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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1281666
審判番号 不服2011-2754  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-07 
確定日 2013-11-13 
事件の表示 特願2000-610552「美容整形/治療を実施する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月19日国際公開、WO00/61221、平成14年12月 3日国内公表、特表2002-541222〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1999年12月2日(パリ条約による優先権主張 1999年4月9日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年9月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年2月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?33に係る発明は、平成23年2月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定されるものであるところ、その内、請求項1?4にそれぞれ記載された発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去する薬剤を調製する方法であって、
生物学的に適合性がある導電性物質が、患者の、治療を必要とする身体領域から離されるように、前記導電性物質を容器に入れるステップと、
少なくとも1対の電極を前記導電性物質と接触させて配置し、前記1対の電極を互いに隔てさせるステップと、
前記両電極に接続された信号発生機械を動作させて、周波数と電圧を有する交流電流を、前記両電極の間および前記流体の中をある期間通過させるステップと、
を有し、
前記流体を流れる電流が少なくとも1ミリアンペアである
方法。」
「【請求項2】 抗ビールス治療の薬剤を調製する方法であって、
生物学的に適合性がある導電性物質が、患者の、治療を必要とする身体領域から離されるように、前記導電性物質を容器に入れるステップと、
少なくとも1対の電極を前記導電性物質と接触させて配置し、前記1対の電極を互いに隔てさせるステップと、
前記両電極に接続された信号発生機械を動作させて、周波数と電圧を有する交流電流を
、前記両電極の間および前記流体の中をある期間通過させるステップと、
を有し、
前記流体を流れる電流が少なくとも1ミリアンペアである
方法。」
「【請求項3】 疼痛の治療用の薬剤を調製する方法であって、
生物学的に適合性がある導電性物質が、患者の、治療を必要とする身体領域から離されるように、前記導電性物質を容器に入れるステップと、
少なくとも1対の電極を前記導電性物質と接触させて配置し、前記1対の電極を互いに隔てさせるステップと、
前記両電極に接続された信号発生機械を動作させて、周波数と電圧を有する交流電流を、前記両電極の間および前記流体の中をある期間通過させるステップと、
を有し、
前記流体を流れる電流が少なくとも1ミリアンペアである
方法。」
「【請求項4】 軟弱内部結合組織の治療用の薬剤を調製する方法であって、
生物学的に適合性がある導電性物質が、患者の、治療を必要とする身体領域から離されるように、前記導電性物質を容器に入れるステップと、
少なくとも1対の電極を前記導電性物質と接触させて配置し、前記1対の電極を互いに隔てさせるステップと、
前記両電極に接続された信号発生機械を動作させて、周波数と電圧を有する交流電流を、前記両電極の間および前記流体の中をある期間通過させるステップと、
を有し、
前記流体を流れる電流が少なくとも1ミリアンペアである
方法。」

3.原査定の理由
一方、原査定の拒絶の理由は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない(理由(5))、及び、この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(理由(6))という理由を含み、その内容として以下の点が指摘されている。
「請求項1-12に係る各方法において、例えば「薬剤」が「導電性物質」又は「導電性流体」に該当するものであるとしても(以下これらをまとめて「薬剤」ということがある)、
(i) 交流電流を印加して該「薬剤」を製造し得るための原料となる成分については、明細書中の例えば【0011】や【0090】で蒸留水、水道水等一部のものが採用できる旨規定されているだけで、それら蒸留水、水道水或いはそれら以外のものとしていかなるものを採用し、いかなる条件下で交流電流処理することによりいかなる性状の「薬剤」が得られるのか、何等現実の製造データを以て示されていないし、
(ii) 得られた「薬剤」をいかなる薬理試験系において具体的にいかなる条件下で適用したのか、
(iii) 当該適用によりどのような結果が得られたのか、
(iv) 当該得られた薬理試験結果が、請求項1-12に規定される各医薬用途とどのように関連付けられるのか、
といった(ii)?(iv)の点についても何等現実の薬理試験データとともに記載されているわけではない。
よって、請求項1-12規定の「準備」対象であるあらゆる「薬剤」、「導電性物質」又は「導電性流体」については、発明の詳細な説明で十分な裏付けを以て記載されているとは言えないし、当業者が理解かつ実施することができると言える程度の十分な開示が発明の詳細な説明でなされているとも言えない。」

