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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1280523
審判番号 不服2011-24397  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-11 
確定日 2013-10-16 
事件の表示 特願2007-501011「コンフォメーション固定ペプチド模倣物阻害剤としてのラクタム類」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 9日国際公開、WO2005/082849、平成19年 9月13日国内公表、特表2007-526255〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年 2月23日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2004年 2月23日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成18年10月23日 翻訳文提出書
平成23年 2月 2日付け 拒絶理由通知書
平成23年 6月 7日 意見書・手続補正書
平成23年 7月 6日付け 拒絶査定
平成23年11月11日 審判請求書・手続補正書
平成24年 8月30日付け 審尋
なお、平成24年 8月30日付けの審尋に対して、指定期間内に請求人から回答書は提出されなかった。

第2 本願発明
本件出願において特許を受けようとする発明は、平成23年11月11日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであると認められ、その請求項1には、以下のとおり記載されている。
「下記の構造式を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【化1】

(式中、
R^(1)は、Hまたはアルキルであり、
R^(2)およびR^(3)は、それぞれ独立して、Hまたはアルキルであるか、あるいはR^(2)とR^(3)は、それらが結合する原子とともに4?6員の複素環を形成し、
R^(4)およびR^(5)は、それぞれ独立して、Hまたはアルキルであり、
R^(6)は-B(Y^(1))(Y^(2))で表わされ、式中、Y^(1)およびY^(2)は-OHであり、
R^(7)は存在せず、
L、XおよびYは存在せず、
nは、0?3の整数である。)」
(以下「本願発明」という。)

第3 原査定の拒絶の理由の概要
拒絶査定には、「この出願については、平成23年 2月 2日付け拒絶理由通知書に記載した理由2-3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」と記載されている。
平成23年 2月 2日付け拒絶理由書には、「理 由」の欄に以下の記載がある。
「2.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
そして、上記拒絶理由通知書には、理由2について、以下の記載がある。
「<請求項1-16/理由2-3/備考(B)>
明細書には、請求項1の構造式で表される化合物を製造する方法および入手する方法等の情報が一切存在しないうえ、本願出願時の技術常識を参酌し明細書の記載をみても、当業者が過度の試行錯誤、実験を要することなく本願発明の化合物を製造、入手し得たとも認められない。物の発明について「発明を実施することができる」とは、その物を作ることができ、且つ、その物を使用できることであるから(審査基準を参照)、それらを製造する方法および入手する方法等が明細書に記載されていない本願発明の化合物に関する発明については、その物を作ることができ、且つ、その物を使用できるとはいえない。」
上記拒絶査定がされたときの請求項1は、拒絶理由通知がされたときの請求項1に対応するものである。
以上のことから、原査定の拒絶の理由における「平成22年 2月 2日付け拒絶理由通知書に記載した理由」の2とは、「発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」というものであると認められる。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるとはいえないので、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。

発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、明細書は補正されていないので、その記載は、平成18年10月23日付けで提出された翻訳文のとおりである。

「【0005】複数の回転性結合を有する分子は、様々な形状をとりうる。先導構造最適化における有用な構造改変の一つとして、コンフォメーション固定(conformational constraints)を与えることがある。これにより、分子を生物活性コンフォメーションにロックすることができ、結合のエントロピー損失を低減して、生物的効力を高めることができる。ある原子間の閉環を強制することによる、このような分子のコンフォメーション制限は、様々な結果をもたらしうる。凍結されたコンフォメーションが、柔軟な先導部の生物活性コンフォメーションと異なるか、追加した原子が結合を妨害する場合には、結果として生物活性が減少することもある。逆に、閉環が生物活性コンフォメーションを安定化する場合には、大抵は、生物活性が有意に増大することになる。この原理は、一連のラクタム誘導体を含む本発明によって実証されたが、本発明では、ラクタム環を用いて、アミドねじれをtrans配座に制限することによってコンフォメーション固定を与えている。」

