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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1280409
審判番号 不服2012-3728  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-27 
確定日 2013-10-09 
事件の表示 特願2007-552071「垂直配向液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月14日国際公開、WO2006/132507、平成20年 8月 7日国内公表、特表2008-530586〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2006年6月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年6月9日、韓国)を国際出願日とする出願であって、平成22年11月8日付け及び平成23年4月25日付けで手続補正がなされ、同年10月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年2月27日付けで拒絶査定不服審判が請求され、当審において、同年8月14日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月21日付けで手続補正がなされ、平成25年1月7日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知されたものである。
なお、請求人は、当審拒絶理由に対して平成25年4月8日付けで意見書を提出している。

2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成24年11月21日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、平成24年11月21日付け手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。

「吸収軸が相互垂直の第1偏光板と第2偏光板との間に負の誘電率異方性を有する液晶分子を満たした液晶セルを備えている垂直配向液晶表示装置であって、前記第1偏光板が偏光膜および前記偏光膜の前記液晶セルと接する第1面に内部保護フィルムとして備えられた二軸性位相差フィルムからなり、前記偏光膜の吸収軸と前記二軸性位相差フィルムの光軸が垂直の一体型偏光板であり、前記二軸性位相差フィルムは、延伸されたシクロオレフィンフィルムからなり、550nmの波長が使われるとき面上の位相差値が40nm?110nmであり、厚さ方向位相差値が-300nm?-180nmであり、前記第2偏光板の偏光膜の液晶セルに接する第1面に厚さ方向位相差値が-60nm以上0nm以下のフィルムを保護フィルムとして備え、バックライトを第1偏光板側に備えることを特徴とする垂直配向液晶表示装置。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載事項
(1)当審拒絶理由で引用した「本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-227006号公報(以下「引用例1」という。)」には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「【0038】
さらに、偏光板の吸収軸に対して45°方向の視野角特性の悪化を解消し、黒表示時または電圧無印加時に液晶分子が垂直に配向し、電圧印加時に絵素ごとに液晶分子が2分割以上の異なる配向領域または連続的に配向が変化した軸対称配向の液晶領域を有する構成において、二軸性の位相差補償素子を用いてその遅相軸を偏光板の吸収軸と直交させることで、視野角を著しく拡大でき、かつ同特性が全方位にわたってほぼ等方的である、視角特性の優れた高コントラストの液晶表示装置を提供することができる。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の原理を説明する。
【0041】
図4は、本発明の液晶表示装置100の構成を模式的に示す分解斜視図である。本発明の液晶表示装置100は、液晶セル40と、液晶セル40を挟持する一対の偏光素子としての偏光板42及び44と、液晶セル40と偏光板42及び44との間に設けられた位相差補償素子46及び48を有している。位相差補償素子46及び48の一方を省略してもよい。液晶セル40の観察者側に配置された偏光板42、位相差補償素子46をそれぞれ上偏光板、上位相差補償素子と呼び、液晶セル40の観察者側とは反対側、すなわちバックライト(不図示)側に配置された偏光板44、位相差補償素子48をそれぞれ下偏光板、下位相差補償素子と呼ぶ。
【0042】
本明細書において、位相差補償素子(例えば、図4に示した位相差補償素子46及び48)の屈折率異方性を定義するために、図5Aに示した直交座標系を用いる。位相差補償素子46および48の表面に垂直な方向にz軸を取り、位相差補償素子46および48の表面に平行な面内のx、y軸の内、位相差補償素子の遅相軸の方向をx軸とする。位相差補償素子46および48の屈折率楕円体の3つの主屈折率をn_(x)、n_(y)、n_(z)とすると、n_(x)>n_(y)>n_(z)の関係を満足する。
【0043】
図4及び図5Bに示したように、上偏光板42の吸収軸42aと下偏光板44の吸収軸44aとは互いに直交し、上位相差補償素子46の遅相軸46aと下位相差補償素子48の遅相軸48aも互いに直交している。上偏光板42の吸収軸42aと下位相差補償素子48の遅相軸48a、及び下偏光板44の吸収軸44aと上位相差補償素子46の遅相軸46aとは一致している。」

