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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1280679
審判番号 不服2010-28034  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-10 
確定日 2013-10-23 
事件の表示 特願2000-559876「メトホルミンおよびグリベンクラミドの組み合わせを含んでなる固体経口投与形態」拒絶査定不服審判事件〔平成12年1月27日国際公開,WO00/03742,平成14年7月9日国内公表,特表2002-520371〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,1999年7月12日(パリ条約による優先権主張 1998年7月15日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成22年1月22日付けの拒絶理由通知に対して,その指定期間内である同年7月1日付けで手続補正されたが,同年8月6日付けで拒絶査定され,これに対して同年12月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明

本願請求項1に係る発明は,平成22年7月1日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「 【請求項1】 メトホルミンおよびグリベンクラミドの組み合わせを含んでなる固体経口投与形態であって、グリベンクラミドのサイズが、多くて10%の粒子が2μm未満であり、そして多くて10%の粒子が60μmより大きいサイズである固体経口投与形態。」(以下,「本願発明」という。)

3.引用刊行物

原査定の拒絶の理由で引用された,本件優先日前に頒布された刊行物である「国際公開第97/17975号」(原査定における引用文献1),及び,「Pharmazie 31 H.5, 1976, p.307-309」(原査定における引用文献2)には,以下の事項が記載されている(以下,原査定にならって,それぞれ,「引用文献1」及び「引用文献2」という。)。

(1)引用文献1(国際公開第97/17975号)
原文は英文のため,訳文で記す。

ア.(第22頁請求の範囲)
「1. 1:100より大きい重量比でのグリベンクラミド-メトホルミン塩酸塩の組み合わせに対する二次無効の場合におけるII型糖尿病の治療のために有用な単回投与薬剤の調製のための,重量比1:100でのグリベンクラミド-メトホルミン塩酸塩の組み合わせの使用。
……
4. 薬剤中で,単一の投与量が5 mgのグリベンクラミドと500 mgのメトホルミンを含むことを特徴とする,請求項1又は2に記載の使用。
5. 薬剤が錠剤の形態である,請求項4に記載の使用。」

イ.(第15頁29行?第17頁4行)
「治療有効性についての結論
実施された臨床研究においては,治療現在利用可能な投与量でのグリベンクラミド-メトホルミンの組み合わせ治療ではもはや受容可能な代謝管理ができないII型糖尿病の患者に対して,提案された組み合わせ(グリベンクラミド5 mg-メトホルミン500 mg)が16週間投与された。
有効性の評価からの主要な結果は,空腹時血糖(-35 mg/dl),食後2時間血糖値(-51 mg/dl)及びHbA1c(-0.9 %)における有意な減少にある。
これらの結果は,次の点を考慮すると,特に価値が高い。
1.より重症の糖尿病状態(高い投与量のグリベンクラミドとメトホルミンの使用が必要となるような)は,実際は,市販のスルホニル尿素-メトホルミン組み合わせ剤ではもはや反応せず,結果として,次の治療選択肢,すなわち,経口治療へのインスリン治療の追加又はインスリン治療による完全な代替,を開始する必要があったところである。ところが,これらの症例で治療が成功し,得られた結果は,グリベンクラミド5 mg+メトホルミン500 mgの組み合わせが重要な治療手段であり,これは,なおも経口血糖降下治療を使用して糖質代謝の効果的な管理を可能とするもので,したがって,患者自身の生活の質についてさらなる有益な効果が得られるということを証明している。
2.それどころか,それほど重症ではない場合,5 mgのグリベンクラミド+500 mgのメトホルミンの比率は,要求に応じて分割し得るものであり,その結果,低い及び/又は分割された1日投与量により,その疾患の発症時から治療することが許容されるが,これは,グリベンクラミドのメトホルミンに対する比率は,分割時においても,非常にバランスが取れているとわかるであろうからである。」

(2)引用文献2(Pharmazie 31 H.5, 1976, p.307-309)
原文は独文のため,訳文で記す。

ア.(標題)
「粒径に依存するグリベンクラミドのバイオアベイラビリティー」

イ.(要約欄)
「粉砕したグリベンクラミドは,市販の物質と比較して,人工胃液と人工腸液,及び,0.1モルのリン酸塩緩衝剤(pH=7.4)の中で溶解速度が高まり,ウサギに経口投与した後,最大血漿中濃度と血漿中濃度曲線下面積(AUC)が著しく増加し,バイオアベイラビリティーが高まることが判明した。」

