• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1280950
審判番号 不服2013-763  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-16 
確定日 2013-10-31 
事件の表示 特願2008- 68413「再生アスファルト用添加剤及び再生アスファルト舗装材」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月 1日出願公開、特開2009-221381〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成20年3月17日を出願日とする特許出願であって、平成24年7月12日付けで拒絶理由が通知され、同年9月18日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年10月5日付けで拒絶査定がなされ、平成25年1月16日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年2月27日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年3月26日付けで前置報告がなされ、当審で平成25年6月3日付けで審尋がなされ、同年8月1日に回答書が提出されたものである。

第2.平成25年1月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[結論]
平成25年1月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成25年1月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、平成24年9月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の内容について、
「(A)ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油であって、該減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が2質量%以下、かつ100℃の動粘度が200?400mm^(2)/sである減圧蒸留残渣油30?70質量%、及び(B)引火点が200?300℃であり、アニリン点が80?120℃であり、100℃の動粘度が5?15mm^(2)/gであり、多環芳香族含有量(PCA分)が3質量%未満の鉱油70?30質量%、を配合してなる再生アスファルト用添加剤であって、該再生アスファルト用添加剤の100℃の動粘度が15?110mm^(2)/sであるとともに、引火点が260℃以上であり、アニリン点が92?110℃である再生アスファルト用添加剤。」を、

「(A)ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油であって、該減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が1.2?1.5質量%以下、かつ100℃の動粘度が250?400mm^(2)/sである減圧蒸留残渣油40?60質量%、及び(B)引火点が200?300℃であり、アニリン点が80?120℃であり、100℃の動粘度が5?15mm^(2)/gであり、多環芳香族含有量(PCA分)が3質量%未満の鉱油60?40質量%、を配合してなる再生アスファルト用添加剤であって、該再生アスファルト用添加剤の100℃の動粘度が15?110mm^(2)/sであるとともに、引火点が270℃以上であり、アニリン点が92?110℃である再生アスファルト用添加剤。」
とする、補正事項を含むものである。

2.新規事項の有無について
本件補正は、次の補正事項Aを含むものである。

補正事項A:補正前の請求項1における、再生アスファルト用添加剤の引火点を「260℃以上」から「270℃以上」とする補正。

補正事項Aは、補正前の請求項1に、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である再生アスファルト用添加剤の引火点を「260℃以上」から「270℃以上」とするものであるが、この「270℃」なる温度は、本願明細書のいずれの箇所にも記載されているとはいえず、また、本願明細書に記載されている事項から自明な事項であるとはいえないから、当該補正は新規事項を追加するものである。
よって、この補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.独立特許要件について
仮に、請求項1に係る本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるとした場合に、本件補正後の発明が請求項1に係る、同条第6項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものか否かについて以下検討する。

(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、平成25年1月16日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「補正明細書」という。)及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「(A)ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油であって、該減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が1.2?1.5質量%以下、かつ100℃の動粘度が250?400mm^(2)/sである減圧蒸留残渣油40?60質量%、及び(B)引火点が200?300℃であり、アニリン点が80?120℃であり、100℃の動粘度が5?15mm^(2)/gであり、多環芳香族含有量(PCA分)が3質量%未満の鉱油60?40質量%、を配合してなる再生アスファルト用添加剤であって、該再生アスファルト用添加剤の100℃の動粘度が15?110mm^(2)/sであるとともに、引火点が270℃以上であり、アニリン点が92?110℃である再生アスファルト用添加剤。」

なお、補正発明における「100℃の動粘度が5?15mm^(2)/g」は「100℃の動粘度が5?15mm^(2)/s」の誤記と認められる。

(2)引用刊行物
刊行物A:特開2000-309786号公報(平成24年7月12日付け拒絶理由通知書における引用文献1)
刊行物B:特開2001-207061号公報(平成24年7月12日付け拒絶理由通知書における引用文献2)

(3)引用刊行物の記載事項
A0.本願の出願日より前に頒布された刊行物Aには以下のとおりのことが記載されている。なお、下線は当審で付した。

A1.「【請求項1】 1○(当審注:「1○」は、○の中に数字の1があることを意味する。以下同様である。)多環芳香族炭化水素含有量が3質量%未満、2○芳香族炭化水素含有量が18質量%以上、3○極性化合物含有量が11?25質量%、4○100℃における動粘度が10?70mm^(2 )/s、5○引火点が210℃以上の要件を満足するプロセスオイル。」

