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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01S |
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管理番号 | 1281134 |
審判番号 | 不服2012-4310 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-03-06 |
確定日 | 2013-11-07 |
事件の表示 | 特願2006- 31077「電波発射源可視化装置及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月23日出願公開、特開2007-212228〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年2月8日の出願であって、平成23年11月30日付け(送達:同年12月6日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年3月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 その後、当審より平成25年5月23日付け(発送:同年同月28日)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、同年7月29日付けで特許請求の範囲についての補正(以下、本件補正という。)がなされるとともに、同日付けで意見書の提出があった。 第2 当審拒絶理由 当審拒絶理由は、本願の請求項1?3に係る発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-134113号公報(発明の名称:波源像可視化方法及び装置、出願人:株式会社アドバンテスト、公開日:平成9年5月20日、以下、「引用例」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 第3 本願発明 本願の請求項1?3に係る発明は、本件補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりである。 「互いに同一周波数帯の到来電波を受信するリファレンスアンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレーアンテナを備えるアンテナ装置と、 前記アンテナ装置から前記アレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて導出するアンテナ切替手段と、 前記アレーアンテナの個々の素子出力と前記リファレンスアンテナの出力から電波の到来方向を電波ホログラフィ法で推定し、二次元画像化した到来方向推定結果を出力する到来方向推定処理手段と、 前記到来方向推定結果を表示するための表示手段と を具備し、 前記到来方向推定処理手段は、 到来方向推定の開始指示により、前記アレーアンテナの各アンテナ素子の受信データをそれぞれ規定サンプルずつ、リファレンスアンテナの受信データと共に取得し、 前記アレーアンテナの各アンテナ素子の受信データそれぞれと前記リファレンスアンテナの受信データとの位相差データを検出し、検出された位相差データから前記電波の到来方向を推定する周波数範囲の複素相関値を算出し、 前記取得された複素相関値を前記アレーアンテナの物理的な配置と同じように配列して数学上の行列に対応する相関マトリクスを作成し、 前記相関マトリクスの周囲をゼロ埋めして拡張相関マトリクスを作成し、 前記拡張相関マトリクスについて二次元FFTを行って到来方向別の推定電波強度を前記到来方向推定結果として取得し、 前記到来方向推定結果を、方位角、仰角別に推定電波強度に色付けして二次元画像化することを特徴とする電波発射源可視化装置。」(以下、「本願発明」という。) 第4 引用例に記載の事項・引用発明 1 記載事項 引用例には、特に波源像可視化方法及び装置(発明の名称)に関し、次の事項(a)?(f)が図面とともに記載されている。 (a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ホログラフィの原理に基づいて波源像を可視化する方法及び装置に関する。」 (b)「【0017】 【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の一形態の波源像可視化装置の構成を示すブロック図であり、この波源像可視化装置は、本発明の方法に基づいて可視化波源像を表示するものである。 【0018】複数の波源集合を有する観測対象11に対して、距離zだけ離れた位置に走査観測面12を設け、走査観測面12内を移動する走査センサ13を配置する。また、走査センサ13とは別に、移動しない固定センサ14を配置する。走査センサ13は第2のセンサに対応し、固定センサ14は第1のセンサに対応する。