ウ.(第307頁左欄要約下第1?13行)
「グリベンクラミド(Maninil(R),Daonil(R),Euglucon(R))は,ヒト,ウサギ,ネズミ,イヌに経口投与すると,平均して4?8時間後に最大血漿濃度に達する([3,6]参照)。一方,経口の抗糖尿病薬は,基本的には細胞外領域で非常に早く拡散し,そして,主にシクロヘキシル環の3位及び4位でのヒドロキシル化により集中的に生体内変化をする([2]参照)。前記化合物は非常に難溶性であるので,我々は,粒子の大きさが溶解速度とバイオアベイラビリティーに与える影響を,ネズミとウサギで研究した。」(ただし,「(R)」は,「R」の丸付き文字である。)

エ.(第307頁左欄要約下第14?23行)
「2.研究と結果
2.1 使用物質と方法
溶解速度(3.3参照)の研究と,生体内での利用性に関する動物実験(3.4参照)のために,市販のグリベンクラミド(I;バッチBGR 0050974;国営製薬コンビナート・ドレスデン)と,ボールミルで粉砕した粉末物質(II;3.2参照)が使用され,その累積相対度数分布曲線が図1に示される(平均粒径14.85又は6.74μm)。」

オ.(第307頁図1)


カ.(第307頁図1の説明文)
「グリベンクラミドの未粉砕物(I)と粉砕物(II)の粒径分布に関する累積相対度数分布曲線。横軸;統計的フェレ径。縦軸;累積相対度数。」

キ.(第307頁右欄下から12行?第309頁左欄第26行)
「2.3 生体内での利用性
研究は,メスのウィスター系ラットと,オスの「ヘレ・グロスシルバー」種ウサギを使って行われた(3.4参照)。ラットで研究した時,血中濃度が低いため(3?5μg/ml),使用した測定方法では,経口投与後の血中濃度を,一匹の動物での実験期間全体にわたって追跡することができなかった。一方で,最大血中濃度の時点は,2?8時間で個別に変動することは周知であり([3,6参照]),得られた結果は,単に方向付けをする性格のものだった。
ウサギで決定された血漿中濃度は,関連文献での調査結果([3,6]参照)の値に対して,約7倍だったので,吸収段階は,両方の粒度クラスについてそれぞれ同じ動物で把握することができた。ここで重要なことは,ウサギの場合のゆっくりした排泄と,より高い吸収割合である([3,6]参照)。血漿中濃度曲線(図5参照)と分析結果(表を参照)が示すように,市販のグリベンクラミドを粉砕することによって,「生物学的利用率」が達成される。ウサギで行った研究では,血漿中濃度曲線下面積(AUC)で36.9 %,最大血漿中濃度で18.3 %高まっている。しかし,経口投与と最大血漿中濃度への到達時間との時間間隔を大幅に短縮することは見られなかったが,留意すべきは,今でも極めて少ない投与量で血糖値を下げる作用のある化合物は,使用した計量方法には感度限界があるために,治療上は普通の投与量としなくてはならないことである。」

ク.(第308頁図5(Abb.5))


ケ.(第308頁図5(Abb.5)の説明文)
「未粉砕物(I)と粉砕物(II)を経口投与した後のウサギ1?10におけるグリベンクラミドの血漿中濃度の推移」

コ.(第308頁表(Tabelle))

なお,表中第1行目に記載される各列の項目名は,左から順に以下のとおりである。
・「ウサギNo.」
・「最大血漿中濃度 μg/ml」の「I*(C_(u))」と「II**(C_(z))」
・「(C_(z)・100)÷C_(u) %」
・「最大血漿濃度時刻 h」の「I」と「II」
・「血漿中濃度曲線下面積(AUC)μg/ml・h」の「I(AUC_(u))」と「II(AUC_(z))」
・「(AUC_(z)・100)÷AUC_(u) %」
また,表下の注釈は,以下のとおりである。
「* I:未粉砕グリベンクラミドの投与後
**II:粉砕グリベンクラミドの投与後」

