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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24F
管理番号 1280596
審判番号 不服2012-25000  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-17 
確定日 2013-10-17 
事件の表示 特願2008- 44845号「空調制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月10日出願公開、特開2009-204187号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成20年2月26日の出願であって、平成24年9月11日付け(発送:9月18日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、その審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

2.平成24年12月17日の手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を以下のように補正すると共に、該特許請求の範囲の補正と整合するように明細書の記載を補正するものである。

(本件補正前の特許請求の範囲)
【請求項1】
対象空間の温度を変動させる空調機器と、当該対象空間の温度を目標温度に一致させるように空調機器の動作を制御する空調制御装置と、前記対象空間に存在する利用者が入力する当該対象空間の温度に対する要望情報を受け付けるとともに当該要望情報を空調制御装置に提供する入力装置とを備え、
空調制御装置は、所定の受付時間内に入力装置で受け付けられた全ての要望情報を解析し、当該利用者の総数に対する同一内容の要望情報の個数の割合からなる要望率を、互いに内容が異なる複数種類の要望情報毎に演算する要望率演算手段と、複数種類の要望情報毎に要望率演算手段で演算された複数種類の要望率の比率に応じて目標温度を変更する目標温度変更手段とを具備し、
目標温度変更手段は、複数種類の要望率の比率が高くなるにつれて目標温度の変更幅を大きくすることを特徴とする空調制御システム。
【請求項2】
目標温度変更手段は、複数種類の要望率の比率に応じて目標温度を変更した後に所定時間が経過したら、複数種類の要望率の比率に応じて変更した目標温度の変更幅よりも狭い変更幅で、且つ前記所定時間の経過前に行われた目標温度の変更と逆向きに目標温度を変更することを特徴とする請求項1記載の空調制御システム。
【請求項3】
目標温度変更手段は、前記所定時間経過前に行われた目標温度の変更向きが相対的にエネルギ消費を減らす場合には、前記所定時間経過後に目標温度を逆向きに変更しないことを特徴とする請求項2記載の空調制御システム。
【請求項4】
複数の対象空間毎に設けられた前記空調機器及び空調制御装置及び入力装置と、各対象空間の空調制御装置を個別に制御するセンタ装置とを備え、
センタ装置は、各空調制御装置から目標温度の変更に関する情報を収集し、複数の空調制御装置における目標温度の変更がエネルギ消費を増やす向きの変更である場合には、当該複数の空調制御装置が目標温度を変更するタイミングをずらすように各空調制御装置を制御することを特徴とする請求項2又は3記載の空調制御システム。

(本件補正後の特許請求の範囲)
【請求項1】
対象空間の温度を変動させる空調機器と、当該対象空間の温度を目標温度に一致させるように空調機器の動作を制御する空調制御装置と、前記対象空間に存在する利用者が入力する当該対象空間の温度に対する要望情報を受け付けるとともに当該要望情報を空調制御装置に提供する入力装置とを備え、前記空調機器及び空調制御装置及び入力装置が複数の対象空間毎に設けられ、
空調制御装置は、所定の受付時間内に入力装置で受け付けられた全ての要望情報を解析し、当該利用者の総数に対する同一内容の要望情報の個数の割合からなる要望率を、互いに内容が異なる複数種類の要望情報毎に演算する要望率演算手段と、複数種類の要望情報毎に要望率演算手段で演算された複数種類の要望率の比率に応じて目標温度を変更する目標温度変更手段とを具備し、
目標温度変更手段は、複数種類の要望率の比率が高くなるにつれて目標温度の変更幅を大きくするとともに、複数種類の要望率の比率に応じて目標温度を変更した後に所定時間が経過したら、複数種類の要望率の比率に応じて変更した目標温度の変更幅よりも狭い変更幅で、且つ前記所定時間の経過前に行われた目標温度の変更と逆向きに目標温度を変更し、さらに、前記所定時間経過前に行われた目標温度の変更向きが相対的にエネルギ消費を減らす場合には、前記所定時間経過後に目標温度を逆向きに変更しないものであり、
各対象空間の空調制御装置を個別に制御するセンタ装置を備え、当該センタ装置は、各空調制御装置から目標温度の変更に関する情報を収集し、複数の空調制御装置における目標温度の変更がエネルギ消費を増やす向きの変更である場合には、当該複数の空調制御装置が目標温度を変更するタイミングをずらすように各空調制御装置を制御することを特徴とする空調制御システム。

(2)適否の判断
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲における請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3をさらに引用する請求項4を本件補正後の請求項1とし、本件補正前の他の請求項を削除するものである。

よって、本件補正は、請求項の削除を目的とするものに該当する。

さらに、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たしており、適法になされたものである。

3.本願発明
上記のとおり、本件補正は適法になされたものであるから、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記2.(1)(本件補正後の特許請求の範囲)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

4.刊行物とその記載事項
(1)原査定のの拒絶理由において引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-300484号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に、次の記載がある。

