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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1281177
審判番号 不服2013-2880  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-14 
確定日 2013-11-07 
事件の表示 特願2007- 78604「転がり疲労寿命に優れた鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 9日出願公開、特開2008-240019〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年3月26日の出願であって、平成24年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年4月6日付けで手続補正がなされ、同年11月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年2月14日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明は、平成24年4月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
機械部品に使用する際の鋼の表面硬さが58HRC以上であり、かつ質量割合でOが20ppm以下、Alが0.002%以上?0.010%未満を満足する機械構造用鋼であって、介在物系を(縦×横)^(1/2)と定義するとき、その鋼中に存在する検鏡面積3,000mm^(2)に存在する最大介在物径を有する酸化物系非金属介在物あるいは15μm以上の介在物径を有する全ての酸化物系非金属介在物の組成が質量%でSiO_(2):30%以上であることを特徴とする転がり疲労寿命に優れた機械用部品に使用される鋼。」
(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第3 原査定の拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開平3-79741号公報
刊行物2:特開2006-200027号公報
刊行物3:特開2004-353746号公報
刊行物4:特開2006-63402号公報

第4 刊行物の記載事項(以下、審決注:「・・・」は、記載事項の省略を意味する。)
1.刊行物1
1-1
「【発明の目的】
(産業上の利用分野)
本発明は、転動疲労特性に優れていることが要求される用途、例えば軸受、歯車、摺動部材などの素材として好適に利用される転動疲労特性に優れた鋼に関するものである。
(従来の技術)
従来、高強度材料の疲労特性には、Al_(2)O_(3)のような酸化物系介在物が有害であることが知られており、一般的には疲労特性の改善を目的として酸化物系介在物を低減する手法が採用されている。また、軸受などのように転動疲労を受ける部材においても酸化物系介在物の有害性が知られており、同様の溶製方法が採用されている。」(第2頁左下欄第4?18行)

1-2
「(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、溶解時にAl_(2)O_(3)などを低減させるためには長時間の真空脱ガス処理が必要となり、また原材料の面からもAlの混入を防止するなどの必要があり、工業的に困難なことが多いという課題があった。
(発明の目的)
本発明は、このような従来の課題にかんがみてなされたもので、鋼中の[O]含有量を極微量にまで低減させる、必要がなくしたがって長時間の真空脱ガス処理を必要とすることがないにもかかわらず、転動疲労特性に優れたものとなっている転動疲労特性に優れた各種鋼を提供することを目的としている。」(第2頁右下欄第4?17行)

1-3
「Siは溶解時に脱酸剤として作用するが、このSi量が少ないと転動疲労特性が低下したものとなる」(第4頁左上欄第18?20行)

1-4
「鋼中のAl量が多い場合にはAl_(2)O_(3)を多量に含む酸化物となりやすい。このAlは原料やスラグおよび炉材等から混入されてくるため、ある程度低下させておく必要がある。そして、おおよそSiO_(2):50%、Al_(2)O_(3):20%、CaO:30%からなる酸化物系介在物の組成とするためにはAlは約10ppm程度以下であるようにすることが望ましい。」(第4頁左下欄第16行?右下欄第3行)

1-5
第1表には、No.4として、C:1.00重量%、Si:0.26重量%、Mn:0.43重量%、P:0.011重量%、S:0.010重量%、Cu:0.02重量%、Ni:0.02重量%、Cr:1.39%重量%、Mo:0.01%重量%、s-Al:0.0009%重量%、O:0.0019%重量%、Ti:0.0018%重量%、Ca:0.0001%重量%、Mg:0.0001%重量%、残部Feおよび他の不純物の鋼が記載されている。(第5頁第1表)

1-6
第2表には、No.4として、鋼中介在物の酸化物量(重量%)がSiO_(2):65の鋼が記載されている。(第6頁第2表)

