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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1280541
審判番号 不服2012-13722  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-18 
確定日 2013-10-15 
事件の表示 特願2010-504589「内燃機関を制御するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月 6日国際公開、WO2008/131978、平成22年 7月22日国内公表、特表2010-525227〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2008年2月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2007年4月26日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成21年10月26日付けで特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出された後、平成21年11月26日付けで特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成23年7月6日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成23年10月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年3月13日付けで拒絶査定がなされ、平成24年7月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、さらに、当審において平成24年9月21日付けで書面による審尋がなされたのに対し、平成25年1月21日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成24年7月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年7月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成24年7月18日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年10月11日付けの手続補正書により補正された)請求項1の記載の下記(ア)を、下記(イ)へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
動作特性量に基づいて、少なくとも1つの調整部材(100)に対する制御量を設定し、内燃機関を制御する方法であって、
不均一走行を特徴付ける量を求め、
前記不均一走行を特徴付ける量に基づいて燃料特性を推測し、
前記不均一走行を特徴付ける量が所定の閾値を上回ると、燃料の質が悪いことを識別する
ことを特徴とする、内燃機関を制御する方法。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
動作特性量に基づいて、少なくとも1つの調整部材(100)に対する制御量を設定し、内燃機関を制御する方法であって、
不均一走行を特徴付ける量を求め、
前記不均一走行を特徴付ける量に基づいて燃料特性を推測し、
前記不均一走行を特徴付ける量が所定の閾値を上回ると、燃料の質が悪いことを識別し、
燃料の質が悪いことが識別されると、少なくとも1つの制御量に対する修正値を設定し、
内燃機関が始動されたときおよび/または給油過程が識別されたときに、前記修正値を低減する
ことを特徴とする、内燃機関を制御する方法。」(なお、下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「内燃機関を制御する方法」について、「燃料の質が悪いことが識別されると、少なくとも1つの制御量に対する修正値を設定」する旨、及び「内燃機関が始動されたときおよび/または給油過程が識別されたときに、前記修正値を低減する」旨を限定するものである。
したがって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2002-285853号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、吸気管内のスロットル弁下流に吸気流制御弁を備える内燃機関の吸気制御装置に関する。
‥‥(中略)‥‥
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、燃料性状が良好でない場合等、燃焼の悪化が顕著に発生する場合においては、吸気流制御弁の閉作動を制限すると、燃焼性向上効果が得られないため、エンジンの運転状態が悪化するので、乗員に不快感を与える。また、吸気流制御弁の閉作動制限が解除された場合や開作動動作を行う場合にも、エンジンの燃焼状態が変化することで状況によっては発生するトルクが変動することで乗員に不快感を与えることがある。
‥‥(中略)‥‥
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明に係る内燃機関の吸気制御装置は、吸気管内のスロットル弁下流に吸気流制御弁を備える内燃機関の吸気制御装置であって、内燃機関の始動から暖機までの間、内燃機関の燃焼状態の安定度に応じて吸気流制御弁の開閉を制御することを特徴とする。
【0007】このようにすれば、燃焼状態の安定度が十分に確保される状況下では、吸気流制御弁を開にして、過度の燃焼改善を行わないことにより燃焼速度を抑制してNOxの発生を低減するとともに、未燃燃料の後燃えを行わせて排出HCも抑制する。一方、燃焼状態の安定度が十分に確保できない状態では、燃焼改善を維持することで、未燃燃料の排出を抑制すると同時に、エンジンの運転状態の悪化を抑制するので、乗員に不快感を与えることがない。」(段落【0001】ないし【0007】)