ア.「【0020】
(実施形態1)
図2(a)は本実施形態のシステムが設置されるビル内のエリアの一例の平面図を示しており、この例では東エリアEA、西エリアWEに分かれ、空調対象エリアのインテリア部の温熱環境は機械室Iに設置された空調設備機器によって制御し、空調対象エリアに存在する熱負荷の偏在をなくし均一の温熱環境に保つため、吹き出しには変風量方式を採用している。またペリメータ部の温熱環境はFCU(Fan Coil Unit)のような空調設備機器により制御するようなっている。
【0021】
そして本実施形態では当該エリアにいる在席者が使用する個人用端末1は図2(b)に示すようにローカルネットワーク(以下社内LANという)2に接続され、またインターネットに接続される。尚図2(a)中IIは会議室、IIIはトイレ、IVはエレベータホール、Vは階段を示す。
【0022】
さて本実施形態の環境設備制御システムは図2(b)に示すように、主装置である環境制御用サーバー3は社内LAN2を通じて上述の個人用端末1に接続され、個人用端末1から各利用者が送られてくる環境要望情報を収集し、その収集した環境要望情報に基づいて制御計画を決定し、その決定した制御計画を、ビル設備制御用通信線4、空調サブシステム(空調Icont)5、ローカルコントローラ6を通じて、環境設備機器たる空調設備機器7の制御に反映させる機能を備えている。
【0023】
図1は環境制御用サーバー3を構成するコンピュータシステムの機能構成図を示しており、機能として構成される主要な手段は、要望情報取得手段を構成する環境情報取得手段30及び在席情報取得手段34と、設備制御計画設定手段31と、エリア環境情報取得手段32と、設備制御手段33と、環境異常判断手段35とで構成され、主メモリ部(図示せず)と外部記憶装置(図示せず)とをデータ保存やデータベース格納のための手段として備えている。
【0024】
環境情報取得手段30は、利用者が使用する各自の個人用端末1にインストールされた専用ソフトウェアを利用して、当該環境制御用サーバー3側へ送信する環境への要望(環境要望情報)を収集して、内蔵する主メモリ部(図示せず)の所定領域内の環境情報ファイルDaに書き込む処理を行う。利用者の個人用端末1から社内LAN2を通じて送信される情報については、発信された個人用端末1のIPアドレスから、どの利用者が、何時エリアのどの位置において発信したものかを外部記憶装置に格納している個人情報及びIPアドレス並びにIPアドレスに対応付けてある個人用端末1の配置情報とに基づいて特定するようになっており、上述の環境要望情報と対応付けて環境情報ファイルDaに記憶される。
【0025】
在席情報取得手段34は、個人用端末1が、環境を享受する全員に与えられているものとし、各自の個人用端末1のIPアドレスと使用者及びそのエリア内のフロア上での使用位置の情報を取得するもので、各個人用端末1の起動時にその起動情報とともにIPアドレスを受け取ると、予めIPアドレスと対応付けて外部記憶装置に登録している個人情報及び使用位置を在席情報ファイルDcから読み出し、誰がどこで情報発信をするかを特定し、その特定結果を在席情報として在席情報ファイルDcに書き出す処理を行う。
【0026】
また定期的に社内LAN2を介して各個人用端末1に対して問い合わせを行い、レスポンスのある個人用端末1の台数(≒在席者の人数)を在席情報ファイルDcに書き込むことで在席の有無と、在席総数とを把握するようにしても良い。
【0027】
しかして在席情報取得手段34と環境情報取得手段30とで要望情報取得手段の機能を果たすことになる。
【0028】
設備制御計画設定手段31は、主メモリ部内に記憶される環境情報ファイルDaと、制御ルールたる判断基準ルールを書き込んだ判断基準ファイルDbとを読み出し、制御計画を決定するのに必要な情報を抽出する解析情報取得機能と、該解析情報取得機能により得られた情報から相反する二つの環境要望情報数の利用者総数(在席情報ファイルDcを参照する)に対する率(以下要望率という)と両情報の要望率の割合を算出する統計情報演算機能と、該統計情報演算機能により得られた要望率の割合から設備制御手段33を経て、空調設備機器7を制御するための制御計画に対応する設定温度(制御目標値)を設定する機能とを備えるとともに、設定した設定温度を外部記憶装置に対して制御履歴ファイルDdとして出力する機能を備えている。」(段落【0020】?【0028】)

