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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1281020
審判番号 不服2012-15955  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-16 
確定日 2013-10-30 
事件の表示 特願2000-260819「電気デバイスおよびアセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月13日出願公開、特開2001-102039〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年8月30日(優先権主張 1999年8月31日 米国(US))の出願であって、平成23年1月28日付けで拒絶理由が通知され、平成24年4月13日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年8月16日に審判請求がされるとともに、明細書の特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。
その後、当審において、同年12月10日付けで前置報告を利用した審尋がされ、平成25年3月8日付けで回答書が提出されている。

第2 平成24年8月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成24年8月16日付けの手続補正を却下する。

【理由】
I 補正の内容
平成24年8月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下のAからBとするものである(下線は補正部分を示す。)。

A:「回路保護デバイスであって、該デバイスが、
(A)(1)(a)エチレンである第一モノマーから誘導される単位、
(b)(i)ビニルアセテートであり、(ii)エチレン/ビニルアセテートコポリマーの30重量%未満である、第二モノマーから誘導される単位、および
(c)高くとも105℃の溶融温度T_(m)、
を有するエチレン/ビニルアセテートコポリマーを含んで成るポリマー成分、および
(2)該ポリマー成分に分散されている粒状導電性充填剤、
を含んで成るPTC導電性ポリマー組成物から成る抵抗要素;および
(B)(1)抵抗要素に取り付けられ、および
(2)電源に接続することができる、
2つの電極;
を有して成るデバイスであり、該デバイスが、下記特性:
(i) 0.025?0.25mmの抵抗要素厚み;
(ii) 1?20メガラドに相当する架橋度、
(iii) 多くとも120mm^(2)の表面積、
(iv) 多くとも0.050オームの20℃における抵抗R_(20)、および
(v) 少なくとも10^(3.5)の、20℃?(T_(m)+5℃)のPTC特性、
を有する回路保護デバイス。」

B:「回路保護デバイスであって、該デバイスが、
(A)(1)(a)エチレンである第一モノマーから誘導される単位、
(b)(i)ビニルアセテートであり、(ii)エチレン/ビニルアセテートコポリマーの8重量%以上30重量%未満である、第二モノマーから誘導される単位、および
(c)70?105℃の溶融温度T_(m)、
を有するエチレン/ビニルアセテートコポリマーを含んで成るポリマー成分、および
(2)該ポリマー成分に分散されている粒状導電性充填剤、
を含んで成るPTC導電性ポリマー組成物から成る抵抗要素;および
(B)(1)抵抗要素に取り付けられ、および
(2)電源に接続することができる、
2つの電極;
を有して成るデバイスであり、該デバイスが、下記特性:
(i) 0.025?0.25mmの抵抗要素厚み;
(ii) 1?20メガラドに相当する架橋度、
(iii) 多くとも120mm^(2)の表面積、
(iv) 多くとも0.050オームの20℃における抵抗R_(20)、および
(v) 少なくとも10^(3.5)の、20℃?(T_(m)+5℃)のPTC特性、
を有する回路保護デバイス。」

II 補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1に記載の「エチレン/ビニルアセテートコポリマー」における「ビニルアセテート」モノマーの割合について、「30重量%未満」を「8重量%以上30重量%未満」として下限を加えるとともに、前記コポリマーの溶融温度T_(m)についても、「高くとも105℃」を「70?105℃」として、下限を加えるものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正により特許請求の範囲が減縮された請求項1に記載された発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

III 独立特許要件
1 本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記「I」のBに記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶理由に引用した本願の優先日前公知の刊行物である特開平5-345860号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。