「【0026】I.概略
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害剤などの、ポストプロリン分解酵素(PPCE)の阻害剤、その医薬組成物、およびそのような阻害剤の使用方法に関する。特に、本発明の阻害剤は、酵素を有効に阻害するために、アミノおよびボロニル基を適切に配置しながら、N-B結合形成および回転を阻害する、新奇なコンフォメーション制約型ジペプチド遷移状態ペプチド模倣物を含むことにより、従来技術のものによりも改善されている。これらの分子の原型は、4員、5員、6員、または7員環を有したラクタム制約型骨格と、様々な側鎖を保有する求電子性部位とを有する:
【化2】



「【0097】構造の例としては、以下のものが挙げられる:



発明の詳細な説明には、本願発明の化合物について、「本発明では、ラクタム環を用いて、アミドねじれをtrans配座に制限することによってコンフォメーション固定を与えている。」(【0005】)、「本発明の阻害剤は、酵素を有効に阻害するために、アミノおよびボロニル基を適切に配置しながら、N-B結合形成および回転を阻害する、新奇なコンフォメーション制約型ジペプチド遷移状態ペプチド模倣物を含むことにより、従来技術のものによりも改善されている。これらの分子の原型は、4員、5員、6員、または7員環を有したラクタム制約型骨格と、様々な側鎖を保有する求電子性部位とを有する」(【0026】)と記載されていることから、本願発明の化合物は、酵素を有効に阻害するためのアミノおよびボロニル基を適切な配置で有するとともに、ラクタム環構造によりコンフォメーションを固定することによって、化合物内でのN-B結合形成および回転が阻害された有効なプロテアーゼ阻害剤となるという、従来のプロテアーゼ阻害剤とは異なる構造上の特徴を有する化合物であると理解することができる。そして、【0097】には、構造の例として、具体的な化合物の構造が示されてはいる。
しかし、発明の詳細な説明には、本願発明の化合物を製造する方法については何ら説明する記載はない。

請求人は、審判請求書において、参考資料A?Gを示し、概略以下の主張をしている。
「 参考資料Aとして、発明者の実験ノートからコピーした、化合物Jの合成プロトコル及びそのNMRデータを添付いたします。下記にて詳細にご説明しますが、そのプロトコルは、請求項記載の化合物が、様々な一連の一般的な合成変換を用いて調製できることを示しています。
化合物Jのための開始材料は、本願優先日前にいずれも市販されていた試薬であるカルボキシルベンジル(Cbz)保護アミノ基およびピバルアルデヒドを用いてメチオニンから合成されたものであり、その合成ルートは、化学のテキストブックに記載されています。例えば、参考資料Cとしてコピーを添付のTheodora W. Greene, et al., Protective Groups in Organic Synthesis, 2nd Edition, John Wiley & Sons, Inc. (1991), pages 266-267に示されています。
工程(i)では、強力な非求核塩基ヘキサメチルジシラザンカリウム(KHMDS)を用いてエノラートを形成し、次いでn-BuIのSN2付加により、保護アミノ酸(オキサゾリジノンとして)をアルキル化します。当業界で公知の他の非求核塩基、例えば、ジイソプロピルアミンリチウム(LDA)等を用いてエノラートを形成することもできます。例えば、参考資料Bとしてコピーを添付のPhilip J. Koecienski, Protective Groups, Corrected Edition, Georg Thieme Verlag (2001), pages 219-220の 第220頁のScheme 6.85に記載されているように、そのような反応は周知でありました。
工程(ii)では、オキサゾリジノンとして保護されたカルボン酸の標準的な塩基脱保護が行われます。例えば、参考資料Cとしてコピーを添付のTheodora W. Greene, et al., Protective Groups in Organic Synthesis, 2nd Edition, John Wiley & Sons, Inc. (1991), pages 266-267の「66. 4-Alkyl-5-oxo-1,3-oxazolidine:」の欄に記載されているように、そのような反応は周知でありました。
工程(iii)では、ペプチド合成でアミド結合形成のために使用される標準的なカップリング試薬であるHATUを用いたアミド結合形成が行われます。例えば、参考資料Dとしてコピーを添付のJournal of the American Chemical Society 115: 3497-4398 (1993)に記載されているように、そのようなカップリング試薬を用いたアミド結合形成も周知でありました。
工程(iv)では、標準的なアルキル化剤(ヨードメチルMI)を用いて、硫黄(S)で陽イオン塩を形成するためのアルキル化が行われます。例えば、参考資料Eとしてコピーを添付のMichael B. Smith et al., March’s Advanced Organic Chemistry, 5th Edition, John Wiley & Sons, Inc. (2001), pages 496-497に記載されているように、この種類のアルキル化反応は周知であり、基礎有機化学の教科書に記載されています。
工程(v)では、周知の強塩基である水素化ナトリウム(NaH)を用いてアミド窒素を脱プロトン化して、分子内SN2反応によって環状化合物が形成されます。
工程(vi)では、三塩化ホウ素(BCl3)を用いて保護ホウ酸ピナンエステルおよびベンジルオキシカルボニル(Cbz)基を除去して、本願請求項記載の化合物が得られます。例えば、参考資料Fとしてコピーを添付のJournal of Organic Chemistry 39 (10): 1427-1429 (1974); および参考資料Gとしてコピーを添付のJournal of the American Chemical Society 102: 7590-7591 (1980)に記載されているように、それら反応も当業界で周知でありました。
上記参考資料として添付の文献はいずれも、本願の優先日よりかなり前に発行されたものであり、本願発明の化合物(化合物J)が、公知の化合物から本願優先日当時に周知の反応を用いて調製できることを支持するものであります。請求項記載の化合物を調製するための合成方法は、本願優先日当時の社会の共有財産であり、当業者であれば、本願明細書の開示に基づき、請求項記載の化合物を容易に調製することができました。
従って、当業者であれば、本願明細書の記載ならびに本願優先日当時の技術常識に基づき、本願請求項記載の化合物をどのように調製するかを容易に理解でき、また本願請求項記載の化合物を容易に調製し、本願発明を実施し得たものと思料いたします。」