イ.「【0040】
次に設備制御計画設定手段31の解析情報取得機能と、統計情報演算機能と、設備制御決定機能及び環境異常判断手段35の動作について図4のフローチャートにより説明する。
【0041】
まず、利用者が個人用端末1を利用して環境要望情報を任意申告すると、合意形成適用を開始し(ステップS1)、環境制御用サーバー3では環境情報取得手段30を通じて取得した環境要望情報を環境情報ファイルDaに書き込む。つまり環境要望情報収集が為される(ステップS2)。尚取得され、環境情報ファイルDaに書き込まれた環境要望情報は申告時点から例えば1時間保持され、1時間経過後にはリセットされ、無申告状態となる。
【0042】
さて解析情報取得機能では、収集した環境要望情報を設備制御内容(制御計画)の決定に利用するために次のような処理を行う。つまり、環境要望情報について、申告内容の変更が無ければ、当該利用者の申告があってからその申告内容を1分毎の申告内容として変更若しくはリセットされるまで取り扱い、またリセットされてから新たな申告があるまでは無申告状態とする情報に変換して解析用ファイルに書き込むのである。つまり制御に有効な情報を抽出するのである(ステップS3)。
【0043】
解析用ファイルに書き込まれた解析用情報を用いて統計情報演算機能は、「温度を上げたい」及び「温度を下げたい」の相反する環境要望情報の利用者総数に対する要望率を演算するとともに、その要望率の割合を求める処理を行う。
【0044】
このようにして統計情報演算機能は1分毎に申告された環境要望情報を解析情報取得機能が解析用に変換した情報に基づいて、利用者総数に対して、相反する環境要望情報の要望率及びその割合を求める処理を行う。そしてこの割合に基づいて後述するように制御計画の決定(設定)をステップS4で行うのが設備制御決定機能である。
【0045】
設備制御決定機能では上述のように統計情報演算機能で求めた「温度を上げたい」とする要望率と、「温度を下げたい」とする要望率とを取り込むとともに、エリア環境情報取得手段32で取得している対象エリアの在室人数(利用者総数)を取り込む。一方、判断基準ファイルDbの判断基準ルールの情報を取り込んで判定基準値を設定する。
【0046】
本実施形態では空調設備機器7の運用条件(冷房又は暖房)別に判断基準ファイルDbから判断基準ルールが読み出される。ここで、設備制御内容(制御計画)の決定のための判断基準ルールとして、図5(a)に示す「快適優先制御」と、図5(b)に示す「省エネルギー優先制御」とがあり、この何れかを選択するかはビル管理者での運用判断に基づいて予め設定されるようになっている。
【0047】
例えば「快適優先制御」の判断基準ルールでは、縦軸に「温度を上げたい」とする要望率を、横軸に「温度を下げたい」とする要望率をとり、両方の要望率100%の点を結ぶ線と、「温度を上げたい」が65%、「温度を下げたい」が35%の点から0点を結ぶ線と「温度を下げたい」が0%の縦軸とで囲まれた領域を設定温度上昇領域「▲」とし、両方の要望率100%の点を結ぶ線と、「温度を上げたい」が35%、「温度を下げたい」が65%の点から0点を結ぶ線と、「温度を上げたい」が0%の横軸とで囲まれた領域を設定温度下降領域「▼」とし、これら設定温度上昇領域「▲」と設定温度下降領域「▼」とで挟まる領域を設定温度維持領域「■」と設定している。但し申告が少ない場合にはその環境に対して利用者が不満を持っていないものとして在席者数に対して両方の要望率10%以下の領域も設定温度維持領域「□」と設定している。
【0048】
一方「省エネルギー優先制御」の判断基準ルールでは両方の要望率100%の点を結ぶ線と、両方の要望率が50%の点と両方の要望率が5%の点とを結ぶ線と「温度を下げたい」が0%の縦軸で囲まれた領域と「温度を下げたい」要望率が5%以下の領域とを設定
温度上昇領域「▲」とし、両方の要望率100%の点を結ぶ線と、「温度を上げたい」要望率が20%、「温度を下げたい」要望率が80%の点と、「温度を上げたい」要望率が5%、「温度を下げたい」要望率が20%の点とを結ぶ線と、「温度を上げたい」要望率が0%の横軸とで囲まれた領域を設定温度下降領域「▼」とし、これら設定温度上昇領域「▲」と設定温度下降領域「▼」とで挟まる領域を設定温度維持領域「■」と設定している。この判断基準ルールの特徴は「温度を下げたい」要望率が5%以下の場合には自動的に設定温度を上昇させるようになっている。
【0049】
而してステップS4では、統計情報演算機能によって求めた各要望率の割合で決まる位置を判断基準ルールにプロットして領域の判定処理を行い、設定温度維持領域「■」(又は□)の判定(設定温度下降領域「▼」の判定、設定温度上昇領域「▲」の判定)に基づいて、現状の設定温度に対して変更する温度ΔTを決定する。そして制御履歴ファイルDdから前回の判定時の設定温度を取得し、上述のように決定したΔTと取得した設定温度とから新たな設定温度を求めて、制御履歴ファイルDdに書き込み。
【0050】
そして制御履歴ファイルDdに書き込まれた最新の設定温度をポーリングにより取得した設備制御手段33は、この設定温度を空調設備機器7に適用する制御データを生成し、空調設備機器7を空調サブシステム、ローカルコントローラを通じて制御して環境の設定温度を下降又は上昇或いは維持するのである(ステップS5)。以後ステップS6で環境制御終了の時刻が判定されるまでステップS2からS5までの処理を繰り返すことになる。
【0051】
さて、環境制御予定の時刻となると、環境異常判断手段35が働いて当日の環境要望情報を環境情報ファイルDaから取り出して加工処理し、ステップS10以降の処理を行う。」(段落【0040】?【0051】)

ウ.図2(a)(b)には、空調対象エリアは東エリアEA、西エリアWEに分かれ、それぞれの温度制御のために空調設備機器7が配置されていることが図示されている。
また、図2(b)には、環境制御用サーバー3がビル設備制御用通信線4を介して複数の空調対象エリアに接続するセンター装置であることが図示されている。

エ.上記ア、イの記載事項から、次の事項が理解される。
・空調設備機器7が、環境制御用サーバー3及びローカルコントローラ6からの信号により空調対象エリア毎の温度を変動させるものであること
・利用者が環境要望情報を申告する個人用端末1はフロア上での使用位置を環境情報ファイルDaに与えるものであり、空調対象エリアの毎に設けられたものであること
・環境要望情報は、「温度を上げたい」、「温度を下げたい」というように、温度に対する要望情報であること
・環境制御用サーバー3は、1分毎に、申告されたまたは申告内容に変化のない全ての環境要望情報を解析していること

