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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1281158
審判番号 不服2012-19104  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-01 
確定日 2013-11-07 
事件の表示 特願2008- 6772「光学式検査方法、および光学式検査装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月12日出願公開、特開2009- 31251〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年1月16日(優先権主張 平成19年6月28日)を出願日とする特願2008-6772号であって,平成24年2月23日付けで拒絶理由が通知され,平成24年4月2日付けで意見書が提出されるとともに同日付で手続補正がなされ,同年7月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年10月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正がなされたものである。
その後,当審において平成25年4月17日付けで前置報告書の内容について請求人に事前に意見を求める審尋をなし,同年6月10日付けで回答書が提出された。

第2 本願発明
本件補正は,補正前の請求項1および3において,「下記弁別する」を「下記の三つの式を用いて弁別する」に補正することで,補正前の記載が,「式(1)?(3)のいずれか一つを使用して」とも解される可能性がある点を解消するためになされたものであり,明りょうでない記載の釈明に該当するから,本件訂正を認める。
そうすると,本願の請求項1-7に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ,その請求項3に係る発明は次のとおりのものである。

「被検査物を載せるステージと,
前記被検査物の表面上に斜方照明する斜方照明系と,
前記斜方照明系の照明により前記被検査物から発生する散乱光を検出する検出光学系を備える光学式検査装置において,
前記検出光学系は,前記表面上に対し高角度に向けた高角検出光学系と,前記表面上に対して低角度に向けた低角検出光学系を有し,
前記高角検出光学系が検出する輝度と,前記低角検出光学系が検出する輝度を比べて前記被検査物上の欠陥を下記の三つの式を用いて弁別する判定部を有することを特徴とする光学式検査装置。
(1).高角検出光学系の輝度 < 低角検出光学系の輝度であるときは
スクラッチである。
(2).高角検出光学系の輝度 > 低角検出光学系の輝度であるときは
ボイドである。
(3).高角検出光学系の輝度 ≒ 低角検出光学系の輝度であるときは
異物である。」(以下「本願発明」という)

第3 引用刊行物およびその記載事項
1 原査定の理由に引用され,本願優先日前に頒布された特開平11-64234号公報(以下「引用例1」という)には,「異物検出方法,および異物検出装置」に関して,以下の事項が記載されている。(下線は当審にて付与する)

(1-ア)
「【特許請求の範囲】
【請求項4】 半導体ウェーハが載置されるステージと,前記半導体ウェーハの表面にレーザビームを照射するレーザ光源と,前記レーザビームが照射された前記半導体ウェーハからの散乱光を検出するための光検出器とを有する異物検出装置において,
前記光検出器は複数設置され,各前記光検出器は前記半導体ウェーハの表面における前記レーザビームの照射点からの仰角が互いに異なるように配置されていることを特徴とする異物検出装置。
【請求項9】 前記レーザビームは前記半導体ウェーハの表面に対して斜め方向から前記半導体ウェーハに照射される請求項4から7のいずれか1項に記載の異物検出装置。」

(1-イ)
「【0026】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)図1は,本発明の異物検出装置の第1の実施形態を示す斜視図である。
【0027】図1に示すように,本実施形態の異物検出装置1は,半導体ウェーハ2を載置するステージ3と,半導体ウェーハ2の表面に鉛直上方からレーザビーム4を照射するレーザ光源5と,半導体ウェーハ2の表面に付着した異物等にレーザビーム4が照射されて生じる散乱光を検出するための光検出器6a,6b,6c,6d,6e,6fとを有する。各光検出器6a,6b,6c,6d,6e,6fは,レーザビーム4の照射点4aを中心とする円弧上に等角度の間隔をおいて異物検出装置1に設置されている。すなわち,各光検出器6a,6b,6c,6d,6e,6fは,レーザビーム4の照射点4aからの仰角が互いに異なるように,異物検出装置1に設置されている。」

