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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20129701 審決 特許
不服2012475 審決 特許
不服201126007 審決 特許
不服201217207 審決 特許
不服201126373 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04H
管理番号 1280792
審判番号 不服2012-5507  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-06 
確定日 2013-10-21 
事件の表示 特願2010-255329号「津波・洪水等の非常事態からの避難装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日出願公開、特開2011-122424号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年8月13日(優先権主張平成18年12月28日)に出願した特願2007-233333号の一部を平成22年10月27日に新たな特許出願としたものであって、平成24年2月17日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成24年3月7日に本件審判が請求されるとともに、審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成24年3月7日受付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年3月7日受付の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の【請求項1】は、
「【請求項1】
想定する方向から襲来する津波流Xを先に受ける前列の支柱とこれら前列の支柱よりもあとの段階で津波流Xを受けると想定される後側の支柱とを有する複数本の支柱が、設置基盤に設定した平面四辺形の線上に対応して立設固定され、前記前列の支柱は、設置基盤上における前記平面四辺形上の一辺の両端頂点個所に対応して配置されるとともに、前記後側の支柱は、前記平面四辺形上における前記一辺以外の後方となる位置に配置されており、これらの支柱を介して上階としての避難部分が設けられるとともに、この避難部分と設置基盤側との間を手摺付きで階段式の登降手段で連絡した津波・洪水等の非常事態からの避難装置であって、前記階段式の登降手段は、前記前列の支柱の津波流Xの襲来が想定される前側における2階部分以下の高さ範囲に添うべく斜め向きの直階段の部分を有し、該直階段の下部は、その下部先端が前記一方の支柱の基端部前側を基準として前記他方の支柱とは反対側に張り出して位置するようにして、下部先端に続く上側部分が前記前列の支柱のうちの一方の支柱の基端部よりやや上方の高さ位置の前側に対向して配置され、直階段の上部は前記前列の支柱のうちの他方の支柱の前側に対向するように位置し、前記直階段の上部に接続された手摺付きの踊り場は、前記他方の支柱の津波流Xの襲来が想定される前側回りに位置するように構成されていることを特徴とする津波・洪水等の非常事態からの避難装置。」
と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である
直階段の下部は、前記前列の支柱のうちの一方の支柱の前側に対向するように位置することについて、「直階段の下部は、その下部先端が前記一方の支柱の基端部前側を基準として前記他方の支柱とは反対側に張り出して位置するようにして、下部先端に続く上側部分が前記前列の支柱のうちの一方の支柱の基端部よりやや上方の高さ位置の前側に対向して配置され」と限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-264721号公報には、津波・洪水等の非常事態からの避難装置に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0006】
以下、図示した各実施形態を参照してこの発明を詳細に説明するが、各実施形態において個々に説明される案は、当該案を含む実施形態以外の他の実施形態にも適用され得るものとする。
