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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1281140
審判番号 不服2012-11825  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-25 
確定日 2013-11-07 
事件の表示 特願2010-229577「電子シグニチャーの減衰により安全保護された集積回路デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月24日出願公開、特開2011- 60303〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、1999年2月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年2月4日、フランス国)に国際出願した特願2000-530881号(以下、「原願」という。)の一部を平成22年10月12日に新たな特許出願としたものであって、同年10月13日付けで審査請求がなされ、平成23年7月29日付けで拒絶理由通知(同年8月4日発送)がなされ、平成24年2月2日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、同年2月15日付けで拒絶査定(同年2月23日謄本送達)がなされたものである。
これに対して、「原査定を取り消す 本発明はこれを特許すべきものとするとの審決を求める。」ことを請求の趣旨として、平成24年6月25日付けで審判請求がなされたものである。

2.本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記平成24年2月2日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「コンタクトを有するチップカードに組込むように設計された集積回路デバイスにおいて、前記デバイスの集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させることが出来る少なくとも1つのキャパシター(8)を備え、減衰された電流は、前記集積回路のコンタクトパッドVdd(104)を通って流れ、前記コンタクトパッドは、前記チップカードのコンタクト領域Vdd(204)に接続されていて、前記キャパシター(8)は、前記集積回路に一体化されていることを特徴とする集積回路デバイス。」

3.先行技術

(1)引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

原審の拒絶査定の理由である上記平成23年7月29日付け拒絶理由通知書において引用され、原願の優先日前に頒布された刊行物である、特開昭63-270194号公報(昭和63年11月8日出願公開、以下、「引用文献」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

A 「この発明は上記事情に基づいてなされたもので、電源ノイズおよび静電気に強く安全性を増大させることのできる携帯可能記憶媒体を提供することを目的とする。」(2頁上右欄1?4行目)

B 「(実施例)
・・・(中略)・・・。この実施例はICカードに適用されている。・・・(中略)・・・。
まず、携帯可能記憶媒体であるICカード10の構成を説明すると、CPUとEEPROMまたはEPROMからなるメモリとを1チップに集積したLSI1、バイパスコンデンサ2およびサージ吸収素子チップ3が搭載されワイヤボンディングによって所要の接続がされた小形の印刷板モジュール4が、プラスチック類のカード基材5に埋込まれ、その表面には、電源端子6a、接地端子6e、クロック信号端子6b、リセット端子6cおよび入出力端子6d等の複数個の外部端子6が設けられている。」(2頁下左欄6行目?同頁下右欄2行目)

C 「上記のようにCPUとメモリとを1チップLSI1とし、バイパスコンデンサ2を小形のものとし、さらに複数個のツェナダイオード3a?3cをサージ吸収素子チップ3として1チップ化することにより、これらが印刷板モジュール4上に適切に搭載されて、カード基材5への埋込みが可能とされている。」(2頁下右欄15行目?3頁上左欄1行目)

D 「そして、バイパスコンデンサ2は、電源端子6aと接地端子6eとの間に接続され、またサージ吸収素子チップ3における共通ツェナダイオード3aのカソードは接地端子6eに接続され、他の4個のツェナダイオード3b、3c、3d、3eの各カソードは、電源端子6a、クロック信号端子6b、リセット端子6cおよび入出力端子6dにそれぞれ接続されている。」(3頁上左欄2?9行目)

E 「ICカード10は、前記第12図に示したような読取り/書込み装置に挿入され、その装置内部のコンタクトが対応した各外部端子6a?6eに当接接続されて、制御回路によりLSI1中のメモリに対する所要データの読取り、書込み等が行なわれる。そして、このような動作中において、読取り/書込み装置の制御回路とICカード10との間のケーブル等に電源ノイズが誘起され、または電源電流にサージ等が入ってコンタクトおよび外部端子6間の接触抵抗等による電圧降下で電源電圧の変動が生じても、これらの電源ノイズおよび電圧変動はバイパスコンデンサ2により吸収されて、動作の安定が図られる。」(3頁上左欄11行目?同頁上右欄3行目)

