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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1280526
審判番号 不服2011-24603  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-15 
確定日 2013-10-16 
事件の表示 特願2006-513347「炭化水素をオキシジェネートまたはニトリルに転化させるための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月18日国際公開、WO2004/099113、平成18年11月 9日国内公表、特表2006-525334〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年4月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年5月2日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年12月27日に特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書(2通、補正書の提出年月日はそれぞれ、平成17年3月2日、平成17年6月3日)が提出され、平成22年5月14日付けで拒絶理由が通知され、同年8月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成23年7月11日付けで拒絶査定がされ、同年11月15日に拒絶査定に対する不服審判が請求がされるとともに手続補正書が提出され、平成24年8月30日に審尋がされ、平成25年3月1日に回答書が提出されたものである。

第2 平成23年11月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年11月15日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成23年11月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、
「【請求項1】
炭化水素反応物を、オキシジェネートまたはニトリルを含む生成物に転化させるための方法であって、
(A)前記炭化水素反応物と、酸素または酸素源と、任意選択のアンモニアとを含む反応物組成物を、触媒と接触したマイクロチャネル反応器の中に流して、前記炭化水素反応物を前記生成物に転化させること
を含み、前記炭化水素反応物が、前記マイクロチャネル反応器の中で発熱反応を受け、前記マイクロチャネル反応器が、前記触媒を含む複数のプロセスマイクロチャネルを備え、
(B)ステップ(A)の間、前記マイクロチャネル反応器から熱交換器へ熱を移動させること
を含み、前記熱交換器が、前記プロセスマイクロチャネルと熱接触した熱交換マイクロチャネルを備え、さらに、
(C)(1)ステップ(A)による前記生成物を、マイクロチャネル反応器と一体のまたはプロセスマイクロチャネルの触媒の下流側に存在するクエンチング装置によりクエンチすること、または
(2)前記炭化水素反応物および任意選択のアンモニアに、前記酸素または酸素源を多段添加により加えること、
を含み、前記酸素または酸素源が、前記炭化水素反応物および任意選択のアンモニアに、前記プロセスマイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点で加えられ、または
(3)熱交換器はプロセスマイクロチャネルと熱接触する少なくとも一つの熱交換チャネルからなり、熱交換流体は熱交換チャネル内にあり、熱交換流体は熱交換チャネル内で相変化を受けること、
からなる方法。」
を、
「【請求項1】
炭化水素反応物を、オキシジェネートまたはニトリルを含む生成物に転化させるための方法であって、
(A)前記炭化水素反応物と、酸素または酸素源と、任意選択のアンモニアとを含む反応物組成物を、触媒と接触したマイクロチャネル反応器の中に流して、前記炭化水素反応物を前記生成物に転化させること
を含み、前記炭化水素反応物が、前記マイクロチャネル反応器の中で発熱反応を受け、前記マイクロチャネル反応器が、前記触媒を含む複数のプロセスマイクロチャネルを備え、前記炭化水素反応物および任意選択のアンモニアがプロセスマイクロチャネル内を流れ、前記酸素または酸素源が、前記炭化水素反応物および任意選択のアンモニアに、前記プロセスマイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点で加えられ、
(B)ステップ(A)の間、前記マイクロチャネル反応器から熱交換器へ熱を移動させること
を含み、前記熱交換器が、前記プロセスマイクロチャネルと熱接触した熱交換マイクロチャネルを備え、さらに、
(C)ステップ(A)による前記生成物を、熱交換プロセスマイクロチャネルを流れる熱交換流体を用いて冷却することで、反応をクエンチすること、
からなる方法。」
とする補正を含むものである。

この補正は、補正前に「(C)(1)または(C)(2)または(C)(3)」と択一的に記載されていたステップのうち、「(C)(3)」の選択肢を削除する補正を含んでいる。
また、ステップ「(C)(1)」とステップ「(C)(2)」についての補正について検討する。
「(C)(1)」の「下流側に存在するクエンチング装置」については、平成23年11月15日に提出された審判請求書で「補正後の請求項1と81は、明らかに引用文献1で開示する下水槽(sump)の使用を回避しております。」と述べているように、「(C)(1)」内の選択肢が補正により削除されている。
「(C)(2)」の一部である「前記酸素または酸素源が、前記炭化水素反応物および任意選択のアンモニアに、前記プロセスマイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点で加えられ」る点を、補正後のステップ(A)に発明特定事項としてに実質的に組み込まれている。

すなわち、全体として見ると、この補正は、補正前の発明を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」といい、本件補正後の明細書を「本願補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

2 独立特許要件について
(1)刊行物及び記載事項
刊行物a?eは以下のとおりであり、以下の事項が記載されている。なお、刊行物c?eは、当業者に周知の事項を示すために引用するものである。
刊行物a:国際公開第02/18042号(前審における引用文献1)
刊行物b:特開平11-171857号公報(前審における引用文献2)
刊行物c:特開平3-190846号公報
刊行物d:特開平4-275238号公報
刊行物e:特開昭61-178956号公報

