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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1280518 |
審判番号 | 不服2011-11634 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-01 |
確定日 | 2013-10-16 |
事件の表示 | 特願2006-519853「高繊維高カロリーの液状又は粉末状栄養組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月17日国際公開、WO2005/013721、平成19年 9月27日国内公表、特表2007-527400〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、本願は、2004年7月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年7月15日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成22年6月29日付け拒絶理由通知に対して、同年10月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年1月24日付けで拒絶査定され、これに対し、同年6月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正書が提出され、同年7月28日付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。その後、平成24年9月28日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、同年12月27日付けで回答書が提出されている。 第2 平成23年6月1日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年6月1日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.平成23年6月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容 本件補正により、本願の請求項1は、補正前の平成22年10月6日付け手続補正書により補正された、 「液状又は粉末状栄養組成物であって、タンパク質供給源、可消化炭水化物の供給源及び食物繊維の供給源を含み、前記液状栄養組成物又は水で再構成した後の前記粉末状栄養組成物が、1.3?1.8kcal/mlのエネルギー密度及び2.5?3.3g/100mlの食物繊維を有し、前記食物繊維の供給源は、全繊維の重量パーセントで、可溶性非デンプン多糖類25?35重量%、不溶性非デンプン多糖類37?47重量%、及びオリゴ糖25?35重量%を含むことを特徴とする、栄養組成物。」 から、 「老人患者における腸管の健康又は快適性を向上させるための、液状又は粉末状栄養組成物であって、タンパク質供給源、可消化炭水化物の供給源及び食物繊維の供給源を含み、前記液状栄養組成物又は水で再構成した後の前記粉末状栄養組成物が、1.3?1.8kcal/mlのエネルギー密度及び2.5?3.3g/100mlの食物繊維を有し、前記食物繊維の供給源は、全繊維の重量パーセントで、可溶性非デンプン多糖類25?35重量%、不溶性非デンプン多糖類37?47重量%、及びオリゴ糖25?35重量%を含むことを特徴とする、栄養組成物。」 と補正された。 (下線部は対応する補正箇所を明示するため当審で付した。) 2.補正の適否 上記請求項1についての補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「液状又は粉末状栄養組成物」について「老人患者における腸管の健康又は快適性を向上させるための」ものであることを限定したものである。 当該補正事項は、本願明細書【0072】に記載されており、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野は同一であり、後者の解決すべき課題は前者の解決すべき課題に包含され、解決すべき課題も同一であるといえる。 したがって、当該補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか検討する。 3.独立特許要件について 3-2 特許法第29条第2項(進歩性)について (1)引用刊行物の記載事項 (1-1) 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である欧州特許出願公開第756828号明細書(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(訳文は当審で付した。) (1a)「1.Nutritional composition, suitable for enteral administration, comprising dietary fibre, characterised in that it contains 5-120 g of fibre per daily dosage of the composition, and the fibre consists of 15-50 wt.