• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1281317
審判番号 不服2011-4397  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-28 
確定日 2013-11-06 
事件の表示 特願2004-376444「ストレス性胃炎予防・治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日出願公開、特開2006-182679〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成16年12月27日の出願であって,平成22年11月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1には次のとおりの記載がある。
「クルクミン、ビタミン剤、人参(ニンジン)、タラ肝油を含むことを特徴とするストレス性胃炎予防・治療剤。」
ここにいう「クルクミン、ビタミン剤、人参(ニンジン)、タラ肝油を含む」に関して,本願明細書の発明の詳細な説明には,
「【0008】
その他の成分として、医薬品一般が使用され、ビタミン類、抗生物質、抗ガン剤、ヘム鉄、プルーンエキス、生薬が使用される。
生薬としては、扶正の効果を有するもの、例えば、自律神経に支配される器官、腺、血管の機能を賦活するもの、消化を助けるものが好ましい。
【0009】
自律神経に支配される器官、腺、血管の機能を賦活する生薬は十種以上が知られており、例えば、ニンジンその他があるが、ニンジンをはじめこれらの生薬の幾つかの有効成分は既に明らかにされている。
したがって、これらの有効成分を加えることが好ましい。これらの有効成分をさらに加えることにより、人体機能賦活作用を発揮することができる。
このような生薬としては、人参(ニンジン)、党参(トウジン)、太子参(タイシジン)、西洋参(セイヨウジン)、黄耆(オウギ)、白朮(ビャクジュツ)、山薬(サンヤク)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、膠飴(コウイ)、黄精(オウセイ)、四葉参(シヨウジン)などがとくに好ましい。」
との記載,および
「【実施例6】
【0019】
ソフトカプセル
クルクミン 25mg
タラ肝油 80mg
酢酸トコフェロール 5mg
人参エキス 200mg
ミツロウ 55mg
食用油 適量
合計 1200mg
(1日分 4カプセル)」
との記載があり,しかも出願人が平成22年11月2日付け意見書の「3、理由1について」の項において
「そして、この出願発明は、たとえば、審査官殿が引用されています引用文献あるいは、審査官殿が述べられいますように公知の多くの成分の中から、試行錯誤の結果4つの成分であります「クルクミン、ビタミン剤、人参(ニンジン)、タラ肝油」を選択して配合するものであって、このような4成分を選択して配合することは当業者といえども困難であります。」
と述べていることを参酌して、本願の請求項1に係る発明は次の通りのものと認定する。(以下,「本願発明」という。)
「クルクミン、ビタミン剤、人参(ニンジン)およびタラ肝油を含むことを特徴とするストレス性胃炎予防・治療剤。」

2 当審の拒絶理由
一方,当審において平成25年7月2日付けで通知した拒絶の理由の概要は,本願発明は,2004年7月10日に頒布された「Ishita Chattopadhyay, Kaushik BIswas, Uday Bandyopadhyay, Ranajit K.Banerjee、Turmeric and curcumin: Biological actions and medicinal applications、CURRENT SCIENCE、その他、2004.07.10発行、Vol.87, No.1、44-53 」(以下,引用例1という。)に記載された発明,2004年12月22日に頒布された「Journal of Biological Chemistry、その他、2004.12.22発行 」(以下,引用例2という。)に記載された発明,2004年9月20日に頒布された「竹川幸男,松井輝明,佐藤秀樹,岩崎良和,菊池浩史,山崎英俊,高砂憲一,今武和弘,荒川泰行、ウコンの消化器生理機能及び胃粘膜障害抑制効果について、日本消化器病学会雑誌、日本、2004.09.20発行、Vol.101 臨時増刊号大全、A702 」(以下,引用例3という。)に記載された発明,2003年に頒布された「西川善之,辰巳香麻理,仲津美希、ストレス負荷ラットに対する食品に含まれる抗酸化物質およびビタミンCの供与効果、甲子園大学紀要A 栄養学部編、日本、2003.発行、No.31(A)、17-24 」(以下,引用例4という。)に記載された発明,1976年に頒布された「George C.K.Liu, E.H.Ahrens,Jr., Paul H. Schereibman, John R. Crouse、Measurement of squalene in human tissues and plasma: validation and application、Journal of Lipid Research、米国、1976.発行、Vol.17、38-45 」(以下,引用例5という。)に記載された発明,1980年10月に頒布された「佐藤たかし(「たかし」は「にんべん」に「周」),小島暁,戸田静男,有地滋、人参サポニンの実験潰瘍に対する作用(第1報)、応用薬理、日本、1980.10.発行、Vol.20, No.4、715-722 」(以下,引用例6という。)に記載された発明,1995年に頒布された「西川善之,梅野奈津枝,峯中美治,中野歴子、水浸漬ストレス負荷動物に対するビタミンCおよびビタミンEの効果、ビタミン、日本、1995.04.25発行、Vol.69, No.4、264 」(以下,引用例7という。)に記載された発明および1986年2月に頒布された「今井孝司,大野武彦,浅野正一,貴志豊和、ストレス負荷およびアルコール投与マウスに対するNT-01錠の効果、薬理と治療、日本、1986.02.発行、Vol.14, No.2、709-724 」(以下,引用例8という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用例の記載事項
(1)当審における拒絶理由に引用された,本願の出願日前に頒布された刊行物である引用例1には,以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので,当審による訳文で示す。)
(ア)「我々の研究室での最近の研究は,クルクミンがインドメタシン,エタノールおよびストレス誘起胃潰瘍を防御できることを示す)と記載されている」(第45頁の下から第3?2行)