4.判断
4-1.本願発明1に対し
4-1-1.特許法第36条第4項に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について
(1)本願発明1は、「生物学的に適合性がある導電性物質が、患者の、治療を必要とする身体領域から離されるように、前記導電性物質を容器に入れるステップと、少なくとも1対の電極を前記導電性物質と接触させて配置し、前記1対の電極を互いに隔てさせるステップと、前記両電極に接続された信号発生機械を動作させて、周波数と電圧を有する交流電流を、前記両電極の間および前記流体の中をある期間通過させるステップ」(以下、「交流電流処理ステップ」という。)を有し、「前記流体を流れる電流が少なくとも1ミリアンペアである方法」(以下、交流電流処理ステップを含め、「所定の方法」という。)により、「動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去する薬剤を調製する方法」の発明である。そして、これは、「動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去するための薬剤」という「物」を、所定の方法により、「調製(すなわち「生産」)する方法」に他ならないから、本願発明1は「物を生産する方法」の発明であるといえる。
ここで、「物を生産する方法」の発明における実施には、「その方法の使用をする行為」及び「その方法により生産した物の使用をする行為」(後者は、特許法第2条第3項第3号、前者は、同法同項第2号参照。)が含まれ、本願発明1における「その方法の使用をする行為」は、所定の方法を使用して本願発明1の「動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去する薬剤」を調製(生産)する行為であり、本願発明1における「その方法により生産した物の使用をする行為」は、調製(生産)した薬剤を、薬剤の投与が必要な患者に投与し、「動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去する」行為であるといえるから、結局、本願発明1において、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる実施可能要件)とは、発明の詳細な説明が、「所定の方法により薬剤が調製でき、また、薬剤として投与できること、及び、調製した薬剤の患者への投与により、動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去するという薬理作用がもたらされること、を、当業者が理解できるように記載されていること」であると認められる。
そうすると、本願が実施可能要件を満たすといえるためには、本願明細書の発明の詳細な説明に、薬剤の調製方法や投与方法といった情報が開示されている必要があるのみならず、薬剤が上記所定の薬理作用をもたらすことを当業者が理解できるように、記載されている必要がある。

(2)そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、該発明の詳細な説明には、薬剤の調製方法、投与方法、上記所定の薬理作用をもたらすことに関して、以下の記載がある。(なお、下線は当審による。)

A 薬剤の調製方法について
(a1)薬剤原料となる「生物学的に適合性がある導電性物質」に関し、
本願明細書の【0011】には、「本明細書における電気的に活性化された物質は主として、通常の水道水、または場合によっては蒸留水を含む。・・本発明は、この溶液のベースまたは成分として水を使用することに必ずしも限らない。様々な他の適切な物質、特に液体を活性化溶液用に使用することができる。これには、様々な種類のアルコールまたはその他の薬品が含まれる。」と記載され、更に、
【0012】?【0013】には、「追加的な材料」として、「胎盤、羊膜、血清、および幹細胞様の構造」といった「細胞」や「任意の生物の細胞または生体細胞または生後細胞」や「ビタミン、鎮痛薬、およびその他の添加剤を使用することもできること」 (【0012】)や「膨張剤」のような「他の材料」を添加できること(【0013】)も記載されている。
また、【0032】?【0033】には、「蒸留水を電気的に活性化する際、水にある物質を添加して不純物を導入し、水中での電流の流れを容易にしなければならないことが多い。本発明の一実施態様によれば、塩化ナトリウム(塩)または鉱物が添加され、蒸留水から電解液が形成されている。」(【0032】)、「本発明の好ましい実施態様によれば、添加物質、たとえば塩化ナトリウムは、所望の電力が得られるまで、蒸留水中の電流を監視しながら蒸留水に添加される。このプロセスは、オペレータにとって容易であり、より一貫した結果をもたらす。」(【0033】)と記載されている。

(a2)薬剤を調製する為の「交流電流処理ステップ」に関し、
本願請求項1には、使用する電流が、「少なくとも1ミリアンペア」と特定されるが、他の条件については、「信号発生機械を動作させて、周波数と電圧を有する交流電流を、前記両電極の間および前記流体の中をある期間通過させる」と記載されているのみである。そして、交流電流処理条件について本願明細書の発明の詳細な説明には、電圧は「約50Vrmsから約150Vrms」(【0029】及び【0043】)、「必要とされる最小電力密度は1ml当たり約10mW」(【0022】)、電流の印加時間は「最低で少なくとも10分間」、「推奨される期間は4時間から12時間」(【0054】)であること、好ましい実施態様は、「約1Armsの電流」、「約100Vrmsの電圧」、「物質1ml当たり少なくとも10mWの電流」(【0034】,【0052】)であると記載されている。
また、交流電流処理ステップに使用される周波数については、「約10KHzから約1MHz」(【0024】及び【0043】)、最適には約25KHzから約100KHzの周波数範囲」(【0024】)であり、「正しい周波数が使用されない場合、この物質が適切に電気的に活性化されることはない。・・また、この物質は、指定された範囲の周波数以外では生物学的応答を生じない。約1MHzを超える周波数では、本発明の媒体は生物学的活性化特質を示さない。」(【0026】)と記載されている。
さらに、「好ましい実施態様」として、「塩化ナトリウム」を「所望の電力が得られるまで、蒸留水中の電流を監視しながら蒸留水に添加」した態様が記載されている(【0033】)。