(1-ウ)
「【0029】このとき,半導体ウェーハ2上の異物等にレーザビーム4が照射されると,異物等でレーザビーム4が反射され,散乱光が生じる。そこで,光検出器6a,6b,6c,6d,6e,6fによって様々な仰角方向から散乱光を検出し,各光検出器での検出強度を比較して散乱光の強度分布を知得することにより,半導体ウェーハ2の表面における異物等の存在を確認することができる。
【0030】図2は,図1に示した異物検出装置を,レーザビームの照射点に異物が存在する状態で示す斜視図である。
【0031】図2に示すように,異物7にレーザビーム4が照射されると,異物7でレーザビーム4が反射され,散乱光8a,8b,8c,8d,8e,8fが生じる。図8を用いて説明したように,異物7にレーザビーム4が照射されて生じた散乱光8a,8b,8c,8d,8e,8fは,異物7からの全仰角方向に対してほぼ等しい強度を有するので,全ての光検出器6a,6b,6c,6d,6e,6fによって検出され,その検出強度はほぼ一様となる。
【0032】図3は,図1に示した異物検出装置を,レーザビームの照射点に結晶欠陥が存在する状態で示す斜視図である。
【0033】図3に示すように,結晶欠陥であるCOP9にレーザビーム4が照射されると,COP9から散乱光10a,10b,10c,10d,10e,10fが生じる。図8を用いて説明したように,COP9にレーザビーム4が照射されて生じた散乱光10a,10b,10c,10d,10e,10fは,鉛直な仰角方向に強く偏った強度を有するので,高角度に発生する散乱光10c,10dの強度が最も強く,低角度に発生する散乱光10a,10fの強度が最も弱い。これに対応して,各光検出器で検出される散乱光の受光強度は,光検出器6c,6dが最も強く,光検出器6a,6fが最も弱い。
【0034】以上説明したように,半導体ウェーハ2に付着した異物7からの散乱光は各光検出器での検出強度が一様であるのに対し,COP9からの散乱光は各光検出器で検出強度が異なる。従って,半導体ウェーハ2上の検出物からの散乱光を光検出器で検出し,各光検出器での散乱光の検出強度を互いに比較して検出物からの散乱光の強度分布を知得した後に,その知得した検出物による強度分布を,半導体ウェーハ2の表面に付着した異物7による散乱光の一般的な強度分布,および半導体ウェーハ2の表面に存在するCOP9による散乱光の一般的な強度分布と対比させて評価することにより,半導体ウェーハ2の表面に付着した異物7と半導体ウェーハ2の表面に存在する結晶欠陥とを区別して検出することができる。」

(1-エ)
「【0041】(第2の実施形態)図6は,本発明の異物検出装置の第2の実施形態を示す斜視図である。
【0042】図1に示すように,本実施形態の異物検出装置21は,半導体ウェーハ22を載置するステージ23と,半導体ウェーハ22の表面に斜め方向からレーザビーム24を照射するレーザ光源25と,半導体ウェーハ22の表面に付着した異物等にレーザビーム24が照射されて生じる散乱光等を検出するための光検出器26a,26b,26c,26d,26e,26f,26gとを有する。各光検出器は,レーザビーム24の照射点24aを中心とする円弧上に等角度の間隔をおいて異物検出装置21に設置されている。すなわち,各光検出器は,レーザビーム24の照射点24aからの仰角が互いに異なるように,異物検出装置21に設置されている。
【0043】上記のように構成された異物検出装置21では,まず,レーザ光源25から出射されたレーザビーム24で半導体ウェーハ22の表面を照射しつつ,ステージ駆動手段(不図示)によってステージ23を図示のX方向もしくはY方向に駆動させる。これにより,レーザビーム24が半導体ウェーハ22上を走査する。
【0044】レーザビーム24の照射点24aに異物等が存在しない場合には,半導体ウェーハ22の表面でレーザビーム24の正反射光24bが生じるだけであり,何れの光検出器でも反射光や散乱光等は検出されない。しかし,レーザビーム24の照射点24aに異物,結晶欠陥,もしくはパターン構造(いずれも不図示)が存在する場合には,第1の実施形態での説明と同様に散乱光や回折光が発生する。従って,半導体ウェーハ22上の検出物からの散乱光を光検出器で検出した後に,各光検出器の検出強度を互いに比較して検出物からの強度分布を知得することにより,第1の実施形態と同様に,検出物を異物と結晶欠陥とに区別して検出したり,検出物がパターン構造の上に付着した異物であっても,異物とパターン構造とを区別して検出することができる。
【0045】また,本実施形態の異物分析装置21では,レーザ光源25が半導体ウェーハ22の鉛直上方ではなく斜め方向に設置されているため,半導体ウェーハ22の鉛直上方にも光検出器が設置されている。そのため,半導体ウェーハ22からの散乱光をより多くの角度から検出することができるので,散乱光の強度分布を一層正確に知得することができる。
【0046】なお,本実施形態の異物検出装置21では七つの光検出器26a,26b,26c,26d,26e,26f,26gを用いた例を示したが,設置される光検出器の個数は七つに限られない。また,各光検出器の配置は,図6に示した配置に限られるものではない。」