(イ)「【0018】
【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0019】図1は、本発明に係る内燃機関の制御装置を備える内燃機関の概略構成図である。内燃機関1は、シリンダ10内に図で上下に駆動するピストン11が配置され、シリンダ10内のシリンダヘッド12とピストン11の間に形成される空間が燃焼室13を構成する。燃焼室13の上部には、吸気バルブ14、点火プラグ15、排気バルブ16がそれぞれ取り付けられている。さらに、シリンダ10の外側には冷却水の水温を測定する水温センサ17が配置されている。
【0020】吸気バルブ14の配置される吸気ポートへと繋がる吸気管20には、図示していないスロットル弁下流にアクチュエータ21によって開閉駆動される吸気流制御バルブ(以下、簡単に吸気流バルブと呼ぶ)22が配置され、その下流に吸気管内に燃料を噴霧する燃料噴射装置(インジェクタ)23が配置されている。また、インジェクタ23は燃料タンク40に接続されており、燃料タンク40にはタンク内の燃料量を検出する液量センサ41が取り付けられている。
【0021】本発明に係る内燃機関の制御装置の制御部を兼ねるECU30は、アクチュエータ21、インジェクタ23を制御するとともに、水温センサ17のほか、エンジン回転数センサ31、スロットル開度センサ32、エアフローメータ33、シフトセンサ34、液量センサ41の各出力が入力されている。また、ECU30は不揮発性メモリ35に接続されている。
【0022】以下、本発明に係る内燃機関の制御装置による制御動作の例を具体的に説明する。図2は、第1の制御例を示すフローチャートであり、図3は、この制御によるエンジン回転数の時間変動を示し、図3(a)が正常燃料の場合、図3(b)が粗悪燃料の場合を示している。なお、アクセル操作など他の負荷変動要求はない場合を示している。この制御は、ECU30によって行われるものであり、内燃機関の冷間始動時に一度だけ実行される。
【0023】まず、ステップS1では、イグニッションスイッチがオンにされる。次に、ステップS2では、アクチュエータ21により吸気流バルブ22を閉じる。続く、ステップS3は、エンジン始動後所定時間経過するまでループ処理を行う。吸気流バルブ22を閉止することで、吸気管20内の流路面積を絞る効果が発生し、吸気流バルブ22下流側の負圧を増大させて、インジェクタ23から噴射される燃料の微粒化を促進するとともに、絞られた部分を通過する気流が加速されることで燃焼室13内に乱れを発生させることで、希薄燃焼を可能とし、燃焼改善効果が得られる。この結果、図3(a)及び(b)に示されるように、正常燃料、粗悪燃料のいずれの場合でもエンジン回転数を速やかに増大させて、始動性を向上させることができる。
【0024】所定時間経過後は、ステップS4へと移行し、ここで、エアフローメータ33の出力から得られる吸入空気量が所定値以下で、かつ、スロットル開度センサ32から得られるスロットル開度が所定値以下であるか否かを判定する。判定結果がNOの場合、つまり、いずれかが所定値以上の場合には、エンジン負荷増大要求があり、燃焼室13に導く空気量を増大させる必要があると判断して、ステップS6へと移行し、アクチュエータ21により吸気流バルブ22を開いて、絞り効果をなくしてポンピングロスを低減し、燃焼室13へと導く空気量を増大させる(既に開いている場合には開状態を維持する)。
【0025】ステップS4での判定結果がYESの場合には、ステップS5へと移行し、エンジン回転数センサ31で検出したエンジン回転数が所定値以上であるか否かを検出する。この所定値は、図3(a)及び(b)に燃焼安定判定値として示されているものである。ステップS5の判定結果がYESであれば、燃焼が安定していると判断して、吸気流バルブ22閉止による燃焼改善は必要ないと判断し、ステップS6へと移行してアクチュエータ21により吸気流バルブ22を開く(既に開いている場合には開状態を維持する)。一方、ステップS5の判定結果がNOである場合は、燃焼が不安定であると判断して、吸気流バルブ22閉止による燃焼改善が必要と判断し、ステップS7へと移行してアクチュエータ21により吸気流バルブ22を閉じ(既に閉じている場合には閉状態を維持し)、ステップS4へと戻る。
【0026】ステップS6の処理を完了した後は、ステップS8へと移行し、エンジン暖機が完了したか否かをエンジン水温により判定し、完了したと判断した場合は本制御の処理を終了する。一方、完了していないと判断した場合には、ステップS4へと戻り、処理を継続する。
【0027】この制御によれば、正常燃料の場合には、図3(a)に示されるように、所定時間経過後に吸気流バルブ22を開いても、燃焼安定を十分に確保することができる。したがって、過剰な燃焼改善を行うことがないので、燃焼速度が速くなりすぎて、NOxが多く生成されたり、燃焼が早期に終了することにより燃焼工程後半での排気温度が低下して、排気工程での未燃燃料の後燃えが進まず、排出HCが増加するようなことがなく、エミッションをさらに低減できる。
【0028】一方、燃焼性の劣る粗悪燃料の場合には、暖機が行われない間に吸気流バルブ22を閉じると、燃焼が悪化してエンジン回転数が低下してしまう。本制御では、このように燃焼が悪化した場合には、吸気流バルブ22を閉じることで、燃焼改善を行うので、燃焼悪化による未燃燃料の排出によるエミッションの悪化と、エンジン運転状態の不安定化を回避できる。」(段落【0018】ないし【0028】)