[1a]「【請求項20】 バッテリーの少なくとも1つの副電池と、回路保護装置とからなり、この回路保護装置が前記バッテリーがチャージされているとき、前記バッテリーの電池もしくは前記副電池と、直列に繋がり、前記回路保護装置が、正の温度係数を有する導電性高分子エレメントと少なくとも2つの電極とからなり、これらが、前記バッテリーが再度チャージされるとき、電流が前記導電性高分子エレメントにながれるように、電気的に接触されており、前記導電性高分子エレメントが、結晶性高分子と、これに分散された、少なくとも約60ミリミクロンの平均粒子径を有し、少なくとも約80cc/100gのジブチルフタレート吸収を有するカーボンブラックとからなり、前記電極が前記導電性高分子エレメントに電流が流れるように前記回路に接続されており、前記保護装置が、-40℃と前記導電性高分子エレメントの切り替え温度との間の温度において、せいぜい約1000ミリオームである抵抗を有し、前記チャージ電流が8ボルトから60ボルトの範囲の電圧において、供されるものである、バッテリー保護回路。」

[1b]「【0003】適量の導電性充填材を分散させることにより、結晶性高分子を含有する高分子が、導電性を有するようになることは、公知のことである。ある導電性高分子は、PTC特性を示すものであり、本願で使用する、”PTC高分子”および”PTC特性を有する組成物”とは、R_(14)値が少なくとも2.5で、R_(100)値が少なくとも10であり、好ましくは、R_(30)値が少なくとも6であるものである。ここで、R_(14)とは、温度幅14℃の範囲における、最後と最初の抵抗率の比率であり、R_(100)とは、温度幅100℃の範囲における、最後と最初の抵抗率の比率であり、また、R_(30)とは、温度幅30℃の範囲における、最後と最初の抵抗率の比率を示すものである。PTCエレメントの抵抗(すなわち、PTC組成物からなるエレメント)を温度に対して、プロットすると、組成物が、少なくとも10のR_(100)を有する温度範囲のある部分においては、勾配が著しく変化するものである。この”切り替え温度”(以後、これを略してT_(s)と称する)とは、勾配が著しく変化する両サイドにおいては、実質的に直線部分が存在するものであるが、それら直線の延長上の交点をいうものである。また、”ピーク抵抗率”とは、ここでは、組成物がT_(s)以上を示す組成物の最大抵抗率を示すものであり、”ピーク温度”とは、組成物がピーク抵抗率を有するときの温度を示すものである。この関係は、第6図に示されるが、ここで、Aは25℃における抵抗率を示し、またBは曲線の平均勾配を示しており、Cは最大抵抗率を示すものである。」

[1c]「【0004】導電性高分子組成物のPTC特性が、混合もしくは分散されたカーボンブラックと、高分子の物理的および化学的特性とに依存するものであることは、良く知られているものである。近年、莫大な電力を消費する電気装置において、高破壊電圧を有する回路保護装置に対する需要が、増加してきている。多くの場合には、回路保護装置は、回路が障害状態にある場合、すなわち、回路保護装置が高抵抗状態に達して絶縁した場合、高電力供給電圧を取り消すものである。また、前記組成物は、絶縁温度において絶縁体となるべきものであり、導電性高分子組成物は、PTC特性を示すものであることがわかる。
【0005】回路保護装置は、通常の状態においては、比較的低い抵抗を有しているが、障害状態においては、それは高抵抗に変わるものであり、たとえば、PTC高分子が切り替え温度以上に達した場合には絶縁し、その装置における電流を減少させ、これにより、回路を保護するものである。…」