ウ 「【実施例】
【0074】
(実施例1) 図11Aを参照しながら、本実施例の液晶表示装置200の製造方法を説明する。表面に透明電極(ITO:100nm)形成された基板210の上に、感光性ポリイミドを用いて、高さ約3μmの凸部212を絵素領域外に形成した。さらに、感光性ポリイミドを用いて、一部の凸部212上に、凸部212よりも幅の狭い、高さ約3μmの凸部(不図示)を形成した。凸部212の高さと凸部212上に形成された凸部の高さの和がセル厚を規定する。
【0075】
その凸部212で包囲される領域、すなわち絵素領域の大きさは、100μm×100μmとした。その上に、JALS204(日本合成ゴム)をスピンコートし、垂直配向層214aを形成した。さらに、もう一方の基板220の透明電極(不図示)上にも同じ材料を用いて、垂直配向層214bを形成した。両者を貼り合わせて液晶セルを完成させた。
【0076】
作製した液晶セル中に、Nn型液晶材料(Δε=-4.0、Δn=0.073、セルギャップ6μmで90°ツイストとなるように液晶材料固有のツイスト角を設定(すなわちd_(LC)・Δn=438nm))を注入し、電圧を7V印加した。電圧印加直後、初期状態で、軸対称配向の配向軸が複数存在する状態となる。さらに電圧印加状態を続けると、図11Bに示すように、絵素領域ごとに1つの軸対称配向領域(モノドメイン)が形成された。この絵素領域をクロスニコル下で観察した結果を図11C及び図11Dに示す。電圧無印加時には、図11Cに示すように、良好な黒表示が得られ、電圧印加時には図11Dに示すような消光模様が観察され、液晶分子が絵素領域内において配向が連続的に変化する軸対称配向している。
【0077】
本実施例の42型液晶セルの両側の偏光板の偏光層支持フィルムとして用いるTACの3次元屈折率はn_(x)=1.4952、n_(y)=1.4951、n_(z)=1.4964で、厚さは80μmであり、リタデーションはほぼd_(f)・(n_(x)-n_(y))=5nm、d_(f)・(n_(x)-n_(z))=50nmであった。さらに、本発明の位相差補償素子の3次元屈折率はそれぞれn_(x)=1.50058、n_(y)=1.50043、n_(z)=1.49881で、厚さは80μmであった。したがって、リタデーションは、d_(f)・(n_(x)-n_(y))=12nm、d_(f)・(n_(x)-n_(z))=142nmであり、図4のように配置した。なお、偏光板吸収軸と位相差補償素子の遅相軸は直交関係であるので、偏光板支持フィルムのTACの遅相軸と位相差補償素子の遅相軸とも直交関係にある。
【0078】
本実施例の液晶表示装置200を、大塚電子(株)製光学特性評価装置LCD5000を用いて、駆動電圧Voff=2.2Vにて黒表示させた時の透過率の視野角特性を測定し、ついで、駆動電圧Von=7Vにて白表示させた時の透過率の視野角特性を測定し、さらに白表示時の透過率を黒表示の透過率で除しコントラスト比の視野角特性を得た。その結果、図12と同様のコントラスト比10の等コントラスト・コンター曲線が得られた。
【0079】
また、本実施例で用いた偏光板の支持体フィルムの材料はTACで、光弾性係数は5×10^(-13)cm^(2)/dyneであり、位相差補償素子の光弾性係数は5×10^(-13)cm^(2)/dyneであった。位相差補償素子は、ディスコティック系液晶高分子をTACからなる支持基板上に、所望のリタデーションが得られるように膜厚を制御して塗布し、加熱冷却して作製した。得られた位相差補償素子を粘着剤を用いて、上記偏光板に貼り合わせ、一体化した。一体化された位相差補償素および偏光板を粘着剤を用いて液晶セルに貼り合わせた。
【0080】
上記の42型液晶表示装置で全面黒表示をした時及びバックライトシステムによって液晶セルが約45℃±5℃に熱せられた時、偏光板と位相差補償素子による光り抜けによるムラは観察されず、優れた表示品位であった。
【0081】
なお、観察者に輝度ムラとして認識されない、液晶パネルの表示面の輝度分布の程度については、輝度弁別の法則によれば、最高輝度Lmaxと平均輝度Laverageとの比がLmax/Laverage<2の条件であればよいことが輝度測定または透過率測定から確認された。なお、測定には図6Bに示したような装置を用いた。本実施例1で用いた位相差補償素子はLmax/Laverage=1.5であり、ムラが認識されなかったと考えられる。また、この時の透過率は0.04%以下であった。
【0082】
なお、液晶層のd・Δn(リタデーション)は、300?500nmの範囲にあることが望ましい。また、液晶層のツイスト角は45°?110°の範囲にあることが望ましい。
【0083】
(実施例2) 本実施例2では実施例1で挙げた液晶性高分子の位相差補償素子の代わりに視野角補償効果が著しく得られる、ARTON(ノルボルネン樹脂)の二軸性の位相差補償素子を図4のように液晶セルの両側に用いた例について述べる。
【0084】
ARTONの波長分散特性は可視光の波長領域において、平坦である特徴を有する。一般的に、RGB各波長での視野角補償効果がより等価になるように、位相差フィルムの波長分散特性はより小さく、平坦であることが好ましい。
【0085】
ARTONの二軸延伸法で作製した位相差補償素子の光弾性係数は4×10^(-13)cm^(2)/dyneであった。上記の42型液晶表示装置で全面黒表示をした時及びバックライトシステムによってパネルが約45℃±5℃に熱せられた時、偏光板と位相差補償素子による光り抜けによるムラは観察されず、優れた表示品位であった。本実施例2で用いた位相差補償素子はLmax/Laverage=1.4であり、ムラが認識されなかった。したがって、実施例1及び2から位相差補償素子の光学性弾性係数は、5×10^(-13)cm^(2)/dyneよりも小さいものにおいて、さらによりムラが発生しにくいことが示された。
【0086】
コントラスト比CR=20での視野角特性及び絵出し目視確認結果を表1にまとめた。偏光板吸収軸に対して45°方向の視野角補償効果が得られる位相差補償素子面内のリタデーションd_(f)・(n_(x)-n_(y))は0nm?116nmさらに好ましくは47nm?85nm、法線方向のリタデーションd_(f)・(n_(x)-n_(z))は122nm?208nm、さらに好ましくは147nm?198nmの時、全方位にわたって良好な視野角特性を得ることができた。
【0087】
【表1】

