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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1281243
審判番号 不服2012-15077  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-08-03 
確定日 2013-11-06 
事件の表示 特願2009-553832「無線でリンクした複数のイヤピースを有するヘッドセット」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月18日国際公開、WO2008/113053、平成22年 7月 8日国内公表、特表2010-523018〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、2008年3月14日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2007年3月14日 米国 2008年3月13日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年8月1日付けの拒絶理由通知に対して平成24年1月5日付けで手続補正がなされたが、同年3月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月3日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、同年11月29日付けの審尋に対し、平成25年4月30日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成24年8月3日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年8月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正

本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前に、
「【請求項1】
第1のイヤピースと、
第2のイヤピースとを備え、
ここにおいて前記第1および第2のイヤピースは互いに無線リンクで通信するように構成される、
ここにおいて前記第1のイヤピースは前記第2のイヤピースへ送信される前にデジタル化オーディオをトランスコードするプロセッサを含む、ヘッドセット。」
とあったところを、

「【請求項1】
第1のイヤピースと、
第2のイヤピースとを備え、
ここにおいて前記第1および第2のイヤピースは互いに無線リンクで通信するように構成される、
ここにおいて前記第1のイヤピースはデジタル化オーディオに対応するコーデックタイプを検出し、このコーデックタイプに基づいて前記デジタル化オーディオをトランスコードするか判断し、このコーデックタイプがトランスコーディングを必要とする所定クラスのコーデックである場合に前記第2のイヤピースへ送信される前に前記デジタル化オーディオを異なるコードへトランスコードするように構成されるプロセッサを含む、ヘッドセット。」
とすることを含むものである。

本件補正について検討するに、

本件補正は、本件補正前の請求項1の「前記第1のイヤピースは前記第2のイヤピースへ送信される前に」との特定事項を、「前記第1のイヤピースはデジタル化オーディオに対応するコーデックタイプを検出し、このコーデックタイプに基づいて前記デジタル化オーディオをトランスコードするか判断し、このコーデックタイプがトランスコーディングを必要とする所定クラスのコーデックである場合に前記第2のイヤピースへ送信される前に」と限定するとともに、本件補正前の「デジタル化オーディオ」との特定事項を、「前記デジタル化オーディオ」と限定し、また、本件補正前の「トランスコードするプロセッサを含む、」との特定事項を、「異なるコードへトランスコードするように構成されるプロセッサを含む、」と限定するものである。

よって、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。

本願補正発明は、再掲すれば、次に記載するとおりのものである。

「第1のイヤピースと、
第2のイヤピースとを備え、
ここにおいて前記第1および第2のイヤピースは互いに無線リンクで通信するように構成される、
ここにおいて前記第1のイヤピースはデジタル化オーディオに対応するコーデックタイプを検出し、このコーデックタイプに基づいて前記デジタル化オーディオをトランスコードするか判断し、このコーデックタイプがトランスコーディングを必要とする所定クラスのコーデックである場合に前記第2のイヤピースへ送信される前に前記デジタル化オーディオを異なるコードへトランスコードするように構成されるプロセッサを含む、ヘッドセット。」

2 引用例及びその記載事項

(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2004-120313号公報(平成16年4月15日公開、以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤレスヘッドセットシステムに関し、特に、ユーザの左右の耳部に装着する各音声出力部が無線通信により接続されたワイヤレスヘッドセットシステムに関する。」

「【0012】
本具体例では、特に、無線通信としてブルートゥース(登録商標)に準拠した近距離無線通信を用いるものとする。」

「【0014】
続いて、図2にワイヤレスヘッドセットシステム1の構成図を示す。
【0015】
本体装置4には、外部機器5と接続するための接続端子が設けられており、外部機器5からのオーディオ信号が入力できるようになっている。本体装置4は、この接続端子を介して外部機器5から送られるオーディオ信号をブルートゥース通信により右耳用ヘッドセット2に送信するブルートゥースモジュールを41備えている。
【0016】
右耳用ヘッドセット2には、本体装置から送信されたオーディオ信号をブルートゥース通信により受信する。また、ここで受信したオーディオ信号を左耳用ヘッドセット3に、やはりブルートゥース通信により送信するブルートゥースモジュール21が設けられている。また、右耳用ヘッドセット2には、ブルートゥースモジュール21を介して本体装置4より受信したオーディオ信号を出力するスピーカ22を備えている。
【0017】
左耳用ヘッドセット3は、右耳用ヘッドセット2からブルートゥース通信によって送られたオーディオ信号を受信するブルートゥースモジュール31と、ここで受信したオーディオ信号を出力するスピーカ32とを備えている。
【0018】
また、この右耳用ヘッドセット2及び左耳用ヘッドセット3は、それぞれ互いの無線通信(ブルートゥース通信)を確立するための制御回路23,33を備えている。この制御回路23,33は、互いにここで定めるブルートゥースの通信可能距離にあるか否かを判別している。」