B 薬剤の投与方法について
(b1)薬剤の投与のタイミング
本願明細書には、「電気的に活性化された物質は、生成された後約4時間以内に使用された場合に最も有効であると考えられ」、「生成された後最大で4日間の間ある程度有効であり、7日後にほぼ完全に無効になる」こと(【0055】)、「各投与後に通常、回復フェーズが約1日から7日間にわたって継続」し、「約4日後に、このような回復の大部分が完了する」こと(【0061】)、「最高の結果を得るには、約3回から6回のこのような治療セッションが必要」で、「1、2週間毎に1つのセッションが必要」であること(【0062】)が記載されている。

(b2)薬剤の投与形態
本願明細書には、投与を、「注射、カテーテル、または他のそのような種類の装置を使用して内部注入」、具体的には、皮下注射や静脈注射により行うこと(【0070】、図7及び図8)、注入時の、典型的な投与量は、「体重100ポンド当たり1ccから2ccである」こと(【0073】)が記載されている。

C 所定の薬理作用をもたらすことについて
(c1)一般的な薬理作用
本願明細書の段落【0058】には、以下の記載がある。
「本発明の電気的に活性化された物質は、生物の組織に加えられると、組織に機械的ひずみが起こったときに発生する警告信号と同様の弱い電気(またはイオン)信号を組織内に起す。これはおそらく、活性化された物質のスピン、原子価、電磁結合、または分極活動によって起こる。活性化された物質はおそらく、組織内の弱い分子結合を緩めることによって作用し、それにより、結合または組織が回復する際に再生応答を生じさせる。この物質の活動によって、治療領域における、加速された代謝活動が引き起される。血流が加速し、同時に細胞の代謝活動および相互作用が活発化する。図9および10に最も良く示されているように、治療後に毛細血管および/または血管50が膨張し、細胞活動が活発化している。毒素、遊離基、代謝排泄物、および残存物質は再形成するか、あるいは排泄することができる。」
また、図9および図10には、「電気的に活性化された物質が加えられた後で得られた組織の変化および結果を示す図である。」として、血管を図示した心臓の斜視図が記載されている。

(c2)動脈プラークに対する薬理作用
本願明細書の段落【0068】?【0069】及び図11aには、動脈プラークの病態が記載され、【0070】?【0075】には、本発明の薬剤(活性化された物質)のプラーク病態に対する薬理作用について以下の記載がある。
「【0070】
本発明の活性化された物質は、本明細書で説明するように生成されたときに、ユニークな機能を有し、それが血流に注入されたときにこのようなプラーク病態を治療する有効で有用な技術をもたらすことが判明している。注射、カテーテル、または他のそのような種類の装置を使用して内部注入を行うことができる。・・
【0071】
図11bは、図11aの動脈122を示しており、活性化された物質18が血液124およびプラーク121に接触している。図11cは、治療後の、プラーク121のサイズが小さくなった同じ動脈122を示している。
・・
【0073】
・・注入時の、典型的な投与量は、体重100ポンド当たり1ccから2ccである。
【0074】
このように注入すると、注入してから約15分後に血流および代謝活動が加速し増大する。組織内で潮紅作用が開始する。心臓の鼓動が激しくなる。極めてわずかに発熱する。わずかにひりひりする感じがあるが疼痛はない。これは1日から2日持続する。血流が加速されるこの期間の後に、全身が、細胞構造が再建される回復フェーズに入る。
【0075】
注射として摂取するか、あるいは血流に静脈注射すると、電気的に活性化された物質の分子作用は、脂肪沈着物およびプラーク蓄積物を溶解させて可溶性を高め動脈壁から除去するうえで有用なものになる。これによって、毛細血管および全身の血流および作用が増大する。血管内および身体血流系全体でよく起こる脂肪沈着物を、本明細書で説明したように除去して可溶性を高めると、その後の体の化学的効率および効果ならびに代謝効率および効果が大幅に向上し、大部分の身体系およびプロセスの機能、動作、および再生能力が顕著にかつ大幅に向上する。これによって、動脈壁が補強され、コラーゲンおよび靭帯様の支持構造の産生が改善される。したがって、この方法は、プラーク蓄積病態の新規の有用で効果的な治療を実現すると共に、有効な他の利益を与える。したがって、このプロセスはまた、患者の疼痛を軽減する働きをする。」
また、「電気的に活性化された物質が加えられた後で得られた組織の変化および結果を示す図」とされる図11の、特に、図11bには、活性化された物質18が血液124およびプラーク121に接触している模式図が、また、図11cは、治療後であるとして、プラーク121のサイズが小さくなった動脈122の模式図が記載されている。

