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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1281260
審判番号 不服2009-20464  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-23 
確定日 2013-11-28 
事件の表示 特願2004-558718「切換えアンテナ送信ダイバーシティ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月24日国際公開、WO2004/054131、平成18年 3月23日国内公表、特表2006-510262〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2003年12月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年12月11日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年6月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において平成23年8月31日付けで拒絶理由通知がなされ、それに対し、平成24年1月6日付けで手続補正がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、平成24年1月6日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「 第1のアンテナを通して信号を送信することと、
基地局からの信号送信に関係するフィードバックを受信することと、
フィードバックの関数として、第1のアンテナか、第2のアンテナかを選択することと、
選択されたアンテナを通して信号を送信することとを含む通信方法であって、
フィードバックが、第1のアンテナを通る信号送信の品質に関係するパラメータを含み、パラメータが、電力制御信号を含み、電力制御信号が、第1のアンテナを通る信号送信の品質が第1の閾値よりも低いときは、信号送信電力を増加する要求と、第1のアンテナを通る信号送信の品質が第2の閾値よりも高いときは、信号送信電力を低減する要求とを含み、電力制御信号が信号送信電力を低減する要求を含むときは、前記電力制御信号の積算値とは無関係に第1のアンテナが選択される通信方法。」

2.引用例
これに対して、当審において平成23年8月31日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開2002-26796号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

A.「【請求項5】 周波数分割複信における通信相手からの送信電力制御情報に基づいて送信信号を送信するアンテナを切り替える切替手段と、切り替えられたアンテナから送信信号を送信する送信手段と、を具備することを特徴とする無線通信装置。
【請求項6】 送信電力制御情報は、通信相手の受信品質情報に基づいて決定されることを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。
【請求項7】 切替手段は、送信電力制御情報における制御値を積算し、積算値が閾値よりも大きい場合に、他のアンテナに切り替えることを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。」

B.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数のアンテナを備えた無線通信装置に関する。」

C.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の技術には以下の課題がある。すなわち、TDD方式では、上り回線及び下り回線とも同じ周波数を利用するので、上記のように受信信号に基づいて送信アンテナを決定することができるが、FDD(Frequency Division Duplex)方式では、受信を行う周波数と送信を行う周波数が異なるため、送信アンテナ切り替えダイバーシチを行う場合に、上記のように受信信号に基づいて送信アンテナを決定することができないのが現状である。
【0006】本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、FDD方式の通信において、受信信号に基づいて送信アンテナを決定することができる無線通信装置及び無線通信方法を提供することを目的とする。」

D.「【0052】アンテナ201で受信された信号は、送信と受信で同一のアンテナを用いるためのアンテナ共用器202を通じて受信RF回路203に送られ、そこで増幅され、更に中間周波数又はベースバンド周波数へ周波数変換される。周波数変換された信号は、復調回路204で復調される。同時に、受信RF回路の出力信号は受信品質測定回路205に送られ、そこで受信品質が測定される。
【0053】この受信品質としては、例えば、受信電界強度、所望波受信電力、受信信号電力対干渉電力比(SIR)、受信信号電力対干渉電力+雑音電力比(Signal-to-Interference pulse Noise Ratio、以下SINRと省略する)がある。受信電界強度は、受信RFの電力を測定すれば良い。これにより、回路構成が最も簡単となる。また、干渉波が存在しないような環境で用いることができる。」

E.「【0058】このように、図1に示す無線通信装置(基地局)のアンテナから送信された下り回線の信号の受信品質測定結果を図2に示す無線通信装置(端末)で測定し、上り回線で基地局に報告する。基地局においては、上り回線で受信した端末装置が測定した受信品質測定結果に基づいて送信するアンテナを切り替える。
【0059】ここで、アンテナ切り替え制御回路の動作について詳しく説明する。図6はアンテナ切り替え制御回路のフロー図である。報告された受信品質測定結果と閾値とを比較する。ここでは、受信品質がSIRである場合について説明するが、受信品質が受信電界強度、所望波受信電力、SINRであっても同様である。
【0060】受信品質測定結果(SIR)が閾値1よりも大きい場合はそのままのアンテナを用いる。一方、SIRが閾値1よりも小さい場合はアンテナを切り替える。例えば、アンテナ数が2本の場合は、他方のアンテナに切り替える。」

