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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01D
管理番号 1280925
審判番号 不服2012-6822  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-13 
確定日 2013-10-31 
事件の表示 特願2004-182691「エンコーダ、及び、その信号調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年1月5日出願公開、特開2006-3307〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成16年6月21日にされた特許出願である。そして、平成19年5月1日付け手続補正書により明細書及び図面についての補正がされ、平成22年2月1日付け手続補正書により明細書、特許請求の範囲及び図面についての補正がされた。さらに、平成23年2月4日付け手続補正書により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされたが、この補正は、平成24年2月21日付けの決定をもって却下され、同日付けで拒絶査定がされた。査定の謄本は、同年同月28日に送達された。
これに対して、同年4月13日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。その後、当審の同年10月10日付け審尋に対し、同年11月15日付け回答書が提出された。

第2 本件補正の却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、本件補正前(平成22年2月1日付け手続補正書による補正の後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含む。なお、下線は、請求人が付したものであり、補正箇所を示す。

(本件補正前)
「【請求項1】
検出器と、
該検出器から出力される、少なくとも2相のアナログ信号をA/D変換する手段と、
前記アナログ信号の誤差を補正する手段と、
この補正されたA/D変換結果から内挿処理を行なう内挿回路と、
該内挿回路の出力を制御装置に出力する通信手段と、
補正データを格納する格納手段と、
前記アナログ信号のA/D変換結果の所定の値からの誤差を検出する外部装置との通信手段を持った中央処理手段と、
調整時に前記外部装置と接続され、調整終了後に前記制御装置と接続される出力コネクタと、
を備えたことを特徴とするエンコーダ。」

(本件補正後)
「【請求項1】
検出器と、
該検出器から出力される、少なくとも2相のアナログ信号をA/D変換する手段と、
前記アナログ信号の誤差を補正する手段と、
この補正されたA/D変換結果から内挿処理を行なう内挿回路と、
該内挿回路の出力を制御装置に出力する通信手段と、
補正データを格納する格納手段と、
前記アナログ信号のA/D変換結果の所定の値からの誤差を検出する携帯型のパソコンとの通信手段を持った中央処理手段と、
調整時に前記パソコンと接続され、調整終了後に前記制御装置と接続される、前記パソコン及び制御装置が着脱可能な出力コネクタと、
を備え、
調整時に前記出力コネクタを介して接続された前記パソコンに並べて表示される、前記アナログ信号によって生成されるリサージュ波形と判定状況を用いて調整するようにされていることを特徴とするエンコーダ。」

本件補正は、「外部装置」が「携帯型のパソコン」であることを特定し、「調整時」に「前記出力コネクタを介して接続された前記パソコンに並べて表示される、前記アナログ信号によって生成されるリサージュ波形と判定状況を用いて調整するようにされている」ことを特定するものであるから、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.刊行物に記載された事項
以下に掲げる刊行物1ないし5は、本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である。

刊行物1:特開2003-35569号公報
刊行物2:特開平11-30530号公報
刊行物3:特開2003-50141号公報
刊行物4:特開平7-73394号公報
刊行物5:特開平6-222117号公報

(1)刊行物1
ア.刊行物1の記載
刊行物1には、以下の記載がある。

(ア)段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、回転体の角度や直線移動体の位置を検出する機能を有し、特に、半導体検査装置・製造装置・工作機械などに用いられて高精度な位置決め・速度制御を実現するために用いられる光学式エンコーダに関する。」

