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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1280392
審判番号 不服2010-20573  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-13 
確定日 2013-10-09 
事件の表示 特願2008-514582号「腹膜透析液」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月7日国際公開、WO2006/130065、平成20年11月27日国内公表、特表2008-541927号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成18年5月3日(パリ条約による優先権主張 2005年5月30日 (SE)スウェーデン王国、2005年6月9日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年9月4日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成25年3月5日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年3月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「ナトリウムイオン、浸透圧薬剤、及び緩衝剤を含む腹膜透析液であって、溶液を使用する用意のできた最終溶液中に、シトラートを4?10mMの濃度で含み、前記最終溶液は、別々に保持され且つ内容物の異なる複数の溶液を、腹腔内に注入する直前に混合することによって作製されることを特徴とする腹膜透析液。」

3.当審の拒絶理由
一方、当審において平成24年9月4日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願発明は、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平8-164199号公報に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4.刊行物の記載事項
平成24年9月4日付けの拒絶理由で引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平8-164199号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア:「【請求項1】還元糖及び電解質イオンなどが配合されている腹膜透析液において、重炭酸イオン及び有機酸イオンが含有され、かつpHが中性領域に調整され、1剤化されていること特徴とする腹膜透析液。
【請求項2】少なくとも下記組成を有し、pHが6.5乃至7.6の範囲内に調整されていること特徴とする請求項1に記載の腹膜透析液。
ナトリウムイオン 50?150 mEq/l
塩素イオン 50?150 mEq/l
重炭酸イオン 1? 25 mEq/l
有機酸イオン 15? 40 mEq/l
還元糖 1? 10 w/v%
【請求項3】前記還元糖がグルコースである請求項1及び2に記載の腹膜透析液。」(【特許請求の範囲】)

イ:「従来使用されている腹膜透析液は、無菌保障、ならびにグルコースの安定性確保のために薬液のpHが5.0?5.5の範囲になるように処方されているが、最近の研究によるとpHが5.0?5.5の腹膜透析液は腹腔マクロファージの免疫防御機構を実質的に低下させることによって、細菌の進入に対して腹膜炎の危険性を増大させることが報告されている。また、5.0?5.5のpH値を持つ腹膜透析液の培養腹膜中皮細胞への障害性は著しく高く、pHを6.5以上にすることによって障害性を軽減できることが報告されている。しかしながら現在使用されている腹膜透析液のpHは配合されているグルコースの安定性に大きな影響を与えており、そのままpHを高くすると製造時あるいは保管時にグルコースが分解して薬液の着色がみられ、製品価値が著しく低下してしまうことになる。
また、血液アルカリ化剤としての乳酸の配合を全くなくし、その代替に重炭酸を配合するものあるが、実質上血液アルカリ化剤として必要量を確保するためには、高濃度(35mEq/l以上)の重炭酸イオンと、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンは別々の2室に分けられ、不溶性の塩を形成しないように封入され、用時2室を導通させることによって、分けられていた溶液がそのときに初めて混合され、用いることができるような容器を工夫せざるを得ない(特開平6-105905、特開平3-103265)。このような工夫は、組成変化もきわめて少なく、薬液は比較的長期に保存できる。しかし使用時に2室を分ける隔壁やバルブを物理的に破壊(剥離)し、2液を混合するため、従来の1コンパートメントバッグに比べ必然的に少なからずバッグに由来する微粒子の混入によって、腹膜を損傷する可能性が増大する。さらに一度、アルカリ性の高濃度重炭酸と酸性のカルシウムやマグネシウムの含んだ溶液(グルコースの安定性や重炭酸溶液の中和のために酸性にせざるを得ない)を混合すると、炭酸ガスの発生による混合溶液の炭酸ガス分圧は上昇し、注入時に腹膜を傷害する原因となり、時には腹痛を伴うことが危惧される。
【発明が解決しようとする課題】以上のことから腹膜透析液の液性が腹膜中皮細胞や腹腔マクロファージの機能に重大な影響を与え、ひいては腹膜透析の継続期間を短縮でき、さらにグルコースの分解・着色を抑制したままpHを中性域にでき、腹膜への障害を低くした腹膜透析液の開発が強く望まれている。従って、本発明の目的は腹膜中皮細胞や腹腔マクロファージを傷害しないようなpH領域(pH6.5?7.6)にするために重炭酸塩を配合し、かつグルコースの安定性を確保した腹膜透析液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達するために鋭意研究を重ねた結果、重炭酸イオン及び有機酸イオンを配合し、液のpHを設定し、さらに軟質プラスチックバッグ容器に収容し、これを特定手段によって包装することにより、上記目的に合致し、しかも長期間組成変化することなく安定である腹膜透析液が得られることを見出し、本発明の完成に至った。本発明とは以下の通りである。」(【0004】?【0007】)

