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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H |
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管理番号 | 1281162 |
審判番号 | 不服2012-21348 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-10-29 |
確定日 | 2013-11-07 |
事件の表示 | 特願2007-306340「自動変速機のニュートラル制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月11日出願公開、特開2009-127817〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成19年11月27日の出願であって、平成24年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年10月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年4月20日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 予め設定されているニュートラル制御条件が満足された場合、自動変速機をニュートラル制御する自動変速機のニュートラル制御装置において、 路面勾配を検出する勾配検出手段と、 シフトレバーのシフト位置を検出するシフト位置検出手段と、 前記勾配検出手段の検出誤差を補正する検出誤差補正値を設定し、前記勾配検出手段で検出した前記路面勾配を前記検出誤差補正値で補正して補正後路面勾配を設定する補正後路面勾配設定手段と、 イグニションスイッチをオンした後に前記補正後路面勾配設定手段で前記補正後路面勾配が設定されたことを示す値を記憶する記憶手段と、 前記補正後路面勾配に基づいて、該路面が平坦路か勾配路かを判定する路面勾配判定手段と、 少なくとも前記記憶手段に前記補正後路面勾配が設定されたことを示す値が記憶されており、且つ記路面勾配判定手段で前記路面が平坦路と判定され、且つ前記シフト位置検出手段で前記シフトレバーが走行レンジにセットされていると判定された場合に自動変速機のニュートラル制御を実行するニュートラル制御手段と を備えることを特徴とする自動変速機のニュートラル制御装置。 【請求項2】 前記記憶手段は前記検出誤差補正値が設定された時、前記補正後路面勾配が設定されたことを示す値を記憶することを特徴とする請求項1記載の自動変速機のニュートラル制御装置。 【請求項3】 前記補正後路面勾配設定手段は、前記勾配検出手段で検出した前記路面勾配から、車速検出手段で検出した単位時間当たりの車速の変化量に基づいて算出した計算加速度を減算して前記検出誤差補正値を設定する ことを特徴とする請求項1又は2記載の自動変速機のニュートラル制御装置。 【請求項4】 前記勾配検出手段は車両の前後に作用する加速度を検出する加速度センサであり、 前記検出誤差補正値設定手段は、車両の挙動から路面の勾配を推定して設定した勾配推定値と、車速検出手段で検出した単位時間当たりの車速の変化量に基づいて算出した計算加速度とに基づき、前記勾配推定値が設定値以下の平坦路で且つ前記計算加速度が設定値以下の走行状態と判定したとき、前記加速度センサで検出した前記加速度から前記計算加速度を減算して前記検出誤差補正値を設定する ことを特徴とする請求項1又は2記載の自動変速機のニュートラル制御装置。」 3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について (1)本願発明1は、上記2.に記載したとおりである。 (2)引用例 (2-1)引用例1 特開2004-286146号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (あ)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、車両の自動変速機の制御に関し、特に、ニュートラル制御を実行する自動変速機の制御に関する。 【0002】 【従来の技術】 車両に搭載される自動変速機は、エンジンとトルクコンバータ等を介して繋がるとともに複数のクラッチやブレーキなどの摩擦係合要素を有してなるギヤ式の変速機構から構成され、たとえば、アクセル開度および車速に基づいて自動的に摩擦係合要素の係合および解放を切換えて、自動的に変速比(走行速度段)の切換えを行なうように構成される。