(1-オ)
「【図2】


図2より半導体ウェーハに対して垂直に照明し,異物により散乱された散乱光が,全ての光検出器6a,6b,6c,6d,6e,6fに一様な検出強度で受光される点が見て取れる。
「【図3】


図3より半導体ウェーハに対して垂直に照明し,結晶欠陥により散乱された散乱光が,光検出器6a,6b,6c,6d,6e,6fのうち,垂直に近い角度に設置されている光検出器6c,6dで強く受光される点が見て取れる。
「【図6】


図6より半導体ウェーハに対して斜めにレーザビームを照明する例として,図1,3における光検出器6a,6b,6c,6d,6e,6fに相当する位置に、光検出器26a,26b,26c,26e,26f,26gが設置され、さらに,26c,26eよりさらに垂直に近い角度に光検出器26dが設置されている点が見て取れる。
「【図8】


図8より半導体ウェーハに対して垂直に照明し,結晶欠陥および異物により散乱された散乱光が,結晶欠陥からは垂直方向へ最も強い散乱光を発生させる一方,異物からは全方向に対して一様な強度で散乱光を発生させる点が見て取れる。

2 引用例1に記載された発明の認定
ここで,上記記載を検討する。
記載事項(1-イ)および(1-ウ)および図2,3,6,8を総合すると下記のとおりである。
鉛直上方からレーザビームを照射した場合,異物7で反射された散乱光は,異物7からの全仰角方向に対してほぼ等しい強度を有し,全ての光検出器6a,6b,6c,6d,6e,6fによって検出され,その検出強度はほぼ一様となる。
鉛直上方からレーザビームを照射した場合,結晶欠陥で生じた散乱光は,鉛直な仰角方向に強く偏った強度を有するので,高角度に発生する散乱光10c,10dの強度が最も強く,低角度に発生する散乱光10a,10fの強度が最も弱いので,各光検出器で検出される散乱光の受光強度は,光検出器6c,6dが最も強く,光検出器6a,6fが最も弱い。
そして,記載事項(1-エ)には,「レーザビーム24の照射点24aに異物,結晶欠陥,もしくはパターン構造(いずれも不図示)が存在する場合には,第1の実施形態での説明と同様に散乱光や回折光が発生する。」と記載されており,この「第1の実施形態での説明」を記載事項(1-イ)および(1ーウ)から記載事項(1-エ)および図6にあてはめると,下記のとおりである。
斜め方向からレーザビームを照射した場合,異物で反射された散乱光は,異物からの全仰角方向に対してほぼ等しい強度を有し,全ての光検出器26a,26b,26c,26d,26e,26f,26gによって検出され,その検出強度はほぼ一様となる。
斜め方向からレーザビームを照射した場合,結晶欠陥で生じた散乱光は,鉛直な仰角方向に強く偏った強度を有するので,高角度に発生する散乱光の強度が最も強く,低角度に発生する散乱光の強度が最も弱いので,各光検出器で検出される散乱光の受光強度は,光検出器26c,26d,26eが最も強く,光検出器26a,26gが最も弱い。
ここで、「散乱光の受光強度は,光検出器26c,26d,26eが最も強く」は、「第1の実施形態」の光検出器6c,6dが、光検出器26c,26eに相当するので、散乱光の受光強度は最も強くなり、さらに、光検出器26dは、26c,26eよりさらに垂直に近い角度に設置されているのだから、散乱光の受光強度は少なくとも26c,26eと同等以上である。
したがって,上記記載事項(1-ア)?(1-オ)および図1-8を総合すると,引用例1には以下の発明が記載されていると認められる。