(イ)段落0040ないし0046
「【0040】図3は本実施形態の光学式エンコーダとその周辺機器のブロック図である。マイクロコンピュータ100は補正値演算モードと通常検出モードとを切替えることができるディップスイッチなどの切換手段を有している。補正値演算モードとは光学式エンコーダ使用前や工場出荷前に予め補正値の演算を行う場合のモードであり、通常検出モードとは補正値の取得終了後に通常の角度検出用センサとして用いる場合のモードである。以下は、補正値演算モードで実施するものとして説明する。
【0041】スリット板6の回転に伴い、受光セル11?16、21?26、31?36、41?46は光電流を出力し、それぞれ90°位相が異なる4相の正弦波電流信号が出力される。図3でも示すように、これら正弦波電流信号は、例えば、オペアンプなどから構成される電流電圧変換回路101?104により、スリット1ピッチ分(1周期)の移動で360゜に相当する正弦波電圧信号181,281,381,481(図14参照)に変換され、マイクロコンピュータ100に取込まれる。これら正弦波電圧信号181,281,381,481は、4相で90°の位相差を有している。
【0042】しかし、発明が解決しようとする課題でも記述した通り、マイクロコンピュータ100に取込まれた4相分の正弦波電圧信号181,281,381,481は、オフセット誤差60(ΔX_(A)、ΔX_(B)、ΔX_(C)、ΔX_(D))、振幅誤差61(ΔY_(A)、ΔY_(B)、ΔY_(C)、ΔY_(D))、位相差誤差62(Δθ_(B)、Δθ_(C)、Δθ_(D))が含まれ精度低下の大きな要因となっている(図15参照)。そこで、波形歪みの主な要因であるオフセット誤差、振幅誤差および位相差誤差を除去するための補正値を取得する。まず、電流電圧変換回路101?104からの4相で90°の位相差の正弦波電圧信号181,281,381,481を、図3で示すように、光学式エンコーダ999内部のA/D変換手段112を介して波形演算手段901に取込む。
【0043】例えば、スリット板6のスリットの数が2^(8)個(256個)の場合、一回転あたり4×2^(8)個(1024個)の正弦波を出力する。これらは、1)光学式エンコーダの組立誤差、2)受光素子7の感度バラツキ、3)LED2の照明むら等の影響により、振幅値(Y+ΔY_(A1-A256)、Y+ΔY_(B1-B256)、Y+ΔY_(C1-C256)、Y+ΔY_(D1-D256))、オフセット値(X+ΔX_(A1-A256)、X+ΔX_(B1-B256)、X+ΔX_(C1-C256)、X+ΔX_(D1-D256))および位相差(90°+Δθ_(B1-B256)、90°+Δθ_(C1-C256)、90°+Δθ_(D1-D256))のそれぞれに、誤差成分が含まれる。
【0044】次に波形演算手段901に取込まれた4×2^(8)個の正弦波から、4×2^(8)個の振幅値、オフセット値および位相差を演算する。そして、基準振幅Yおよび基準オフセットXを除去した振幅誤差(ΔY_(A1-A256)、ΔY_(B1-B256)、ΔY_(C1-C256)、ΔY_(D1-D256))、オフセット誤差(ΔX_(A1-A256)、ΔX_(B1-B256)、ΔX_(C1-C256)、ΔX_(D1-D256))を演算する。また同様に3×28個の位相差から基準位相差90°を除去した位相差誤差(Δθ_(B1-B256)、Δθ_(C1-C256)、Δθ_(D1-D256))を演算する。
【0045】これら振幅誤差(ΔY_(A1-A256)、ΔY_(B1-B256)、ΔY_(C1-C256)、ΔY_(D1-D256))、オフセット誤差(ΔX_(A1-A256)、ΔX_(B1-B256)、ΔX_(C1-C256)、ΔX_(D1-D256))および位相差誤差(Δθ_(B1-B256)、Δθ_(C1-C256)、Δθ_(D1-D256))の平均値を計算し、その計算結果を、それぞれ振幅平均誤差(ΔY_(A_mean)、ΔY_(B_mean)、ΔY_(C_mean)、ΔY_(D_mean))、オフセット平均誤差(ΔX_(A_mean)、ΔX_(B_mean)、ΔX_(C_mean)、ΔX_(D_mean))、位相差平均誤差(Δθ_(B_mean)、Δθ_(C_mean)、Δθ_(D_mean))を得る。
【0046】これらの振幅平均誤差、オフセット平均誤差、位相差平均誤差を、例えばメモリ手段701に、振幅補正値(ΔY_(A_correct)、ΔY_(B_correct)、ΔY_(C_correct)、ΔY_(D_correct))、オフセット補正値(ΔX_(A_correct)、ΔX_(B_correct)、ΔX_(C_correct)、ΔX_(D_correct))、位相差補正値(Δθ_(B_correct)、Δθ_(C_correct)、Δθ_(D_correct))として書き込む。実際はデジタルデータである振幅補正データ、オフセット補正データ、位相差補正データとして書き込まれる。補正値演算モードではこのような処理が行われる。」

(ウ)段落0047ないし0053
「【0047】続いて通常の角度検出である通常検出モードについて説明する。通常検出モードではマイクロコンピュータ100は以下のような処理を行う。まず上位データの取得について説明する。従来例でも述べたように、マイクロコンピュータ100内に取込まれた正弦波電圧信号181,281,381,481は、例えば、図3に示すようにマイクロコンピュータ100内のコンパレータ手段110を介して方形波状の2値信号121に変換される。そして、この2値信号121をマイクロコンピュータ100内のカウンタ手段111にて正弦波の数をカウントし、このカウント値をデジタルデータとして表したものを上位データ122として出力する。
【0048】続いて下位データの取得について説明する。マイクロコンピュータ100内に取込まれた正弦波電圧信号181,281,381,481は、A/D変換手段112を介して正弦波デジタルデータに変換される。更に、オフセット除去演算手段109で基本オフセットXを除算して、オフセット成分を除去したオフセット除去正弦波デジタルデータを得る。なお、ここで述べたA/D変換手段112は、前述した波形演算手段901に接続されたA/D変換手段112と共通としても良い。
【0049】通常、マイクロコンピュータ100内のオフセット除去演算手段109の出力オフセット除去正弦波デジタルデータ123は、以下のような数式の信号をデジタルデータとしたでものある。
【0050】
【数5】
VD_(A)(θ)=(ΔX_(A))+(Y+ΔY_(A))sin(θ)
VD_(B)(θ)=(ΔX_(B))+(Y+ΔY_(B))cos(θ+Δθ_(B))
VD_(C)(θ)=(ΔX_(C))-(Y+ΔY_(C))sin(θ+Δθ_(C))
VD_(D)(θ)=(ΔX_(D))-(Y+ΔY_(D))cos(θ+Δθ_(D))
【0051】続いて、マイクロコンピュータ100内部の補正値演算手段115にて、メモリ701内の振幅補正データ、オフセット補正データ、位相差補正データからなる補正データを用いて波形歪みの影響を低減させるように演算し、下記のような信号をデジタルデータで表したものである補正下位データ126を生成する。
【0052】
【数6】
VD_C_(A)(θ)
=(ΔX_(A)-ΔX_(A_correct))
+(Y+ΔY_(A)-ΔY_(A_correct))sin(θ)

VD_C_(B)(θ)
=(ΔX_(B)-ΔX_(B_correct))
+(Y+ΔY_(B)-ΔY_(B_correct))cos(θ+Δθ_(B)-Δθ_(B_correct))