[1d]「【0026】B. 高分子
【0027】高分子組成物は、1以上の結晶性高分子を含有することが可能であり、…
【0029】好ましい高分子としては、ポリエチレン、好ましくは高密度ポリエチレン、およびエチレンと極性共重合体の共重合体、より好ましくは、ビニルアセテートもしくはアクリル酸が挙げられる。共重合体は、マレイン酸もしくはエポキシ基で変性されてもよいものである。これらの高分子は、単独で、もしくは組み合わせて使用することも可能である。好ましい高分子としては、高密度ポリエチレンのようなエチレンを、約80から100重量%含有するものであり、また、共重合用単体を、0から25重量%含有するものである。
【0030】以下、より詳細に例を挙げて説明するが、本発明の高分子組成物は、最低の結晶化度を満たしていればこれらに限られるものではなく、高分子は、正の温度係数を有する組成物(以下、これを、”PTC組成物”と称する)に必要な物理的もしくは電気的特性を有していれば、自由に広範囲のなかから選択されることが可能である。
【0031】たとえば、好ましいエチレンポリマは、高密度ポリエチレン(MFR(メルトフローレシオ) 0.3?50);低密度ポリエチレン(MFR 0.3?50);エチレンと、ビニルアセテートを含有する極性共重合体(ビニルアセテート含有量 2?46%、融点 108?67℃)、アクリル酸(アクリル酸含有量7?20%)、エチルアセテート(エチルアセテート含有量 9?35%、融点91?65℃)、メタクリル酸(結晶化度 25%、メタクリル酸含有量 9?12%、融点 80?100℃)およびメチルメタクリレート(メチルメタクリレート含有量 10?40%)を含有する極性重合体;および、エチレン、ビニルアセテートと少量のグリシジルメタクリレートのターポリマ(結晶化度 40?50%、ビニルアセテート含有量 8?10%、グリシジルメタクリレート含有量 1?5%、融点 90?100℃)を含有するものである。変性共重合体も、使用することが可能であり、たとえば、少量のマレイン酸で変性したビニルアセテートとエチレンとの共重合体(融点 80?90℃)を使用することが可能である。」

[1e]「【0033】高分子は、PTC組成物の所望の特性に依存して選択されるものである。重要な特性のひとつとしては、導電性高分子組成物からなる絶縁された保護回路装置の、最高温度である。たとえば、その温度が高い場合には、フルオロポリマが適当であるが、その温度が100℃以下の場合には、ポリオレフィンの共重合体が適当である。もうひとつの重要な必要条件は、電気抵抗である。一般に、回路保護装置においては、低抵抗であることが望ましく、これは、定常状態において、好ましくは電力損失を可能な限り少なくするためである。この装置の抵抗は、導電性高分子組成物の電気抵抗率、および、電極および組成物間の接触抵抗により決定されるものである。また、電気抵抗率は、組成物、たとえば高分子、カーボンブラックおよびその含有物により、定まるものである。…」

[1f]「【0039】典型的には、この組成物は、棒状に、押し出し形成され、水中で冷却されて、造粒されるものである。このペレットは、組成物の融点以上の温度において押し出され、フィルムを形成するものである。このフィルムは、2枚の薄い金属ホイルに挾まれ、組成物の融点以上の温度において圧縮されて、ラミネートシートが形成されるものである。…
【0040】ラミネートシートは、好ましくは架橋され、例えば加速電子線による照射…により架橋され、架橋PTC高分子シートが形成されるものである。…」

[1g]「【0044】本発明によれば、0℃以上のT_(s)温度においてPTC特性を示す、すなわち、-40℃およびT_(s)間の少なくともある温度において、7Ω-cmより小さい抵抗率を有する、および、1000Ω-cmより大きいピーク抵抗率を有する、及び/もしくは、高温での時間経過において十分な電気安定性を示す、導電性高分子組成物を形成することが可能である。
【0045】本発明の組成物のピーク抵抗率は、好ましくは、少なくとも1000Ω-cm、より好ましくは少なくとも5000Ω-cm、特に好ましくは少なくとも10000Ω-cmである。本発明による典型的な組成物は、20℃で5Ω-cmの抵抗率を有し、1×10^(5)Ω-cmのピーク抵抗率を有するものである。」

[1h]「【0050】組成物が、架橋されるものである場合には、…従来の架橋方法は、いずれも使用することが可能である。電子線照射は、少なくとも約3Mrad、好ましくは、少なくとも約5Mrad、より好ましくは、少なくとも約10Mradの放射線量でおこなわれるものであり、…」

[1i]「【0059】回路の通常の操作条件における、装置の抵抗(ここでは、Rdnとする)は、典型的には、1.0から5000mΩの範囲、好ましくは約5.0から1000mΩの範囲、最も好ましくは約10から500mΩの範囲のものである。…
【0060】このような低い抵抗を有する装置を得るためには、PTC層が出来るかぎり薄層であるべきであり、たとえば、約100μから1mm、好ましくは100μから500μの薄層のものである。また、実質的に、より大きな厚み及び/もしくは相当径を使用することは可能であるが、この装置の相当径は、3から80mmの範囲、好ましくは5から50mmの範囲である。」