走査センサ13と固定センサ14は、観測波動が音波であるときには例えばマイクロホンであり、電波であるときにはアンテナである。以下の説明では、走査観測面12での2次元座標をx,yで表わし、観測対象11での2次元座標をx',y'で表わす。また本発明では、観測対象11と走査センサ13や固定センサ14との距離rが、可視化スペクトルの帯域幅Δω(観測周波数帯域の角周波数表示による帯域幅)に比べて十分小さい、すなわち、r≪v/Δω(vは波動の速度)であって、観測波動を平均波長λ0で扱えることを前提とする。 【0019】走査センサ13及び固定センサ14の出力側には、それぞれ、走査センサ13及び固定センサ14からの観測信号b(t),a(t)のうちの所定の周波数帯域の成分のみを帯域通過させて中間周波数IFの信号に変換する前変換部15,16が設けられている。各前変換部15,16には、基準周波数frefが供給されている。前変換部15,16は、例えばRFスペクトラムアナライザをゼロスパンモードで基準周波数frefに位相ロックさせることで実現できる。音波や比較的低い周波数の電波を観測波動とするような場合には、デジタル信号処理によって帯域制限や周波数変換処理を行う前変換部を使用してもよい。前変換部15,16の出力側には、前変換部15,16の出力をサンプリングして記憶するデータメモリ18,19が配置している。外部同期入力あるいは前変換部15の出力に応じてトリガ信号を発生するトリガ回路17が設けられており、各データメモリ18,19はトリガ信号に応じてデータのサンプリングを開始するように構成されている。また、各データメモリ18,19にはサンプリング周波数fSが供給されている。 【0020】フーリエ変換部20は、サンプリングされてデータメモリ18,19に格納されたデータをそれぞれフーリエ変換してスペクトルSa(ω),Sb(ω)を算出するためのものであり、フーリエ変換部20の出力側には、スペクトルSa(ω),Sb(ω)それぞれのパワースペクトルの平均値とこれらスペクトルSa(ω),Sb(ω)のクロススペクトルの平均値を算出する平均値計算部21が設けられている。ωは角周波数である。さらに、平均値計算部21での算出結果に基づいてコヒーレンス関数γ2(ω)を算出する第1の演算部22と、コヒーレンス関数γ2(ω)から定まる積分操作関数f(ω)と平均値計算部21での算出結果に基づいて相関値Cab(x,y)を算出する第2の演算部23と、相関値Cabに基づいて波形像を再生する波形像再生処理部24と、再生された波形像を表示する表示部25とが設けられている。第1の演算部22及び第2の演算部23は、それぞれ、コヒーレンス関数計算手段、相関値算出手段に対応する。後述するように、距離zと観測波動の波長λ0との関係によって波形像の再生方法が異なるため、波形像再生処理部24には距離zも入力している。上述のトリガ回路17、各データメモリ18,19及びフーリエ変換部20は、例えば、FFTスペクトラムアナライザ(デジタルスペクトラムアナライザ)を用いて実現できる。」 (c)「【0021】次に、この装置を用いた波源像の可視化について説明する。 【0022】走査センサ13を移動させることにより、走査観測面12内の任意の点(x,y)において観測対象11からの波動を受信して信号b(t)を取得し、同時に、固定センサ14によっても波動を受信して信号a(t)を取得する。そして、前変換部15,16により、所定の周波数帯域に帯域制限してから、信号b(t),a(t)を中間周波数IFの信号に周波数変換し、データメモリ18,19により、観測周波数帯域幅より十分に高いサンプリングレートによって、T秒間にわたり、これらの信号をサンプリングする。そして、サンプリングされたデータをフーリエ変換部20によってフーリエ変換することにより、信号a(t)に対するスペクトルSa(ω)と信号b(t)に対するスペクトルSb(ω)とを得る。スペクトルSa(ω),Sb(ω)は平均値計算部21に入力し、各スペクトルSa(ω),Sb(ω)のパワースペクトルの平方根の平均値〈|Sa(ω)|〉,〈|Sb(ω)|〉や、スペクトルSa(ω),Sb(ω)間のクロススペクトルのパワースペクトル〈Sa*(ω)Sb(ω)〉が算出される。ここで、〈・〉はアンサンブル平均を示し、*は複素共役を示している。 【0023】第1の演算部22では、平均値計算部21での計算結果を利用して、下記式に基づき、所定の観測周波数帯域におけるコヒーレンス関数γ2(ω)が計算される。 【0024】 【数2】(略) そして、このコヒーレンス関数関数γ2(ω)に対してしきい値αを設定することにより、積分操作関数f(ω)が得られる。 【0025】 【数3】(略) 第2の演算部23では、下記式に基づき、走査観測面12上での走査センサ13の位置(x,y)ごとに、|Sa(ω)|で規格化された複素相関値Cab(x,y)が計算される。ω0は観測周波数帯域の中心角周波数である。 【0026】 【数4】 (6) この相関値Cab(x,y)は、遅延時間τが0であるときの信号Sa(t)と信号Sb(t)との相互相関に相当する値となる。