「半導体ウェーハ22が載置されるステージ23と,
前記半導体ウェーハ22の表面に斜め方向からレーザビーム24を照射するレーザ光源25と,
レーザビーム24が照射されて生じる散乱光等を検出するための光検出器26a-26gを備える異物検出装置21において,
各光検出器は,レーザビーム24の照射点24aを中心とする円弧上に等角度の間隔をおいて異物検出装置21に設置されており,
半導体ウェーハ22上の検出物からの散乱光を光検出器で検出した後に,各光検出器の検出強度を互いに比較して検出物からの強度分布を知得することにより,検出物を異物と結晶欠陥とに区別して検出することができ,
検出物からの強度分布は,異物で反射された散乱光は,異物からの全仰角方向に対してほぼ等しい強度を有し,全ての光検出器26a,26b,26c,26d,26e,26f,26gによって検出され,その検出強度はほぼ一様であり,結晶欠陥で生じた散乱光は,鉛直な仰角方向に強く偏った強度を有するので,高角度に発生する散乱光の強度が最も強く,低角度に発生する散乱光の強度が最も弱いので,各光検出器で検出される散乱光の受光強度は,光検出器26c,26d,26eが最も強く,光検出器26a,26gが最も弱い
異物検出装置。」(以下「引用発明」という)

3 同様に,原査定の理由に引用され,本願優先日前に頒布された特開2002-98645号公報(以下「引用例2」という)には,「基板の表面検査装置及び表面検査方法」に関して,以下の事項が記載されている。

(2-ア)
「【0014】次に,図6を参照して他の実施例の表面検査装置を説明する。この実施例では,異物とスクラッチを検出する表面検査装置を説明する。なお,前述した表面検査装置と共通する構成部材には同じ符号を付す。図6において,表面検査装置Bは,検査光学系1として,投光系と受光系とをそれぞれ備える斜方照射/低角度光学系5と,垂直照射/中・高角度光学系11とを有する。斜方照射/低角度光学系5は,斜方照射光源5aと,低角度受光器5bとを備えており,これらがウェハW表面上に発生した欠陥すなわちスクラッチを検出するように,ウェハW表面に対して所定の仰角をもって所定位置に各々配置される。垂直照射/中・高角度光学系11は,垂直照射光源11aと,中角度受光器11bと,高角度受光器11cとを備えており,これらがウェハW表面上に発生した欠陥すなわち異物を検出するように,ウェハW表面に対して上記の斜方照射/低角度光学系5よりも高角度な仰角をもって所定位置に各々配置される。上述の実施例と同じように,斜方照射/低角度光学系5は,斜方照射光源5aによりウェハW表面上にレーザースポットを形成するようにレーザー光L1を斜方照射し,該ウェハW表面上を螺旋状に走査するスパイラル走査を行う。垂直照射/中・高角度光学系11は,垂直照射光源6aによりウェハW表面上にレーザースポットを形成するようにレーザー光L2を垂直照射し,該ウェハW表面上を螺旋上に走査するスパイラル走査を行う。この実施例においても,回転テーブル2aによりウェハW自体を回転させると同時に直線移動機構2bにより該ウェハWを半径方向に移動することで,スパイラル走査を行っている。勿論,ウェハW自体を回転テーブル2aにより回転させると同時に光学系5,11全体を該ウェハWの半径方向に移動することで,スパイラル走査を行うようにしてもよい。
【0015】スパイラル走査を行っている際に,ウェハW表面の平滑面に欠陥(異物やスクラッチ)があると,その欠陥の凹凸によってレーザスポットが乱反射して散乱する。上述したように,異物はウェハW表面上に塵埃や研磨剤が付着してできる凸状の欠陥であることから,ウェハW表面に異物が存在する場合,レーザースポットはランダムな方向に散乱する。一方,スクラッチはウェハW表面を研磨してできる線状の凹み欠陥であることから,ウェハW表面にスクラッチが存在する場合,レーザースポットは特定の方向に強調されて散乱する。すなわち,異物はランダムな方向に散乱光(つまり,特定の方向に強調されることがない無指向性の散乱光)を発生させるが,スクラッチでは深さや幅に応じた指向性の鋭い散乱光を発生させる。従って,レーザースポットの同一の走査位置において,ウェハW表面上に異物があるときは,中角度受光器11bと,高角度受光器11cとで異物による散乱光を受光するが,ウェハW表面上にスクラッチがあるときには,低角度受光器5bでのみスクラッチによる散乱光を受光する。散乱光を受光した低角度受光器5b,中角度受光器11bおよび高角度受光器11cは,それぞれ,図7に示すように,A/D変換器12,13,14を介して受光信号D3,D4,D5をデータ処理部4に出力する。」