刊行物a(記載事項は、刊行物aのファミリー文献である特表2004-507346号公報における該当箇所の日本語文で示す。)
(a1)「【請求項1】
壁部材(1)、スロット形状反応スペース(3)及び流体熱キャリアを通過させるキャビティ(5)が配置された反応器を使用して少なくとも2種類の流体反応体(R1,R2)の間の反応を実施する方法において、
a)スロット形状反応スペース(3)を、それぞれの場合、2つの実質的に等しい大きさのかつ実質的に正平行六面体の、固体のプレートから形成された壁部材(1)の横方向表面(2)の間に形成し、かつ壁部材(1)を実質上の正平行六面体内部のブロック(24)内に交換可能に配置し、
b)反応体(R1,R2)をスロット形状反応スペース(3)内にブロック(24)の同じ側面上に位置する縁部領域から導入しかつ反応混合物として同様な方向で平行流で反応スペース(3)を通過させ、かつ
c)流体熱キャリアを壁部材(1)の内部を延びる管状キャビティ(5)を通過させることを特徴とする、スロット形状反応スペースを有する反応器内で反応を実施する方法。」(刊行物a、ファミリー文献ともに、特許請求の範囲の請求項1)
(a2)「【請求項6】
反応スペース(3)のスロット幅を0.05?5mmに選択し、それにより爆発性反応混合物の場合、反応スペースのスロット幅“s”を火炎の広がりを回避するためにそのように小さく選択する、請求項1記載の方法。」(刊行物a、ファミリー文献ともに、特許請求の範囲の請求項6)
(a3)「【請求項14】
触媒の存在下にプロペン及びO_(2)含有ガスからプロペナールを製造するために使用する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
触媒及び促進剤の存在下にプロペン及びO_(2)含有ガスからアクリル酸を製造するために使用する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
酸化物又はケイ酸塩触媒の存在下にそれぞれエチレン又はプロピレン、及びガス状過酸化水素からエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを製造するために使用する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。」(刊行物a、ファミリー文献ともに、特許請求の範囲の請求項14?16)
(a4)「【請求項23】
反応スペース(3)に顆粒触媒が充填されている、請求項17記載の装置。」(刊行物a、ファミリー文献ともに、特許請求の範囲の請求項23)
(a5)「更に、流動路の寸法が数百ミクロン(一般に<100μm)の範囲内にある、いわゆるマイクロ反応器が公知である。このことは高い搬送価値(熱伝達及び質量搬送パラメータ)を生じる。」(刊行物aの5頁25?29行、ファミリー文献の段落【0010】)
(a6)「本発明が基礎とした目的は、若干の流体反応体を互いに触媒の存在又は不在下で反応させ、かつその際反応器の反応領域が、生産量を必要に合わせることができるようにモジュール式設計で構成されていることによって、任意に、発熱的及び吸熱的プロセスを実施することが可能である方法及び装置を提供することである。」(刊行物aの6頁9?16行、ファミリー文献の段落【0011】)
(a7)「【0014】
しかしながら、なお別の利点が生じる:
-マイクロ反応技術と、古典的なワークショップ技術に基づく簡単な製造の利点との組合せ、
・・・
-反応スペース内のみでの反応体の混合、十分な反応制御、
・・・
-高い熱伝達率及び大きな表面による十分な制御可能性、即ち負荷及び/又は所望の温度値及び均一な温度プロフィールにおける変化に対する迅速な応答、それにる“ホットスポット”の回避による触媒の長い耐用時間、
・・・
-液体内への浸漬可能性、及び外部から温度制御する(加熱/冷却)ことができかつ“急冷”及び/又は洗浄の反応の温和な終了を可能にする底部液(sump)での操作可能性、
・・・
-拡散に対する低い抵抗、高い空時収率、特に公知のマイクロ反応器の場合におけるよりも高い処理量、
・・・
-小さなプラントの構成の可能性。」(刊行物aの8頁15行?10頁12行、ファミリー文献の段落【0014】)
(a8)「図3は、耐圧反応器の底部7の上の図2に基づく系列装置の上部の垂直断面図を示し、ここには底部の下方フランジジョイント8が示されている。液状溶剤の供給はパイプ9を介して行われ、残留ガスの除去はパイプ10介して行われ、最終生成物の取出しはパイプ11を介して行われれ、かつ場合により清浄化の目的のために底部液材料材料の除去はパイプ12を介して行われる。
・・・管状壁部材には、既に記載した、流体熱キャリアを通過させるためのキャビティ5が配置されている。その温度制御に依存して、発熱反応プロセスの場合には熱を消滅させ、吸熱反応プロセスの場合には、熱を供給することができる。」(刊行物aの17頁8行?18頁1行、ファミリー文献の段落【0024】?【0025】)
(a9)「壁部材1に、更に準円筒状の窪み14が設けられており、この窪みは、第1の反応体のための実質的に円筒形の供給路15を形成するように互いに相補的である。更に、壁部材には、少なくとも1つの別の反応体のための供給路16が配置さえている。該供給路16は、それぞれの反応スペース3に排出開口<discharge openings >17によって接続されており、それにより排出開口17は、壁部材の横方向表面2に通じているので、反応体は反応スペース3内で混合可能である。キャビティ5、供給路15および16及びまた数列の排出開口<row(s) of discharge openings>17は互いにかつ壁部材1の表面対して水平方向で見てその全長を越えて延びている。
冷却通路(=管状キャビティ(5))は、図4に基づき供給通路(15)の形成に類似した方法で、従って各々の壁部材1が横方向(2)の対して2つのサブ部材に分割されかつ準円筒状又はその他の形状の窪みがスロット表面内に配列される。」(刊行物aの18頁4?24行、ファミリー文献の段落【0026】?【0027】、なお<>内は、当審にて刊行物aの対応語句を特に付記した部分である。)
(a10)「図3

