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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04C |
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管理番号 | 1280267 |
審判番号 | 不服2013-10401 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-05 |
確定日 | 2013-10-10 |
事件の表示 | 特願2007-143691「油冷式圧縮機の運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日出願公開、特開2008-297945〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は,平成19年5月30日の出願であって,平成24年6月25日付けで拒絶の理由が通知され,平成24年8月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ,平成25年2月28日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,平成25年6月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして,本願の請求項に係る発明は,平成24年8月29日付け手続補正書により補正された,特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。 「【請求項1】 圧縮機本体内に収納されたスクリュロータを回転させる駆動モータと,吸込流路の吸込口から吸込調整弁を介して吸込まれた気体を前記スクリュロータの回転により圧縮する圧縮機本体と,この圧縮機本体の吐出口に接続され保圧逆止弁を備えた吐出流路と,前記吐出口と前記保圧逆止弁の間の吐出流路を通過する圧縮気体の圧力を検出する吐出圧検出手段と,前記吐出口と前記保圧逆止弁の間の吐出流路から分岐され,大気に連通する放気流路に設けられた放気弁とが備えられた油冷式圧縮機の運転方法において,前記圧縮機本体が停止した際には,前記吸込調整弁を全閉として前記放気弁から徐々に圧縮気体を大気に放気して,前記吐出口と前記保圧逆止弁の間の吐出流路内の圧縮気体の圧力を少しずつ低下させるとともに,前記吐出圧検出手段により吐出圧Pdを検出し,この吐出圧Pdが次式(1)を満足すると,制御器は前記圧縮機本体を直ちに再起動させることを特徴とする油冷式圧縮機の運転方法。 Pd≦[{n・(Tm・c・t-J・n)/(α・β・c・t・Q)}+1]^(β)(1) ここで, n:圧縮機本体の回転数(ただし,駆動モータ起動時には,nは加速時間tの間におけるロータの回転数変化量Δnとする。) c,α,β:定数 t:加速時間 J:駆動軸により回転させられる部分の慣性モーメント Q:n×β 」 2.刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開平10-213088号公報(以下,「刊行物1」という。)には,次の事項が図面とともに記載されている。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,油冷式圧縮機の再起動方法及びその装置に係り,詳しくは,圧縮機本体の吐出側に,圧縮ガスから油を分離して回収する油分離回収器と,上記圧縮機本体の吐出側の圧縮ガスを機外に放出する放気手段とを具備する油冷式圧縮機の再起動方法及びその装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】油冷式圧縮機の概略構成を図3に示す。モータ21により駆動される圧縮機本体22は,その吸込側に吸込フィルタ23,及び吸気調節弁24が,その吐出側に油分離回収器25,及びこれと一体的に形成されたレシーバタンク26がそれぞれ設置されている。上記油分離回収器25は,下部に油溜まり部27が形成され,上部に油分離エレメント28が取り付けられている。上記圧縮機本体22の吐出側と上記油分離回収器25とは,吐出流路29によって接続されている。更に,上記油分離回収器25の上記油分離エレメント28と上記レシーバタンク26とは吐出流路29aによって接続されており,該吐出流路29a上には,放気装置31(放気手段に相当),安全弁32,及び保圧弁30がそれぞれ接続されている。また,上記油溜まり部27からは,温度調節弁33,空冷式油クーラ34を経て,或いは上記温度調節弁33から上記空冷式油クーラ34を経ることなくバイパス流路35を経て,圧縮機本体22に至る油循環流路36が設けられている。