F.「【0073】(実施の形態2)図8は、本発明の実施の形態2に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。ここでは、無線通信装置が基地局装置である場合について説明する。
【0074】この無線通信装置においては、アンテナ801で受信した信号は、送信と受信で同一のアンテナを用いるためのアンテナ共用器803を通じて受信RF回路805に送られる。受信RF回路805では、受信信号が増幅され、中間周波数又はベースバンド周波数に周波数変換される。
【0075】また、アンテナ802で受信した信号は、送信と受信で同一のアンテナを用いるためのアンテナ共用器804を通じて受信RF回路806に送られる。受信RF回路806では、受信信号が増幅され、中間周波数又はベースバンド周波数に周波数変換される。
【0076】それぞれ周波数変換された信号は、ダイバーシチ合成回路807でダイバーシチ合成される。ダイバーシチ合成は必須の機能ではないが、本装置は、送信アンテナの切り替ええダイバーシチを行うためにアンテナを複数備えているので、受信性能を向上させるためにダイバーシチ受信を行った方が良い。次いで、ダイバーシチ受信を行った結果が復調回路808で復調される。復調結果は、分離回路809に送られ、分離回路809で受信データと送信電力制御信号に分離される。
【0077】アンテナ切り替え制御回路810では、送信電力制御信号に基づいてアンテナ801とアンテナ802のいずれかで送信するかを選択し、選択されたアンテナに切り替える信号を切り替え器813に送る。アンテナ切り替え制御回路の動作については後で説明する。
【0078】送信については、送信データを変調回路811で変調して送信RF回路112に送る。送信RF回路では、送信データを周波数変換し、更に増幅して切り替ええ器813に送る。切り替え器813では、アンテナ801とアンテナ802のいずれかを切り替え、切り替えられたアンテナから送信信号を送信する。
【0079】図9は、本発明の実施の形態2に係る無線通信装置の構成を示すブロック図である。ここでは、無線通信装置が端末装置である場合について説明する。
【0080】アンテナ901で受信された信号は、送信と受信で同一のアンテナを用いるためのアンテナ共用器902を通じて受信RF回路903に送られ、そこで増幅され、更に中間周波数又はベースバンド周波数に周波数変換される。周波数変換された信号は、復調回路904で復調される。同時に、受信RF回路の出力信号は、送信電力制御値算出回路905に送られ、そこで送信電力制御信号が決定される。
【0081】この送信電力制御信号は、例えば、受信電界強度、所望波受信電力、受信信号電力対干渉電力比(SIR)、受信信号電力対干渉電力+雑音電力比(SINR)に基づいて決定する。また、送信電力信号として送る情報量は、送信電力を大きくする/小さくする、の2情報の場合や、大きくする/そのまま保持/小さくする、の3情報の場合や、4情報以上にして前記以上に制御量を細かく設定する場合がある。
【0082】まず、制御情報が2情報の場合について説明する。受信電界強度に基づく場合は、受信RFの電力を測定する。そして、測定した電力が閾値3よりも大きい場合は基地局からの送信電力を小さくするように制御信号を生成し、測定した電力が閾値3よりも小さい場合は基地局からの送信電力を大きくするように制御信号を生成する。このような受信電界強度に基づく方法は回路構成が最も簡単である。また、干渉波が存在しないような環境で用いることができる。」