このとき、積分操作関数f(ω)を得るために使用するコヒーレンス関数γ2(ω)は、走査センサ13を移動する度に新しい値に更新してもよいし、走査観測面12上の代表する点(x0,y0)で得た値を共通値として他の点で使用してもよい。また、相関値Cab(x,y)を得るために使用されるクロススペクトルと固定センサ14の受信信号a(t)のパワースペクトルの平方根とは、平均値操作を行わずに用いてもよい。これに対し、コヒーレンス関数γ2(ω)の演算には、必ず、平均化されたクロススペクトルと平均化されたパワースペクトル平方根を使用しなければならない。」 (d)「【0027】走査観測面12上の各点について相関値Cab(x,y)を求めたら、波形像再生処理部24において、求めた相関値に基づき波形像を再生し、例えば鳥瞰図表示によって表示部25に表示する。波形像の再生は、観測対象11と走査観測面12との距離zに応じて、近傍界領域での観測、フレネル(Fresnel)領域での観測、フラウンホーファー(Fraunhofer)領域での観測の3通りの方法で実行される。 【0028】観測波動の平均波長λ0に対してzが著しく小さい場合(z≪λ0)に代表される近傍界領域の観測では、相関値Cab(x,y)をそのままで表示するようにする。 【0029】近傍界領域とフラウンホーファー領域の中間の領域であるフレネル領域の観測では、 F-1[F[Cab(x,y)]・F[P(x,y;z)] を表示するようにする。ここでF[・]はフーリエ変換、F-1[・]はフーリエ逆変換を示し、P(x,y;z)は下記式で表わされる。 【0030】 【数5】 一方、z≫λ0に代表されるフラウンホーファー領域の観測では、 【0031】 【外2】 で表わされる値に応じて表示が行われるようにする。ここでk0=2π/λ0であり、ξとηはそれぞれ走査観測面12から見た方位角と仰角であって、ξ=x'/z、η=y'/zである。 【0032】このように再生される振幅値は、波源の空間コヒーレンシに関わりなく、ω0±(Δω/2)の範囲での絶対平均振幅値を与える。実際には、観測対象11の大きさと観測波動の平均波長λ0との関係に応じて、距離zを定めるようにすることが望ましい。すなわち、平均波長λ0が観測面積に対して大きい場合には、z<λ0として近傍界領域で観測が行われるようにする。一方、観測対象11の面積が走査観測面12の面積よりも大きい場合には、z≫λ0としてフラウンホーファー領域で観測が行われるようにし、これらの中間である場合にはフレネル領域での観測が行われるようにする。」 (e)「【0033】表示部25において各再生位置での振幅と位相を同時に示すことで、空間・時間的な波源のコヒーレンスを知ることができる。観測データを得るためのトリガ条件を変えながら観測を行った場合、トリガ条件ごとの振幅の変化の様子は時間コヒーレンシを示し、位相の変化の様子は空間コヒーレンシを示す。振幅と位相の同時表示は、例えば鳥瞰図表示を行う場合には、山の高さで振幅を表わし、色や明るさで位相を示すことによって行える。あるいは、振幅を明るさ、位相を色として2次元的に表現してもよいし、等高線図により振幅を等高線で表わし位相を色または明るさで表現してもよい。」 (f)「【0036】以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は走査観測面内を1個の走査センサを移動させて測定を行うことに限定されるものではない。例えば、走査観測面内に2次元的に複数の固定したセンサを配列し、これらセンサによって観測波動を同時に受信するようにしてもよい。この場合には、これら2次元的に配列したセンサの1つを上述の固定センサとしてもよいし、いくつかのセンサからの受信信号を加算して上述の信号a(t)(固定センサからの信号に相当)を得るようにしてもよい。」 なお、下線は強調のため当審が引いた。 ・前記記載(b)、(f)及び【図1】より、 ア 「互いに同一周波数帯の到来電波を受信する固定アンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレー状のアンテナを備えるアンテナ装置」との技術的事項が読み取れる。 ・前記記載(a)、(b)、(d)、(e)【図1】より、 イ 「アレー状のアンテナの個々の素子出力と固定アンテナの出力から方位角ξ、仰角η別の電波の振幅を電波ホログラフィ法で求め、二次元画像化した電波源像を出力する処理手段」(以下、「処理手段」)との技術的事項が読み取れる。 ・前記記載(e)、【図1】より、 ウ 「電波源像を表示するための表示部25」との技術的事項が読み取れる。 ・前記記載(b)、【図1】より、 エ 「処理手段は、トリガ回路17からの開始指示であるトリガ信号により、アレイ状のアンテナの各アンテナ素子の受信データをサンプリングし、固定アンテナの受信データと共に取得する」との技術的事項が読み取れる。 ・前記記載(c)、【図1】より、 オ 「処理手段は、アレー状のアンテナの各アンテナ素子の受信データと固定アンテナの受信データから、方位角ξ、仰角η別の振幅を求める電波の周波数範囲の複素相関値Cab(x,y)を算出する」との技術的事項が読み取れる。 ・二次元フーリエ変換を計算する場合、二次元FFTで行うという技術常識を踏まえると、前記記載(d)?(f)、【図1】より、 カ 「処理手段は、算出された複素相関値Cab(x,y)について二次元FFTを行って、方位角ξ、仰角η別の電波の振幅を求め、電波源像を振幅を明るさ、位相を色として二次元画像化する」との技術的事項が読み取れる。 ・前記記載(a)、(b)及び【図1】より、 キ 「電波源可視化装置」との技術的事項が読み取れる。 2 引用発明 以上の技術的事項アないしキを総合勘案すると、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。 「互いに同一周波数帯の到来電波を受信する固定アンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレー状のアンテナを備えるアンテナ装置と、 アレー状のアンテナの個々の素子出力と固定アンテナの出力から方位角ξ、仰角η別の電波の振幅を電波ホログラフィ法で求め、二次元画像化した電波源像を出力する処理手段と、 電波源像を表示するための表示部25とを具備し、 前記処理手段は、 トリガ回路17からの開始指示であるトリガ信号により、アレイ状のアンテナの各アンテナ素子の受信データをサンプリングし、固定アンテナの受信データと共に取得し、 アレー状のアンテナの各アンテナ素子の受信データと固定アンテナの受信データから、方位角ξ、仰角η別の振幅を求める電波の周波数範囲の複素相関値Cab(x,y)を算出し、 算出された複素相関値Cab(x,y)について二次元FFTを行って、方位角ξ、仰角η別の電波の振幅を求め、電波源像を振幅を明るさ、位相を色として二次元画像化する 電波源可視化装置。」(以下、「引用発明」という。) 第5 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 1 引用発明における「固定アンテナ」、「アレー状のアンテナ」、「表示部」、「電波の振幅」、「トリガ信号」、「電波源可視化装置」は、本願発明における「リファレンスアンテナ」、「アレーアンテナ」、「表示装置」、「電波強度」、「到来方向推定の開始指示」、「電波発射源可視化装置」に、それぞれ相当する。 2 引用発明において「方位角ξ、仰角η別の電波の振幅を電波ホログラフィ法で求め」ることは、どの方向からどの程度の強度の電波が到来しているかを推測して決定していることに外ならないから、本願発明における「電波の到来方向を電波ホログラフィ法で推定」することに相当し、また、引用発明において「二次元画像化した電波源像を出力する」ことは、電波源像は電波の到来方向を推定した結果であるから、本願発明において「二次元画像化した到来方向推定結果を出力する」ことに相当する。 そうすると、引用発明における「処理手段」は、本願発明における「到来方向推定処理手段」に相当するといえる。 3 引用発明における「電波源像を表示するための表示部」は、電波源像は電波の到来方向を推定した結果であるから、本願発明における「到来方向推定結果を表示するための表示手段」に相当する。 4 引用発明において「トリガ回路17からの開始指示であるトリガ信号により、アレイ状のアンテナの各アンテナ素子の受信データをサンプリングし、固定アンテナの受信データと共に取得」することは、本願発明において「到来方向推定の開始指示により、前記アレーアンテナの各アンテナ素子の受信データをそれぞれ規定サンプルずつ、リファレンスアンテナの受信データと共に取得」することに相当する。 5 引用発明において「方位角ξ、仰角η別の振幅を求める電波の周波数範囲の複素相関値Cab(x,y)を算出」することは、方位角ξ、仰角η別の振幅を求める電波が、到来方向を推定する電波のことであるから、本願発明において「電波の到来方向を推定する周波数範囲の複素相関値を算出」することに相当する。 6 引用発明において「算出された複素相関値Cab(x,y)について二次元FFTを行って、方位角ξ、仰角η別の電波の振幅を求める」ことも、本願発明において「拡張相関マトリクスについて二次元FFTを行って到来方向別の推定電波強度を到来方向推定結果として取得」することも、共に、複素相関値に関する値について二次元FFTを行って到来方向別の推定電波強度を到来方向推定結果として取得する点で共通する。 7 引用発明において「方位角ξ、仰角η別の電波の振幅を求め、電波源像を振幅を明るさ、位相を色として二次元画像化する」ことも、本願発明において「到来方向推定結果を、方位角、仰角別に推定電波強度に色付けして二次元画像化する」ことも、共に、到来方向推定結果を、方位角、仰角別に二次元画像化する点で共通する。 