上記圧縮機本体22は,上記吸込フィルタ23及び上記吸気調節弁24を介して吸い込んだガスを,上記油循環流路36から冷却用潤滑油の注油を受けつつ上記駆動モータ21の駆動により圧縮し,潤滑油を含んだ圧縮ガスを吐出流路29に吐出し,油分離回収器25に至らせる。圧縮ガスは,該油分離回収器25内に入って上記油分離エレメント28を経由する過程で気液分離し,析出した潤滑油は一旦上記油溜まり部27に溜められ,一方圧縮ガスは上記油分離エレメント28を介して上記吐出流路29a内に送られ,上記保圧弁30を介して上記レシーバタンク26に至り,ここに一旦溜められる。このレシーバタンク26内に溜められた圧縮ガスは,その消費量に応じて送出管37より機外に送出される。 【0003】また,上記油溜まり部27に一旦溜められた潤滑油は,油温が設定値以上の場合は上記温度調節弁33,油クーラ34を経て,また油温が設定値より低い場合は上記温度調節弁33,バイパス流路35を経て,上記油循環流路36から上記圧縮機本体22内に再度供給され,以後循環利用に供される。上記圧縮機本体22の運転中に,圧縮ガスの消費量が上記レシーバタンク26に供給される量よりも少なく,該レシーバタンク26内のガス圧力を測定する圧力測定部41の測定値が所定の上限値を超えると,上記圧縮機本体22の運転は運転制御部40により自動的に停止させられる。それと同時に,上記保圧弁30より圧縮機本体22側の圧縮ガスが上記放気装置31から機外に放出されることにより上記吐出流路29内のガス圧力を低下させて,上記圧縮機本体22の再起動時における上記モータ21への負荷を軽減するようになっている。上記吐出流路29内のガス圧力がある値よりも高いと,モータ21の起動電流が過大となり,起動が不可能となる。また,起動可能な圧力であっても,その圧力が高いほどモータ21の発熱量が大きくなり,最悪の場合には焼け付きを起こしてしまうこともある。従って,圧縮機本体22の再起動時には上記吐出流路29内のガス圧力は低いほどよく,大気圧まで減圧されることが理想である。尚,このように放気装置31から圧縮ガスが機外に放出されても,上記保圧弁30により上記レシーバタンク26内の圧縮ガスの圧力は維持されると共に,吐出流路29a内の圧力が異常上昇した場合には,上記安全弁32により圧縮ガスが機外に逃がされ,上記吐出流路29a内の圧力が許容範囲内に維持される。上記圧力測定部41の測定値が所定の下限値を下回ると,上記運転制御部40は上記圧縮機本体22を自動的に再起動させる。 【0004】ところで,上記放気装置31によりガスを放出する際には,圧縮機本体22の再起動時期を制限することのないよう,なるべく短時間で放気してしまうことが望ましい。しかしながら,放気によって圧力が急速に低下すると,上記油溜まり部27に溜まっている潤滑油の中に溶け込んでいる気泡が一気に膨張するため,該油溜まり部27内の油面が上昇するという現象が起こる。例えば,吐出流路29a内の約7kg/cm^(2)Gの圧力を一気に0kg/cm^(2)Gまで降下させると,潤滑油の中に溶け込んでいる気泡の体積は,図4に示す例では8倍にまで増大する。また液体であった潤滑油の気化も促進され,発泡も増加する。このように,潤滑油内の気泡の膨張により上記油溜まり部27内の油面が上昇してその上限を超えると,該油溜まり部27内の潤滑油が,吐出流路29からの圧縮ガスに飛ばされて吐出流路29aへ送られることになり,下流側に潤滑油が送られることによる不具合や,油回収効率が低下する等の問題が発生する。一方,放気時間を長く(放気速度を遅く)すれば,気泡の膨張による油面の上昇を,気泡の消滅により抑えることができるが,その間は圧縮機本体22の再起動を行うことができないという問題が生じる。また,上記油分離回収器25の容量を大きくすることも考えられるが,圧縮機本体22と比較して大型の油分離回収器25を更に大きくすることは,装置の小型化の要請に反することになる。そこで,特開平5-296174号公報に提案されている発明では,上記放気装置31からの放気量を可変とする放気方法を用いることで,これらの問題を克服している。即ち,一気に大気圧まで放気すると,図4に示すように気泡の体積は8倍にまで増加して上述の問題を生じるため,まず2kg/cm^(2)Gの圧力になるまで一気に放気し,その後は徐々に放気することにより,放気時間を短縮しつつ気泡の体積増加を2.7倍程度に抑えている。これにより,放気時間の短縮による圧縮機本体の再起動時期の制限の縮小と,気泡の体積増加を抑えることによる装置の小型化とを両立させている。」 ・図3より,圧縮機本体22と吸込フィルタ23との間に吸込流路が形成され,圧縮機本体22は吸込口および吐出口を有していること,及び吐出流路から分岐されて大気に連通する放気流路が形成され,放気流路に放気装置31が備えられていることが把握できる。 よって,上記記載事項及び図面を総合し,本願発明の表現にならって整理すると,刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる(以下,この発明を「刊行物1記載の発明」という。)。 「圧縮機本体22を駆動するモータ21と,吸込流路の吸込口から吸気調整弁24を介して吸込まれた気体を圧縮する圧縮機本体22と,この圧縮機本体22の吐出口に接続され保圧弁30を備えた吐出流路29aと,前記吐出口と前記保圧弁30の間の吐出流路29,29aを通過する圧縮気体の圧力を検出する圧力測定部41と,前記吐出口と前記保圧弁30の間の吐出流路から分岐され,大気に連通する放気流路に設けられた放気装置31とが備えられた油冷式圧縮機の運転方法において,前記圧縮機本体22が停止すると同時に,前記放気装置31から圧縮気体を大気に放気して,前記吐出口と前記保圧弁30の間の吐出流路29,29a内の圧縮気体の圧力を低下させるとともに,前記圧力測定部41によりガス圧力を検出し,このガス圧力が所定の下限値を下回ると,運転制御部40は前記圧縮機本体22を自動的に再起動させる油冷式圧縮機の運転方法。」 (2)原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された特開2006-17041号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【0001】 本発明は,インバータ等を用いて駆動部の回転数を制御するようにした回転式圧縮機に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来,インバータ等を用いて駆動部の回転数を制御するようにした回転式圧縮機,例えばスクリュ圧縮機は公知である。この駆動部には,近年の省エネルギに対する要求が高まりつつある状況下,高効率の同期電動機の採用が多くなっている。しかし,この同期電動機は,高効率の運転を可能とする反面,負荷トルクの増大により過負荷状態になると,電源の周波数と同期した運転ができなくなるいわゆる脱調(同期外れ)現象を起こし,圧縮機の正常な運転を継続することができなくなるという不具合を招くことがある。特に,この過負荷状態は起動時に生じ易い。 ・・・ 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 特許文献1に記載のスクリュ圧縮機の場合,起動時に駆動部のモータに作用する負荷トルクが軽減され,モータが過負荷状態になることは回避できるが,起動時以外では,この過負荷状態は回避できないという問題がある。現実には,圧縮ガスの使用量が一定していないため,吐出圧力が変動し,この変動幅が大きい場合には,モータが過負荷状態になり,圧縮機の正常な運転を継続できない事態が発生することがある。 本発明は,上記従来の問題をなくすことを課題としてなされたもので,電動機を大型化することなく,起動時及びその後も駆動部である電動機の過負荷を防止しつつ,運転中における吐出圧力を一定に保つことを可能とした回転式圧縮機を提供しようとするものである。 ・・・ 【0011】 圧縮機本体12内のロータの回転数制御の説明にあたり,まず圧縮機本体12の出力及びそれに関係するトルクとの関係について考察する。 圧縮機本体12の出力P(kW)は次式で表せる。 【数1】 P=A・Ps・Q・{(Pd/Ps)^(B)-1} (1) Ps(MPa):圧縮機本体12の吸込み圧力 Pd(MPa):圧縮機本体12の吐出圧力 Q(m^(3)/sec):圧縮機本体12の吸込みガス量 A,B :κ/(κ-1)(κ:ポリトロープ指数) 【0012】 一方,電動機11により圧縮機本体12内の上記ロータを駆動するときに必要な全負荷トルクTcは,次式で表すように,一定回転数下での定常運転時に上記ロータから上記駆動軸に作用する定常的負荷トルクTc_dに,上記ロータの回転を加速するための過渡的負荷トルクTc_aを加えた値となる。 【数2】 Tc=Tc_d+Tc_a (2) 【0013】 定常的負荷トルクTc_d及び過渡的負荷トルクTc_aのそれぞれは次式のように表すことができる。 【数3】 Tc_d=(P/n)・α (3) P(kW) :圧縮機本体12の出力 n(rpm) :圧縮機本体12内のロータ(駆動軸)の回転数 α :定数(=1/(9.8・2π・0.06)) 【0014】 【数4】 Tc_a=J・Δn/(C・t) (4) J(kg・m^(2)):駆動軸により回転させられる部分の慣性モーメント t(sec) :時間 Δn :時間tの間におけるロータ回転するの変化量 C :定数(理想的には,重力加速度g=9.8であるが,実際には,駆動軸の回転数に応じたエネルギーロスの差異等を考慮して経験的に定められる。) 