量体5?95重量部を重合してなり、グラフト率が20?90重量%であるグラフト共重合体(G)を第一の内容とする。」(段落【0004】) (エ) 「アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)とジエン系ゴム重合体(B)の比率は、耐候性、耐衝撃性、発色性、加工性の点から、アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)が5?98重量%、好ましくは10?95重量%、更に好ましくは13?93重量%であり、ジエン系ゴム重合体(B)は2?95重量%、好ましくは5?90重量%、更に好ましくは7?87重量%である。アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)が5重量%未満では耐候性が、98重量%を越えると発色性、耐衝撃性、加工性が低下する。」(段落【0008】) (オ) 「本発明の樹脂組成物は、通常よく知られた酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、滑剤を必要に応じて適宜使用できる。特に、スチレン系樹脂等に用いられるフェノール系、イオウ系、リン系、ヒンダードアミン系の安定剤、抗酸化剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤及びオルガノポリシロキサン、脂肪族炭化水素、高級脂肪酸と高級アルコールのエステル、高級脂肪酸のアミドまたはビスアミドおよびその変性体、オリゴアミド、高級脂肪酸の金属塩類等の内部滑剤、外滑剤等は本発明になる組成物を成形用樹脂として、より高性能なものとするために用いることができる。これらの安定剤、滑剤は、単独でもまた2種以上混合して使用することもできる。」(段落【0020】) (カ) 「以下、本発明を具体的な実施例で示すが、これら実施例は本発明を限定するものではない。実施例中の「部」は重量部を、「%」は重量%を示す。 【実施例】(1)アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)の製造 アクリル酸エステル系ゴム重合体(A-1)の製造 重合機に純水200部を仕込み、重合機内を脱気し、窒素置換した後、パルミチン酸ナトリウム(以下PLNと略す)0.5部を仕込んだ。45℃まで昇温し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(以下EDTAと略す)0.01部、硫酸第一鉄七水塩(以下FSと略す)0.0025部、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(以下SFSと略す)0.4部を加えた。ブチルアクリレート(以下BAと略す)100部、トリアリルシアヌレート(以下TACと略す)1.5部、クメンハイドロパーオキサイド(以下CHPと略す)0.2部の混合物を8時間連続滴下した。滴下1.5時間目と3時間目に各々PLN0.25部を添加した。滴下終了後、45℃で1時間攪拌し、重合を終了した。転化率は98%であった。アクリル酸エステル系ゴム重合体(A-1)のラテックス粒径は85nmであった。」(段落【0023】-【0024】) (キ) 「(2)ジエン系ゴム重合体(B)の製造 ジエン系ゴム重合体(B-1)の製造 耐圧重合機(100L)に水200部を仕込み、重合機内を脱気し、窒素置換した後、オレイン酸ソーダ4.5部、リン酸三カリウム0.4部、β?ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.2部、EDTA0.005部、FS0.002部、t-ドデシルメルカプタン(以下tDMと略す)0.35部、St25部、ブタジエン75部を混合し、50℃に昇温した後、CHP0.1部,SFS0.1部を加えて、13時間重合し、平均粒子径が45nmのジエン系ゴム重合体(B-1)のラテックスを得た。 転化率は97%であった。」(段落【0027】) (ク) 「(3)酸基含有ラテックス(S)の製造 酸基含有ラテックス(S)は、既に本発明者らが提案している特開平08-134316に記載の方法にて、重量組成比ブチルメタクリレート/BA/メタクリル酸が70/14/16の酸ラテックスを合成し使用した。酸基含有ラテックスの粒径は、(S-1)が98nm、(S-2)が、146nm、(S-3)が60nmであった。 (4)共肥大ゴム重合体(H)の製造 共肥大ゴム重合体(H-1)の製造 アクリル酸エステル系ゴム重合体(A-1)70重量部、ジエン系ゴム重合体(B-1)30重量部(固形分換算)を混合して固形分31%のラテックスに調整し、pH11としたのち、酸基含有ラテックス(S-1)3.2部を添加し、1時間攪拌、肥大して、共肥大ゴム重合体(H-1)のラテックスを得た。粒径は320nmであった。」(段落【0029】) (ケ) 「【表1】 (5)複合ゴム重合体(R)の製造 複合ゴム重合体(R-1)?(R-3)の製造 共肥大ゴム重合体(H-1)?(H-3)をそのまま複合ゴム重合体(R-1)?(R-3)として使用した。