【0088】
位相差補償素子のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}は補償させる液晶セルのd_(LC)・Δn値(セル厚d_(LC)と、用いた液晶のΔn(|n_(e)-n_(o)|)との積すなわちd_(LC)・Δn=438nm)に対する相対値で表現し、偏光板支持フィルムのTACフィルムの法線方向のリタデーション50nmを考慮しなければならない。また、フィルム面内についてはリタデーション値が5nmと小さいので考慮する必要はない。フィルム面内であるn_(x)-n_(y)方向のリタデーションは0<{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}/(d_(LC)・Δn)<0.26、法線方向であるnz方向のリタデーションは0.39<{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}/(d_(LC)・Δn)<0.59を満足するとき、偏光板吸収軸に対して45°方向の視野角補償効果が向上する。等コントラスト・コンター曲線が等方的になるさらに好ましい条件は、0.1<{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}/(d_(LC)・Δn)<0.2、0.44<{(n_(x)-n_(z))・d_(f)}/(d_(LC)・Δn)<0.57であった。
【0089】
(実施例3) 実施例1の42型液晶セルに実施例1および2の位相差補償素子を2枚または2倍のリタデーションを持つ位相差補償素子を図4における上下偏光板42及び44と液晶セルとの間のどちらか一方にのみ配設した。図13は、この液晶表示装置を実施例1と同様の手法で測定したコントラスト比10の等コントラスト・コンター曲線を示す図である。偏光板吸収軸方向(Φ=0°、90°、180°及び270°)での視野角特性は概ね同一かつ良好である。しかし、偏光板吸収軸に対して45°方向(Φ=45°、135°、225°、315°)で、視野角特性は実施例1の場合(図12)に比べやや劣るものの、黒表示時に偏光板による光り抜けのムラは観察されなかった。位相差補償素子を一個所に配設することは、コスト上、プロセス上有利である。」