上記ア?エを総合すると、刊行物1には次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

空調対象エリアの温度を変動させる空調設備機器7と、当該空調対象エリアの温度を設定温度に一致させるように空調設備機器7の動作を制御する環境制御用サーバー3及びローカルコントローラ6と、前記空調対象エリアに存在する利用者が申告する当該対象エリアの温度に対する環境要望情報を受け付けるとともに当該環境要望情報を環境制御用サーバー3に提供する個人用端末1とを備え、前記環境制御用サーバー3はビル設備制御用通信線4を介して複数の空調対象エリアに共有されるセンター装置として設けられ、前記ローカルコントローラ6、空調設備機器7及び個人用端末1は複数の空調対象エリア毎に設けられ、
環境制御用サーバー3は、1分毎に、申告されたまたは申告内容に変化のない、個人用端末1で受け付けられた全ての環境要望情報を解析し、当該利用者の総数に対する同一内容の要望情報の個数の割合からなる要望率を、相反する二つの環境要望情報毎に演算する統計情報演算機能と、二つの環境要望情報毎に統計情報演算機能で演算された二つの要望率の比率に応じて設定温度を変更する設定温度を設定する機能とを具備する環境設備制御システム。

(2)原査定の拒絶理由において引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2004-278912号公報(以下「刊行物2」という。)には、図7と共に、次の記載がある。

オ.「【0029】
一方、室内に複数の人物が居る場合には(ステップA5でNO)、図7のステップA18に移り、各人物画像を初期画像として一時保存しておく。更に、所定時間の経過を待った後(ステップA19)、各監視カメラ3のスチルカメラに対して撮影指示を与え、その撮影画像を受信する(ステップA20)。そして、今回の受信画像の中に人物が写っているかすかを調べ(ステップA21)、人物が居なければ、図6のステップA1に戻るが、人物が居れば、この撮影画像内から各人物を特定した後(ステップA22)、人物毎にその人物画像を一時保存しておく(ステップA23)。
【0030】
この状態において、各人物毎に、その初期画像と今回の受信画像とを比較することによって(ステップA24)、服装の変化があったかをチェックする(ステップA25)。つまり、寒い時の動作として上着を着たか、暑い時の動作として上着を脱いだかを室内に居る全員に対して調べる(ステップA24?A28)。この結果、何れかの人物が該当する動作を行って服装が変化した場合には(ステップA25でYES)、その変化方向(上着を着たか、脱いだか)を判定し(ステップA26)、上着を着た場合には、プラス方向への変化として「+1」の判定結果を当該人物に対応して判定結果テーブル22にセットし、また、上着を脱ぐだ場合には、マイナス方向への変化として「-1」の判定結果を当該人物に対応して判定結果テーブル22にセットする(ステップA27)。
以下、上述の動作を人物全員に対して行った後、判定結果テーブル22を参照し、プラス方向/マイナス方向別に「+1」あるいは「-1」がセットされている割合、つまり、室内に居る全員に対して上着を着た人の割合を求めたり、上着を脱いだ人の割合を求める(ステップA29)。(下線は当審にて付与、以下同様。)
【0031】
ここで、判定結果として「+1」がセットされているプラス方向の場合には(ステップA30)、その割合の大きさに応じて温度を上昇させる為の調整値を決定する(ステップA31?A34)。すなわち、算出されたプラス方向の割合と予め決められている基準値とを比較した結果、小さいか、大きいか、中ぐらいかを判別し(ステップA31)、小さい場合には、温度上昇値として「1℃」を決定し(ステップA32)、中ぐらいの場合には、温度上昇値として「2℃」を決定し(ステップA33)、大きい場合には、温度上昇値として「3℃」を決定する(ステップA34)。
【0032】
同様に、判定結果として「-1」がセットされているマイナス方向の場合には(ステップA35)、その割合の大きさに応じて温度を下げるさせる為の調整値を決定する(ステップA36?A39)。すなわち、算出されたマイナス方向の割合と予め決められている基準値とを比較した結果、小さいか、大きいか、中ぐらいかを判別し(ステップA36)、小さい場合には、温度を下げる調整値として「1℃」を決定し(ステップA37)、中ぐらいの場合には、「2℃」を決定し(ステップA38)、大きい場合には、「3℃」を決定する(ステップA39)。
【0033】
以上のように、この第1実施形態において室内コントローラ2は、室内に居る人物を撮影した人物画像を解析した結果、その人物の動作変化が特定動作に該当することを検知した場合に、その頻度あるいは回数に応じて応答処理の実行タイミングを決定して特定動作対応の応答処理として空気調和機1の温度調整を行うようにしたから、人物の自然な動作に応答した温度調整が可能となる他に、不本意な動作に対しては応答せず、蓋然性が高い場合に限って応答することができ、実情に即した応答制御の実現が可能となる。
【0034】
また、室内コントローラ2は、室内に居る複数の人物を撮影した複数の人物画像を解析した結果、各人物の動作変化が特定動作(寒い時の動作として上着を着たか、暑い時の動作として上着を脱いだか)に該当する場合に、その特定動作を行った人物の割合に応じて当該特定動作対応の応答処理として温度上昇の調整値を決定したり、温度を下げる調整値を決定して空気調和機1の温度調整を行うようにしたから、室内に居る複数の人物のうちその何れか1人が特定動作を行っても応答せず、室内に居る人物全体の動作を考慮して応答することができ、実情に即した応答制御の実現が可能となる。この場合、割合に応じて室内温度を段階的に調整することが可能となる。」(段落【0029】?【0034】)

上記記載から、刊行物2には次の技術手段(以下「刊行物2記載の技術手段」という。)が記載されているものと認められる。

室内に居る複数の人物全体の動作を考慮して温度調整を行うために、「寒い時の動作、暑い時の動作を示した人物の割合が大きくなるにつれて温度の調整値を大きくすること」

(3)原査定の拒絶理由において引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-16915号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面と共に、次の記載がある。