(ウ)「【0049】図11は、第3の制御例を示すフローチャートであり、この制御は、第1、第2の燃料性状判定方法による判定結果を用いることを特徴とする。この制御も第1、第2の制御方法と同様に、ECU30によって行われるものであり、内燃機関の冷間始動時に一度だけ実行される。
【0050】まず、ステップS21では、現在の燃料性状が不揮発性メモリ35に記憶済みか否かを判定する。前回の燃料判定処理後に燃料供給を行った場合には、不揮発性メモリ35内の燃料性状の記憶値はリセットしておくことが好ましい。燃料供給の有無の判定は、例えば、液量センサ41の出力から判定できる。
【0051】燃料性状が記憶されていない場合には、ステップS22へと移行して燃料性状の判定処理に移る。一方、燃料性状が記憶されている場合には、ステップS23へと移行して記憶されている燃料性状が正常燃料か粗悪燃料かを判定する。」(段落【0049】ないし【0051】)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ウ)並びに図1ないし3及び11の記載から、引用文献には次の事項が記載されていることが分かる。

(エ)上記(1)(ア)及び(イ)の記載から、引用文献には、エンジン回転数に基づいて、吸気流制御バルブ22を開閉駆動するアクチュエータ21を作動させて燃焼状態を変化させることにより、内燃機関を制御する方法が記載されていることが分かる。

(オ)上記(1)(ア)及び(イ)並びに図1ないし3の記載から、引用文献に記載された内燃機関を制御する方法は、内燃機関の燃焼状態の安定度を示すエンジン回転数を求め、該エンジン回転数に基づいて燃料性状を判定し、該エンジン回転数が所定値未満であると、粗悪燃料であると判定し、粗悪燃料であることが判定されると、吸気流制御バルブ22を開閉駆動するアクチュエータ21を作動させて燃焼状態を改善するものであることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(ウ)並びに図1ないし3及び11の記載から、引用文献に記載された内燃機関を制御する方法は、前回の燃料判定処理後に燃料供給を行った場合には、燃料性状の記憶値をリセットしておくものであることが分かる。

(3)引用文献記載の発明
上記(1)、(2)及び図1ないし3及び11の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「 エンジン回転数に基づいて、吸気流制御バルブ22を開閉駆動するアクチュエータ21を作動させて燃焼状態を変化させることにより、内燃機関を制御する方法であって、
内燃機関の燃焼状態の安定度を示すエンジン回転数を求め、該エンジン回転数に基づいて燃料性状を判定し、
該エンジン回転数が所定値未満であると、粗悪燃料であると判定し、
粗悪燃料であることが判定されると、吸気流制御バルブ22を開閉駆動するアクチュエータ21を作動させ、
前回の燃料判定処理後に燃料供給を行った場合には、燃料性状の記憶値をリセットする
内燃機関を制御する方法。」

