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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1280755
審判番号 不服2012-17801  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-12 
確定日 2013-10-24 
事件の表示 特願2010- 52516「光変調器」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月22日出願公開、特開2011-186258〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月10日の特許出願であって、平成23年6月20日付け、同年9月5日付け、及び同年12月5日付けで補正がなされ、平成24年6月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月12日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成23年12月5日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。
「基板にマッハツェンダー型導波路を形成した光変調器において、
該基板の厚さが、導波路を伝搬する光波の波長の15倍以下であり、
該マッハツェンダー型導波路の出射側の合波部に入力される2つの分岐導波路が該合波部に接続される部分において、接続される2つの分岐導波路の傾きが0度であると共に、該2つの分岐導波路の間隔が0.5μm以上、1μm以下であり、
かつ光波の伝搬方向と当該2つの分岐導波路とがなす角度が0.1度以下となる区間の長さが100μm以上、500μm以下であり、
該合波部の合波後の導波路がマルチモード導波路であり、
該マルチモード導波路の長さが10?500μmであり、
さらに、該合波部から出力される導波路が、出力主導波路とそれを挟む2本の出力副導波路からなる3分岐導波路で構成され、
出力される該3分岐導波路は、該出力副導波路の幅が、該出力主導波路の幅より小さく、
該合波部に接続される部分における該出力主導波路と該出力副導波路との間の間隔が0.5μm以上、1μm以下であることを特徴とする光変調器。」


第3 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2006-301612号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載が図とともにある(下線は審決で付した。以下同じ。)。
1 「なお、図2(a)は、光変調器を上方から見た図であり、説明を簡略化するため、電極、バッファ層は省略して表示されている。1は薄板、4はマッハツェンダー型光導波路、5は該導波路の出射用光導波路部分、6は入射光、8は光導波路の合波部から放射される放射光を示す。」(【0007】)
2 「図3は、本発明に係る光変調器の一例である。電気光学効果を有する材料で形成された薄板1には、図2のように薄板の表面に光導波路4が形成され、併せて、該光導波路4を通過する光波を変調するため、不図示の変調電極(信号電極や接地電極等)が薄板表面に形成されている。なお、光導波路は、薄板の裏面に形成することも可能である。」(【0037】)
3 「光変調素子を含む薄板の製造方法は、数百μmの厚さを有する基板に上述した光導波路や変調電極を作り込み、基板の裏面を研磨し、例えば、20μm以下の厚みに仕上げる。光導波路や変調電極などの作り込みは、薄板を作成した後に行うことも可能であるが、光導波路形成時の熱的衝撃や各種処理時の薄膜の取り扱いによる機械的衝撃が加わり、薄板が破損する危険性もあるため、光導波路や変調電極を作り込んだ後に基板の裏面を研磨することが好ましい。」(【0040】)
4 「図9の光変調器の特徴は、合波部20において、入射側に2本の光導波路23,24、出射側に3本の光導波路5,21,22を配置した2×3分岐導波路を有しているものである。特に、光導波路23,24はマッハツェンダー形光導波路の2つの分岐導波路であり、光導波路5はマッハツェンダー型光導波路の出射導波路を構成している。光導波路21,22は、出射導波路5を挟む2つの放射光用導波路である。」(【0052】)
5 「上記特性を有する合波部としては、次の条件を満足することが必要である。なお、図10は、図9の合波部20の一部を拡大した図であり、分岐導波路23,24は、合波点の直前では互いに平行になるように調整されている。
(1)マッハツェンダー型光導波路を構成する2つの分岐導波路23,24と2つの放射光用導波路21,22は、該出射導波路5の光伝搬方向(一点鎖線C-C’)に対して、各々が線対称となるように構成されていること。
(2)放射光用導波路21,22の幅w2は、出射導波路5の幅w1より狭いこと。
(3)放射光用導波路21,22と出射導波路5とが成す角度θが、1°以下であること。」(【0054】)(「(2)放射光用導波路21,23」は「(2)放射光用導波路21,22」の誤記と認められるので、訂正して摘記した。)
6 「なお、図10の一点鎖線Xと一点鎖線Yとの間に描かれた点線は出射導波路5及び放射光用導波路21,22の仮想延長線を示したものである。図10では、分岐導波路23,24が結合した一点鎖線Xの位置から放射光用導波路の分岐が始まっているが、必要に応じて、分岐導波路の結合状態をしばらく維持し、その後放射光用導波路の分岐が始まるように構成することも可能である。一例として、分岐導波路の幅w3を3.5μm、出射導波路5の幅w1を4μm、そして放射光用導波路の幅w2を2μm程度に設定し、角度θを0.5°、一点鎖線XとYとの間隔を115μm程度に設定した場合に、伝搬光と放射光との分離が効率よく行えることが確認されている。」(【0055】)
7 上記6に照らして、図10を見ると、2つの分岐導波路23,24の終端を一点鎖線Xの位置とし、出射導波路5、及び、2つの放射光用導波路21,22の始端部を一点鎖線Yの位置としたことが看取できると共に、出射導波路5とそれを挟む2本の放射光用導波路21,22が3分岐導波路を構成していることが看取できる。
また、2つの分岐導波路23,24は互いに平行であるから、傾きが0度であることは明らかである。
8 上記6に照らして、w1=4μm,w2=2μm,w3=3.5μm,θ=0.5°,一点鎖線XとYとの間隔を115μmとした場合、図10の一点鎖線Xの位置での放射光用導波路21,22及び出射導波路5の合計幅は、2*2/cos0.5+4≒8.004μmであり、一方、2つの分岐導波路23,24の幅が3.5μmであるから、2つの分岐導波路23,24の間隔は約1.004μmである。
また、出射導波路5と放射光用導波路21,22との間隔は、115μm×tan0.5°≒1.005μmである。