[1j]「【0099】本発明のいくつかの典型的な適用を以下に述べる。
【0100】携帯用パーソナルコンピュータは、近年、進化してきており、印刷機能を有したり、一度のバッテリーチャージで長期間操作できるものである。このため、このようなコンピュータには、大きな電力容量のバッテリーが装備されていなければならず、たとえば、大量の電流を供給すべく、38Vの全電圧、および750ミリオーム程の非常に小さな内部抵抗を有する、15Ni-Cd単電池のようなものである。このようなコンピュータのディスクドライブもしくはプリンタモータは、通常、約10オームの抵抗を有し、短絡障害にあるならば、約50アンペアの電流がこの障害回路を流れたとき、オーバーヒートするなどして、このコンピュータが破壊されてしまう恐れがあるものである。しかしながら、このような危険は、本発明による回路保護装置を、バッテリーに直列につないで使用することにより、防ぐことができるものである。好ましくは、この回路保護装置は、400ミクロンの厚さで、各側は10mmの大きさで、50ミリオームの正規抵抗を有すると良いものである。このような装置は、コンピュータに重大な障害が起こることを防止するため、約0.1アンペアに、電流を制限できるものである。通常の回路保護装置は、低い破壊電圧しか有さないため、このように高電流/高い電圧は、適用できないものである。」

3 引用刊行物に記載された発明
ア 引用刊行物の[1a]には、バッテリー保護回路を構成する回路保護装置について、「正の温度係数を有する導電性高分子エレメント」と「少なくとも2つの電極」とからなること、前記導電性高分子エレメントが、「結晶性高分子」と、これに分散された「カーボンブラック」との組成物からなること、前記2つの電極は、「前記導電性高分子エレメントに電流が流れるように前記回路に接続されて」いることが記載されている。

イ [1d]には、前記結晶性高分子について、「エチレンと、ビニルアセテートを含有する極性共重合体(ビニルアセテート含有量 2?46%、融点 108?67℃)」が例示されている。

ウ [1e]、[1f]には、前記導電性高分子エレメントを成すPTC組成物が、2枚の薄い金属ホイルに挟まれたラミネートシートに形成されること、すなわち、前記導電性高分子エレメントには、2つの電極が取り付けられていることが記載されている。

エ 以上によると、引用刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。

「回路保護装置であって、該装置が、
エチレン、
2?46%の含有量であるビニルアセテート、及び
108?67℃の溶融温度
を有するエチレン/ビニルアセテート極性共重合体を含んでなる結晶性高分子、及び
該結晶性高分子に分散されているカーボンブラック
を含んで成るPTC組成物から成る導電性高分子エレメント;及び
前記導電性高分子エレメントに取り付けられ、及び
バッテリーに接続される
2つの電極
を有して成る回路保護装置」
(以下、これを「引用発明」という。)

4 本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明(前者)と、引用発明(後者)とを対比すると、後者の「回路保護装置」、「エチレン」、「ビニルアセテート」、「エチレン/ビニルアセテート極性共重合体」、「結晶性高分子」、「カーボンブラック」、「PTC組成物」、「導電性高分子エレメント」、及び「バッテリー」は、それぞれ、前者の「回路保護デバイス」、「エチレンである第一モノマーから誘導される単位」、「ビニルアセテート…である、第二モノマーから誘導される単位」、「エチレン/ビニルアセテートコポリマー」、「ポリマー成分」、「粒状導電性充填剤」、「PTC導電性ポリマー組成物」、「抵抗要素」、及び「電源」に相当するから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
回路保護デバイスであって、該デバイスが、
(A)(1)(a)エチレンである第一モノマーから誘導される単位、
(b)(i)ビニルアセテートである、第二モノマーから誘導される単位
を有するコポリマーを含んで成るポリマー成分、および
(2)該ポリマー成分に分散されている粒状導電性充填剤、
を含んで成るPTC導電性ポリマー組成物から成る抵抗要素;および
(B)(1)前記抵抗要素に取り付けられ、および
(2)電源に接続することができる、
2つの電極;
を有して成るデバイス