VD_C_(C)(θ)
=(ΔX_(C)-ΔX_(C_correct))
-(Y+ΔY_(C)-ΔY_(C_correct))sin(θ+Δθ_(C)-Δθ_(C_correct))

VD_C_(D)(θ)
=(ΔX_(D)-ΔX_(D_correct))
-(Y+ΔY_(D)-ΔY_(D_correct))cos(θ+Δθ_(D)-Δθ_(D_correct))

【0053】内挿手段113はこの補正下位データ126を下位ビットのデジタルデータに変換して下位データ124を出力する。そして、上位データ122と下位データ125を組み合わせた角度データ206を出力する。以上、説明したように本実施形態の光学式エンコーダは、スリットの数をカウントすることによって得られる上位データと、1つの正弦波を電気的に分割することによって得られる補正下位データを組み合わせて高分解能であって高精度な光学式エンコーダを得る。」

(エ)段落0054
「【0054】以上、第1実施形態について説明した。本実施形態の光学式エンコーダはロータリ式のエンコーダであるものとして説明したが、本発明の請求項13に係る実施形態として、検出用トラックが略直線状に配置される略長方形状のスリット板を固定し、このスリット板に沿って発光素子および受光素子が対向しながらともに直線方向に移動して直線方向の変移量を検出するような光学式リニアエンコーダに、図3で説明したブロック構成と補正値演算機能を持たせても良い。この場合も、光学式ロータリエンコーダと同様に高分解能であって高精度な光学式エンコーダとすることができる。」

(オ)段落0085ないし0087
「【0085】[第5実施形態]本発明の請求項10に係る第5実施形態について図7を用いて説明する。図7は第5実施形態の光学式エンコーダとその周辺機器のブロック図である。第5実施形態では、第1実施形態の構成を変更したものであり、第1実施形態では光学式エンコーダ999の内部に一体に設けられていた波形演算手段901に代えて、本実施形態では外部に設置されたコンピュータ209を用いるものである。これは、補正値演算モードによる補正データの登録は製造時など工場出荷前に予め行うようにして、光学式ロータリエンコーダを使用する者が調整作業をしなくともよいようにするためである。
【0086】例えば、光学式エンコーダ999に設けられた外部端子にA/D変換手段210とコンピュータ209とを図7で示すように接続し、第1実施形態で説明したような補正データの取得作業を行い、メモリ手段711に補正データを書き込んでおくようにする。この場合、光学式エンコーダ999の使用時には直ちに第1実施形態で説明したような角度検出を行うようになされているため、補正作業を行うことなく高分解能かつ高精度で使用することができるようになる。なお、これ以外は第1実施形態と同様であり、重複する説明を省略する。
【0087】以上、第5実施形態について説明した。本実施形態の光学式エンコーダはロータリ式のエンコーダであるものとして説明したが、本発明の請求項13に係る実施形態として、検出用トラックが略直線状に配置される略長方形状のスリット板を固定し、このスリット板に沿って発光素子および受光素子が対向しながらともに直線方向に移動して直線方向の変移量を検出するような光学式リニアエンコーダに、図7で説明したブロック構成と補正値演算機能を持たせても良い。この場合も、光学式ロータリエンコーダと同様に高分解能であって高精度な光学式エンコーダとすることができる。」

イ.刊行物1に記載された発明(引用発明1)
刊行物1には、半導体検査装置・製造装置・工作機械などの位置決め・速度制御に用いられる光学式エンコーダが記載されている(上記ア.(ア))。
光学式エンコーダ999は、それぞれ90°位相が異なる4相の正弦波電流信号を出力する受光セル11?16、21?26、31?36、41?46と、前記4相の正弦波電流信号を4相で90°の位相差を有する正弦波電圧信号181、281、381、481に変換する電流電圧変換回路101?104とを有する(上記ア.(イ))。
光学式エンコーダ999は、さらに、マイクロコンピュータ100を有する。マイクロコンピュータ100は、補正値演算モードと通常検出モードとを切り替えることができる(同)。
マイクロコンピュータ100は、A/D変換手段112を有し、正弦波電圧信号181、281、381、481は、A/D変換手段112によって正弦波デジタルデータに変換される(上記ア.(ウ))。
マイクロコンピュータ100は、補正値演算手段115を有する。補正値演算手段115は、補正データを用いて、正弦波デジタルデータからオフセット成分が除去されたオフセット除去正弦波デジタルデータを演算し、波形歪みの影響を低減させ、補正下位データ126を生成する(同)。
マイクロコンピュータ100は、補正下位データ126を下位ビットのデジタルデータに変換して下位データ124を出力する内挿手段113を有する(同)。
マイクロコンピュータ100は、下位データ124と別途得られた上位データ122とを組み合わせた角度データ206を出力する(同)。光学式エンコーダ999は、半導体検査装置・製造装置・工作機械などの位置決め・速度制御に用いられる(上記ア.(ア))から、角度データ206の出力先は、明らかに、半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置である。
一方、補正値演算手段115が補正下位データ126を生成する際に用いる補正データは、振幅補正データ、オフセット補正データ及び位相差補正データからなり、メモリ手段701に書き込まれている(上記ア.(イ)及び(ウ))。
ここで、補正データは、マイクロコンピュータ100が補正値演算モードにあるときに、光学式エンコーダ999の内部にある波形演算手段901が演算で求めてメモリ手段701に書き込んだものである(上記ア.(イ))。ここで、波形演算手段901の代わりに、光学式エンコーダ999の外部に設置されたコンピュータ209を用いることもできる(上記ア.(オ))。この場合、コンピュータ209は、光学式エンコーダ999に設けられた外部端子にA/D変換手段210を介して接続される。そして、A/D変換手段210は、正弦波電圧信号181、281、381、481を正弦波デジタルデータに変換し、コンピュータ209は、正弦波デジタルデータから演算により補正データを求め、それをメモリ手段711に書き込む(同)。
以上のことを踏まえて、上記ア.(ア)ないし(オ)の記載と、図7に示された事項とを総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「それぞれ90°位相が異なる4相の正弦波電流信号を出力する受光セル11?16、21?26、31?36、41?46及び前記4相の正弦波電流信号を4相で90°の位相差を有する正弦波電圧信号181、281、381、481に変換する電流電圧変換回路101?014と、
補正値演算モードと通常検出モードとを切り替え可能なマイクロコンピュータ100と、
前記マイクロコンピュータ100が補正値演算モードにあるときに、正弦波電圧信号181、281、381、481をA/D変換した正弦波デジタルデータから演算により補正データを求める外部のコンピュータ209と接続される外部端子と、
を備える光学式エンコーダ999であって、
前記マイクロコンピュータ100は、
前記正弦波電圧信号181、281、381、481を正弦波デジタルデータに変換するA/D変換手段112と、
前記正弦波デジタルデータからオフセット成分が除去されたオフセット除去正弦波デジタルデータを、補正データを用いて演算し、波形歪みの影響を低減させて補正下位データ126を生成する補正値演算手段115と、
前記補正下位データ126を下位ビットのデジタルデータに変換して下位データ124を出力する内挿手段113と、
前記補正データが書き込まれたメモリ手段711と、
を有し、
前記マイクロコンピュータ100は、前記下位データ124と別途得られた上位データ122とを組み合わせた角度データ206を半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置に出力する
光学式エンコーダ999。」