また、変速機構としては、無端金属ベルトを、径を可変に制御できる2つのプーリに巻き掛けて、たとえば、アクセル開度および車速に基づいて自動的にこれら2つのプーリの径の比率を変化させることにより、自動的に変速比(走行速度段)の切換えを行なうように構成される変速機構もある。 【0003】 一般的に、自動変速機を有した車両には運転者により操作されるシフトレバーが設けられ、シフトレバー操作に基づいて変速ポジション(例えば、後進走行ポジション、ニュートラルポジション、前進走行ポジション)が設定され、このように設定された変速ポジション内(通常は、前進走行ポジション内)において自動変速制御が行われる。 【0004】 このような自動変速機を有した車両において、前進走行ポジションが設定されて車両が停止している状態では、アイドリング回転するエンジンからの駆動力がトルクコンバータを介して変速機に伝達され、これが車輪に伝達されるため、いわゆるクリープ現象が発生する。クリープ現象は、登坂路での停車からの発進をスムーズに行わせることができるなど、所定条件下では非常に有用なのであるが、車両を停止保持したいときには不要な現象であり、車両のブレーキを作動させてクリープ力を抑えるようになっている。すなわち、エンジンからのクリープ力をブレーキにより抑えるようになっており、その分エンジンの燃費が低下するという問題がある。 【0005】 このようなことから、前進走行ポジションにおいて、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキが作動されるとともにアクセルがほぼ全閉となって車両が停止している状態では、前進走行ポジションのまま変速機をニュートラルに近いニュートラル状態として、燃費の向上を図るニュートラル制御が提案されている。 【0006】 このニュートラル制御は、車両が急勾配の登坂路で行なわれると、ニュートラル制御からの復帰時に車両が後退する可能性があるので、ニュートラル制御の開始を許可する条件として車両が停止した路面の傾斜に対する上限値が設定される。車両に搭載された加速度センサ(Gセンサ)により検知した路面の傾斜が、設定された上限値を下回っているとニュートラル制御の開始が許可される。そのため、この加速度センサの信頼性は高くなければならない。 【0007】 特開2001-336618公報(特許文献1)は、傾斜センサ、加速度センサの取付誤差、温度および経年変化による誤差などを自動的に補正する補正装置を開示する。この補正装置は、車両に配設されて車両の走行方向の傾斜を検出する傾斜センサと、車両においてエンジン駆動力を車輪に伝達する動力伝達系を構成する変速機と、車両のブレーキの作動状態を検出するブレーキ作動検出器と、動力伝達系における変速機の出力軸から車輪に至る出力側回転部材の回転数を検出する出力回転数検出器とを有し、変速機によりニュートラル状態が形成されている間において、ブレーキ作動検出器により車両のブレーキが解除されたことが検出されかつ回転数検出器により出力側回転部材の回転がないことが検出されたときに、傾斜センサによる検出値を水平基準値とするように更新補正する。 【0008】 この補正装置によると、変速機によりニュートラル状態が形成されている間において、ブレーキ作動検出器により車両のブレーキが解除されたことが検出されかつ回転数検出器により出力側回転部材の回転がないことが検出されたときに、傾斜センサによる検出値を水平基準値とするように更新補正する。変速機がニュートラル状態で、ブレーキがオフであり、出力側回転部材の回転がないとなるのは、車両が平坦路上に位置して水平となった状態のときであり、このときに傾斜センサの検出値が水平を検出するように更新補正する、このため、傾斜センサの取付誤差があってもこれを自動的に補正することができ、さらに、温度変化、経年変化等により傾斜センサの検出値に誤差が生じてもこれをその都度、自動的に補正することができ、常に正確な傾斜を検出することができる。 【0009】 【特許文献1】 特開2001-336618公報 【0010】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、ニュートラル制御の開始を許可する条件として設定される、傾斜の上限値は、車両の構造(エンジン、変速機など)により車両の種類ごとに一義的に決定され、その後変更されるものではない。そのため、経時的なGセンサの変化、Gセンサごとのばらつき、車両の搭乗者の変化、路面状態の差によるタイヤの転がり抵抗の変化、ドライバの技量などの要因が考慮されない。このような様々な要因を考慮して詳細にニュートラル制御を実行されることにより燃費の向上を実現できる。 