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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1280764
審判番号 不服2012-20414  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-17 
確定日 2013-10-24 
事件の表示 特願2007- 94474「磁気抵抗効果素子,およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月16日出願公開,特開2008-252008〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年3月30日の出願であって,平成23年9月20日付けで拒絶の理由が通知され,同年11月28日に意見書と手続補正書が提出され,平成24年7月12日付けで拒絶査定がされ,同年10月17日に前記拒絶査定に対する不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,平成25年1月21日付けで審尋がおこなわれ,同年3月22日に前記審尋に対する回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年10月17日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成24年10月17日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1-37を補正して,補正後の請求項1-37とするとともに,明細書の補正を行うものであり,補正前後の請求項1及び請求項19の記載は,各々次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
第1の電極と,
第2の電極と,
前記1の電極と前記第2の電極との間に設けられた反強磁性層と,
前記第2の電極と前記反強磁性層との間に設けられ磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層と,
前記第2の電極と前記磁化固着層との間に設けられ,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体とを有する電流狭窄層を含むスペーサ層と,
前記第2の電極と前記スペーサ層との間に設けられ磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層と,
前記第2の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層と,
前記磁化固着層,前記磁化自由層,及び前記薄膜層の少なくとも一層の層中又は層表面に設けられ,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層と,
を具えることを特徴とする,磁気抵抗効果素子。」

「【請求項19】
第1の電極上に薄膜層を形成する工程と,
前記薄膜層上に磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と,
前記磁化自由層上に,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体を有する電流狭窄層を含むスペーサ層を形成する工程と,
前記スペーサ層上に磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層を形成する工程と,
前記磁化固着層上に反強磁性層を形成する工程と,
前記反強磁性層上にキャップ層を形成する工程と,
前記キャップ層上に第2の電極を形成する工程と,を具え,
前記磁化自由層を形成する工程及び前記磁化固定層を形成する工程は,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層を形成する工程を含むことを特徴とする,磁気抵抗効果素子の製造方法。」

(補正後)
「【請求項1】
第1の電極と,
第2の電極と,
前記1の電極と前記第2の電極との間に設けられた反強磁性層と,
前記第2の電極と前記反強磁性層との間に設けられ磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層と,
前記第2の電極と前記磁化固着層との間に設けられ,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体とを有する電流狭窄層を含むスペーサ層と,
前記第2の電極と前記スペーサ層との間に設けられ磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層と,
前記第2の電極と前記磁化自由層との間に設けられた,Cu及びRuからなる薄膜層と,
前記磁化固着層,前記磁化自由層,及び前記薄膜層の少なくとも一層の層中又は層表面に設けられ,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層と,
を具えることを特徴とする,磁気抵抗効果素子。」

「【請求項19】
第1の電極上に,Cu及びRuからなる薄膜層を形成する工程と,
前記薄膜層上に磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と,
前記磁化自由層上に,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体を有する電流狭窄層を含むスペーサ層を形成する工程と,
前記スペーサ層上に磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層を形成する工程と,
前記磁化固着層上に反強磁性層を形成する工程と,
前記反強磁性層上にキャップ層を形成する工程と,
前記キャップ層上に第2の電極を形成する工程と,を具え,
前記磁化自由層を形成する工程及び前記磁化固定層を形成する工程は,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層を形成する工程を含むことを特徴とする,磁気抵抗効果素子の製造方法。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「前記第2の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層」を,「前記第2の電極と前記磁化自由層との間に設けられた,Cu及びRuからなる薄膜層」と補正して,補正後の請求項1にすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項2の「前記第1の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層」を,「前記第1の電極と前記磁化自由層との間に設けられた,Cu及びRuからなる薄膜層」と補正して,補正後の請求項2にすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項16の「前記第1の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層」を,「前記第1の電極と前記磁化自由層との間に設けられた,Cu及びRuからなる薄膜層」と補正して,補正後の請求項16にすること。

(4)補正事項4
補正前の請求項18の「前記磁化自由層上に薄膜層を形成する工程」を,「前記磁化自由層上に,Cu及びRuからなる薄膜層を形成する工程」と補正して,補正後の請求項18にすること。

(5)補正事項5
補正前の請求項19の「第1の電極上に薄膜層を形成する工程と,前記薄膜層上に磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と」を,「第1の電極上に,Cu及びRuからなる薄膜層を形成する工程と,前記薄膜層上に磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と」と補正して,補正後の請求項19にすること。

(6)補正事項6
補正前の請求項23の「前記第2の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層」を,「前記第2の電極と前記磁化自由層との間に設けられた,Cu及びRuからなる薄膜層」と補正して,補正後の請求項23にすること。

(7)補正事項7
補正前の請求項24の「前記第1の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層」を,「前記第1の電極と前記磁化自由層との間に設けられた,Cu及びRuからなる薄膜層」と補正して,補正後の請求項23にすること。

(8)補正事項8
補正前の明細書の【0010】を補正して,補正後の明細書の【0010】とすること。

3 新規事項追加の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項5について
ア 本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲,又は図面(以下「当初明細書等」という。)に,「第1の電極上に,Cu及びRuからなる薄膜層を形成する工程」との記載は認められない。

イ また,当初明細書等に,「第1の電極上に,Cu及びRuからなる薄膜層を形成する工程と,前記薄膜層上に磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と」を含む磁気抵抗効果素子の製造方法が記載されているとも認められない。