<相違点>
相違点1
本件補正発明は、ポリマー成分に含まれるエチレン/ビニルアセテートコポリマーの8重量%以上30重量%未満がビニルアセテートモノマーから誘導される単位であり、ポリマー成分の溶融温度T_(m)が70?105℃であるのに対して、引用発明は、ビニルアセテートモノマーの含有量が2?46%であり、溶融温度が108?67℃である点

相違点2
本件補正発明は、回路保護デバイスが下記特性:
(i) 0.025?0.25mmの抵抗要素厚み;
(ii) 1?20メガラドに相当する架橋度、
(iii) 多くとも120mm^(2)の表面積、
(iv) 多くとも0.050オームの20℃における抵抗R_(20)、および
(v) 少なくとも10^(3.5)の、20℃?(T_(m)+5℃)のPTC特性、
を有するのに対して、引用発明は、回路保護装置の上記特性について、不明である点

5 相違点についての判断
(1)相違点1について
引用刊行物の[1e]には、PTC組成物における高分子(ポリマー成分)は、所望の特性に依存して選択されるものであり、重要な特性とは、絶縁された保護回路装置の最高温度であり、ポリオレフィンの共重合体は、最高温度が100℃以下の場合に適当である旨が記載されているところ、この最高温度とは、[1c]の記載によると、PTC組成物が切り替え温度以上で絶縁体となる温度のことである。
ここで、結晶性のポリマー成分を含むPTC組成物において、絶縁体(最大高抵抗率)となる温度とは、結晶層が融解して非晶質化する温度、すなわち融点によって決定されることが周知の事項であるから(要すれば、特開平11-26206号公報【0007】参照)、最高温度が100℃以下の場合は、ポリマー成分の融点も100℃以下であることを要するところ、結晶性高分子の融点は、結晶化度が低いほど低くなることは、当業者の熟知する技術常識である。
そうすると、引用発明におけるPTC組成物のポリマー成分は、ポリオレフィンの共重合体であるエチレン/ビニルアセテート極性共重合体を含んでなる結晶性高分子であって、エチレンが結晶性に寄与し、ビニルアセテートが結晶性に寄与しないことも技術常識であるから、このポリマー成分において、融点が100℃未満となるように、結晶性に寄与しないビニルアセテートモノマーの含有量を調整することにより、相違点1における本件補正発明の特定事項を導出することは、引用刊行物の記載及び周知の事項に基いて、当業者が容易になし得る設計的事項である。

(2)相違点2について
(i)抵抗要素の厚みについて
引用刊行物の[1i]には、回路保護装置がより低い抵抗となるように、抵抗要素であるPTC組成物の層の厚みは薄い方が良く、最も好ましくは10?500μm(0.01?0.5mm)の範囲であることが記載されているから、引用発明における抵抗要素の厚みを、上記の範囲と重複する範囲の0.025?0.25mmに設定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

(ii)回路保護デバイスの架橋度について
引用刊行物の[1f]、[1h]には、導電性高分子エレメントであるPTC組成物と電極である金属箔のラミネートシート回路保護装置に3?10Mrad以上の加速電子線を照射することにより、PTC組成物を架橋することが好ましいことが記載されているから、引用発明における回路保護装置を、上記の範囲を含む1?20メガラドの電子線照射による架橋度とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

(iii)回路保護デバイスの表面積について
本願明細書の【0021】の記載によると、デバイスの表面積とは、付加的金属リードを含まない抵抗要素の足跡(Foot print)のことである。
これに対して、引用刊行物の[1i]には、回路保護装置の相当径は5?50mmが好ましいと記載され、[1j]には、典型例として、各側が10mmの回路保護装置が記載されているから、引用刊行物には、本願の定義に従う保護回路装置の表面積について、25mm^(2)?2500mm^(2)や100mm^(2)のものが記載されている。
そして、回路装置のコンパクト化は周知の課題であるから、引用発明の回路保護装置においても、上記周知の課題に鑑みて、引用刊行物に記載された範囲内で小さな値を選択し、120mm^(2)以下の表面積とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