ウ:「本発明は、従来の腹膜透析液のpHが5.0?5.5であることに由来する腹膜中皮細胞および腹腔マクロファージ機能の著しい傷害性を軽減するために、腹膜透析液のpHを中性領域、具体的にはpH6.5?7.6に調整し、さらに血液アルカリ化剤として重炭酸を、有機酸と共に配合し、各々がイオンとして含有されていることを特徴としている。」(【0011】)

エ:「本発明において、重炭酸イオンの配合量は腹膜透析液のpHを中性領域に押し上げるに十分な量であり、なおかつ配合されるカルシウムやマグネシウムと不溶性の塩を形成しない量を配合する。具体的には1?25mEq/l、より好ましくは1?20mEq/lである。
また、有機酸イオンの配合量は腹膜透析液のpHを中性領域に維持するのに十分な量であり、なおかつ生体における代謝に悪影響を与えない量を配合する。具体的には15?40mEq/l、より好ましくは20?35mEq/lである。また、本発明において有機酸としては何ら限定しないが、具体的には酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などが挙げられ、好ましくは乳酸が使用される。」(【0012】?【0013】)

オ:「【発明の効果】上述した通り、本発明により重炭酸イオンおよび有機酸イオンが含有され、かつpHが中性領域に調整され、1剤化された腹膜透析液が得られる。本発明の腹膜透析液は、製造時(滅菌時)及び経時的な安定性に優れ、腹膜への障害性が低いため安全に使用することができる。また、1剤化されているために透析時の操作を容易に行うことができる。」(【0031】)

上記エの「・・・有機酸イオンの配合量は・・・具体的には15?40mEq/l、より好ましくは20?35mEq/lである。また、本発明において有機酸としては何ら限定しないが、具体的には酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などが挙げられ・・・」との記載及びクエン酸は3価のカルボン酸であることが明らかだから、引用例1には、有機酸としてクエン酸が5.0?13.3mM/l配合された腹膜透析液が記載されているといえる。

以上の記載事項からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ナトリウムイオン、グルコース、及び重炭酸イオンが配合されている腹膜透析液であって、クエン酸が5.0?13.3mM/l配合され、かつpHが中性領域に調整され、1剤化されている腹膜透析液。」

5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「配合され」るは本願発明の「含む」に相当する。

本願明細書の「本発明の腹膜透析液の他の態様において、該浸透圧薬剤は、グルコース・・・から成る群から選択される。」(【0017】)との記載からして、引用発明の「グルコース」は本願発明の「浸透圧薬剤」に相当する。

例えば、本願の優先権主張日の前に頒布された刊行物である特表平10-501443号公報に「透析液で用いられる一般的な緩衝剤は、重炭酸塩、・・・である。」(7頁1?2行)と記載され、「重炭酸塩は緩衝剤として機能する」(7頁15行)と記載されているように、引用発明の「重炭酸イオン」が緩衝剤として機能することは技術常識からして明らかだから、引用発明の「重炭酸イオン」は本願発明の「緩衝剤」に相当する。

本願明細書の「本発明に従ったPD液中に含まれるシトラートは、クエン酸及びその塩として加えられることができ・・・」(【0020】)との記載からして、引用発明の「クエン酸」は本願発明の「シトラート」に相当する。

引用発明の「腹膜透析液」は、そのままの状態で患者に投与される「1剤化されている腹膜透析液」であるから、「溶液を使用する用意のできた最終溶液」といえる。
そうすると、引用発明と本願発明1とは、「溶液を使用する用意のできた最終溶液中に、シトラートを含む」点で共通する。