図1ないし図3はその一実施形態を示すもので、1は設置基盤で、海岸に臨む場所や市街地の空き地などに人工的に造られたコンクリートやアスファルト基盤、公園や広場などの地盤の他、海岸の砂浜や海岸から離れた海底地盤のこともある。上記設置対象に限定されないことはいうまでもない。
【0007】
この設置基盤1には、予め3m□前後の平面形状で厚みのある平坦な受け盤2を備えた主固定手段(固定する手段の1つ)3が3m前後で4本からなる埋込杭4…の埋設により埋め込み固定されている。主固定手段3は、補強鉄筋の入ったコンクリート製のものや金属製のものなどいずれでもよい。同手段3の底面から伸びた埋込杭4は、抜け止め突片5…を備えている。前記主固定手段3は、上面に4個の受け止め凸部6…を有し、これに避難タワー10の下端フランジ11が止着具にて連結固定されている。前記主固定手段3の各メンバーの材質や本数、形状は図示のものに限定されないことはいうまでもない。例えば、埋込杭4は、1本の太い縦パイプや縦向きの板や4面枠体などでもよい。一方、同埋込杭4は、構成しないこともある。
【0008】
避難タワー10は、直径200mm前後の丸パイプを基材とする4本の互いに離間しかつ平行な支柱12…と、これら支柱12…間を上下段においてつなぎ一体化する横連結材13…とでなる4本支柱型の下段タワー本体14・中段タワー本体15・上段タワー本体16の3つの構造体からなっており、これらは中継フランジ17により上下に接合されたタワー構造になっている。そして、各面はブレース18…の掛張により補強した構成になっている。尚、4本のうちの2本の支柱12,12は、図1の前方から襲来してくる津波に同時直面して対抗し得る配置関係に向きを設定される。また、図1の左右の支柱12の中心間および図2の支柱12の中心間の寸法は2m前後離間し、地面から最上階の内避難ステージ24までは9m前後である。勿論この寸法に限定されない。
【0009】
こうした避難タワー10の外周には、避難者が安全に登ることのできる手摺り20付きの階段21がタワー4面の各面に順次添った形で下段タワー本体14から上段タワー本体16まで至るように添設固定されている。最も上段の階段21からは、上段タワー本体16の外周を巡るようにして外縁避難ステージ22が平坦で平面コの字状をした通路として設けられている。
【0010】
こうした避難タワー10の横連結材13…で囲まれた四角枠内には、上下複数段に亘るように中間内避難ステージ24…が設けられている。これら内避難ステージ24…は、それぞれ昇降手段である階段21から入り込めるようになっている。その一方、例えば、最上階の上避難ステージ24-Aに避難する人にとっては、同避難ステージ24-Aの正面側(図1の手前側)が開放状とされて危険であることもあって、その安全確保のための手摺り25を仮想線のように設け、他の階にも、4面全てに安全確保のための手摺り25を設けるものとする。但し、階段21からの侵入を阻害しないように張るものとする。手摺り25は金属あるいは樹脂などのパイプやロッドの他にロープでもよいものとする。」
(イ)図3において、階段21の部分には縦線が記載され、階段21の右及び左側には該縦線は記載されていないので、縦線が記載されていない箇所は所謂踊り場であると認められる。
そして、例えば、図1で避難タワー左側に記載されている最下段の階段21と、避難タワー奥側に記載されているその上側の階段21との間のコーナー部も、実質的に上記縦線が記載されていない箇所と同様の踊り場と認められる。
(ウ)記載事項(ア)、(イ)と共に図1?図3を見ると、図1?図3には、以下の避難タワー10が図示されている。
(a)設置基盤1に、図1左前方、左後方、右前方、右後方の4本の支柱12が、互いに離間しかつ平行に設けられている。
(b)左前方と左後方の支柱12は、図1左側に一列で配置され、右前方と右後方の支柱12は、それぞれ左前方と左後方の支柱12の右側に配置されている。
(c)支柱12間をつなぎ一体化する横連結材13で囲まれた四角枠内には、上下複数段に亘るように中間内避難ステージ24が設けられている。
(d)避難タワー10の外周には、4つの手摺り20付きの階段21がタワー4面の各面に順次添った形で下段タワー本体14から上段タワー本体16まで至るように添設固定され、内避難ステージ24は、それぞれ昇降手段である階段21から入り込めるようになっている。
(e)最下部の階段21は、タワーの左側面における一階部分の高さ範囲に添った形で傾斜した直階段である。
(f)最下部の階段21の下部は、その下部先端が左前方の支柱の基端部の図1左側に対向して配置されている。
(g)最下部の階段21の上部は、左後方の支柱の中間部分の図1左側に対向して配置されている。