ウ すなわち,当初明細書等には,以下の記載がある。
(当a)「<下地層>
下地層12は,例えば,バッファ層12a,シード層12bに区分することができる。バッファ層12aは下電極11表面の荒れを緩和したりするための層である。シード層12bは,その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するための層である。
バッファ層12aとしては,Ta,Ti,V,W,Zr,Hf,Crまたはこれらの合金を用いることができる。バッファ層12aの膜厚は1?10nm程度が好ましく,2?5nm程度がより好ましい。バッファ層12aの厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方,バッファ層12aの厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお,バッファ層12a上に成膜されるシード層12bがバッファ効果を有する場合には,バッファ層12aを必ずしも設ける必要はない。好ましい一例として,Ta[3nm]を用いることができる。
シード層12bは,その上に成膜される層の結晶配向を制御できる材料であればよい。シード層12bとして,fcc構造(face-centered cubic structure:面心立方格子構造)またはhcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密格子構造)やbcc構造(body-centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属層などが好ましい。
例えば,シード層12bとして,hcp構造を有するRuや,fcc構造を有するNiFeを用いることにより,その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また,ピニング層13がIrMnの場合には良好なfcc(111)配向が実現され,ピニング層13がPtMnの場合に規則化したfct(111)構造(face-centered tetragonal structure:面心正方構造)が得られる。また,磁性層としてfcc金属を用いたときには良好なfcc(111)配向を実現でき,磁性層としてbcc金属を用いたときには,良好なbcc(110)配向とすることができる。
結晶配向を向上させるシード層12bとしての機能を十分発揮するために,シード層12bの膜厚としては,1?5nmが好ましく,より好ましくは,1.5?3nmが好ましい。好ましい一例として,Ru[2nm]を用いることができる。
スピンバルブ膜やピニング層13の結晶配向性は,X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク,ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5?6度として,良好な配向性を得ることができる。なお,この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
シード層12bとして,Ruの代わりに,NiFeベースの合金(例えば,NixFe100-x(x=90?50%,好ましくは75?85%)や,NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(Ni_(x)Fe_(100-x))_(100-y)X_(y)(X=Cr,V,Nb,Hf,Zr,Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層12bでは,良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり,上記と同様に測定したロッキングカーブの半値幅を3?5度とすることができる。
シード層12bには,結晶配向を向上させる機能だけでなく,スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には,スピンバルブ膜の結晶粒径を5?20nmに制御することができ,磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても,特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
スピンバルブ膜の結晶粒径は,シード層12bとスペーサ層16との間に配置された層の結晶粒の粒径によって判別できる(例えば,断面TEMなどによって決定できる)。例えば,ピン層14がスペーサ層16よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には,シード層12bの上に形成される,ピニング層13(反強磁性層)や,ピン層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
高密度記録に対応した再生ヘッドでは,素子サイズは確実に100nm以下の微細なサイズとなる。素子サイズに対する結晶粒径の比が大きいことは,素子の特性がばらつく原因となる為,スピンバルブ膜の結晶粒径が20nmよりも大きいことは好ましくない。
素子面積あたりの結晶粒の数が少なくなると,結晶数が少ないことに起因した特性のばらつきの原因となりうるため,結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。特に電流パスを形成しているCCP-CPP素子では結晶粒径を大きくすることはあまり好ましくない。
一方,結晶粒径が大きいほうが結晶粒界による電子乱反射,非弾性散乱サイトが少なくなる。このため,大きなMR変化率を実現するためには,結晶粒径が大きいことが好ましく,少なくとも5nm以上であることが必要となる。このように,MR変化率の観点と素子ごとのばらつきをなくす観点それぞれでの結晶粒径への要求事項は,互いに矛盾し,トレードオフの関係にある。このトレードオフ関係を考慮した結晶粒径の好ましい範囲が,5?20nmである。
上述した5?20nmの結晶粒径を得るためには,シード層12bとして,Ru2nmや,(Ni_(x)Fe_(100-x))_(100-y)X_(y)(X=Cr,V,Nb,Hf,Zr,Mo))層の場合には,第3元素Xの組成yを0?30%程度とすることが好ましい(yが0%の場合も含む)。
前述のように,シード層12bの膜厚は1nm?5nm程度が好ましく,1.5?3nmがより好ましい。シード層12bの厚さが薄すぎると結晶配向制御などの効果が失われる。一方,シード層12bの厚さが厚すぎると,直列抵抗の増大を招き,さらにスピンバルブ膜の界面の凹凸の原因となることがある。
なお,微細な結晶粒径での良好なシード層12bを実現できるならば,シード層12bにここで挙げた材料以外を用いても構わない。」(【0022】-【0036】)

(当b)「<キャップ層>
キャップ層19は,スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は,例えば,複数の金属層,例えば,Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また,キャップ層19として,Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合,Ruの膜厚は0.5?2nm程度が好ましい。この構成のキャップ層19は,特に,フリー層18がNiFeからなる場合に望ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので,フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
キャップ層19が,Cu/Ru,Ru/Cu,いずれの場合も,Cu層の膜厚は0.5?10nm程度が好ましく,Ru層の膜厚は0.5?5nm程度とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため,あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため,このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
キャップ層19として,Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けてもよい。キャップ層19の構成は特に限定されず,キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば,他の材料を用いてもよい。但し,キャップ層の選択によってMR変化率や長期信頼性が変わる場合があるので,注意が必要である。CuやRuはこれらの観点からも望ましいキャップ層の材料の例である。
本実施形態では,キャップ層19内に,図1に示すように,Si,Mg,B,Alを含む機能層21を挿入(形成)する。この機能層は,ピン層の場合に説明したように,例えば特許文献1及び2などに示したCuなどから構成される非磁性の挿入層によるスピン依存バルク散乱効果の向上とは異なる機能を有している。機能層21は本実施例に示すようなCCP-CPP素子のCCP-GMR膜に挿入した場合のみ大きなMR変化率の向上を図ることができる。機能層21の詳細については後述する。
なお,機能層21は,キャップ層19の内部に形成するようにしているが,その表面部分,例えばフリー層18とキャップ層17との間に形成するようにすることもできる。さらに,機能層21は,キャップ層に形成することなく,上述したようにピン層及び/又はフリー層にのみ形成するようにすることができる。
本実施形態では,上述した下部ピン層141,上部ピン層143,フリー層18,及びキャップ層19の少なくとも一層に,Si,Mg,B,Alを含む機能層21を挿入することにより,図1に示す構成の磁気抵抗効果素子(CCP-CPP素子)のMR変化率を増大させることができる。なお,上述したように,特許文献1及び2などに開示された技術は,上記機能層に類似した挿入層の形成によってスピン依存バルク散乱を向上させ,その結果,MR変化率を増大させているが,本実施形態(本発明)の機能層は,以下に説明するように,従来のようなスピン依存バルク散乱によってMR変化率が増大するものではない。」(【0075】-【0080】)