」(刊行物a、ファミリー文献ともに、図3)
(a11)「図4

」(刊行物a、ファミリー文献ともに、図4)

刊行物b
(b1)「【請求項1】 少なくとも2つ連結した酸素原子(-O-O-)を含む過酸化物である酸化剤を添加することを通して有機化合物を溶液の形態で酸化させる有機化合物液相酸化方法であって、該有機化合物を含有する出発材料流れAと該過酸化物である酸化剤を含有する出発材料流れBを互いに連続混合しそしてこの液状反応混合物を多数の平行反応経路(4’)と隣接する冷却経路(3’)が備わっていて該反応経路が該隣接する経路の流れ方向に対して垂直で該反応経路の最大経路寸法aが<1000μm、好適には<500μmで該反応経路と該冷却経路の間の最小壁厚bが<1000μm、好適には<100μmであるミクロ反応槽(1)に送り込むことで上記反応混合物を該反応経路(4’)の間で分割すると同時に該冷却経路(3’)に冷媒を送り込むことで該反応経路(4’)内で起こる発熱酸化反応によって該ミクロ反応槽内で発生する熱を除去することを特徴とする方法。」
(b2)「【0011】この目標を、本発明に従い、有機化合物を含有する出発材料流れAと過酸化物である酸化剤を含有する出発材料流れBを互いに連続混合してその液状反応混合物を多数の平行反応経路(parallel reaction channels)と隣接する冷却経路(adjacent cooling channels)が備わっているミクロ反応槽(microreactor)に送り込むことで上記反応経路の間で分割することを通して達成する。それと同時に、上記冷却経路に冷媒を送り込むことで、上記反応経路内で起こる発熱酸化反応によって上記ミクロ反応槽内で発生する熱を除去する。」
(b3)「【0027】
ミクロ熱交換器が例えば[3](ドイツ特許第37 09 278号)・・・などに記述されている。
・・・
図1に例として[3]に記述されているミクロ熱交換器1の構造を示す。・・・互いに平行して流れる反応混合物4用ミクロ経路4’と冷媒3用ミクロ経路3’を導入する。上記経路の最小寸法は約10μmであり、これは[3]で達成可能である。ミクロ経路3’および4’の幾何形状は所望に応じて選択可能である。従って、断面は例えば長方形および円形であってもよい。上記ミクロ経路3’と4’に異なる寸法を持たせてもよい。」
(b4)「【0037】図4では、新しい出発材料溶液14j(j=aからn)または循環反応混合物もしくは生成物溶液15(j_(1)/j_(2))[j_(1)=bから(n+1)、j_(2)=aからn]を、任意に、個々のミクロ反応槽の間に位置する1つ以上の地点に送り込むことができる。従って、例えば必要量の過酸化物の一部をジェットミキサーに通して送り込んで、その残りを部分流れ14cとしてミクロ反応槽10bと10cの間に添加することも可能である。これは、反応混合物内の過酸化物濃度が低く保たれることで過酸化物の分解が抑制されると言った利点を有する。」
(b5)「【0034】同じか或は異なる構造のミクロ反応槽を2つ以上(好適には、必要な連結が複雑になることから20個未満)直列連結することで、反応の収率および選択率に関して特に有利な温度プロファイルを達成することができる。図4に、直列連結させた複数のミクロ反応槽10aから10nを示し、ここでは、個々のミクロ反応槽を任意に中間的な空間部を設けずに互いに連結、即ち直接連結するか、或は複数の管部分13aから13nを通して連結してもよい。
・・・
【0038】好適なミクロ反応槽回路を図7に示す。直列連結させた2つのミクロ反応槽10aおよび10bを管部分13bで互いに分離する。第一ミクロ反応槽10a内では、13a内で起こる混合の直後に放出される反応熱と10a内で放出される反応熱が制御下で除去される。この場合、ミクロ反応槽10aによって、反応開始時に起こる反応手順が制御されて選択的に起こることが確保される。このことは、この場合に出発材料が高い濃度のまま存在しているとそれに関連して反応性が高くなることから明確に反応開始時にとって重要である。残りの変換は下流の管部分13b内で進行し、これに伴って単位時間当たりに生じる熱は一般により低い。この場合に放出される残存熱は2番目のミクロ反応槽10b内で除去される。この2番目のミクロ反応槽10bは、この場合、この装置の下流でもはや有意な反応変換が進行し得ないように、即ち下流に位置する生成物貯蔵槽12内で有意な反応が起こり得ないように、反応混合物を冷却して低い温度にする安全のための熱交換器の追加的機能を果す。任意に、冷媒11aの一部をバイパス回路に通してミクロ反応槽10bの中に導いてもよく、そして他の部分11bをバイパスでミクロ反応槽10bを迂回させることも可能である。その予熱された冷媒流れ11aと冷たい流れ11bが混合地点14の所で一緒になる。この場合には冷媒流れ11cの温度をいろいろに設定することができる。」
(b6)「図1