カ.「【請求項1】
1機ないし複数機の空気調和機と、前記空気調和機の作動状態を設定するためのリモートコントローラとを有する空気調和システムにおいて、前記空気調和機の室内機の空調目標である設定温度が、前記リモートコントローラからの操作により、予め設定された低消費電力運転となる規定温度よりも高消費電力運転となる設定温度に設定変更されたときに当該設定変更からの時間を計時する計時手段と、前記計時手段による計時時間が予め設定された所定時間を経過したときに、前記設定変更された設定温度を前記規定温度に戻す第1の設定温度変更手段とを備えていることを特徴とする空気調和システム。」(【特許請求の範囲】)

キ.「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、文献記載の従来技術では、省エネルギー制御を行うことによって、リモコン操作者や居住者の要求する設定温度への変更ができなかった。
本発明は、リモコン操作者や居住者の要求する設定温度の一時的な変更を可能とし、かつ、室内機の規定温度による運転を極力長く維持することで、消費電力を低く保ち、より柔軟な空気調和システムの提供を行うことを目的とする。また、運転モードや運転/停止といった作動状態が設定変更された場合でも、該当する作動状態に対応する規定温度を用いた省エネルギー制御を行うことを目的とする。」(段落【0007】)

ク.「【0020】
ステップ11bでは運転モードを基に変更のあった設定温度Trを、記憶されている規定温度Tsと比較する。運転モードが冷房運転でTr≧Tsの場合、または運転モードが暖房運転でTr≦Tsの場合にステップ11aに戻る。運転モードが冷房運転でTr<Tsの場合、または運転モードが暖房運転でTr>Tsの場合は、ステップ11cの処理に移行し、図2の規定温度設定スイッチ7で設定された所定時間のタイマーカウントを開始する。
すなわち、上記したステップ11aおよびステップ11cの処理を実行するCPU8およびタイマ14の機能が、空気調和機の室内機の空調目標である設定温度が、リモコンからの操作により、予め設定された低消費電力運転となる規定温度よりも高消費電力運転となる設定温度に設定変更されたときに当該設定変更からの時間を計時する本発明の計時手段の一例である。
【0021】
そして、次のステップ11dでは、カウントしたタイマ計時が前記の所定時間に達してタイマーカウントが終了したかどうかを判断する。終了していなければステップ11aに戻る。終了していればステップ11eの処理に移行し、室内機の設定温度を規定温度Tsに戻す。
すなわち、上記したステップ11dおよびステップ11eの処理を実行するCPU8の機能が、タイマ14による計時時間が予め設定された所定時間を経過したときに、設定変更された設定温度を規定温度に戻す本発明の第1の設定温度変更手段の一例である。
【0022】
以上のようにして設定温度の変更があった場合に、変更後の設定温度をしばらくして規定温度へ戻すことによって、省エネルギー制御ができるのである。」(段落【0020】?【0022】)

ケ.「【0030】
実施の形態4.
これまでに述べた以外に、いくつかの実施形態を説明する。まず、実施形態4として、特定の期間や時間帯において「設定温度を変更して所定時間経過後に規定温度に戻す省エネルギー制御」をキャンセルする機能をシステムに持たせる。このように構成することにより、リモコンの特定のボタンが一定時間押された場合に、前記の省エネルギー制御がキャンセルされる。すなわち、来客のある時間帯、または学校や会社での昼食時間など、一時的に快適性を優先させたい場合に、省エネルギー制御をキャンセルできる機能を持たせることで、快適性を大きく損なうことなく省エネルギー制御を実施することができる。」(段落【0030】)

コ.「【0032】
実施の形態6.
この実施形態6は、設定温度の変更により規定温度を変更する機能をシステムに持たせたものである。このように構成することにより、変更された設定温度が、規定温度よりもさらに低消費電力運転となる温度値である場合、その変更以降はその変更温度値を新たな規定温度として省エネルギー制御に用いる。例えば、夏季の冷房運転時において、規定温度25℃で運転中に、設定温度が27℃(規定温度よりも高い温度であり低消費電力で済む)に変更された場合、以降は規定温度を27℃として省エネルギー制御を行う。これにより、一度設定した規定温度での省エネルギー運転から、ユーザーが更なる省エネルギー運転に変更したときは、その変更後の運転に対応した省エネルギー制御を行うことができ、ユーザーが希望する更なる省エネルギー運転に随時対応することができる。また、省エネルギー性を高める方向に対しては容易に規定温度を変更することで、省エネルギー運転中
においても、更に省エネルギー性を高めていくことができる。」(段落【0032】)

上記カ?ク、コ記載を総合すると、刊行物3には次の技術手段(以下「刊行物3記載の技術手段」という。)が記載されているものと認められる。

リモコン操作者の要求に応じて設定温度を、予め設定された低消費電力運転となる規定温度よりも高消費電力運転となる設定温度に設定変更した後に所定時間が経過したら、変更された設定温度を前記規定温度に戻し、さらに、変更された設定温度が、規定温度よりもさらに低消費電力運転となる温度値である場合、その変更以降はその変更温度値を新たな規定温度として省エネルギー制御に用いること

(4)原査定の拒絶理由において引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2007-255835号公報(以下「刊行物4」という。)には、図4と共に、次の記載がある。

サ.「【0001】
本発明は、ビル等の空調制御装置に係り、特に、利用者に対して温熱環境を設定する空調制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空調機の制御方法として、空調機の利用者からの温熱環境に対する申告(空調申告)、つまり「暑い」「寒い」といった感覚の入力データに基づいて、空調環境が利用者にもたらす温冷感や快適さを評価(環境評価)し、空調機の運用設定を変更して制御する方法がある。」(段落【0001】?【0002】)