エ 上記アないしウから、引用例1には、フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}が52nm、法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}が170nmである位相差補償素子(上記ウ【0087】【表1】のNo.10参照。)をリタデーション値を2倍にして用いた実施例3の液晶表示装置として、
「液晶セルと、液晶セルの観察者側に配置された上偏光板と、液晶セルと上偏光板との間に設けられた上位相差補償素子と、液晶セルのバックライト側に配置された下偏光板と、液晶セルと下偏光板との間に設けられた下位相差補償素子とを有し、前記上位相差補償素子及び下位相差補償素子の一方は省略でき、前記液晶セルは、偏光板の吸収軸に対して45°方向の視野角特性の悪化を解消し、黒表示時または電圧無印加時に液晶分子が垂直に配向し、電圧印加時に絵素ごとに液晶分子が2分割以上の異なる配向領域または連続的に配向が変化した軸対称配向の液晶領域を有する構成である、液晶表示装置において、
上偏光板の吸収軸と下偏光板の吸収軸とを互いに直交させ、上位相差補償素子の遅相軸と下位相差補償素子の遅相軸とを互いに直交させ、上偏光板の吸収軸と下位相差補償素子の遅相軸とを一致させ、下偏光板の吸収軸と上位相差補償素子の遅相軸とを一致させ、かつ、前記上位相差補償素子及び前記下位相差補償素子として二軸性の位相差補償素子を用いることにより、視野角を全方位にわたってほぼ等方的に著しく拡大し、視角特性の優れた高コントラストのものとした液晶表示装置であって、
前記液晶セル中には、Δε=-4.0、Δn=0.073のNn型液晶材料をセルギャップ6μmで90°ツイストとなるように液晶材料固有のツイスト角を設定、すなわちd_(LC)・Δn=438nmに設定して注入されており、
前記上位相差補償素子及び前記下位相差補償素子として、視野角補償効果が著しく得られる、ARTON(ノルボルネン樹脂)を二軸延伸法で延伸して作製した、フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}が52nm、法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}が170nmである二軸性の位相差補償素子を用い、
前記上偏光板及び前記下偏光板各々の偏光層支持フィルムとして3次元屈折率がn_(x)=1.4952、n_(y)=1.4951、n_(z)=1.4964で、厚さが80μmであり、フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}が5nm、法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}が50nmであるTACを用い、
さらに、前記上位相差補償素子及び下位相差補償素子の一方を省略して、残りの一方の位相差補償素子のリタデーションを2倍、すなわち、フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}を104(=52×2)nm、法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}を340(=170×2)nmにして、位相差補償素子を一個所に配設することによりコスト上、プロセス上有利にした、液晶表示装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)当審拒絶理由で引用した「本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-317812号公報(以下「引用例2」という。)」には、以下の記載がある。

「【0043】
このようにして得られた位相差補償フィルムは、上記式1乃至式3の条件を満たしており、液晶表示装置の部品として好適に用いられる。そして、上記位相差補償フィルムは、単独で用いられても、偏光板と積層一体化させて複合偏光板として用いられても、偏光板の液晶セル側の保護フィルムの代わりに接着剤を介して積層一体化されて偏光板を形成して用いられてもよいが、液晶表示装置の薄型化及び製造効率を向上させることができることから、偏光板の液晶セル側の保護フィルムに代えて、接着剤を介して積層一体化させた偏光板として用いるのが好ましい。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「吸収軸」、「下偏光板」、「上偏光板」、「『Δε=-4.0』の『Nn型液晶材料』」、「液晶セル」、「『黒表示時または電圧無印加時に液晶分子が垂直に配向』する『液晶表示装置』」、「偏光層」、「『偏光層支持フィルム』としての『TAC』及び『二軸性の位相差補償素子』を用いた『下位相差補償素子』」、「『偏光層支持フィルム』としての『TAC』」、「『二軸性の位相差補償素子』を用いた『下位相差補償素子』」、「遅相軸」、「フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}」、「『フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}』-『法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}』」及び「バックライト」は、それぞれ、本願発明の「吸収軸」、「第1偏光板」、「第2偏光板」、「負の誘電率異方性を有する液晶分子」、「液晶セル」、「垂直配向液晶表示装置」、「偏光膜」、「内部保護フィルムとして備えられた二軸性位相差フィルム」、「内部保護フィルム」、「二軸性位相差フィルム」、「光軸」、「『550nmの波長が使われるとき』の『面上の位相差値』」、「『550nmの波長が使われるとき』の『厚さ方向位相差値』」及び「バックライト」に相当する。

(2)引用発明では、「第2偏光板(上偏光板)」の「吸収軸」と「第1偏光板(下偏光板)」の「吸収軸」とを互いに直交させているから、引用発明の「第1偏光板」及び「第2偏光板」と本願発明の「第1偏光板」及び「第2偏光板」とは、「吸収軸が相互垂直」である点で一致する。
また、引用発明では、「第2偏光板」の「吸収軸」と「二軸性位相差フィルム(下位相差補償素子)」の「光軸(遅相軸)」とを一致させており、偏光板の吸収軸はその偏光層の吸収軸であることが当業者に自明であるから、引用発明の「第1偏光板」の「偏光膜(偏光層)」及び「二軸性位相差フィルム」と本願発明の「第1偏光板」の「偏光膜」及び「二軸性位相差フィルム」とは、「偏光膜の吸収軸と二軸性位相差フィルムの光軸が垂直であ」る点で一致する。