2.刊行物2
2-1
「【0024】
Al:0.005%以下
Alは、鋼中の酸化物を硬質にするのでできるだけ少ない方が望ましく、できれば0.002%以下が望ましい。しかし脱酸剤としてAlを使わなければ容易に達せられる0.005%以下であれば本発明の効果は得られるので、0.005%以下とする。」
2-2
「【0026】
酸化物のサイズと個数
圧延方向に平行な断面の160mm^(2)中に観察される酸化物のサイズと個数が、円相当直径3μm以上のものが100個以下で、且つそのうち10μm以上のものが2個以下であること。ここで円相当直径とは、「√(長径×短径)」で算定するものとする。・・・このように酸化物のサイズ別観察個数の上限を規定するのは、転動疲労寿命に対して最も有害な硬質酸化物を軟質化することによってその有害性を改善しても、やはり大きい酸化物は有害であるからである。転動疲労寿命に対して本当に有害なのは、軸受になった時に大きい接触応力が発生する部位に存在する最も大きい酸化物であるので、上記の10μm以上のものがほぼ直接的に対応する・・・
【0027】
酸化物の組成
・・・清浄度が高い軸受鋼を製造する背景技術では、もともと脱酸剤としてAlを使うために最終的に鋼中に残留する酸化物は極めて硬質なスピネル(Al_(2)O_(3)・MgO)系等が主体となる。本発明による方法では、脱酸剤としてAlを使わなくても、添加合金中にいくらか含まれるAlや、溶鋼が接する耐火物から入ってくるAlにより酸化物組成はスピネル系等となる傾向を示すため、更に取鍋精練時のスラグ組成を適正に選んで、酸化物組成をスピネル系等でないものに誘導した。本発明による方法では、極めて硬質なスピネル系等の酸化物の個数比率を60%未満に減少させることができ、その時切削加工時の工具寿命と転動疲労寿命との両方が、背景技術に対して大幅に向上することを見出したので、上記の通り酸化物組成の構成比率を規定する。
・・・
【0029】
(1)本発明の第1の要点は、転炉または電気炉による軸受鋼の酸化精錬後の脱酸およびその後の成分調整のための合金添加において、脱酸生成物として極めて硬質のスピネル系等ができてしまうことを避けるために脱酸力が強いAlを使わないで、実質的にAlを含まないFe-Siまたは金属Siで脱酸および成分調整することである。・・・」
2-3
【表4】には、記号A?Eとして、森式スラスト型転動疲労試験における10%破壊寿命(L_(10)寿命に相当する。)が66.7(×10^(6)回)以上であることが記載されている。

3.刊行物3
3-1
「【請求項1】
・・・第二軌道面の表面硬さはHRC58?63であることを特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニット」

4.刊行物4
4-1
「【請求項1】
機械部品に使用される際に鋼材の表面硬さを58HRC以上として用いる機械構造用鋼・・・」
4-2
【表2】には、供試材A?Mとして、L_(10)寿命が11.0(×10^(6)cycle)以上であることが記載されている。

第5 当審の判断
1.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、軸受、歯車、摺動部材などの素材として好適に利用される転動疲労特性に優れた鋼であって(1-1)、C:1.00重量%、Si:0.26重量%、Mn:0.43重量%、P:0.011重量%、S:0.010重量%、Cu:0.02重量%、Ni:0.02重量%、Cr:1.39%重量%、Mo:0.01%重量%、s-Al:0.0009%重量%、O:0.0019%重量%、Ti:0.0018%重量%、Ca:0.0001%重量%、Mg:0.0001%重量%、残部Feおよび他の不純物であり(1-5)、鋼中介在物の酸化物量がSiO_(2):65重量%の鋼(1-6)が記載されている。
そうすると、刊行物1には、「軸受、歯車、摺動部材などの素材として好適に利用される転動疲労特性に優れた鋼であって、O:0.0019%重量%(以下、「重量」は記載しない。19ppmに相当する。)、s-Al:0.0009%(以下、「s-Al」は、実質的に鋼中のAlと同義であるので、「Al」と記載する。)であり、鋼中介在物の酸化物量がSiO_(2):65%の鋼」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「軸受、歯車、摺動部材」が機械部品であり、「軸受、歯車、摺動部材などの素材として好適に利用される転動疲労特性に優れた鋼」が転がり疲労寿命に優れた機械構造用鋼であることは明らかであるから、両者は、「Oが19ppmを満足する機械構造用鋼であって、酸化物系非金属介在物の組成がSiO_(2):65である転がり疲労寿命に優れた機械用部品に使用される鋼」で一致する。
他方、本願発明の表面硬さが58HRC以上であるのに対して、引用発明の表面硬さが明らかでない点(相違点1)、本願発明のAlが0.002%以上?0.010%未満であるのに対して、引用発明のAlが0.0009%である点(相違点2)、本願発明のSiO_(2)の組成が介在物系を(縦×横)^(1/2)と定義するとき、その鋼中に存在する検鏡面積3,000mm^(2)に存在する最大介在物径を有する酸化物系非金属介在物あるいは15μm以上の介在物径を有する全ての酸化物系非金属介在物の組成であるのに対して、引用発明がこれにつき明らかでない点(相違点3)で相違する。

3.相違点についての判断
(1)相違点1について
引用発明も軸受に用いられるものであるから(1-1)、表面硬さが軸受に用いられる程度の高いものであるところ、引用発明の技術分野において、軸受に用いられるものの表面硬さが58HRC以上であることは、公知であるから(3-1、4-1)、上記相違点1に係る表面硬さの限定は、当業者が容易に成し得るというべきである。