% of soluble non-starch polysaccharides, 15-45 wt.% of insoluble non-starch polysaccharides, and 8-70 wt.% of oligosaccharides and/or resistant starch. ・・・ 9.Nutritional composition according to any one of claims 1-8, which is a liquid composition, optionally after reconstitution, and contains 5-120 g of fibre per l. ・・・ 11.Nutritional composition according to any one of claims 1-10, wherein the composition further contains carbohydrates and/or fats and/or proteinaceous material. 」(特許請求の範囲 4頁) (訳:請求項1.経腸投与に適した栄養組成物であって、該組成物の毎日の投与量あたり5-120グラムの食物繊維を含有することを特徴とし、該繊維は可溶性非デンプン多糖類15-50重量%、不溶性非デンプン多糖類15-45重量%、そしてオリゴ糖及び/または難消化性デンプン8-70重量%から構成される栄養組成物。 ・・・ 請求項9.請求項1-8のいずれが一項に記載の栄養組成物であって、該組成物は、必要に応じて再構成した後に、液体組成物であり、リットル当たり5-120gの繊維を含む栄養組成物。 ・・・ 請求項11.請求項1-10のいずれが一項に記載の栄養組成物であって、該組成物は更に炭水化物及び/又は脂肪及び/又はタンパク質性物質を含む栄養組成物。) (1b)「The invention relates to a dietary fibre composition which can be used in various types of nutritional compositions, such as clinical food, infant food or dietary food.(2頁1欄2?4行) (訳:本発明は、臨床的な食物、幼児の食物あるいは食餌療法用の食物のような様々のタイプの栄養組成物として使用することができる食物繊維組成物に関する。) (1c)「Fibre plays an important role in the nutrition of healthy people. It maintains gut function and clears toxic compounds, by providing stool bulk and substrate to intestinal flora, and keeps the gut wall in good condition. Hospital patients who are critically ill or chronically sick or comatose patients who normally receive enteral clinical nutrition (ECN), need fibre for these purposes, and consumption of the right fibre mixture is especially important for patients who suffer from intestinal problems, such as ulcerative colitis, Crohn's disease, and the like, and who have received antibiotics. Also persons with constipation or with diarrhoea have special interest in this kind of nutrition, and the same applies to persons who are not able to consume the recommended daily amount of fibre for whatever reason (e.g. diet). 」(2頁1欄5?20行) (訳:繊維は健康な人々の栄養に重要な役割を果たしている。繊維は腸内細菌叢へ便の量と基質を提供することにより、腸機能を維持し、毒性化合物を取り除き、そして、腸管の機能を良好に保つ。