(2)刊行物2
ア.刊行物2の記載
刊行物2には、以下の記載がある。

(ア)段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、製造工程において、調整を必要とする補正機能付きセンサに関するものである。」

(イ)段落0002及び0003
「【0002】
【従来の技術】図6に従来の調整機能付きセンサの構造を示す。図6において、1はセンサ本体であり、2はアナログ的な補正信号を出力する回路、アナログ信号を入力する回路、記憶回路を含むマイコン及びその周辺回路であり、その他に例えば温度補正を目的とする場合温度センサなどが含まれている。以下において、周辺回路も含めてマイコン2と呼ぶことにする。3は信号加算回路であり、センサ本体1の出力及びマイコン2の出力が接続される。4は信号出力回路であり、増幅器により構成されている。5は信号出力端子である。マイコン2のアナログ入力端子21には、信号加算回路3の出力信号が接続されている。6は調整信号入力端子であり、マイコン2のディジタル入力端子22に接続されている。調整時には、外部から調整信号入力端子6に信号源が接続される。
【0003】以下に、これらの動作を説明する。マイコン2は調整モードと通常動作モードの二つのモードをもち、調整信号入力端子6から調整信号が入力されると調整モード、それ以外のときは通常動作モードで動作する。」

(ウ)段落0007及び0008
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】この調整機能付きセンサにおいては、製造工程において調整信号を送るために用いる調整専用端子が必要であるため、これを完成時に適切に処理し、センサが誤って調整動作しないようにすることが要求されている。調整作業を組み立て途中で行うことができる場合、調整端子の処理は比較的容易である。しかし、角速度センサのように、組み立て途中では正しい出力特性が得られず、出荷時と同様の完成品の形態で調整作業をする必要があるような調整機能付きセンサも多数存在する。この場合は、調整端子の処理は非常に複雑なものとなり、これにより調整機能付きセンサの端子やケースの構造を複雑にし、またコストアップの要因となっていた。
【0008】本発明は、この調整専用端子を廃止し、製造工程における調整専用端子の処理を不要とすることを目的とする。」

(エ)段落0015ないし0023
「【0015】以下、本発明の実施の形態について、図1から図5を用いて説明する。
(実施の形態1)図1は本発明の第1の実施の形態の調整機能付きセンサを示し、図1において、1はセンサ本体であり、2はアナログ的な補正信号を出力する機能、アナログ信号を入力する回路、記憶回路を含むマイコン及びその周辺回路であり、その他に例えば温度補正を目的とする場合、温度センサなどを含む。以下において、周辺回路も含めてマイコン2と呼ぶことにする。3は信号加算回路であり、センサ本体1の出力及びマイコン2の出力が接続される。4は信号出力回路であり、出力抵抗をもつ増幅器により構成されている。5は信号出力端子である。マイコン2のアナログ入力端子21には信号加算回路3の出力信号が、ディジタル入力端子22には信号出力回路4の出力が接続されている。調整時には、外部から信号出力端子5に調整モード信号を送信するための信号源が接続される。
【0016】以下に、これらの動作を説明する。調整時に、外部の信号源から信号出力端子5を通してあらかじめ設定された調整信号を送信する。この信号は、本来センサが出力し得る信号に比べ、十分に複雑なものでなければならない。信号出力端子5は本来出力端子であるため、この出力インピーダンスは比較的低いが、外部に接続する信号源は信号出力回路4に含まれる出力抵抗を負荷抵抗として駆動できるものとする。これにより、マイコン2は信号出力回路4の出力部において、ディジタル入力端子22を通して読み取ることで外部からの信号を受けることができる。このとき、信号出力回路4が何らかの信号を出力しても、マイコン2のディジタル入力端子22はその影響を受けずに外部からの信号を受けることができる。
【0017】…(略)…
【0018】…(略)…
【0019】…(略)…
【0020】…(略)…
【0021】…(略)…
【0022】これらのフローチャートを図2に示す。マイコン2はステップS1においてディジタル入力端子22をチェックし、ステップS2において調整信号が有るか否かを判断し、調整信号を正しく受信すると、ステップS3において不正データの有無を判断し、不正データなしの場合にステップS4において調整モードを実行する。…(略)…
【0023】マイコン2は、ステップS5において所定時間内に調整信号の有無を判断し、その結果として調整信号を受け取らなかったとき、もしくはステップS3において不正な信号を受けたときにはステップS6において通常動作モードとして動作する。…(略)…」