(当c)「なお,本実施形態では,図1には,ボトム型のCCP-GMR膜を示しているが,トップ型のCCP-GMR膜を形成し,これに対して上述のような方法(形態)に従って,適宜に機能層の挿入するようにすることもできる。図3に機能層21を設けたトップ型のCCP-GMR膜の断面図を示す。トップ型の場合,ボトム側でのキャップ層19への機能層21挿入の代わりに,下地層12に機能層21挿入を用いることができる。」(【0113】)

(当d)図3から,電極11上に,層12,層18,層15,層16,層17,層14及び層19が順に設けられるとともに,前記層12,層18及び層14に,層21が挿入されている構造を備えた,磁気抵抗効果素子の構造を読み取ることができる。
また,【0193】に符号の説明として,「11 下電極 12 下地層 13 ピニング層 14 ピン層 15 下部(非磁性)金属層 16 電流狭窄層 17 上部(非磁性)金属層 18 フリー層 19 キャップ層 20 上電極 21 機能層」と記載されている。

エ そうすると,上記摘記(当c)及び(当d)から,
「下電極11上に,下地層12を形成する工程と,
前記下地層12上にフリー層18を形成する工程と,
前記フリー層18上に,電流狭窄層16を含む層を形成する工程と,
前記電流狭窄層16を含む層上にピン層14を形成する工程と,
前記ピン層14上にキャップ層19を形成する工程と,
を具え,
前記下地層12,フリー層18及びピン層14を形成する工程は,機能層21を形成する工程を含む磁気抵抗効果素子の製造方法。」
が,当初明細書等に記載されているものといえるところ,上記摘記(当a)の記載を参酌すれば,「<下地層12>」は,下電極11表面の荒れを緩和したりするための層であるバッファ層12aと,その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するための層であるシード層12bに区分することができ,かつ,バッファ層12aとしては,Ta,Ti,V,W,Zr,Hf,Crまたはこれらの合金を用いることができ,シード層12bとして,Ruや,NiFeを用いることができることが理解できるから,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,
「第1の電極上に,Ta,Ti,V,W,Zr,Hf,Crまたはこれらの合金からなるバッファ層12a及びRu,NiFeからなるシード層12bを含む薄膜層を形成する工程と,前記薄膜層上にフリー層18を形成する工程」を含む磁気抵抗効果素子の製造方法が,当初明細書等に記載されていたに等しい事項であると解する余地があるとは認められる。

オ 一方,「Cu及びRuからなる薄膜層」は,上記摘記(当b)に記載される「<キャップ層>」についての説明の項目に,キャップ層を構成する材料の具体的な組合せとして例示されているだけである。

カ してみれば,
「第1の電極上に,薄膜層を形成する工程と,
前記薄膜層上に磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と,
前記磁化自由層上に,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体を有する電流狭窄層を含むスペーサ層を形成する工程と,
前記スペーサ層上に磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層を形成する工程と,
前記磁化固着層上に反強磁性層を形成する工程と,
前記反強磁性層上にキャップ層を形成する工程と,
前記キャップ層上に第2の電極を形成する工程と,を具え,
前記磁化自由層を形成する工程及び前記磁化固定層を形成する工程は,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層を形成する工程を含む磁気抵抗効果素子の製造方法。」
である発明において,第1の電極上に形成する薄膜層を構成する材料の組合せとして,下地層12を構成する材料として例示されている,Ta,Ti,V,W,Zr,Hf,Crまたはこれらの合金,及び,Ru,NiFeを用いることにより,第1の電極の表面の荒れを緩和し,かつ,スピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御することが,当初明細書等に記載されていたに等しいと認めることはともかく,キャップ層を構成する材料の具体的な組合せとしてのみ例示されているにすぎない「Cu及びRu」を,前記第1の電極上に形成する薄膜層を構成する材料の組合せとして用いることが,当初明細書等に記載されていたに等しいと認めることはできない。
したがって,「第1の電極上に薄膜層を形成する工程と,前記薄膜層上に磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と」を,「第1の電極上に,Cu及びRuからなる薄膜層を形成する工程と,前記薄膜層上に磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と」とする補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。

キ なお,上記摘記(当b)には,「また,キャップ層19として,Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合,Ruの膜厚は0.5?2nm程度が好ましい。この構成のキャップ層19は,特に,フリー層18がNiFeからなる場合に望ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので,フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。」と,記載されており,フリー層18がNiFeからなる場合において,これに隣接する層が,Ruである場合に,RuはNiと非固溶な関係にあるので,界面ミキシング層の磁歪を低減できるという利点を備えることが示されている。
しかしながら,前記の「<下地層>」の説明においても,スピンバルブ膜と隣接する側のシード層の材料として,Ruを用いることが示されおり,シード層の材料として,このようにRuを用いた場合には,キャップ層19において,Ruをフリー層18側に配置した場合と同様の効果を奏することが期待できるものと認められる。
また,第1の電極上に,第1の電極の表面の荒れを緩和する機能を備えたTa,Ti,V,W,Zr,Hf,Crまたはこれらの合金を形成することに替えて,Cuを形成することに優位性があることが当業者において自明であったとも認められない。
してみれば,当初明細書等に記載された,キャップ層として「Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる」との記載を根拠として,第1の電極と,磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層との間に形成する薄膜層の材料を「Cu及びRu」とすることが当初明細書等に記載されているに等しいと認めることはできない。

ク したがって,補正事項5は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものではないから,特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)の規定に違反する。