ここで、上記引用文献に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Bの「携帯可能記憶媒体であるICカード10の構成を説明する・・・印刷板モジュール4が、プラスチック類のカード基材5に埋込まれ、その表面には・・・複数個の外部端子6が設けられている」との記載からすると、引用文献には、
“外部端子が設けられたカード基材に埋込まれるように構成された印刷板モジュール”
が記載されている。

(イ)上記Bの「LSI1、バイパスコンデンサ2・・・が搭載・・・された小形の印刷板モジュール4」との記載、上記Eの「LSI1中のメモリに対する所要データの読取り、書込み等が行なわれる・・・このような動作中において・・電源ノイズが誘起され、または・・・電源電圧の変動が生じても、これらの電源ノイズおよび電圧変動はバイパスコンデンサ2により吸収されて、動作の安定が図られる」との記載からすると、引用文献には、印刷板モジュールが、
“印刷板モジュールに搭載されたLSIに対する読取り、書込み等の動作中に生じる電源ノイズや電圧変動を吸収することが出来るバイパスコンデンサ”
を備える態様が記載されている。

(ウ)上記Dの「バイパスコンデンサ2は、電源端子6aと接地端子6eとの間に接続」との記載、上記Bの「携帯可能記憶媒体であるICカード10の構成を説明する・・・印刷板モジュール4が、プラスチック類のカード基材5に埋込まれ、その表面には・・・複数個の外部端子6が設けられている」との記載からすると、引用文献には、
“バイパスコンデンサが電源端子に接続され、前記電源端子は、カード基材に設けられている”
態様が記載されている。

以上、(ア)ないし(ウ)で指摘した事項から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「外部端子が設けられたカード基材に埋込まれるように構成された印刷板モジュールにおいて、前記印刷板モジュールに搭載されたLSIに対する読取り、書込み等の動作中に生じる電源ノイズや電圧変動を吸収することが出来るバイパスコンデンサを備え、前記バイパスコンデンサが電源端子に接続され、前記電源端子は、前記カード基材に設けられていることを特徴とする印刷板モジュール。」

(2)参考文献に記載されている技術的事項

平成24年2月15日付けの原審の拒絶査定において引用され、原願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平7-312414号公報(平成7年11月28日出願公開、以下、「参考文献」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

F 「【要約】
【目的】 電源ノイズ低減効果が大きくしかも実装面積の小さいバイパスコンデンサを備えている半導体集積回路装置と、それを容易に製造できる製造方法とを提供する。
【構成】 複数の半導体素子と多層配線層とを有するICチップ本体1の上に形成されているパッシベーション膜3の上部にバイパスコンデンサ2が設けられている半導体集積回路装置とする。また、半導体集積回路装置の製造工程をもってバイパスコンデンサ2の製作を行う。」

G 「【0006】(2)バイパスコンデンサ34が単独部品として半導体集積回路装置に対して外付けしている形態であることにより、実装基板31においてバイパスコンデンサ34を設置する領域が必要であり、そのため実装面積を小さくしようとする場合において、バイパスコンデンサ34の外付け領域が実装面積を小さくする際の障害となる問題である。
【0007】本発明の一つの目的は、電源ノイズ低減効果が大きくしかも実装面積の小さい半導体集積回路装置を提供することにある。」

4.本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「外部端子」、「カード基材」、及び「印刷板モジュール」は、それぞれ、本願発明の「コンタクト」、「チップカード」、及び「集積回路デバイス(デバイス)」に相当する。
してみると、引用発明の「外部端子が設けられたカード基材に埋め込まれるように構成された印刷板モジュール」は、本願発明の「コンタクトを有するチップカードに組込むように設計された集積回路デバイス」に相当する。