ア 引用例1には、「ワイヤレスヘッドセットシステム」(段落【0001】、段落【0014】)において、「本体装置から送信されたオーディオ信号をブルートゥース通信により受信する、右耳用ヘッドセット」を備えること(段落【0016】)、及び、「右耳用ヘッドセット2からブルートゥース通信によって送られたオーディオ信号を受信する、左耳用ヘッドセット」を備えることが記載されている(段落【0017】)。
ここで、 右耳用ヘッドセット2に注目すれば、引用例1に記載の「右耳用ヘッドセット」は、「オーディオ信号を受信し、左耳用ヘッドセットにオーディオ信号を、ブルートゥース通信によって送信するよう構成される」ということができる。
したがって、引用例1には、「本体装置から送信されたオーディオ信号をブルートゥース通信により受信する、右耳用ヘッドセットを備え、右耳用ヘッドセットは、オーディオ信号を受信し、左耳用ヘッドセットにオーディオ信号を、ブルートゥース通信によって送信するよう構成される」ことが記載されているということができる。

イ 引用例1には「右耳用ヘッドセット及び左耳用ヘッドセットは、それぞれ互いの無線通信(ブルートゥース通信)を確立するための制御回路を備える」ことが記載されている(段落【0018】)。

ウ 引用例1には、ブルートゥース通信が、無線通信であることが記載されおり(段落【0012】、段落【0018】)、ブルートゥース通信(無線通信)と捉えることができる。

したがって、上記引用例1に記載された事項、図面の記載、及び上記アないしウを総合すると、引用例1には、次の事項が記載されている(以下、引用発明という。)。

「本体装置から送信されたオーディオ信号をブルートゥース通信(無線通信)により受信する、右耳用ヘッドセットを備え、
右耳用ヘッドセットは、オーディオ信号を受信し、左耳用ヘッドセットにオーディオ信号を、ブルートゥース通信(無線通信)によって送信するよう構成され、
右耳用ヘッドセット及び左耳用ヘッドセットは、それぞれ互いのブルートゥース通信(無線通信)を確立するための制御回路を備える、
ワイヤレスヘッドセットシステム。」

(2)原査定の備考に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2003-259333号公報(平成15年9月12日公開、以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、受信機にて受信した放送コンテンツもしくはパッケージメディアのコンテンツをデコードし、そのコンテンツを他の受信機に送信する装置、送信されたコンテンツを表示する受信装置、並びに送受信方法に関するものである。」

「【0024】テレビジョン装置3及びデジタルビデオレコーダ4は衛星S、地上局B、CATVサーバー5、サーバ7から放送信号を受信するのみならず、DVD-R等の記憶メディアに受信した放送信号を記録することが可能である。そして、テレビジョン装置3及びデジタルビデオレコーダ4は無線LANに対応した機器であり、衛星S、地上局B、CATVサーバー5、サーバ7から受信した放送信号、若しくは受信して記憶メディアに記憶している放送信号を無線により携帯電話8、PDA9、PC10等の機器に送信する。
【0025】テレビジョン装置3及びデジタルビデオレコーダ4は家庭内においてメイン受信機となり、携帯電話8、PDA9、PC10等の機器はメイン受信機から送信された放送信号を受信するサブ受信機となる。
【0026】次に、家庭内においてメイン受信機100となるテレビジョン装置3及びデジタルビデオレコーダ4の構成について説明する。」