2.-2 対比
本願補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「エンジン回転数」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「動作特性量」に相当し、同様に、「吸気流制御バルブ22を開閉駆動するアクチュエータ21」は「少なくとも1つの調整部材」に、「燃料性状」は「燃料特性」に、「判定」は「推測」に、それぞれ相当する。
そして、引用文献記載の発明において、「吸気流制御バルブ22を開閉駆動するアクチュエータ21を作動させて燃焼状態を変化させること」は、アクチュエータ21を作動させるために、当然にアクチュエータに対する制御量を設定することになるから、本願発明において「少なくとも1つの調整部材に対する制御量を設定」することに相当する。
また、本願の明細書には「不均一走行」の定義は記載されていないものの、平成23年10月11日付けの意見書には、「不均一走行(内燃機関の動作の不安定性)」と記載されており、本願補正発明における「不均一走行を特徴付ける量」は、燃料の特性を推測するための内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータであるといえる。一方、引用文献記載の発明における「内燃機関の燃焼状態の安定度を示すエンジン回転数」も、燃料の特性を推測するための内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータである。
したがって、「燃料の特性を推測するための内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータ」という限りにおいて、引用文献記載の発明における「内燃機関の燃焼状態の安定度を示すエンジン回転数」は、本願補正発明における「不均一走行を特徴付ける量」に相当する。
そして、「前記内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータの値に基づいて燃料特性を推測」するという限りにおいて、引用文献記載の発明において「該エンジン回転数に基づいて燃料性状を判定」することは、本願補正発明において「前記不均一走行を特徴付ける量に基づいて燃料特性を推測」することに相当する。
また、「前記内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータの値と所定の閾値との比較により、燃料の質が悪いことを識別」するという限りにおいて、引用文献記載の発明において「エンジン回転数が所定値未満であると、粗悪燃料であると判定」することは、本願補正発明において「不均一走行を特徴付ける量が所定の閾値を上回ると、燃料の質が悪いことを識別」することに相当する。
さらに、引用文献記載の発明において「吸気流制御バルブ22を開閉駆動するアクチュエータ21を作動させ」るときには、アクチュエータに対するそれまでの制御量に対して修正値を設定することになるから、引用文献記載の発明において「粗悪燃料であることが判定されると、吸気流制御バルブ22を開閉駆動するアクチュエータ21を作動させ」ることは、本願補正発明において「燃料の質が悪いことが識別されると、少なくとも1つの制御量に対する修正値を設定」することに相当する。
また、引用文献記載の発明において「燃料性状の記憶値をリセット」したときには、アクチュエータに対する制御量に対する修正値もリセットされ、修正値は低減することになるから、引用文献記載の発明において「前回の燃料判定処理後に燃料供給を行った場合には、燃料性状の記憶値をリセットする」ことは、本願補正発明において「内燃機関が始動されたときおよび/または給油過程が識別されたときに、前記修正値を低減する」ことに相当する。

したがって、本願補正発明と引用文献記載の発明は、

「 動作特性量に基づいて、少なくとも1つの調整部材に対する制御量を設定し、内燃機関を制御する方法であって、
燃料の特性を推測するための内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータを求め、
前記内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータの値に基づいて燃料特性を推測し、
前記内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータの値と所定の閾値との比較により、燃料の質が悪いことを識別し、
燃料の質が悪いことが識別されると、少なくとも1つの制御量に対する修正値を設定し、
内燃機関が始動されたときおよび/または給油過程が識別されたときに、前記修正値を低減する内燃機関を制御する方法。」
である点で一致し、次の点において一応相違する。

「燃料の特性を推測するための内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータを求め、
前記内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータの値に基づいて燃料特性を推測し、
前記内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータの値と所定の閾値との比較により、燃料の質が悪いことを識別」
するに際し、
本願補正発明においては、
「不均一走行を特徴付ける量を求め、
前記不均一走行を特徴付ける量に基づいて燃料特性を推測し、
前記不均一走行を特徴付ける量が所定の閾値を上回ると、燃料の質が悪いことを識別」
するのに対し、
引用文献記載の発明においては、
「内燃機関の燃焼状態の安定度を示すエンジン回転数を求め、該エンジン回転数に基づいて燃料性状を判定し、
該エンジン回転数が所定値未満であると、粗悪燃料であると判定」
する点(以下、「相違点」という。)。