危篤状態の病気または慢性的な病気の入院患者、あるいは、通常は経腸臨床栄養を受ける昏睡状態の患者は、これらの目的のために繊維を必要とし、正しい繊維混合物を摂取することは、潰瘍性大腸炎、クローン病のような腸の問題に苦しむ患者、または、抗生物質を受け取った患者にとって特に重要である。更に、便秘や下痢のある人はこの種の栄養物に特に関心を持っており、同じことが、何らかの理由(例、ダイエット)で、繊維の毎日の推奨摂取量を摂ることができない人に当てはまる。) (1d)「As an alternative, the nutritional composition may be a liquid composition, or a powder which is to be reconstituted by dilution with water. 」(3頁4欄36?38行) (訳:選択肢として、栄養組成物は、液体組成物、または水で希釈することによって再構成される粉末であってもよい。) (1e)「Apart from a pure fibre supplement, the nutritional composition will further contain digestible carbohydrates and/or fats and/or proteinaceous material. The digestible carbohydrates (to be distinguished from the indigestible fibre carbohydrates) constitute the energy source in most cases.」(3頁4欄42?47行) (訳:純粋な繊維のサプリメントとは別に、栄養組成物は、さらに、消化性炭水化物及び/又は脂肪及び/又はタンパク質性物質が含まれる。 消化性の炭水化物(難消化性繊維炭水化物は区別される)はほとんどの場合、エネルギー源を構成している。) (1-2) 原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2003-520754号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。 (2a)「【請求項1】 代謝的にストレスのある患者用にデザインされた経腸組成物であって、組成物の約15?約20%のエネルギーを供するタン白源、 炭水化物源、および 中鎖および長鎖トリグリセリドの混合物を含む脂質源を含み、経腸組成物は少なくとも約1.4キロカロリー/mlのカロリー密度を有する、上記経腸組成物。 ・・・ 【請求項9】 約1.4?約1.8キロカロリー/mlのエネルギー密度を有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の経腸組成物。」 (2)引用発明 刊行物1(記載事項(1a))に記載される請求項11において、請求項1を引用する場合の請求項9を引用する場合を書き下すと、 刊行物1には、 「経腸投与に適した栄養組成物であって、該組成物の毎日の投与量あたり5-120グラムの食物繊維を含有し、該繊維は可溶性非デンプン多糖類15-50重量%、不溶性非デンプン多糖類15-45重量%、オリゴ糖及び/又は難消化性デンプン8-70重量%から構成され、栄養組成物は、必要に応じて再構成した後に、液体組成物であり、リットル当たり5-120gの繊維を含み、更に炭水化物及び/又は脂肪及び/又はタンパク質性物質を含む栄養組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア 刊行物1(記載事項(1d))の「栄養組成物は液体組成物、または水で希釈することによって再構成される粉末組成物であってもよい。」なる記載によれば、引用発明の「栄養組成物は、必要に応じて再構成した後に、液体組成物であ」ることは、本願補正発明の「液状栄養組成物又は水で再構成した後の前記粉末状栄養組成物」であることに相当する。 イ 引用発明に含まれる「食物繊維」は食物繊維の供給源となることは明らかである。 また、刊行物1(記載事項(1e))の「栄養組成物は更に、消化性の炭水化物及び/又は脂肪及び/又はタンパク質性物質が含まれる。消化性の炭水化物(難消化性繊維炭水化物とは区別される)はほとんどの場合、エネルギー源を構成する。」なる記載によれば、引用発明における「炭水化物」は消化性炭水化物(すなわち可消化炭水化物)であるといえ、これが可消化炭水化物の供給源となることは明らかである。 そして、「タンパク質性物質」はタンパク質の供給源となることも明らかである。 したがって、引用発明において「食物繊維を含有し、」「更に炭水化物及び/又は脂肪及び/又はタンパク質性物質を含む」ことは、本願補正発明が「タンパク質供給源、可消化炭水化物の供給源及び食物繊維の供給源を含」むことに相当する。 ウ 引用発明が「リットル当たり5-120g」の食物繊維を含むことは、100mlあたりにすると0.5?12gとなるから、本願補正発明の食物繊維の包含量である2.5?3.3g/100mlの範囲を含むものの、本願補正発明に比べて広範である。 