(h)最下部の階段21と、その上側の階段21との間のコーナー部の踊り場は手摺り20が設けられており、踊り場は図1左後方の支柱12の左側及び後ろ側回りに位置している。
そして、図1は【0084】の「【図1】この発明の一実施形態を示す避難装置の正面図。」であるので、上記「図1左前方」等は、「正面視左前方」等といえる。
(エ)図8には、下部斜め階段342の下部先端が、一方の支柱338の基端部前側を基準として、他方の支柱338と反対側に張り出して位置するようにして、下部先端に続く上側部分が前記一方の一方の支柱338の基端部よりやや上方の高さ位置の前側に対向して配置された構成が図示されている。

すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものということができる。
「設置基盤1に、正面視左前方、左後方、右前方、右後方の4本の支柱12が、互いに離間しかつ平行に設けられ、
左前方と左後方の支柱12は、正面視左側に一列で配置され、右前方と右後方の支柱12は、それぞれ左前方と左後方の支柱12の右側に配置されており、
これらの支柱12間をつなぎ一体化する横連結材13で囲まれた四角枠内には、上下複数段に亘るように中間内避難ステージ24が設けられるとともに、
避難タワー10の外周には、4つの手摺り20付きの階段21がタワー4面の各面に順次添った形で下段タワー本体14から上段タワー本体16まで至るように添設固定され、内避難ステージ24は、それぞれ昇降手段である階段21から入り込めるようになっている避難タワー10であって、
最下部の階段21は、タワーの左側面における一階部分の高さ範囲に添った形で傾斜した直階段であり、
最下部の階段21の下部は、その下部先端が左前方の支柱の基端部の正面視左側に対向して配置され、最下部の階段21の上部は、左後方の支柱の中間部分の正面視左側に対向し、
最下部の階段21と、その上側の階段21との間のコーナー部の踊り場は手摺り20が設けられており、踊り場は左後方の支柱12の左側及び後ろ側回りに位置している避難タワー10。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である2006-226098号(以下「刊行物2」という。)には、避難装置ならびにその施工方法に関し、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0077】
さらに、図42の左側部に仮想線で示すように、構築物の左方向から津波流が押し寄せるように向きが設定される場合にも前後の防護材518,519を配すが、この場合、階段510,512がその取付・受担役としてそれらの階段510,512に衝撃吸収機能を発揮させるようにすることができる。523は丸パイプでなる予備防護材である。」
(イ)図42には、階段510,512が、仮想線で示された津波流が押し寄せる向きに設けられた避難用施設が記載されている。

すると、刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2記載の発明」という。)が開示されているものということができる。
「津波流が押し寄せる向きに設けられた階段に衝撃吸収機能を発揮させるようにする避難用施設」

3.本願補正発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明の「4本の支柱12」、「平行に設けられ」は、それぞれ本願発明の「複数本の支柱」、「立設固定」に相当し、
引用発明の「左前方」の「支柱12」、及び「左後方」の「支柱12」と、本願発明の「想定する方向から襲来する津波流Xを先に受ける前列の支柱」とは、「一列の支柱」である点で共通する。
引用発明の「右前方」の「支柱12」、及び「右後方」の「支柱12」と、本願発明の「前列の支柱よりもあとの段階で津波流Xを受けると想定される後側の支柱」とは、「一列の支柱よりも一側に設けられた支柱」である点で共通する。
引用発明の「設置基盤1」に「4本の支柱12」が「設けられ」、「左前方と左後方の支柱12は、正面視左側に一列で配置され、右前方と右後方の支柱12は、それぞれ左前方と左後方の支柱12の右側に配置され」ることと、本願発明の「複数本の支柱が、設置基盤に設定した平面四辺形の線上に対応して立設固定され、前記前列の支柱は、設置基盤上における前記平面四辺形上の一辺の両端頂点個所に対応して配置されるとともに、前記後側の支柱は、前記平面四辺形上における前記一辺以外の後方となる位置に配置されており」とは、前者の4本の支柱12の位置が平面に四辺形を構成し、各支柱12が該平面四辺形の線上に対応して立設固定されているといえ、さらに、左前方と左後方の支柱12の位置が、平面四辺形上の一辺の両端頂点個所といえるものであるので、両者は、
