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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01D
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 F01D
管理番号 1281237
審判番号 不服2012-13295  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-12 
確定日 2013-11-06 
事件の表示 特願2004-137238「タービン内部をシールするのを可能にするための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-332736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年5月6日(パリ条約による優先権主張 2003年5月7日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成19年5月2日付けで手続補正書が提出され、平成21年11月2日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年5月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成22年8月17日付けの拒絶理由通知に対し、平成23年2月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成23年7月5日付けの拒絶理由通知に対し、平成24年1月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年3月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成24年7月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成24年8月23日付けで審判請求書の請求の理由を変更する手続補正書が提出され、さらに、当審において平成24年11月8日付けの書面による審尋に対し、平成25年5月13日付けで回答書が提出されたものである。

2.本件補正
平成24年7月12日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年1月12日付けの手続補正書により補正された)請求項1ないし12において、請求項8及び12を削除し、請求項9ないし11の項番号を順次繰り上げて本件補正後の請求項8ないし10としたものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除を目的として、適法になされたものである。

3.本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲、平成19年5月2日付けの手続補正書によって補正された明細書及び願書に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「 【請求項1】
外側ハウジング(22)と、
第1の軸線(48)を中心に回転可能に前記外側ハウジング内に支持されたロータシャフト(12)と、
前記ロータシャフトに固定され、その末端先端部(68)にバケットカバー(66)を有し、かつ流れ導入側(50)及び流れ流出側(52)を有するバケット(16)と、
前記外側ハウジングに取付けられかつ前記バケットカバーと対向して配置されたスピルストリップ(82)を有するノズルダイアフラム(20)であって、前記スピルストリップがほぼ水平な接触面(86)を有するとともに、前記スピルストリップ(82)が背後をばねで付勢されかつ半径方向に可動である、ノズルダイアフラム(20)と、
前記バケットカバーから延びて該バケットカバーと前記ほぼ水平な接触面との間のギャップ内に前記スピルストリップとの間のシールを形成する1本の突出部(80)と、
を含むタービン(10)。」

4.引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-123803号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複合発電プラントや従来型火力発電プラントや原子力発電プラントなどに使用される蒸気タービンのシール装置、およびそのシール装置を適用した蒸気タービン、およびその蒸気タービンを適用した発電プラントに関する。
【0002】
【従来の技術】蒸気タービンの静翼は翼列をなしてタービンシャフトに近接してケーシングに取り付けられ、タービンシャフトに翼列をなして取り付けられる動翼と組み合わされて段落を形成し、タービン内に流入した蒸気を静翼にて膨張させて高速にし、この高速の蒸気流を動翼に流入することによりタービンシャフトを回転している。従って静翼とタービンシャフトとの間にはタービンシャフトの回転を可能にするために隙間が設けられているが、静翼に流入する蒸気はこの隙間から静翼をバイパスする漏れ蒸気となって流れ、タービンの性能低下の一因となるので、この漏れ蒸気量を小さくするため、タービンシャフトに近接する部分の静翼内輪にシールフィンが設けられる。
‥‥(中略)‥‥
【0004】図17(a)、(b)、(c)は従来のラビリンスシールの代表例を示し、図中符号9は図示しないタービンケーシングに嵌合して取り付けられた静翼翼環8(静翼翼環はノズルダイアフラムと称することもある。)の内輪、すなわち、静翼内輪であり、その内周に通常は板ばね等の弾性体11を介してパッキンリング2が取り付けられ、そのパッキンリング2からパッキンリングと一体または別体に加工されたシールフィン4が内径側に向かって伸びている。」(段落【0001】ないし【0004】)

(イ)「【0038】
【発明の実施の形態】第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態による、作動流体の漏洩を防止するためのシール装置を有する蒸気タービン及びこれを備えた発電プラントについて図面を参照して説明する。
【0039】図1は本実施形態におけるシール装置の部分を示した断面図である。本実施形態における蒸気タービンは、タービンシャフト5とタービンシャフト5に設けられた動翼(図示せず)とを含む回転構造物と、静翼(図示せず)と静翼の静翼翼環8の内径側に設けられた静翼内輪9と静翼の外径側に設けられた静翼外輪(図示せず)とを含む静止構造物とを備えている。
‥‥(中略)‥‥
【0045】さらに、本実施形態においては、図1及び図2に示した静翼内輪9側のシール装置に加えて、図3に示したように動翼14の先端と静翼外輪17との間にもシール装置が設けられている。すなわち、動翼14の先端16のシュラウドカバー21の表面には、複数の円環状のシールフィン119が周設されている。これらのシールフィン119に離間対向してハニカムセル123が配置されており、このハニカムセル123は、静翼外輪17の内周面に取り付けられたパッキンリング22に設けられている。ハニカムセル123は、硬ろうによってパッキンリング22にろう付けして固定されている。
【0046】パッキンリング22は、静翼外輪17の内周面に形成された植込み部17aに装着されており、植込み部17aの内面とパッキンリング22との間には板ばね等より成る弾性体31が設けられ、この弾性体31によってパッキンリング22が動翼先端16に向かって付勢されている。なお、図3中符号12は静翼を示している。」(段落【0038】ないし【0046】)