4 むすび
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反する補正事項を含むものである。したがって,本件補正の他の補正事項については検討するまでもなく,本件補正は,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成24年10月17日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-37に係る発明は,平成23年11月28日に提出された手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-37に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,その内,請求項1,請求項18に係る発明(以下「本願発明1」,「本願発明18」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
第1の電極と,
第2の電極と,
前記1の電極と前記第2の電極との間に設けられた反強磁性層と,
前記第2の電極と前記反強磁性層との間に設けられ磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層と,
前記第2の電極と前記磁化固着層との間に設けられ,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体とを有する電流狭窄層を含むスペーサ層と,
前記第2の電極と前記スペーサ層との間に設けられ磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層と,
前記第2の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層と,
前記磁化固着層,前記磁化自由層,及び前記薄膜層の少なくとも一層の層中又は層表面に設けられ,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層と,
を具えることを特徴とする,磁気抵抗効果素子。」

「【請求項18】
第1の電極上に下地層を形成する工程と,
前記下地層上に反強磁性層を形成する工程と,
前記反強磁性層上に磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層を形成する工程と,
前記磁化固着層上に,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体を有する電流狭窄層を含むスペーサ層を形成する工程と,
前記スペーサ層上に,磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と,
前記磁化自由層上に薄膜層を形成する工程と,
前記薄膜層上に第2の電極を形成する工程と,を具え,
前記磁化固着層を形成する工程及び前記磁化自由層を形成する工程は,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層を形成する工程とを含むことを特徴とする,磁気抵抗効果素子の製造方法。」

2 新規性進歩性について
(1)引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である下記の引用例1には,次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

・引用例1:国際公開第2005/112033号
(1a)「To more particularly illustrate the method and system in accordance with the present invention, refer now to Figure 3A, depicting a first embodiment of a portion of a magnetic element 100 in accordance with the present invention having a reduced write current density for spin transfer switching. The magnetic element 100 is preferably used in a magnetic memory, such as a MRAM, in a CPP configuration. Thus, the magnetic element 100 may be used in a memory cell including an isolation transistor (not shown), as well as other configurations of magnetic memories. Moreover, the magnetic element 100 preferably utilizes the two terminals 102 and 104 near the top and bottom, respectively, of the magnetic element 100. However, nothing prevents the use of another number of terminals, for example a third terminal near the center of the magnetic element. The magnetic element 100 includes a first pinned layer 120, a spacer layer 130, a free layer 140, and a second pinned layer 160. The magnetic element 100 generally also includes a first pinning layer 110 and a second pinning layer 170 used to pin the magnetization 122 and 162, respectively, of the pinned layers 120 and 160, respectively, as well as seed layers (not shown) and capping layers (not shown). Furthermore, the magnetic element 100 is configured such that the free layer 140 can be written using spin transfer. In a preferred embodiment, the lateral dimensions, such as the width w, of the free layer 140 are thus small and preferably less than two hundred nanometers. In addition, some difference is preferably provided between the lateral dimensions to ensure that the free layer 140 has a particular easy axis in the plane of the free layer 140.(対応する日本語公報〔特表2007-537607号〕による日本語訳:本発明による方法およびシステムをより詳細に説明するために,スピン・トランスファ・スイッチングのための書き込み電流密度が低減した,本発明による磁気素子100の一部の第1の実施形態を示す図3Aをここで参照する。好適には,磁気素子100は,CPP構成のMRAMのような磁気メモリで使用することが好ましい。それ故,磁気素子100は,絶縁トランジスタ(図示せず)および磁気メモリの他の構成を含むメモリ・セルで使用することができる。さらに,好適には,磁気素子100は,磁気素子100の頂部および底部近くの2つの端子102および104を使用することが好ましい。しかし,例えば,磁気素子の中央付近の第3の端子のような,他の数の端子を使用しても一向に構わない。磁気素子100は,第1のピン止め層120,スペーサ層130,自由層140,および第2のピン止め層160を含む。磁気素子100は,通常,それぞれピン止め層120および160のそれぞれ磁化122および162,およびシード層(図示せず)およびキャッピング層(図示せず)をピン止めするために使用する第1のピン止めのための層110,および第2のピン止めのための層170も含む。さらに,磁気素子100は,スピン・トランスファにより自由層140に書き込むことができるように構成されている。好ましい実施形態の場合には,それ故,自由層140の幅wのような横方向の寸法は短く,好適には200ナノメートル未満であることが好ましい。さらに,好適には,自由層140が自由層140の平面内に特定の磁化容易軸を確実に有するように,横方向の寸法間に若干の違いを持たせることが好ましい。)」(第12頁第5-24行)