請求人の主張は、請求項記載の化合物は、公知の化合物から本願優先日当時に周知の反応を用いて調製できるのであるから、本願優先日当時の技術常識を考慮すれば、発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、当業者がその実施をすることができる程度に記載されたものであるので、特許法第36条第4項第1号に適合する、というものであると認められるので、請求人の主張を考慮して検討する。

請求人が審判請求書において提示した参考資料Aの合成経路は、発明の詳細な説明には記載されていなかったものである。そして、この合成経路における出発物質(以下単に「出発物質」という。)は、オキサゾリジノン環を有する化合物であるのに対し、本願発明の化合物は、ラクタム環構造を基本骨格とする化合物であるので、両者の構造は全く異なるものであること、及び、ラクタム環構造の製造方法として、この出発物質のようなオキサゾリジン環を有する化合物から出発する方法は、通常の製造方法であるとの事実もないことからみれば、この出発物質を用いる参考資料Aの合成経路は、技術常識を考慮しても、化合物の製造方法について何ら説明のない本願の発明の詳細な説明の記載からは、当業者であっても全く想起し得ないものである。
また、本願発明の化合物の特徴であるラクタム環構造を形成する工程vについては、これが公知の反応であることを示す文献は提示されておらず、また、ラクタム環構造の形成には、通常、工程vの反応を用いるとの技術常識の存在も認められない。このように、参考資料Aの合成経路は、その合成経路が記載されていない発明の詳細な説明からは、当業者が想起することができないものであって、しかも、参考資料Aの合成経路を見た後ですら、当該合成経路に従って当業者が化合物を合成しようとする場合には、試行錯誤により反応条件を検討する必要があり、技術常識を考慮しても、何ら手掛かりとなる記載のない発明の詳細な記載からは、その試行錯誤に過度の負担を要するものである。
そうすると、技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明は、本願発明の化合物を製造することができる程度の記載がされていないので、その記載は、本願発明について当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、本願は、特許法第49条第4号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-17 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-03 
出願番号 特願2007-501011(P2007-501011)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 裕之  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 中島 庸子
齋藤 恵
発明の名称 コンフォメーション固定ペプチド模倣物阻害剤としてのラクタム類  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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