イ.刊行物2に記載された技術事項(技術事項2)
刊行物2には、製造工程において調整を必要とする補正機能付きセンサが記載されている(上記ア.(ア))。この種のセンサは、従来、信号出力端子と調整信号入力端子とを有し、調整信号入力端子から調整信号が入力される調整モードと、通常動作モードとの二つのモードで動作していた(上記ア.(イ))。刊行物2に記載された補正機能付きセンサは、調整終了後は不要になる調整信号入力端子を廃止することを目的としている(上記ア.(ウ))。
具体的には、調整モードでは、センサの信号出力端子から調整信号を入力することとし、センサに内蔵されたマイコンは、信号出力端子から調整信号が入力されているときは調整モードでセンサを動作させ、そうでないときは通常動作モードでセンサを動作させる(上記ア.(エ))。
以上のことをまとめると、刊行物2には、以下の技術事項(以下、「技術事項2」という。)が記載されている。

「製造工程において調整を必要とし、調整モードと通常動作モードとで動作する補正機能付きセンサにおいて、
調整モードでは、センサの信号出力端子から調整信号を入力し、
センサに内蔵されたマイコンは、信号出力端子から調整信号が入力されているときは調整モードでセンサを動作させ、そうでないときは通常動作モードでセンサを動作させる。」

(3)刊行物3
ア.刊行物3の記載
刊行物3には、以下の記載がある。

(ア)段落0001ないし0006
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、2つ以上のトランスデューサ信号を生成する位置トランスデューサを備えるトランスデューサシステムおよびその操作方法に関する。
【0002】
【従来の技術】現在、直線、回転または角運動を検知するための各種の動きまたは位置トランスデューサが利用可能である。一般に、これらのトランスデューサは、光学式、磁気スケール、誘導式トランスデューサ、容量式トランスデューサのいずれかに基づいている。
【0003】一般に、トランスデューサは、読取りヘッドおよびスケールを備える。2相システムに関する例においては、トランスデューサが、測定軸に沿ったスケールに相対する読取りヘッドの位置の関数として正弦的に変化する2つの信号S_(1),S_(2)を出力する。トランスデューサに対する1つの共通の概念においては、それら信号S_(1),S_(2)間での4分の1波長位相差を除いて、信号S_(1)およびS_(2)が一致するとされている。電子トランスデューサは、これらの2つの信号を用いて、測定軸に沿ったスケールに相対する読取りヘッドの瞬間の位置を導き出す。
【0004】理想的には、信号S_(1)およびS_(2)はDCオフセットがない完全な正弦波であり、等しい振幅を有し、正確な直角位相(すなわち、互いに4分の1波長の位相差、また、ここでは「直交する」という)にある。実際には、信号S_(1)およびS_(2)には、小さいDCオフセットがあり、それらの振幅は等しくなく、それらには、いくらかの直交性誤差がある。さらに、信号S_(1)およびS_(2)は、空間を歪める高調波を有するかもしれない。さらに、電子トランスデューサには、オフセット、利得、および非線形誤差などの追加誤差が導入される。
【0005】これらの誤差は、2相システムの場合に対して、次の式で示される。
【0006】
【数1】
S_(1)=C_(1)+V_(1)sin(2π(x-φ_(1))/λ)
S_(2)=C_(2)+V_(2)sin(2π(x-φ_(2))/λ)
【0007】上記式において、xは位置、λはトランスデューサ出力に対する波長である。項C_(1)とC_(2)はオフセット誤差を示す。そして、項V_(1)とV_(2)(V_(1)≠V_(2)であれば)は振幅不一致誤差を示す。項Φ_(1)とΦ_(2)(Φ_(1)-Φ_(2)≠0rad(0°)であれば)は位相不一致誤差すなわち位相関係誤差を示す。」

(イ)段落0011ないし0013
「【0011】上記のような誤差に対処するための1つの方法は、トランスデューサを較正することである。トランスデューサを較正し、これらの誤差を補正するには、DC信号オフセット、基本的な信号の振幅、基本的な信号間の位相誤差を求めるかまたは比較し、それらが等しくなるように調整されるかまたは補正されることを保証することが要求される。さらに、誤差補正に対しては、高調波成分の振幅を考慮しなければならない。
【0012】一般的に使用されている1つの従来のトランスデューサ較正方法として、「リサージュ(Lissajous)」方法がある。このリサージュ(Lissajous)方法は、通常、オシロスコープの垂直および水平軸を駆動するために、オシロスコープに名目上直交する2つの読取りヘッド信号を入力する工程を備える。読取りヘッドは、スケールに対して連続的に走査され、信号を変えながら発生する。オシロスコープの表示は観測され、その表示が両軸上の零を中心とする「完全な」円を示すまで、読取りヘッドは物理的かつ電子的に調整される。この条件のもとで、2つの信号の振幅、直交性、およびオフセットが適切に調整される。
【0013】リサージュ(Lissajous)方法は、2つの信号が両方、完全な正弦波状であると仮定する。通常、円を歪める高調波誤差がトランスデューサの設計および組立部品の固定的な特徴によって無意味なものにされるのが望まれているように、上記高調波誤差に対する調整方法はない。リサージュ(Lissajous)方法は、当業者に十分知られており、コンピュータに基づいたデータ取得装置で2つの信号を抽出することによって、実行されている。…(略)…」