(1b)「Figure 3B depicts another version of the first embodiment of a portion of a magnetic element 100' in accordance with the present invention having a reduced write current density for spin transfer switching. Components of the magnetic element 100' are analogous to the magnetic element 100. Consequently, portions of the magnetic element 100' are labeled similarly to the magnetic element 100. Thus, the magnetic element 100' includes a first pinning layer 110' that is preferably an AFM layer, pinned layer 120', a spacer layer 130', a free layer 140', a spin barrier layer 150', a second pinned layer 160', and a second pinning layer 170' that is preferably an AFM layer. Current is preferably driven in a CPP configuration using electrodes 102' and 104'. The spacer layer 130' may take on various forms, including a conductive layer, a tunneling barrier layer, or a current confined layer. Thus, the layers of the magnetic element 100' are substantially the same as and function in an analogous manner to the layers of the magnetic element 100.
Although the spin barrier layer 150' functions in an analogous manner to the spin barrier layer 150, the structure of the spin barrier layer 150 is different. In particular, the spin barrier layer 150' is a tunneling barrier that includes a thin insulating, a semiconducting layer, or other analogous layer. Conduction of current through the spin barrier layer 150' is thus allowed by electronic tunneling, electron hoping and/or thermally activated conduction. In such a magnetic element 100', the areal resistance of the spin barrier layer 150' may be adjusted by varying the thickness and composition of the spin barrier layer 150'. Thus, the targeted specification for r _(b) may be met.
In a preferred embodiment of the magnetic element 100', the spin barrier layer 150' has a thickness between 0.2 and 5 nm. Also in a preferred embodiment, the spin barrier layer is in large part comprised of an oxide of elements selected from the group consisting of Al, B, Si, Ge, W, Nb, Mo, Ta, V, Ti, Cr, Fe, Co, or Ni. In an alternate embodiment of the magnetic element 100', the spin barrier layer 150' has a thickness comprised between 0.2 and 5 nm, and is made in large part from a nitride of element(s) selected from the group consisting of A, B, Si, Ge, Ti. In yet another embodiment, the spin barrier layer 150' is made in large part from a semiconductor material. In such a magnetic element 100', the spin barrier layer 150' preferably has a thickness of between 0.2 and 5 nm. The semiconductor material used in such an embodiment is preferably made out of element(s) selected from the group constituted Si, Ge, Ga, Cd, Te, Sb, In, Al, As, Hg, and C.
The spin barrier layer 150' reduces an outer surface contribution to the damping constant, α, of the free layer. Because the spin barrier layer 150' reduces the outer surface contribution to the damping constant in a manner analogous to that described above, the critical current at which the magnetization 142' of the free layer 140' switches is reduced. Consequently, performance of the magnetic element 100' can be improved. (対応する日本語公報〔特表2007-537607号〕による日本語訳:図3Bは,スピン・トランスファ・スイッチング用の書き込み電流密度が低減した,本発明による磁気素子100'の一部の第1の実施形態のもう1つのバージョンである。磁気素子100'の構成要素は磁気素子100に類似している。それ故,磁気素子100'の一部に磁気素子100と類似の参照番号をつけることができる。それ故,磁気素子100'は,好適にはAFM層であることが好ましい第1のピン止め層110',ピン止め層120',スペーサ層130',自由層140',スピン・バリア層150',第2のピン止め層160',および好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層170'を含む。好適には,電流を電極102'および104'によりCPP構成を通して流すことが好ましい。スペーサ層130'は,導電性層,トンネル障壁層,または電流制限層を含む種々の形をとることができる。それ故,磁気素子100'の層は,磁気素子100の層とほぼ同じであり,磁気素子100の層と類似の方法で機能する。
スピン・バリア層150'は,スピン・バリア層150と類似の方法で機能するが,スピン・バリア層150の構造は異なる。より詳細に説明すると,スピン・バリア層150'は,薄い絶縁層,半導体層,または他の類似の層を含むトンネル障壁である。それ故,スピン・バリア層150'を通しての電流の伝導は,電子トンネリング,電子ホッピングおよび/または熱作動伝導により行うことができる。このような磁気素子100'の場合には,スピン・バリア層150'の面積抵抗は,スピン・バリア層150'の厚さおよび組成を変えることにより調整することができる。それ故,r_(b)の目標とする仕様に適合させることができる。
磁気素子100'の好ましい実施形態の場合には,スピン・バリア層150'は,0.2?5nmの厚さを有する。また,好ましい実施形態の場合には,スピン・バリア層の大部分は,Al,B,Si,Ge,W,Nb,Mo,Ta,V,Ti,Cr,Fe,CoまたはNiからなる群から選択した元素の酸化物からできている。磁気素子100'の他の実施形態の場合には,スピン・バリア層150'は,0.2?5nmの厚さを有し,その大部分は,A,B,Si,Ge,Tiからなる群から選択した元素の窒化物からできている。さらに他の実施形態の場合には,スピン・バリア層150'の大部分は,半導体材料からできている。このような磁気素子100'の場合には,好適には,スピン・バリア層150'は,0.2?5nmの厚さを有することが好ましい。好適には,このような実施形態で使用する半導体材料は,Si,Ge,Ga,Cd,Te,Sb,In,Al,As,HgおよびCからなる群から選択した元素からできていることが好ましい。
スピン・バリア層150'は,自由層の減衰定数αへの外面による寄与を低減する。スピン・バリア層150'は,上記と類似の方法で減衰定数への外面による寄与を低減するので,自由層140'の磁化142'が切り替わる臨界電流が低減する。それ故,磁気素子100'の性能を改善することができる。)」(第16頁第27行-第17頁末行)

(1c)Figure3Bから,
Bottom Contact102'と,
Top Contact104'と,
前記Bottom Contact102'と前記Top Contact104'との間に設けられたFirst Pinning Layer(Antiferromagnetic Layer)110'と,
前記Top Contact104'と前記First Pinning Layer(Antiferromagnetic Layer)110'との間に設けられたFirst Pinned Layer 120'と,
前記Top Contact104'と前記First Pinned Layer 120'との間に設けられたSpacer Layer 130'と,
前記Top Contact104'と前記Spacer Layer 130'との間に設けられたFree layer 140'と,
前記Top Contact104'と前記Free layer 140'との間に設けられたSecond Pinned Layer 160'及びSecond Pinning Layer(Antiferromagnetic Layer)170'と,
前記Free layer 140'と前記Second Pinned Layer 160'との間に位置するように設けられたTunneling Spin Barrier Layer 150'と,
を備えた磁気素子の構造を読み取ることができる。

したがって,引用例1の上記摘記(1a)-(1c)を総合勘案すれば,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
・引用発明1
「磁気素子の底部近くの電極と,
磁気素子の頂部近くの電極と,
前記磁気素子の底部近くの電極と,前記磁気素子の頂部近くの電極との間に設けられた,好適にはAFM層であることが好ましい第1のピン止め層(First Pinning Layer(Antiferromagnetic Layer))と,
前記磁気素子の頂部近くの電極と,前記好適にはAFM層であることが好ましい第1のピン止め層(First Pinning Layer(Antiferromagnetic Layer))との間に設けられた,ピン止め層(First Pinned Layer)と,
前記磁気素子の頂部近くの電極と,前記ピン止め層(First Pinned Layer)との間に設けられた,スペーサ層と,
前記磁気素子の頂部近くの電極と,前記スペーサ層との間に設けられた,自由層と,
前記磁気素子の頂部近くの電極と,前記自由層との間に設けられた,第2のピン止め層,及び,好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層と,
前記自由層と,前記第2のピン止め層との間に位置するように設けられた,スピン・バリア層と,
を備えた磁気素子であって,
前記自由層と,前記スピン・バリア層と,前記第2のピン止め層及び好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層と,前記磁気素子の頂部近くの電極とが接して設けられており,
前記スペーサ層は,電流制限層を含む形をとるものであり,
前記スピン・バリア層の大部分は,Si,Ge,Ga,Cd,Te,Sb,In,Al,As,HgおよびCからなる群から選択した元素からできていることが好ましいものである磁気素子。」