したがって、上記記載及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「20μm以下の厚みに仕上げた薄板1の表面にマッハツェンダー型光導波路4を形成した光変調器であって、
入射側にマッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路23,24、出射側にマッハツェンダー型光導波路の出射導波路5、及び、出射導波路5を挟む2つの放射光用導波路21,22を配置した2×3分岐導波路を有する合波部20において、
伝搬光と放射光との分離を効率良く行うために、
分岐導波路23,24は、合波点の直前では互いに平行になるように調整し、
2つの分岐導波路23,24と2つの放射光用導波路21,22は、該出射導波路5の光伝搬方向に対して、各々が線対称となるように構成し、
放射光用導波路21,22の幅w2は、出射導波路5の幅w1より狭く、
放射光用導波路21,22と出射導波路5とが成す角度θが、1°以下であり、
分岐導波路の結合状態をしばらく維持し、その後放射光用導波路の分岐が始まるように構成して、
分岐導波路の幅w3を3.5μm、出射導波路5の幅w1を4μm、そして放射光用導波路の幅w2を2μm程度に設定し、角度θを0.5°、2つの分岐導波路23,24の終端部の一点鎖線Xの位置と出射導波路5、及び、2つの放射光用導波路21,22の始端部の一点鎖線Yの位置との間隔を115μm程度に設定し、2つの分岐導波路23,24の間隔を約1μm(1.004μm),及び、出射導波路5と放射光用導波路21,22との間隔を約1μm(1.005μm)に設定した
光変調器。」(以下「引用発明」という。)


第4 対比
1 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「薄板1」、「2つの分岐導波路23,24」、「出射導波路5」及び「放射光用導波路21,22」は、それぞれ本願発明の「基板」、「2つの分岐導波路」、「出力主導波路」及び「2本の出力副導波路」に相当する。
2 引用発明の分岐導波路は、結合状態をしばらく維持し、その後放射光用導波路の分岐が始まるものであるから、引用発明の分岐導波路の結合状態が維持された部分が本願発明の合波部に相当すると共に、マルチモード導波路といえることは明らかである。さらに、一点鎖線XとYとの間隔は115μmであるから、引用発明は、本願発明の「マルチモード導波路の長さが10?500μm」との事項を満たす。

よって、本願発明と引用発明は、
「基板にマッハツェンダー型導波路を形成した光変調器において、
該マッハツェンダー型導波路の出射側の合波部に入力される2つの分岐導波路が該合波部に接続される部分において、接続される2つの分岐導波路の傾きが0度であり、
該合波部の合波後の導波路がマルチモード導波路であり、
該マルチモード導波路の長さが10?500μmであり、
さらに、該合波部から出力される導波路が、出力主導波路とそれを挟む2本の出力副導波路からなる3分岐導波路で構成され、
出力される該3分岐導波路は、該出力副導波路の幅が、該出力主導波路の幅より小さい光変調器。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(1)相違点1
2つの分岐導波路の間隔が、本願発明では0.5μm以上、1μm以下であるのに対し、引用発明では約1μm(1.004μm)である点。
(2)相違点2
光波の伝搬方向と2つの分岐導波路とがなす角度及び区間の長さが、本願発明では0.1度以下となる区間の長さが100μm以上、500μm以下であるのに対し、引用発明では、その点につき明らかでない点。
(3)相違点3
合波部に接続される部分における出力主導波路と出力副導波路との間の間隔が、本願発明では0.5μm以上、1μm以下であるのに対し、引用発明では約1μm(1.005μm)である点。
(4)相違点4
基板の厚さが、本願発明では導波路を伝搬する光波の波長の15倍以下であるのに対し、引用発明では、その点につき明らかでない点。