(3)引用発明において、「液晶セル」には、「負の誘電率異方性を有する液晶分子(Δε=-4.0のNn型液晶材料)」が注入されており、「液晶セル」の観察者側には「第2偏光板(上偏光板)」が配置され、「液晶セル」の「バックライト」側には「第1偏光板(下偏光板)」が配置されているから、引用発明の「液晶セル」と本願発明の「液晶セル」とは、「第1偏光板と第2偏光板との間に負の誘電率異方性を有する液晶分子を満たした」ものである点で一致する。

(4)引用発明において、「液晶セル」の「バックライト」側には「第1偏光板(下偏光板)」が配置され、「液晶セル」と「第1偏光板」との間には「二軸性位相差フィルム(下位相差補償素子)」が設けられているところ、この「第1偏光板」を構成する「偏光膜(偏光層)」支持フィルムとしてのTACと「二軸性位相差フィルム」とが、引用発明の「内部保護フィルムとして備えられた二軸性位相差フィルム」に相当するから、引用発明の「第1偏光板」の「偏光膜」の「液晶セル」と接する面には、「内部保護フィルムとして備えられた二軸性位相差フィルム(TAC及び下位相差補償素子の積層体)」が備えられていることになる。
したがって、引用発明は、本願発明の「前記第1偏光板が偏光膜および前記偏光膜の前記液晶セルと接する第1面に内部保護フィルムとして備えられた二軸性位相差フィルムからなり」との事項を備えている。

(5)引用発明では、「二軸性位相差フィルム(下位相差補償素子)」として、視野角補償効果が著しく得られる、ARTON(ノルボルネン樹脂)を二軸延伸法で延伸して作製した、フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}が52nm、法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}が170nmである二軸性の位相差補償素子を用いており、ARTONはシクロオレフィンである(例.ディスプレイ用光学フィルムの開発動向、シーエムシー出版、2004年2月29日初版発行、第108頁「2 ARTONの特徴」及び図1参照。)から、引用発明の「二軸性位相差フィルム」と本願発明の「二軸性位相差フィルム」とは、「延伸されたシクロオレフィンフィルムからな」る点で一致する。

(6)引用発明の残りの一方の位相差補償素子の550nmの波長が使われるときの「面上の位相差値(フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))})」である「104nm」、及び、「厚さ方向位相差値(フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}-法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))})」である「-236(=104-340)nm」は、本願発明の550nmの波長が使われるときの二軸性位相差フィルムの「面上の位相差値」である「40nm?110nm」、及び、「厚さ方向位相差値」である「-300nm?-180nm」と、「104nm」及び「-236nm」である点で一致する。

(7)引用発明において、「液晶セル」の観察者側には「第2偏光板(上偏光板)」が配置され、該「第2偏光板」は、「内部保護フィルム(偏光層支持フィルム)」として3次元屈折率がn_(x)=1.4952、n_(y)=1.4951、n_(z)=1.4964で、厚さが80μmであり、フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}が5nm、法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}が50nmであるTACを用いており、その「厚さ方向位相差値(フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}-法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))})」は、-45(=5-50)nmであるから、引用発明の「第2偏光板」と本願発明の「その偏光膜の液晶セルに接する第1面に厚さ方向位相差値が-60nm以上0nm以下のフィルムを保護フィルムとして備える第2偏光板」とは「その偏光膜の液晶セルに接する第1面に厚さ方向位相差値が-45nmのフィルムを保護フィルムとして備える」点で一致する。

(8)引用発明において、「第1偏光板(下偏光板)」は「液晶セル」の「バックライト」側に配置されているから、引用発明の「垂直配向液晶表示装置(液晶表示装置)」と本願発明の「垂直配向液晶表示装置」とは「バックライトを第1偏光板側に備える」点で一致する。