「複数本の支柱が、
設置基盤に設定した平面四辺形の線上に対応して立設固定され、一列の支柱は、設置基盤上における前記平面四辺形上の一辺の両端頂点個所に対応して配置されるとともに、前記一列の支柱よりも一側に設けられた支柱は、前記平面四辺形上における前記一辺以外の一側となる位置に配置されて」いる点で共通する。
まとめると、引用発明の「設置基盤1」に「4本の支柱12」が「設けられ」、「左前方と左後方の支柱12は、正面視左側に一列で配置され、右前方と右後方の支柱12は、それぞれ左前方と左後方の支柱12の右側に配置され」ることと、本願発明の「想定する方向から襲来する津波流Xを先に受ける前列の支柱とこれら前列の支柱よりもあとの段階で津波流Xを受けると想定される後側の支柱とを有する複数本の支柱が、設置基盤に設定した平面四辺形の線上に対応して立設固定され、前記前列の支柱は、設置基盤上における前記平面四辺形上の一辺の両端頂点個所に対応して配置されるとともに、前記後側の支柱は、前記平面四辺形上における前記一辺以外の後方となる位置に配置されており」とは、「一列の支柱とこれら一列の支柱よりも一側に設けられた支柱とを有する複数本の支柱が、設置基盤に設定した平面四辺形の線上に対応して立設固定され、一列の支柱は、設置基盤上における前記平面四辺形上の一辺の両端頂点個所に対応して配置されるとともに、前記一列の支柱よりも一側に設けられた支柱は、前記平面四辺形上における前記一辺以外の一側となる位置に配置されて」いる点で共通する。
(b)引用発明の「支柱12間をつなぎ一体化する横連結材13で囲まれた四角枠内には、上下複数段に亘るように中間内避難ステージ24が設けられる」ことは、本願発明の「支柱を介して上階としての避難部分が設けられる」ことに相当し、同様に
「タワー4面の各面に順次添った形で下段タワー本体14から上段タワー本体16まで至るように添設固定され」た「4つの手摺り20付きの階段21」は、本願発明の「階段式の登降手段」に、
「避難タワー10の外周には、4つの手摺り20付きの階段21がタワー4面の各面に順次添った形で下段タワー本体14から上段タワー本体16まで至るように添設固定され、内避難ステージ24は、それぞれ昇降手段である階段21から入り込めるようになっている」ことは、「避難部分と設置基盤側との間を手摺付きで階段式の登降手段で連絡した」ことに、
「避難タワー10」は、「津波・洪水等の非常事態からの避難装置」に相当する。
(c)引用発明の「一階部分の高さ範囲」は、本願発明の「2階部分以下の高さ範囲」に相当する。
引用発明の「最下部の階段21は、タワーの左側面における一階部分の高さ範囲に添った形で傾斜した直階段」であることと、本願発明の「階段式の登降手段は、前記前列の支柱の津波流Xの襲来が想定される前側における2階部分以下の高さ範囲に添うべく斜め向きの直階段の部分を有し」ていることとは、前者の「最下部の階段21」が前記「4つの手摺り20付きの階段21」の一部分をなすものであるので、両者は
「階段式の登降手段は、一列のタワー外側における2階部分以下の高さ範囲に添うべく斜め向きの直階段の部分を有し」ている点で共通する。
引用発明の「最下部の階段21の下部は、その下部先端が左前方の支柱の基端部の正面視左側に対向して配置され」ることと、本願発明の「直階段の下部は、その下部先端が前記一方の支柱の基端部前側を基準として前記他方の支柱とは反対側に張り出して位置するようにして、下部先端に続く上側部分が前記前列の支柱のうちの一方の支柱の基端部よりやや上方の高さ位置の前側に対向して配置され」ることは、「直階段の下部は、一列の支柱のうち一方の基端部付近のタワー外側に配置され」る点で共通する。
引用発明の「最下部の階段21の上部は、左後方の支柱の中間部分の正面視左側に対向」することと、本願発明の「直階段の上部は前記前列の支柱のうちの他方の支柱の前側に対向するように位置」することは、「直階段の上部は一列の支柱のうちの他方の支柱のタワー外側に対向するように位置」する点で共通する。
(d)引用発明の「最下部の階段21と、その上側の階段21との間のコーナー部の踊り場」は、「手摺り20が設けられ」たものであるので、本願発明の「直階段の上部に接続された手摺付きの踊り場」に相当する。