A2.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はゴム加工等に用いるプロセスオイルおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは人体への有害性が指摘されている多環芳香族炭化水素(PCA)含有量が3質量%未満であり、かつ従来の性能においても優れたプロセスオイルおよびその製造方法に関する。」

A3.「【0003】最近、多環芳香族炭化水素(PCA)の有害性が問題となっており、特に自動車タイヤ用に用いられるプロセスオイルはタイヤ粉塵として環境を汚染するためプロセスオイル中のPCAを低減することが求められている。しかし、上記のような方法で製造した高芳香族含量の抽出油中には多環芳香族炭化水素が多量に含まれており、PCAを低減させたプロセスオイルおよびその製造方法の開発が急がれている。」

A4.「【0012】
【発明の実施の形態】まず、本発明のプロセスオイルの主な組成、性状について説明する。
1○多環芳香族炭化水素(PCA)
本発明のプロセスオイルはPCAが3質量%未満であらねばならない。欧州では発癌性の問題からPCAが3%以上の鉱油は取扱いに制限をうけており、プロセスオイルについても同様である。なお、PCAの含有量は英国石油協会法(IP346/92)により測定するものである。」

A5.「【0018】つぎに、プロセスオイルの製造方法について説明する。 本発明のプロセスオイルの製造方法は、目的に応じて多種多様な組成や性状のものとして実現することができるが、少なくとも前記(2)の要件を満足することが有効である。本発明の製造法のプロセスオイルの原料となる残渣油は一般的な鉱油系の蒸留残渣油でよい。すなわち、各種原油の常圧残油、減圧残油さらにはこれらの残渣油をさらに低級炭化水素などで脱歴した脱歴油などである。この中でも、減圧残油および/または脱歴油が好適な原料である。残渣油の性状はアスファルテン含有量0.1?2.0質量%、PCA含有量20質量%以下、芳香族炭化水素20質量%以上、100℃における動粘度60?400mm^(2 )/s、密度0.900?1.200g/cm^(3 )、5容量%留出温度は370℃以上であることが好ましい。
【0019】第2の原料である潤滑油基油は、一般的な潤滑油精製工程で得られる鉱油系の潤滑油基油であればよい。すなわち、各種原油の常圧蒸留、減圧蒸留、脱れき工程等より得られた留分を溶剤精製、水素化精製あるいは水素化分解等の各工程、また必要に応じて脱ろう工程により精製して得ることができる。この潤滑油基油の性状はPCAが10質量%以下、芳香族炭化水素5質量%以上、100℃における動粘度5?70mm^(2 )/s、密度0.860?1.000g/cm^(3 )、5容量%留出温度は370?530℃の範囲であることが好ましい。
【0020】残渣油と潤滑油基油を混合して抽出処理の原料となる混合油とする。原料となる混合油には他の成分が混入することは好ましくないが、本発明が実施できないわけではない。混合比は混合油基準で残渣油20?90容量%、好ましくは40?80容量%、潤滑油基油10?80容量%、好ましくは20?60容量%である必要がある。上記2種の留分を混合した混合油の組成、性状はPCAが3?20質量%、芳香族炭化水素15?40質量%、極性化合物5?30質量%、100℃における動粘度10?100mm^(2 )/s、5容量%留出温度は370℃以上であることが好ましい。アスファルテン分の含有量は2.0質量%以下であることが好適である。なお、PCAの含有量は英国石油協会法(IP346/92)により、芳香族炭化水素含有量および極性化合物含有量はASTM D 2007で測定した値である。
【0021】上記混合油を極性溶剤を用いて抽出処理することによりPCAが3質量%未満である所望のプロセスオイルが得られる。この抽出処理は連続抽出塔、特に向流接触法がよい。通常は、RDC(ロータリーディスクコンタクター)タイプの向流接触法抽出塔を用いればよい。極性溶剤としては特定されるものではないがフルフラール、フェノール、Nメチルピロリドン等を好ましく用いることができる。その中でもフルフラールが特に好適である。」

A6.「【0024】 以上の条件を満足した製造方法であれば本発明のプロセスオイルの製造方法として好適に使用できる。このようにして製造されたプロセスオイルは、天然ゴム、合成ゴム等の製造用や、熱可塑性樹脂の可塑剤としてのPCAの少ないプロセスオイルとして好適に使用できる。また、印刷インキの成分や再生アスファルトの軟化剤としても使用できる。」