シ.「【0067】
ここで、図4のステップ470における意図的申告への対策処理として、制御目標値を一時的に変更することもできる。この変更は、環境評価値を尺度として与えられている制御目標値を、より快適な方向(緩和側、つまり、冷房であれば、より低温側、暖房であれば、より高温側)へ修正した値に置き換えることによる。
【0068】
例えば、制御目標値が全身温冷感7点尺度にて1.0として与えられているときに、この制御目標値を15分だけ0.0にする。もしくは、5分間は0.0、その後5分は0.5、その後5分は0.7、最後に1.0に戻すというように段階的に変更してもよい。また、一時的に不快側(抑制側)へ振ってから、快適側に変えてもよい。この場合、制御目標値の変更を1日に実施する回数に上限を設けてもよい。
【0069】
利用者は、制御目標値の変更を、空調運用状態表示部330の表示により確認することができる。その場合、空調運用状態表示部330に、「制御目標を一時的に快適側に変更しています」という表示をして、制御目標が変更されていることを強調してもよい。」(段落【0067】?【0069】)

(5)原査定の拒絶理由において引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-118225号公報(以下「刊行物5」という。)には、図面と共に、次の記載がある。

ス.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ワイヤレスリモコン方式の既設のインバータタイプの空気調和機において、夏季の電力ピーク時に快適性を損なわずに、空気調和機により電力会社管轄地域の安定した電力調整を行うデマンド制御方法に関するものである。」(段落【0001】)

セ.「【0036】(実施例3)図5は、同じ構造の住居3件において、室外35℃,空気調和機の設定26℃において、冷房運転時の各空気調和機の消費電力を単純に足しあわせたもの(一斉制御9,9’)とデマンド制御開始時間住居3戸に対して5分間ずらして、足しあわせたもの(群制御10,10’)である。(a)はデマンド制御開始前5分間の消費電力の平均値を基準として、5分間毎の各住居の空気調和機の消費電力平均値の比をとったものである。
【0037】群制御の場合、デマンド制御開始時の電力低減効果が一斉制御に比べて、小さくなるが、デマンド制御終了後の電力ピークを抑えることができる。
【0038】(b)は上記住居3件の空気調和機の消費電力の一斉制御と群制御の瞬時値を示したものである。群制御の場合、一斉制御と比較して、瞬間的な電力ピークをも抑えることができる。
【0039】なお、上記デマンド制御装置の代わりに、電力会社との通信ネットワーク機能を有する空気調和機を用いても同様の効果を得ることができる。」(段落【0036】?【0039】)

(6)本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-284161号公報(以下「刊行物6」という。)には、図面と共に、次の記載がある。

ソ.「【請求項1】 ネットワークに接続された複数の機器を制御する装置であって、
所定の動作モードと、制御対象機器を識別する情報と、制御内容とを対応付けて格納する格納部と、
動作モードの指示を受け付け、その動作モードに対応付けられた制御対象機器と制御内容とを前記格納部から読み込み、それらの制御対象機器に対してその制御内容を実行させるための制御信号を送信する指示部と、
を備えることを特徴とする動作制御装置。
【請求項2】 同一の動作モードに複数の制御対象機器が対応付けられている場合に、前記指示部は、各々の制御対象機器が各々の制御信号に応じた動作をすることにより消費する電力を考慮して、各々の制御信号を送信するタイミングをずらすことを特徴とする請求項1に記載の動作制御装置。」(【特許請求の範囲】)

タ.「【0042】また、連動情報ファイル生成部304は、複数の機器を連動して動作させる場合に、その機器の運転開始タイミングを変えるように連動情報ファイルを生成してもよい。一般に、電気機器は、運転を始めるときに大量の電流が流れ、しばらくすると消費電流は小さくなる。したがって、運転を開始するタイミングをずらすことで、機器の動作開始時にブレーカが落ちることを防止できる。」(段落【0042】)

4.対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「空調対象エリア」は本願発明の「対象空間」に相当し、以下同様に、「空調設備機器7」は「空調機器」に、「設定温度」は「目標温度」に、「環境制御用サーバー3及びローカルコントローラ6」または「環境制御用サーバー3」は「空調制御装置」に、「申告する」は「入力する」に、「環境要望情報」は「要望情報」に、「個人用端末1」は「入力装置」に、「二つの環境要望情報毎に統計情報演算機能で演算された複数種類の要望率の比率に応じて設定温度を変更する設定温度を設定する機能」は「複数種類の要望情報毎に要望率演算手段で演算された複数種類の要望率の比率に応じて目標温度を変更する目標温度変更手段」に、「環境設備制御システム」は「空調制御システム」に、各々、相当する。

また、刊行物1記載の発明の「1分毎に、申告されたまたは申告内容に変化のない、個人用端末1で受け付けられた全ての環境要望情報を解析し、当該利用者の総数に対する同一内容の要望情報の個数の割合からなる要望率を、相反する二つの環境要望情報毎に演算する統計情報演算機能」も、本願発明の「所定の受付時間内に入力装置で受け付けられた全ての要望情報を解析し、当該利用者の総数に対する同一内容の要望情報の個数の割合からなる要望率を、互いに内容が異なる複数種類の要望情報毎に演算する要望率演算手段」も、共に「入力装置で受け付けられた全ての要望情報を解析し、当該利用者の総数に対する同一内容の要望情報の個数の割合からなる要望率を、互いに内容が異なる複数種類の要望情報毎に演算する要望率演算手段」ということができる。