「【0041】メイン受信機100は、衛星S、地上局B、CATVサーバー5、サーバ7から受信した放送信号、若しくは受信して記憶メディアに記憶している放送信号を無線により携帯電話8、PDA9、PC10等のサブ受信機に送信する機能を備えている。
【0042】放送信号をサブ受信機200に送る場合、映像信号をMPEG VideoTrascoder122に、音声信号をMPEG/AC3 AudioTranscoder123に送り、必要に応じてトランスコードされる。トランスコードされたデータは、リパケットプロセッサ124によって1つのストリームにされ、無線LANインターフェイス125を介して伝送路126に出力される。リパケットプロセッサ124で行われるストリームデータのパケット化は伝送系の各レイヤのパケット化が含まれる。」

「【0065】メイン受信機100はMPEG2、MPEG4、RealVideo等の様々なフォーマットの放送信号を受信し、必要に応じて、サブ受信機200に適した形式に変換して、サブ受信機200へと送信する。
【0066】このため、メイン受信機100のMPEG Video Trascoder122は入力された映像信号をMPEG2、MPEG4、若しくは、RealVideoの何れかに変換する機能を有する。
【0067】さらに、サブ受信機200に適した形式に変換するために、メイン受信機100の受信コントローラ129では、サブ受信装置200から、送られてくる以下の情報を受信する。
(1) サブ受信機の性能として受信できるbitレート、サブ受信機の表示装置の解像度(VGA、XGA等あるいは1080iの放送信号を表示できる等)、HDD等の記録メディアを保有しているかどうか(この情報は、通信を始めるときに1回だけ必要)
(2) サブ受信機の受信状態(時間を追って変わるものなので逐次送信)、たとえば、Bluetoothの機器間の干渉等によって受信できる帯域が変化する場合等に有効。
(3) サブ受信機の受信バッファの占有率(時間を追って変化するものなので逐次送信)
MPEG Video Trascoder122、MPEG/AC3 Audio Transcoder123では、上記(1)?(3)の情報を元に映像、および音声信号のトランスコード処理を行い、サブ受信機200の性能に合わせた信号を送出する。」


エ 引用例2には、「放送信号を受信し、放送信号を無線によりサブ受信機に送信する、メイン受信機」が記載されている(段落【0024】、段落【0025】)。

オ 引用例2には、「メイン受信機100は、MPEG2、MPEG4等の様々なフォーマットの放送信号を受信し(段落【0065】)、放送信号をサブ受信機200に送る場合、音声信号をMPEG/AC3 AudioTranscoder123に送り、必要に応じて、トランスコードされて(段落【0041】、段落【0042】、段落【0067】)、サブ受信機200に適した形式に変換し、サブ受信機200へと送信する(段落【0065】)」ことが記載されている。

カ 上記エ、オから、引用例2には、
「放送信号を受信し、放送信号を無線によりサブ受信機に送信する、メイン受信機において、
メイン受信機は、MPEG2、MPEG4等の様々なフォーマットの放送信号を受信し、放送信号をサブ受信機に送る場合、音声信号をMPEG/AC3 AudioTranscoderに送り、必要に応じて、トランスコードされて、サブ受信機に適した形式に変換し、サブ受信機へと送信する技術」が記載されているということができる。

ここで、放送信号は、音声信号を含む、MPEG2、MPEG4等の様々なフォーマットのものであるから、「様々なタイプのデジタル化オーディオ」と捉えることができ、また、放送信号(デジタル化オーディオ)をサブ受信機に送る場合、音声のトランスコードは、サブ受信機に適した形式となるよう必要に応じてなされるものであるから、受信されるMPEG等(デジタル化オーディオ)の様々なフォーマット(タイプ)が、サブ受信機に適した形式のものか否かを判断し、必要に応じて、音声(デジタル化オーディオ)をトランスコードするものということができる。

したがって、引用例2には、次の技術が記載されているということができる。

「様々なタイプのデジタル化オーディオを受信し、デジタル化オーディオを無線によりサブ受信機に送信する、メイン受信機において、
メイン受信機は、デジタル化オーディオをサブ受信機に送る場合、デジタル化オーディオのタイプが、サブ受信機に適した形式のものか否かを判断し、必要に応じて、デジタル化オーディオをトランスコードして、サブ受信機に適した形式に変換し、サブ受信機へ送信する技術。」