引用発明の「踊り場は左後方の支柱12の左側及び後ろ側回りに位置している」ことと、本願発明の「踊り場は、前記他方の支柱の津波流Xの襲来が想定される前側回りに位置するように構成されている」こととは、「踊り場は、前記他方の支柱の回りに位置するように構成されている」点で共通する。

(2)両発明の一致点
「一列の支柱とこれら一列の支柱よりも一側に設けられた支柱とを有する複数本の支柱が、設置基盤に設定した平面四辺形の線上に対応して立設固定され、一列の支柱は、設置基盤上における前記平面四辺形上の一辺の両端頂点個所に対応して配置されるとともに、前記一列の支柱よりも一側に設けられた支柱は、前記平面四辺形上における前記一辺以外の一側となる位置に配置されており、これらの支柱を介して上階としての避難部分が設けられるとともに、この避難部分と設置基盤側との間を手摺付きで階段式の登降手段で連絡した津波・洪水等の非常事態からの避難装置であって、
前記階段式の登降手段は、一列のタワー外側における2階部分以下の高さ範囲に添うべく斜め向きの直階段の部分を有し、
直階段の下部は、一列の支柱のうち一方の基端部付近のタワー外側に配置され、
直階段の上部は一列の支柱のうちの他方の支柱のタワー外側に対向するように位置し、
前記直階段の上部に接続された手摺付きの踊り場は、前記他方の支柱の回りに位置するように構成されている津波・洪水等の非常事態からの避難装置。」

(3)両発明の相違点
ア.一列の支柱が、本願補正発明は「想定する方向から襲来する津波流Xを先に受ける前列の支柱」であるのに対して、引用発明はそうでなく、
一列の支柱よりも一側に設けられた支柱が、本願補正発明は「前列の支柱よりもあとの段階で津波流Xを受けると想定される後側の支柱」であって、平面四辺形上における前記一辺以外の「後方」となる位置に配置されているのに対して、引用発明はそうでない点。
イ.階段式の登降手段が、本願補正発明は「前列の支柱の津波流Xの襲来が想定される前側」における2階部分以下の高さ範囲に添うべく斜め向きの直階段の部分を有し、該直階段の下部は、「その下部先端が前記一方の支柱の基端部前側を基準として前記他方の支柱とは反対側に張り出して位置するようにして、下部先端に続く上側部分が前記前列の支柱のうちの一方の支柱の基端部よりやや上方の高さ位置の前側に対向して」配置され、直階段の上部は「前記前列」の支柱のうちの他方の支柱の「前」側に対向するように位置するのに対して、引用発明はそうでない点。
ウ.踊り場が、本願補正発明は「他方の支柱の津波流Xの襲来が想定される前側」回りに位置するのに対して、引用発明はそうでない点。

4.本願補正発明の容易推考性の検討
(1)相違点ア.ウ.について
刊行物2には、「津波流が押し寄せる向きに設けられた階段に衝撃吸収機能を発揮させるようにする避難用施設」の発明が記載されており、該衝撃吸収機能は、引用発明の避難タワー10においても望ましいものと認識されるので、引用発明の最下部の階段21を津波流が押し寄せる向きに設け、衝撃吸収機能を発揮させるものとすることは当業者が容易になし得ることと言える。
そして、引用発明の最下部の階段21を津波流が押し寄せる向きに設けることにより、引用発明の左前方、左後方の支柱が、「想定する方向から襲来する津波流Xを先に受ける前列の支柱」となり、右前方、右後方の支柱が、「前列の支柱よりもあとの段階で津波流Xを受けると想定される後側の支柱」となり、平面四辺形上における前記一辺以外の「後方」となる位置に配置されたものとなり、左後方の支柱12(本願補正発明の「他方の支柱」に相当するもの)の左側及び後ろ側回りに位置している踊り場が、「他方の支柱の津波流Xの襲来が想定される前側」回りに位置するものとなることは自明である。
そうすると、引用発明の最下部の階段21を、刊行物2記載の発明の様に、津波流が押し寄せる向きに設けることにより、相違点ア.ウ.に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点イ.について
ア.まず、上記(1)に記載した様に、引用発明の最下部の階段21を、津波流が押し寄せる向きに設けることは、当業者が容易になし得ることであり、そのことに伴い、刊行物1の図1において左前方及び左後方の支柱の左側に対向して配された階段が引用発明の左前方、左後方の支柱の「前側」に位置するものとなることは自明である。
イ.さらに、構造物に外階段を設けるにあたって、該外階段の長さ又は勾配を調整するために、前記外階段の下部を構造物の外側に配置することは、例えば、刊行物1記載事項(エ)に図示されているように、他にも、特開2005-261904号公報の図19にも図示されている様に、周知慣用の技術であり、その様な構成の選択は当業者が適宜なし得る設計事項である。