【0011】 しかしながら、特許文献1に開示された補正装置を用いても、正確に傾斜を検出することができても、傾斜の上限値が変化するものではない。そのため、Gセンサの経時的変化を補正できても、それ以外の要因を考慮してニュートラル制御の開始を許可する制御を実行することはできない。そのため、ニュートラル制御を実行する範囲を狭めたままの状態である可能性も考えられ、燃費のさらなる向上や、ニュートラル制御からの復帰時のおける不具合(車両の後退など)の解決などを達成できない。 【0012】 本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、車両が登坂路に停止した場合であっても、最適にニュートラル制御を実行して燃費向上の効果の実現することができる自動変速機の制御装置および制御方法を提供することである。」 (い)「【0051】 このような構造を有するECU1000は、ニュートラル制御を開始する条件の1つである路面勾配を学習する。ECU1000は、その内部の記憶部にニュートラル制御を開始するときのGセンサから入力された値と、そのニュートラル制御から復帰したときのプライマリプーリ回転数センサ410で検知した車両が後退した分に対応するパルス数を記憶する。このようなGセンサ値とパルス数との組合せをテーブルに記憶しておいて、そのテーブルからGセンサ値とパルス数との関係を表わすマップを作成する。一方、ECU1000は、車両の初期状態におけるGセンサ値とパルス数との関係を記憶するとともに、ニュートラル制御の開始を許可する路面勾配の上限値をGセンサの値として記憶する。ECU1000は、初期状態として記憶させたGセンサ値とパルス数との関係を用いて、路面勾配の上限値(Gセンサ値)に対応するパルス数を算出する。ECU1000は、経時的に変化する要因に対応するために作成されたGセンサ値とパルス数との関係を表わすマップを用いて、算出されたパルス数に対応する現実の車両状態に対応した路面勾配の上限値(Gセンサ値)を算出する。初期状態における路面勾配の上限値(Gセンサ値)と算出された路面勾配の上限値(Gセンサ値)との差分が補正値になる。ECU1000におけるこのような処理をさらに詳細に述べる。」 (う)「【0066】 以上のようにして、本実施の形態に係る制御装置であるECUによると、車両がニュートラル制御を開始するときのGセンサ値と、車両がニュートラル制御から復帰するときのパルス値とが、それぞれ検知されテーブルに格納される。車両は、車両の種類ごとに予めニュートラル制御の開始を許可する路面勾配の上限値を表わすGセンサ値(G(B))が設定されるとともに、そのGセンサ値(G(B))にパルス数(N(B))が設定されている。ニュートラル制御からの復帰時に許容される車両の後退量に対応するパルス数(N(B))に対応する、車両の最新状態におけるGセンサ値とパルス数とのマップを用いて、最新の車両の状態を考慮した、ニュートラル制御の開始を許可する路面勾配の上限値を表わすGセンサ値(G(RET))が算出される。これは、現実の車両の状態を考慮して、ニュートラル制御の開始を許可する路面勾配を算出したことになる。この算出された路面勾配に基づいて、ニュートラル制御の開始を許可する路面勾配の上限値を補正する。このように補正すると、たとえば車両の種類ごとに一義的に路面勾配の上限値が設定されていてニュートラル制御の実行範囲が狭まることを避けることができ、最適にニュートラル制御を実行して燃費向上の効果の実現することができる。」 以上の事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。 「ニュートラル制御を実行する自動変速機の制御装置において、 前進走行ポジションが設定され、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキが作動されるとともにアクセルがほぼ全閉となって車両が停止している状態であって、車両に搭載された加速度センサ(Gセンサ)により検知した路面の傾斜が、設定された上限値を下回っている場合に、ニュートラル制御の開始が許可されるニュートラル制御手段と、 加速度センサの取付誤差、温度および経年変化による誤差などを自動的に補正する補正手段と、 最新の車両の状態を考慮した、ニュートラル制御の開始を許可する路面勾配の上限値を表わすGセンサ値が算出され、これに基づいて、ニュートラル制御の開始を許可する路面勾配の上限値を補正する手段と、 を備えるニュートラル制御を実行する自動変速機の制御装置。」 (2-2)引用例2 特開2006-307866号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (か)「【0001】 本発明は、車両に作用する慣性力や重力などに基づき路面の勾配を測定する路面勾配測定装置、及びその測定結果に基づいてエンジンの自動停止が制御されるエンジン自動停止始動装置に関する。」 (き)「【0052】 (第2の実施形態) 以下、本発明にかかる路面勾配測定装置及び同路面勾配測定装置を搭載したエンジン自動停止始動装置の第2の実施形態について、上記第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。 【0053】 上記第1の実施形態では、車両停止時に加速度センサ35を用いて路面勾配を測定した。これにより、先の図4に示すような車両の走行状態に基づく路面勾配の算出によっては同勾配算出を精度よく行なうことができないときに、同路面の勾配を精度よく測定することができ、エンジン自動停止制御の禁止又は許可の的確な判断が可能となった。 【0054】 ただし、加速度センサ35による路面勾配の検出には、同加速度センサ35の取り付け誤差やセンサ自体の経時変化による影響が及ぼされることがあり、これにより、エンジン自動停止制御の禁止又は許可の的確な判断が行なえない懸念がある。 【0055】 そこで本実施形態では、先の図4に示される推定エンジントルクに基づいて算出される基準加速度を用いて、加速度センサ35の検出値を補正する。すなわち、上述したように推定エンジントルクに基づいて算出される基準加速度は、車両の慣性及び重力が加味されたものとなっている。このため、この基準加速度は加速度センサ35によって検出される加速度と同等なものとなり、これを用いて加速度センサ35の検出値を補正する(学習補正)ことができる。 【0056】 詳しくは、車両走行時に、加速度センサ35の検出値が上記推定エンジントルクに基づいて算出される基準加速度に近づくように補正を行なう。具体的には、上記推定エンジントルクに基づいて算出される基準加速度と加速度センサ35の検出値との差に基づいて加速度センサ35のゼロ点をフィードバック補正する。 【0057】 また、本実施形態では、このフィードバック補正の精度を確保すべく、同補正を車両の走行状態が安定したときに行なう。すなわち、車両の走行状態が安定していないときには、加速度センサ35の検出精度が低下するのみならず、入力トルクの過渡期や、変速ショックの発生、更には暖気前のフリクションロスの影響等に起因して推定エンジントルクに基づく基準加速度の算出を精度良く行なうことができないことを考慮する。 【0058】 具体的には、車両の走行状態が安定した状態を、(イ)スロットル開度の変化量が小さい、(ロ)変速中でない、(ハ)エンジン、自動変速機の暖気完了後等の少なくとも1つ、望ましくは全てを満足する状態とする。」 (3)対比 本願発明1と引用例1発明とを対比すると、 後者の「車両に搭載された加速度センサ(Gセンサ)」は、これにより「路面の傾斜」が「検知」されるのであるから、前者の「路面勾配を検出する勾配検出手段」に相当する。 後者の「前進走行ポジション」は前者の「シフトレバー」の「走行レンジ」に相当し、後者は、「前進走行ポジションが設定され」ているかどうかを判別しているから、前者の「シフトレバーのシフト位置を検出するシフト位置検出手段」を備えている。 後者の「加速度センサの取付誤差、温度および経年変化による誤差などを自動的に補正する補正手段」と前者の「前記勾配検出手段の検出誤差を補正する検出誤差補正値を設定し、前記勾配検出手段で検出した前記路面勾配を前記検出誤差補正値で補正して補正後路面勾配を設定する補正後路面勾配設定手段」は、「勾配検出手段の誤差を補正する手段」という点で一致する。 後者は、「車両に搭載された加速度センサ(Gセンサ)により検知した路面の傾斜が、設定された上限値を下回っている」かどうかを判別しており、その判別のための手段を備えているといえる。したがって、後者の該事項と前者の「前記補正後路面勾配に基づいて、該路面が平坦路か勾配路かを判定する路面勾配判定手段」は、「路面の勾配を判定する路面勾配判定手段」という点で一致する。 後者の「前進走行ポジションが設定され、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキが作動されるとともにアクセルがほぼ全閉となって車両が停止している状態であって、車両に搭載された加速度センサにより検知した路面の傾斜が、設定された上限値を下回っている場合に、ニュートラル制御の開始が許可されるニュートラル制御手段」と、前者の「少なくとも前記記憶手段に前記補正後路面勾配が設定されたことを示す値が記憶されており、且つ記路面勾配判定手段で前記路面が平坦路と判定され、且つ前記シフト位置検出手段で前記シフトレバーが走行レンジにセットされていると判定された場合に自動変速機のニュートラル制御を実行するニュートラル制御手段」は、「少なくとも、路面勾配判定手段で路面が平坦路と判定され、且つシフト位置検出手段でシフトレバーが走行レンジにセットされていると判定された場合に自動変速機のニュートラル制御を実行するニュートラル制御手段」という点で一致する。 