(3)本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2006-311267号公報(平成18年11月9日公開、以下「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

「【0013】
また、この発明の電子機器は、他の機器とネットワーク接続するネットワーク接続手段と、データを格納する格納手段と、前記ネットワーク接続手段を介して接続される2つの他の機器間における圧縮符号化されたコンテンツの送受信を中継する中継手段と、前記中継手段によりコンテンツの送受信が中継される2つの他の機器のうちの受信側の他の機器向けに、当該中継されるコンテンツを異なる形式での圧縮符号化されたコンテンツに変換するトランスコード手段と、前記トランスコード手段により変換されたコンテンツのうち、所定の条件を満たすコンテンツを前記格納手段に格納する制御手段とを具備することを特徴とする。」

「【0052】
図14は、本実施形態の家庭内ネットワークシステムにおけるコンテンツ転送の処理手順を示すフローチャートである。
【0053】
携帯用途の電子機器2を使って据え置き型の電子機器1に格納されたコンテンツを視聴する場合、まず、情報送信装置,情報受信装置(Client)となる電子機器1,2と情報中継装置(Server)となる電子機器3とをネットワーク接続する(ステップB1)。このネットワーク接続が完了すると、情報受信装置である電子機器2は、電子機器1および電子機器3に保有されるコンテンツの一覧を参照する(ステップB2)。そして、情報受信装置である電子機器2は、この参照したコンテンツ一覧の中から所望のコンテンツを選択する(ステップB3)。
【0054】
一方、情報中継装置である電子機器3は、この選択を受け付けると、まず、このコンテンツが自装置に存在するものであるかどうかを調べ(ステップB4)、自装置に存在するものでなければ(ステップB4のNO)、このコンテンツを保有する電子機器1から当該コンテンツを取得する(ステップB5)。
【0055】
次に、情報中継装置である電子機器3は、このコンテンツの送信にあたってトランスコードが必要かどうかを判定し(ステップB6)、不要であれば(ステップB6のNO)、選択されたコンテンツの送信を実行する(ステップB7)。また、トランスコードが必要であれば(ステップB6のYES)、情報中継装置である電子機器3は、当該トランスコードを実行し(ステップB8)、このトランスコード後のコンテンツを情報受信装置である電子機器2に送信する(ステップB9)。」

キ 引用例3には、「情報中継装置である電子機器3は、コンテンツを保有する電子機器1から当該コンテンツを取得し、情報中継装置である電子機器3は、このコンテンツの送信にあたって、トランスコードが必要かどうかを判定し、不要であれば、コンテンツの送信を実行し、また、トランスコードが必要であれば、情報中継装置である電子機器3は、当該トランスコードを実行し、このトランスコード後のコンテンツを情報受信装置である電子機器2に送信する」ことが記載されている(段落【0054】、段落【0055】)。

ク 引用例3には、「ネットワーク接続手段を介して接続される2つの他の機器間における圧縮符号化されたコンテンツの送受信を中継する中継手段と、前記中継手段によりコンテンツの送受信が中継される2つの他の機器のうちの受信側の他の機器向けに、当該中継されるコンテンツを異なる形式での圧縮符号化されたコンテンツに変換するトランスコード手段」(段落【0013】)が記載されており、ここで、「前記中継手段によりコンテンツの送受信が中継される2つの他の機器のうちの受信側の他の機器」は、「情報受信装置である電子機器2」に対応させることができるから、引用例3には、「情報受信装置である電子機器2向けに、当該中継されるコンテンツを異なる形式での圧縮符号化されたコンテンツに変換する、トランスコード手段」が記載されているということができる。
よって、上記キの「トランスコードが必要かどうかを判定」することは、「情報受信装置である電子機器2向けに、コンテンツを異なる形式での圧縮符号化されたコンテンツに変換するトランスコードが必要かどうかを判定」するということができる。

したがって、引用例3には、次の技術が記載されているということができる。

「情報中継装置である電子機器は、コンテンツを保有する電子機器から当該コンテンツを取得し、情報中継装置である電子機器は、このコンテンツの送信にあたって、情報受信装置である電子機器向けに、コンテンツを異なる形式での圧縮符号化されたコンテンツに変換するトランスコードが必要かどうかを判定し、不要であれば、コンテンツの送信を実行し、また、トランスコードが必要であれば、情報中継装置である電子機器は、当該トランスコードを実行し、このトランスコード後のコンテンツを情報受信装置である電子機器に送信する技術。」