【0015】 電動機11により駆動される圧縮機本体12の安定した運転のためには,次式が成立していなければならない。 【数5】 Tc≦Tm (5) Tm :電動機11の最大駆動トルク 換言すれば,式(5)が成立するように電動機11は選定されている。」 3.対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「圧縮機本体22」は,本願発明の「圧縮機本体」に相当し,以下同様に,「モータ21」は「駆動モータ」に,「吸気調整弁24」は「吸込調整弁」に,「保圧弁30」は「保圧逆止弁」に,「吐出流路29,29a」は「吐出流路」に,「圧力測定部41」は「吐出圧検出手段」に,「放気装置31」は「放気弁」に,「ガス圧力」は「吐出圧Pd」に,「運転制御部40」は「制御器」に,それぞれ,相当する。 刊行物1の圧縮機においては,放気により圧力が急速に低下すると,潤滑油中の気泡が膨張してしまうため(段落【0004】参照),「放気弁から徐々に圧縮流体を放気して」,「圧縮気体の圧力を少しずつ低下させる」ことは,自明な事項である。 また,刊行物1記載の発明の「圧縮機本体22が停止すると同時に,前記放気装置31から圧縮気体を大気に放気」する態様と,本願発明の「圧縮機本体が停止した際には,前記吸込調整弁を全閉として前記放気弁から徐々に圧縮気体を大気に放気」する態様とは,「圧縮機本体が停止した際には,放気弁から徐々に圧縮気体を大気に放気」するとの概念で共通する。また,前者の「自動的に再起動させる」態様は,後者の「直ちに再起動させる」態様に相当する。 そして,刊行物1記載の発明の「圧縮機本体22を駆動するモータ21」と,本願発明の「圧縮機本体内に収納されたスクリュロータを回転させる駆動モータ」とは,「圧縮機本体を作動するモータ」という概念で共通し,同様に,前者の「このガス圧力が所定の下限値を下回る」と,後者の「この吐出圧Pdが次式(1)を満足する」とは,「この吐出圧Pdが所定の下限値を下回る」という概念で共通する。 してみると,両者は, 「圧縮機本体を作動する駆動モータと,吸込流路の吸込口から吸込調整弁を介して吸込まれた気体を圧縮する圧縮機本体と,この圧縮機本体の吐出口に接続され保圧逆止弁を備えた吐出流路と,前記吐出口と前記保圧逆止弁の間の吐出流路を通過する圧縮気体の圧力を検出する吐出圧検出手段と,前記吐出口と前記保圧逆止弁の間の吐出流路から分岐され,大気に連通する放気流路に設けられた放気弁とが備えられた油冷式圧縮機の運転方法において,前記圧縮機本体が停止した際には,放気弁から徐々に圧縮気体を大気に放気して,前記吐出口と前記保圧逆止弁の間の吐出流路内の圧縮気体の圧力を少しずつ低下させるとともに,前記吐出圧検出手段により吐出圧Pdを検出し,この吐出圧Pdが所定の下限値を下回ると,制御器は前記圧縮機本体を直ちに再起動させる油冷式圧縮機の運転方法。」 である点で一致し,次の点で相違する。 [相違点1] 本願発明の駆動モータは,圧縮機本体内に収納されたスクリュロータを回転させ,圧縮機本体は,このスクリュロータの回転により圧縮するものであるのに対し,刊行物1記載の発明は,駆動モータと圧縮機本体の構造について,具体的に明示されていない点。 [相違点2] 本願発明は,圧縮機本体が停止した際には,吸込調整弁を全閉として放気弁から徐々に圧縮気体を大気に放気するのに対し,刊行物1記載の発明は,大気を放気する際の吸込調整弁の開閉状態が不明である点 [相違点3] 本願発明は,吐出圧Pdが次式(1)を満足すると,制御器は前記圧縮機本体を直ちに再起動させるのに対し,刊行物1記載の発明は,再起動する吐出圧Pdが具体的に特定されていない点。 Pd≦[{n・(Tm・c・t-J・n)/(α・β・c・t・Q)}+1]^(β) (1) ここで, n:圧縮機本体の回転数(ただし,駆動モータ起動時には,nは加速時間tの間におけるロータの回転数変化量Δnとする。) c,α,β:定数 t:加速時間 J:駆動軸により回転させられる部分の慣性モーメント Q:n×β 4.当審の判断 上記[相違点1]について検討する。 圧縮機において,本体内にスクリュロータを収納し,駆動モータによりスクリュロータを回転させて,流体を圧縮することは,周知の技術(例えば,刊行物2参照。)である。 よって,刊行物1記載の発明において,上記周知の技術を適用すること,すなわち,相違点1に係る本願発明の構成を採用することは,当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。 