そうすると、両発明は100ml当たり所定量の食物繊維を含む点で両発明は共通する。 エ 引用発明の食物繊維が「可溶性非デンプン多糖類15-50重量%、不溶性非デンプン多糖類15-45重量%、オリゴ糖及び/又は難消化性デンプン8-70重量%から構成され」ることは、本願補正発明1の「食物繊維の供給源」が「全繊維の重量パーセントで、可溶性非デンプン多糖類25?35重量%、不溶性非デンプン多糖類37?47重量%、及びオリゴ糖25?35重量%を含むこと」と、食物繊維の成分として可溶性非デンプン多糖類、不溶性非デンプン多糖類、及びオリゴ糖を、全繊維に対して所定の割合で含む点で共通するが、それぞれの重量パーセントの数値範囲については一部重複するものの異なる範囲である。 上記ア?エの検討から、両者は、「液状又は粉末状栄養組成物であって、タンパク質供給源、可消化炭水化物の供給源及び食物繊維の供給源を含み、前記液状栄養組成物又は水で再構成した後の前記粉末状栄養組成物が、100ml当たり所定量の食物繊維を有し、前記食物繊維の供給源は、全繊維の重量パーセントでそれぞれ所定割合の可溶性非デンプン多糖類、不溶性非デンプン多糖類、及びオリゴ糖を含む、栄養組成物」である点で一致し、 次の点で相違する。 <相違点1> 栄養組成物の用途が、本願補正発明は「老人患者における腸管の健康又は快適性を向上させるため」のものであるのに対して、引用発明はそのような用途が特定されていない点。 <相違点2> 本願補正発明が「1.3?1.8kcal/mlのエネルギー密度」であると限定されているのに対して、引用発明はエネルギー密度について特定されていない点。 <相違点3> 食物繊維の包含量について、本願補正発明が「2.5?3.3g/100ml」であるのに対して、引用発明は0.5?12g/100mlである点。 <相違点4> 全繊維に対する重量パーセントが、本願補正発明は「可溶性非デンプン多糖類25?35重量%、不溶性非デンプン多糖類37?47重量%、及びオリゴ糖25?35重量%」であるのに対して、引用発明は「可溶性非デンプン多糖類15-50重量%、不溶性非デンプン多糖類15-45重量%、オリゴ糖8-70重量%」である点。 (4)判断 上記相違点について検討する。 ア <相違点1>について 刊行物1(記載事項(1b))には、「本発明は、臨床的な食物、幼児の食物あるいは食餌療法用の食物のような様々のタイプの栄養組成物として使用することができる食物繊維組成物に関する。」と記載されており、引用発明の栄養組成物が健常者のみならず、臨床患者や幼児など広く対象とするものであることは明らかである。 そして、刊行物1(記載事項(1c))には、「繊維は健康な人々の栄養に重要な役割を果たしている。繊維は腸内細菌叢へ便の量と基質を提供することにより、腸機能を維持し、毒性化合物を取り除き、そして、腸管の機能を良好に保つ。危篤状態の病気または慢性的な病気の入院患者、あるいは、通常は経腸臨床栄養を受ける昏睡状態の患者は、これらの目的のために繊維を必要とし、正しい繊維混合物を摂取することは、潰瘍性大腸炎、クローン病のような腸の問題に苦しむ患者、または、抗生物質を受け取った患者にとって特に重要である。更に、便秘や下痢のある人はこの種の栄養物に特に関心を持っており、同じことが、何らかの理由(例、ダイエット)で、繊維の毎日の推奨摂取量を摂ることができない人に当てはまる。」と記載されており、かかる記載によれば、食物繊維が上記のような患者にとっても腸機能を維持し、腸管の機能を良好に保つために重要であることが刊行物1に開示されているといえる。 病人、老人、幼児等、通常の食事では栄養がとれないか栄養がとりにくい人を対象とし、対象に適した栄養組成物を提供しようとする試みは、下記周知文献A?Dに記載されるように本願優先日前周知の課題である。 そして、刊行物1に老人用という直接の記載はないとしても、引用発明が対象とする臨床患者から老人患者が排除されるともいえない。 してみると、刊行物1の上記開示に基づき、引用発明の栄養組成物の適用対象を「老人患者」に限定し、「老人患者における腸管の健康又は快適性を向上させる」目的で使用することは当業者の容易に想到し得ることである。 周知文献A:特開昭63-309162号公報 (A1)「本発明は、経口・経管栄養食に係り、特に病人・老人・幼児等に対して、あるいは健康人に対しても有効な高カロリーで栄養バランスのとれた経口・経管栄養食に関する。」(1頁右下欄2?5行) (A2)「得られた粉末状または顆粒状の栄養食は、経口、経管投与時に水中、好ましくは約40℃?約600℃(審決注:「60℃」の誤記と認められる)の湯水中に投入し、攪拌、溶解して使用する。この場合には水溶液のカロリーが約0.5?1.5Kcal/mlになるように調節するのがよい。」(4頁右下欄5?9行) 周知文献B:特開昭64-67164号公報 (B1)「経口あるいは管を用いて投与すると、本発明の栄養組成物は、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルおよび微量元素等、老人に特有の要求、ならびに腸吸収を考慮したものであり、そしてストレスによる種々の問題を回避しながら老人に摂取させることができるので、老人の栄養要求に特に合致する。」