引用発明の「mM/lの配合量」は本願発明の「mMの濃度」に相当するから、引用発明の「クエン酸が5.0?13.3mM/l配合され」ることは、「シトラートを5.0?13.3mMの濃度で含」むことといえる。
そして、本願発明の「シトラート」の濃度範囲に係る「シトラートを4?10mMの濃度で含」むとの規定は、「シトラート」の濃度が「4?10mM」の濃度範囲のいずれか一点を択一的に満たすことを意味するといえるから、本願発明で規定する「シトラート」の濃度範囲の大部分(5?10mM)を満たす引用発明の「クエン酸が5.0?13.3mM/l配合され」るは、本願発明の「シトラートを4?10mMの濃度で含」むに相当する。

本願発明においては、「浸透圧薬剤」や「緩衝剤」の組成が特定されていない。
また、本願発明に係る「前記最終溶液は、別々に保持され且つ内容物の異なる複数の溶液を、腹腔内に注入する直前に混合することによって作製される」との発明特定事項は、複数の溶液の内容物が異なることを特定するものであっても、本願発明に係る「溶液を使用する用意のできた最終溶液」のpHを特定するものではない。
そして、本願発明に係る「溶液を使用する用意のできた最終溶液」は、人体の腹腔内に注入するものであることからすれば、中性と解される。
そうすると、本願発明の「腹膜透析液」は、「pHが中性領域に調整され」た引用発明の「腹膜透析液」を排除するものとはいえない。

したがって、本願発明と引用発明とは、
(一致点)
「ナトリウムイオン、浸透圧薬剤、及び緩衝剤を含む腹膜透析液であって、溶液を使用する用意のできた最終溶液中に、シトラートを4?10mMの濃度で含む腹膜透析液。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願発明の「腹膜透析液」では、「前記最終溶液は、別々に保持され且つ内容物の異なる複数の溶液を、腹腔内に注入する直前に混合することによって作製される」のに対して、
引用発明の「腹膜透析液」は、「1剤化されている」点。

6.判断
(1)相違点について
i.相違点についての判断
腹膜透析液の最終溶液を、相違点に係る本願発明の発明事項のように、2室に別々に保持され且つ内容物の異なる複数の溶液を腹腔内に注入する直前に混合することによって作製することは、本願の優先権主張日の前に周知であったといえる(例えば、引用例1の従来技術についての記載(記載イ)で引用された特開平6-105905号公報、特開平3-103265号公報参照)。
当業者であれば、引用例1の記載から引用発明に係る組成の腹膜透析液の最終溶液を理解するとともに、上記周知技術を当然認識しているといえ、しかも引用例1に記載された腹膜透析液の最終溶液を上記周知の作製方法により作製できないと解すべき理由も見出せない。
そうすると、当業者であれば、引用発明の腹膜透析液の最終溶液は上記周知の作製方法(相違点に係る本願発明の発明事項)によっても作製できることを容易に想到し得るといえる。

ii.引用発明を多剤化することに関する請求人の主張について
請求人は、「引用例1の段落番号0005,0017から、引用発明では2剤以上を混合して用いることは明確に排除していて本願発明1とは技術的思想を異にしており、他の多剤化を行っている引用例と組み合わせることを当業者が考えることはなく、このことより本願発明1は進歩性を有しております。」(平成25年3月5日付けの意見書「3-1.特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に基づく拒絶理由について」の項)と主張する。