(b7)「図4


(b8)「図7



刊行物c
(c1)「上述のごとく本発明においては、反応域を直列に多段に設けて酸素を各反応域に分割供給する方法を採用することにより、各反応域での酸素濃度を低くしてアルコールや一酸化炭素などの燃焼反応の併発を抑制することができるので、選択率の向上が図れると共に、酸素の必要量を一括して一つの反応域に導入する方法に比べ収率の向上も期待できる。」(4頁右上欄2?9行)

刊行物d
(d1)「【0024】本発明は、温度500?1500℃のメタン含有ガスおよび酸素含有ガスと触媒とを接触させて、炭素数2以上の炭化水素を製造する方法において、多段触媒反応塔の各段でのCH_(4)/O_(2)モル比が一定になるように酸素含有ガスを分割導入することを特徴とする炭化水素の製造システムであって、本発明の製造方法を用いることにより炭化水素の収率を飛躍的に向上することができる。」

刊行物e
(e1)「この発明による多段階反応方式により発熱反応による熱を制御することができ、各反応器の操作温度を所望の範囲に留めることが可能となる。第1段階で酸素を当量以下で供給するためホルムアミドの部分的変換のみが生じ、したがって熱の発生もその分だけ少なくなる。この未反応のホルムアミドの存在はさらに発生した熱の吸収作用をもたらし、これにより反応温度が必要以上に上昇することが防止される。」(4頁右上欄14行?左下欄2行)

(2)刊行物aに記載された発明
刊行物aには、その請求項1に記載されるとおりの、
「壁部材(1)、スロット形状反応スペース(3)及び流体熱キャリアを通過させるキャビティ(5)が配置された反応器を使用して少なくとも2種類の流体反応体(R1,R2)の間の反応を実施する方法において、
a)スロット形状反応スペース(3)を、それぞれの場合、2つの実質的に等しい大きさのかつ実質的に正平行六面体の、固体のプレートから形成された壁部材(1)の横方向表面(2)の間に形成し、かつ壁部材(1)を実質上の正平行六面体内部のブロック(24)内に交換可能に配置し、
b)反応体(R1,R2)をスロット形状反応スペース(3)内にブロック(24)の同じ側面上に位置する縁部領域から導入しかつ反応混合物として同様な方向で平行流で反応スペース(3)を通過させ、かつ
c)流体熱キャリアを壁部材(1)の内部を延びる管状キャビティ(5)を通過させることを特徴とする、スロット形状反応スペースを有する反応器内で反応を実施する方法。」(摘示(a1))の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 反応物と生成物について
本願補正発明の「炭化水素反応物」は「プロピレン」を含み、これと「酸素源」とを反応させて、「オキシジェネート」である「アクリル酸、アクロレイン」に転化させる方法を含むところ(本願補正明細書の段落【0111】等)、引用発明においても、一方の反応体である「プロペン(プロピレンと同じ)」を、もう一方の反応体である「酸素含有ガス」と反応させて、「プロペナール(アクロレインと同じ)、アクリル酸」に転化する方法を包含するから(摘示(a3))、引用発明における「2種類の流体反応体(R1,R2)」は、本願補正発明における「炭化水素反応物、酸素源」に相当し、両者ともに、「炭化水素反応物を酸素源によって、オキシジェネートに転化させる方法」を包含する。

イ 本願補正発明の反応器について
本願補正発明は、ステップ(A)?(C)に示されるように、触媒を含み、反応物が流れるプロセスマイクロチャネルと、熱交換流体が流れる熱交換マイクロチャネルを備えたマイクロチャネル反応器を用いるものであって、本願補正明細書の段落【0039】に「酸素または酸素源は、プロセスマイクロチャネル340および350の中で炭化水素反応物・・・と混ざり合う。」、「プロセスマイクロチャネル340および350の中で、反応物は触媒と接触し反応して所望の生成物を生成する。」と記載されていることからすると、プロセスマイクロチャネルは、反応物の流動路であると同時に反応スペースでもあるといえる。