イ.刊行物3に記載された周知技術
刊行物3には、トランスデューサを較正する方法として、リサージュ方法が当業者に周知である旨の記載がある。この方法は、トランスデューサの2つの読み取りヘッド信号をオシロスコープに入力し、その表示が完全な円になるように、2つの読み取りヘッド信号の振幅、直交性及びオフセットを調整するものである(上記ア.(イ)。
ところで、刊行物3には、トランスデューサについて、光学式であり得ること、一般に読み取りヘッドとスケールとを備えていて、測定軸に沿ったスケールに相対する読み取りヘッドの瞬間の位置を導き出すこと、互いに4分の1波長の位相差を有する(すなわち、互いに直交する)2つの正弦波信号を出力することなどが記載されている(上記ア.(ア))。そうすると、刊行物3に記載されたトランスデューサとは、要するにエンコーダであることが明らかである。
したがって、オシロスコープに表示したリサージュ図形を用いてエンコーダを較正することは、本願の特許出願前に当業者に周知の技術である。

(4)刊行物4及び5
刊行物4には、超音波式車両感知器の受信波形の観測を、従来のオシロスコープに代えて、パソコンで行うことが記載されている(段落0004、0006、0009及び0010)。
刊行物5には、モータ駆動電流の変動成分の波形を、オシロスコープに代えて、パソコンなどのコンピュータで表示させることが記載されている(段落0008及び0012)。
刊行物4及び5のいずれにも、電気信号の波形をオシロスコープではなくパソコンで観測するということが記載されている。そして、これらの刊行物は、いずれも本願の特許出願の9年以上前に頒布されたものであることからすると、電気信号の波形をオシロスコープではなくパソコンで観測するということは、本願の特許出願前に当業者に周知の技術である。

3.対比
本件補正発明と引用発明1とを対比すると、以下のとおりである。

(1)引用発明1の「それぞれ90°位相が異なる4相の正弦波電流信号を出力する受光セル11?16、21?26、31?36、41?46及び前記4相の正弦波電流信号を4相で90°の位相差を有する正弦波電圧信号181、281、381、481に変換する電流電圧変換回路101?014」は、本件補正発明の「検出器」に相当する。
引用発明1の「光学式エンコーダ999」は、本件補正発明の「エンコーダ」に相当する。
引用発明1の「前記正弦波電圧信号181、281、381、481を正弦波デジタルデータに変換するA/D変換手段112」における「前記正弦波電圧信号181、281、381、481」は、「受光セル11?16、21?26、31?36、41?46」が出力する「それぞれ90°位相が異なる4相の正弦波電流信号」を、「電流電圧変換回路101?014」が変換した「4相で90°の位相差を有する正弦波電圧信号181、281、381、481」であるから、本件補正発明の「検出器から出力される、少なくとも2相のアナログ信号」に相当する。したがって、引用発明1の「前記正弦波電圧信号181、281、381、481を正弦波デジタルデータに変換するA/D変換手段112」は、本件補正発明の「該検出器から出力される、少なくとも2相のアナログ信号をA/D変換する手段」に相当する。
引用発明1の「前記正弦波デジタルデータからオフセット成分が除去されたオフセット除去正弦波デジタルデータを、補正データを用いて演算し、波形歪みの影響を低減させて補正下位データ126を生成する補正値演算手段115」は、本件補正発明の「前記アナログ信号の誤差を補正する手段」に相当する。
引用発明1の「前記補正下位データ126を下位ビットのデジタルデータに変換して下位データ124を出力する内挿手段113」は、本件補正発明の「この補正されたA/D変換結果から内挿処理を行なう内挿回路」に相当する。
引用発明1の「前記補正データが書き込まれたメモリ手段711」は、本件補正発明の「補正データを格納する格納手段」に相当する。

(2)引用発明1において「前記マイクロコンピュータ100[が]…角度データ206を半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置に出力する」ときの「半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置」は、本件補正発明の「制御装置」に相当する。
引用発明1において「前記マイクロコンピュータ100[が]…角度データ206を半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置に出力する」以上、引用発明1の「マイクロコンピュータ100」は、「半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置」との通信手段及び出力コネクタを備えていることが明らかである。したがって、引用発明1の「前記マイクロコンピュータ100は、前記下位データ124と別途得られた上位データ122とを組み合わせた角度データ206を半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置に出力する」構成は、本件補正発明の「該内挿回路の出力を制御装置に出力する通信手段」に相当し、また、本件補正発明の「調整終了後に前記制御装置と接続される、…制御装置が着脱可能な出力コネクタ」に相当する。