引用例1における、【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】についての記載を含めた従来技術についての記載(記載イ)、【発明の効果】の記載(記載オ)からして、引用例1に記載された発明は、2室に別々に保持された溶液を腹腔内に注入する直前に混合することによって最終溶液を作製する上記周知の方法により生じる問題点を解消するために、腹膜透析液に重炭酸イオンおよび有機酸イオンを配合し、かつpHを中性領域に調整し、1剤化したものといえる。
しかしながら、引用例1に記載された腹膜透析液の最終溶液が上記周知の作製方法により生じる問題点を解消するために特定の組成で1剤化したものであるとしても、そのことは、引用例1に記載された腹膜透析液の最終溶液が創出される契機に関するものであっても、引用例1に接した当業者が引用例1に記載された腹膜透析液の最終溶液として引用発明に係る組成のものを理解することや当業者が上記周知技術の認識していることを否定するものではなく、引用例1に記載された腹膜透析液の最終溶液を上記周知の作製方法により作製できないことをいうものでもない。
そうすると、引用例1に記載された腹膜透析液の最終溶液が上記周知の作製方法により生じる問題点を解消するために特定の組成で1剤化したものであることは、引用発明に係る組成の腹膜透析液の最終溶液が上記周知の作製方法によっても作製できることを当業者が容易に想到し得ることまで排除するものとはいえない。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(2)本願発明の効果について
i.効果に関する本願明細書及び図面の記載並びに請求人の主張
本願発明の効果に関し、本願明細書には、「本発明の発明者らは、シトラートをPD液に加えることによって、休止の間の限外濾過が増強されることを、インビボ試験及びインビトロ試験で立証することができた。これは恐らくシトラート複合体がカルシウムイオンに結合し、そして、カルシウムイオンが補体(complement)カスケードの成分の一つであるために補体カスケードの活性化が妨害され、そしてこのために、腹膜内の炎症が減少されるという事実による。炎症を低く抑えることによって炎症による血管拡張が減少され、従って、例えばグルコースなどの浸透圧薬剤は、血管中に吸収されるようになる傾向が少なくなる。浸透圧薬剤が腹腔内でより長く維持されるために、患者から液体を引く浸透圧力がより長期間有効である。血管の拡張が最小化したとき、溶質の拡散もまた低い効率になるが、これは、増強された対流性の輸送によって補償され、その総クリアランスは4時間の休止期間後に増強される。」(【0021】)との記載、
「図1は、シトラートを含むPD液の使用による補体活性化の抑制についてのインビトロでの「投与量及び応答」曲線を示す。」(【0044】)との記載が存在する。
【図1】

請求人は、限外濾過に関し、平成22年4月9日付けで意見書とともに参考資料1を提出し、「参考資料は、種々のシトラート濃度における排出容積を測定した結果です。この排出容積とは、腹膜透析患者から排出された液の量を示します。この試験結果では、5?9 mMのシトラートの範囲で排出容積が高く、優れた限外濾過が提供されたことが示されています。」(平成22年4月9日付けの意見書「(2)本願発明が特許されるべき理由」の項)と主張する。
【参考資料1】

また、請求人は、補体カスケードの活性化の抑制(腹膜内の炎症の抑制)に関し、平成24年5月11日付けの意見書で、「本願発明1は、所定濃度のシトラートを添加することによって補体カスケードの活性化を妨害して腹膜内の炎症を抑えることを特徴としています」(平成24年5月11日付けの意見書「3.本願発明が特許されるべき理由」の項)と主張し、
本願発明で規定されるシトラート濃度の下限値、上限値に関し、平成25年3月5日付けの意見書で、「シトラートは補体カスケードの活性化を妨害し、シトラートの量が多いほど活性化を妨害する程度が増していくことが本願明細書の記載及び図1からわかります。すなわち、補体カスケードの活性化の度合いはC3a-desargの濃度から判定でき、活性化度合いが高いとC3a-desargの濃度が大きくなりますが、図1ではシトラート濃度が大きくなるとC3a-desargの濃度が小さくなっています。ここで本願発明者らは、シトラートを加えないときの補体カスケードの活性化度合いの1/2以下であればシトラート添加の効果があると考えて、図1よりシトラート濃度の下限である4mMを選定しました。この考え方は判断に使えるデータ不足している際によく用いられるもので出願時の一般的な考え方であり、技術常識の範疇に含まれるものと思料します。
一方シトラート濃度の上限を10mMとしたのは、図1からわかるようにシトラートを10mM加えればC3a-desargの濃度がシトラートを加えないときの1/10にまで減少していて十分低減されているとともにこれ以上シトラート濃度を上げてもC3a-desargの濃度の減少度合いが小さくなること、及び緩衝剤の合計量の上限からシトラートは13.3mMまでしか入れられなく別の種類の緩衝剤が必要になる場合もあるため13.3mMよりも少なくしておく、という2つの理由からです。」(平成25年3月5日付けの意見書「3.本願発明が特許されるべき理由」の項)と主張する。