(3)検討
(i)上記(2)のAの本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、本願明細書の詳細な説明には、交流電流処理することにより処理前の導電性物質が、物質としてどのような性質・性状を有するものに変化するのかについて、何等現実の製造データは示されていないが、(a1)には、本願発明1の調整方法において交流電流処理に付される導電性物質として、水道水や蒸留水、水に塩化ナトリウムを添加したものでよいことが記載されており、また、(a2)には、交流電流処理条件に関し、具体的な電流値、電圧値、最小電力密度、電流の印加時間として、蒸留水に塩化ナトリウムを添加した溶液に、「約1Armsの電流」、「約100Vrmsの電圧」、「物質1ml当たり少なくとも10mWの電流」といった交流電流処理を施すこと、及び、導電性物質が電気的に活性化され、生物学的応答を生じさせるための条件として約25KHzから約100KHzの範囲の特定の周波数条件が記載されているから、当業者は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、薬剤原料となる導電性物質が水に塩化ナトリウムを添加した溶液である場合については、その調整方法については、一応の理解はできるといえる。
しかしながら、(a1)には、薬剤原料の導電性物質が「様々な他の適切な物質」や「その他の薬品」であってもよく、「細胞」や「他の添加剤」や「他の材料」を添加してもよいことが記載されているところ、例えば、溶液が酸性溶液とアルカリ性溶液、細胞のような生体成分や化学的な変性を受けやすいタンパク質等の有機物を含む溶液と、塩化ナトリウムのような無機物のみを含む溶液では、原料となる導電性物質自体の性質が大きく異なるのであるから、当業者は、細胞の様な生体成分を含む溶液等を交流電流処理に付して得られた溶液と、塩化ナトリウム水溶液を所定の交流電流処理に付して得られた溶液とが、同様の性質や薬理作用を有すると理解することはできず、むしろ、当業者であれば、交流電流処理により導電性物質自体の変性や分解が生じる可能性があると考えるのが自然である。また、交流電流処置に付される導電性物質の違いにかかわらず同じ性質の溶液が得られるとの技術常識があるともいえない。
してみると、出願時の技術常識を参酌しても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、薬剤原料としてあらゆる導電性物質を用いた場合についてまで、当業者が本願発明1の薬剤を調整するための具体的な交流処理条件を理解することができるとはいえないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(ii)次に、前述のように、本願発明1が実施可能であるといえるためには、本願発明1の調製方法で調製された薬剤を患者に投与した場合に、動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去するという薬理作用がもたらされることを、当業者が本願明細書の発明の詳細な説明の記載から理解できる必要があるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に、該所定の薬理作用がもたらされることを、当業者が理解できるように記載されているかについて検討する。