(3)引用発明1の「正弦波電圧信号181、281、381、481をA/D変換した正弦波デジタルデータから演算により補正データを求める外部のコンピュータ209」と、本件補正発明の「前記アナログ信号のA/D変換結果の所定の値からの誤差を検出する携帯型のパソコン」とは、「前記アナログ信号のA/D変換結果の所定の値からの誤差を検出するパソコン」である点で共通する。
引用発明1の「前記マイクロコンピュータ100が補正値演算モードにあるときに、…外部のコンピュータ209と接続される外部端子」は、本件補正発明の「調整時に前記パソコンと接続され…る、前記パソコン…が着脱可能な出力コネクタ」に相当する。
引用発明1の「マイクロコンピュータ100」は、「外部のコンピュータ209と接続される外部端子」を介して「外部のコンピュータ209」と通信する手段を有することが明らかであるから、本件補正発明の「パソコンとの通信手段を持った中央処理手段」に相当する。

(4)以上のことをまとめると、本件補正発明と引用発明1とは、

「検出器と、
該検出器から出力される、少なくとも2相のアナログ信号をA/D変換する手段と、
前記アナログ信号の誤差を補正する手段と、
この補正されたA/D変換結果から内挿処理を行なう内挿回路と、
該内挿回路の出力を制御装置に出力する通信手段と、
補正データを格納する格納手段と、
前記アナログ信号のA/D変換結果の所定の値からの誤差を検出するパソコンとの通信手段を持った中央処理手段と、
調整時に前記パソコンと接続される、前記パソコンが着脱可能な出力コネクタと、
調整終了後に前記制御装置と接続される、前記制御装置が着脱可能な出力コネクタと、
を備えるエンコーダ。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件補正発明では、「パソコン」が「携帯型のパソコン」であるのに対し、引用発明1では、単に「パソコン」である点。

(相違点2)
本件補正発明では、「調整時に前記パソコンと接続される、前記パソコンが着脱可能な出力コネクタ」及び「調整終了後に前記制御装置と接続される、前記制御装置が着脱可能な出力コネクタ」が一つにまとめられて、「調整時に前記パソコンと接続され、調整終了後に前記制御装置と接続される、前記パソコン及び制御装置が着脱可能な出力コネクタ」とされているのに対し、引用発明1では、「調整時に前記パソコンと接続される、前記パソコンが着脱可能な出力コネクタ」及び「調整終了後に前記制御装置と接続される、前記制御装置が着脱可能な出力コネクタ」が個別に設けられている点。

(相違点3)
本件補正発明では、「調整時に前記出力コネクタを介して接続された前記パソコンに並べて表示される、前記アナログ信号によって生成されるリサージュ波形と判定状況を用いて調整するようにされている」のに対し、引用発明1では、調整時のパソコンの表示について何の特定もされていない点。

4.相違点についての判断
(1)相違点1について
携帯型のパソコンは、例示するまでもなく、本願の特許出願前に周知であるから、引用発明1の「パソコン」として「携帯型のパソコン」を用いることは、当業者が適宜行い得る設計事項にすぎない。

(2)相違点2について
引用発明1は、「光学式エンコーダ999」であるから、明らかにセンサの一種である。また、引用発明1は、「補正値演算モードと通常検出モードとを切り替え可能なマイクロコンピュータ100」を備えている。そして、刊行物1には、この「補正値演算モード」は、例えば工場出荷前にあらかじめ補正値の演算を行う場合のモードであると記載されている(上記2.(1)ア.(イ))。
そうすると、引用発明1は、技術事項2の前提となる「製造工程において調整を必要とし、調整モードと通常動作モードとで動作する補正機能付きセンサ」に該当するから、引用発明1に技術事項2を適用することは、当業者が容易に思い付くことである。
引用発明1に技術事項2を適用すると、引用発明1の「角度データ206を半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置に出力する」ための出力コネクタは、「補正値演算モード」においては「外部のコンピュータ209」に接続されることになり、「外部のコンピュータ209と接続される外部端子」は廃止される。その結果、引用発明1の「角度データ206を半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置に出力する」ための出力コネクタは、「通常検出モード」においては「半導体検査装置・製造装置・工作機械の制御装置」に接続され、「補正値演算モード」においては「外部のコンピュータ209」に接続されるものとなる。これは、本件補正発明の「調整時に前記パソコンと接続され、調整終了後に前記制御装置と接続される、前記パソコン及び制御装置が着脱可能な出力コネクタ」に相当する。

(3)相違点3について
上記2.(3)イ.及び(4)で述べたとおり、オシロスコープに表示したリサージュ図形を用いてエンコーダを較正することも、パソコンをオシロスコープの代わりに用いることも、本願の特許出願前に当業者に周知の技術である。
引用発明1の「光学式エンコーダ999」は、「補正値演算モード」にあるときに、それに接続された「外部のコンピュータ209」で「補正データ」が演算される。これは、引用発明1に係る「光学式エンコーダ999」の較正であると認められるから、その際に、「外部のコンピュータ209」にリサージュ図形を表示することは、周知技術の単なる適用にすぎない。さらに、判定状況を表示することは、当業者が適宜行い得る設計事項にすぎない。

5.請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「本願発明が特許されるべき理由」の(4)で、次のように主張している。