(2頁左上欄10?16行) (B2)「本発明の栄養組成物の構成成分は、いくつかの目的をもって選択されている。 ・・・ 8.腸の通過を容易にすること 老人は「消化系の機能不全」を示すことが極めて多く、これを克服しなければならない。乳化物中に繊維が存在するとこれに寄与し、1日あたりの摂取量が3?12gであることが望ましい。」(2頁左上欄18行?3頁右上欄2行) 周知文献C:国際公開2002/039834号(対応する公表公報である特表2004-513898号公報の記載事項を示す。) (C1)「【0011】 本発明は上に挙げた問題を取り扱う。 【0012】 高齢患者に栄養を与えると共に、例えば競技者にパーフォーマンスの栄養を、あるいは入院患者に臨床の栄養を与えるために使用できる組成物が見出された。」 (C2)「【0027】 本発明の他の利点は免疫状態を予防又は治療するために食物に適合でき、食物中で簡単に投与できる単一の組成物を提供することである。この組成物は臨床又はパーフォーマンスの栄養環境において提供でき、特に高齢患者に適している。」 (C3)「【0044】 ・・・ 周知文献D:国際公開2002/009535号(対応する公表公報である特表2004-504824号公報の記載事項を示す。) (D1)「【0003】 関連技術の説明 National Academy of Scientistの食品栄養委員会(Food and Nutrition Board)は、食物繊維に対して、一日あたりの摂取勧告量(Recommended Dietary Allowance:RDA)を定めていない。しかし、食物繊維の重要性はほとんどの保健機関および連邦政府により認められている。米国農務省および保健福祉省の共同で出版された米国人のための食事指針(Dietary Guideline for Americans)には、適量の繊維を含む食品を取ることが推奨されている。米国国立がん研究所(National Cancer Institute)は、1日あたり35グラムを上限として20から30グラムの繊維を推奨している。 【0004】 食物繊維は人間の消化系により壊されない(消化されない)植物材料である。一般に、2種類の主な食物繊維-不溶性(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)および可溶性(ガム、植物粘質物(mucilage)、ペクチン)がある。不溶性の繊維は便の形成で嵩となり大腸を便が通過するのを早めることにより正常な排泄を促す。可溶性繊維は血中のコレステロール・レベルを低下させる作用を果たしているということが研究で示されている。」 (D2)「【0018】 本発明者等に既知の入手可能な飲料組成物のいずれも、前記飲料としての組成物に記載されたように、イヌリンおよび繊維をこのように高濃度で含みながら、同時にこのように低粘度であるということはない。本発明者等の知るかぎりでは、繊維がこのように高濃度であって粘度が低いこのような飲料製品は市場にない。この飲料は、より広く消費者に受け入れられるように、自然薬(natural medicine)とリフレッシュ飲料の中間にある。液体処方はほとんどの患者、特に固体の形態で規則的に服用することが通常困難な老人の患者を含む成人の患者にとって有益である。」 イ <相違点2>について 一般に、栄養所要量は、1日を単位に決められており、エネルギー及び各栄養素の1日の摂取量を示すものである。エネルギー所要量も通常1日を単位に必要な摂取量が検討されており、1日3回に分けて栄養を摂取する場合、1回の食事でのエネルギー量(kcal)は1日当たりのエネルギー所要量の概ね1/3を摂取すべきものとなる。 そうすると、栄養組成物によって必要な栄養を賄おうとすれば、1回当たりに摂取すべきエネルギー量は自ずと決まってくる。 また、1回に摂取できる液体の総量も自ずと限度があり、老人であれば、1回に摂取可能な液体量は少なくなることも自明のことである。 してみると、液体1ml当たりのエネルギー量を表すエネルギー密度(kcal/ml)は、上記の1回に摂取すべきエネルギー量と1回に摂取可能な範囲での好ましい液体総量とから適宜導き出されるものといえる。 そうであるところ、上記(3)アで検討したとおり、本願補正発明も引用発明も、粉末状態の栄養組成物を水に溶かして液状栄養組成物として摂取する態様を含む点で共通しているが、このような態様において、粉末状または顆粒状の栄養食を水に溶解して使用する場合には水溶液のカロリーが約0.5?1.5kcal/mlになるように調節するのは、上記周知文献A(記載事項(A2))に記載されるように周知技術である。 また、刊行物2(記載事項(2a))には、代謝ストレス患者用の経腸栄養組成物のエネルギー密度を1.4?1.8kcal/mlとすることが記載され、更に、高齢患者を対象とする液体の栄養組成物において、エネルギー密度を1.6kcal/mlとすることも上記周知文献Cの表1の「(臨床試験利用可能)の欄」(記載事項(C2)参照))に記載されており、高齢患者を対象とする場合を含めて、エネルギー密度が1.6kcal/ml程度の栄養組成物は、本願優先日前周知であったといえる。 