G.「【0088】これらの方法で算出した送信電力制御情報は多重回路906へ送る。多重回路906では、送信データと送信電力制御情報を送信スロットに割当てる。このような送信データを変調回路907で変調し、送信RF回路908で周波数変換し、増幅する。そして、この送信信号をアンテナ共用器902を通じてアンテナ901から送信する。
【0089】このように、図8に示す無線通信装置(基地局)のアンテナから送信された下り回線の信号の受信品質に基づいた送信電力制御信号を図9に示す無線通信装置(端末)で生成し、上り回線で無線基地局に報告する。基地局においては、上り回線で受信した端末装置が測定した送信電力制御信号に基づいて送信するアンテナを切り替える。
【0090】ここで、アンテナ切り替え制御回路の動作について詳しく説明する。図12はアンテナ数が2本の場合のフロー図である。報告された送信電力制御情報を積算する。そして、送信電力制御情報の積算値と閾値2を比較する。この閾値は送信機の限界値又は送信電力を大きくすることによって生ずる下り回線の干渉量にしたがって決定する。
【0091】例えば、CDMA通信方式で送信電力を大きくすることによって生じる下り回線の干渉量にしたがって送信電力制御量を決定する場合は、拡散率にしたがって決定する。すなわち、16倍拡散と256倍拡散で送信する場合は、拡散率で16倍の開きがあるので、16倍拡散時の送信電力の閾値は256倍拡散時の送信電力の閾値の16倍にする。このようにすることにより、拡散率に応じて適切なアンテナ切り替えを行なうことができる。
【0092】送信電力制御情報の積算値が閾値2よりも大きい場合はそのままのアンテナを用いる。閾値2よりも小さい場合はアンテナを切り替える。アンテナ数が2本の場合は、他方のアンテナに切り替える。」

H.「【0102】上記実施の形態1及び2においては、図1及び図8に示す無線通信装置が基地局装置であり、図2及び図9に示す無線通信装置が端末装置である場合について説明しているが、本発明においては、図1及び図8に示す無線通信装置が端末装置であり、図2及び図9に示す無線通信装置が基地局装置である場合についても適用することができる。」

ここで、上記A.における「【請求項6】 送信電力制御情報は、通信相手の受信品質情報に基づいて決定されることを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。」との記載、上記D.における「【0053】この受信品質としては、例えば、受信電界強度、所望波受信電力、受信信号電力対干渉電力比(SIR)、受信信号電力対干渉電力+雑音電力比(Signal-to-Interference pulse Noise Ratio、以下SINRと省略する)がある。受信電界強度は、受信RFの電力を測定すれば良い。」との記載、及び上記F.における「【0082】まず、制御情報が2情報の場合について説明する。受信電界強度に基づく場合は、受信RFの電力を測定する。そして、測定した電力が閾値3よりも大きい場合は基地局からの送信電力を小さくするように制御信号を生成し、測定した電力が閾値3よりも小さい場合は基地局からの送信電力を大きくするように制御信号を生成する。」との記載を参酌すると、上記F.の段落【0082】における「受信電界強度」は、「通信相手が測定した受信品質」を表すものということができる。また、アンテナ801を通して信号を送信している場合に、「通信相手が測定した受信品質」は、「アンテナ801を通る信号送信の品質」を表すことは明らかである。
よって、引用例のものにおける「送信電力制御信号」は、「アンテナ801を通る信号送信の品質が閾値3よりも低いときは、送信電力を大きくする情報と、アンテナ801を通る信号送信の品質が閾値3よりも高いときは、送信電力を小さくする情報とを含む」ものであるということができる。
また、上記A.における「【請求項7】 切替手段は、送信電力制御情報における制御値を積算し、積算値が閾値よりも大きい場合に、他のアンテナに切り替えることを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。」との記載は、上記G.における「【0092】送信電力制御情報の積算値が閾値2よりも大きい場合はそのままのアンテナを用いる。閾値2よりも小さい場合はアンテナを切り替える。アンテナ数が2本の場合は、他方のアンテナに切り替える。」との記載と整合していないが、いずれの記載を採用したとしても、「送信電力制御情報の積算値に基づいて、そのままのアンテナを用いるか、他方のアンテナに切り替えるかが選択される」ものであるということができる。
さらに、上記F.?G.の記載によれば、引用例のものは、基地局装置がアンテナ801を通して信号を送信している場合、端末装置は該送信された信号を受信して受信品質を測定し、該測定された受信品質に応じて電力制御信号を生成して基地局装置に送信し、基地局装置は該送信された電力制御信号を受信し、該受信した送信電力制御信号に基づいて、アンテナ801か、アンテナ802かを選択するものである。そうすると、引用例のものにおける「基地局装置」は、「端末装置からの信号送信に関係するフィードバックを受信し、フィードバックの関数として、アンテナ801か、アンテナ802かを選択する」ものということができる。また、「基地局装置が受信するフィードバック」は、「送信電力制御信号」を含み、該「送信電力制御信号」が「パラメータ」の一種であることは明らかである。さらに、「基地局装置が受信するフィードバック」が、「端末装置が測定した受信品質」に応じて生成されたものであること、及び、基地局装置がアンテナ801を通して信号を送信している場合に、「端末装置が測定した受信品質」が「アンテナ801を通る信号送信の品質」を表すことは明らかであることを考慮すると、「基地局装置が受信するフィードバック」は、「アンテナ801を通る信号送信の品質に関係するパラメータを含む」ということができる。
よって、引用例のものにおける「基地局装置」は、「端末装置からの信号送信に関係するフィードバックを受信し、フィードバックの関数として、アンテナ801か、アンテナ802を選択する」ものであり、該「フィードバック」は、「アンテナ801を通る信号送信の品質に関係するパラメータを含み、パラメータが、送信電力制御信号を含む」ものであるということができる。
また、上記H.の「本発明においては、図1及び図8に示す無線通信装置が端末装置であり、図2及び図9に示す無線通信装置が基地局装置である場合についても適用することができる」との記載を参酌すると、引用例には、「図8の無線通信装置」を「基地局装置」とし、「図9の無線通信装置」を「端末装置」とする発明のみならず、「図8の無線通信装置」を「端末装置」とし、「図9の無線通信装置」を「基地局装置」とする発明も開示されていると認められる。そして、このような発明においては、「端末装置が基地局装置からの信号送信に関係するフィードバックを受信」しているということができる。