・引用発明2
「磁気素子の底部近くの電極上に,好適にはAFM層であることが好ましい第1のピン止め層(First Pinning Layer(Antiferromagnetic Layer))を形成する工程と,
前記好適にはAFM層であることが好ましい第1のピン止め層(First Pinning Layer(Antiferromagnetic Layer))上に,ピン止め層(First Pinned Layer)を形成する工程と,
前記ピン止め層(First Pinned Layer)上に,スペーサ層を形成する工程と,
前記スペーサ層上に,自由層を形成する工程と,
前記自由層上に,スピン・バリア層を形成する工程と,
前記スピン・バリア層上に,第2のピン止め層及び好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層を形成する工程と,
前記第2のピン止め層及び好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層上に,磁気素子の頂部近くの電極を形成する工程と,を備え,
前記スペーサ層は,電流制限層を含む形をとるものであり,
前記スピン・バリア層の大部分は,Si,Ge,Ga,Cd,Te,Sb,In,Al,As,HgおよびCからなる群から選択した元素からできていることが好ましいものである磁気素子の製造方法。」

(2)引用発明1と本願発明1との対比
ア 引用発明1の「磁気素子の底部近くの電極」,「磁気素子の頂部近くの電極」,「好適にはAFM層であることが好ましい第1のピン止め層(First Pinning Layer(Antiferromagnetic Layer))」,「ピン止め層(First Pinned Layer)」,『「電流制限層を含む形をとる」「スペーサ層」』,「自由層」及び「磁気素子」は,それぞれ本願発明1の「第1の電極」,「第2の電極」,「反強磁性層」,「磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層」,「絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体とを有する電流狭窄層を含むスペーサ層」,「磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層」及び「磁気抵抗効果素子」に相当する。

イ 本願の特許請求の範囲及び明細書には,以下の記載がある。
(本a)「【請求項10】
前記スペーサ層は,前記電流狭窄層と,前記磁化固着層及び前記磁化自由層の少なくとも一方と隣接するようにして形成された金属層を含むことを特徴とする,請求項1?8のいずれか一に記載の磁気抵抗効果素子。」(【特許請求の範囲】)

(本b)「【請求項16】
第1の電極と,
第2の電極と,
前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられた反強磁性層と,
前記第1の電極と前記反強磁性層との間に設けられ磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層と,
前記第1の電極と前記磁化固着層との間に設けられ,順次に積層されてなるCu,Ag,Auのいずれかを含む第1の金属層,Alを含む絶縁層,この絶縁層を層方向に電流を通過させるCu,Ag,Auのいずれかを含む導電体を有する電流狭窄層,及びCu,Ag,Auのいずれかを含む第2の金属層を含むスペーサ層と,
前記第1の電極と前記スペーサ層との間に設けられ磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層と,
前記第1の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層と,
前記磁化固着層,前記磁化自由層及び前記薄膜層の少なくとも一層の層中又は層表面に設けられ,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層と,を具え,
前記磁化固着層の,前記スペーサ層の界面から1nm以内の領域,及び前記磁化自由層の,前記スペーサ層の界面から1nm以内の領域の少なくとも一方において,Fe含有量が10[at.%]以上であることを特徴とする,磁気抵抗効果素子。」(【特許請求の範囲】)

(本c)「<下地層>
下地層12は,例えば,バッファ層12a,シード層12bに区分することができる。バッファ層12aは下電極11表面の荒れを緩和したりするための層である。シード層12bは,その上に成膜されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するための層である。」(【0022】)

(本d)「<ピン層:磁化固着層>
ピン層14は,下部ピン層141(例えば,Co_(90)Fe_(10) 3.5nm),磁気結合層142(例えば,Ru),および上部ピン層143(例えば,Fe_(50)Co_(50)[1nm]/Cu[0.25nm])×2/Fe_(50)Co_(50)[1nm])からなるシンセティックピン層とすることが好ましい一例である。ピニング層13(例えば,IrMn)とその直上の下部ピン層141は一方向異方性(unidirectional anisotropy)をもつように交換磁気結合している。磁気結合層142の上下の下部ピン層141および上部ピン層143は,磁化の向きが互いに反平行になるように強く磁気結合している。」(【0040】)

(本e)「ここでの一例として挙げたものは,上部ピン層143として,磁性層(FeCo層)と非磁性層(極薄Cu層)とを交互に積層したものを用いている。このような非磁性元素材料との積層構造を有する上部ピン層143では,極薄Cu層によって,スピン依存バルク散乱効果と呼ばれるスピン依存散乱効果を向上させることができる。」(【0052】)

(本f)「<キャップ層>
キャップ層19は,スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は,例えば,複数の金属層,例えば,Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また,キャップ層19として,Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合,Ruの膜厚は0.5?2nm程度が好ましい。この構成のキャップ層19は,特に,フリー層18がNiFeからなる場合に望ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので,フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。」(【0075】)

ウ 上記摘記(本a)-(本f)に照らして,本願の特許請求の範囲及び明細書において,「層」という用語が,複数の層からなるものを含むものとして用いられていることは明らかである。
そうすると,引用発明1の「第2のピン止め層」と「好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層」を積層したものは,「層」であるといえる。
また,「第2のピン止め層」と「好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層」を積層したものが,薄膜状の形状をしていることは,当業者において明らかである。
してみれば,引用発明1の「第2のピン止め層」と「好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層」を積層したものは,本願発明1の「薄膜層」に相当するといえるから,引用発明1と本願発明1は,「前記第2の電極と前記磁化自由層との間に設けられた薄膜層」を備える点で一致する。