(2)引用発明の「LSI」及び「バイパスコンデンサ」は、それぞれ、本願発明の「集積回路」及び「キャパシター(8)」に相当する。そして、バイパスコンデンサが、回路が動作する際に直流電源の電圧が変動するのを避けることを目的として、ノイズや変動成分に対するインピーダンスを下げる等の機能を有していることは、当業者にとって自明の事項である。そうすると、引用発明の「LSIに対する読取り、書込み等の動作中に生じる電源ノイズや電圧変動を吸収する」とは、(バイパスコンデンサが、)LSIによって消費される電流のインピーダンスを下げる(本願発明の「電流を減衰させる」に相当)ことによって、電源ノイズや電圧変動を吸収することに他ならない。
してみると、引用発明の「前記印刷板モジュールに搭載されたLSIに対する読取り、書込み等の動作中に生じる電源ノイズや電圧変動を吸収することが出来るバイパスコンデンサ」は、本願発明の「前記デバイスの集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させることが出来る少なくとも1つのキャパシター(8)」に相当するといえる。

(3)引用発明の「電源端子」は、本願発明の「コンタクトパッドVdd(104)」に相当する。そして、引用発明の「前記バイパスコンデンサが電源端子に接続され、前記電源端子は、前記カード基材に設けられている」とは、バイパスコンデンサによって減衰された電流が、電源端子を通って流れ、前記電源端子は、前記カード基材に接続されていることに他ならない。
してみると、引用発明の「前記バイパスコンデンサが電源端子に接続され、前記電源端子は、前記カード基材に設けられている」ことと、本願発明の「減衰された電流は、前記集積回路のコンタクトパッドVdd(104)を通って流れ、前記コンタクトパッドは、前記チップカードのコンタクト領域Vdd(204)に接続され」ていることとは、“減衰された電流は、コンタクトパッドを通って流れ、前記コンタクトパッドは、前記チップカードに接続され”ている点で共通するといえる。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)

コンタクトを有するチップカードに組込むように設計された集積回路デバイスにおいて、前記デバイスの集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させることが出来る少なくとも1つのキャパシターを備え、減衰された電流は、コンタクトパッドを通って流れ、前記コンタクトパッドは、前記チップカードに接続されていることを特徴とする集積回路デバイス。

(相違点1)

本願発明が、「減衰された電流は、コンタクトパッドVdd(104)を通って流れ、前記コンタクトパッドは、前記チップカードのコンタクト領域Vdd(204)に接続されて」いるものであるのに対して、引用発明は、電流が通って流れるコンタクトパッド及びコンタクト領域を有するものではない点。

(相違点2)

キャパシターに関して、本願発明のキャパシターが、「集積回路に一体化されている」ものであるのに対して、引用発明のバイパスコンデンサは、印刷板モジュールに搭載されているものの、LSIに一体化されていない点。

5.本願発明と引用発明の相違点についての当審の判断

上記相違点1及び相違点2について検討する。

外付け部品として周辺部に組み込まれていたバイパスコンデンサを、実装面積を小さくするために半導体集積回路装置に一体化させるように構成する技術については、周知技術(上記参考文献の上記F及びG等参照)である。そして、引用文献に開示されている発明においても、上記Cに「CPUとメモリとを1チップLSI1とし、バイパスコンデンサ2を小形のものと・・・することにより、これらが印刷板モジュール4上に適切に搭載されて、カード基材5への埋込みが可能とされている」と記載されるように、できるだけ、モジュールの小型化(1チップ化)を図ろうとしているものと認められる。
してみると、引用発明におけるバイパスコンデンサにおいて、当該周知技術を適用し、LSIと一体化されるように構成することは、当業者であれば適宜に採用し得た設計事項にすぎないものである。

そして、LSIと一体化されている構成を採用した場合、引用発明において、LSIがコンタクトパッドを有し、カード基材のコンタクト領域と接続される構成とすること、すなわち、上記相違点1に係る構成とすることについても、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、上記相違点1及び相違点2は格別なものではない。

上記で検討したごとく、上記相違点1及び相違点2は格別のものではなく、そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、容易に発明できたものである。