2.-3 判断
まず、上記相違点について検討する。
本願補正発明における「不均一走行を特徴付ける量」に関し、本願の明細書に示された実施例では、トルク変動をパラメータとして採用し、回転数センサの信号を用いて推計学上のトルク変動が識別されるとしている(本願の明細書の段落【0003】及び【0018】)。
これに対し、内燃機関を制御する方法において、内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータとして、トルク変動を用いることは、慣用的に行われている事項(以下、「慣用事項」という。例えば、特開2005-127304号公報の【0115】ないし【0122】及び図13等を参照。)である。
そして、引用文献1記載の発明において、上記慣用事項を適用することにより、燃料の特性を推測するための内燃機関の動作の不安定性を表すパラメータとしてトルク変動を用いるとともに、該パラメータに合わせて閾値を設定することは、単なる設計上の事項にすぎない。
したがって、引用文献1記載の発明において、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明を全体として検討しても、引用文献記載の発明から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。

なお、審判請求人は、平成25年1月21日付けの回答書において、補正案A、B及びCを示し、該補正案A、B及びCに係る発明は、新規性及び進歩性を有する旨を主張しているので、これらについて、検討する。

まず、補正案Aは、本願補正発明において、さらに「第1の修正値を低減した後に、依然、不均一走行を特徴付ける量が所定の閾値を上回ると、少なくとも1つの制御に対する第2の修正値を調節する」点を限定したものである。
しかし、内燃機関を制御する方法において、「第1の修正値を低減した後に、依然、不均一走行を特徴付ける量が所定の閾値を上回ると、少なくとも1つの制御に対する第2の修正値を調節する」ことは、広く一般に行われている(例えば、上記特開2005-127304号公報の【0132】ないし【0138】及び図16等を参照。)ことであるから、引用文献1記載の発明において、上記点を付加することは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、補正案Bは、本願補正発明において、「さらに、少なくとも1つの対抗措置、すなわち、噴射が行われる時点の変更、および/または、内燃機関に供給される空気量の変更、および/または、燃料圧力の変更、および/または、ディーゼルエンジンでの灼熱過程の導入を開始」する点を限定したものである。
しかし、燃料噴射タイミングの変更、給気量の変更、燃料圧力の変更及びディーゼルエンジンでの灼熱過程の導入は、内燃機関を制御する方法において、燃料特性の変化に対する対応として一般的に行われている事項であるから、引用文献1記載の発明において、上記点を付加することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、補正案Cは、本願補正発明において、「連続する回転数の極小値と極大値との間の差を正規化し、これに基づいて平均的な差を形成し、該平均的な差を目下の回転数値から減算することにより」不均一走行を特徴付ける量を求める点を限定したものである。
しかし、内燃機関を制御する方法において、内燃機関の回転数の変動からノッキングの有無を判定することは、一般的に行われている事項であり(例えば、特開昭56-135752号公報)、その計算方法を適宜定めることは、設計上の事項にすぎないから、引用文献1記載の発明において、上記点を付加することは、当業者が容易に想到し得たことである。

結局、上記回答書に示された補正案A、B及びCに係る発明は、いずれも引用文献1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

以上により、本願補正発明は、引用文献記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3. むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成24年7月18日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成23年10月11日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲、平成21年11月26日付けで提出された明細書の翻訳文、及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記(第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】)のとおりのものである。

2.引用文献
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献記載の発明は、前記第2.の[理由]2.-1に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]1.(1)及び(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-1ないし2.-3に記載したとおり、引用文献記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-15 
結審通知日 2013-05-20 
審決日 2013-05-31 
出願番号 特願2010-504589(P2010-504589)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 恭司  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
柳田 利夫
発明の名称 内燃機関を制御するための方法および装置  
代理人 久野 琢也  
代理人 高橋 佳大  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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