ウ 引用発明の反応器について
(ア)「スロット形状反応スペース(3)」について
引用発明は、「b)反応体(R1,R2)をスロット形状反応スペース(3)内に・・・導入し・・・反応スペース(3)を通過させ」るものであるが、ここで、「反応スペース(3)のスロット幅を0.05?5mmに選択」(摘示(a2))する場合があり、この幅は本願補正発明の「マイクロチャネル」の幅と重複するものである(本願補正明細書の段落【0007】)。そして、スロット形状反応スペースに触媒が充填されていて(摘示(a4))ここは反応物の流動路であると同時にその名称どおり反応スペースでもあること、さらに、刊行物aには、刊行物aの発明を説明するために「マイクロ反応器」や「マイクロ反応技術」が挙げられている(摘示(a5)、(a7))ことからすると、引用発明における「スロット形状反応スペース(3)」は、本願補正発明における「プロセスマイクロチャネル」に相当する。
また、引用発明は、図3(摘示(a10))から、その「スロット形状反応スペース(3)」が複数あることがわかる。

(イ)「流体熱キャリアを通過させるキャビティ(5)」について
引用発明は、「c)流体熱キャリアを壁部材(1)の内部を延びる管状キャビティ(5)を通過させる」ものであるところ、管状キャビティ(5)について、「図4に基づき供給通路(15)の形成に類似した方法で・・・配列され」(摘示(a9))、「流動路の寸法が数百ミクロン(一般に<100μm)の範囲内にある、いわゆるマイクロ反応器」(摘示(a5))であるから、その流動路の幅は、上記と同様、本願補正発明の「マイクロチャネル」の幅と重複し、さらに引用発明は「高い搬送価値(熱伝達及び質量搬送パラメータ)を生じる」(摘示(a5))と説明されていることからすると、引用発明の流体熱キャリアも、当然に熱交換のためのものといえる。そうすると、引用発明における「流体熱キャリアを通過させるキャビティ(5)」は、本願補正発明における「熱交換マイクロチャネル」に相当する。

(ウ)以上のことから、引用発明の反応器全体は「マイクロチャネル反応器」といえる。

エ 一致点と相違点について
そうすると両者は、
「炭化水素反応物を、オキシジェネートを含む生成物に転化させるための方法であって、
(あ)前記炭化水素反応物と、酸素源とを含む反応性組成物を、触媒と接触したマイクロチャネル反応器の中に流して、前記炭化水素反応物をオキシジェネートを含む生成物に転化させること
を含み、炭化水素反応物が、マイクロチャネル反応器の中で発熱反応を受け、マイクロチャネル反応器が、触媒を含む複数のプロセスマイクロチャネルを備え、炭化水素反応物がプロセスマイクロチャネル内を流れ、
(い)工程(あ)の間、マイクロチャネル反応器から熱交換器へ熱を移動させること
を含み、熱交換器が、熱交換マイクロチャネルを備え、さらに、
(う)工程(あ)による生成物を、熱交換プロセスマイクロチャネルを流れる熱交換流体を用いて冷却すること、
からなる方法。」
である点で一致し、次の(i)?(iv)の点で一応相違している。

(i)工程(あ)において、本願補正発明においては、「プロセスマイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点で、酸素源が炭化水素反応物に加えられる」のに対し、引用発明においては、「炭化水素反応物と酸素源が、ブロック(24)の同じ側面上に位置する縁部領域から導入しかつ反応混合物としている」点
(ii)工程(い)において、プロセスマイクロチャネルと熱交換マイクロチャネルとが、本願補正発明においては、「熱接触した」と特定しているのに対し、引用発明においては、このような特定をしていない点
(iii)工程(う)において、本願補正発明においては、「熱交換流体用マイクロチャネルを流れる熱交換流体を用いて冷却することで、反応をクエンチ」と特定しているのに対し、引用発明においては、このような特定をしていない点
(iv)反応器について、引用発明においては、「a)スロット形状反応スペース(3)を、それぞれの場合、2つの実質的に等しい大きさのかつ実質的に正平行六面体の、固体のプレートから形成された壁部材(1)の横方向表面(2)の間に形成し、かつ壁部材(1)を実質上の正平行六面体内部のブロック(24)内に交換可能に配置し、」と「a)」に掲げる特定をしているのに対し、本願補正発明においては、このような特定をしていない点

(4)判断
上記の相違点及び本願補正発明の効果について検討する。

ア 相違点(i)について
刊行物aに記載された具体例である図4(摘示(a11))及びその説明(摘示(a9))によれば、供給路15を第1の反応体が通り、供給路16を1つの別の反応体が通り、供給路16は複数の排出開口17によって反応スペース3に接続されているところ、複数の排出開口17は紙面略横方向に間隔を開けて並んでいる。そして、反応スペース3は、スリット形状のスペースであって、紙面縦横の両方向に延びる平面を有しているから、文言を通常に解釈すると「反応物用マイクロチャネルの長さに沿った」方向には、紙面縦方向も紙面横方向とも含まれるから、紙面横方向に並んでいる複数の開口17を通って反応スペースに加えられる反応体は、「反応物用マイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点」で加えられていることになる。
一方、プロピレンと酸素含有ガスの2つの反応体のうち、どちらを第1の反応体とし、どちらを1つの別の反応体とするかは、刊行物aに何ら限定して記載されていないのであるから、第1の反応体としてプロピレンを選択し、1つの別の反応体として酸素含有ガスを選択し、その結果、引用発明において、「プロセスマイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点で、酸素含有ガスがプロピレンに加えられる」、という方法を採用することは、当業者にとって容易である。

