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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1281254
審判番号 不服2013-6467  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-09 
確定日 2013-11-06 
事件の表示 特願2006-310290「シールアセンブリ及びガスタービンエンジンアセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月 7日出願公開、特開2007-138932〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,平成18年11月16日(パリ条約による優先権主張2005年11月16日,アメリカ合衆国)の出願であって,平成24年6月4日付けで拒絶の理由が通知され,平成24年9月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ,平成24年11月28日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,平成25年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして,この出願の請求項1?10に係る発明は,平成24年9月5日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】
遠心圧縮機から下流側の燃焼器と、前記遠心圧縮機に結合されたタービンと、タービン中央シール支持構造とを含むガスタービンエンジンのシールアセンブリであって、
前記タービン中央シール支持構造に形成された単一の凹部と、
前記圧縮機から前記凹部の中へ少なくとも部分的に延出して2段ラビリンスシールアセンブリを形成する単一のタブと、
シールアセンブリを通って排出される空気が、前記圧縮機と前記タービンとの間に形成された空洞部内の運転圧力を低下させ、前記遠心圧縮機の後方側において誘導される軸方向力を低減させる、前記遠心圧縮機の後方に延出するラビリンスシールアセンブリと、を備える、シールアセンブリ。」


2.刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開平5-288080号公報(以下,「刊行物1」という。)には,次の事項が図面とともに記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ガスタービンエンジンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】遠心圧縮機を備え、この遠心圧縮機によって圧縮した空気を燃焼器に送り、その燃焼器によって発生したガスを高圧タービンに供給するようにしたガスタービンにおいて、前記遠心圧縮機のインペラー出口の背面部に圧縮空気の一部が回り込むと、この空気の圧力のために軸方向のスラストを生じて、インペラを支持するロータ部の軸受が破損し、あるいは寿命を低下させる不都合がある。従来においては、図10のように、インペラ(71)先端面にラビリンスシール(72)を形成し、それに対向するハウジング面にアブレイダブル溶射(73)を施して強化して、空気が矢印方向に出来るだけ回り込まないようこの部分にシールを施している。」

・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記従来のガスタービンエンジンにおいて、圧縮機のインペラ先端にラビリンスを形成したものでは、運転時にインペラ外径が膨脹し、更に、吸気側へも変形して溶射が脱落してシールが損われ、このために背面側に廻り込んだ空気の圧力によってインペラに軸方向のスラストを生じ、インペラの軸受部が破損し或いは摩耗するいう欠点があった。」

・「【0012】
【作用】上記この出願の第1の発明では、遠心圧縮機のインペラ先端における空気流との接触面とは反対側の面に対面するハウジング壁に、リング状プレートを取付けて、そのインペラの周端部分においてのみ近接するような段差を設けているから、その近接部分の隙間を適切に設定することによって、この部分のシールを向上できるとともに、その近接部分以外の段差部分については体積を多くして、この部分の圧力を低下でき、軸方向に対するスラスト力を低減することができる。」

・「【0015】
【実施例】図1は、ガスタービンエンジンの圧縮機とタービン部分の要部を縦断して示すものであり、図において(1)は圧縮機ハウジングであって、この圧縮機ハウジング(1)の軸方向の端面に、そのハウジング(1)の壁面との間に圧縮空気の出口通路(2)を形成するようにして、ガイドプレート(3)がボルト(4)によって取付けられている。圧縮機ハウジング(1)に内装され、かつ、軸受(16)で支持された圧縮用のインペラ(5)周端部が、この出口通路(2)の入口部分へ臨むようにして配置されている。
【0016】上記ガイドプレート(3)の外端部には、ボルト(6)によってスクロール(7)が取付けられ、このスクロール(7)の外周部を、前記圧縮機ハウジング(1)の外端部において接合したスクロールハウジング(8)が覆っている。また、このスクロールハウジング(8)の内端部に取付けたコンテインメントリング(9)が、上記スクロール(7)の内周面を、その内方から覆っている。このスクロール(7)の内端の出口(10)が、前記インペラ(5)とは反対側の軸方向に向けて開口している。その出口(10)の直径方向の内方において、前記ガイドプレート(3)の内端部に固着された支持部材(11)の軸方向の端面に、ディスク(12)が固定され、このディスク(12)の外周部分に、前記スクロール出口(10)に臨むようにして、高圧ノズル(13)が取付けられている。更にこの高圧ノズル(13)の出口側に、動翼(14)が配置されている。上記インペラ(5)より直径外方向に送り出される圧縮空気は、前記出口通路(2)を通って、その一部は、スクロール(7)の外周の空間(15)へ冷却用空気として供給されるが、大部分が、図示しない燃焼器へ送られて、その燃焼器において燃料と混合して燃焼させることによって発生した高圧ガスが、スクロール(7)内を通って前記出口(10)より、高圧ノズル(13)を介して動翼(14)側に噴出し、その動翼(14)を高速回転させるものである。動翼(14)を回転させたガスは、その軸方向の後方の排出通路(16)より排出される。
【0017】図2は、上記遠心圧縮機のインペラ(5)部分を拡大して示すもので、このインペラ(5)の周端部分においては、前記ガイドプレート(3)の段部(4)が、そのインペラ(5)の空気通過部(21)とは反対の面と先端面とを覆うようにしているが、その段部(4)よりも直径内方向の内側において、リング状プレート(22)が、ネジ(23)によって取付けられている。このリング状プレート(22)は、その直径方向の外端部分が、インペラ(21)側に近接するように突出した段差(24)が形成され、これによって、段差部(24)よりも外端部分においては、この部分からインペラ(21)の背面側の空間(26)へ空気が流出するのを出来るだけ低減するような近接した隙間とされている。そして、この近接した隙間よりも内側部分においては段差(24)によって拡大された空間になっており、これにより、インペラ(21)の背面部の圧力を低下させ、スラスト力が図の矢印X方向に作用するのを低減するようにしている。更に、リング状プレート(22)とガイドプレート(3)との間には、上記の隙間を適切な大きさに設定するための調整シム(25)を設けている。」