後者の「ニュートラル制御を実行する自動変速機の制御装置」は前者の「予め設定されているニュートラル制御条件が満足された場合、自動変速機をニュートラル制御する自動変速機のニュートラル制御装置」に相当する。 したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、 「予め設定されているニュートラル制御条件が満足された場合、自動変速機をニュートラル制御する自動変速機のニュートラル制御装置において、 路面勾配を検出する勾配検出手段と、 シフトレバーのシフト位置を検出するシフト位置検出手段と、 勾配検出手段の誤差を補正する手段と、 路面の勾配を判定する路面勾配判定手段と、 少なくとも、路面勾配判定手段で路面が平坦路と判定され、且つシフト位置検出手段でシフトレバーが走行レンジにセットされていると判定された場合に自動変速機のニュートラル制御を実行するニュートラル制御手段と を備えることを特徴とする自動変速機のニュートラル制御装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本願発明1は、 「前記勾配検出手段の検出誤差を補正する検出誤差補正値を設定し、前記勾配検出手段で検出した前記路面勾配を前記検出誤差補正値で補正して補正後路面勾配を設定する補正後路面勾配設定手段」と、 「前記補正後路面勾配に基づいて、該路面が平坦路か勾配路かを判定する路面勾配判定手段」を備えるのに対し、 引用例1発明は、 「加速度センサの取付誤差、温度および経年変化による誤差などを自動的に補正する補正手段」を備え、 「車両に搭載された加速度センサ(Gセンサ)により検知した路面の傾斜が、設定された上限値を下回っている」かどうかを判別している点。 [相違点2] 本願発明1は、 「イグニションスイッチをオンした後に前記補正後路面勾配設定手段で前記補正後路面勾配が設定されたことを示す値を記憶する記憶手段」と、 「少なくとも前記記憶手段に前記補正後路面勾配が設定されたことを示す値が記憶されており、且つ記路面勾配判定手段で前記路面が平坦路と判定され、且つ前記シフト位置検出手段で前記シフトレバーが走行レンジにセットされていると判定された場合に自動変速機のニュートラル制御を実行するニュートラル制御手段」を備えるのに対し、 引用例1発明は、 「前進走行ポジションが設定され、ブレーキペダルが踏み込まれてブレーキが作動されるとともにアクセルがほぼ全閉となって車両が停止している状態であって、車両に搭載された加速度センサにより検知した路面の傾斜が、設定された上限値を下回っている場合に、ニュートラル制御の開始が許可されるニュートラル制御手段」を備える点。 (4)判断 (4-1)相違点1について 引用例1発明は、「車両に搭載された加速度センサ(Gセンサ)により検知した路面の傾斜が、設定された上限値を下回っている」かどうかを判別しており、また、「加速度センサの取付誤差、温度および経年変化による誤差などを自動的に補正する補正手段」を備えている。技術的実質からみれば、「加速度センサ(Gセンサ)により検知した路面の傾斜」が上記「補正手段」による補正後のものであることはいうまでもない。 そして、「平坦路」というとき、制御目的等からみて特に支障のない所定の許容範囲を包含するという技術常識、及び本願明細書の【0011】の記載を参酌すると、引用例1発明は、上記「補正手段」により補正された「加速度センサ(Gセンサ)」の値に基づいて、「路面が平坦路か勾配路かを判定する路面勾配判定手段」を備えているといえる。 (4-2)相違点2について 引用例2には、特に「エンジン自動停止始動装置」(【0001】)に関して、「【0054】ただし、加速度センサ35による路面勾配の検出には、同加速度センサ35の取り付け誤差やセンサ自体の経時変化による影響が及ぼされることがあり、これにより、エンジン自動停止制御の禁止又は許可の的確な判断が行なえない懸念がある。」と記載されている。このように、加速度センサ等の検出値が種々の誤差を含み、これにより路面の判定やそれに基づく制御の精度が影響を受け得ることは、他に、例えば、特開2001-315551号公報(特に【0030】)に示されているように、当業者にとって常識ないし周知である。そして、このような課題に対処するために、引用例1発明は上記「補正手段」を設けており、引用例2(特に【0055】)には「加速度センサ35の検出値を補正する」ことが示されている。 