ii.効果に関する本願明細書及び図面の記載並びに請求人の主張について
本願明細書及び図面の記載からして、本願発明は、所定濃度のシトラートを腹膜透析液に加えることにより休止の間の限外濾過を増強するという効果を奏するものであって、本願発明の該効果は、シトラートによる補体カスケードの活性化の抑制の結果、腹膜内の炎症が減少することによるものといえる。
しかしながら、限外濾過の増強に関する参考資料1の試験結果をみても、限外濾過の増強効果が最大となるシトラート濃度は約6?7mMといえるものの、本願発明で規定するシトラートの濃度範囲の下限値である4mM及び上限値である10mMに、限外濾過の増強効果に関して格別の技術的意義は見出せず、さらに、補体カスケードの活性化の抑制に関する図1の試験結果をみても、本願発明で規定するシトラートの濃度範囲において、補体カスケードの活性化(腹膜内の炎症)はシトラート濃度が高くなるにつれて抑制される傾向を示すといえるものの、本願発明で規定するシトラートの濃度範囲の下限値である4mM及び上限値である10mMに、補体カスケードの活性化の抑制(腹膜内の炎症の抑制)効果に関して格別の技術的意義は見出せない。
そうすると、引用発明の「クエン酸」(シトラート)の濃度は、本願発明で規定するシトラートの濃度範囲の大部分(5?10mM)を満たすとともに、限外濾過の増強効果が最大となるシトラート濃度(約6?7mM)を含むところ、本願発明で規定するシトラートの濃度範囲において、補体カスケードの活性化(腹膜内の炎症)はシトラート濃度が高くなるにつれて抑制される傾向を示すにすぎず、しかも、本願発明で規定するシトラートの濃度範囲の下限値及び上限値に、限外濾過の増強効果及び補体カスケードの活性化の抑制(腹膜内の炎症の抑制)効果に関して格別の技術的意義は見出せないことからすれば、引用発明は、本願発明と同様の限外濾過の増強効果及び補体カスケードの活性化の抑制(腹膜内の炎症の抑制)効果を奏するといえる。
以上によれば、引用発明の「クエン酸」(シトラート)の濃度は、本願発明で規定するシトラートの濃度範囲の大部分(5?10mM)を満たすものであって、本願発明と同様の限外濾過の増強及び補体カスケードの活性化の抑制(腹膜内の炎症の抑制)効果を奏するものといえるから、請求人の上記主張を採用することはできない。
なお、腹膜透析液成分としてシトラート等の有機酸を含むことによって、優れた限外濾過(除水性能)が得られることは本願の優先権主張日の前に公知の技術的事項であり(特開2001-190662号を参照)、また、医学の分野において、補体カスケードの活性化によって血管の浸透性の増加や炎症が引き起こされることは本願の優先権主張日の前に周知の技術的事項である(例えば、特表2005-511063号公報の【0023】?【0024】、特表2001-516212号公報の7頁3?18行、特表平10-501224号公報の5頁20行?6頁3行参照)とともに、シトラート(クエン酸)により補体カスケードの活性化が抑制されることも本願の優先権主張日の前に周知の技術的事項である(例えば、特表平3-505287号の2頁左下欄最終行?右下欄6行、特表平6-504542号公報の7頁右下欄13?15行を参照)ことからすれば、本願発明による限外濾過の増強効果は新規なものとはいえず、本願発明による補体カスケードの活性化の抑制(腹膜内の炎症の抑制)効果の起因となる事象自体も新規なものとはいえない。

(3)以上によれば、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.結論
したがって、本願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-08 
結審通知日 2013-05-14 
審決日 2013-05-27 
出願番号 特願2008-514582(P2008-514582)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 修高山 芳之  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 村田 尚英
関谷 一夫
発明の名称 腹膜透析液  
代理人 岡澤 祥平  
代理人 嶋田 高久  
代理人 福本 康二  
代理人 今江 克実  
代理人 松永 裕吉  
代理人 竹内 祐二  
代理人 前田 亮  
代理人 竹内 宏  
代理人 杉浦 靖也  
代理人 二宮 克也  
代理人 間脇 八蔵  
代理人 岩下 嗣也  
代理人 河部 大輔  
代理人 長谷川 雅典  
代理人 関 啓  
代理人 原田 智雄  
代理人 前田 弘  
代理人 川北 憲司  

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