6.審判請求人の主張等について

なお、審判請求人は、審判請求書に対する平成24年8月7日付けの手続補正書において、

『5. 本件発明と引用文献との比較
(1) 審査官は、電源ノイズを除去(減衰)するためのバイパスコンデンサを集積回路に組み込む技術は、電気分野における常套手段(特開平-312414号、周知文献4とする)であり、当該常套手段を引用文献1に適用することによって、バイパスコンデンサを集積回路に組み込むことは、当業者が容易に想到し得ることである、としている。
周知文献4は、ICチップ本体の上に形成されているパッシベーション膜の上部にバイパスコンデンサが設けられている半導体集積回路装置を開示する。
・・・(中略)・・・
スマートカードのコンタクトパッドに非常に接近して(リーダー部分に)100nFのキャパシターを有するという要件により、当業者は、キャパシターをカードの中に入れないようにする。100nFのキャパシターは、電流によるノイズを濾波し、チップの電源を減結合する役割を果たす。本件出願時、100nFのキャパシターは、チップに一体化することは出来なかった。このような知識により、当業者は、濾波するためのキャパシターをチップに含めることを考えない。キャパシターはチップに一体化できず、キャパシターはリーダー側に取付けられるので、チップにキャパシターは必要ないからである。
(2) 本件発明により解決する課題は、スマートカードチップの安全性を改善することである。電流をマスキングするために、チップにキャパシターを加えるという解決策は、新規性がある。本件出願時には、スマートカードチップにキャパシターはなかったからである。前述したように、当業者は、電源の理由により、スマートカードチップにキャパシターを加えることはしないであろう。スマートカードチップは、このような電流の濾波に非常に大きいキャパシターが必要だからである。電気的な理由により、キャパシターを加える理由がないので、チップにキャパシターを加えるというアイデアは、自明ではない。
非常に高い高周波電流の小さい電流の変化(これにより、プロセッサへ送る電流を検知することが出来る)をマスキングするためには、小さいキャパシターで十分である。そして、小さいキャパシターは、スマートカードチップに実装することが出来る。
(3) 請求項1では、「キャパシターは集積回路に一体化されている。」これは、ICの近くに置かれた別の部品ではなく、ICの近くに連結されたキャパシターであることを意味する。キャパシターは、取外すのが非常に困難であり、本件発明のキャパシターにより減衰させずに(濾波と同じ意味)ICのパッドを通って流れる電流を偵察することを防止することが出来る。
(4) 周知文献4のバイパスコンデンサ2は、電源ノイズを除去するためのものである。
本件発明のキャパシターは、「デバイスの集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させることが出来る」ものである。集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させると、電流を遮蔽してシグニチャーの解析を複雑にすることが出来る。
引用文献4は、集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させることが出来るキャパシターを備えることを開示していず示唆もしていない。電流を遮蔽してシグニチャーの解析を複雑にすることは出来ない。』
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

と主張しているので、当該主張について検討する。

上記主張は、その記載からして、次の主張(a)ないし(d)を含んでいる。

(a)『本件出願時、100nFのキャパシターは、チップに一体化することは出来なかった。』
(b)『本件発明により解決する課題は、スマートカードチップの安全性を改善することである。』
(c)『本件発明のキャパシターは、・・・(中略)・・・集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させると、電流を遮蔽してシグニチャーの解析を複雑にすることが出来る。』
(d)『引用文献4は、集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させることが出来るキャパシターを備えることを開示していず示唆もしていない。電流を遮蔽してシグニチャーの解析を複雑にすることは出来ない。』

(1)主張(a)について

上記「5.本願発明と引用発明の相違点についての当審の判断」で検討したように、外付け部品として周辺部に組み込まれていたバイパスコンデンサを、半導体集積回路装置に一体化させるように構成する技術については、周知技術であり、引用発明におけるバイパスコンデンサにおいても、当該周知技術を適用し、LSIと一体化されるように構成することは、当業者であれば適宜に採用し得た設計事項にすぎないものである。