エ 引用発明1の「スピン・バリア層」は,所定の機能を果たすことを目的として設けられた層であるから,「機能層」の一種であるといえる。
また,引用発明1の「大部分は,Si,Ge,Ga,Cd,Te,Sb,In,Al,As,HgおよびCからなる群から選択した元素からできていることが好ましいものである」と,本願発明1の「Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む」は,「Si及びAlから選択される一つの元素を含む」という範囲で一致する。
さらに,引用発明1の「スピン・バリア層」は,「前記自由層と,前記第2のピン止め層との間に位置するように設けられ」るものであり,前記「第2のピン止め層」は,上記ウで検討したように「薄膜層」の一部であると認められるから,「スピン・バリア層」は「自由層」の層表面に設けられている,あるいは,薄膜層の層表面に設けられているものと理解することができる。
そうすると,引用発明1と本願発明1は,「前記磁化固着層,前記磁化自由層,及び前記薄膜層の少なくとも一層の層中又は層表面に設けられ,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層」を備えている点で一致する。

オ 以上を総合すると,本願発明1と,引用発明1の一致点と相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「第1の電極と,
第2の電極と,
前記1の電極と前記第2の電極との間に設けられた反強磁性層と,
前記第2の電極と前記反強磁性層との間に設けられ磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層と,
前記第2の電極と前記磁化固着層との間に設けられ,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体とを有する電流狭窄層を含むスペーサ層と,
前記第2の電極と前記スペーサ層との間に設けられ磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層と,
前記第2の電極と前記磁化自由層との間に設けられた薄膜層と,
前記磁化固着層,前記磁化自由層,及び前記薄膜層の少なくとも一層の層中又は層表面に設けられ,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層と,
を具える磁気抵抗効果素子。」

<相違点>
・相違点1:本願発明1の「薄膜層」が「前記第2の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた」ものであるのに対して,引用発明1では明記されていない点。

(3)引用発明1と本願発明1との相違点についての判断
・相違点1について
ア 本願の特許請求の範囲及び明細書には,以下の記載がある。
(本g)「上記目的を達成すべく,本発明の一態様における磁気抵抗効果素子は,第1の電極と,第2の電極と,前記1の電極と前記第2の電極との間に設けられた反強磁性層と,前記第2の電極と前記反強磁性層との間に設けられ磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層と,前記第2の電極と前記磁化固着層との間に設けられ,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体とを有する電流狭窄層を含むスペーサ層と,前記第2の電極と前記スペーサ層との間に設けられ磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層と,前記第2の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層と,前記磁化固着層,前記磁化自由層,及び前記薄膜層の少なくとも一層の層中又は層表面に設けられ,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層と,を具える。
本発明の上記態様によれば,磁化固着層,磁化自由層,及びボトム型のスピンバルブの場合はキャップ層,トップ型のスピンバルブの場合は下地層の少なくとも1つにおいて,Si,Mg,B,Alを含む機能層を設けるようにしている。」(【0010】-【0011】)

(本h)「本図に示すように本実施の形態に係る磁気抵抗効果素子は,磁気抵抗効果膜10,およびこれを上下から挟むようにして下電極11および上電極20を有し,図示しない基板上に構成される。
磁気抵抗効果膜10は,下地層12,ピニング層13,ピン層14,下部金属層15,電流狭窄層16(絶縁層161,電流パス162),上部金属層17,フリー層18,キャップ層19が順に積層されて構成される。この内,下部金属層15,電流狭窄層16,および上部金属層17がスペーサ層を構成し,ピン層14,下部金属層15,電流狭窄層16,および上部金属層17,およびフリー層18が,2つの強磁性層の間に非磁性のスペーサ層を挟んでなる磁気抵抗効果を発現する基本膜構成,即ち,スピン依存散乱ユニット(スピンバルブ膜)に対応する。なお,見やすさのために,電流狭窄層16はその上下層(下部金属層15および上部金属層17)から切り離した状態で表している。」(【0018】-【0019】)

(本i)「なお,機能層21は,キャップ層19の内部に形成するようにしているが,その表面部分,例えばフリー層18とキャップ層17との間に形成するようにすることもできる。さらに,機能層21は,キャップ層に形成することなく,上述したようにピン層及び/又はフリー層にのみ形成するようにすることができる。」(【0079】)

(本j)「(5)フリー層18(および機能層22)の形成(ステップS15)
上部金属層17の上に,フリー層18として,例えば,Co_(90)Fe_(10)[1nm]/Ni_(83)Fe_(17)[3.5nm]を成膜する。ここで,フリー層18の成膜の途中で,成膜する材料を換えることにより,機能層21を形成することができる。具体的には,成膜材料をCo_(90)Fe_(10)からSiに切り替え,次いで,Ni_(83)Fe_(17)に切り替えることで,フリー層18中にSiからなる機能層21が形成される。また,Co_(90)Fe_(10)からSiに切り替え,Ni_(83)Fe_(17)に切り替えない場合は,フリー層18の表面上に機能層21が形成されることになる。
(6)キャップ層19(および機能層23),および上電極20の形成(ステップS16)
フリー層18の上に,キャップ層19として例えば,Cu[1nm]/Ru[10nm]を積層する。ここで,キャップ層19の成膜の途中で,成膜する材料を換えることにより,機能層22を形成することができる。具体的には,成膜材料をCuからSiに切り替えて,次にCuに切り替えることで,キャップ層19中にSiからなる機能層21を形成することができる。
次いで,キャップ層19の上にスピンバルブ膜へ垂直通電するための上電極20を形成する。」(【0137】-【0139】)

(本k)明細書の【0146】の【表3】の実施例2cには,キャップ層19の構成として「機能層Si[0.25nm]/Cu[1nm]/Ta[2nm]/Ru[15nm]」のものが記載されている。