・・・」(段落【0037】-【0038】) (コ) 「【表2】 」(段落【0043】) (サ) 「(6)グラフト共重合体(G)の製造 グラフト共重合体(G-1) 複合ゴム重合体(R-1)のラテックス65部(固形分),水250部を重合機に入れ窒素置換し、65℃に昇温した後、DSN0.3部(固形分) 、EDTA0.004部、FS0.001部、SFS0.2部を加え、AN9部、St26部及びCHP0.3部の混合液を5時間かけて連続追加した。連続追加1.5時間目にDSN0.3部(固形分) 、3時間目にDSN0.3部(固形分) を追加した。更に2時間の後重合を行い、グラフト共重合体(G-1)のラテックスを得た。重合転化率は98%であった。」(段落【0045】) (シ) 「【表4】 」(段落【0052】) (ス) 「熱可塑性樹脂(C-5)?(C-8) 次の熱可塑性樹脂を使用した。 (C-5):ポリカーボネート(数平均分子量:23,000) (C-6):ポリエチレンテレフタレート(数平均分子量:20,000) (C-7):ナイロン6(数平均分子量:25,000) (C-8):ポリ塩化ビニル(重合度600)」 (8)樹脂組成物の製造 [実施例1](6)で製造したグラフト共重合体(G-1)のラテックス、(7)で製造した熱可塑性樹脂(C-1)のラテックスを表5に示す所定量(部、固形分)の割合で混合し、フェノール系抗酸化剤を加えた後、塩化カルシウムを加えて凝固させた。凝固スラリーを熱処理、脱水乾燥して、(G)、(C)混合の樹脂組成物の粉末を得た。ついで得られた樹脂に、2,2?メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト0.5部,n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート0.5部,エチレンビスステアリルアミド1部、カーボン0.3部を配合し、(株)タバタ製20Lブレンダーで均一にブレンドした。更に(株)タバタ製40m/m・1軸押出機で、240℃で溶融混練して、樹脂組成物のペレットを製造した。このペレットから、ファナック製射出成形機FAS-100Bにて250℃で必要なテストピースを成形し、後述の試験に供した。 [実施例2]?[実施例12]、[比較例1]?[比較例8] 表6?8に示す所定量(部、固形分)で(G)、(C)を配合し[実施例1]と同様な方法でペレットを製造、テストピースを成形し、後述の試験に供した。スチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂は、20Lブレンダーでのブレンド時に添加した。但し、1軸押出機の温度は、[実施例7]、[比較例5]は285℃、[実施例11]、[実施例12]、[比較例8]は180℃、その他は270℃に設定した。また、[実施例7]?[実施例9]、[比較例5]、[比較例6]は、エチレンビスステアリルアミドの代わりにステアリルステアレート1部を配合した。[実施例11]、[実施例12]、[比較例8]は、エチレンビスステアリルアミドの代わりにジオクチルスズマレートポリマー1部、ジブチルスズメルカプト3部、ステアリルステアレート2部を配合した。樹脂組成物の処方、特性を表6?表8に示す。」(段落【0058】) (セ) 「【表7】 」(段落【0060】) (2)引用文献に記載された発明 引用文献に記載された実施例9(摘示セ)についてみると、グラフト共重合体としてG-1を20、熱可塑性樹脂としてC-5(PC)を40、C-6(PET)を40からなる組成物が記載され、グラフト共重合体G-1は、表4(摘示シ)の記載から、ゴム重合体(R-1)65部にアクリロニトリル9部、スチレン26部(なお、CHP(クメンハイドロパーオキサイド)は、重合開始剤である。)をグラフトしたものであり、ゴム重合体(R-1)は、表2(摘示コ)の記載から共肥大ゴム重合体(H-1)であり、共肥大ゴム重合体(H-1)は、表1(摘示ケ)の記載から、アクリル酸エステル系ゴム重合体A-1、70重量部とジエン系ゴム重合体B-1、30重量部、酸基含有ラテックスS-1、3.2重量部から成るものである。 また、摘示オには、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、顔料を添加できることが記載され、摘示スには実施例1において2,2?メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト0.5部、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート0.5部、エチレンビスステアリルアミド1部、カーボンブラック0.3部が添加されたこと、実施例2乃至実施例12、および、比較例1乃至8も実施例1と同様な方法でペレットを製造したことが記載されている。 したがって、引用文献には、 「a)40重量部のポリエチレンテレフタレート、 b)40重量部のポリカーボネート、 c)20重量部の、アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)70重量部とジエン系ゴム重合体(B)30重量部と酸基含有ラテックス3.2重量部を凝集共肥大してなる共肥大ゴム重合体(H)を含有する複合ゴム重合体(R)65重量部にアクリロニトリル9重量部、スチレン26重量部を重合してなるグラフト共重合体G-1 e)0.5重量部の2,2?メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、0.5重量部のn-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、及び、1重量部のエチレンビスステアリルアミド、 f)0.3重量部のカーボンブラック、 を含有する組成物」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (3)対比、判断 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明のポリエチレンテレフタレートは、本願発明のポリアルキレンテレフタレートに、引用発明のポリカーボネートは、ポリカーボネートが通常ビスフェノール化合物から製造されるものであることから、本願発明の芳香族ポリカーボネートに相当する。 本願発明の着色剤としてカーボンブラックが段落【0079】に例示されているとともに実施例において具体的に使用されていることから、引用発明のカーボンブラックは、本願発明の着色剤に相当している。 したがって、両者は、 「A)40重量部のポリアルキレンテレフタレート、 B)40重量部の芳香族ポリカーボネート、 F)0.3重量部の着色剤、 G)0?5重量部の加水分解安定剤、 H)0?54重量部の少なくとも一つの粒状の鉱物充填材、 I)0?10重量部のさらなる添加剤 を含有する組成物」である点で一致し、次の点で一応相違している。 <相違点1> 本願発明は、「C)1.5?30重量部のゴム成分としてゴム弾性のあるオレフィン系不飽和オレフィン(コ)ポリマーに基づく少なくとも一つのグラフトポリマー、 D)1.5?30重量部のゴム成分としてアクリレートに基づく少なくとも一つのグラフトポリマー」を含有するのに対し、引用発明においては、「20重量部の、アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)70重量部とジエン系ゴム重合体(B)30重量部と酸基含有ラテックスを凝集共肥大してなる共肥大ゴム重合体(H)を含有する複合ゴム重合体(R)65重量部にアクリロニトリル9重量部、スチレン26重量部を重合してなるグラフト共重合体G-1」を含有する点 <相違点2> 本願発明は、「0.01?5重量部の紫外線安定剤」を含有するのに対し、引用発明は、2,2?メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の添加剤を含有するが紫外線安定剤の含有について格別規定されていない点 これらの相違点について検討する。 (i)相違点1について 引用発明のグラフト共重合体G-1は、アクリル酸エステルゴム重合体とジエン系ゴム重合体と酸基含有ラテックスを凝集共肥大してなる共肥大複合ゴムを複合ゴム重合体とし、これにアクリロニトリルとスチレンを用いてグラフト共重合してなるものであるから、アクリル酸エステルゴム重合体部分にグラフト共重合したグラフトポリマー、ジエン系ゴム重合体部分にグラフト共重合したグラフトポリマーおよび酸基含有ラテックス重合体部分にグラフト共重合したグラフトポリマーの混合物であると認められる。 そして、アクリル酸エステルゴム重合体部分にグラフト共重合したグラフトポリマーは、本願発明のアクリレートに基づくグラフトポリマーに相当し、ジエン系ゴム重合体部分にグラフト共重合したグラフトポリマーは、本願発明のゴム弾性のあるジエン系(コ)ポリマーに基づくグラフトポリマーに相当する。 グラフト共重合体G-1(20重量部)のうち、アクリレートに基づくグラフトポリマーとゴム弾性のあるジエン系(コ)ポリマーに基づくグラフトポリマーの割合を、それぞれの原料であるアクリル酸エステルゴム重合体(70重量部)、ジエン系ゴム重合体(30重量部)、および、酸基含有ラテックス重合体(3.2重量部)の重量比と等しいとして推定すると、アクリル酸エステルゴム重合体からなるグラフトポリマーは、約13.6重量部、ジエン系ゴム重合体からなるグラフトポリマーは約5.8重量部となる。 そうすると、引用発明のグラフト共重合体G-1は、本願発明の「C)1.5?30重量部のゴム成分としてゴム弾性のあるオレフィン系不飽和オレフィン(コ)ポリマーに基づく少なくとも一つのグラフトポリマー、 D)1.5?30重量部のゴム成分としてアクリレートに基づく少なくとも一つのグラフトポリマー」に相当するから、相違点1は、実質的に相違点ではない。 (ii)相違点2について 引用文献には、樹脂組成物に対し、フェノール系、イオウ系、リン系、ヒンダードアミン系の安定剤、抗酸化剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤等の添加剤を使用できることが記載されているとともに(摘示オ)、実施例(摘示ス)においてリン系安定剤(2,2?メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト)、フェノール系抗酸化剤(n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート)等が具体的に配合されているから、その他の添加剤についても配合することが実質的に記載されているといえる。 