(9)上記(1)ないし(8)からみて、本願発明と、省略した一方の位相差補償素子が上位相差補償素子であるときの引用発明とは、
「吸収軸が相互垂直の第1偏光板と第2偏光板との間に負の誘電率異方性を有する液晶分子を満たした液晶セルを備えている垂直配向液晶表示装置であって、前記第1偏光板が偏光膜および前記偏光膜の前記液晶セルと接する第1面に内部保護フィルムとして備えられた二軸性位相差フィルムからなり、前記偏光膜の吸収軸と前記二軸性位相差フィルムの光軸が垂直であり、前記二軸性位相差フィルムは、延伸されたシクロオレフィンフィルムからなり、550nmの波長が使われるとき面上の位相差値が104nmであり、厚さ方向位相差値が-236nmであり、前記第2偏光板の偏光膜の液晶セルに接する第1面に厚さ方向位相差値が-45nmのフィルムを保護フィルムとして備え、バックライトを第1偏光板側に備える垂直配向液晶表示装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明では、前記第1偏光板が偏光膜および二軸性位相差フィルムからなり、前記第2偏光板の偏光膜の液晶セルに接する第1面に厚さ方向位相差値が-60nm以上0nm以下のフィルムを保護フィルムとして備えているのに対して、引用発明では、上位相差補償素子を省略しなければならないものではなく、下位相差補償素子を省略してもよいものであり、下位相差補償素子を省略したときにはそのようにはならない点。

相違点2:
偏光膜および偏光膜の液晶セルと接する第1面に内部保護フィルムとして備えられた二軸性位相差フィルムからなる前記第1偏光板が、本願発明では、「一体型偏光板」であるのに対して、引用発明では、「一体型偏光板」ではなく、偏光層に、偏光層支持フィルムとして用いたTACと下位相差補償素子として用いた二軸性の位相差補償素子とが積層されて、「偏光膜および偏光膜の液晶セルと接する第1面に内部保護フィルムとして備えられた二軸性位相差フィルム」に相当するものとなっている点。

5 判断
上記相違点1及び2について検討する。
(1)相違点1について
引用発明は、さらに、前記上位相差補償素子及び下位相差補償素子の一方を省略して、残りの一方の位相差補償素子のリタデーションを2倍、すなわち、フィルム面内方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(y))}を104(=52×2)nm、法線方向のリタデーション値{d_(f)・(n_(x)-n_(z))}を340(=170×2)nmにして、位相差補償素子を一個所に配設することによりコスト上、プロセス上有利にしたものであるところ、上位相差補償素子を省略しなければならないものではないが、下位相差補償素子を省略しなければならないものでもない。
してみると、どちらの位相差補償素子を省略するかは当業者が適宜決定すべき設計上の事項であるから、引用発明において、省略する一方の位相差補償素子を上位相差補償素子となすことは、当業者が適宜なし得た設計上の事項である。

(2)相違点2について
ア 上記3(2)の記載からみて、引用例2には、次の技術事項が記載されているといえる。
「位相差補償フィルムは、偏光板と積層一体化させて複合偏光板として用いられても、偏光板の液晶セル側の保護フィルムの代わりに接着剤を介して積層一体化されて偏光板を形成して用いられてもよいが、液晶表示装置の薄型化及び製造効率を向上させることができることから、偏光板の液晶セル側の保護フィルムに代えて、接着剤を介して積層一体化させた偏光板として用いるのが好ましい。」(以下「引用例2記載事項」という。)

イ 引用発明の「第1偏光板(下偏光板)」は、「偏光膜(偏光層)」および「偏光膜」の「液晶セル」と接する第1面に、偏光層支持フィルムとして用いたTACと下位相差補償素子として用いた二軸性の位相差補償素子とが積層されているものであるところ、この「偏光層支持フィルムとして用いたTAC」及び「下位相差補償素子」は、引用例2記載事項の「偏光板の液晶セル側の保護フィルム」及び「位相差補償フィルム」に相当するから、上記アからみて、引用発明において、「第1偏光板」の「液晶セル」側の「偏光層支持フィルムとして用いたTAC」に代えて、該TACを設けずに、「下位相差補償素子」を、「偏光膜」の「液晶セル」と接する第1面に、接着剤を介して積層一体化させて「一体型」の「第1偏光板」とし、「液晶表示装置」を薄型化し、かつ、製造効率を向上させること、すなわち、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例2記載事項に基づいて容易になし得た程度のことである。

(3)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び引用例2記載事項の奏する効果から当業者が予測することができた程度のことである。

(4)まとめ
上記(1)ないし(3)からみて、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-09 
結審通知日 2013-05-14 
審決日 2013-05-27 
出願番号 特願2007-552071(P2007-552071)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 慎平  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 清水 康司
小牧 修
発明の名称 垂直配向液晶表示装置  
代理人 渡部 崇  
代理人 実広 信哉  

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