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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01D
管理番号 1280683
審判番号 不服2011-14692  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-08 
確定日 2013-10-23 
事件の表示 特願2005-122014「蒸気タービンのオイルデフレクタ位置におけるロータ温度制御」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月 4日出願公開、特開2005-307982〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本件は、2005年4月20日(パリ条約による優先権主張、2004年4月21日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成17年4月20日付けで特許請求の範囲、明細書、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成22年4月13日付けで拒絶理由通知がなされ、平成22年10月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年7月8日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に同日付けの手続補正書によって特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、平成23年8月16日付けで審判請求書の請求の理由の手続補正書(方式)が提出され、その後、当審において、平成24年1月23日付けで書面による審尋がなされ、平成24年7月24日付けで回答書が提出され、平成24年9月5日付けで拒絶理由通知がなされ、平成25年3月11日付けで意見書が提出されたものであり、その請求項1ないし9に係る発明は、平成23年7月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
少なくとも1つのシールリング(31、32、61、62)の組を含むオイルデフレクタ(30、60)と、
バケットを保持するための少なくとも1つの段(27、57)及び環状の段部(21、51)を含むシャフト(10)と
を含むタービンであって、
前記段部(21、51)が、前記シールリング(31、32、61、62)に近接した外周面(22、52)と、前記シャフトの中心部分から半径方向に延びかつ前記外周面(22、52)の半径方向下方に位置するグルーブ(24、54)を形成した側面(23、53)とを有しているとともに、前記段部(21、51)が軸方向に前記少なくとも1つの段(27、57)に向かって突出しており、前記外周面(22、52)にオイルスリンガポケット(26、56)が形成されている、
タービン。」

2.引用刊行物について

(1)引用刊行物
本件出願の優先日前に頒布され、当審の拒絶理由に引用された刊行物である実願昭54-12544号(実開昭55-112002号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア)「本考案は電力を必要としない簡単な空気の強制循環手段によつて油漏れや油の炭化を防止できる回転機械における軸受部の炭化防止兼用の油漏れ防止装置に関する。」(明細書第1ページ第15ないし18行)

イ)「 従来の方法は第3図に示されているように、軸受メタル102等より漏れてくる油105の当たるローター101部分に段差をつけ、この漏れてくる油105をローター101の回転による遠心力によつて振り切り、さらにX部からY部に向つて漏出する油を油切り部103の櫛歯103aで捕捉して軸受箱内に戻す方法である」(明細書第2ページ第4ないし10行)

ウ)「第1図は蒸気タービン高温・高圧蒸気流入側の軸受部に装備された本考案の一実施例の断面図、第2図は第1図のA-A矢視図である。
図において、本実施例はローター1の軸受メタル2側の一端部に半径方向に複数個の切欠部5を設け、かつローター1の回転時に油切り部4とローター1との間のクリアランス部を通つてローター1の切欠部5方向に強制循環させる空気13の吸込孔14とローター1の切欠部5通過後の上記空気13の排出孔としてのベント6とを設けた構成である。軸受メタル2等から漏れる油16が当たるローター1の部分には段差がつけてある。
この構成によつて、ローター1の回転によつて切欠部5はフアンの作用を発揮し、空気吸込孔14より積極的に外部の空気13を吸込み、この空気13を油切り部4とローター1との間のクリアランス部を切欠部5方向に強制循環させることにより、軸受メタル2より給油された油16の一部が漏れても、漏れた油をローター1の回転や油16自体の圧力により飛散させて油切り部4とローター1との間のクリアランス部から外部のタービン側に漏出するのを軸受メタル2側に強制的に押し戻し、また上記クリアランス部に漏れた油が滞留する場合においても、その滞留する油を上記空気13の強制循環によつて絶えず押し戻すとともに冷却させるので、高温・高圧蒸気15によつて該滞留する油の炭化の起こるのを防止することができる。
第1図において、3は軸受台、7はパツキン箱、8はパツキン環、9は車室(蒸気室を含む)、10はバルブ、11はノズル、12は回転羽根、16は油、17は油戻りである。」(明細書第3ページ第8行ないし第4ページ下第2行)