(ウ)「【0050】次に、本実施形態の作用について説明する。
【0051】本実施形態においては、ハニカムセル110、123とシールフィン107、119とによって狭小な間隙を形成し、これにより蒸気タービンの作動流体である蒸気3の漏洩を防止している。そして、ハニカムセル110、123は蜂の巣状の構造をしているので、ハニカムセル110、123とシールフィンが107、119が接触した場合には、ハニカムセル110、123がシールフィン107、119よりも速やかに摩耗または変形するために接触が速やかに軽微なものになり、または接触が速やかに解消し、ラビング発生時の振動をより小さくかつ短時間に抑えることができる。
【0052】また、タービンシャフト5の表面及び動翼先端16のシュラウドカバー21の表面にシールフィン107、119を形成したことにより、接触時のタービンシャフト5及びシュラウドカバー21側の接触面積を大幅に低減できるので、タービンシャフト5及びシュラウドカバー21側に発生する摩擦熱の総量を大幅に低減することが可能になる。また、タービンシャフト5及びシュラウドカバー21側からシールフィン107、119を突出形成しているために、シールフィン107、119が冷却フィンの役目を果たしてタービンシャフト5及びシュラウドカバー21に摩擦熱が伝わることを阻止する構造となっている。」(段落【0050】ないし【0052】)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ウ)並びに図3及び図17の記載から、以下の事項が分かる。

(エ)上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図3の記載を技術常識に照らし合わせると、引用文献には、ケーシングと、軸線を中心に回転可能に前記ケーシング内に支持されたタービンシャフト5とを含む蒸気タービンが記載されていることが分かる。

(オ)上記(1)(イ)及び図3の記載から、引用文献に記載された蒸気タービンは、前記タービンシャフト5に設けられ、その先端16にシュラウドカバー21を有する動翼14を含むことが分かる。

(カ)上記(1)(ア)及び(イ)並びに図3及び図17の記載を技術常識に照らし合わせると、引用文献に記載された蒸気タービンは、前記ケーシングに取付けられかつ前記シュラウドカバー21と対向して配置されたハニカムセル123を取り付けたパッキンリング22を有する静翼翼環であって、前記ハニカムセル123を取り付けた前記パッキンリング22が背後を板ばね等より成る弾性体31で付勢されかつ前記動翼14の方向に可動である、静翼翼環を含むことが分かる。

(キ)上記(1)(ア)ないし(ウ)並びに図3の記載から、引用文献に記載された蒸気タービンは、前記シュラウドカバー21から延びて該シュラウドカバー21とハニカムセル123との狭小な間隙内にハニカムセル123との間のシールを形成する複数の円環状のシールフィン119とを含み、前記ハニカムセル123の前記シュラウドカバー21に対向する面には、シールフィン119が接触する面を有することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図3を参酌すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ケーシングと、
軸線を中心に回転可能に前記ケーシング内に支持されたタービンシャフト5と、
前記タービンシャフト5に設けられ、その先端16にシュラウドカバー21を有する動翼14と、
前記ケーシングに取付けられかつ前記シュラウドカバー21と対向して配置されたハニカムセル123を取り付けたパッキンリング22を有する静翼翼環であって、前記ハニカムセル123を取り付けた前記パッキンリング22が背後を板ばね等より成る弾性体31で付勢されかつ前記動翼14の方向に可動である、静翼翼環と、
前記シュラウドカバー21から延びて該シュラウドカバー21とハニカムセル123との狭小な間隙内にハニカムセル123との間のシールを形成する複数の円環状のシールフィン119とを含み、
前記ハニカムセル123の前記シュラウドカバー21に対向する面には、シールフィン119が接触する面を有する蒸気タービン。」