よって、上記A.?H.の記載及び関連する図面を参照すると、引用例には、実質的に、次の発明が記載されていると認められる。(以下、「引用例記載の発明」という。)
「 アンテナ801を通して信号を送信することと、
基地局装置からの信号送信に関係するフィードバックを受信することと、
フィードバックの関数として、アンテナ801か、アンテナ802かを選択することと、
選択されたアンテナを通して信号を送信することとを含む通信方法であって、
フィードバックが、アンテナ801を通る信号送信の品質に関係するパラメータを含み、パラメータが、送信電力制御信号を含み、送信電力制御信号が、アンテナ801を通る信号送信の品質が閾値3よりも低いときは、送信電力を大きくする情報と、アンテナ801を通る信号送信の品質が閾値3よりも高いときは、送信電力を小さくする情報とを含み、送信電力制御信号に含まれる送信電力制御情報の積算値に基づいて、他方のアンテナに切り替えるか、そのままのアンテナを用いるかが選択される通信方法。」

3.対比
本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、次のことがいえる。

(あ)引用例記載の発明における「アンテナ801」、「アンテナ802」、「基地局装置」、「送信電力制御信号」、「送信電力を大きくする情報」、「送信電力を小さくする情報」は、それぞれ、本願発明における「第1のアンテナ」、「第2のアンテナ」、「基地局」、「電力制御信号」、「信号送信電力を増加する要求」、「信号送信電力を低減する要求」に相当する。

(い)本願発明において、「第1の閾値」と「第2の閾値」とは、同じ値であることを妨げないものである。よって、引用例記載の発明における「閾値3」は、本願発明における「第1の閾値」に相当するとともに、本願発明における「第2の閾値」にも相当する。

上記(あ)、(い)の事項を踏まえると、本願発明と引用例記載の発明とは、次の点で一致し、また、相違するものと認められる。

(一致点)
本願発明と引用例記載の発明とは、ともに、
「 第1のアンテナを通して信号を送信することと、
基地局からの信号送信に関係するフィードバックを受信することと、
フィードバックの関数として、第1のアンテナか、第2のアンテナかを選択することと、
選択されたアンテナを通して信号を送信することとを含む通信方法であって、
フィードバックが、第1のアンテナを通る信号送信の品質に関係するパラメータを含み、パラメータが、電力制御信号を含み、電力制御信号が、第1のアンテナを通る信号送信の品質が第1の閾値よりも低いときは、信号送信電力を増加する要求と、第1のアンテナを通る信号送信の品質が第2の閾値よりも高いときは、信号送信電力を低減する要求とを含む通信方法。」
である点。