(2)相違点2について
刊行物1には、鋼中のAl量を「ある程度低下させておく」、Alは約10ppm「程度」以下であるようにすることが「望ましい」と記載されているにとどまり(1-4)、引用発明は、Al量の上限が厳格に限定されたものではなく、また、「Alは約10ppm程度以下であるようにすることが望ましい」のは、Al_(2)O_(3)を20%とする場合であって、例えば、Al_(2)O_(3)を30%とする場合ならば、さらに多いAl量が許容され得ると解するのが相当である。
すなわち、引用発明は、高強度材料の疲労特性に有害であるAl_(2)O_(3)を低減する際、Al_(2)O_(3)の低減に必要な長時間(コスト的に不利であることは技術常識である。)の真空脱ガス処理を行わないものであって(1-2)、コストとの兼ね合いからAl量を可及的に低くするにとどまるものであり(1-4)、Al量を限定していないことから見ても、Al量自体には厳格な意味がないと解するのが相当である。
そして、引用発明の技術分野において、Alが0.002%以上に許容されることは、公知、周知である(2-1、特公平4-5742号公報第3頁第5欄第27?30行、特開昭60-194047号公報第3頁左下欄第3?6行、特開昭54-128418号公報第3頁右下欄第16?19行)。
そうすると、引用発明において、Al量を0.002%以上にすることは、当業者が適宜なし得るものである。
したがって、上記相違点2に係るAl量の限定は、当業者が容易に成し得るというべきである。

(3)相違点3について
引用発明は、鋼中介在物の大きさによらず、「SiO_(2 )65%」とするものであり(1-6)、全ての鋼中介在物中のSiO_(2)を65%とするものと解されるから、SiO_(2)の組成が介在物系を(縦×横)^(1/2)と定義するとき、その鋼中に存在する検鏡面積3,000mm^(2)に存在する最大介在物径を有する酸化物系非金属介在物あるいは15μm以上の介在物径を有する全ての酸化物系非金属介在物のSiO_(2)の組成も優に30%以上であると解するのが相当である。
そうすると、上記相違点3は、実質的な相違点とはいえないというべきである。
仮に、そうでないとしても、刊行物2には、転動疲労寿命に対して有害な酸化物系介在物として、硬質なスピネル(Al_(2)O_(3)・MgO)系の介在物が示された上で、転動疲労寿命に対して本当に有害なものが「最も大きい酸化物である」と記載され、また、10μm以上の酸化物系介在物を例示しつつ、「大きい酸化物は有害である」とも記載されているから(2-2)、最大径酸化物や最大でなくとも大きな酸化物が転動疲労寿命に対して有害であると解するのが相当である。
さらに、刊行物2には、「脱酸生成物として極めて硬質のスピネル系等ができてしまうことを避けるために脱酸力が強いAlを使わないで、実質的にAlを含まないFe-Siまたは金属Siで脱酸」すると記載されているから(2-2)、その分、酸化物系非金属介在物中のSiO_(2)量が増加すると解するのが合理的である。
そうすると、刊行物1、2に接した当業者であれば、脱酸剤としてAlを用いずにSiを用いる引用発明において(1-3)、最大径酸化物や最大でなくとも大きな酸化物が転動疲労寿命に対して有害であり、これらの酸化物中のSiO_(2)量を増加させることを容易に推考し得るといえる。
なお、検鏡面積を3,000mm^(2)とした上で最大介在物径を予測し、これとL_(10)寿命との関係を求める評価方法は、周知であるから(「軸受鋼の転動疲労寿命における非金属介在物の大きさの影響」、Sanyo Technical Report Vol.12(2005)No.1、p.43のFig.7及び右欄第2?3行、長尾ら)、検鏡面積を3,000mm^(2)とすること自体に創作性は認められない。
以上より、検鏡面積3,000mm^(2)中に存在する「最も大きい酸化物」や「大きい酸化物」のSiO_(2)量を30%以上とすることは、当業者が容易に推考し得ることといえる。
したがって、上記相違点3は、当業者が容易に成し得るというべきである。

加えて、本願発明に係る転がり疲労寿命に優れたという効果(【0009】【0030】)も格別顕著とはいえない(2-3、4-1参照)。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2?4に記載された技術的事項及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、原査定の拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-06 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-24 
出願番号 特願2007-78604(P2007-78604)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小谷内 章長谷山 健  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 山田 靖
大橋 賢一
発明の名称 転がり疲労寿命に優れた鋼  
代理人 横井 健至  
代理人 横井 知理  

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