ここで、念のため、請求人が審判請求書で主張するように「反応物用マイクロプロセスチャネルの長さに沿った複数の異なる点」で酸素源を加えるという事項が、多段添加を意味すると解して検討する。多段添加のためには、反応体の流れる方向に沿った複数の異なる点で酸素源を加える必要があることになる。
刊行物aの摘示(a9)には、複数の排出開口17の列が単数でも複数でも良い(row(s))ことが示唆されているから、この示唆に従えば、図4の紙面縦方向でも「反応物用マイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点」に排出開口が設けられることになる。紙面縦方向に複数の排出開口を設けた場合には、多段添加されることとなる。
また、刊行物bは、ミクロ反応槽を用いて有機化合物を酸化する方法が記載されるものであるところ(摘示(b1)、(b2)、(b3)、(b6))、図4(摘示(b7))の説明には、「新しい出発材料溶液14j・・・を、任意に、個々のミクロ反応槽の間に位置する1つ以上の地点に送り込むことができる。」とされ、具体的には「例えば必要量の過酸化物の一部をジェットミキサーに通して送り込んで、その残りを部分流れ14cとしてミクロ反応槽10bと10cの間に添加することも可能である。」とされている(摘示(b4))。また、それによって一度に添加するよりも、一部を別に添加する方が、添加物が高濃度にならずに済むという利点も記載されているから、マイクロチャネル反応器を用いた反応において、反応が進行する方向に沿って、1つ以上の地点に一方の反応体を送り込むこと、すなわち、引用発明において、「プロセスマイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点で、酸素源が炭化水素反応物に加えられる」、という方法を採用することは、刊行物bの記載からみても、当業者にとって容易である。
さらに、マイクロチャネル反応器を用いたものではないが、酸素を一方の反応体とした発熱反応を行う際に、酸素あるいは酸素含有ガスを反応域に分割供給することで、発熱が抑えられ、目的物の収率が高まることは、当業者に周知であり(必要ならば、摘示(c1)、(d1)、(e1)参照)、本願補正発明のマイクロチャネル反応器を用いた場合に、この周知事項を適用できない理由もないから、一方の反応体である酸素含有ガスを反応域に沿って分割導入することは当業者が通常行う手段のひとつといえる。
したがって、「反応物用マイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点」で加える事項が、多段添加を意味すると解しても、相違点(i)は、当業者にとって容易に想到し得ることである。

イ 相違点(ii)について
「熱接触」とは、「プロセスマイクロチャネル104に隣接した熱交換チャネル(図示せず)の形態」(本願補正明細書の段落【0025】)といえるところ、引用発明においても、その図4に示されるとおり(摘示(a11))、「プロセスマイクロチャネル」に相当する「スロット形状反応スペース(3)」と、「熱交換マイクロチャネル」に相当する「流体熱キャリアを通過させるキャビティ(5)」とは隣接しており、これにより「発熱反応プロセスの場合には熱を消滅させ」ているのであるから(摘示(a8))、引用発明においても、プロセスマイクロチャネルと熱交換マイクロチャネルとは、「熱接触」しているといえる。
したがって、相違点(ii)は、実質的な相違点ではない。

ウ 相違点(iii)について
いかなる反応であっても反応を終わらせる、すなわちクエンチさせる手段を採用するのは当然であるところ、ミクロ反応槽を用いて有機化合物を酸化する方法が記載される刊行物bには、図7(摘示(b8))が示され、この図の説明によると(摘示(b5))、10a、10bはミクロ反応槽であり、11a、11bは冷媒であり、「この2番目のミクロ反応槽10bは、この場合、この装置の下流でもはや有意な反応変換が進行し得ないように、即ち下流に位置する生成物貯蔵槽12内で有意な反応が起こり得ないように、反応混合物を冷却して低い温度にする安全のための熱交換器の追加的機能を果す。」とされているから、冷媒をミクロ反応槽に通すことにより、反応を終わらせていることがわかる。
ミクロ反応槽すなわちマイクロ反応器において、冷媒である熱交換流体を用いて反応混合物を冷却して反応を終わらせることが知られているのであるから、そうすると、引用発明において、「熱交換流体用マイクロチャネルを流れる熱交換流体を用いて冷却することで、反応をクエンチ」することは当業者に容易である。

エ 相違点(iv)について
引用発明は、「反応器の反応領域が、生産量を必要に合わせることができるようにモジュール式設計で構成されていることによって、任意に、発熱的及び吸熱的プロセスを実施することが可能である方法及び装置を提供する」(摘示(a6))ということを目的として、壁部材等の特定をしたものであるから、このような目的を特に掲げていない場合、「a)」に掲げる特定をしないことは、寧ろ当然のことといえる。
したがって、引用発明において、「a)」に掲げる特定をしないことは、当業者にとって容易である。