4.対比

引用文献1には,「重量比1:100でのグリベンクラミド-メトホルミン塩酸塩の組み合わせ」を含む「単回投与薬剤」について記載されており(摘記ア),さらに,当該薬剤に関して,「5 mgのグリベンクラミドと500 mgのメトホルミンを含む」ような「錠剤の形態」のものとすること(摘記ア),及び,臨床試験において,「より重症の糖尿病状態」の患者に対し,「重要な治療手段であり,これは,なおも経口血糖降下治療を使用して糖質代謝の効果的な管理を可能とするもので,したがって,患者自身の生活の質についてさらなる有益な効果が得られる」等との結果が得られたこと(摘記イ)についても記載されている。
これらのことから,引用文献1には,「5 mgのグリベンクラミドと500 mgのメトホルミン塩酸塩の組み合わせを含む錠剤の形態の経口血糖降下治療の単回投与薬剤」についての発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明における「錠剤の形態の経口血糖降下治療の単回投与薬剤」は,本願発明における「固体経口投与形態」に相当する。
そうすると,本願発明と引用発明は,いずれも,

「メトホルミンおよびグリベンクラミドの組み合わせを含んでなる固体経口投与形態」

であることで一致し,以下の点で相違している。

[相違点]本願発明では,「グリベンクラミドのサイズが、多くて10%の粒子が2μm未満であり、そして多くて10%の粒子が60μmより大きいサイズである」と限定されているのに対し,引用発明では,それが特定されていない点。

5.判断

(1)相違点について

引用発明の「単回投与薬剤」は「錠剤の形態」であることから,それに含まれるグリベンクラミド等の各成分は,粒子状であることが当業者にとって明らかであって,粒子状であるグリベンクラミドを使用する以上,その粒子のサイズを何らかの範囲にすることは,意識的に行うかどうかはともかく,当業者にとって不可避である。
また,引用文献2には,非常に難溶性であるグリベンクラミド(摘記ウ)について,「粉砕したグリベンクラミドは,市販の物質と比較して,……,ウサギに経口投与した後,最大血漿中濃度と血漿中濃度曲線下面積(AUC)が著しく増加し,バイオアベイラビリティーが高まることが判明した」ことが記載されており(摘記アの他,摘記キ?コ),また,その実験に用いたグリベンクラミドの平均粒径は,市販のもの(未粉砕物)が14.85μm,粉砕物が6.74μmであったことが,それらの粒径分布とともに記載されている(摘記エ?カ)。これら引用文献2の記載からは,経口投与製剤の開発において必ず検討される特性の一つであるバイオアベイラビリティーについては,非常に難溶性のグリベンクラミドの場合は,粒径に依存していることに留意が払われなければならないことが,当業者であれば理解できる。
ここで,引用文献1と引用文献2とは,いずれもグリベンクラミドを含む経口投与製剤に関するもので,技術分野を同じくするものである。また,上述のように,引用発明の「単回投与薬剤」を製造する場合,製造条件として,グリベンクラミド等の粒子のサイズについて条件設定をすることが必要であるし,それに加えて,引用文献2に記載されるように,グリベンクラミドのバイオアベイラビリティーが粒径に依存していることも当業者に知られたことである。そうすると,引用発明の「単回投与薬剤」を製造をするにあたり,当業者であれば,引用文献2に記載されるグリベンクラミドの粒子サイズとバイオアベイラビリティーの関係についても参照し,入手容易性と使用実績のある市販品だけでなく,それよりもバイオアベイラビリティーが良いことが判明している粉砕品のような平均粒径が6.74μm程度やその前後の粒子サイズについても検討し,粒子サイズの製造条件を設定したであろうといえるから,主に含まれるべき粒子の目標粒径としてそのような平均粒径が含まれる範囲を中心に画定し,それからはずれる粒径の粒子の割合を一定以下に抑えることは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,グリベンクラミドの粒子サイズについて,6.74μmを含む2?60μmの範囲を中心に画定し,それからはずれる粒径の粒子,すなわち,2μm未満のものと60μmより大きいもの,の割合をそれぞれ多くて10%以下であるとする上記相違点は,当業者が容易になし得たことである。