第4 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比すると,
(1)引用発明の「半導体ウェーハ22が載置されるステージ23」は,半導体ウェーハ22が被検査物であることから,本願発明の「被検査物を載せるステージ」に相当する。
(2)引用発明の「前記半導体ウェーハ22の表面に斜め方向からレーザビーム24を照射するレーザ光源25」は,本願発明の「前記被検査物の表面上に斜方照明する斜方照明系」に相当する。
(3)引用発明の「レーザビーム24が照射されて生じる散乱光等を検出するための光検出器26a-26gを備える」は,本願発明の「前記斜方照明系の照明により記被検査物から発生する散乱光を検出する検出光学系」に相当する。
(4)引用発明の「異物検出装置において」は,引用発明がレーザ光源25を用いた半導体ウェーハ22の表面検査装置であることから本願発明の「光学式検査装置において」に相当する。
(5)引用発明の「各光検出器は,レーザビーム24の照射点24aを中心とする円弧上に等角度の間隔をおいて異物検出装置21に設置されており」について,上記「第3 2引用例1に記載された発明の認定」で検討したとおり,半導体ウェーハの表面に対し高角度に備えられた光検出器26c,26d,26eと,半導体ウェーハの表面に対し低角度に備えられた光検出器26a,26gとを備えていることから,光検出器26a-26gは,本願発明の「前記検出光学系は,前記表面上に対し高角度に向けた高角検出光学系と,前記表面上に対して低角度に向けた低角検出光学系」に相当する。
(6)引用発明の「半導体ウェーハ22上の検出物からの散乱光を光検出器で検出した後に,各光検出器の検出強度を互いに比較して検出物からの強度分布を知得することにより,検出物を異物と結晶欠陥とに区別して検出することができ,
検出物からの強度分布は,異物で反射された散乱光は,異物からの全仰角方向に対してほぼ等しい強度を有し,全ての光検出器26a,26b,26c,26d,26e,26f,26gによって検出され,その検出強度はほぼ一様であり,結晶欠陥で生じた散乱光は,鉛直な仰角方向に強く偏った強度を有するので,高角度に発生する散乱光の強度が最も強く,低角度に発生する散乱光の強度が最も弱いので,各光検出器で検出される散乱光の受光強度は,光検出器26c,26d,26eが最も強く,光検出器26a,26gが最も弱い」について,まず,検出物が異物である場合を検討すると,引用発明では,「半導体ウェーハ22上の検出物からの散乱光を光検出器で検出した後に,各光検出器の検出強度を互いに比較して検出物からの強度分布を知得」したときの強度分布が「全ての光検出器26a,26b,26c,26d,26e,26f,26gによって検出され,その検出強度はほぼ一様」である場合に異物であると判断しており,これが,本願発明の「前記高角検出光学系が検出する輝度と,前記低角検出光学系が検出する輝度を比べて前記被検査物上の欠陥を」「(3).高角検出光学系の輝度 ≒ 低角検出光学系の輝度であるときは異物である」と「弁別する」に相当する。
次に,結晶欠陥の場合について検討する。ここで,結晶欠陥は,「温度が低下する課程で結晶欠陥となる球形のボイド(Void:空隙)」(特開2007-258555号公報の【0002】)や「半導体基板内部の結晶欠陥(主にボイド欠陥)」(特開2007-36055号公報の【0007】)などの記載から明らかなように,引用発明の「結晶欠陥」と本願発明の「ボイド」とは,同一のものを示している。
そして,引用発明では「半導体ウェーハ22上の検出物からの散乱光を光検出器で検出した後に,各光検出器の検出強度を互いに比較して検出物からの強度分布を知得」したときの強度分布が「鉛直な仰角方向に強く偏った強度を有するので,高角度に発生する散乱光の強度が最も強く,低角度に発生する散乱光の強度が最も弱いので,各光検出器で検出される散乱光の受光強度は,光検出器26c,26d,26eが最も強く,光検出器26a,26gが最も弱い」ときに結晶欠陥と判断しており,これが,本願発明の「前記高角検出光学系が検出する輝度と,前記低角検出光学系が検出する輝度を比べて前記被検査物上の欠陥を」「(2).高角検出光学系の輝度 > 低角検出光学系の輝度であるときはボイドである」と「弁別する」に相当する。
したがって,異物の場合と結晶欠陥の場合とを合わせると,引用発明の「半導体ウェーハ22上の検出物からの散乱光を光検出器で検出した後に,各光検出器の検出強度を互いに比較して検出物からの強度分布を知得することにより,検出物を異物と結晶欠陥とに区別して検出することができ,
検出物からの強度分布は,異物で反射された散乱光は,異物からの全仰角方向に対してほぼ等しい強度を有し,全ての光検出器26a,26b,26c,26d,26e,26f,26gによって検出され,その検出強度はほぼ一様であり,結晶欠陥で生じた散乱光は,鉛直な仰角方向に強く偏った強度を有するので,高角度に発生する散乱光の強度が最も強く,低角度に発生する散乱光の強度が最も弱いので,各光検出器で検出される散乱光の受光強度は,光検出器26c,26d,26eが最も強く,光検出器26a,26gが最も弱い」と,本願発明の「前記高角検出光学系が検出する輝度と,前記低角検出光学系が検出する輝度を比べて前記被検査物上の欠陥を下記の三つの式を用いて弁別する判定部を有することを特徴とする光学式検査装置。
(1).高角検出光学系の輝度 < 低角検出光学系の輝度であるときは
スクラッチである。
(2).高角検出光学系の輝度 > 低角検出光学系の輝度であるときは
ボイドである。
(3).高角検出光学系の輝度 ≒ 低角検出光学系の輝度であるときは
異物である。」とは,「前記高角検出光学系が検出する輝度と,前記低角検出光学系が検出する輝度を比べて前記被検査物上の欠陥を少なくとも下記の二つの式を用いて弁別する判定部を有することを特徴とする光学式検査装置。
(1).高角検出光学系の輝度 > 低角検出光学系の輝度であるときは
ボイドである。
(2).高角検出光学系の輝度 ≒ 低角検出光学系の輝度であるときは
異物である。」点で一致する。