3 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「右耳用ヘッドセット」、「左耳用ヘッドセット」は、それぞれ、本願補正発明の「第1のイヤピース」、「第2のイヤピース」に相当する。

(2)引用発明は、「右耳用ヘッドセット及び左耳用ヘッドセットは、それぞれ互いのブルートゥース通信(無線通信)を確立するための制御回路を備える」ものであるから、本願補正発明と引用発明とは、「ここにおいて前記第1および第2のイヤピースは互いに無線リンクで通信するように構成される」点で一致する。

(3)引用発明において、「右耳用ヘッドセット及び左耳用ヘッドセットは、それぞれ互いのブルートゥース通信(無線通信)を確立するための制御回路を備える」ものであり、ここで、「それぞれ互いのブルートゥース通信(無線通信)を確立するための制御回路」をプロセッサで構成することは常套手段であるから、引用発明の「右耳用ヘッドセットは、オーディオ信号を受信し、左耳用ヘッドセットにオーディオ信号を、ブルートゥース通信(無線通信)によって送信するよう構成され、右耳用ヘッドセット及び左耳用ヘッドセットは、それぞれ互いのブルートゥース通信(無線通信)を確立するための制御回路を備え」ることと、本願補正発明の「ここにおいて前記第1のイヤピースはデジタル化オーディオに対応するコーデックタイプを検出し、このコーデックタイプに基づいて前記デジタル化オーディオをトランスコードするか判断し、このコーデックタイプがトランスコーディングを必要とする所定クラスのコーデックである場合に前記第2のイヤピースへ送信される前に前記デジタル化オーディオを異なるコードへトランスコードするように構成されるプロセッサを含む」こととは、「ここにおいて前記第1のイヤピースは、オーディオを前記第2のイヤーピースへ送信するように構成されるプロセッサを含む」点で共通する。

(4)引用発明の「ワイヤレスヘッドセットシステム」は、「右耳用ヘッドセット」と「左耳用ヘッドセット」を備えるものであって、「ヘッドセット」と捉えることができるから、本願補正発明と引用発明とは「ヘッドセット」を含む点で共通する。

すると、本願補正発明と引用発明とは、次の<一致点>及び<相違点>を有する。

<一致点>
「第1のイヤピースと、
第2のイヤピースとを備え、
ここにおいて前記第1および第2のイヤピースは互いに無線リンクで通信するように構成される、
ここにおいて前記第1のイヤピースは、オーディオを前記第2のイヤーピースへ送信するように構成されるプロセッサを含むプロセッサを含む、
ヘッドセット。」

<相違点>
第1のイヤピースは、オーディオを第2のイヤーピースへ送信するように構成されるプロセッサを含むことに関して、本願補正発明が「ここにおいて前記第1のイヤピースはデジタル化オーディオに対応するコーデックタイプを検出し、このコーデックタイプに基づいて前記デジタル化オーディオをトランスコードするか判断し、このコーデックタイプがトランスコーディングを必要とする所定クラスのコーデックである場合に前記第2のイヤピースへ送信される前に前記デジタル化オーディオを異なるコードへトランスコードするように構成されるプロセッサを含む」のに対し、引用発明は、このような動作をするよう構成されるプロセッサを含む点について特定がない点。


4 判断

<相違点>について
一般に、コンテンツを受信し、さらにコンテンツを特定の送信先に送信する中継装置において、コンテンツの圧縮符号化形式が送信先に適した形式のものか否かを判断し、送信先に適した圧縮符号化形式に変換する必要があれば、送信先に適した圧縮符号化形式のものとするようトランスコードを実行して、送信先に送信することは、周知である(例えば、引用例2(上記2(2))(ここで、引用例2に記載の「様々なタイプのデジタル化オーディオを受信し、デジタル化オーディオを無線によりサブ受信機に送信する、メイン受信機」は、中継装置としての機能を有しているということができる。)、引用例3(上記2(3))参照。)。
したがって、引用発明の、「オーディオ信号」を受信し「左耳用ヘッドセットにオーディオ信号を送信する」「右耳用ヘッドセット」、すなわち、中継装置としての機能を有する「右耳用ヘッドセット」に、前記周知技術を用いて、「オーディオ信号の圧縮符号化形式が、送信先である左耳用ヘッドセットに適した形式ものであるか否かを判断し、左耳用ヘッドセットに適した形式に変換する必要がある場合に、トランスコードを実行し、変換された圧縮符号化形式のオーディオ信号を左耳用ヘッドへ送信する」ことは、当業者が容易になし得る事項である。