「これに対して、引用文献1(当審注:刊行物1)に記載の発明の課題は、単に、「波形歪みの影響を低減し、高精度な光学式エンコーダを提供する」(要約の課題)ことにある。
又、引用文献2(当審注:刊行物2)に記載の発明の課題は、単に、「調整専用端子を削除し、製造工程における調整専用端子の処理を不要とするセンサを提供すること」(要約の課題)にある。
構成に関しても、本願発明は、各引用文献のいずれにも記載されていない次の構成要件を含んでいる。
A.調整時に携帯型のパソコンと接続され、調整終了後に制御装置と接続される、前記パソコン及び制御装置が着脱可能な出力コネクタを備えること。
B.調整時に前記出力コネクタを介して接続された前記パソコンに並べて表示される、アナログ信号によって生成されるリサージュ波形と判定状況を用いて調整するようにされていること。
引用文献のいずれにも、携帯型のパソコンを用いる点や、前記パソコン及び制御装置が着脱可能な出力コネクタを用いる点、前記パソコンに並べて表示されるリサージュ波形と判定状況を用いて調整する点は全く記載されておらず、示唆すらされていない。」

引用発明1と技術事項2とで課題が異なるとしても、引用発明1(刊行物1に記載された発明)は、技術事項2(刊行物2に記載された技術事項)の前提となる「製造工程において調整を必要とし、調整モードと通常動作モードとで動作する補正機能付きセンサ」に該当する(上記4.(2))から、引用発明1に技術事項2を適用することは、当業者が容易に思い付くことである。
携帯型のパソコンを用いる点、パソコン及び制御装置が着脱可能な出力コネクタを用いる点、及びパソコンに並べて表示されるリサージュ波形と判定状況を用いて調整する点については、上記4.(1)ないし(3)で述べたとおりである。
請求人の主張は、採用することができない。

なお、請求人は、回答書で補正案を提示している。補正案の請求項1に係る発明は、引用発明1と対比すると、相違点1ないし3に加えて、「エンコーダ」の発明ではなく、「エンコーダの信号調整システム」の発明とされている点、及び「検出器」から出力されるアナログ信号が「4相で90°の位相差を有する正弦波電圧信号181、281、381、481」ではなく、「正弦波及び余弦波の2相アナログ信号」である点でも相違する。しかし、引用発明1も、「エンコーダの信号調整システム」の発明として把握することができるから、前者の点は、実質的な相違点ではない。後者の点は、当業者が適宜変更し得る設計事項にすぎない。したがって、請求人が提示した補正案は、上記4.における判断を左右するものではない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)、刊行物2に記載された技術事項(技術事項2)及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願に係る発明についての判断
1.本願に係る発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2のそれぞれに係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び2のそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものである。特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
検出器と、
該検出器から出力される、少なくとも2相のアナログ信号をA/D変換する手段と、
前記アナログ信号の誤差を補正する手段と、
この補正されたA/D変換結果から内挿処理を行なう内挿回路と、
該内挿回路の出力を制御装置に出力する通信手段と、
補正データを格納する格納手段と、
前記アナログ信号のA/D変換結果の所定の値からの誤差を検出する外部装置との通信手段を持った中央処理手段と、
調整時に前記外部装置と接続され、調整終了後に前記制御装置と接続される出力コネクタと、
を備えたことを特徴とするエンコーダ。」

2.原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、概略以下のとおりである。

「本願発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1及び2のそれぞれに記載された発明に基づいて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2003-35569号公報(前掲)
刊行物2:特開平11-30530号公報(前掲)」

3.刊行物に記載された事項
刊行物1及び2のそれぞれに記載された事項は、上記「第2」2.(1)及び(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、「外部装置」が「携帯型のパソコン」であることの特定と、「調整時」に「前記出力コネクタを介して接続された前記パソコンに並べて表示される、前記アナログ信号によって生成されるリサージュ波形と判定状況を用いて調整するようにされている」ことの特定を省いたものである。
このことを踏まえて本願発明と引用発明1とを対比すると、上記「第2」3.(1)ないし(3)で述べたものと実質的に同じ相当関係が成り立つ。さらに、引用発明1の「パソコン」は、本願発明の「外部装置」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、

(一致点)
「検出器と、
該検出器から出力される、少なくとも2相のアナログ信号をA/D変換する手段と、
前記アナログ信号の誤差を補正する手段と、
この補正されたA/D変換結果から内挿処理を行なう内挿回路と、
該内挿回路の出力を制御装置に出力する通信手段と、
補正データを格納する格納手段と、
前記アナログ信号のA/D変換結果の所定の値からの誤差を検出する外部装置との通信手段を持った中央処理手段と、
調整時に前記外部装置と接続される出力コネクタと、
調整終了後に前記制御装置と接続される出力コネクタと、
を備えるエンコーダ。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点4)
本願発明では、「調整時に前記外部装置と接続される出力コネクタ」及び「調整終了後に前記制御装置と接続される出力コネクタ」が一つにまとめられて、「調整時に前記外部装置と接続され、調整終了後に前記制御装置と接続される出力コネクタ」とされているのに対し、引用発明1では、「調整時に前記パソコンと接続される出力コネクタ」及び「調整終了後に前記制御装置と接続される出力コネクタ」が個別に設けられている点。

相違点4は、実質的に相違点2と同じであるから、上記「第2」4.(2)で述べたことがそのまま当てはまる。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)と刊行物2に記載された技術事項(技術事項2)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明1)と刊行物2に記載された技術事項(技術事項2)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-20 
結審通知日 2013-08-27 
審決日 2013-09-10 
出願番号 特願2004-182691(P2004-182691)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 雅人  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 飯野 茂
関根 洋之
発明の名称 エンコーダ、及び、その信号調整方法  
代理人 高矢 諭  
代理人 牧野 剛博  
代理人 松山 圭佑  

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