したがって、本願発明と刊行物1記載の発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
対象空間の温度を変動させる空調機器と、当該対象空間の温度を目標温度に一致させるように空調機器の動作を制御する空調制御装置と、前記対象空間に存在する利用者が入力する当該対象空間の温度に対する要望情報を受け付けるとともに当該要望情報を空調制御装置に提供する入力装置とを備え、前記空調機器及び入力装置が複数の対象空間毎に設けられ、
空調制御装置は、入力装置で受け付けられた全ての要望情報を解析し、当該利用者の総数に対する同一内容の要望情報の個数の割合からなる要望率を、互いに内容が異なる複数種類の要望情報毎に演算する要望率演算手段と、複数種類の要望情報毎に要望率演算手段で演算された複数種類の要望率の比率に応じて目標温度を変更する目標温度変更手段とを具備する空調制御システム。

(相違点1)
本願発明における「空調制御装置」は、単独の空調制御装置から構成されると共に「複数の対象空間毎に設けられ」ているのに対し、刊行物1記載の発明における「空調制御装置」は、「環境制御用サーバー3」及び「ローカルコントローラ6」から構成され、「ローカルコントローラ6」は「複数の対象空間毎に設けられ」、「環境制御用サーバー3」は「センター装置として設けられ」ている点。

(相違点2)
要望演算手段にて解析、演算される要望情報が、本願発明においては「所定の受付時間内に入力装置で受け付けられた全ての要望情報」であるのに対し、刊行物1記載の発明においては「1分毎に、申告されたまたは申告内容に変化のない、個人用端末1で受け付けられた全ての環境要望情報」である点。

(相違点3)
目標温度変更手段が、本願発明においては「複数種類の要望率の比率が高くなるにつれて目標温度の変更幅を大きくする」と特定されているのに対し、刊行物1記載の発明はかかる特定事項を有していない点。

(相違点4)
目標温度変更手段が、本願発明においては「複数種類の要望率の比率に応じて目標温度を変更した後に所定時間が経過したら、複数種類の要望率の比率に応じて変更した目標温度の変更幅よりも狭い変更幅で、且つ前記所定時間の経過前に行われた目標温度の変更と逆向きに目標温度を変更し、さらに、前記所定時間経過前に行われた目標温度の変更向きが相対的にエネルギ消費を減らす場合には、前記所定時間経過後に目標温度を逆向きに変更しないものであり」と特定されているのに対し、刊行物1記載の発明はかかる特定事項を有していない点。

(相違点5)
本願発明の空調システムは「各対象空間の空調制御装置を個別に制御するセンタ装置であって、各空調制御装置から目標温度の変更に関する情報を収集し、複数の空調制御装置における目標温度の変更がエネルギ消費を増やす向きの変更である場合には、当該複数の空調制御装置が目標温度を変更するタイミングをずらすように各空調制御装置を制御するセンタ装置」を有しているのに対し、刊行物1記載の発明はかかるセンタ装置を有していない点。

5.判断
そこで、上記各相違点につき検討する。

(相違点1について)
空調制御システムが配置される施設がLANや専用線等のネットワーク環境を有する場合には、刊行物1記載の発明のように、共用されるセンター装置としてサーバーを配置し制御の効率化を図るネットワーク方式の制御が広く採用されていた。

また、そのような環境にない場合や、ネットワーク環境下でも共用サーバーを使用する必要がない場合においては、本願発明のようにスタンドアロン方式の制御(刊行物1記載の発明に当てはめると、ローカルコントローラ6のみによる制御)が広く採用されていた。

したがって、ネットワーク方式の制御を採用するかスタンドアロン方式の制御を採用するかは、空調制御システムの配置される施設におけるネットワーク環境等を考慮して、当業者が適宜選択すべき事項である。

そして、刊行物1記載の発明において、スタンドアロン方式の制御に変換するのであれば、センター装置である「環境制御用サーバー3」に分担させていた制御機能を「ローカルコントローラ6」に移し代え、「単独の空調制御装置」を「複数の対象空間毎に設けられ」たものとすることは、当業者が、必然的に行うべき設計変更である。

(相違点2について)
「要望演算手段にて解析、演算される要望情報」が、本願発明において「所定の受付時間内に入力装置で受け付けられた全ての要望情報」である理由は、発明の詳細な説明に「一般に小学校や中学校の教室には各生徒が個人的に操作するパソコンが設置されていないので、教室の壁などに設置された入力装置(リモートコントローラ)を使うことが前提となる。しかしながら、授業中に生徒が勝手に席を立って入力装置を操作することは当然ながら禁止されており、休み時間などの限られた時間内で収集される要望に応じて効率的に温熱環境を調節する必要がある」(段落【0008】)と記載されているように、要望情報を受け付け可能な時間が「所定の受付時間内」に制限される、教室、映画館、劇場等を空調対象とするためである。

これに対して、「要望演算手段にて解析、演算される要望情報」が、刊行物1記載の発明において「1分毎に、申告されたまたは申告内容に変化のない、個人用端末1で受け付けられた全ての環境要望情報」である理由は、空調対象が随時出入り可能な空間であり、かつ入力装置が個人用端末1であって、要望情報が随時受け付け可能であるためである。