してみれば、コンデンサの一種であるキャパシターをチップと一体化することについても、当業者であれば、容易に想到し得たことであり、審判請求人の当該主張を採用することはできない。

(2)主張(b)について

本願発明は、発明の詳細な説明において、

「【0005】
上述のことを考慮し、一つの技術的問題は、集積回路デバイスの電子シグニチャーの解析をより複雑にすることにより、秘密データへのアクセスを防止することである。」、
「【0030】
さらに、従来技術の集積回路デバイスでは、オペレーションの間に、供給電流Iddの強度の大きな変動により突然の電圧降下が起こり、この降下により電圧が所謂公称の作動の検出しきい値より下に低下し、その結果、再度初期化即ちデータの損失、及び書き込みエラーが起こり、データの完全性が失われる。本発明によるデバイスでは、電子シグニチャーが減衰し、その結果電圧降下が起こらないことにより、別の利点が得られる。」、

と記載されていることから、「スマートカードチップの安全性を改善する」ために、

(課題1)
「集積回路デバイスの電子シグニチャーの解析をより複雑にすることにより、秘密データへのアクセスを防止すること」、
(課題2)
「電流変動による電圧降下によって、動作不良が起こることを防止すること」

の何れか一方又は両方を解決することを課題としているものと認められる。

一方、上記引用文献の上記Aに「この発明は・・・電源ノイズおよび静電気に強く安全性を増大させることのできる携帯可能記憶媒体を提供することを目的とする」と記載されるように、引用文献に開示されている発明においても、携帯可能記憶媒体の安全性を増大させることを課題としている。

そして、本願発明の記載では、(上記課題1または上記課題2を解決するべく)電流変動を減衰させることに関する構成が開示されているのみで、上記課題1のみを解決することに限定したものであると把握できる具体的構成がないことから、引用文献に開示されている発明と同様の課題(上記課題2)を解決するものを包含して特許請求しているということができる。

したがって、本願発明と、上記引用文献に開示された発明とは、解決しようとする課題が共通しているといえる。

(3)主張(c)及び(d)について

上記参考文献(上記平成24年8月7日付けの手続補正書中の「引用文献4」に相当)に記載の「バイパスコンデンサ」(本願発明の「キャパシター」に相当)においても、ノイズや変動成分に対するインピーダンスを下げるというコンデンサの一般的な特性からすると、当該参考文献に記載されているバイパスコンデンサが、電流のピークの振幅を減衰させる機能を有していることは、当業者にとって自明の事項である。

してみると、審判請求人の「引用文献4は、集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させることが出来るキャパシターを備えることを開示していず示唆もしていない」との主張は、根拠がなく、採用することはできない。

また、本願発明に記載されている「キャパシター」は、一般的な技術用語にすぎず、「電流のピークの振幅を減衰させる」という特性までしかよみとれない。そうすると、本願発明の「デバイスの集積回路により消費される電流のピークの振幅を減衰させることが出来る少なくとも1つのキャパシター(8)を備え」という記載だけからは、いかに当業者といえども、当該キャパシターを備えることが、「電流を遮蔽してシグニチャーの解析を複雑にすること」を意味することまでは、想到することはできない。

してみれば、審判請求人の「本件発明のキャパシターは・・・電流を遮蔽してシグニチャーの解析を複雑にすることが出来る」、「引用文献4は・・・電流を遮蔽してシグニチャーの解析を複雑にすることは出来ない」という主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、当該主張についても採用することができない。

7.むすび

以上のとおり、本願発明は、本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-13 
結審通知日 2013-06-19 
審決日 2013-06-27 
出願番号 特願2010-229577(P2010-229577)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 山崎 達也
田中 秀人
発明の名称 電子シグニチャーの減衰により安全保護された集積回路デバイス  
代理人 西島 孝喜  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 平野 誠  
代理人 大塚 文昭  
代理人 箱田 篤  
代理人 中村 稔  

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