(2)効果について

本願明細書0032段落には,「同時投与するグリベンクラミド(商品名Daonilで市販されている)およびメトホルミン塩酸塩」でのグリベンクラミドのAUCが869.3であるのに対して,本願発明の発明特定事項を満足する「バッチAとの組み合わせ」では790.5,本願発明の発明特定事項を満足しないより大きい粒子サイズのグリベンクラミドを含む「バッチBとの組み合わせ」では353.5であることが記載されている。そして,これについて請求人は,審判請求書において,「バッチAを使用して製造した錠剤について得られた曲線下面積(AUC)は790.5ng/ml/hであり、これは、グリベンクラミドとメトホルミンを別々に投与して得られたAUC値である869.3ng/ml/hに匹敵します。対照的に、バッチBを使用して製造した錠剤では、AUCは353ng/ml/hであり、これは、バッチAの値の半分以下であります。」と主張する。
しかしながら,「バッチAとの組み合わせ」が,より大きい粒子サイズのグリベンクラミドを用いた「バッチBとの組み合わせ」より,グリベンクラミドのAUCの点で優れているという効果は,引用文献2に,粉砕したグリベンクラミドが未粉砕品に比べてAUCが著しく増加することが開示されているから,当業者が予測可能なものである。また,一般に,2種類の薬剤を組み合わせて合剤にしても,別剤で同時投与した場合に比べて,バイオアベイラビリティーが低下する,というような技術常識は見出せないから,バッチBを使った合剤のAUCが市販品のグリベンクラミドを用いた同時投与のAUCより大幅に低いことを見出したことはともかく,バッチAと組み合わせた合剤のAUCが市販品を同時投与した場合のAUCに匹敵するとか,多少しか低くないという効果は,格別予想外の効果であるとはいえない。
したがって,本願発明に顕著な効果は認められない。

(3)請求人の主張について

ア.請求人は審判請求書等において,過度に小さいグリベンクラミド粒子が過剰に存在すると低血糖のリスクを与えるところ,これを回避するために小さいサイズの粒子の割合を限定することは重要であるが,引用文献2にはそのようなことが記載されていない旨を主張する。
しかしながら,糖尿病薬の副作用に低血糖があることは周知であるから,引用発明の薬剤の製造のためにグリベンクラミドの粒子サイズを検討する際,粒径を小さくし過ぎて血中濃度が高まり過ぎ低血糖が生じれば,当業者であれば,当然に気がついて,粒径が小さくなり過ぎないように条件設定を適宜行うことができるというべきである。しかも,コストや必要な技術を考慮すれば,際限なく粒径を小さくしようとは考えないと解されるから,なおのこと,適切な粒径の下限に到達することは自然というべきである。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

イ.また,請求人は審判請求書等において,「メトホルミンとグリベンクラミドの同時投与がグリベンクラミドのバイオアベイラビリティーを損ない得るという問題」について,優先日の当業者には認識されていなかった旨,及び,この問題を認識していなければ,引用発明においてグリベンクラミドのバイオアベイラビリティーを改善しようとする理由は皆無で,引用文献2を参照する動機はない旨,を主張する。
しかしながら,本件については,引用発明を記載した引用文献1と,グリベンクラミドの粒子サイズがバイオアベイラビリティーと相関することについて開示する引用文献2とを見た当業者であれば,引用発明におけるグリベンクラミドの粒子サイズの好適な範囲は,必然的に引用文献2を参照して定めたであろうといえるものであるから,このような引用文献1と引用文献2の関係は,請求人主張の上記「問題」について認識したか否かにかかわらず,組合わせたり互いに参照したりする動機付けがあるといえる。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

ウ.さらに,請求人は審判請求書等において,「引用文献2は、グリベンクラミド単独での投与に関するものであり、その教示を他の有効成分と共にグリベンクラミドを含む固体の経口投与形態にそのまま適用することはできません」と主張する。
しかしながら,上記主張は,他の有効成分が共存する製剤を開発する場合に,単独投与の場合の知見を参照して検討を開始することはない,というものであり,当業者の創作能力を殊更に低くみるものである。また,グリベンクラミド製剤の場合に,単独投与の場合の知見を参照することを合理的としない格別の事情が存在していたわけでもない。してみれば,引用文献1及び引用文献2を見た当業者は,引用発明に対して引用文献2に記載の知見を参照したであろうと考えるのが自然である。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

(4)小括

よって,本願請求項1に係る発明は,引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の点について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-24 
結審通知日 2013-05-28 
審決日 2013-06-11 
出願番号 特願2000-559876(P2000-559876)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 前田 佳与子
中村 浩
発明の名称 メトホルミンおよびグリベンクラミドの組み合わせを含んでなる固体経口投与形態  
代理人 青山 葆  
代理人 岩崎 光隆  

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