5.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ケーシング」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「外側ハウジング」に相当し、以下同様に「軸線」は「第1の軸線」に、「タービンシャフト5」は「ロータシャフト」に、「先端16」は「末端先端部」に、「シュラウドカバー21」は「バケットカバー」に、「動翼14」は「バケット」にそれぞれ相当する。
そして、蒸気タービンの動翼は、流れ導入側及び流れ流出側を当然に有するから、引用発明における「動翼14」は、本願発明における「流れ導入側及び流れ流出側を有するバケット」に相当する。
また、引用発明における「ハニカムセル123を取り付けたパッキンリング22」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「スピルストリップ」に相当し、以下同様に「静翼翼環」は「ノズルダイヤフラム」に、「板ばね等より成る弾性体31」は「ばね」に、それぞれ相当する。
そして、本願発明において「半径方向」とは、図2等の記載からみて、タービンホイールの半径方向であると認められるところ、引用発明においてハニカムセル123を取り付けたパッキンリング22が動翼14の方向に可動であることは、本願発明においてスピルストリップが半径方向に可動であることに相当する。
さらに、本願発明において「接触面」とは、図2等の記載からみて、突出部が接触する面であると認められるところ、「スピルストリップが接触面を有する」という限りにおいて、引用発明において「前記ハニカムセル123を取り付けた前記パッキンリング22の前記シュラウドカバー21に対向する面には、シールフィン119が接触する面を有する」ことは、本願発明において「スピルストリップがほぼ水平な接触面を有する」ことに相当する。
そして、引用発明における「前記シュラウドカバー21から延びて該シュラウドカバー21とハニカムセル123との狭小な間隙」は、本願発明における「前記バケットカバーから延びて該バケットカバーと」「接触面との間のギャップ」に相当するから、「スピルストリップとの間のシールを形成する突出部」という限りにおいて、引用発明における「複数の円環状のシールフィン119」は、本願発明における「スピルストリップとの間のシールを形成する1本の突出部」に相当する。
また、引用発明における「蒸気タービン」は、本願発明における「タービン」に包含される概念である。

したがって両者は、
「外側ハウジングと、
第1の軸線を中心に回転可能に前記外側ハウジング内に支持されたロータシャフトと、
前記ロータシャフトに固定され、その末端先端部にバケットカバーを有し、かつ流れ導入側及び流れ流出側を有するバケットと、
前記外側ハウジングに取付けられかつ前記バケットカバーと対向して配置されたスピルストリップを有するノズルダイアフラムであって、前記スピルストリップが接触面を有するとともに、前記スピルストリップが背後をばねで付勢されかつ半径方向に可動である、ノズルダイアフラムと、
前記バケットカバーから延びて該バケットカバーと前記接触面との間のギャップ内に前記スピルストリップとの間のシールを形成する突出部と、
を含むタービン。」
である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。

〈相違点〉
a.スピルストリップが有する接触面について、本願発明においては「ほぼ水平な接触面」であるのに対し、引用発明においては「接触面」は有するものの、ほぼ水平であるか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

b.「突出部」に関し、本願発明においては「1本の突出部」であるのに対し、引用発明においては「複数の円環状のシールフィン119」である点(以下、「相違点2」という。)。

6.判断
まず、上記相違点1について検討する。
本願の明細書の段落【0015】には、「スピルストリップ82は、第1の軸線48に対してほぼ平行な接触面86を有する。」との記載があることからみて、本願発明における「ほぼ水平な接触面」とは、「第1の軸線48に対してほぼ平行である面」を示すものと認められる。
一方、引用文献において、段落【0068】ないし【0071】及び図6に示された第3実施形態は、ハニカムセル123の内周面に段差を設けて、複数のシールフィン119のそれぞれの外径に対応させてハニカムセル123の内径を変化させたものであるのに対し、同引用文献に第1実施形態として記載された引用発明において、ハニカムセル123のシュラウドカバー21に対向する面にはそのような段差は設けられておらず、タービンシャフト5の軸線に対してほぼ平行であるということができる。
したがって、引用発明においてハニカムセル123のシュラウドカバー21に対向する面は、ほぼ水平な接触面であるということができ、本願発明におけるスピルストリップが有する接触面に相当する。
ゆえに、上記相違点1は、実質的なものではない。

次に、上記相違点2について検討すると、「タービンにおいて、動翼の先端部に形成するシールを1本の突出部とすること」は、周知技術(例えば、特開昭61-38103号公報の図2ないし6、特開平11-13404号公報の図1等参照。以下、「周知技術」という。)であって、引用発明において上記周知技術を適用することにより、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

なお、審判請求人は、平成24年8月23日付けの手続補正書(方式)により補正された審判請求の理由において、本願発明はバケットカバーをかしめ式テノンによってバケットに取り付けたものであるから、引用発明や周知技術によっては、本願発明で解決しようとした課題を解決することができない旨を主張している。
しかし、本願発明の発明特定事項に、バケットカバーをかしめ式テノンによってバケットに取り付けたものである旨の特定はなく、上記請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、採用することができない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-05 
結審通知日 2013-06-11 
審決日 2013-06-24 
出願番号 特願2004-137238(P2004-137238)
審決分類 P 1 8・ 571- Z (F01D)
P 1 8・ 121- Z (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲葉 大紀  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 藤原 直欣
金澤 俊郎
発明の名称 タービン内部をシールするのを可能にするための方法及び装置  
代理人 荒川 聡志  
代理人 田中 拓人  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  

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