A7.「【0028】
【表1】



A8.「【0029】
【表2】



A9.「【0030】
【表3】

【0031】
【表4】



B0.本願の出願日より前に頒布された刊行物Bには以下のとおりのことが記載されている。なお、下線は当審で付した。

B1.「【請求項1】 多環芳香族含有量が3重量%未満であり、かつ温度40℃における動粘度が250?800mm^(2 )/secであり、かつアニリン点が70?100℃であり、かつ芳香族分(%CA)が12?22重量%であることを特徴とする再生アスファルト用添加剤。」

B2.「【0007】本発明に使用する添加剤は、PCA含有量が3重量%未満であり、かつ温度40℃における動粘度が250?800mm^(2 )/secであり、かつアニリン点が70?100℃であり、かつ芳香族分(%CA)が12?22重量%のものである。 このPCA含有量が3重量%以上であると、安全性が低下し、環境汚染を引き起こすこととなる。動粘度が250mm^(2 )/sec未満では繰り返し再生性が不充分であり、800mm^(2 )/secを超えると再生プラントにおけるハンドリングが煩雑になる。繰り返し再生性及びハンドリングなどの面から、温度40℃における好ましい動粘度は400?750mm^(2 )/secの範囲である。アニリン点が70℃未満であるとPCA含有量が3%以上となる可能性が高く安全性が問題となり、100℃を超えると繰り返し再生性が不充分となる。繰り返し再生性を良好なものにするには、好ましいアニリン点は70?90℃である。また、芳香族分(%CA)が12重量%未満であるとアニリン点が上昇し、繰り返し再生が不充分となり、22重量%を超えるとPCA含有量が3重量%以上となる。安全性及び繰り返し再生などの面からは、好ましい芳香族分(%CA)は、15?22重量%である。なお、PCA含有量、動粘度、アニリン点及び芳香族分(%CA)は、それぞれIP 346/92、JIS K-2283、JIS K-2256及びASTM D-3238に準拠して求めた値である。
【0008】添加剤は、このような性状を有する鉱油であれば、特に限定されないが、石油精製の溶剤抽出工程から得られるラフィネ-ト油が適当である。ラフィネ-ト油としては、様々なものがあるがあるが、そのうちナフテン系油の溶剤抽出精製時に得られるラフィネ-ト油が好適である。このナフテン系油の溶剤抽出精製時に得られるラフィネ-ト油は、パラフィン系油などの精製時に得られるラフィネ-ト油に比べて、同様な組成(飽和分,芳香族分,レジン分)を有していてもアニリン点が低く、化学構造がかなり異なるものと推定される。アニリン点が低いラフィネ-ト油は繰り返し再生性が良好であり、したがって、ナフテン系油の溶剤抽出精製時に得られるラフィネ-ト油が特に好適である。」

(4)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、摘示A1、A5及びA6からみて、「1○多環芳香族炭化水素含有量が3質量%未満、2○芳香族炭化水素含有量が18質量%以上、3○極性化合物含有量が11?25質量%、4○100℃における動粘度が10?70mm^(2 )/s、5○引火点が210℃以上の要件を満足する、天然ゴム、合成ゴム等の製造用、熱可塑性樹脂の可塑剤用、印刷インキ用または再生アスファルトの軟化剤用プロセスオイルにおいて、
前記プロセスオイルは、残渣油と潤滑油基油を混合した混合油を抽出処理したものであり、
前記残渣油は、各種原油の常圧残油、減圧残油さらにはこれらの残渣油をさらに低級炭化水素などで脱歴した脱歴油であり、アスファルテン含有量0.1?2.0質量%、100℃における動粘度60?400mm^(2 )/sであり、
前記潤滑油基油は、PCAが10質量%以下、100℃における動粘度5?70mm^(2 )/s、5容量%留出温度は370?530℃の範囲であり、
前記残渣油と前記潤滑油基油との混合比は混合油基準で残渣油40?80容量%、潤滑油基油20?60容量%である
天然ゴム、合成ゴム等の製造用、熱可塑性樹脂の可塑剤用、印刷インキ用または再生アスファルトの軟化剤用プロセスオイル。」
の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。