そうすると,両者は
(一致点)
「被検査物を載せるステージと,
前記被検査物の表面上に斜方照明する斜方照明系と,
前記斜方照明系の照明により前記被検査物から発生する散乱光を検出する検出光学系を備える光学式検査装置において,
前記検出光学系は,前記表面上に対し高角度に向けた高角検出光学系と,前記表面上に対して低角度に向けた低角検出光学系を有し,
前記高角検出光学系が検出する輝度と,前記低角検出光学系が検出する輝度を比べて前記被検査物上の欠陥を少なくとも下記の二つの式を用いて弁別する判定部を有する光学式検査装置。
(1).高角検出光学系の輝度 > 低角検出光学系の輝度であるときは
ボイドである。
(2).高角検出光学系の輝度 ≒ 低角検出光学系の輝度であるときは
異物である。」
点で一致し,以下の点にて相違するといえる。
(相違点)
「判別部」が,本願発明は「三つの式」を備え「高角検出光学系の輝度 < 低角検出光学系の輝度であるときはスクラッチである。」という条件を備えているのに対し,引用発明は「二つの式」にとどまり,スクラッチに関する判定式を備えていない点。

2 判断
(1)相違点について
引用例2には「スクラッチはウェハW表面を研磨してできる線状の凹み欠陥であることから,ウェハW表面にスクラッチが存在する場合,レーザースポットは特定の方向に強調されて散乱する。……スクラッチでは深さや幅に応じた指向性の鋭い散乱光を発生させる。……ウェハW表面上にスクラッチがあるときには,低角度受光器5bでのみスクラッチによる散乱光を受光する。」と記載されている。ここで,引用例2に記載の発明では,斜方照射光源5aと垂直照射光源11aとを備えており,引用例2の記載において,低角度受光器5b,中角度受光器11bおよび高角度受光器11cが受光する散乱光は,斜方照射光源5aと垂直照射光源11aのいずれから照射されたものであるか明確な記載とはなっていないが,引用例2に記載の発明が「斜方照射/低角度光学系5は,斜方照射光源5aと,低角度受光器5bとを備えており,これらがウェハW表面上に発生した欠陥すなわちスクラッチを検出する」ものであることを考慮すると,上記の低角度受光器5bが受光する散乱光は,斜方照射光源5aから照射されたレーザーによる散乱光であると理解される。
すなわち,引用例2には,「スクラッチでは深さや幅に応じた指向性の鋭い散乱光を発生させる」という性質により「低角度受光器5bでのみスクラッチによる散乱光を受光する」のであるから,スクラッチによる散乱光は,低角度受光器5bの方向へ鋭い指向性をもって散乱し,高角度へは散乱しないことを示している。
そうすると,引用例2には,「斜方照射光源,高角検出光学系,低角検出光学系を用いた表面検査装置において,高角検出光学系の輝度 < 低角検出光学系の輝度であるときはスクラッチである。」点が開示されている。
そして,本願発明や引用発明が属する技術分野である,ウェハの表面検査において,欠陥の種類を判別することは,一般的に認識されている技術的課題であり,欠陥の種類を判別する表面検査装置が本願優先日前周知であるといえる。例えば,引用例2には,異物と結晶欠陥とを判別する表面検査装置が開示されていると共に,異物とスクラッチとを判別する表面検査装置も開示されている。また,特開昭57-132044号公報には,ウエハの表面欠陥判別として,「異物は欠陥ではない。また加工欠陥は極めて深さが浅く,表面を削れば良品に再生できるため,ウエハ表裏または内部に発生する結晶欠陥とは本質的に異なり,これらを区別する必要がある」点が第2ページ右上欄第1?5行に記載されている。