そうすると、引用発明は、紫外線安定剤を含む態様を包含しているといえるから、相違点2も実質的に相違点ではない。 したがって、本願発明の組成物と引用発明の組成物とは、組成物として区別ができないから、本願発明は引用文献に記載された発明である。 5.審判請求人の主張について (1)審判請求人は、平成23年12月14日付けの審判請求書の手続補正書5?6頁において、以下のとおり主張している。 「この引用文献1の[0007]段落の記載から明らかであるように、引用文献1の発明においては、 ・アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)およびジエン系ゴム重合体(B)の混合物に対して、酸基含有ラテックス(S)を混合して、凝集共肥大させる、ここで、酸基含有ラテックス(S)の使用量は、発色性、耐衝撃性、製造安定性の点から、アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)とジエン系ゴム重合体(B)の合計100重量部(固形分)に対して0.1?15重量部(固形分)である、 ・肥大を十分に行わせるために、攪拌下で酸基含有ラテックス(S)を添加した後、10分から3時間、特に30分から2時間、好ましくは35?85℃で撹拌する、 操作が行われています。 そして上記操作によって得られた、凝集共肥大した、共肥大ゴム重合体(H)をそのまま用いるか、または、この共肥大ゴム重合体に対してブチルアクリレート、トリアリルシアヌレートおよびクメンハイドロパーオキサイドを用いた転化作業を行い、ゴム重合体(R)とした後、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル及びこれらと共重合可能な単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体をグラフトさせることによって、グラフト共重合体を得ています。 (3-5)引用文献1におけるこのような記載から明らかでありますように、引用文献1には、本願発明におけるような、 ・オレフィン系不飽和オレフィン(コ)ポリマー、より詳しくはポリブタジエンに基づく、グラフトポリマー(成分(C))、そして ・アクリレートに基づくグラフトポリマー(成分(D))、 の2種類のグラフトポリマーを、それぞれ個別に調製し、そしてこれらのグラフトポリマー(C)および(D)を混合して用いることについて、一切記載していないことは明らかであります。 引用文献1においては、上述の通り、あくまでも、アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)およびジエン系ゴム重合体(B)の混合物に対して、酸基含有ラテックス(S)を混合して、凝集共肥大させて、共肥大ゴム重合体(H)をそのまま用いるか、または、この共肥大ゴム重合体に対してブチルアクリレート、トリアリルシアヌレートおよびクメンハイドロパーオキサイドを用いた転化作業を行い、ゴム重合体(R)とした後、こうして得られた共肥大ゴム重合体(H)またはゴム重合体(R)をグラフト化して得られた、グラフト共重合体が用いられています。 このように、引用文献1には、グラフト共重合体(G)の調製に用いられるアクリル酸エステル系ゴム重合体(A)およびジエン系ゴム重合体(B)自体が、そのまま、別個に、グラフトされていることについては全く記載しておらず、その示唆もありません。そして引用文献1におけるグラフト共重合体(G)は、上述の通り、アクリル酸エステル系ゴム重合体(A)とジエン系ゴム重合体(B)とを混合して肥大化させた共肥大ゴム重合体(H)を用いてこれをグラフト化して得られたものであり、そしてこの共肥大化させることを特徴としたものであります。」 (2)上記主張について検討する。 審判請求人の主張は、要するに本願発明のグラフトポリマーと引用文献に記載のグラフトポリマーとは、調製方法が異なり、本願発明の構成は引用文献の構成とは異なっているというものであるが、本願発明は、そもそも調製方法に係る事項を発明を特定するための事項として有していないから、この主張は、請求項の記載に基づかないものであって、採用できない。 6.まとめ よって、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-01 |
結審通知日 | 2013-05-07 |
審決日 | 2013-05-20 |
出願番号 | 特願2006-540277(P2006-540277) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岡▲崎▼ 忠 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
田口 昌浩 塩見 篤史 |
発明の名称 | 耐衝撃強化ポリアルキレンテレフタレート/ポリカーボネートブレンドに基づく均質内部色の耐候安定組成物 |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | 後藤 裕子 |
代理人 | 山本 宗雄 |
代理人 | 田中 光雄 |