引用例1発明は、「加速度センサ」の検出値に「補正手段」による補正がなされたかどうかを特に判別していないが、そのような補正がなされていない状態があり得ることは自明であって、当業者が、そのような状態があり得ることを認識し得ないとは到底考えられない。引用例1発明において上記の判別が特になされていないのは、(a)引用例2(特に上記(き)、図6)に記載されているように、「加速度センサ」の補正は、通常、発進後の走行中に行なわれるから、停車時には既に補正がなされている蓋然性が認められ、補正がなされていない状態での停車の機会は比較的少ないこと、(b)補正前であっても、実験等に基づいて相応に正確な初期設定が行なわれるから、通常、誤差はそれほど顕著なものではないこと、(c)仮に補正前の誤差が相当にあっても、坂道停車・発進における自動ブレーキ技術が広く知られていること等を考慮して、上記の判別をして対策を講じる必要性がそれほど高くないという設計思想に基づくものとみることができ、それが当業者の通常の合理的理解であると認められる。ただ、「加速度センサ」の検出値に「補正手段」による補正がなされていない場合には、その検出値は誤差を含む蓋然性があり、上記の判定や制御の精確性に望ましくない影響を及ぼし得ることに変わりはないから、誤差のない検出値に基づいて精確な判定・制御を行うという視点からすれば、補正がなされていない検出値に基づく判定や制御を行わないように構成することは直接的ないし素朴な当然の対策であって、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。 この点についてはまた、次のようにいうこともできる。すなわち、 一般に、センサの検出値が正確でなく、その検出値に基づいて判定・制御を行うことが望ましくない場合に、それに代替し得る他の状態値を用いて推定演算し所定の判定・制御を行うことは、例えば、特開平11-351864号公報(特に【0018】、【0024】)に示されているように、次善の策として普通に行われていることである。このような技術は、所定の制御を行うために必要なセンサの検出値が正確でない場合に、該センサの検出値に基づく制御は行なわないことを前提に、代替的手段により所要の物理量を推定していくらかでも所定の制御に近い制御を行なうという点で、所定の制御を一律に行わず、単に何もしない状態にとどまる技術より精緻であり優れているといえる。このような従来の技術水準ないし技術常識からみるとき、引用例1発明において、加速度センサの検出値の補正がなされておらず、誤差を含み得る場合に、単に、該検出値に基づく判定・制御を行わないという設計に格別の創作性・困難性があるとは認められない。 以上のように、引用例1発明において、「加速度センサ」の検出値に「補正」がなされていないときには該検出値に基づく制御を行わないように構成する場合、「加速度センサ」の検出値に「補正」がなされたかどうかを判別する手段が必要になるが、制御の過程において、ある条件の成否や判断の有無の結果をフラグで表象することは普通・慣用の手段であり、また、特開平11-351864号公報(特に【0018】)に「ゼロ点補正の完了は、設定スイッチからの信号に基づいて判定する」と記載されているように、何らかの信号や値をもって補正の完了等の表象とすることは周知である。「加速度センサ」の検出値に「補正」がなされたかどうかを判別するにあたって、該補正の成否ないし有無を表わすフラグや信号・値の表象を用いることは、適宜なし得る設計的事項にすぎない。 そして、本願発明1の効果は、引用例1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が予測し得る程度のものである。 なお、次の点を付記する。 (A) 引用例1発明は、「最新の車両の状態を考慮した、ニュートラル制御の開始を許可する路面勾配の上限値を表わすGセンサ値が算出され、これに基づいて、ニュートラル制御の開始を許可する路面勾配の上限値を補正する手段」を備えているが、本願発明1が、このような補正手段を備えるかどうかは任意的であって、この点で相違するというわけではない。 仮に、本願の請求項1の記載からみて、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)はこのような補正手段を備えないということが特定されているとしても、制御等の精度からみると、路面の判定にあたって上記の「上限値」、あるいは「しきい値」(本願明細書の【0011】)を補正することが望ましいことは明らかであって、例えば、制御装置・機能の簡素化等の点から、単に、このような補正手段を備えない構成とすることは適宜の設計であり、格別のことではない。 