上記[相違点2]について検討する。 放気弁を備えた圧縮機において,圧縮機の運転を停止させた際に,吸込調整弁を閉じて放気弁を開くことは,周知の技術である(例えば,特開平8-189489号公報の段落【0013】,特開平6-10876号公報の段落【0010】を参照のこと。)。 よって,刊行物1記載の発明において,周知の技術を適用すること,すなわち,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは,当業者が格別の創作能力を要さずなし得たことである。 上記[相違点3]について検討する。 ア.刊行物1には,「吐出流路29内のガス圧力がある値よりも高いと,モータ21の起動電流が過大となり,起動が不可能となる。」(段落【0003】参照),「放気装置31によりガスを放出する際には,圧縮機本体22の再起動時期を制限することのないよう,なるべく短時間で放気してしまうことが望ましい。」(段落【0004】参照)と記載されているから,刊行物1記載の発明における,圧縮機本体を再起動させるガス圧力の下限値は,モータの起動が可能であるとともに,放気時間がなるべく短くなることを考慮して設定されるものであるといえる。 イ.刊行物2には,「電動機11により駆動される圧縮機本体12が安定した運転を行うためには,次式が成立していなければならない。【数5】 Tc≦Tm (5)」(段落【0015】参照)と記載されており,また,課題として「起動時及びその後も駆動部である電動機の過負荷を防止」(段落【0004】参照)することが記載されているから,電動機の起動時においても,式(5)が成立している必要があるといえる。 また,上記刊行物2には,上記式(5)に加えて,式(1)?(4)も記載されており,これら式(1)?(5)は,それぞれ,本願明細書の式(2)?(6)と同様のものである。ここで,刊行物2に記載された式(1)は,係数A,Bの技術的意味が十分明確ではないが,技術常識を考慮すれば(必要であれば,特開平10-38717号公報の段落【0010】の式(1),「流体機械」草間英俊,酒井俊道著,共立出版株式会社,昭和57年9月25日発行,第32頁「(2)開いた系における断熱変化の際の仕事」等を参照のこと。),現在の本願明細書の式(2)と同様の式を表現せんとしたものと理解できる。 一方,本願明細書の段落【0034】には,以下の式(1)が記載されるとともに,Tc≦Tmであるか否かを判断することは,この式(1)を判断することと同義であると記載されている。 Pd≦[{n・(Tm・c・t-J・n)/(α・β・c・t・Q)}+1]^(β)(1) ウ.ここで,刊行物1記載の発明においても,過負荷とならずに安定した運転を行うようにモータを駆動することは,設計上,当然考慮されるべきことであり,再起動までの放気時間を短くするためには,既知の関係式から,ガス圧力の限界値を算出することも,再起動の時期を設定する際には試みることである。 そうしてみると,刊行物1記載の発明において,圧縮機本体の駆動モータを再起動する際に,刊行物2に記載されたTc≦Tmとなるような吸込圧力Pdを設定すること,すなわち,これと同義であるPd≦[{n・(Tm・c・t-J・n)/(α・β・c・t・Q)}+1]^(β)(1)を満足させる吸込圧力Pdを設定し,相違点3に係る本願発明の構成を採用することは,当業者が格別の創作能力を要さずになし得たことである。 しかも,本願発明の構成により,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技 術的事項及び周知の技術から予測される以上の格別顕著な効果が奏されるものでもない。 5.むすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は,拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-07-30 |
結審通知日 | 2013-08-06 |
審決日 | 2013-08-26 |
出願番号 | 特願2007-143691(P2007-143691) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F04C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 笹木 俊男 |
特許庁審判長 |
新海 岳 |
特許庁審判官 |
平城 俊雅 槙原 進 |
発明の名称 | 油冷式圧縮機の運転方法 |
代理人 | 坂谷 亨 |
代理人 | 竹中 芳通 |
代理人 | 武仲 宏典 |
代理人 | 亀岡 誠司 |