当審における拒絶理由に引用された,本願の出願日前に頒布された刊行物である引用例2には,以下の事項が記載されている。(引用例2は英語で記載されているので,当審による訳文で示す。)
(イ)「クルクミンによる,MMP-9およびMMP-2活性に関連した胃潰瘍の治癒
胃潰瘍治療とMMP-9活性へのクルクミンの影響を調べるため,ラットが,潰瘍を誘起された後に賦形剤とクルクミンで治療された。図7Aの実験結果は,クルクミンが胃のダメージを保護するだけではなく,インドメタシンに誘起された潰瘍の治癒を増強できることを示す。インドメタシン誘起潰瘍の自然治癒における時間的経過の研究は,潰瘍が8時間後から徐々に治癒を始め24?30時間でほぼ完全に治癒することを示す(図7A)。クルクミンの投与により,潰瘍指数は開始後4時間で50%まで低下し,自然治癒では30時間かかる最大治癒状態まで8時間で到達するほど,潰瘍治癒を顕著に強める(図7A)。並行して,確立した薬であるオメプラゾールが治癒実験でクルクミンと比較され,クルクミンの治癒効果はオメプラゾールに匹敵することが明らかになった(図7A)。」(第6頁右欄第28行?第7頁左欄第5行)

当審における拒絶理由に引用された,本願の出願日前に頒布された刊行物である引用例4には,以下の事項が記載されている。
(ウ)「Wistar系Normalラット雄55匹(8週令:体重約220g)を、A?FおよびA’?E’の11群(各群5匹ずつ)に分かち、A群:赤ワインエキス供与群、B群:ブルーベリーエキス供与群、C群:カプサイシン供与群、D群:スクワレン供与群、E群:無添加のコントロール群とし、A?E群の条件にそれぞれV.Cを供与したものを、A’?E’群とした。また、ストレスなしのコントロール群をF群とした。7日間飼育後A?E群、およびA’?E’群には24時間絶食させ、その後、20℃、24時間の水浸ストレス負荷を行った。」(第18頁左欄第15?24行)、
(エ)「胃潰瘍の発症についてFig.4に示すように、ストレス負荷なしのF群では潰瘍指数は0であったが、ストレス負荷群では全匹胃潰瘍が発症した。特に抗酸化物質を供与していないE群では強く、胃潰瘍は発症したが、A?D群ではE群の30?40%にまで胃潰瘍の発症は抑制された。また、V.C投与により、どの群もさらに低下傾向を示した。次に、胃潰瘍発症の症状の程度について検討した。重度(III:潰瘍面積50mm^(2)以上)、中度(II:潰瘍面積20?50mm^(2))、軽度(I:潰瘍面積20mm^(2)以下)、発症せず(0:潰瘍面積0mm^(2))の4段階に分け、各症状のランクに属するラットの匹数を調べた。その結果、Fig.5に示すようにF群は全匹発症しなかったが、A?E群の中で重度の胃潰瘍の発症はE群のみに認められたのに対し、A?D群では軽度、中度の症状ラットのみであった。さらにA’?E’群についてみると、全匹重度であったE群に対し、E’群ではそのうちの80%が軽度、中度に軽減されていることがわかった。また、A’群、D’群では軽度のみの発症で中度もなかった。」(第20頁右欄第3行?第21頁左欄12行)