また、引用例1発明は、引用例1の「本発明」の「実施の形態」に基づいて認定したものであるが、引用例1に記載される「発明」は「本発明」に限られるものではなく、引用例1の例えば、【0001】?【0008】の記載に基づいて、上記の補正手段を有しない発明を把握することも十分に可能である。 (B) 請求人は、審判請求の理由の「(c)本願発明と刊行物との対比」において、「このように、刊行物1,2には、「補正後路面勾配が設定されたことを示す値」が、ニュートラル制御を実行する条件として考慮されていない以上、たとえ、刊行物1,2を寄せ集めたとしても、上述したような、「勾配検出手段の検出誤差の影響を受けることなく、路面が平坦路か勾配路かを高精度に判定することができる」という本願特有の効果を導き出すことはできず、…」と主張する。また、本願明細書の【0052】には、「この加速度学習補正値λで加速度センサ26で検出した前後加速度Gxが学習補正された場合にのみ、ニュートラル制御が実行される。その結果、加速度センサ26の検出誤差の影響を受けることなく、路面が平坦路か勾配路かを高精度に判定することができる。更に、路面の平坦路を高精度に判定できるため、相対的にニュートラル制御の実行頻度が高くなり、燃費向上を実現することができる。」と記載されている。 【0052】の「…学習補正された場合にのみ、ニュートラル制御が実行される。」という事項は、「…学習補正された場合に、ニュートラル制御が実行される。」ことと、「…学習補正され」ていない場合に、ニュートラル制御が実行されないことの両者を意味する。前者では、確かに、「…学習補正された場合」には、「学習補正」されていない場合に比べると、「路面が平坦路か勾配路かを高精度に判定することができる」といえるが、そのようなことは自明である。また、補正ないし学習制御を行なうことは、引用例1、2に示されており、格別のことではない。 したがって、問題はむしろ後者であるが、「学習補正」されていない場合に「ニュートラル制御」が実行されないという事項によって、何と対比して、どのような理由で、「路面が平坦路か勾配路かを高精度に判定することができる」のか、特に説明がなく、必ずしも明確でない。「学習補正」されていない場合に「ニュートラル制御」を実行しない(図6では路面の勾配の判定を行わない)という構成と、誤差を含み得るものの近似値・関連値であり得るセンサの検出値に基づいて判定・制御するという構成とを比べて、何れが「高精度」の判定といえるか、その根拠が明確でない。そもそも、「学習補正」されていない場合には路面の勾配の判定を行わないとすると、それについては、判定の精度について比較したり論じたりできないはずである。 また、本願明細書の【0012】、図6等には温度と検出誤差との関係、その個体差について記載されているのに対し、図4、5にはそれらについて特に記載されていない。そして、学習補正がなされても、その後、学習条件が成立せず、相当の時間が経過したような場合に、前回の学習補正時(図4)と今回のニュートラル制御判定時(図5)における温度等の条件が必ずしも同じとは限らないことに留意すると、温度と検出誤差との関係、及びその個体差に関して、どのような理由で、「路面が平坦路か勾配路かを高精度に判定することができる」のか、特に説明がなく、必ずしも明確でない。 本願明細書の【0053】に温度について説明があるが、それは、上記の前者、すなわち、「…学習補正された場合に、ニュートラル制御が実行される。」場合の説明にすぎない。 以上の点はひとまず措くとしても、「加速度センサ」の検出値に「補正」がなされていない場合に、単に、該検出値に基づく演算・制御を行わないように構成することは当業者であれば容易に想到し得たものであることは、上述したとおりである。 (5)むすび 以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4.結語 以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、請求項2?4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-09-04 |
結審通知日 | 2013-09-10 |
審決日 | 2013-09-24 |
出願番号 | 特願2007-306340(P2007-306340) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石田 智樹 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
森川 元嗣 島田 信一 |
発明の名称 | 自動変速機のニュートラル制御装置 |
代理人 | 伊藤 進 |