更に、また、本願明細書中には、エネルギー密度の上限と下限についての臨界的な技術的意義を示すデータや記載事項はない。 してみると、引用発明の液体栄養組成物を老人患者を対象として調製する際、老人患者が1回に摂取可能な液体総量の範囲で必要なエネルギー量を摂取できるように、液体栄養組成物のエネルギー密度を決定することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることであり、その結果、本願補正発明において導き出されたエネルギー密度の1.3?1.8kcal/mlとの数値範囲も上記周知技術における数値と格別相違するものではない。 ウ <相違点3>について 食物繊維の摂取量の望ましい値について、下記周知文献Eの「第6次改定 日本人の栄養所要量-食事摂取基準-」(日本人の栄養所要量の改定について(答申) 平成11年6月28日)では、「3.食物繊維の摂取量は成人で20?25gとすることが望ましい。」とされ、上記周知文献D(記載事項(D1))には「米国国立がん研究所(National Cancer Institute)は、1日あたり35グラムを上限として20から30グラムの繊維と推奨している。」と記載されている。 また、上記周知文献Cの表1の「(臨床試験利用可能)の欄」(記載事項(C2)参照))には、高齢患者を対象とする液体の栄養組成物において、食物繊維であることが明らかな「イヌリン&FOS配合物(30:70配合)g」(審決注:「FOS」はフルクトオリゴ糖を示す。本願明細書に記載の「フラクトオリゴ糖」に相当する。)を300ml当たり6g配合すること、すなわち、食物繊維の包含量が2g/100mlであることが記載され、更に、下記周知文献F(記載事項(F1))には、「Entera Fibre Plusは、200mlあたり300kcal及び5gの繊維を与え、6種類の風味で入手可能である。栄養不良の患者の栄養状態を向上するための便利で美味な手段であり、高齢者、長期にサプリメントを摂取している者、慢性的な便秘又は下痢に苦しんでいる者に特に有益である。」と記載され、Table 3(記載事項(F2))には、Entera Fibre Plusの食物繊維の包含量が2.5g/100mlであることが記載されているから、食物繊維の含有量が2g/100mlや2.5g/100mlの栄養組成物は、本願優先日前周知であったといえる。 そうすると、老人においても食物繊維を摂取すべきであること、老人患者を対象とする栄養組成物においても食物繊維を成分として含ませることは周知の事項であったといえ、引用発明の栄養組成物を老人患者用として調製するにあたり、食物繊維の含有量(栄養組成物中での配合量)について検討することは、当業者が当然成すことである。 そこで、老人患者用の栄養組成物中の食物繊維の含有量の具体的数値について検討すると、上述のとおり、「第6次改定 日本人の栄養所要量「食事摂取基準」」、「米国国立がん研究所」の何れにおいても、成人1日あたり20g以上の食物繊維の摂取が推奨されているから、例えば1日あたり20g以上の食物繊維を摂取するためには、上記イでエネルギー密度について述べたのと同様に、1日3回に分けて栄養を摂取する場合、1回で摂取すべき食物繊維の量は1日の摂取量の1/3となり、これを栄養組成物のみで賄おうとすれば、1回当たりに摂取すべき食物繊維の量は自ずと決まり、老人が1回に摂取可能な液体量から、栄養組成物100ml当たりの食物繊維の包含量は導き出される。 ここで、本願明細書【0038】には「好ましくは、本発明による組成物は、1人前の分量200ml当たりの食物繊維の重量で表して・・・」なる記載があるので、この記載に基づき、仮に1回に摂取する液体量を、例えば200mlとすれば、1日あたり20g以上の食物繊維を摂取するためには、単純に計算して食物繊維の包含量は3.33g/100ml(20gを3回で摂取するから1回当たり6.67gで、6.67g/200ml=3.33g/100ml)以上となる。しかも、1回あたりの摂取液体量を300mlに変更すれば、食物繊維の包含量は2.22g/ml以上となるから、1回当たりの摂取液体量に依存して100ml当たりの食物繊維の包含量は変わりうるものといえる。 一方、摂取すべき食物繊維の推奨量には上限があるから、当然、食物繊維の摂り過ぎは好ましくなく、栄養組成物中の食物繊維の包含量にも上限があることは自明のことである。 そうすると、老人患者に対して、上記の一般的な成人1日あたり摂取すべき食物繊維の推奨量が直ちに適用できないとしても、引用発明において0.5?12g/100mlとされる食物繊維の包含量の数値範囲の中から、老人患者が1回に摂取可能な液体の総量を勘案して、老人患者に適した食物繊維の摂取量となるように、栄養組成物100ml当たりの食物繊維の包含量を選定することは当業者が容易に成し得ることである。 