(相違点)
アンテナを選択する方法に関して、本願発明においては、「電力制御信号が信号送信電力を低減する要求を含むときは、前記電力制御信号の積算値とは無関係に第1のアンテナが選択される」ものとされているのに対し、引用例記載の発明においては、「送信電力制御信号に含まれる送信電力制御情報の積算値に基づいて、他方のアンテナに切り替えるか、そのままのアンテナを用いるかが選択される」ものとされている点。

4.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
引用例記載の発明は、送信電力制御信号に含まれる送信電力制御情報の積算値に基づいて、他方のアンテナに切り替えるか、そのままのアンテナを用いるかを選択するものである。ここで、「送信電力制御情報」は、「送信電力を大きくする情報」と「送信電力を小さくする情報」のうちのいずれかの情報であり、かつ、「送信電力を大きくする情報」は、受信品質が低いときに端末装置で受信され、「送信電力を小さくする情報」は、受信品質が高いときに端末装置で受信されるものであることを考慮すると、引用例記載の発明は、送信電力制御情報を積算することにより、「受信品質が低く、送信電力を大きくする情報を受信する傾向にある状態」にあるか、「受信品質が高く、送信電力を小さくする情報を受信する傾向にある状態」にあるかを判定し、「受信品質が低く、送信電力を大きくする情報を受信する傾向にある状態」にあればアンテナを切り替え、「受信品質が高く、送信電力を小さくする情報を受信する傾向にある状態」にあればそのままのアンテナを用いるものであるということができる。
そして、引用例記載の発明において、送信電力制御情報を積算して「送信電力を大きくする情報を受信する傾向にある状態」にあるか、「送信電力を小さくする情報を受信する傾向にある状態」にあるかを判定する際に、送信電力制御情報を何回分用いて上記判定を行うかは、送信電力制御情報に対するアンテナ切り替えの適否の判定の応答性をどの程度に設定すべきか等の事情を勘案して、当業者が適宜に設計できる事項にすぎない。
してみれば、引用例記載の発明において、例えば送信電力制御情報に対するアンテナ切り替えの応答性をできる限り高めるために、送信電力制御情報を積算することなく1回分のみの値に基づいて上記判定を行うことは、当業者が適宜に設計できる事項にすぎない。そして、その場合、受信した送信電力制御情報が「送信電力を大きくする情報」であれば、「送信電力を大きくする情報を受信する傾向にある状態」にあると判定されて、アンテナが切り替えられ、受信した送信電力制御情報が「送信電力を小さくする情報」であれば、「送信電力を小さくする情報を受信する傾向にある状態」にあると判定されて、そのままのアンテナが用いられることになるから、「アンテナ801を通る信号送信の品質が高く、送信電力制御信号に含まれる送信電力制御情報が送信電力を小さくする情報を含むとき」には、「アンテナ801が選択される」ことは明らかである。
よって、引用例記載の発明において、アンテナを選択する方法を、「電力制御信号が信号送信電力を低減する要求を含むときは、前記電力制御信号の積算値とは無関係に第1のアンテナが選択される」ものとすることは、当業者が適宜に設計できる事項にすぎない。

(本願発明の作用効果について)
そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例記載の発明から当業者が容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-09 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-02-27 
出願番号 特願2004-558718(P2004-558718)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲葉 崇  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 飯田 清司
久保 正典
発明の名称 切換えアンテナ送信ダイバーシティ  
代理人 堀内 美保子  
代理人 白根 俊郎  
代理人 河井 将次  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 岡田 貴志  
代理人 勝村 紘  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 哲  
代理人 峰 隆司  
代理人 竹内 将訓  
代理人 佐藤 立志  
代理人 福原 淑弘  
代理人 河野 直樹  
代理人 山下 元  
代理人 砂川 克  
代理人 野河 信久  
代理人 村松 貞男  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 市原 卓三  

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