・「【0021】
【発明の効果】この出願の第1の発明では、遠心圧縮機のインペラ周端部分において、段差を設けたリング状プレートを取付けてインペラの周端部分においてのみ近接するようにしているから、この部分で空気のインペラ背面部への流入を出来るだけ少なくして、シール性能を向上させるとともに、段差部分よりも内側においては拡大された空間を形成することによって、その背面部の圧力を低下させてスラスト力を低減しており、そのスラスト力によって生ずるインペラの軸受部分等の破損や寿命の低下を防止できるという効果がある。」

・段落【0015】,【0016】及び図1より,インペラ5を備えた圧縮機の下流に燃焼器があり,インペラ5を備えた圧縮機と動翼14を備えたタービンとは結合されていることが把握される。そして,段落【0012】,【0021】より,遠心圧縮機のインペラ先端の空気流との接触面との反対側の面と,リング状プレートとの間に形成される隙間はシール構造であるといえる。

よって,上記記載事項及び図面によると,刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる(以下,この発明を「刊行物1記載の発明」という。)。
「圧縮機から下流側の燃焼器と、前記圧縮機に結合されたタービンと、支持部材11に固着されたガイドプレート3とを含むガスタービンエンジンのシール構造であって、
前記支持部材11に固着された前記ガイドプレート3に取り付けたリング状プレート22を備える、シール構造」


(2)原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用された実願平3-65989号(実開平5-12693号)のCD-ROM(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、ターボ過給機等に適用される遠心圧縮機に係り、特に羽根車背面側の空気室に上部ラビリンスと下部ラビリンスとを設けた遠心圧縮機に関する。
【0002】
【従来の技術】
図2は、従来のターボ過給機における羽根車周り部分の断面図である。図2において、回転軸1に多数の羽根2aを有する羽根車2が一体に回転可能に設けられている共に、羽根車2の主板2bの背面とケーシング3との間に、吐出空気の一部が流入する空気室4が設けられている。
【0003】
この空気室4には、羽根車2の外周付近に位置して、回転軸1と同心円状の上部ラビリンス5が設けられると共に、羽根車2の背面ボス部2c付近に上部ラビリンス5よりも小径な下部ラビリンス6が設けられている。また、これら上部ラビリンス5と下部ラビリンス6との間のケーシング3の部分に、抽気通路7を介して外気と連通する抽気口8が設けられ、抽気通路7の途中には抽気弁9が設けられている。
【0004】
以上述べた構成において、羽根車2によって圧縮された空気の大部分はディフューザ10および渦巻室11を経て高圧空気となって吐出されるが、一部は羽根車出口2dから羽根車背面側の上部ラビリンス5を経て、空気室4に入る。そして、空気室4の空気の一部は下部ラビリンス6から大気中に漏出し、他の一部は抽気口8から抽気通路7および抽気弁9を経て大気に抽気される。
【0005】
このような構成において、抽気弁9の開度を調整して大気への抽気空気量を加減することにより、空気室4の空気圧を適正に保ち、羽根車2に働くスラスト力を計画値以内に設定するようになっている。」