薬剤の投与方法については、(b1)に、投与時期は「最大で4日間の間ある程度有効」であり、「生成された後約4時間以内に使用された場合に最も有効である」ことが記載され、薬剤を、典型的には、「体重100ポンド当たり1ccから2ccで」注入することにより行うこと(b2)も記載されている。
しかしながら、該投与方法により薬剤を注入した結果に関しては、(c2)の段落【0074】に、「このように注入すると、注入してから約15分後に血流および代謝活動が加速し増大する。組織内で潮紅作用が開始する。心臓の鼓動が激しくなる。極めてわずかに発熱する。わずかにひりひりする感じがあるが疼痛はない。これは1日から2日持続する。血流が加速されるこの期間の後に、全身が、細胞構造が再建される回復フェーズに入る。」と記載されてはいるが、この記載からは、薬剤の注入により、生体が何らかの反応を示すことは当業者に理解できるが、これらの反応と、本願発明1の「動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去するという薬理作用」との関係は不明である。
また、これに関連して、(c1)の【0058】には、「血流が加速し、同時に細胞の代謝活動および相互作用が活発化する。図9および10に最も良く示されているように、治療後に毛細血管および/または血管50が膨張し、細胞活動が活発化している。毒素、遊離基、代謝排泄物、および残存物質は再形成するか、あるいは排泄することができる。」と記載され、(c2)の【0075】には、「注射として摂取するか、あるいは血流に静脈注射すると、電気的に活性化された物質の分子作用は、脂肪沈着物およびプラーク蓄積物を溶解させて可溶性を高め動脈壁から除去するうえで有用なものになる。・・毛細血管および全身の血流および作用が増大する。血管内および身体血流系全体でよく起こる脂肪沈着物を、本明細書で説明したように除去して可溶性を高めると、その後の体の化学的効率および効果ならびに代謝効率および効果が大幅に向上し、大部分の身体系およびプロセスの機能、動作、および再生能力が顕著にかつ大幅に向上する。これによって、動脈壁が補強され、コラーゲンおよび靭帯様の支持構造の産生が改善される。したがって、この方法は、プラーク蓄積病態の新規の有用で効果的な治療を実現すると共に、有効な他の利益を与える。」と記載され、さらに、「電気的に活性化された物質が加えられた後で得られた組織の変化および結果を示す図」とされる図11の、図11bには、治療中とする模式図が、また、図11cは、治療後であるとして、プラーク121のサイズが小さくなった動脈122の模式図が記載される。
しかしながら、これらの記載や図面は、いかなる導電性物質を用いて調製した薬剤を、どのような状態の患者に、どの程度の投与量でどのような期間投与し、どのような結果が得られたのか、を明らかにするものではなく、このような具体性を欠く本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本願発明1の調製方法で調製された薬剤が、「動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去するという薬理作用」をもたらすことを当業者は理解することができない。
そして、本願明細書の他の記載全体を参酌しても、結局、本願発明1の調整方法で調整した薬剤の投与により、【0075】に記載される心臓の鼓動等の変化以外に、本願発明1に記載の所定の薬理作用に関連するどのような症状がどのように変化したのか、該症状の改善と「動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去するという薬理作用」とがどのような関係にあるのか、といった情報は何ら記載されていない。
したがって、本願発明1の「調製した薬剤の患者への投与により、動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去するという薬理作用がもたらされること」は、上記本願明細書の詳細な説明の記載からは当業者には到底認識できないし、また、本願発明1の薬剤が所定の薬理作用をもたらすことが、本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、具体的な薬理試験結果の記載がなされていなくても本願発明1の薬剤が上記薬理作用をもたらすことを当業者が認識できるといえる、格別の事情も見出せない。
よって、本願発明1の調整方法で調整される薬剤の原料である導電性物質が塩化ナトリウム水溶液である場合であっても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないし、他の導電性物質を原料とする場合については、なおさらである。

以上述べたとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

4-1-2.特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件の存在は、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。

(2)本願発明1は、上記2.で示したとおりのものであるから、動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去する薬剤を調製する方法を提供するという課題を有するものと認められる。
そして、本願発明1においては、本願発明の調整方法における薬剤原料である導電性物質は何ら特定されていないところ、4-1-1.(3)(i)で説示したように、本願明細書の発明の詳細な説明には、薬剤の調製に使用される原料の導電性物質が塩化ナトリウム水溶液である場合についての交流処理条件が記載されるのみであり、薬剤原料としてあらゆる導電性物質を用いた場合についてまで、当業者が本願発明1の薬剤を調整するための具体的な交流処理条件を理解することができるとはいえないから、本願発明1が、動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去する薬剤を調製する方法を提供するという本願発明1の課題を解決することができない範囲を包含していることは明らかである。よって、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。

さらに、導電性物質として塩化ナトリウム水溶液を採用した場合の発明であっても、4-1-1.(3)(ii)で述べたとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1の調製方法によって得られた薬剤により「動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去する」ことができることを当業者が認識できる程度の記載がされているものとは認められないし、本願出願時の技術常識からも、本願発明1の調製方法によって得られた薬剤により、「動脈壁から脂肪性の沈着物を溶解させ、緩め、除去する」ことができることを当業者が認識することもできないのであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が本願発明1の課題を解決できると認識できる範囲や、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲は存在するとはいえない。にもかかわらず、本願明細書の特許請求の範囲には本願発明1が記載されているのであるから、仮に、本願発明1の調製方法が導電性物質として塩化ナトリウム水溶液を採用する場合の発明であっても、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。
導電性物質の特定がなく、他の導電性物質を原料とする場合を包含する本願発明1については、なおさらである。