オ 本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、本願補正明細書の段落【0004】に代表的に記載されるように、「マイクロチャネル反応器を使用しない従来技術の方法に比べて、より高い熱移動および物質移動速度、ならびにより短い接触時間を得ることができる。本発明の方法は、このような従来技術に比べてより正確な温度制御を提供する。正確な温度制御は、ピーク温度の低下および望まれていない副生物の生成の低減につながる。この方法を用いると、このような従来技術に比べて、炭化水素反応物のより高いレベルの転化率(conversion)、および所望の生成物のより高いレベルの選択率を得ることができる。」といえる。
しかしながら、「十分な反応制御」、「高い熱伝達率及び大きな表面による十分な制御可能性、即ち負荷及び/又は所望の温度値及び均一な温度プロフィールにおける変化に対する迅速な応答、それにる“ホットスポット”の回避による触媒の長い耐用時間」、「拡散に対する低い抵抗、高い空時収率」等、刊行物aに記載されるように(摘示(a7))、また刊行物bにも記載されるように(摘示(b2))、マイクロチャネル反応器の通常の利点といえる。
したがって、本願補正発明の効果は、当業者の予測を超える格別のものとはいえない。

(5)請求人の主張について
ア 請求人は、平成23年11月15日に提出した審判請求書において、概ね次の主張をしている。

(ア)「引用文献2(審決注:刊行物bのこと)は、反応槽の外で反応物質を混合することを開示しますが、請求項1及び81で特定するような、反応槽の中での混合は開示しておりません。」
(イ)「熱交換流体のためにマイクロチャネルを使用することは、引用文献1(審決注:刊行物aのこと)に開示されておりません。」
(ウ)「同段落は、「液状溶媒への浸水可能性および外部から温度調節(加熱・冷却)可能であり、「クエンチング」およびまたは洗浄により反応の速やかな終結を可能とする下水槽(sump)での取扱可能性」との記載があります。補正後の請求項1と81は、明らかに引用文献1で開示する下水槽(sump)の使用を回避しております。」

これを検討するに、(ア)について、マイクロチャネル反応器において反応槽の外で混合しても反応槽の中で混合しても、多段階で酸素含有ガスを加えることによって発熱反応が抑制され目的物の収率が高まる、という点については同じであるから、刊行物bに反応槽の中での混合が記載されていなくても、引用発明(刊行物aに記載された発明)に基づいて容易であるという判断に変わりはなく、(イ)について、刊行物aに記載の「流体熱キャリアを通過させるキャビティ(5)」が、本願補正発明における「熱交換マイクロチャネル」に相当すことは、上記「(4)ウ(イ)」に示したとおりであり、さらに、(ウ)については、上記「(5)ウ」に示したように、刊行物bの図7の説明に、下水槽を有さずに熱交換流体用マイクロチャネルを用いることでクエンチすることができることが記載されている。

イ さらに請求人は、平成25年3月1日に提出した回答書において、補正案を提示しつつ、概ね次の主張をしている。

(エ)「上記引用文献(審決注:刊行物c、d、eのこと)には、マイクロチャネルを用いた構成については記載されておらず、本願発明の「酸化剤マイクロチャネル」や、「プロセスマイクロチャネルと酸化剤マイクロチャネルとの間に設けられた1以上のオリフィス」という構成についても記載されておりません。」
(オ)引用文献2には、「本願発明の「生成物を、熱交換プロセスマイクロチャネルを流れる熱交換流体を用いてクエンチング装置で冷却して反応をクエンチする」という・・・構成については記載されておりません。」

しかしながら、(エ)について、酸素含有ガスを異なる経路から入れることは、刊行物aの図4から読み取ることができ、該図の、17で示された排出開口が、補正案におけるオリフィスに該当することは当業者ならばすぐ理解するところといえ、(オ)について、刊行物bの図7の説明にクエンチのことが実質的に記載されていることは、上記「(4)ウ」に示したとおりである。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張によっても、判断に変わりはない。

(6)まとめ
よって、本願補正発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物a及びbに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 むすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成23年11月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成22年8月17日付け手続補正により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?81に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「【請求項1】
炭化水素反応物を、オキシジェネートまたはニトリルを含む生成物に転化させるための方法であって、
(A)前記炭化水素反応物と、酸素または酸素源と、任意選択のアンモニアとを含む反応物組成物を、触媒と接触したマイクロチャネル反応器の中に流して、前記炭化水素反応物を前記生成物に転化させること
を含み、前記炭化水素反応物が、前記マイクロチャネル反応器の中で発熱反応を受け、前記マイクロチャネル反応器が、前記触媒を含む複数のプロセスマイクロチャネルを備え、
(B)ステップ(A)の間、前記マイクロチャネル反応器から熱交換器へ熱を移動させること
を含み、前記熱交換器が、前記プロセスマイクロチャネルと熱接触した熱交換マイクロチャネルを備え、さらに、
(C)(1)ステップ(A)による前記生成物を、マイクロチャネル反応器と一体のまたはプロセスマイクロチャネルの触媒の下流側に存在するクエンチング装置によりクエンチすること、または
(2)前記炭化水素反応物および任意選択のアンモニアに、前記酸素または酸素源を多段添加により加えること、
を含み、前記酸素または酸素源が、前記炭化水素反応物および任意選択のアンモニアに、前記プロセスマイクロチャネルの長さに沿った複数の異なる点で加えられ、または
(3)熱交換器はプロセスマイクロチャネルと熱接触する少なくとも一つの熱交換チャネルからなり、熱交換流体は熱交換チャネル内にあり、熱交換流体は熱交換チャネル内で相変化を受けること、
からなる方法。」