・「 【作用】
羽根車の回転によって羽根に作用する遠心力は、羽根車の周速の2乗に比例するので、その大きさは羽根車の出口部が最も大きい。
【0015】
上述した本考案では、羽根車出口の主板メタル温度が羽根車出口の空気相対全温度より低く、かつ羽根車に働く軸方向スラスト力が計画値以内になる範囲で、上部ラビリンスを羽根車の出口半径よりも極力下げた位置に設置するようにしている。
【0016】
したがって、本考案によると、例えば羽根車出口半径R_(2)の90%の位置では、羽根に作用する遠心力は約80%になる。
【0017】
また、上部ラビリンスの位置を下げることによって、ラビリンス通路面積が小さくなるので、抽気流量が小さくても空気室の圧力が下げられるうえに、攪拌損失が減少するので、その分、発生する発熱量が少なくなる。その結果、羽根車背面から羽根側への熱伝達が小さくなるので、羽根メタル温度も低くなる。
【0018】
ただし、上部ラビリンス位置をあまり下げると、上部ラビリンスよりも半径の大きい側のスラスト力が大きくなるので、上部ラビリンスを設置した効果がなくなる。そこで、本考案は、上部ラビリンスの外周側半径R_(1)は、羽根車出口半径R_(2)に対して、(0.9?0.7)R_(2)の範囲に設定している。」

3.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「圧縮機」は,本願発明の「遠心圧縮機」に相当し,以下同様に,「支持部材11に固着されたガイドプレート3」は「タービン中央支持構造」に,「シール構造」は「シールアセンブリ」に,それぞれ,相当する。
してみると,両者は,
「遠心圧縮機から下流側の燃焼器と、前記遠心圧縮機に結合されたタービンと、タービン中央シール支持構造とを含むガスタービンエンジンのシールアセンブリ」である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点]
本願発明のシールアセンブリは,タービン中央シール支持構造に形成された単一の凹部と、圧縮機から凹部の中へ少なくとも部分的に延出して2段ラビリンスシールアセンブリを形成する単一のタブと、シールアセンブリを通って排出される空気が、圧縮機とタービンとの間に形成された空洞部内の運転圧力を低下させ、遠心圧縮機の後方側において誘導される軸方向力を低減させる、遠心圧縮機の後方に延出するラビリンスシールアセンブリと、を備えるのに対して,刊行物1記載の発明のシールアセンブリは,タービン中央シール支持構造に取り付けたリング状プレート22を備える点。


4.当審の判断
上記相違点について検討する。
刊行物2には,遠心圧縮機の羽根車背面側に,空気室4を挟んで,上部ラビリンス5と下部ラビリンス6を設けたシール構造が開示されている。そして,このシール構造により,上部ラビリンス6に流入した空気により空気室の圧力が下げられて,羽根車に働くスラスト力を低減できることが理解できる。
また,ラビリンスシールとして,単一の凹部と,凹部の中に部分的に延出する単一の凸部とにより構成されるものは,周知である(例えば,特開平10-54388号公報の請求項1,段落【0015】,図3や,特開平2-138520号公報の第5頁右上欄第16行?同頁左下欄第1行,図4参照。)。
ここで,刊行物1記載の発明は,圧縮機のインペラ背面側に流出する空気のシール構造により,インペラの背面部の圧力を低下させ、軸方向に対するスラスト力を低減することができるものであり,刊行物2の遠心圧縮機の羽根車背面側のシール構造も,技術的に同様の機能を果たすものである。
そうしてみると,刊行物1記載の発明のガスタービンエンジンのシール構造であるガイドプレートに替えて,刊行物2記載の技術的事項及び周知のラビリンスシールを採用し,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が格別の創作能力を要さずになし得たことである。
しかも,本願発明の構成により,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術から予測される以上の格別顕著な効果が奏されるものでもない。

なお,請求人は,「空気室4の空気量を調整する抽気弁9が別途設けられていることから、上記構成により気流の量を制御して空洞部の圧力を調整するという技術的思想は存在しないことは明らかであります。」(審判請求書第3頁第20?22行)と主張するが,刊行物1記載の発明をみても明らかなように,抽気弁9を設けなくても空気室の圧力を下げてスラスト力を低減させることは可能なのであり(平成24年6月4日付け拒絶理由通知で引用文献4として提示された特開平6-193591号公報もそのような例として評価し得るものである。),抽気弁がなければ,空気室の圧力を下げてスラスト力を低減するという技術思想が成り立たないものではない。さらに言えば,本願発明は,刊行物2における抽気弁9のような弁の存在を排除したものとも解せない。したがって,請求人のかかる主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明において検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-07 
結審通知日 2013-06-11 
審決日 2013-06-24 
出願番号 特願2006-310290(P2006-310290)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀之  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 平城 俊雅
槙原 進
発明の名称 シールアセンブリ及びガスタービンエンジンアセンブリ  
代理人 荒川 聡志  
代理人 田中 拓人  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  

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