エ)「第1図は蒸気タービン高温・高圧蒸気流入側の軸受部に装備された本考案の一実施例の断面図、第2図は第1図のA-A矢視図、第3図は従来の上記軸受部の油漏れ防止装置の一例の断面図である。」(明細書第5ページ最下行ないし第6ページ第4行)

(2)引用文献から分かる事項
上記(1)及び図面の記載から、引用文献には次の事項が記載されていることが分かる。

カ)上記イ)の従来の方法に係る記載及び第3図における油切り部103の櫛歯103aによれば、第1図においても、櫛歯を含む油切り部4であることが分かる。

キ)上記イ)の「軸受メタル2等から漏れる油16が当たるローター1の部分には段差がつけてある。」の記載並びに第1図の記載から、ローター1が環状の段差部を含むものであることが分かり、さらに、回転羽根12を保持するための少なくとも1つの段差を含むローター1であることが分かる。

ク)上記カ)及びキ)並びに上記イ)の特に「油切り部4とローター1との間のクリアランス部」に関する説明から、第1図には、段差部が櫛歯に近接した外周面を有するものであることが分かる。

ケ)上記カ)ないしク)並びに第1図の断面図によれば、段差部は、ローター1の中心部分から半径方向に延びかつ外周面の半径方向下方に位置する湾曲凹部を形成した側面を有することが分かり、さらに、湾曲凹部と外周面との間、すなわち段差部の側面における湾曲凹部に連なる上部が、軸方向に回転羽根12を保持する段差に向かって突出していることが分かる。

(3)上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「櫛歯を含む油切り部4と、
回転羽根12を保持するための少なくとも1つの段差及び環状の段差部を含むローター1と
を含む蒸気タービンであって、
前記段差部が、前記櫛歯に近接した外周面と、前記ローター1の中心部分から半径方向に延びかつ前記外周面の半径方向下方に位置する湾曲凹部を形成した側面とを有しているとともに、前記段差部が軸方向に前記少なくとも1つの段差に向かって突出している、
蒸気タービン。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「櫛歯」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「(少なくとも1つの)シールリング(31、32、61、62)」に相当し、以下同様に、「油切り部4」は「オイルデフレクタ(30、60)」に、「回転羽根12」は「バケット」に、「段差」は「段(27、57)」に、「段差部」は「段部(21、51)」に、「ローター1」は「シャフト(10)」に、「蒸気タービン」は「タービン」に、「外周面」は「外周面(22、52)」に、それぞれ相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、次の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
「少なくとも1つのシールリングを含むオイルデフレクタと、
バケットを保持するための少なくとも1つの段及び環状の段部を含むシャフトと
を含むタービンであって、
段部が、シールリングに近接した外周面を有している
タービン。」
[相違点1]
本願発明においては、シールリングの「組」を含むオイルデフレクタであって、シールリングに近接した「外周面(22、52)にオイルスリンガポケット(26、56)が形成されているのに対し、引用発明においては、櫛歯を含む油切り部4であって、櫛歯に近接した外周面を有するものの、他の事項を有しない点(以下、「相違点1」という。)。
[相違点2]
本願発明においては、「シャフトの中心部分から半径方向に延びかつ外周面(22、52)の半径方向下方に位置するグルーブ(24、54)を形成した側面(23、53)とを有しているとともに、段部(21、51)が軸方向に少なくとも1つの段(27、57)に向かって突出して」いるのに対し、引用発明においては、「ローター1の中心部分から半径方向に延びかつ外周面の半径方向下方に位置する湾曲凹部を形成した側面とを有しているとともに、段差部が軸方向に少なくとも1つの段差に向かって突出して」いる点(以下、「相違点2」という。)。