(iv)抵抗R_(20)に付いて
引用刊行物の[1i]には、通常の操作条件における回路保護装置の抵抗は、低い方が良く、最も好ましくは10?500mΩ(0.01?0.5オーム)の範囲であることが記載されており、[1j]には、通常は50ミリオーム(0.05オーム)の抵抗を有する回路保護装置が例示されている。
したがって、引用発明における回路保護装置について、通常の操作条件といえる20℃における抵抗R_(20)を、上記の範囲と重複する範囲の低い方を選択し、0.05オーム以下とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

(v)PTC特性について
[1g]には、保護回路装置のPTC組成物が、典型的には、20℃で5Ω-cmの抵抗率を有し、1×10^(5)Ω-cmのピーク抵抗率を有する、すなわち、20℃とピーク抵抗率を示す温度との間で10^(4.3)のPTC特性を有することが記載されている。
ここで、ピーク抵抗率とは、[1b]の記載によると、切り替え温度T_(s)以上における最大抵抗率であるところ、上記の「(1)相違点1について」に示す周知の事項によると、この最大抵抗率を示す温度とは、PTC組成物のポリマー成分が非晶質化する温度、すなわち融点によって決定されるものであり、融点T_(m)を若干超えても、ポリマー成分がすでに非晶質化されたPTC組成物の抵抗率に急激な変化はないものと認められるから、[1g]に記載のPTC特性は、20℃?(融点T_(m)+5℃)のPTC特性とほぼ同様であり、少なくとも10^(3.5)は優に超えるものと認められる。
また、引用刊行物の[1e]には、回路保護装置の定常状態における抵抗率は、低い方が好ましく、その抵抗率はPTC組成物の高分子やカーボンブラックの含有物により定まる旨が記載されており、回路保護装置において、定常時と異常時との抵抗率の差が大きいほど、すなわちPTC特性が大きいほど好ましいことは明らかである。
そうすると、引用発明における回路保護装置について、PTC組成物におけるカーボンブラックの含有量を調整する等の手段により、定常時における抵抗率を低め、20℃(?(T_(m)+5℃)のPTC特性を[1g]に記載される範囲を含む10^(3.5)以上とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

6 小括
以上のとおり、本件補正発明は引用発明、及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

IV まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
I 本願発明
本件補正は、上記「第2」に示すとおり却下されたので、本願発明は、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は、上記「第2 I」に「A」として示すとおりのものであり、以下、この発明を「本願発明」という。

II 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の1つの概要は、本願発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された刊行物(上記「第2 III 2」における引用刊行物と同じ)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

III 判断
ア 本願発明は、上記「第2 I」に示すとおり、本件補正発明の上位概念に当たる発明である。
そして、上記「第2 III」において検討したとおり、本件補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その上位概念に当たる本願発明も、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ なお、請求人は、前置審尋に対する回答書において、本願発明はポリマー成分が「2元コポリマー」を含む点で引用発明と相違する旨主張し、補正案を提示している。
しかしながら、前置審尋は拒絶理由通知ではないので、審判請求人は、審尋に対する意見を回答書により述べることはできるが、補正の機会が与えられるものではない。また、引用刊行物の[1b]には、「少量のマレイン酸で変性したビニルアセテートとエチレンとの共重合体(融点 80?90℃)」、すなわち、2元コポリマーであるポリマー成分についても記載されているから、上記の補正案による補正により、本願発明が一見して特許可能であることが明白である場合にも該当しない。
したがって、補正の機会を与えない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-28 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-18 
出願番号 特願2000-260819(P2000-260819)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 裕久  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 大橋 賢一
小柳 健悟
発明の名称 電気デバイスおよびアセンブリ  
代理人 言上 惠一  
代理人 吉田 環  
代理人 田村 恭生  
代理人 新免 勝利  
代理人 鮫島 睦  

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