ここで、
(a)「オーディオ信号の圧縮符号化形式が、送信先である左耳用ヘッドセットに適した形式のものであるか否かを判断」するにあたり、オーディオ信号の圧縮符号化形式を検出すること(本願補正発明の「デジタル化オーディオに対応するコーデックタイプを検出」することに相当)は自明である。
(b)また、「オーディオ信号の圧縮符号化形式が、送信先である左耳用ヘッドセットに適した形式のものであるか否かを判断し、左耳用ヘッドセットに適した圧縮符号化形式に変換する必要がある場合」とは、「オーディオ信号の圧縮符号化形式に基づいて、オーディオ信号を左耳用ヘッドセットに適した圧縮符号化形式に変換するか判断し(本願補正発明の「このコーデックタイプに基づいて前記デジタル化オーディオをトランスコードするか判断し」に相当)、圧縮符号化形式を、左耳用ヘッドセットに適した圧縮符号化形式に変換する必要がある場合(本願補正発明の「このコーデックタイプがトランスコーディングを必要とする所定クラスのコーデックである場合」に相当)」と捉えることができ、
(c)この場合において、「トランスコードを実行し、変換された圧縮符号化形式のオーディオ信号を左耳用ヘッドへ送信する」ことは、「左耳用ヘッドへ送信される前に(本願補正発明の「第2のイヤーピースへ送信される前に」に相当)、トランスコードを実行して、オーディオ信号の圧縮符号化形式を変換する(本願補正発明の「前記デジタル化オーディオを異なるコードへトランスコードする」ことに相当)」ことと捉えることができる。
(d)また、引用発明の「右耳用ヘッドセット」は「制御回路」を含むものであり、「制御回路」をプロセッサで構成することは常套手段であるから(上記3(3))、引用発明の「右耳用ヘッドセット」に含まれる制御回路に、「トランスコード」に関する処理を担わせることに格別の困難性を有しない。

よって、本願補正発明の<相違点>に係る構成のようにすることは格別なことではない。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は、引用発明及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。


5 本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成24年8月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1 」の本件補正前の「請求項1」として記載したとおりのものである。

2 引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由]2 引用例及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明の「前記第1のイヤピースはデジタル化オーディオに対応するコーデックタイプを検出し、このコーデックタイプに基づいて前記デジタル化オーディオをトランスコードするか判断し、このコーデックタイプがトランスコーディングを必要とする所定クラスのコーデックである場合に前記第2のイヤピースへ送信される前に」との特定事項から、「デジタル化オーディオに対応するコーデックタイプを検出し、このコーデックタイプに基づいて前記デジタル化オーディオをトランスコードするか判断し、このコーデックタイプがトランスコーディングを必要とする所定クラスのコーデックである場合に」との限定を削除して「前記第1のイヤピースは前記第2のイヤピースへ送信される前に」とし、本願補正発明の「前記デジタル化オーディオ」との特定事項から、「前記」との限定を削除して「デジタル化オーディオ」とし、本願補正発明の「異なるコードへトランスコードするように構成されるプロセッサを含む、」との特定事項から、「異なるコードへ」との限定を削除して「トランスコードするプロセッサを含む、」とするものである。

そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 [理由] 4 判断」に示したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-29 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-21 
出願番号 特願2009-553832(P2009-553832)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04R)
P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大野 弘  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 石井 研一
萩原 義則
発明の名称 無線でリンクした複数のイヤピースを有するヘッドセット  
代理人 峰 隆司  
代理人 佐藤 立志  
代理人 竹内 将訓  
代理人 白根 俊郎  
代理人 中村 誠  
代理人 井関 守三  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 砂川 克  
代理人 福原 淑弘  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 直樹  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 野河 信久  

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