してみると,引用発明に上記引用例2記載の技術的事項を付加して,相違点における本願発明の構成とすることは,十分動機付けがあり,阻害要因もなく,当業者が容易に想到するものといえる。

(2)効果について
相違点により奏する効果は,引用例1および2記載の事項並びに周知の事項から当業者ならば予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

3 付言
請求人は,請求の理由として「低角度受光器からの受光信号を,中角度受光器および高角度受光器の受信信号と比較することなく『スクラッチ』と判定する技術思想を有する引用文献2に記載された発明を,複数の光検出器を備え各光検出器の検出強度を互いに比較して検出物から散乱光の強度分布を知得する引用文献1(特開平11?64234号公報)に記載された発明に組み合わせるとする動機付けはありません。」旨主張している。
しかしながら,上記「2 判断(1)相違点について」で述べたとおり,引用例2には「スクラッチによる散乱光は,低角度受光器5bの方向へ鋭い指向性をもって散乱し,高角度へは散乱しないこと」を開示し,このスクラッチによる散乱光の特性を確実に識別するためには,斜方照射光源5aから照射されたレーザー光の散乱光を低角度受光器5bと高角度受光器とを用いて検出し,上記のスクラッチによる散乱光の特性を確認する,すなわち,低角度受光器からの受光信号を,高角度受光器の受信信号と比較することが望ましいことは,当業者にとって自明な事項であることから,上記主張には理由がない。
また,請求人は,審尋の回答書において,引用例1に記載の発明は,「複数の光検出器により検出された散乱光の検出強度の比較により検出物の散乱光の強度分布を得るものであり,得られた強度分布を異物及び結晶欠陥の一般的な強度分布と比較することで,異物か結晶欠陥かを区別するもの」とも主張しているが,引用例1の「一般的な強度分布と比較すること」は,複数の光検出器において,各々の検出強度を比較することであり,高角度受光器と低角度受光器との検出強度の比が一般的な強度比であると判断すること,すなわち本願発明のような比較をさらに厳密に行うものであることから,引用例1の強度分布による区別と本願発明の弁別手法とは,散乱光の強度分布の比較による弁別という意味において実質的に異なるものではなく,上記主張には理由がない。
したがって,上記請求人の主張は採用できない。

4 まとめ
以上のことから,本願発明は,引用発明,引用例2記載の事項および周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-27 
結審通知日 2013-09-03 
審決日 2013-09-25 
出願番号 特願2008-6772(P2008-6772)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 淳史森口 正治  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 藤田 年彦
岡田 孝博
発明の名称 光学式検査方法、および光学式検査装置  
代理人 ポレール特許業務法人  

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