ウ.そして、引用発明の避難タワー10において、上記(1)に記載した様に、引用発明の最下部の階段21を、津波流が押し寄せる向きに設けるとともに、上記周知の直階段の下部先端を一方の支柱の外側に配置する構成として、相違点イ.に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)総合判断
そして、本願補正発明の作用効果は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

6.予備的見解
なお、上記「1.」の「特許請求の範囲の【請求項1】」において、「前記一方の支柱」「前記他方の支柱」との記載があり、その記載よりも前に「一方の支柱」「他方の支柱」の記載が無い部分が存在する。
仮に、当該記載により、特許を受けようとする発明が明確でなく、上記「1.」の本願補正発明の認定が出来ないものであるとしても、特許出願が特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものとなり、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであることが変わるものではない。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成24年3月7日受付の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年12月27日受付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりである。
「【請求項1】
想定する方向から襲来する津波流Xを先に受ける前列の支柱とこれら前列の支柱よりもあとの段階で津波流Xを受けると想定される後側の支柱とを有する複数本の支柱が、設置基盤に設定した平面四辺形の線上に対応して立設固定され、前記前列の支柱は、設置基盤上における前記平面四辺形上の一辺の両端頂点個所に対応して配置されるとともに、前記後側の支柱は、前記平面四辺形上における前記一辺以外の後方となる位置に配置されており、これらの支柱を介して上階としての避難部分が設けられるとともに、この避難部分と設置基盤側との間を手摺付きで階段式の登降手段で連絡した津波・洪水等の非常事態からの避難装置であって、前記階段式の登降手段は、前記前列の支柱の津波流Xの襲来が想定される前側における2階部分以下の高さ範囲に添うべく斜め向きの直階段の部分を有し、該直階段の下部は、前記前列の支柱のうちの一方の支柱の前側に対向するように位置するとともに、直階段の上部は前記前列の支柱のうちの他方の支柱の前側に対向するように位置し、前記直階段の上部に接続された手摺付きの踊り場は、前記他方の支柱の津波流Xの襲来が想定される前側回りに位置するように構成されていることを特徴とする津波・洪水等の非常事態からの避難装置。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?2とその記載事項は、前記の「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明の構成を全て含むとともに、本願発明の構成に更に限定を付加した本願補正発明が、前記「第2」の「3.」、「4.」に記載したとおり、引用発明、刊行物2記載の発明、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も本願補正発明と同様の理由により、引用発明、刊行物2記載の発明、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-06 
結審通知日 2013-08-13 
審決日 2013-08-29 
出願番号 特願2010-255329(P2010-255329)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04H)
P 1 8・ 575- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋行湊 和也五十幡 直子  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 住田 秀弘
高橋 三成
発明の名称 津波・洪水等の非常事態からの避難装置  

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