8 以上の関係を整理すると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 「互いに同一周波数帯の到来電波を受信するリファレンスアンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレーアンテナを備えるアンテナ装置と、 前記アレーアンテナの個々の素子出力と前記リファレンスアンテナの出力から電波の到来方向を電波ホログラフィ法で推定し、二次元画像化した到来方向推定結果を出力する到来方向推定処理手段と、 前記到来方向推定結果を表示するための表示手段と を具備し、 前記到来方向推定処理手段は、 到来方向推定の開始指示により、前記アレーアンテナの各アンテナ素子の受信データをそれぞれ規定サンプルずつ、リファレンスアンテナの受信データと共に取得し、 前記アレーアンテナの各アンテナ素子の受信データそれぞれと前記リファレンスアンテナの受信データから、前記電波の到来方向を推定する周波数範囲の複素相関値を算出し、 複素相関値に関する値について二次元FFTを行って到来方向別の推定電波強度を到来方向推定結果として取得し、 前記到来方向推定結果を、方位角、仰角別に二次元画像化する 電波発射源可視化装置。」 (相違点) ・相違点1:アンテナ切替手段について 本願発明では、アンテナ装置からアレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて導出するアンテナ切替手段が備えられているのに対し、引用発明では、アンテナ切替手段が備えられているのかが明らかでない点。 ・相違点2:複素相関値の算出について 本願発明では、アレーアンテナの各アンテナ素子の受信データそれぞれとリファレンスアンテナの受信データとの位相差データを検出し、検出された位相差データから、複素相関値を算出するのに対し、引用発明では、アレー状のアンテナの各アンテナ素子の受信データと固定アンテナの受信データから、複素相関値を算出する点。 ・相違点3:相関マトリクス、拡張相関マトリクスについて 本願発明では、相関マトリクス、拡張相関マトリクスを作成し、拡張相関マトリクスについて二次元FFTを行うのに対し、引用発明では、相関マトリクス、拡張相関マトリクスを作成せず、複素相関値について二次元FFTを行う点。 ・相違点4:二次元画像化について 本願発明では、到来方向推定結果を、方位角、仰角別に推定電波強度に色付けして二次元画像化するのに対し、引用発明では、振幅を明るさ、位相を色として二次元画像化するものの、電波強度である振幅に色付けしていない点。 第6 当審の判断 上記相違点について、検討する。 1 相違点1について アレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて導出することは、この出願時に周知の技術であり(例えば、当審拒絶理由で引用された、粟井恭輔、外3名,“3素子アレー化センサにおける指向性補正の実験的検討”,電子情報通信学会技術研究報告,平成14年12月6日,Vol.102,No.506,p.39-42の図1、特開昭63-256879号公報の第2頁右下欄第4行?第3頁左上欄第11行等を参照のこと。)、引用発明において、当該周知技術に倣い、アレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて導出するアンテナ切替手段を設けるようにすることは、当業者であれば容易になし得ることである。 2 相違点2について まず、「前記アレーアンテナの各アンテナ素子の受信データそれぞれと前記リファレンスアンテナの受信データとの位相差データを検出し、検出された位相差データから前記電波の到来方向を推定する周波数範囲の複素相関値を算出し」(以下、記載1という。)という記載の技術的な意味について検討する。 記載1に関連して、発明の詳細な説明には、 「【0013】 アンテナ切替部20は、アレーアンテナA1に対し、タイミング制御部25からの制御信号に基づいて順次受信するアンテナ素子を予め決められた順序、間隔で切り替え、選択されたアンテナ素子A1i(iは1?Nのいずれか)の受信信号を導出するものである。このように、選択されたアレーアンテナA11?A1Nのうちの一つの受信信号は、リファレンスアンテナA0の受信信号と共に周波数変換部30に送られ、後段の到来方向推定処理でリファレンスアンテナA0と選択されているアレーアンテナA1iの受信波間の位相差を検出することができる。」 「【0017】 図2において、ステップST11では、到来方向推定の開始指示により、アレーアンテナA1の各アンテナ素子A1iのデジタルデータをi=1からi=NまでMサンプルずつ、リファレンスアンテナA0のデジタルデータと共に取得する。 【0018】 ステップST12では、ステップST11で取得されたデジタルデータをFFT(高速フーリエ変換)処理することで、到来方向を推定したい周波数範囲について複素相関値を算出する。」 との記載がある。 段落【0013】の「後段の到来方向推定処理でリファレンスアンテナA0と選択されているアレーアンテナA1iの受信波間の位相差を検出することができる」という記載からすると、位相差は、【図2】に記載された到来方向推定処理が行われた後に検出されるものであると考えられるし、また、段落【0017】、【0018】の記載からすると、複素相関値の算出は、ステップST11で取得されたデジタルデータをFFT(高速フーリエ変換)処理することにより行われており、検出された位相差データから複素相関値が算出されているとは考えられない。 