4.判断

(1)相違点1について
オイルデフレクタ等の油切り装置において、シールリングの組に近接した外周面に溝等のオイルスリンガポケットなる手段を配することは周知技術(以下、「周知技術1」という。例として、実願昭57-143451号(実開昭59-49702号)のマイクロフィルム[特に、明細書第5ページ第8ないし14行及び第3図]、特開昭57-177460号公報[特に、第4ページ右上欄下第2行ないし左下欄最下行及びFIG.1]、米国特許第6378873号明細書[特に、第3欄第25ないし30行及びFig.1])である。
そして、引用発明及び周知技術1は共に、オイルデフレクタ等の油切り装置において、シールリング(櫛歯)に近接した外周面を備えるものを有することで互いに機能が共通するから、周知技術1に基づき、引用発明の「櫛歯」(本願発明の「シールリング」に相当。)を組とすること、及び、櫛歯に近接した「外周面」に溝等のオイルスリンガポケットを採用することは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
本願発明の「段部」及び引用発明の「段差部」について検討すると、両者は共にシールリング(櫛歯)に近接した外周面を有するものであることは上記「3.対比」で説示したとおりであるし、本願発明の「段部」に係る本願の図4ないし7の断面図の記載及び引用発明の「段差部」に係る引用文献の第1図の断面図の記載における両断面図の記載の対比によれば、軸の中心部分から半径方向に延びかつ外周面の半径方向下方に位置する湾曲凹部を形成した側面を有しているとともに、段部(段差部)が軸方向に少なくとも1つの[バケット(回転羽根)を保持するための]段(段差)に向かって突出することにおいても両者は共通しているといえる。そこで、本願発明の「グルーブ」を形成する「段部」に対応する引用発明の「湾曲凹部」を形成する「段差部」についてさらに検討する。周知技術1の周知例として提示した実願昭57-143451号(実開昭59-49702号)のマイクロフィルム(以下、「参考文献1」という。)の第2図を参照すると、油切り16先端のシール部に近接配置される外周面を備えるロータ7の段差部において、側面に湾曲凹部及び該湾曲凹部に連なって側方に突出する形状を含むことが看取できるし、他の例として、米国特許第2846245号明細書(以下、「参考文献2」という。)のオイルデフレクタの「sealing teeth 8a,17c」に近接した外周面を有するシール部7におけるハブ部7a、細いウエブ部7b及びリム部7cの構造は、側面に凹部及び凹部に連なって側方に突出する形状を備えるものであることが分かる(特に、第2欄第24行ないし第3欄第12行、第4欄第45行ないし第5欄第6行、Fig.1及び3)。したがって、引用文献並びに参考文献1及び2によると、オイルデフレクタ等の油切り部のシールリング(歯)に近接した外表面を有する部材の側面を、凹部及びその凹部に連なって側方に突出する形状は、従来から周知の形状であったといえる(以下、「周知技術2」という。)。そして、該凹部が全体として溝又は窪みとして形成されるものであることは明らかであるから、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び周知技術2に基づき、当業者が格別の創意工夫無しに想到し得たものである。
また、周知技術2を当然に知り得る当業者が、引用文献の第1図に触れた際に、第1図の断面図における湾曲凹部を装置全体として溝又は窪みと認識して技術を理解することに困難性はなく、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用文献に記載されているに等しい事項といえるものである。
なお、適用関係について付言すれば、周知技術2の例として提示した参考文献2おけるハブ部7a、細いウエブ部7b及びリム部7cの構造は、オイルデフレクタにおけるオイルの炭化防止のための一手段であり、周知技術2で認定した構造が炭化防止に有利であることは自明の事項である。これに対し、引用発明も、油切り部(本願発明の「オイルデフレクタ」に相当。)における油の炭化防止を技術課題としているから(上記「2.(1)ア)ないしウ)」参照。)、両者の適用に困難性はないといえる。また、炭化防止の技術課題を達成するために、冷却手段を施す引用文献記載の被冷却部材を、予め従来周知の炭化防止に有利な形状・構造としておくことは、当業者が通常採用し得ることである。

そして、本願発明を全体として検討してみても、本願発明の奏する効果は、引用発明並びに周知技術1及び2から当業者が予測し得る程度のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-16 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-11 
出願番号 特願2005-122014(P2005-122014)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺町 健司  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 藤原 直欣
金澤 俊郎
発明の名称 蒸気タービンのオイルデフレクタ位置におけるロータ温度制御  
代理人 荒川 聡志  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  

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