ここで、ステップ(C)については、「(C)(1)または(C)(2)または(C)(3)」と択一的に記載されているため、以下、「(C)(1)」の場合を「本願発明1」、「(C)(2)」の場合を「本願発明2」、「(C)(3)」の場合を「本願発明3」といい、併せて「本願発明」ともいう。

第4 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、
「本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

引用例1、2は次のとおりであり、「第2 2(1)」に示した刊行物a、刊行物bと同じである。
引用例1:国際公開第02/18042号(以下、「刊行物a」という。)
引用例2:特開平11-171857号公報(以下、「刊行物b」という。)

第5 当審の判断
1 刊行物の記載事項
刊行物a、刊行物bの記載事項は、「第2 2(1)」に示したとおりである。

2 刊行物aに記載された発明
刊行物aに記載された発明(以下、「引用発明」という。)は、「第2 2(2)」に示したとおりである。

3 対比・判断
(1)本願発明
上記のとおり、本願発明は、本願発明1、本願発明2、本願発明3を選択肢として含むものである。以下、本願発明1について検討する。

(2)本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
反応物と生成物、及びそれぞれの反応器については、「第2 2(3)ア?ウ」に示したとおりであるから、両者は、
「炭化水素反応物を、オキシジェネートを含む生成物に転化させるための方法であって、
(あ)炭化水素反応物と酸素源とを、触媒と接触したマイクロチャネル反応器の中に流して、炭化水素反応物をオキシジェネートを含む生成物に転化させること
を含み、炭化水素反応物が、マイクロチャネル反応器の中で発熱反応を受け、マイクロチャネル反応器が、触媒を含む複数のプロセスマイクロチャネルを備え、
(い)工程(あ)の間、マイクロチャネル反応器から熱交換器へ熱を移動させること
を含み、熱交換器が、熱交換マイクロチャネルを備えること、
からなる方法。」
である点で一致し、次の(i’)、(ii’)、(iv’)の点で一応相違している。

(i’)工程(い)のあとに、本願発明1においては、「生成物を、マイクロチャネル反応器と一体のまたはプロセスマイクロチャネルの触媒の下流側に存在するクエンチング装置によりクエンチすること」なる工程があるのに対し、引用発明においては、このような工程はない点
(ii’)工程(い)において、プロセスマイクロチャネルと熱交換マイクロチャネルとが、本願発明1においては、「熱接触した」と特定しているのに対し、引用発明においては、このような特定をしていない点
(iv’)反応器について、引用発明においては、「a)スロット形状反応スペース(3)を、それぞれの場合、2つの実質的に等しい大きさのかつ実質的に正平行六面体の、固体のプレートから形成された壁部材(1)の横方向表面(2)の間に形成し、かつ壁部材(1)を実質上の正平行六面体内部のブロック(24)内に交換可能に配置し、」と「a)」に掲げる特定をしているのに対し、本願発明1においては、このような特定をしていない点

これを検討するに、相違点(i’)について、刊行物aには、引用発明で用いるマイクロチャネル反応器として図3が示され(摘示(a10))、「液体内への浸漬可能性、及び外部から温度制御する(加熱/冷却)ことができかつ“急冷”及び/又は洗浄の反応の温和な終了を可能にする底部液(sump)での操作可能性」(摘示(a7))、「底部の下方フランジジョイント8が示されている。液状溶剤の供給はパイプ9を介して行われ、残留ガスの除去はパイプ10介して行われ、最終生成物の取出しはパイプ11を介して行われれ、かつ場合により清浄化の目的のために底部液材料材料の除去はパイプ12を介して行われる。」(摘示(a8))なる説明がされ、ここで「“急冷”」とはその結果クエンチすることと解され、また、「(sump)」とは図3の下部の水ため装置といえるから、図3にも、「マイクロチャネル反応器と一体のまたはプロセスマイクロチャネルの触媒の下流側に存在する装置によりクエンチする」ものが記載されている。そして、これは「クエンチ装置」といえるから、引用発明において、「生成物を、マイクロチャネル反応器と一体のまたはプロセスマイクロチャネルの触媒の下流側に存在するクエンチング装置によりクエンチすること」なる工程を設けることは当業者にとって容易である。
また、相違点(ii’)、(iv’)は、「第2 2(3)エ」に示した相違点(ii)、(iv)と同じであるから、両相違点についての判断は、「第2 2(4)イ、エ」に示したとおりである。

4 まとめ
したがって、本願発明1は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物a及びbに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2及び本願発明3について検討するまでもなく、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-15 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-03 
出願番号 特願2006-513347(P2006-513347)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07C)
P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 英一井上 千弥子  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 村守 宏文
中田 とし子
発明の名称 炭化水素をオキシジェネートまたはニトリルに転化させるための方法  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  

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