一方、利用者の要望をも加味して温度調整を行う空調装置の空調対象空間としての「学校」は、例えば刊行物3(摘記事項ケ参照)記載のように周知の空調対象空間である。

よって、刊行物1記載の発明を教室のような周知の空調空間に適用することは、当業者が容易になし得た事項であり、この際、「要望演算手段にて解析、演算される要望情報」を「所定の受付時間内に入力装置で受け付けられた全ての要望情報」とすることは、授業という制約条件から、必然的に行うべき設計変更である。

(相違点3について)
刊行物2記載の技術手段と本願発明を対比すると、刊行物2記載の技術手段における「寒い時の動作、暑い時の動作を示した人物の割合」は本願発明における「複数種類の要望率の比率」に相当し、以下同様に、「大きくなる」は「高くなる」に、「温度の調整値」は「目標温度の変更幅」に、各々相当する。

よって、刊行物2記載の技術手段は、次のように言い換えることができる。

室内に居る複数の人物全体の動作を考慮して温度調整を行うために、「複数種類の要望率の比率が高くなるにつれて目標温度の変更幅を大きくする」こと。

したがって、刊行物1記載の発明において、対象空間に存在する利用者全体の要望をよりよく反映させるため「複数種類の要望率の比率が高くなるにつれて目標温度の変更幅を大きくする」ことは、刊行物2記載の技術手段に倣って、当業者が容易になしえた事項である。

(相違点4について)
刊行物3記載の技術手段と本願発明を対比すると、刊行物3記載の技術手段における「設定温度を、予め設定された低消費電力運転となる規定温度よりも高消費電力運転となる設定温度に設定変更した後」は本願発明における「目標温度を変更した後」に相当し、以下同様に、「変更された設定温度が、規定温度よりもさらに低消費電力運転となる温度値である場合」は「前記所定時間経過前に行われた目標温度の変更向きが相対的にエネルギ消費を減らす場合」に、「その変更以降はその変更温度値を新たな規定温度として」は「前記所定時間経過後に目標温度を逆向きに変更しないものであり」に、各々相当する。

また、刊行物3記載の技術手段における「リモコン操作者の要求に応じて」も、本願発明における「複数種類の要望率の比率に応じて」も、共に「利用者の要望に応じて」といえる。

さらに、刊行物3記載の技術手段における「変更された設定温度を前記規定温度に戻し」は、本願発明の用語を用いると「変更した目標温度の変更幅で、且つ前記所定時間の経過前に行われた目標温度の変更と逆向きに目標温度を変更し」と表現することができる。

よって、刊行物3記載の技術手段は、次のように言い換えることができる。

利用者の要望に応じて目標温度を変更した後に所定時間が経過したら、利用者の要望に応じて変更した目標温度の変更幅で、且つ前記所定時間の経過前に行われた目標温度の変更と逆向きに目標温度を変更し、さらに、前記所定時間経過前に行われた目標温度の変更向きが相対的にエネルギ消費を減らす場合には、前記所定時間経過後に目標温度を逆向きに変更しないように省エネルギー制御に用いること

したがって、刊行物1記載の発明において、空調システムの省エネルギー化をさらに高めるため、目標温度変更手段を「複数種類の要望率の比率に応じて目標温度を変更した後に所定時間が経過したら、複数種類の要望率の比率に応じて変更した目標温度の変更幅で、且つ前記所定時間の経過前に行われた目標温度の変更と逆向きに目標温度を変更し、さらに、前記所定時間経過前に行われた目標温度の変更向きが相対的にエネルギ消費を減らす場合には、前記所定時間経過後に目標温度を逆向きに変更しないもの」とすることは、刊行物3記載の技術手段に倣って、当業者が容易になしえた事項である。

そして、この際、変更した利用者の要望に応じて高消費電力運転側に変更した目標温度を省エネのためどの範囲まで戻して変更するかは、例えば、刊行物4に多段階で戻す例が記載されているように(摘記事項シ参照)、当業者が、省エネ性と快適性を総合的に勘案して適宜設定すべき事項であり、本願発明のように「目標温度の変更幅よりも狭い変更幅」で変更することは、当業者が、容易になし得たものである。

(相違点5について)
複数機器の電力負荷が重なり大きなピークが現れることを回避するために「複数の制御対象装置においてエネルギ消費を増やす向きの変更である制御が行われる場合には、当該複数の制御対象装置がの制御タイミングをずらすように各制御対象装置を制御する」ことは、例えば、刊行物5、6に記載されているように、従来より周知の技術手段である。

よって、複数の空調設備機器の同時制御による電力負荷の大ピーク発生を回避する必要のある刊行物1記載の発明において 「各対象空間の空調制御装置を個別に制御するセンタ装置であって、各空調制御装置から目標温度の変更に関する情報を収集し、複数の空調制御装置における目標温度の変更がエネルギ消費を増やす向きの変更である場合には、当該複数の空調制御装置が目標温度を変更するタイミングをずらすように各空調制御装置を制御するセンタ装置」を設けることは、上記周知の技術手段に倣って、当業者が容易になし得た事項である。

また、本願発明により得られる効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2、3記載の技術手段及び周知の技術手段から、当業者であれば、予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

6.結び
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2、3記載の技術手段及び周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-15 
結審通知日 2013-08-20 
審決日 2013-09-02 
出願番号 特願2008-44845(P2008-44845)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松井 裕典小野田 達志  
特許庁審判長 竹之内 秀明
特許庁審判官 前田 仁
鳥居 稔
発明の名称 空調制御システム  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 北出 英敏  
代理人 坂口 武  
代理人 西川 惠清  

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