当審における拒絶理由に引用された,本願の出願日前に頒布された刊行物である引用例5には,以下の事項が記載されている。(引用例5は英語で記載されているので,当審による訳文で示す。)
(オ)「表3.様々な食物中のスクワレン含有量
(μg/g 非乾燥重量 多変量解析の中央値)
食物脂肪
オリーブ油 1989-6855 サフラワー油 37.2
タラ肝油 520.3 綿実油 27.8
トウモロコシ油 278.9 ラード 22.5」
(第41頁左欄TABLE3.の第1?6行)

当審における拒絶理由に引用された,本願の出願日前に頒布された刊行物である引用例6には,以下の事項が記載されている。
(カ)「しかし,人参の薬理作用の一つとして“神農本草経”,“薬徴”,“名医別録”などには消化器系の賦活化作用が記されている.著者らは薬用酒の薬効解析の一環として,この作用に注目し,人参サポニンを単回投与した場合と連続投与した場合の実験潰瘍に対する作用を検討した.stress負荷時間が7hrの場合,GTS100mg/kgの単回投与ではcontrol群にくらべ有意に潰瘍の発生を抑制したが,より条件の厳しい20hrでは明らかな予防効果は認められなかった.しかし,この条件下でも25あるいは100mg/kgの連続前投与は有意な予防効果を示した(TABLE1,2).」(第720頁左欄第8行?第19行),

当審における拒絶理由に引用された,本願の出願日前に頒布された刊行物である引用例7には,以下の事項が記載されている。
(キ)「演者らのこれまでに実験において、ラットやマウスに水浸漬ストレスを与えると胃潰瘍が発症するが、あらかじめビタミンCを投与しておくことにより、その発症が抑制される事実を認めた。そこで今回は、これらのビタミンCに加え、ビタミンEを同時に供与することにより、相乗的にその有効性が現れるか否かについて検討を行った。ビタミンC合成能を有するWistarラット(♂25匹、♀25匹)を、A群(V.C+,V.E+,ストレス+)、B群(V.C+,V.E-、ストレス+)、C群(V.C-,V.E+,ストレス+)、D群(V.C-,V.E-,ストレス+)、E群(V.C-,V.E-,ストレス-)の5群に分かち、全群ともV.Cを含まない市販の粉末飼料(CL-2)を供与した。」(第5行?第18行),
(ク)「本条件下で7日間飼育し、24時間絶食後、20℃で24時間水浸漬ストレス負荷を与えた。その後、解剖を行い臓器重量、血清生化学検査、胃潰瘍の発症の様子を観察した。本実験を3回繰り返し行い再現性を検討した。Wistarラットの血清 GPT、GOT活性は、E群と比べ、ストレス負荷を与えたD群ではその値は増加した。しかし、ストレスを負荷したA,B,C,D群では大差なかった。一方、胃潰瘍に付いてみると、3回の実験の平均値は、E群では0±0mm^(2)に対し、D群、C群、B群、A群で、55.2±11.6mm^(2),34.6±18.0mm^(2),28.2±12.2mm^(2),7.0±5.0mm^(2)となり、V.CとV.Eの共存下で、その発症が有意に減少する事実を認めた。(第21行?第33行)

当審における拒絶理由に引用された,本願の出願日前に頒布された刊行物である引用例8には,以下の事項が記載されている。
(ケ)「連続的にストレスを宙吊り法で負荷したマウスの性行動低下,学習行動低下および直腸体温低下に対するNT-01錠(中高年保険薬)の効果を調べた。またNT-01錠のアルコール投与マウスの運動協調性障害に対する作用を rotor rod 法を用いて調べた。NT-01錠は人参(Ginseng Radix),杜仲(Eucommia Cortex)の水性エキス,鹿茸末およびビタミンA,B1,B2,B6,B12,C,Eおよびカルシウムを含有する製剤である。連続ストレスによって起こるマウスの性行動の低下,学習行動の低下に対してNT-01錠は低下予防作用を示した。またアルコールによるマウスの運動協調性障害はNT-01錠によりすみやかに快復した。またこの製剤は水浸拘束ストレス潰瘍にも有効であった。」(第724頁要旨)