4-2.本願発明2?4についての判断
4-2-1.特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)について
(1)本願発明2?4は、上記2.に記載したとおりのものであるところ、4-1-1.の(1)で詳述したと同様の理由により、本願発明2?4は、「物を生産する方法」の発明であるといえ、本願が実施可能要件を満たすというためには、本願発明2?4について、発明の詳細な説明が、所定の方法により薬剤が調製でき、また、薬剤として投与できること、及び、調製した薬剤の患者への投与により、「抗ビールス」(本願発明2)、「疼痛の治療」(本願発明3)、「軟弱内部結合組織の治療」(本願発明3)という薬理作用がもたらされることを、当業者が理解できるように記載されている必要があると認められる。
そうすると、本願が実施可能要件を満たすといえるためには、本願明細書の発明の詳細な説明に、薬剤の調製方法や投与方法といった情報が開示されている必要があるのみならず、薬剤が上記所定の薬理作用をもたらすことを当業者が理解できるように、記載されている必要がある。
ここで、本願発明2?4に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には、薬剤の調製方法や投与方法に関して、4-1-1.(2)のA及びBで摘記したとおりの記載があるが、同(3)(i)で指摘したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、薬剤原料となる導電性物質が水に塩化ナトリウムを添加した溶液である場合については、その薬剤の調整のための交流処理条件について、当業者が一応の理解ができる程度の記載がされているといえるが、出願時の技術常識を参酌しても、薬剤原料としてあらゆる導電性物質を用いた場合についてまでは、当業者が本願発明1の薬剤を調整するための具体的な交流処理条件を理解することはできないし、また、その条件が本願発明2?4の出願時の技術常識に属する事項であったというような事情も見出せない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明2?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(2)更に、本願発明2?4の調製方法における導電性物質が、仮に、塩化ナトリウム水溶液である場合であっても、以下のとおり、依然として、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明2?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないし、他の導電性物質を原料とする場合については、なおさらである。

(2-1)本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明2?4の調製方法により得られる薬剤の薬理作用に関して、以下の(D)?(F)の記載がある。(下線は当審による。)

(D)本願発明2の薬剤の薬理作用について
本願明細書の【0062】に、「この物質は強い抗ビールス特性も示す。」、また、【0082】に、「この物質は、強い抗ビールス特性を有することが判明しており、単独で使用するか、あるいは他の薬物と共に使用することができ」と記載されている。

(E)本願発明3の薬剤の適応疾患及び薬理作用について
本願明細書の【0082】に、「この物質は、・・一般的に疼痛を治療するために使用することもできる。」と記載されている。
また、【0075】には、上記(c2)で記載したとおり、「注射として摂取するか、あるいは血流に静脈注射すると、電気的に活性化された物質の分子作用は、脂肪沈着物およびプラーク蓄積物を溶解させて可溶性を高め動脈壁から除去するうえで有用なものになる。・・毛細血管および全身の血流および作用が増大する。・・脂肪沈着物を、本明細書で説明したように除去して可溶性を高めると、その後の体の化学的効率および効果ならびに代謝効率および効果が大幅に向上し、大部分の身体系およびプロセスの機能、動作、および再生能力が顕著にかつ大幅に向上する。これによって、動脈壁が補強され、コラーゲンおよび靭帯様の支持構造の産生が改善される。・・したがって、このプロセスはまた、患者の疼痛を軽減する働きをする。」との記載がある。

(F)本願発明4の薬剤の適応疾患及び薬理作用について
(f1)本願明細書の【0060】?【0062】には、皮膚の弛みの治療に関し、以下の記載がある。
「【0060】
本発明の電気的に活性化された物質の1つの使用法として、皮膚の弛みの治療がある。約50KHzから100KHzの周波数で水を活性化することが好ましい。この水をこの目的のために注入すると、体全体にわたって弛みが一様に低減される。
【0061】
各投与後に通常、回復フェーズが約1日から7日間にわたって継続する。約4日後に、このような回復の大部分が完了する。・・
【0062】
通常、最高の結果を得るには、約3回から6回のこのような治療セッションが必要であることが判明している。1、2週間毎に1つのセッションが必要である。組織が変質していればいるほど、より劇的な結果が得られる。・・」