そして、本願明細書全体の記載を見ても、食物繊維の包含量の上限と下限についての臨界的な技術的意義を示すデータや記載事項はない。 したがって、引用発明において食物繊維の包含量を2.5?3.3g/100mlとすることは、当業者が適宜決定し得る設計事項の範囲内のことである。 周知文献E:厚生労働書の公式ホームページ、日本人の栄養所要量の改定について(答申)、(別紙)「第6次改定 日本人の栄養所要量-食事摂取基準-」、[online]、平成11年6月28日、[平成25年4月23日検索]、インターネット (E1)表2の下には、 「3.食物繊維の摂取量は成人で20?25g(10g/1,000kcal)とすることが望ましい。」なる記載がある。 周知文献F:British Journal of Nursing, 1999, Vol.8, No.15, p.1027-1031 (訳文は当審で付した。) (F1)「This article examines the role of fibre in the diet with a special focus on Entera Fibre Plus, a new high energy, fiber-containing sip feed. ・・・Entera Fibre Plus contains a mixed fibre source, providing both soluble and insoluble fibre types, including inulin. This helps provide the full range of fibre benefits, which include reduction of constipation and diarrhoea, maintaining the health of the gut and encouraging beneficial gut bacteria to assist the body's defence systems. Inulin has a specific role in the latter. Entera Fibre Plus provides 300 kcal and 5g of fibre per 200 ml pack and is available in six flavours. It is a convenient and palatable way of improving the nutritional status of patients who are malnourished and may be of particular benefit to elderly people, those on long-term supplements and those who suffer from chronic constipation or diarrhoea. Entera Fibre Plus is approved by the Advisory Commitee on Borderline Substances(ACBS) and retail pharmacies or on prescription.」(1027頁右欄Abstract) (訳:この記事では、新しい高エネルギー、ファイバー含有飲料であるEntera Fibre Plusに特別の焦点を当てて、ダイエット食におけるファイバーの役割を調査する。・・・Entera Fibre Plusはイヌリンを含む可溶性及び不溶性繊維の両方のタイプを提供する混合された繊維供給源を含んでいる。これは、腸の健康を維持し、身体の防御システムを支援するように有益な腸バクテリアを促進して、便秘と下痢の縮小を含む、繊維のもたらす利点をすべての範囲で提供するのを助ける。イヌリンには後記の特定の役割がある。Entera Fibre Plusは、200mlあたり300kcal及び5gの繊維を与え、6種類の風味で入手可能である。栄養不良の患者の栄養状態を向上するための便利で美味な手段であり、高齢者、長期にサプリメントを摂取している者、慢性的な便秘又は下痢に苦しんでいる者に特に有益である。Entera Fibre Plusは、ボーダーライン製品審議会(ACBS)に承認されており、開業薬局又は処方箋により入手可能である。) (F2)「 」(1030頁 表3) エ <相違点4>について (ア)上記周知文献D(記載事項(D1)に「一般に、2種類の主な食物繊維-不溶性(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)および可溶性(ガム、植物粘質物(mucilage)、ペクチン)がある。不溶性の繊維は便の形成で嵩となり大腸を便が通過するのを早めることにより正常な排泄を促す。可溶性繊維は血中のコレステロール・レベルを低下させる作用を果たしている」と記載されるように、食物繊維における不溶性繊維、可溶性繊維それぞれの機能は周知の事項である。