(2)引用例1の記載事項(ア)には,クルクミンがストレス誘起胃潰瘍を防御できることが示されている。
そうすると,引用例1の記載を総合すれば,引用例1には「クルクミンを含むストレス性胃炎予防剤」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4.対比
本願発明と引用発明を対比すると,両者は,
クルクミンを含むストレス性胃炎予防剤という点で一致し,
本願発明では,ビタミン剤,人参(ニンジン)およびタラ肝油を含み,かつ,ストレス性胃炎の予防剤とともに治療剤ともされているのに対し,引用発明はこれらが特定されていない点で相違する。

5.当審の判断
上記相違点について検討する。
引用例4の記載事項(ウ)及び(エ)には,スクワレンとビタミンCの併用投与が水浸ストレス負荷による胃潰瘍発症および症状を抑制することが記載されている。スクワレンは,引用例5の記載事項(オ)に示されるように,タラ肝油に多く含まれるものである。
また,引用例6の記載事項(カ)には,人参サポニンがステレス胃潰瘍を予防するとともに実験胃潰瘍治癒効果を示すことが記載されている。
また,引用例7の記載事項(キ)及び(ク)には,ビタミンCおよびビタミンE投与が水浸漬ストレス負荷ラットの胃潰瘍発症を抑制することが記載されている。
また,引用例8の記載事項(ケ)には,ニンジンエキス,ビタミンA,ビタミンC,ビタミンE,ビタミンB1誘導体,ビタミンB2,ビタミンB6およびビタミンB12などを含む錠剤が,ストレス負荷マウスの胃潰瘍予防効果を有することが記載されている。
引用例4,6?8に記載された発明は,引用例1に記載された発明と,胃炎予防という共通の発明の課題を有するから,引用例1に記載された発明に対して,引用例4に記載されたスクワレンを含有させる目的でタラ肝油を含ませるとともに,引用例6?8に記載されたビタミン剤および人参(ニンジン)を含ませて,本願請求項1に係る発明のうちストレス性胃炎予防剤の発明とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

また,引用例2の記載事項(イ)には,クルクミンがインドメタシンにより誘起された胃潰瘍に対して治療効果を奏することが記載されている。
ストレスにより誘起された胃潰瘍は,インドメタシンにより誘起された胃潰瘍と,胃粘膜損傷等が同様の状態になっていると認められることから,クルクミンが,インドメタシンにより誘起された胃潰瘍に対して治療効果を奏すれば,ストレスにより誘起された胃潰瘍に対しても治療効果を奏すると当業者は期待できるから,ストレス性胃炎治療剤の発明とすることも当業者が容易に想到し得たことである。

しかも,本願発明の詳細な説明には,クルクミンによるストレス性胃炎予防効果および治療効果は記載されているものの,クルクミンとともにビタミン剤,人参(ニンジン)およびタラ肝油を含ませたものによるストレス性胃炎予防効果および治療効果は記載されておらず,ビタミン剤,人参(ニンジン)およびタラ肝油を含ませたことにより当業者の予想し得ない顕著な効果が得られているとすべき根拠は見いだせない。
よって,本願請求項1に係る発明は引用例1?2,4?8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると結論する。

なお,審判請求人は平成25年8月1日付け意見書において,「今日の治療薬(2013年版)」株式会社南江堂,2013年1月25日発行 を提示した上で,ストレス性胃炎予防・治療剤に関する医薬成分としては数多くの成分があるところ,当審で通知した上記拒絶の理由で引用した文献には,それぞれの成分がストレス性胃炎予防・治療剤に有効であることが記載されているものの,本願発明の成分を組み合わせることについての記載はなく,動機づけも示されていないので,本願発明は当審で通知した上記拒絶の理由で引用した文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨を主張している。
しかし,上記のとおり,引用例4,6?8に記載された発明は,引用例1に記載された発明と,胃炎予防という共通の発明の課題を有するものであって,共通の課題解決のために有効な成分を組み合わせて用いることは,引用例4の記載事項(ウ),引用例7の記載事項(キ)および引用例8の記載事項(ケ)にも示されるように,当業界において通常行われていることであるから,当審の判断が覆るものではない。
よって,審判請求人の主張は受け入れられない。

6.むすび
したがって,本願は,当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-29 
結審通知日 2013-09-03 
審決日 2013-09-17 
出願番号 特願2004-376444(P2004-376444)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小森 潔  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 中村 浩
内田 淳子
発明の名称 ストレス性胃炎予防・治療剤  
代理人 熊田 和生  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