(f2)また、本願明細書の【0063】?【0067】には、肺線維症や肺気腫といった肺病体の治療に関し、以下の記載がある。
「【0063】
この物質は、しわを治療するために使用されるだけでなく、肺病態を治療するためにも使用できるので有利である。このことは図6に示されている。電気的に活性化された物質18は、ミストまたは液滴形態として吸入される。これは、液体を蒸気状材料72に変換する従来の噴霧器74を使用すること・・が好ましい。
【0064】
このような噴霧器は様々な健康機器提供業者から市販されている。・・物質をこのように蒸気状のミストに変換すると、物質の電気的に活性化された特性が残ることが判明している。電気的に活性化された物質72が吸入されると、患者に対する追加の利点および利益が実現される。たとえば、この物質は、ミストとして吸入されたときに、肺および気道の問題および疾患を有利に治療するために使用することができる。
【0065】
すなわち、肺線維症、ある種の肺気腫、およびその他の病態をこのようにして治療することができる。間質線維症は、肺組織に瘢痕が残り、その柔軟性および弾性を失ったときに起こる。これは、たとえば感染によって起こるか、あるいは刺激原に接触することによって起こり、呼吸が困難になり、場合によっては疼痛を伴う。毛管および血液ガス(空気)交換機能が失われることもある。この病態は、蒸気状のミスト72を吸入したときに改善することができる。
【0066】
図12aは、肺線維症組織90の切取りパッチを示している。組織90は主として線維状ストランド91で構成されている。血管が欠落しており、組織が堅くなっている。図12bは、図6の蒸気状のミスト72に接触した後の組織の同じ部分を示している。ミスト72は、線維状組織91を軟化させて縮小し、新しい血管を作るのを助け、それによって通常の毛管作用および肺機能を復元するのを助けている。
【0067】
肺気腫は、肺内の肺胞がはちきれたときに起こる。これは結合組織が弱くなった結果として起こる。本発明の物質の活性エネルギー特性は、結合組織の病態を改善し、汚染物質を移動させ除去するように作用する。このようにして、さらなる破壊が最小限に抑えられ、場合によってはある種の機能が復元される。」
また、「電気的に活性化された物質が加えられた後で得られた組織の変化および結果を示す図」とされる図12の、特に、図12aには、線維状ストランド91を含む肺線維症組織の模式図が、また、図12bには、蒸気状のミスト72に接触した後の組織の模式図としてミスト72も含めた模式図が記載されている。

(2-2)上記(D)?(F)の記載について検討する。
(i)まず、本願発明2に関し、(D)で指摘した本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明2の「抗ビールス治療」に関し、調製した薬剤をどのようなビールスに感染した、どのような疾患の患者に、どの程度の投与量でどのような期間投与し、どのような結果が得られたのか、その結果と抗ビール治療効果とがどのように関係するのかについて何等具体的に記載するものではなく、このような具体性を欠く本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本願発明2の調製方法で調製された薬剤が、抗ビールスという薬理作用をもたらすことを当業者が理解することはできない。また、その点が、本願発明2の出願時の技術常識に属する事項であったというような事情も見出せない。
(ii)次に、本願発明3についても、同様に、(E)で指摘した本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明3の「疼痛の治療」に関し何ら具体的な記載はないし、脂肪沈着物の除去作用自体が本願明細書の記載からは実体をともなって理解することができないことは既に4-1-1.の(3)(ii)で本願発明1に関連して述べたとおりであるところ、【0075】の記載を参酌しても、【0075】の脂肪沈着物の除去作用や血流増大、身体系およびプロセスの機能等の向上や、動脈壁の補強等の作用と、疼痛の軽減との関係も明らかではないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本願発明3の調製方法で調製された薬剤が、疼痛の治療という薬理作用をもたらすことを当業者が理解することはできない。また、その点が、本願発明3の出願時の技術常識に属する事項であったというような事情も見出せない。
なお、請求人は、平成24年7月31日付けの回答書の(2-2-4)の(ハ)において、「本願明細書の段落0074には、具体的な投与条件において疼痛が治療された点の記載があります。」と主張するが、本願明細書の【0074】には、上記(c2)に摘記したとおり、活性化された物質を注入すると、「注入してから約15分後に、血流および代謝活動が加速し増大する。組織内で潮紅作用が開始する。心臓の鼓動が激しくなる。極めてわずかに発熱する。わずかにひりひりする感じがあるが疼痛はない。」と記載されているだけであり、注入により疼痛という症状は引き起こされない(すなわち、副作用が生じない)ことが説明されるのみで、疼痛を有していた患者の疼痛が改善したことは示されていないから、請求人の主張は失当である。