また、前記意見書に「リファレンスアンテナの受信データが個々のアンテナ素子出力の基準としていることは明らかであり、両者の位相差が複素相関値を算出する要素であることは技術的に明白な事項であります。」と記載されているが、「リファレンスアンテナの受信データが個々のアンテナ素子出力の基準としていること」が明らかであるからといって、何故、両者の位相差が複素相関値を算出する要素であることが技術的に明白な事項となるのかも不明である。 そうすると、記載1が技術的に意味するところは必ずしも明らかであるとはいえないが、複素相関値は、アレーアンテナの各アンテナ素子の受信データとリファレンスアンテナの受信データとの位相差に関係する値であるという技術常識を踏まえると、記載1は「前記アレーアンテナの各アンテナ素子の受信データそれぞれと前記リファレンスアンテナの受信データから、前記電波の到来方向を推定する周波数範囲の両受信データの位相差に関係する複素相関値を算出し」の意味であると解するのが自然である。 記載1を前記のように解した上で相違点2について検討する。 引用発明では、アレー状のアンテナの各アンテナ素子の受信データと固定アンテナの受信データから、方位角ξ、仰角η別の振幅を求める電波の周波数範囲の複素相関値Cab(x,y)を算出するところ、引用発明における複素相関値もアレー状のアンテナの各アンテナ素子の受信データと固定アンテナの受信データとの位相差に関係する値になっている。 そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。 3 相違点3について 引用発明には、固定アンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレー状のアンテナを備えるアンテナ装置が備えられているところ、アレー状のアンテナの各アンテナ素子の受信データと固定アンテナの受信データから算出される各複素相関値は、アンテナ素子の離散的な位置で行列状に指定される値であって、本願発明における「相関マトリクス」の各成分に相当していると認められる。また、計算機で二次元FFTの計算を行う上で、マトリクスを作成することに格別の技術的な意義は認められない。そうすると、「相関マトリクス」を作成することは、必要に応じて当業者が適宜なし得る設計的事項であって、当業者であれば容易になし得ることである。 また、FFTを行う際に、データに対してゼロ埋めを行うことは、周知の技術であり(例えば、当審拒絶理由で引用された、特開平6-161339号公報の段落【0008】、【0009】、特開平2-224738号公報の第3頁左上欄第8行?右上欄第3行を等を参照のこと。)、必要に応じて作成された「相関マトリクス」に対してゼロ埋めを行い、「拡張相関マトリクス」を作成することも、当業者であれば容易になし得ることである。 4 相違点4について 引用発明においては、推定電波強度である振幅の大小を表示上区別すべく明るさによって表示しているところ、位相の区別については色を用いている。そして、どのパラメータについて色付けして表示するかは表示に際し、当業者が適宜決定すべき設計的事項であるから、引用発明において、推定電波強度である振幅を色付けして画像化することは、当業者であれば容易になし得ることである。 そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び前記周知技術から当業者が予測可能なものであって、格別なものではない。 第7 請求人の主張について 請求人は、前記意見書において、引用発明において、アレーアンテナが用いられていない旨主張しているが、引用例の段落【0036】の記載から、引用発明においてもアレー状のアンテナが用いられているといえるから、請求人の主張は採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-27 |
結審通知日 | 2013-09-03 |
審決日 | 2013-09-24 |
出願番号 | 特願2006-31077(P2006-31077) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G01S)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大和田 有軌 |
特許庁審判長 |
飯野 茂 |
特許庁審判官 |
小林 紀史 関根 洋之 |
発明の名称 | 電波発射源可視化装置及びその方法 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 福原 淑弘 |
代理人 | 特許業務法人スズエ国際特許事務所 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 福原 淑弘 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 河野 哲 |