第5 判断
1 相違点1及び相違点3について
引用発明において、「分岐導波路23」と「分岐導波路24」との間隔をどの程度とするか、また、「出射導波路5」と「放射光用導波路21,22」との間隔をどの程度とするかは、当業者が当該引用発明を実施する上で設計上適宜定めるべき事項であるところ、本願明細書の記載をみても、本願発明において、2つの分岐導波路の間隔を0.5μm以上1μm以下とし、また、出力主導波路と出力副導波路の間隔を0.5μm以上1μm以下とした点に設計的事項の域を超える程の格別の技術的意義があるものとは認められない。
よって、引用発明において、2つの分岐導波路の間隔を0.5μm以上、1μm以下、合波部に接続される部分における出力主導波路と出力副導波路との間の間隔を0.5μm以上、1μm以下とし、相違点1及び3に係る本願発明の特定事項となすことは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

2 相違点2について
光波の伝搬方向と2つの分岐導波路とがなす角度及び区間の長さ(本願におけるL1)に関して、本願の当初明細書には、下記のとおり記載されている。
「図4(a)に示すような合波部22に入力される2つの導波路は、MZ型導波路の分岐導波路20及び21で構成されている。区間αの導波路は、図4(a)に示すような曲線部分(左側部分)と、該曲線部分と滑らかに接続される直線部分(図4(b)に示す長さL1部分)から構成されている。分岐導波路20及び21の先端部分は、合波部22に接続されており、接続する直前部分には、図4(b)に示すように、2つの導波路の傾きが0度となるように、長さL1の平行な直線部分を有している。なお、平行な直線部分は、傾きが完全に0度であることが好ましいが、0.1度以下の誤差であれば、本発明と同様な効果が期待できる範囲として許容可能である。」(【0029】)
「平行な直線部分の長さL1は、分岐導波路を伝搬する光波の進行方向が互いに平行となるに必要な長さを確保する。例えば、100μm以上とすることが好ましい。なお、L1の長さがより長くなると、光導波路を伝搬する光波のクロストーク現象が平行導波路部分で発生し、合波部に達する前に相互に干渉する不具合も生じるため、長さL1は、500μm以下とすることが好ましい。」(【0030】)
本願の当初明細書の上記記載によれば、本願発明は、「2つの導波路の傾きが0度となるように」したものであって、本願発明において、光波の伝搬方向と2つの分岐導波路とがなす角度及び区間の長さにつき、0.1度以下となる区間の長さが100μm以上500μm以下としたことの技術上の意義は、「分岐導波路を伝搬する光波の進行方向が互いに平行となるに必要な長さを確保」し、かつ、「合波部に達する前に相互に干渉する不具合も生じ」させない点にあると認められる。
一方、引用発明の「分岐導波路23,24」も、「合波点の直前では互いに平行になるように調整し」たものであって、両導波路の傾きが0度となるようになしたものであり、また、引用発明も本願発明と同様、「分岐導波路を伝搬する光波の進行方向が互いに平行となるに必要な長さを確保」し、かつ、「合波部に達する前に相互に干渉する不具合も生じ」させないようになすべきものであることは、当業者において明らかである。
よって、引用発明において、光波の伝搬方向と2つの分岐導波路とがなす角度及び区間の長さを0.1度以下となる区間の長さが100μm以上、500μm以下とし、相違点2に係る本願発明の特定事項となすことは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

3 相違点4について
光導波路に用いる光波として1.55μmの波長の光を用いることは、この分野では広く採用されている事項であって(例えば、特許第3913856号公報(【0002】?【0007】参照。),特許第2867995号公報(【0002】参照。))、引用発明の光導波路に当該1.55μmの波長の光を導波させることは、当業者が適宜なし得ることである。しかるところ、そのような波長の光を用いた場合の引用発明の薄板の厚さは、波長の約12.9倍(=20÷1.55)となる。
したがって、引用発明において、光導波路に用いる波長を1.55μmとなし、その結果、基板の厚さが光導波路を伝搬する光波の波長の15倍以下のものとなして、相違点4に係る本願発明の特定事項となすことは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

そして、引用発明において、上記相違点1乃至相違点4に係る構成を備えるようなすことは、当業者が容易に想到できたことであり、かかる発明特定事項を採用することによる本願発明の効果も当業者が予測できる範囲のものである。


第6 むすび
したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-21 
結審通知日 2013-08-27 
審決日 2013-09-09 
出願番号 特願2010-52516(P2010-52516)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 英一  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 藤本 義仁
鈴木 秀幹
発明の名称 光変調器  
代理人 田村 爾  

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