(iii)本願発明4については、(F)で摘記した本願明細書の発明の詳細な説明の記載(上記(f1))によれば、皮膚のゆるみの治療には、「約50KHzから100KHzの周波数で水を活性化すること」が好ましく、「この水を・・注入すると、体全体にわたって弛みが一様に低減される」こと(【0060】)や、「1、2週間毎に1つのセッションが必要」で、「約3回から6回」が最高の結果を与え、「組織が変質していればいるほど、より劇的な結果が得られる」こと(【0062】)は記載されるが、具体的にいかなる導電性物質を用いて調製した薬剤をどの程度の投与量でどのような期間投与し、どのような結果が得られたのか、その結果と皮膚のゆるみの治療効果あるいは軟弱内部結合組織の治療効果がどのように関係するのかについて、何等具体的な記載はなく、このような具体性を欠く本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本願発明4の調製方法で調製された薬剤が、軟弱内部結合組織に対してどのような治療効果をもたらしたのかを当業者が理解することはできない。また、その点が、本願発明4の出願時の技術常識に属する事項であったというような事情も見出せない。
次に、軟弱内部結合組織の代表例であるとされる肺気腫(【0067】)や、肺線維症といった肺病体の治療に関し、本願明細書の発明の詳細な説明(上記(f2))には、薬剤を、噴霧器を使用して「ミストとして吸入されたときに、肺および気道の問題および疾患を有利に治療するために使用することができる」(【0064】)との記載や、間質線維症の病態は、「蒸気状のミスト・・を吸入したときに改善することができる」(【0065】)との記載があり、肺病体の治療に際し、薬剤をミストとして吸入することが記載されている。また、図12bには、吸入されたミストが、線維状組織を軟化・縮小し、新しい血管を作るのを助け、通常の毛管作用および肺機能を復元するのを助ける作用を有することが模式的に示され、肺気腫に関しては、「本発明の物質の活性エネルギー特性は、結合組織の病態を改善し、汚染物質を移動させ除去するように作用する。このようにして、さらなる破壊が最小限に抑えられ、場合によってはある種の機能が復元される。」(【0067】)と記載されている。しかしながら、これらの記載や図面からは、いかなる導電性物質を用いて調製した薬剤をどのような状態の患者に、具体的にどの程度の投与量でどのような期間投与して、どのような結果が得られたのかは明らかではなく、また、その結果と肺気腫等の軟弱内部結合組織の治療効果との関係も、当業者は何等理解することができないのであるから、このような具体性を欠く本願明細書の発明の詳細な説明をもって、本願発明4の調製方法で調製された薬剤が、肺気腫等の軟弱内部結合組織の治療という薬理作用をもたらすことを、当業者は理解することはできない。また、その点が、本願発明4の出願時の技術常識に属する事項であったというような事情も見出せない。

(iv)以上、(i)?(iii)に述べたとおり、本願明細書の詳細な説明の記載からは、本願発明2?4において、調製した薬剤の患者への投与により、「抗ビールス」(本願発明2)、「疼痛の治療」(本願発明3)、あるいは、「軟弱内部結合組織の治療」(本願発明4)という薬理作用がもたらされることを、当業者は理解できないし、また、本願発明2?4の薬剤が所定の薬理作用をもたらすことが、本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、具体的な薬理試験結果の記載がなされていなくても本願発明2?4の薬剤が上記薬理作用をもたらすことを当業者が認識できるといえる、格別の事情も見出せないのであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明2?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

4-2-2.特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について
本願発明2?4は、上記2.で示したとおりのものであるから、本願発明2?4は、それぞれ、「抗ビールス治療の薬剤を調製する方法を提供する」という課題、「疼痛の治療用の薬剤を調製する方法を提供する」という課題、「軟弱内部結合組織の治療用の薬剤を調製する方法を提供する」という課題を有するものと認められる。
そして、本願発明2?4において、本願明細書の発明の詳細な説明からは、薬剤の調製に使用される原料の導電性物質が塩化ナトリウム水溶液以外の任意の導電性物質を用いた場合についてまで、当業者が本願発明2?4の薬剤を調整するための具体的な交流処理条件を理解することができるとはいえないことは、4-2-1.(1)で述べたとおりであるから、本願発明2?4が、上記所定の本願発明2?4の課題を解決することができない範囲を包含していることは明らかである。したがって、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。

さらに、導電性物質として塩化ナトリウム水溶液を採用した場合の発明であっても、4-2-1.(2-2)で述べたとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明2?4のそれぞれの調製方法によって得られた薬剤により、「抗ビールス」、「疼痛の治療」、あるいは、「軟弱内部結合組織の治療」という薬理作用が奏されることを当業者が認識できる程度の記載がされているものとは認められないし、かつ、本願出願時の技術常識からも、本願発明2?4の調製方法によって得られた薬剤により、これらの各種薬理作用が奏されることを当業者が認識することもできないのであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明2?4の課題を解決できると認識できる範囲や、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲は存在するといえない。にもかかわらず、本願明細書の特許請求の範囲には本願発明2?4が記載されているのであるから、仮に、本願発明2?4の薬剤の調製方法が塩化ナトリウム水溶液を導電性物質として採用する場合であっても、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。導電性物質の特定がなく、他の導電性物質を原料とする場合を包含する本願発明2?4についてはなおさらである。

5.むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-12 
結審通知日 2013-06-18 
審決日 2013-07-03 
出願番号 特願2000-610552(P2000-610552)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 元浩小柳 正之福井 悟  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 岩下 直人
渕野 留香
発明の名称 美容整形/治療を実施する方法  
代理人 石橋 政幸  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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