イ 上記摘記(本g)-(本k)の記載に照らして,本願発明1の「前記第2の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層と,前記磁化固着層,前記磁化自由層,及び前記薄膜層の少なくとも一層の層中又は層表面に設けられ,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層と,を具える」とは,前記「磁化固着層」,「磁化自由層」,「薄膜層」の少なくとも一層が,その層中又は層表面に機能層を備えたものであり,かつ,これら「磁化自由層」及び「薄膜層」と「第2の電極」が接して設けられていることを意味していると解することが自然といえる。

ウ すなわち,薄膜層に面する側の層表面に機能層が設けられた磁化自由層(フリー層)と,薄膜層(キャップ層)と,第2の電極(上電極)が接して設けられている構造を備えた上記摘記(本j)に記載された構造,及び,磁化自由層と,前記磁化自由層に面する側の層表面に機能層が設けられた薄膜層(キャップ層)と,第2の電極が接して設けられている構造を備えた上記摘記(本k)に記載された構造は,いずれも,本願発明1の「前記第2の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層」を備えた構成要件を満たす構造として示されているものと認められる。

エ 一方,引用発明1は,「自由層」と,「スピン・バリア層」と,「第2のピン止め層及び好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層」と,「磁気素子の頂部近くの電極」とが接して設けられた構造を備えたものである。
しかしながら,上記イ-ウでの検討に照らして,引用発明1を,「第2のピン止め層及び好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層」に面する側の層表面に「スピン・バリア層」が設けられた「自由層」と,「第2のピン止め層及び好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層」と,「磁気素子の頂部近くの電極」とが接して設けられた構造を備えたもの,あるいは,「自由層」と,前記「自由層」に面する側の層表面に「スピン・バリア層」が設けられた「第2のピン止め層及び好適にはAFM層であることが好ましい第2のピン止めのための層」と,「磁気素子の頂部近くの電極」とが接して設けられた構造を備えたものであると解することができるものとも認められる。
してみれば,引用発明1は,「前記第2の電極と前記磁化自由層との間に接して設けられた薄膜層」を備えたという構成を具備していると解することができるから,この点において,本願発明1と引用発明1に差異は認められない。
したがって,相違点1は存在しない。

(4)本願発明1の新規性についての判断のまとめ
以上検討したとおり,本願発明1と引用発明1との相違点は実際には存在しないから,本願発明1は引用例1に記載された発明である。

(5)引用発明2と本願発明18との対比
ア 引用発明2と,本願発明18との発明特定事項の対応関係は,上記「(2)引用発明1と本願発明1との対比」で検討したものと同様である。

イ さらに,本願発明18においては,「前記磁化固着層を形成する工程及び前記磁化自由層を形成する工程は,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層を形成する工程とを含む」とされており,「磁化自由層を形成する工程」が「機能層を形成する工程とを含む」場合があるものとして規定されていることは明らかである。
そうすると,引用発明2の「前記スペーサ層上に,自由層を形成する工程と,前記自由層上に,スピン・バリア層を形成する工程」は,二つの工程を併せて観察して,「機能層であるスピン・バリア層を形成する工程を含む自由層を形成する工程」として整理することができるものと認められる。
してみれば,本願発明18の「『前記スペーサ層上に,磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程』『前記磁化固着層を形成する工程及び前記磁化自由層を形成する工程は,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層を形成する工程とを含む』」は,引用発明2の「『前記スペーサ層上に,自由層を形成する工程と,前記自由層上に,スピン・バリア層を形成する工程』『前記スピン・バリア層の大部分は,Si,Ge,Ga,Cd,Te,Sb,In,Al,As,HgおよびCからなる群から選択した元素からできていることが好ましいものである』」に相当するものと認められる。

ウ そうすると,本願発明18と,引用発明2の一致点と相違点は,次のとおりとなる。

<一致点>
「第1の電極上に反強磁性層を形成する工程と,
前記反強磁性層上に磁化が実質的に一方向に固着された磁化固着層を形成する工程と,
前記磁化固着層上に,絶縁層,及びこの絶縁層を層方向に電流を通過させる導電体を有する電流狭窄層を含むスペーサ層を形成する工程と,
前記スペーサ層上に,磁化が外部磁界に対して変化する磁化自由層を形成する工程と,
前記磁化自由層上に薄膜層を形成する工程と,
前記薄膜層上に第2の電極を形成する工程と,を具え,
前記磁化固着層を形成する工程及び前記磁化自由層を形成する工程は,Si,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素,又はSi,Mg,B,及びAlから選択される一つの元素と,Co,Ni及びFeから選択される一つの元素とを含む機能層を形成する工程とを含む磁気抵抗効果素子の製造方法。」

<相違点>
・相違点1:本願発明18が,反強磁性層を形成する工程に先だって,「第1の電極上に下地層を形成する工程」を備えるのに対して,引用発明2では明記されていない点。

(6)引用発明2と本願発明18との相違点についての判断
・相違点1について
薄膜の形成に際して,下地層をあらかじめ形成しておくことは周知の方法であり,引用例1の上記摘記(1a)に「The magnetic element 100 generally also includes a first pinning layer 110 and a second pinning layer 170 used to pin the magnetization 122 and 162, respectively, of the pinned layers 120 and 160, respectively, as well as seed layers (not shown) and capping layers (not shown).」として,下地層の一種であると解される「seed layers」を形成することが示されているのであるから,引用発明2において,反強磁性層を形成する工程に先だって,「第1の電極上に下地層を形成する工程」を設けることは当業者が適宜なし得たことである。またこのような工程を設けたことによる効果は当業者が予測する範囲内のものである。

(7)本願発明18の進歩性についての判断のまとめ
以上検討したとおりであるから,本願発明18は引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,本願の請求項18に係る発明は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願の他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-22 
結審通知日 2013-08-27 
審決日 2013-09-10 
出願番号 特願2007-94474(P2007-94474)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 羽鳥 友哉  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
恩田 春香
発明の名称 磁気抵抗効果素子、およびその製造方法  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  

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