(5)対比
補正発明と刊行物発明とを対比する。

刊行物発明における「残渣油は、各種原油の常圧残油、減圧残油さらにはこれらの残渣油をさらに低級炭化水素などで脱歴した脱歴油」「潤滑油基油」「天然ゴム、合成ゴムの製造用、熱可塑性樹脂の可塑剤用、印刷インキ用または再生アスファルトの軟化剤用」「プロセスオイル」は、それぞれ補正発明における「原油から得られる減圧蒸留残渣油」「鉱油」「再生アスファルト用」「添加剤」に相当する。

刊行物発明における残渣油が「アスファルテン含有量0.1?2.0質量%」「100℃における動粘度60?400mm^(2 )/s」は、それぞれ補正発明における「減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が1.2?1.5質量%以下」「100℃の動粘度が250?400mm^(2)/g」と重複一致している。

刊行物発明における潤滑油基油が「PCAが10質量%以下」「100℃における動粘度5?70mm^(2 )/s」は、それぞれ補正発明における「多環芳香族含有量(PCA分)が3質量%未満」「100℃の動粘度が5?15mm^(2)/s」と重複一致している。
また、刊行物発明における潤滑油基油として例示されている潤滑油基油Aは、「アニリン点が118.9℃」、「引火点が270℃」であることから、刊行物発明は、補正発明における「引火点が200?300℃」、「アニリン点が80?120℃」なる態様を備えている。

刊行物発明における、前記残渣油と前記潤滑油基油との混合比は混合油基準で「残渣油40?80容量%」、「潤滑油基油20?60容量%」は、それぞれ補正発明における「減圧蒸留残渣油40?60質量%」、「鉱油60?40質量%」と重複一致している。

刊行物発明における、プロセスオイルの「4○100℃における動粘度が10?70mm^(2 )/s」は、補正発明における、再生アスファルト用添加剤の「100℃の動粘度が15?110mm^(2)/s」と重複一致している。

刊行物発明における、プロセスオイルの「5○引火点が210℃以上」に関して、具体的に引火点が268?292℃の例示(摘示A9)があることから、刊行物発明は、補正発明における、再生アスファルト用添加剤の「引火点が270℃以上」なる態様を備えている。

そうすると、補正発明と刊行物発明とは、「(A)原油から得られる減圧蒸留残渣油であって、該減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が1.2?1.5質量%以下、かつ100℃の動粘度が250?400mm^(2)/sである減圧蒸留残渣油40?60質量%、及び(B)引火点が200?300℃であり、アニリン点が80?120℃であり、100℃の動粘度が5?15mm^(2)/gであり、多環芳香族含有量(PCA分)が3質量%未満の鉱油60?40質量%、を配合してなる再生アスファルト用添加剤であって、該再生アスファルト用添加剤の100℃の動粘度が15?110mm^(2)/sであるとともに、引火点が270℃以上である再生アスファルト用添加剤。」の点で一致し、次の相違点1及び2で一応相違する。

<相違点1>
再生アスファルト用添加剤が、補正発明では、「アニリン点が92?110℃である」のに対し、刊行物発明では、その点に関し特に規定されていない点。

<相違点2>
減圧蒸留残渣油が、補正発明では、「ナフテン系」であるのに対し、刊行物発明では、その点に関し特に規定されていない点。

(6)相違点に対する判断
○相違点1について
刊行物Aには、多環芳香族炭化水素(PCA)の有害性が問題となっており、PCAの低減が求められており(摘示A3)、PCA含有量を3質量%未満とすることは必須の課題であること(摘示A2、A4)が記載されているとともに、再生アスファルト用の軟化剤として使用する(摘示A6)との記載もある。そして、刊行物Bには、アニリン点が70℃未満であるとPCA含有量が3%以上となる可能性が高く安全性が問題となり、100℃を超えると繰り返し再生性が不充分となるとの記載(摘示B2)がある。そうすると、刊行物Aと刊行物Bとは、再生アスファルト用添加剤という同じ技術分野に属しているところ、有害成分を低減しようとする技術的思想をも同じくしていることからすると、刊行物発明において、PCA成分が多くなる可能性があると刊行物Bに記載されているアニリン点の観点を採用することは、当業者において容易になし得る事項である。
また、アニリン点を規定したことによる効果も格段優れたものとは認められない。