また、フルクトオリゴ糖等のオリゴ糖が腸内細菌叢の改善に効果的であることも周知の事項である(必要であれば、「丸善食品総合辞典」平成10年3月25日 丸善株式会社 956頁、参照) この様な周知事項を前提に、上記アで検討したとおりの、食物繊維は腸内細菌叢へ便の量と基質を提供することにより、腸機能を維持し、毒性化合物を取り除き、腸管の機能を良好に保つものであり、正しい繊維混合物を摂取することが腸の問題に苦しむ患者には重要であるとの刊行物1の開示を踏まえれば、食物繊維が「可溶性非デンプン多糖類15-50重量%、不溶性非デンプン多糖類15-45重量%、オリゴ糖及び/又は難消化性デンプン8-70重量%から構成され」るものである引用発明は、食物繊維として可溶性非デンプン多糖類、不溶性非デンプン多糖類、オリゴ糖及び/又は難消化性デンプンの混合物を用いることにより総合的に、腸管の機能を良好に保つ効果を奏すものと理解され、食物繊維の混合物を構成する成分の割合は、提示される重量%の範囲内で適宜決定し得るものといえる。 そして、本願明細書全体の記載を見ても、全繊維に対する重量パーセントを、可溶性非デンプン多糖類25?35重量%、不溶性非デンプン多糖類37?47重量%、及びオリゴ糖25?35重量と限定することにより、その数値範囲を外れる場合に比べて、本願補正発明が、格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 したがって、引用発明において、全繊維に対する重量パーセントを、可溶性非デンプン多糖類25?35重量%、不溶性非デンプン多糖類37?47重量%、及びオリゴ糖25?35重量とすることは、当業者の適宜なし得ることである。 オ そして、本願明細書記載の本願補正発明の効果は、引用発明及び刊行物2に記載された事項並びに上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 (5)特許法第29条第2項(進歩性)についてのまとめ 上記(4)の検討のとおり、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.本件補正についてのむすび 上記3.のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成23年6月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年10月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「液状又は粉末状栄養組成物であって、タンパク質供給源、可消化炭水化物の供給源及び食物繊維の供給源を含み、前記液状栄養組成物又は水で再構成した後の前記粉末状栄養組成物が、1.3?1.8kcal/mlのエネルギー密度及び2.5?3.3g/100mlの食物繊維を有し、前記食物繊維の供給源は、全繊維の重量パーセントで、可溶性非デンプン多糖類25?35重量%、不溶性非デンプン多糖類37?47重量%、及びオリゴ糖25?35重量%を含むことを特徴とする、栄養組成物。」 2.刊行物の記載事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、2の記載事項、及び引用発明は、前記「第2 3.3-2 (1)」及び「第2 3.3-2 (2)」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記「第2[理由]」で検討した本願補正発明における「老人患者における腸管の健康又は快適性を向上させるための、液状又は粉末状栄養組成物」との発明特定事項を「液状又は粉末状栄養組成物」と拡張したものであり、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3.3-2」に記載したとおり、引用発明及び刊行物2に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1にかかる発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項並びに周知技知に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-17 |
結審通知日 | 2013-05-21 |
審決日 | 2013-06-03 |
出願番号 | 特願2006-519853(P2006-519853) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 平塚 政宏、飯室 里美 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 小川 慶子 |
発明の名称 | 高繊維高カロリーの液状又は粉末状栄養組成物 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 池田 成人 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 渡辺 欣乃 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 黒川 朋也 |