○相違点2について
刊行物Bには、再生アスファルト用添加剤として、ナフテン系油のラフィネート油がアニリン点が低く、アニリン点が低いラフィネート油は繰り返し再生性が良好であるとの記載(摘示B3)があることからすると、再生アスファルトの軟化剤に関する発明である刊行物発明に上記技術的事項を採用することは、当業者において容易になし得る事項である。
また、残渣油をナフテン系としたことによる効果も格段優れたものとは認められない。

(7)まとめ
したがって、補正発明は刊行物Aに記載された発明及び刊行物Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.平成25年8月1日付けの回答書での請求人の主張についての検討
請求人は、
A.引用文献1には、減圧蒸留残渣油と潤滑油基油とを混合した後に、溶剤抽出することが記載されているところ、本願発明に係る再生アスファルト添加剤は、(A)成分(減圧蒸留残渣油)と、(B)成分(鉱油)とを配合しただけのものであり、配合後、溶剤抽出はしていないため、煩雑かつ収率を損なう理由から、本願発明では、再生アスファルト添加剤を得る際に、意図的に、溶剤抽出を行わないようにしている点、
B.引用文献1は2002年より以前に発行されていることから、2002年に設定された消防法の規定に基づく引火点を積極的に250℃以上とする理由がない点、
から、補正発明は進歩性を有する旨の主張をしている。
しかし、(A.について)補正発明において、(B)成分をPCA分が3質量%未満とするため、本願明細書中【0013】に、「(B)のPCA分が3質量%未満の鉱油としては、例えば、パラフィン系原油又はナフテン系原油を常圧蒸留及び減圧蒸留をして得られた減圧軽油留分をPCA分が3質量%未満になるように溶剤精製、又は水素化精製して得ることができる。また、パラフィン系原油を用いる場合は、溶剤脱ろう、又は水素化脱ろう処理を行って、流動性を改善したものを用いることが好ましい。」とあるとおり、補正発明も溶剤抽出して得られた成分を使用している。そうすると、補正発明は物に関する発明であり、最終的に得られた生産物において、どの段階で溶剤抽出するかに関わらず、補正発明と刊行物発明との間に物としての差異はないことから、この点に関する主張を採用することはできない。
(B.について)刊行物Aには、プロセスオイルの引火点は292℃のものまで記載(摘示A9)があることからすると、この点に関する主張を採用することはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反しており、あるいはそうでないとしても、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第5項の規定に違反しており、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 原査定の妥当性についての判断
1.本願発明
上記のとおり、平成25年1月16付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成24年9月18日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「(A)ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油であって、該減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が2質量%以下、かつ100℃の動粘度が200?400mm^(2)/sである減圧蒸留残渣油30?70質量%、及び(B)引火点が200?300℃であり、アニリン点が80?120℃であり、100℃の動粘度が5?15mm^(2)/gであり、多環芳香族含有量(PCA分)が3質量%未満の鉱油70?30質量%、を配合してなる再生アスファルト用添加剤であって、該再生アスファルト用添加剤の100℃の動粘度が15?110mm^(2)/sであるとともに、引火点が260℃以上であり、アニリン点が92?110℃である再生アスファルト用添加剤。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、引用文献1(特開2000-309786号公報)に記載された発明及び引用文献2(特開2001-207061号公報)の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

3.引用文献の記載事項及び引用文献1に記載された発明
引用文献1及び2は、上記第2 3.(2)の刊行物A及びBと同じであるから、引用文献1及び2の記載事項及び引用文献1に記載された発明は、上記第2 3.(3)及び(4)に記載したとおりである。
以下、引用文献1に記載された発明を「刊行物発明」ともいう。

4.対比
本願発明と刊行物発明とを対比する。
本願発明は、補正発明における、(A)減圧蒸留残渣油のアスファルテン分、100℃の動粘度、含有割合、(B)鉱油の含有割合、再生アスファルト用添加剤の引火点をそれぞれ拡張したものに相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は、上記第2 3.(5)で述べたとおりであり、本願発明と刊行物発明との相違点に対する判断は、上記第2 3.(6)で述べたとおりである。

5.まとめ
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明、すなわち、平成24年9月18日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての原査定の理由は、妥当なものである。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-02 
結審通知日 2013-09-03 
審決日 2013-09-17 
出願番号 特願2008-68413(P2008-68413)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 561- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 加賀 直人
大島 祥吾
発明の名称 再生アスファルト用添加剤及び再生アスファルト舗装材  
代理人 大谷 保  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